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マントル深部からのダイヤモンド Diamonds originated from the lower part of mantle

PDFファイルはこちらから2018年9月PDFo.46

鍵 裕之
東京大学大学院理学系研究科

宝石の代表選手であるダイヤモンドは、砂川一郎先生(1924–2012)によって「地下からの手紙」と表現された。ダイヤモンドを入念に観察することで、ダイヤモンドの中に秘められた「手紙」を読み解き、地球深部の情報を知ることができると言う意味であろう。これまで天然ダイヤモンドの研究から、地球内部を構成する物質の理解が飛躍的に進展してきた。特に近年になって、マントル遷移層から下部マントルに由来する超深部起源ダイヤモンドの研究が盛んに行われている。天然ダイヤモンド、特に超深部起源ダイヤモンドに関連する地球内部科学の最近の研究動向について述べたい。
地球内部はどのような構造で、どのような物質でできているのか?教科書を開けば、地表から地殻、マントル(上部マントル、マントル遷移層、下部マントル)、核(外核、内核)という層構造をとると書かれている(図1) [1]。もちろんそれぞれの層に境界線があるわけではない。これらの層の境界では物質の密度が不連続的に変化しているため、不連続面とも呼ばれている。このような地球内部の密度構造は、地震波が伝搬する速度が地球内部で変化する様子から求められた。物質の密度は、物質を構成する元素組成によって変化する。重い元素(例えば鉄)が主成分になれば密度は高くなるし、比較的軽い元素(例えばマグネシウム)が主成分になれば密度は低くなる。一方、化学組成が同じであっても結晶構造が変化すれば密度も変化する。地震波伝搬速度の観測から地球内部の密度分布がわかっても、密度の変化が化学組成によってもたらされたのか、結晶構造の変化によってもたらされているかはわからない。地震波伝搬速度の解析に加えて、高温高圧実験、ダイヤモンドに代表される地球深部起源の天然試料の観察がまさに三位一体となって地球深部科学を発展させてきた。

 

図1-1:地球内部の層構造(図の作成は大学院生 福山鴻君による)
図1-1:地球内部の層構造(図の作成は大学院生 福山鴻君による)

 

図1-2:A,B, CはBass and Parise(2008)からの抜粋
図1-2:A,B, CはBass and Parise(2008)からの抜粋

 

高温高圧実験では、地球深部に相当する温度・圧力を実験室で再現して、地球深部に存在しうる鉱物を推定することができる。高温高圧実験には大型のマルチアンビル高圧発生装置(図2)やダイヤモンドアンビルセル(図3)を用いる。

 

図2:マルチアンビル高圧発生装置。愛媛大学地球深部ダイナミクスセンターに設置されているORANGE 3000
図2:マルチアンビル高圧発生装置。愛媛大学地球深部ダイナミクスセンターに設置されているORANGE 3000

 

図3:研究室で使用しているダイヤモンドアンビルセル。外形は約70 mm。(左)セルの外観。3本のネジで加圧していく。(右)セルの内部。上下に1対のダイヤモンドアンビルが装着されている
図3:研究室で使用しているダイヤモンドアンビルセル。外形は約70 mm。(左)セルの外観。3本のネジで加圧していく。(右)セルの内部。上下に1対のダイヤモンドアンビルが装着されている

 

高温高圧から急冷回収された試料を様々な手法を用いて分析することも多いが、常温常圧条件では不安定な鉱物もある。そのような場合はSPring–8やKEK Photon Factoryに代表される放射光実験施設で得られる指向性が高く、細いX線ビームを用いて、高温高圧の状態のままでX線回折を測定し、マントルに相当する条件で鉱物の結晶構造の解析が行われている。また、X線回折では決定することが困難な結晶中の水素原子の位置を決定するためには、中性子回折の測定が不可欠である。中性子回折の散乱強度は元素の電子数に依存しないため、水素を代表とする軽元素の位置決定やMg2+, Al3+, Si4+などの等電子数イオンを区別することが可能である。茨城県東海村に建設された大強度陽子加速器施設(J–PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に、超高圧中性子回折装置PLANET (Pressure–leading apparatus for neutron diffraction)が稼働している[2](図4)。

 

図4:大強度陽子加速器施設(J−PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された超高圧中性子回折装置PLANET (左)ビームラインの外観(右)PLANETビームラインに設置された大型マルチアンビル高圧発生装置(圧姫)
図4:大強度陽子加速器施設(J−PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された超高圧中性子回折装置PLANET
(左)ビームラインの外観 (右)PLANETビームラインに設置された大型マルチアンビル高圧発生装置(圧姫)

