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天然ダイヤモンドvs合成ダイヤモンド -成長履歴の違いによる鑑別-

PDFファイルはこちらから 2020年3月PDFNo.55

リサーチ室 北脇 裕士

 

天然ダイヤモンドは、地球の深部において何億年という歳月にわたる地質学的プロセスを経て生まれた結晶です。いっぽうで、合成ダイヤモンドは人工的に研究室や工場で作られた結晶です。合成ダイヤモンドは、化学成分や結晶構造は天然ダイヤモンドと基本的に同じで、光学的・物理的特性も同一です。
しかし、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドには違いもあります。天然ダイヤモンドは地下の高温高圧下で何億年という長い年月をかけて成長し、地表に到達するまでに複雑な環境の変化をこうむります。いっぽう、合成ダイヤモンドは人工的に閉鎖された一様な環境下で、通常数日から数週間という短い時間で育成されます。その生い立ちの違いが結晶の中にさまざまな不均一性として刻み込まれ、それを手がかりに両者の識別が可能となります。

本稿では、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドの成長履歴にどのような相違があり、それをどのように検出して鑑別に生かしているかをご紹介します。

 

成長履歴の観察方法

天然ダイヤモンドは成長・溶解、塑性変形や加熱などの履歴を経験しており、これらに対応した組織が結晶の表面や内部に残されています。
結晶の表面構造は、外的要因に鋭敏に反応するため、成長条件の研究に適しています。しかし、これらは成長の最終段階のみが残されており、成長過程の全体像を知ることは困難です。また、天然ダイヤモンドは少なからず溶解作用をこうむっており、原石表面に残された結晶成長模様から成長史を論じることは困難です。

さらに、宝石ダイヤモンドを研究対象とする場合、すでにカット・研磨が施されており、表面特徴の観察は通常不可能です。したがって、宝石ダイヤモンドの成長履歴を読み取り逆に成長条件を推定するためには、結晶内部に残された不均一性を検知する必要があります。ダイヤモンドを始めとする天然の結晶は、常に一定の速度や一定の条件下で成長するわけではありません。結晶の形成過程においては、成長速度あるいは成長条件が緩やかにあるいは急激に変化し、部分的な溶解・再成長が生じることがあります。そのため欠陥密度や不純物分配が変化し、包有物、格子欠陥(点状欠陥、転位、面状欠陥)、成長縞(累帯構造)、成長分域などが形成されます。これらの内部構造はダイヤモンドの強固な物理・化学的性質のため、形成時のまま保持されていることが期待できます。また、ダイヤモンドに不純物として含まれている窒素原子は結晶内における拡散が極めて遅く、地球深部で結晶化した後に地質学的な時間が経過しても窒素分布による初生的な組織がほとんど変化しません。このような特性ゆえに天然ダイヤモンドの内部組織の研究は地球惑星学的に重要な研究対象となっています。

 

天然ダイヤモンドの累帯構造はさまざまな方法を用いて研究されてきました。硝酸カリウムなどの酸化剤を用いたエッチング法もこの手法のひとつで、センター・クロス構造が始めて観察されています。Ⅹ線トポグラフ法は散乱角のわずかな変化を与える結晶内部の不完全性に因る組織などが検出できます。この手法を用いて単結晶中のさまざまな線状欠陥(転位など)と面状欠陥(積層欠陥や双晶面など)に関連する歪場の空間分布を捉えることができます。カソードルミネッセンス(CL)法もダイヤモンドの内部構造を調べるひとつの手法として利用されてきました。

 

1990年代よりHPHT法による装飾用合成ダイヤモンドの商業的な生産が始まり、宝飾業界からはその情報開示と明確な天然と合成の識別法の確立が切望されるようになりました。DTC(Diamond Trading Company)ではこれらの声に応えるためにダイヤモンド判別機の製作・販売を開始しました。DiamondViewTM(図1)は紫外線蛍光を用いた画像診断装置です。ダイヤモンドに波長の短い強力な紫外線を照射すると、原子レベルの欠陥や微量な含有元素の影響で蛍光を発します。
微視的に研磨面を見た場合、欠陥や微量元素の濃度が成長時や成長後にこうむる環境の変化によってわずかに異なるためにさまざまな蛍光像が観察できます。これが紫外線ルミネッセンス法であり、このような蛍光像はダイヤモンドの成長履歴を反映するために、天然と合成では明確な相違がみられ、その判別を行う上で非常に有効な手がかりになります。