 

冒頭に述べたとおり、ダイヤモンドは地下からの手紙である。手紙に書かれた文字が、ダイヤモンドの結晶に取り込まれている鉱物や流体などの包有物(inclusion)と考えることもできる。包有物とはダイヤモンドが地球深部で結晶成長する際に周囲からダイヤモンドの結晶内部に取り込まれたものである。ダイヤモンドの熱力学的安定領域を考えると、ダイヤモンドは深さ150 km以上のマントルで生成したことになるので、ダイヤモンド中の包有物はマントルに存在している物質を取り込んだと考えられる。ダイヤモンドは最も硬い物質であるため破壊されにくく、また極端な酸化的条件でない限り反応することがないため化学的にもきわめて安定な物質である。したがって、天然ダイヤモンドは地球深部物質を包有物として安定に地表まで運ぶことができる頑丈なカプセルであり、貴重な研究試料である。地球深部で取り込まれた包有物の周囲にはギガパスカル(GPa)オーダーの圧力が残っている。図5に示すように地球内部でダイヤモンド中に包有物が取り込まれたときには、包有物と周囲のダイヤモンドは力学的につり合った状態にある。

 

図5:横軸に温度、縦軸に圧力を取った状態図。右上に位置する高温高圧状態にある地球深部でダイヤモンドが成長し、周囲に存在していた包有物を取り込む。地表に上がる過程で包有物とホストダイヤモンドの熱膨張係数、圧縮率の違いから包有物に圧力が生じる。
図5:横軸に温度、縦軸に圧力を取った状態図。右上に位置する高温高圧状態にある地球深部でダイヤモンドが成長し、周囲に存在していた包有物を取り込む。地表に上がる過程で包有物とホストダイヤモンドの熱膨張係数、圧縮率の違いから包有物に圧力が生じる。

 

地球深部から地表にダイヤモンドが上昇する際に温度が下がるため包有物もダイヤモンドも体積が減少する。また、圧力が低下するため包有物もダイヤモンドも体積が増加する。包有物とダイヤモンドの熱膨張率、圧縮率はそれぞれ異なり、地表に上がると包有物の方が周囲のダイヤモンドよりも体積が大きくなるため、包有物周辺には圧力がかかる。このことを初めて報告したのはNavon (1991)で、ダイヤモンド中の石英包有物に帰属される赤外吸収スペクトルが高波数側へシフトすることから残留圧力(約1 GPa)を求めた[3]。天然ダイヤモンドの包有物として、固体二酸化炭素[4]、氷VI相[5]、氷VII相[6]などいずれも常圧下では存在できない高圧相が報告されている。これらの包有物はダイヤモンドが生成したマントル中に二酸化炭素や水といった揮発性物質が存在した直接的な証拠となっている。図6と図7に筆者らが測定したダイヤモンドのラマンスペクトルの2次元マッピングを示す。包有物周辺に圧力が残留している様子がわかる。

 

図6:ダイヤモンド中に含まれるクロムスピネルとかんらん石の包有物。ダイヤモンドのラマンスペクトルの2次元マッピングを取ると包有物周辺に圧力が残留している様子がわかる。(Kagi et al., 2009より[21])
図6:ダイヤモンド中に含まれるクロムスピネルとかんらん石の包有物。ダイヤモンドのラマンスペクトルの2次元マッピングを取ると包有物周辺に圧力が残留している様子がわかる。(Kagi et al., 2009より[21]

 

図7:Sao-Luiz産下部マントルダイヤモンドに含まれるブリッジマナイト包有物(左)EBSDマップ。色の変化はダイヤモンドの結晶方位のずれを示している。(右)ラマンスペクトルの2次元マッピング (Cayzer et al., 2008より[22])
図7:Sao-Luiz産下部マントルダイヤモンドに含まれるブリッジマナイト包有物(左)EBSDマップ。色の変化はダイヤモンドの結晶方位のずれを示している。(右)ラマンスペクトルの2次元マッピング (Cayzer et al., 2008より[22]

 

このようにダイヤモンド中の包有物そのもの、あるいは周辺のダイヤモンドに蓄積された圧力を検出するにはラマン分光法が有益である。もちろんX線回折によって鉱物あるいはダイヤモンドの格子パラメーターを求めても良い。圧力がかかっていれば物質の硬さに応じて格子パラメーターが小さくなるはずである。しかし、圧力検出の感度、そして空間分解能という意味でラマン分光法の方が圧倒的に有利である。

ごく最近発見された氷VII相の包有物には10 GPaにも及ぶ圧力が残留しており、水が包有物としてダイヤモンドに取り込まれた圧力(ダイヤモンドが生成した圧力)を復元すると24 GPaとなり、このダイヤモンドが下部マントルに起源をもつことも明らかになった。下部マントルに水が存在していた直接的な証拠と考えることもできるが、取り込まれた包有物が地上に上昇する過程でダイヤモンド内部において脱水反応を起こして水を生成したという可能性も否定できない。2018年8月にボストンで開かれたGoldschmidt ConferenceでもTschaunerによる氷VII発見に関する研究発表があった。Navon教授(前述のようにダイヤモンド中の包有物に圧力がかかっていることを最初に報告した研究者)と意見交換を行ったが、ダイヤモンド中に純粋な氷が存在することはとても不思議(信じがたい)と感じた。ダイヤモンド中の流体包有物にはカリウムイオンや塩化物イオンが含まれていることが一般的であるからだ。
多くの天然ダイヤモンドは深さ150 kmから200 kmの上部マントルに起源をもつが、上に述べたようにマントル遷移層(深さ410 km〜660 km)や下部マントル(深さ660 km〜2890 km)に由来する包有物を取り込んだ超深部起源ダイヤモンド(英語ではsuper–deep diamondあるいはsublithospheric diamondとよばれる)に関する研究も最近は多数報告されている。高温高圧実験と地震波伝搬速度の観測から、下部マントルの主要構成鉱物はフェロペリクレース(化学式は(Mg, Fe)O)とブリッジマナイト(MgSiO3)であることがわかっているので、これらの鉱物組み合わせがダイヤモンド中の包有物として発見できれば、そのダイヤモンドは下部マントルに起源を持つと推定することができる。Scott Smith et al. (1984)は、最初にこれらの下部マントル鉱物を南アフリカのKoffifonteinキンバライトパイプから産出されたダイヤモンドから発見した[7]。その後1990年代に入り、ブラジルから多くの下部マントル起源のダイヤモンドが発見された[8]。超深部起源ダイヤモンドに関しては優れたレビュー論文がいくつか出版されているので、専門的な詳細についてはそちらを参照されたい[9, 10]。2018年に入って、これまで見つかっていなかったCaSiO3ペロブスカイトが天然ダイヤモンド中の包有物として発見された[11]。ホスト鉱物であるダイヤモンドの炭素同位体組成を二次イオン質量分析計で測定したところ–2.3 ‰から–4.6 ‰の範囲で分布し、特にCaSiO3ペロブスカイトが取り込まれていた部分の炭素同位体組成は–2.3 ‰で、典型的な上部マントル起源のダイヤモンドがもつ炭素同位体組成(約–5.5 ‰)と比べて有意に高かった(炭素の安定同位体には12Cと13Cがあり、炭素同位体比は標準物質の炭素同位体比からの相対値δ13C (‰) = [(13C/12C)試料/(13C/12C)標準 – 1] x 1000で表される。生物起源の有機物は軽い同位体である12Cに富むため−25‰前後であるのに対し、炭酸塩の炭素同位体組成は約0 ‰となる。)。このことは海洋地殻と炭酸塩起源の炭素が地表から下部マントルの深さまで沈み込んでいることを示唆している [12, 13]。CaSiO3ペロブスカイトはケイ酸塩の結晶構造に入りにくい不適合元素であるK, U, Thを高濃度で結晶構造中に取り込むことができる性質をもつ。Kは放射性同位体である40Kをもち、U, Thは放射性元素であるため、これらの元素は放射壊変の際に熱を発し、地球深部での熱源となる。地球内部の熱収支を議論する上でも重要な発見と言える。

 