 

図1.DTC製DiamondViewTM
図1.  DTC製 DiamondViewTM

 

結晶のモルフォロジー(形態)

結晶のモルフォロジー(形態)は固体−液体の界面の状況と過飽和度などの成長の駆動力によって決められます。駆動力の大きな条件下では一般に界面は原子的にラフな状態をとり、結晶成長のメカニズムは吸着型で結晶の示す形態は球晶や樹枝状となります(図2Aの領域)。駆動力の小さな条件では、渦巻き成長機構が支配的になるので平面で囲まれた多面体の結晶が現れます(図2Cの領域)。

装飾に供されるダイヤモンドは、透明度や輝きの観点から、単結晶で平滑な面で囲まれた多面体結晶が用いられます。実際の天然ダイヤモンドは、成長後の溶解作用による丸みを帯びた原石が一般的ですが、結晶成長時には多面体であったと考えられます。同一種の鉱物であっても多面体結晶のモルフォロジーは同一ではなく様々に変化します。これは、出現する結晶面の種類、組み合わせとそれぞれの面の垂線成長速度Rの相対的な比によって決められます。

A及びBの2種類の結晶面が出現する結晶において、Aの垂線成長速度Rの方がBのそれよりも大きければ(RA>RB)、Aはやがて結晶上からは消えて行き、結晶はB>A、あるいはBだけで囲まれた多面体となります。逆の場合は最終的にAのみで囲まれた多面体となります。この例で理解できるように結晶のモルフォロジーは成長の過程で変化します。この変化の軌跡はDiamondViewTMにおいて成長分域として観察することができます。図3は、A及びBの2種類の結晶面が異なる速度で成長した際の成長分域の模式図です。結晶周囲の環境(温度圧力、溶質成分等)の変化によって結晶成長速度や結晶に取り込まれる元素濃度、欠陥の密度が変動するため、それぞれの成長分域内に成長縞が形成されます。

 

図2.成長速度対駆動力図上に表した期待されるモルフォロジー(砂川2004より)
図2.成長速度対駆動力図上に表した期待されるモルフォロジー(砂川 2004より)

 

図3.A,B2面で囲まれた結晶の内部に期待される成長分域(砂川2004より)
図3.A,B2面で囲まれた結晶の内部に期待される成長分域(砂川 2004より)

 

PBC解析法

現実に出現する多面体の結晶形態を議論する際に基準となる形を想定できれば、現実結晶との差異についての原因を解析することが可能となります。結晶のモルフォロジーを決定するのは結晶の構造と環境条件ですから、後者の影響を無視して、結晶の構造だけを反映した形を割り出すことができればこれを基準とすることができます。この基準の形を予測するためのモデルとして広く受け入れられているのがPBC(Periodic Bond Chain)解析法です。

この方法は結晶構造の中で結合の強い原子間を結びつけて結合鎖(PBC)を見つけ出し、PBCを面内に何本含むかによって結晶面をF面(Flat face)、S面(Stepped face)、K面(Kinked face)の3種類に分類し、これを基にその結晶に予想される基準の形を見出そうとするものです。

F面(2本以上のPBCを含む面)はスムースな界面に相当し、2次元核形成機構か渦巻き成長機構で成長し、他の面に比べて相対的に大きく発達する面となります。これに対してK面は原子的にラフな界面で、付着型成長機構で成長するので、相対的な成長速度が速く、結晶上からは消失していく結晶面となります。S面はF面とK面の中間的な性質を有しており、F面上の成長層のステップの積み重なりで現れ、条線模様で特徴付けられる細長い結晶面となります。

 

天然ダイヤモンドの基本的なモルフォロジー(形態)

ダイヤモンドの結晶構造をPBC解析法に当てはめてみると、{111}面はPBCを3本含むF面、{110}面はPBCを1本しか含まないS面に相当し、{100}面はPBCを1本も含まないK面に相当します。したがって、PBC解析を基にしたダイヤモンドのモルフォロジーはよく発達した{111}で囲まれた八面体で、直線的な条線模様で特徴づけられる{110}を伴いますが、{100}は結晶面上に現れません。

参考図

 