マントル中の水(水素)に関連した重要な発見もダイヤモンドの包有物の研究から報告された。2014年にリングウッダイト(ringwoodite, かんらん石の高圧相で深さ500 kmから660 kmのマントル遷移層の領域で安定)の含水相がダイヤモンド中の包有物として見つかった [14]。マントル遷移層の主要構成鉱物であるリングウッダイトには、高温高圧実験から最大で2 wt.%程度の水が取り込まれることが既にわかっていた[15]が、実際に地球内部にこれだけの濃度の水が存在するかどうかは全くわかっていなかった。天然ダイヤモンド中から見つかった含水リングウッダイトは、高温高圧実験と同様の濃度レベル(1 wt.%)の水を含んでおり、このダイヤモンドが成長したマントル遷移層での水の存在を示す直接的な物証となる。今後、このような含水リングウッダイトの包有物がさらに発見されて、水素同位体組成が測定されれば、地球の進化過程で水がどのように地球深部に取り込まれたかが明らかになるだろう。
ところで、ダイヤモンド中の包有物として窒素が最近、注目されている。窒素はダイヤモンドの結晶構造に取り込まれる最も主要な不純物であることは言うまでもない。ダイヤモンドの赤外吸収スペクトルから決定される窒素の欠陥構造は天然ダイヤモンドが受けた熱履歴を知るうえで重要な情報をもたらす。窒素は大気の主要成分であるが、地球全体で考えると窒素の量は不足しており地球深部に現在でも取り残されている可能性がある。ダイヤモンド中に包有物として窒素あるいは窒素を主成分とする物質が発見されれば、地球深部に窒素のリザーバー(貯蔵庫)が存在する有力な証拠となりうる。KaminskyとWirthは透過電子顕微鏡(TEM)観察から下部マントル由来の超深部起源ダイヤモンドから鉄窒化物(Fe2N, Fe3N)と鉄炭化窒化物(Fe9(N0.8C0.2))の包有物を発見した [16]。これらの包有物はマントル最下部で液体の鉄と反応して生成したと考えられ、窒素がマントル最下部から核の領域に存在しうることを示唆している。また、TEM観察と赤外吸収スペクトルの観察から、乳白状のナノインクルージョンとしてアンモニアがダイヤモンドに取り込まれているという報告もある[17]。窒素は酸化状態に応じて窒素酸化物、N2、アンモニアといった分子形態を取り、アンモニアの存在はマントルの還元的条件での窒素の化学状態を反映していると考えられる。超深部起源ダイヤモンドからはマイクロインクルージョン(平均150 nm)とナノインクルージョン(20–30 nm)の存在が透過電子顕微鏡の観察から報告されている [18]。Navonらはこのような微小な包有物が固体結晶状の窒素(δ–N2)でできていて、その残留圧力が約11 GPaに及んでいることなどを報告している[19]。窒素の微小な包有物は、ダイヤモンド格子に不純物として含まれていた窒素原子が、地球深部の条件で離溶して生成したと解釈されている。

 

ごく最近になって、ホウ素を含む青色のtype IIbダイヤモンドが下部マントルに起源をもつという論文が発表された[20]。ホウ素は周期表上では窒素と同様に炭素に隣接する元素で、ダイヤモンド結晶中には窒素と同様に容易に取り込まれる。しかし、ホウ素は地殻に濃集している元素で、マントルにおけるホウ素濃度はきわめて低いと考えられていた。今回の発見はマントル深部(下部マントル)にもホウ素が豊富に存在することを示唆しており、これまでの地球化学的な常識を大きく覆した研究結果と言える。この論文では海洋堆積物が地球深部に沈み込んでリサイクルされる際にホウ素が一緒に地球深部まで潜り込んだと解釈している。一方で、地表からマントル遷移層・下部マントルまでどのような化学形態でホウ素が移動していったのか、特定のマントル構成鉱物にホウ素が安定に取り込まれることがあるのか、と言った研究課題に今後は取り組んでいく必要性を感じた。今後もダイヤモンドの研究が起爆剤となって、高温高圧実験とも連携しながら新たな地球内部の理解が進んで行くであろう。◆

 

【参考文献】
[1] J. D. Bass and J. B. Parise (2008) Deep earth and recent development in mineral physics. Elements,4, 157–163.

[2] T. Hattori, A. Sano–Furukawa, H. Arima, K. Komatsu, A. Yamada, Y. Inamura, T. Nakatani, Y. Seto, T. Nagai, W. Utsumi, T. Iitaka, H. Kagi, Y. Katayama, T. Inoue, T. Otomo, K. Suzuya, T. Kamiyama, M. Arai, T. Yagi (2015) Design and performance of high–pressure PLANET beamline at pulsed neutron source at J–PARC. Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A, 780, 55.