この理想的に発達した八面体のダイヤモンドをDiamondViewTMで観察して得られる像を考えてみましょう。一般に八面体のダイヤモンド結晶をブリリアント・カットする場合、テーブル面が(001)面にほぼ平行になるようにカットされ、大小2つのダイヤモンドに研磨されます(図4)。したがって、研磨された2つのダイヤモンドのテーブル面に現れる累帯構造は(001)面と{111}面との交線のみから形成され、木の年輪のように中心から外側に広がって行く閉じた四角形の組み合わせになることが期待されます。

図4. 八面体原石から大小2つのカット石を取るイメージ
図4. 八面体原石から大小2つのカット石を取るイメージ

 

宝石ダイヤモンドとして最も流通量の多いのがⅠ型の無色ダイヤモンドであり、天然ダイヤモンドの最も一般的な成長履歴を反映していると考えられます。
Ⅰ型の無色~ほぼ無色のダイヤモンドの典型的なDiamondViewTM像を図5に示します。ラウンド・ブリリアント・カットが施されたテーブル面の中心からガードルに向かって広がって行く閉じた四角形の組み合わせが見られます。これはPBC解析法で予想されたとおり、{111}面のみで形成された八面体の結晶が、その中心付近を(001)に垂直にテーブル面がくるようにカットされたことを示唆しています。画像の明暗は発光中心の大小に関連し、形成される年輪の幅は成長速度に関連しています。

このような年輪の幅の増減は、すべてのⅠ型天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像に観察されます。この写真のダイヤモンド結晶は、四角形の年輪の幅がほぼ一定であることから、成長履歴全体を通じて単純で変化の少ない八面体の形態が維持されたことを示しており、結晶の成長パラメータに大きな変化が無かったことが伺えます。このような状況は、駆動力の小さい平衡に近い状態での結晶成長が行われたことを示唆しており、無色~ほぼ無色の宝石ダイヤモンドの大部分はこのような成長履歴を有すると考えられます。

図5. 天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像に一般的な閉じた四角形の累帯構造
図5. 天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像に一般的な閉じた四角形の累帯構造

 

通常、原石が2つにソーイングされる時、切断面はそれぞれのカット石のテーブル面としてオリエンテーションがとられます。実際のソーイングで遺失する結晶の厚みはきわめて薄く、同一原石からカットされたダイヤモンドのテーブル面のDiamondViewTM像は、相似形の累帯構造を示します。

天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像は、その結晶の成長過程を反映しているので、比較的類似するパターンを示すことはあっても、まったく同一のDiamondViewTM像を示すことはありえません。このことから、DiamondViewTM像を個体識別の“フィンガー・プリント”とすることが可能となります。従って、このようなDiamondViewTM像の特長を用いて、2つのダイヤモンドが同一原石からカットされたことを証明できることがあります。CGLでは同じ原石から得られた二つのダイヤモンドをツインダイヤモンドとして、ツインダイヤモンドレポートサービスを行っております(図6)。

図6. CGLが発行するツインダイヤモンドⓇレポート
図6. CGLが発行するツインダイヤモンドレポート

 

特異な成長をした天然ダイヤモンド

天然ダイヤモンドには、{111}面のみで囲まれた単純な形態ではなく、しばしばMixed–habit Growthと呼ばれる複雑な累帯構造が観察されます。これらからは、{111}と{100}の組み合わせからなる成長縞が読み取れます(図7)。{111}面は平面ですが、{100}面は厳密には平面ではなく、曲面です。しかし、{100}面も樹枝状結晶のように成長とともにその形態を変化させることは無く、定常的にその形を維持するので、多面体の一種とみなされ、キューボイドと呼ばれています。

このような{111}面と{100}面の2種の結晶面が共存して成長した結果、十字架様の成長分域が形成され、センター・クロス・ダイヤモンドと呼ばれています。結晶成長の初期段階に相当する十字架中央のクロスした領域が{100}成長分域に相当し、十字架の腕の領域が{111}面と{100}面が共存する分域に相当します。結晶成長の晩期には{100}成長分域が消え{111}面のみで構成され、最終的には八面体の形態となります(図8)。この場合{111}成長分域内は、直線的な累帯構造を示すのに対し、{100}成長分域内では曲線状の累帯構造を示します。このことは{111}面は常にスムースな界面として振舞ったことを示し、{100}面はラフな界面として振舞ったことを示しています。