[3] O. Navon (1991) High internal pressures in diamond fluid inclusions determined by infrared absorption. Nature, 353, 746.

[4] M. Schrauder, O. Navon (1993) Solid carbon dioxide in a natural diamond. Nature, 365, 42.

[5] H. Kagi, R. Lu, P. Davidson, A. F. Goncharov, H.–k. Mao, R. J. Hemley (2000) Evidence for ice VI as an inclusion in cuboid diamonds from high P–T near infrared spectroscopy. Mineralogical Magazine, 64, 1057.

[6] O. Tschauner, S. Huang, E. Greenberg, V. B. Prakapenka, C. Ma, G. R. Rossman, A. H. Shen, D. Zhang, M. Newville, A. Lanzirotti, K. Tait (2018) Ice–VII inclusions in diamonds: Evidence for aqueous fluid in Earth’s deep mantle. Science 359, 1136.

[7] B.H. Scott Smith, R.V. Danchin, J.W. Harris, K.J. Stracke (1984) Kimberlites near Orroroo, South Australia. In: Kornprobst, J. (Ed.), Kimberlites I: Kimberlites and related rocks. Elsevier, Amsterdam, pp. 121–142.

[8] B. Harte, J.W. Harris, M.T. Hutchison, G.R. Watt, M.C. Wilding (1999) Lower mantle mineral associations in diamonds from Sao Luiz, Brazil. In: Fei, Y., Bertka, C.M., Mysen, B.O. (Eds.), Mantle Petrology: Field Observations and High Pressure Experimentation: A Tribute to Francis R. (Joe) Boyd: Geochemical Society Special Publication No. 6, pp. 125–153.

[9] B. Harte (2010) Diamond formation in the deep mantle: the record of mineral inclusions and their distribution in relation to mantle dehydration zones. Mineralogical Magazine, 74, 189.

[10] F. Kaminsky (2012) Mineralogy of the lower mantle: A review of ‘super–deep’ mineral inclusions in diamond. Earth–Science Reviews, 110, 127.

[11] F. Nestola, N. Korolev, M. Kopylova, N. Rotiroti, D. G. Pearson, M. G. Pamato, M. Alvaro, L. Peruzzo, J. J. Gurney, A. E. Moore, J. Davidson (2018) CaSiO3 perovskite in diamond indicates the recycling of oceanic crust into the lower mantle. Nature 555, 237.

[12] M. J. Walter, S.C. Kohn, D. Araujo, G. P. Bulanova, C. B. Smith, E. Gaillou, J. Wang, A. Steele, S. B. Shirey (2011) Deep mantle cycling of oceanic crust: Evidence from diamonds and their mineral inclusions. Science, 334, 54.

[13] D.A. Zedgenizov, H. Kagi, V.S. Shatsky, A.L. Ragozin (2014) Local variations of carbon isotope composition in diamonds from São–Luis (Brazil): Evidence for heterogenous carbon reservoir in sublithospheric mantle. Chemical Geology, 363, 114.

[14] D. G. Pearson, F. E. Brenker, F. Nestola, J. McNeill, L. Nasdala, M. T. Hutchison, S. Matveev, K. Mather, G. Silversmit, S. Schmitz, B. Vekemans, L. Vincze (2014) Hydrous mantle transition zone indicated by ringwoodite included within diamond. Nature 507, 221.

[15] D. L. Kohlstedt, H. Keppler, D. C. Rubie (1996) Solubility of water in the a,b and g phases of (Mg,Fe)2SiO4. Contributions to Mineralogy and Petrology, 123, 345.

[16] F. Kaminsky, R. Wirth (2017) Nitrides and carbonitrides from the lowermost mantle and their importance in the search for Earth’s “lost” nitrogen. American Mineralogist, 102, 1667.

[17] J. Rudloff–Grund, F.E. Brenker, K. Marquardt, D. Howell, A. Schreiber, S.Y. O’Reilly, W.L. Griffin, F.V. Kaminsky (2016) Nitrogen nanoinclusions in milky diamonds from Juina area, Mato Grosso State, Brazil. Lithos, 365, 57.

[18] H. Kagi, D. A. Zedgenizov, H. Ohfuji, H. Ishibashi (2016) Micro– and nano–inclusions in a superdeep diamond from Sao Luiz, Brazil. Geochemistry International, 54, 834.