図7. Mixed–habit Growthを示す天然ダイヤモンド のDiamondViewTM像
図7. Mixed–habit Growthを示す天然ダイヤモンドのDiamondViewTM

 

図8. (001)方向に垂直で結晶中心を通る切断面上 に現れるセンター・クロス構造の模式図
図8. (001)方向に垂直で結晶中心を通る切断面上に現れるセンター・クロス構造の模式図

 

このセンター・クロス・ダイヤモンドは古くから知られており、その成因について以前は塑性変形によるという説もありましたが、現在では結晶成長によるものと広く受けとめられています。この構造が形成されるためには、{100}面の成長速度が{111}面の成長速度より相対的に遅れる必要がありますが、このことはPBC解析法から導き出された結果とは矛盾することになります。この矛盾を解釈するため、不純物による効果、すなわちキューボイドの面上に不純物が吸着することに因ってその成長速度が遅くなり、六面体結晶ができたと考えられてきました。それとは別に、コーテッドダイヤモンドの研究から、八面体と六面体結晶の成長形の変化は非平衡度の変化による晶相変化で、{111}面が平衡に近い状態での層成長機構から、高い過飽和度での高い頻度の2次元核形成に支配された成長機構に変化することに因って、その成長速度を{100}面の成長速度より増加させることに因り引き起こされたものとも解釈されています。

このようなMixed–habit Growthの成長履歴を有するダイヤモンドはボツワナのJwaneng鉱山をはじめ、幾つかの鉱山から産出報告があります。Jwaneng鉱山では産出されるダイヤモンドのうち、およそ8%にキューボイドの成長分域が認められています。

Mixed–habit Growthの成長の結果、センター・クロスの形態を示すダイヤモンドが出現する頻度は従来1/1000程度と予見されていました。しかし、筆者の経験では無色~ほぼ無色のダイヤモンドの場合、センター・クロス・ダイヤモンドと呼べるものは1/100程度であると考えています。さらに、Ⅰ型のピンク系ダイヤモンドにおいては1/3~1/10と極めて出現頻度が高いことを確認しています。市場性を考慮すると、ピンク・ダイヤモンドのほとんどは褐色ダイヤモンドと同様にオーストラリアのArgyle鉱山産と思われます。Argyle鉱山は世界のダイヤモンド鉱山の中でも唯一ランプロアイトを母岩としており、エクロジャイト起源のダイヤモンドが多いことが知られています。ピンク・ダイヤモンドも包有物の観察結果からエクロジャイト起源が多いことが判っており、これらの産出状況が高いMixed–habit Growthの出現率に関連している可能性が考えられます。

 

塑性変型を受けた天然ダイヤモンド

DiamondViewTM像には成長時の累帯構造だけではなく、成長後の塑性変型の履歴も記録されます。図9 と図10 にⅠb型の黄色系天然ダイヤモンドの典型的なDiamondViewTM像を示します。

図9.Ⅰb型天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像の一例。平行する多数の線状模様が認められる
図9.Ⅰb型天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像の一例。平行する多数の線状模様が認められる

 

図10. Ⅰb型天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像の一例。交差する2方向の線状模様が認められる
図10. Ⅰb型天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像の一例。交差する2方向の線状模様が認められる

 

図9 は全体に緑黄色の発光色が見られ、細い緑色の線模様がカットされた石の端から端まで認められます。これらの線模様はいわゆる“スリップ・バンド”で、結晶成長後の塑性変形に因って八面体面に平行に形成されます。このスリップ・バンドはH3センタの発光によるものです。図10 は、明瞭な2方向のスリップ・バンドが見られます。また、橙色の発光色が認められます。これらはNVセンタに因るもので、Ⅰb型のダイヤモンドにしばしば認められます。Ⅰb型のダイヤモンドには置換型単原子窒素(Cセンタ)が存在し、これが空孔(V)と結びついてNVとなるためです。

このようにⅠb型のDiamondViewTM像にはスリップ・バンドに因る細長い線模様が特徴です。これはⅠb型ダイヤモンドの窒素含有量が少なく、II 型と同様に塑性変形をこうむりやすいためと考えられます。
Ⅰb型天然ダイヤモンドのこのような典型的なスリップ・ラインは合成ダイヤモンドには見られません。したがって、黄色ダイヤモンドの天然・合成の識別にはきわめて重要な手がかりとなります。

 

II 型天然ダイヤモンド

II 型天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像には、I 型に見られる{111}面で形成された閉じた四角形の年輪模様は認められず、モザイク状やドット状の模様が観察されます。これらはdislocation networksと呼ばれる線状欠陥の集合体で、塑性変型によるものと解釈されています。窒素の凝集体や偏析のないII 型天然ダイヤモンドでは、転位が結晶中を伝わりやすいためにこれらの模様ができると考えられています。

図11 は明瞭なモザイク模様の好例です。モザイクの大きさはφ100–150μmです。図12 はドット状に見えますが、分解能の高いSEM–CLではφ10–20μmのモザイク模様であることが確認できます。II 型ダイヤモンドに観察される暗い青色の発光色はバンドAに因るもので、転位に起因すると考えられています。

図11. Ⅱ型天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像の一例。明瞭なモザイク模様が認められる
図11. II 型天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像の一例。明瞭なモザイク模様が認められる

 

図12 . Ⅱ型天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像の一例。細かなドット状の模様が認められる
図12 . II 型天然ダイヤモンドのDiamondViewTM像の一例。細かなドット状の模様が認められる

 

HPHT法合成ダイヤモンドのモルフォロジー(形態)

天然ダイヤモンドの結晶のモルフォロジーの基本は、PBC(Periodic Bond Chain)解析法で導き出されたように{111}で囲まれた八面体です(図13)。しかし、HPHT法合成ダイヤモンドでは{111}面だけではなく、{100}面も良く発達した六–八面体の結晶形をとるのが一般的です(図14)。また、天然ダイヤモンドでは{100}面は常にラフな界面として振る舞い、スムースな界面として振舞うのは{111}面のみです。しかし、HPHT法合成ダイヤモンドでは、{100}面は{111}面と共に常にスムースな結晶面として振る舞い、渦巻き成長機構による結晶成長が行われています。

図13. 八面体の天然ダイヤモンド原石
図13. 八面体の天然ダイヤモンド原石

 

図14. 六–八面体のHPHT法合成ダイヤモンド原石
図14. 六−八面体の HPHT法合成ダイヤモンド原石

 

このような天然ダイヤモンドとHPHT法合成ダイヤモンドのモルフォロジーの相違は、溶媒成分の相違に因るところが大きいと考えられています。天然ダイヤモンドでは炭素成分を含む流体中で成長するのに対し、HPHT合成法ではFe(鉄)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)等の金属溶媒の溶液中で成長します。天然ダイヤモンドが成長する流体中では、イオン半径の大きな酸素の存在により、{100}表面で炭素原子間の再構成は起こりません。一方、イオン半径の小さな金属イオンを溶媒とする金属溶液中では、{100}表面が再構成される可能性があります。その結果、{100}に2本のPBCが導入され、{100}面はF面に転化し、渦巻き成長が可能となると解釈されています。

このような溶媒成分による結晶形への影響は、実験的にも確かめられています。金属溶媒の代わりに炭酸塩や硫酸塩あるいは天然のキンバーライト組成の珪酸塩溶融体を用いた非金属溶媒からのHPHT合成の研究が行われており、これらの溶媒から成長したダイヤモンドは微細ですが、天然の結晶と同様な{111}で囲まれた八面体のモルフォロジーを有しています。

純粋なNi(ニッケル)を使用して成長させたHPHT法合成ダイヤモンドは{111}面と{100}面のみから成り、前者が大きく発達します。Co(コバルト)やFe(鉄)を用いると{111}面と{100}面に加えて{113}面や{110}面も出現します。Ni(ニッケル)に他の金属元素を加えた合金を用いても{113}面や{110}面が出現します。また、Co(コバルト)にTi(チタン)を加えた合金を用いた際には{115}面が出現することもあります。さらにHPHT法合成ダイヤモンドのモルフォロジーは、金属溶媒の種類が同じであっても、合成条件によって異なることも知られています。特に合成温度はモルフォロジーに大きく影響します。1300℃~1400℃程度の合成温度では{100}面が大きく発達した六面体に近い形態となり、1600℃程度以上になると{111}が大きく発達し、八面体に近くなります(図15)。

図15. HPHT法合成ダイヤモンドの温度・圧力とモルフォロジーの関係 (The Properties of Natural and Synthetic Diamondより)
図15. HPHT法合成ダイヤモンドの温度・圧力とモルフォロジーの関係
(The Properties of Natural and Synthetic Diamondより)