[19] O. Navon, R. Wirth, C. Schmidt, B. M. Jablon, A. Schreiber, S. Emmanuel (2017) Solid molecular nitrogen (δ–N2) inclusions in Juina diamonds: Exsolution at the base of the transition zone. Earth and Planetary Science Letters, 464, 237.

[20] E. M. Smith, S. B. Shirey, S. H. Richardson, F. Nestola, E. S. Bullock, J. Wang, W. Wang (2018) Blue boron–bearing diamonds from Earth’s lower mantle. Nature, 560, 84–87.

[21] H. Kagi, S. Odake, S. Fukura, and D. Zedgenizov D. (2009) Raman spectroscopic estimation of depth of diamond origin: technical developments and the application. Russian Geology and Geophysics, 50, 1183–1187

[22] N.J. Cayzer, S. Odake, B. Harte and H. Kagi (2008) Plastic deformation of lower mantle diamonds by inclusion phase transformations. European Journal of Mineralogy, 20, 333–339

 

【著者紹介】

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鍵 裕之
1965年 生まれ
1988年 東京大学理学部化学科卒業
1991年 東京大学大学院理学系研究科博士課程中退
1991年 筑波大学物質工学系助手
1996年 ニューヨーク州立大学研究員
1998年 東京大学大学院理学系研究科講師
2010年 同 教授 現在に至る。
■研究内容:地球化学、地球深部物質科学、高圧下での化学反応・物質の構造変化

ダイヤモンドのインクルージョン・ギャラリー

PDFファイルはこちらから2018年9月PDFNo.46

リサーチ室

ダイヤモンドはきわめて高い物理的・化学的安定性を有しているため、インクルージョンにとっては非常に優れた保護容器(カプセル)となります。したがって、ダイヤモンド中のインクルージョンは地球深部の情報を直接提供してくれる優れた研究試料となります。
ダイヤモンド中のインクルージョンは鉱物の種類や化学組成からPタイプとEタイプに大別されています。Pタイプはオリビン、エンスタタイト、ダイオプサイド、パイロープなどを含み、Eタイプはパイロープ/アルマンディン、オンファサイト、ルチル、カイヤナイト、クロマイトなどを含みます。このようなPタイプとEタイプの相違は母結晶のダイヤモンドの生成起源に関連しており、インクルージョンの詳細な研究により、それぞれの成因が議論されています。いずれにしても、これまでの研究ではダイヤモンドのほとんどは地下150–200kmで生成したと考えられてきました。ところが、本誌掲載の鍵裕之教授の解説にあるように、最近では地下410–660kmよりも深い起源をもつ超深部起源のダイヤモンドの存在が明らかとなっています。
超深部起源のダイヤモンドには宝石ダイヤモンドとして良く知られているCullinanなどの大粒のⅡ型ダイヤモンドやホープなどで知られるⅡb型のブルーダイヤモンドも含まれます。
このように宝石ダイヤモンドでは“キズ”としてクラリティを下げる要因となるインクルージョンですが、地球科学の発展に寄与する重要な研究対象でもあります。

 

【Pタイプのインクルージョン】
PタイプはPeridotite(ペリドタイト)起源の鉱物インクルージョンを含みます。無色透明結晶はオリビンかエンスタタイトです。両者を視覚的に区別するのは困難ですが、顕微ラマン分光分析にて明確に識別することができます。鮮やかな緑色結晶はクロムダイオプサイドです。紫赤色の結晶はパイロープガーネットです。緑色と赤色の色彩のコントラストが綺麗です。

 

【Eタイプのインクルージョン】
EタイプはEclogite(エクロジャイト)起源の鉱物インクルージョンを含みます。橙色の結晶はアルマンディン/パイロープガーネットです。灰緑色の結晶はオンファサイトです。橙色と灰緑色の結晶の組み合わせはEタイプ起源の典型で、色彩のコントラストが鮮やかです。しばしば赤色の結晶が見られますが、これはガーネットではなくルチルの結晶です。頻度は低いのですが、青色の鮮やかな結晶が見られることがあります。これはカイヤナイトで、Eタイプの特徴となります。黒色の結晶は様々ありますが、クロマイトはEタイプに多く見られます。

 

【その他のインクルージョン】
いっぽう、インクルージョンには黒雲母、白雲母などのPタイプにもEタイプにも属さない鉱物も有ります。これらのインクルージョンもダイヤモンドの形成時に取り込まれたものと考えられており、キンバーライトのマグマ起源の可能性も指摘されています。また、何らかの結晶インクルージョンを取り囲むように黒色の円盤状のインクルージョンが見られることがあります。これらは宝石学では “カーボンブラック”と呼ばれることもあり、たいていは二次的に生成したグラファイトインクルージョンです。◆

 

 

【Pタイプのインクルージョン】

 

写真1:オリビン インクルージョン
写真1:オリビン インクルージョン

 

写真2:クロムダイオプサイド インクルージョン
写真2:クロムダイオプサイド インクルージョン

 

写真3:クロムダイオプサイド インクルージョン
写真3:クロムダイオプサイド インクルージョン

 

写真4:クロムダイオプサイド インクルージョン
写真4:クロムダイオプサイド インクルージョン

 

写真5:クロムパイロープガーネット インクルージョン(自然光下)
写真5:クロムパイロープガーネット インクルージョン(自然光下)

 

写真6:クロムパイロープガーネット インクルージョン(白熱灯下)
写真6:クロムパイロープガーネット インクルージョン(白熱灯下)

 

写真7:パイロープガーネット インクルージョン
写真7:パイロープガーネット インクルージョン

 

写真8:パイロープガーネット インクルージョン
写真8:パイロープガーネット インクルージョン

 

写真9:パイロープガーネット インクルージョン
写真9:パイロープガーネット インクルージョン

 

写真10:パイロープガーネット インクルージョン
写真10:パイロープガーネット インクルージョン

 

写真11:パイロープガーネット インクルージョン
写真11:パイロープガーネット インクルージョン

 

写真12:パイロープガーネット インクルージョン
写真12:パイロープガーネット インクルージョン

 

【Eタイプのインクルージョン】

 

写真13:パイロープ/アルマンディンガーネットインクルージョン(赤橙色)とオンファサイト インクルージョン(灰緑色)
写真13:パイロープ/アルマンディンガーネット インクルージョン(赤橙色)とオンファサイト インクルージョン(灰緑色)

 

写真14:パイロープ/アルマンディンガーネット インクルージョン(橙色)とオンファサイト インクルージョン(灰色)
写真14:パイロープ/アルマンディンガーネット インクルージョン(橙色)とオンファサイト インクルージョン(灰色)

 

写真15:オンファサイト(灰緑色)とパイロープ/アルマンディンガーネット(赤橙色)インクルージョン
写真15:オンファサイト(灰緑色)とパイロープ/アルマンディンガーネット(赤橙色)インクルージョン

 

写真16:パイロープ/アルマンディンガーネット インクルージョン
写真16:パイロープ/アルマンディンガーネット インクルージョン

 

写真17:パイロープ/アルマンディンガーネット インクルージョン
写真17:パイロープ/アルマンディンガーネット インクルージョン

 

写真18:ルチル インクルージョン
写真18:ルチル インクルージョン

 

写真19:カイヤナイト インクルージョン
写真19:カイヤナイト インクルージョン

 

写真20:クロマイト インクルージョン
写真20:クロマイト インクルージョン

 

 

【その他のインクルージョン】

 

写真21:結晶インクルージョン(未知)と黒色インクルージョン(おそらくグラファイト)
写真21:結晶インクルージョン(未知)と黒色インクルージョン(おそらくグラファイト)

 

写真22:黒色インクルージョン(おそらくグラファイト)
写真22:黒色インクルージョン(おそらくグラファイト)

無色~ほぼ無色のHPHT合成ダイヤモンドへの電子線照射処理実験報告

PDFファイルはこちらから2018年9月PDFNo.46

リサーチ室 北脇裕士、江森健太郎

無色~ほぼ無色のメレサイズのHPHT合成ダイヤモンドに電子線を照射する実験を行った。その結果、照射の強度に応じて蛍光および燐光が共に弱くなり、最終的には燐光がほぼなくなった。この際、照射強度を強くすると地色が淡青色に変化したが、見かけ上無色のままの照射強度において完全に燐光が消えたものは一部だけであった。

 