 

図16. HPHT法合成ダイヤモンドのモルフォロジーと成長分域
図16. HPHT法合成ダイヤモンドのモルフォロジーと成長分域

図 16 には低温及び高温で、種結晶を用いて合成されたそれぞれの結晶の形態と各成長分域の関係を示します。低温型の結晶では{100}面が大きく発達し、種結晶付近に金属溶媒を包有物として取り込む傾向にあることを示しています。高温型の結晶では{111}面が大きく発達し、種結晶付近には金属包有物を低温型よりも多く取り込む傾向にあることを示しています。また、共に{100}成長分域の窒素濃度が高く、黄色に着色している様子を示していますが、さらに成長温度を高温にすると窒素濃度は{111}>{100}となり、{111}が黄色に着色することが知られています。

図17と18には典型的なHPHT法合成ダイヤモンドのDiamondViewTM像を示します。前者はⅠb型の黄色で、後者はⅡb型の青色です。両者ともに{100}と{111}のセクターゾーニングが明瞭です。ここで重要なのは、天然ダイヤモンドで{100}成長分域が見られるMixed–habit Growthでは、{100}は曲線状の成長模様を示すのに対し、HPHT合成では直線状となっていることです。

図17. Ⅰb型HPHT法合成ダイヤモンドの典型的なDiamondViewTM像。緑黄色に発光する領域が{100}で、暗い領域が{111}
図17. Ⅰb型HPHT法合成ダイヤモンドの典型的なDiamondViewTM像。緑黄色に発光する領域が{100}で、暗い領域が{111}

 

図18. Ⅱb型HPHT法合成ダイヤモンドの典型的なDiamondViewTM像。明るく発光する領域が{111}で、暗い領域が{100}
図18. IIb型HPHT法合成ダイヤモンドの典型的なDiamondViewTM像。明るく発光する領域が{111}で、暗い領域が{100}

 

 

CVD法合成ダイヤモンドのモルフォロジー(形態)

CVD法合成ダイヤモンドの結晶は、HPHT法合成ダイヤモンドと同様に{111}と{100}で囲まれた六–八面体のモルフォロジーとなります(図19)。

図19. 天然ダイヤモンドとCVD法合成ダイヤモンドのモルフォロジー
図19. 天然ダイヤモンドとCVD法合成ダイヤモンドのモルフォロジー

 

しかし、HPHT法合成ダイヤモンドでは、{111}と{100}共に渦巻成長層を示すのに対し、CVD法合成ダイヤモンドでは{100}は常に渦巻成長層を示しますが、{111}は同じ結晶上で骸晶状の結晶面として現れます。このことは、PBC解析法で導き出された{111}と{100}の結晶面の重要度が逆転したことを意味しています。すなわち、天然ダイヤモンドにおいては、常にスムースな界面として振る舞う{111}が、ラフな界面として振る舞う{100}よりも形態的に重要で、平滑な{111}で囲まれたモルフォロジーとなりますが、CVD法合成ダイヤモンドでは{100}が常に重要な面となり、平滑な面として外形に残ります。

{111}は3本のPBCを含み、{100}はHPHT法のように再構成が生じても2本のPBCしか含みません。従って、この逆転にはPBC以外の要因が必要です。
HPHT合成では、Fe(鉄)、Co(コバルト)等の金属溶媒の溶液が環境相ですが、CVD合成における環境相は水素ガスと少量の酸素です。ダイヤモンドの成長における原子状水素の役割として、非晶質炭素及びグラファイト状炭素のエッチングや非晶質水素化カーボンの合成の抑制等が知られています。このような機能を有する原子状水素は、低温で生じ易い非晶質成分の合成を抑制し、結果的にダイヤモンドの結晶の選択的成長を促進すると考えられています。

このようにCVD法によるダイヤモンド合成に重要な役割を担う原子状水素は、ダイヤモンドのモルフォロジーにも影響を与えると考えられます。表面自由エネルギーに対するPBC付着エネルギーの寄与よりも大きな寄与が存在すれば、{111}と{100}の形態学的重要度の逆転が起こり得ます。この要因となるのがH2分子の表面吸着です。成長する結晶の表面に吸着したH2分子が表面自由エネルギーに対して大きな影響を与えることが理論計算によって導き出されています。