2015年頃から世界的な宝石市場において大量のメレサイズのHPHT合成ダイヤモンドが流通を始めており、業界関係者はその対応に追われている。紫外線透過性、紫外線発光、赤外分光などを応用した各種の判別器機が開発されているが、装置の原理が未公表のブラックボックス的なものも販売されている。これらの中で紫外線下での燐光を検出する装置はルースでもジュエリーにセットされた状態でも短時間で検査できるという利便性があり、国内の輸入業者を中心に幅広く利用されている。
2018年4月、香港の器機開発業者から「HPHT–grown diamonds might escape detection as synthetics, once they are treated with irradiation」というアラートが配信された(Diamond Services, 2018)。HPHT合成ダイヤモンドは紫外線照射後、ミリ秒~数十秒の燐光があり、燐光を示さない天然と区別する事ができる。しかし、一旦照射処理が施されると室温で燐光を測定する装置では識別ができなくなるというものである。このアラートに呼応してIIDGRやGIAは自社製の判別装置における信頼性に問題はないと報告している(Rapaport News, 2018)。
さて、このような背景のもと、電子線照射により無色~ほぼ無色のHPHT合成ダイヤモンドの燐光が減衰するのかの実験を行った。実験に用いた試料は0.008–0.032ctの見かけ上無色の中国製HPHT合成ダイヤモンドで、それぞれ5個ずつAとBの2つのグループに分けて段階的に照射を行った。
電子線はコッククロフトウォルトン型の放射線発生装置を用いて、
試料Aグループには総線量:1.0×1015e/cm2、10.0×1015e/cm2、50.0×1015e/cm2
Bグループには総線量:5.0×1015e/cm2、25.0×1015e/cm2、100.0×1015e/cm2をそれぞれ照射した。
これらを国内での利用率の高い中国製の判別装置を用いて照射前後の蛍光と燐光の写真を撮影した。その結果を図–1と図–2に示す。試料Aグループにおいて総線量:1.0×1015e/cm2では燐光に減衰は見られないが、10.0×1015e/cm2では若干の燐光の減衰が見られた。50.0×1015e/cm2では明らかな減衰が見られ、②の試料では完全に消滅した。試料Bグループにおいては総線量:5.0×1015e/cm2で燐光に若干の減衰が見られ、25.0×1015e/cm2では明らかな減衰が見られ、①の試料では完全に消滅した。100.0×1015e/cm2では未処理で燐光の非常に強かった試料②を除いて他の4個はすべて燐光が消失した。図–3は試料Aグループの50.0×1015e/cm2照射後の試料と燐光の写真である。試料①③⑤は白色のグレーダーの上に乗せてルーペで観察するとわずかに青色味を感じる。これは電子線照射により、GR1センタが形成したためである。しかし、この程度の淡い色調はジュエリーにセットされてしまえばほぼ無色に見えると思われる。図–4は試料Bグループの100.0×1015e/cm2照射後の試料と燐光の写真である.グレーダーに乗せてルーペで観察すると、②の試料はほぼ無色のままであったが、他の4個は明らかなGR1センタに因る青色味が感じられた。このように照射する電子線の強度が強いとGR1センタに因り青色に着色する。青色に着色する程度の強度で照射されたものはほぼ燐光がなくなったが(5個中4個)、ほぼ無色のまま変化のない強度では燐光が完全に消滅したのは一部(5個中1個)であった。

 

以上のようにメレサイズのHPHT合成ダイヤモンドに電子線を照射することで燐光を減衰あるいは消滅できることがわかった。しかし、ダイヤモンドを無色のままで燐光を完全に消滅させるのは困難である。したがって、燐光の画像を目視して観察者自身が判別する装置の信頼性は今後もある程度担保されるが、その解釈には慎重な対応が必要となろう。◆

 

図1:グループAの蛍光及び燐光画像
図1:グループAの蛍光及び燐光画像

 

図2:グループBの蛍光及び燐光画像
図2:グループBの蛍光及び燐光画像

 

図3:グループAに50.0 x 1015e–/cm2の電子線を照射した後の地色と燐光画像
図3:グループAに50.0 x 1015e/cm2の電子線を照射した後の地色と燐光画像

 

図4:グループBに100.0 x 1015e–/cm2の電子線を照射した後の地色と燐光画像
図4:グループBに100.0 x 1015e/cm2の電子線を照射した後の地色と燐光画像

 

【参考文献】
Eaton–Magaña S., Shigley J.E. and Breeding C.M., 2017. Observations on HPHT–grown synthetic diamonds: A review. Gems & gemology, 53(3), 262–284
Diamond Services, 2018. HPHT–grown diamonds might escape detection as synthetics, once they are treated with irradiation, Lab Alert 2018
Rapaport News, 2018. Labs Refute Claims HPHT Escaping Detection, Apr 25, 2018