CVD法において装飾用の単結晶を育成するためには高速度成長が不可欠です。一般に高速(10μm/h以上)で成長させると、成長丘と呼ばれる異常成長が生じます。これを克服するためには{100}面を{111}面に比べて優先的に成長させる成長条件を維持することによって{100}基板上にエピタキシャル成長させます。また、窒素を添加することで高速度の成長が得られ、成長丘の発生が抑制されるため長時間成長が可能となることも知られています。また、{111}面上には多重双晶粒子が発生しやすく、これが100μm以上の目視可能なサイズになると、単結晶ダイヤモンド中に黒い多結晶の領域として観察されます。したがって、良質な単結晶を得るためにも{100}の基盤が有利となります。

図20にCVD合成の成長模式図を示します。これはステップフロー成長というメカニズムです。CVD法では{100}の方位の種結晶を用いるのですが、数度のオフ角を持たせています。このオフ角を持たせることで{110}方向に原子のステップが現れます。原子は平坦なテラスよりもステップに吸着しやすく、ステップを中心に成長が進んでいきます。

図20. CVD法合成ダイヤモンドのステップフロー成長の概念図
図20. CVD法合成ダイヤモンドのステップフロー成長の概念図

 

図21 は典型的なCVD法合成ダイヤモンドのDiamondViewTM像です。ステップフロー成長による積層構造が線状模様として観察されます。このダイヤモンドは無色ですが、成長後にHPHT処理が行われています。高速度成長させたCVD法合成ダイヤモンドは、多くの歪やディスロケーションを含むため褐色味を有します。この褐色味を除去するために多くの場合HPHT処理が施されています。成長時のCVD法合成ダイヤモンドは添加された窒素原子がNVセンタを形成するためにオレンジ色の発光色を示しますが、HPHT処理後はこのダイヤモンドのように青白色~緑色の発光を示します。

図21. CVD法合成ダイヤモンドに特徴的な線状模様
図21. CVD法合成ダイヤモンドに特徴的な線状模様

 

天然と合成の判別が困難なDiamondViewTM

DiamondViewTMは、ダイヤモンドの結晶内部に残された成長史を視覚的に捉えることができ、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドの識別にはきわめて有効です。天然と合成では明らかな成長履歴の相違があり、それらの典型的な画像が得られた場合は、両者の識別は容易です。しかし、中には天然と合成で酷似した紛らわしい画像が得られることもあり、観察者を惑わせます。

図22. 天然ダイヤモンドの特異なDiamondViewTM像
図22. 天然ダイヤモンドの特異なDiamondViewTM

 

図23. HPHT法合成ダイヤモンドのDiamondViewTM像
図23. HPHT法合成ダイヤモンドのDiamondViewTM

 

図22 は天然ダイヤモンドですが、部分的に合成ダイヤモンドのようなセクターゾーニングが見られます。きわめて珍しい事例です。図23 はHPHT合成です。単純な{100}と{111}の組み合わせではなく、{113}面や{110}面が出現していると思われます。

図24. Ⅱ型天然ダイヤモンドの特異なDiamondViewTM像
図24. Ⅱ型天然ダイヤモンドの特異なDiamondViewTM

 

図25. CVD法合成ダイヤモンドのDiamondViewTM像
図25. CVD法合成ダイヤモンドのDiamondViewTM

 

図24 はⅡ型天然ダイヤモンドです。Ⅱ型ダイヤモンドのDiamondViewTMによる発光色はたいていが暗い青色ですが、まれにこのようなピンク色が見られます。青色のモザイク模様が天然の特徴です。図25 はCVD合成です。成長後にHPHT処理が施されていないものです。

最近になってCGLで鑑別する合成ダイヤモンドが増加しています。DiamondViewTMによる観察は天然と合成を判別する上できわめて有益な情報が得られます。しかし、簡易的な判別機器のようにpass(天然)やrefer(再検査)のような結果を表示してはくれません。天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンド双方の成長履歴を理解し、経験を積んだ技術者により慎重に判断される必要があります。◆

謝辞
本稿を執筆するにあたり多くの文献を参照しましたが、ここでは誌面の都合上省略しております。また、多くの方々にご教示いただいた内容や研究成果が含まれており、関係者には謝意を表します。特に東北大学名誉教授の(故)砂川一郎博士には長年にわたりご指導を頂きました。あらためて深謝いたします。