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Beを含む天然ブルーサファイアのナノインクルージョン

PDFファイルはこちらから2018年7月PDFNo.45

リサーチ室 江森 健太郎、北脇 裕士

京都大学大学院理学研究科 三宅 亮

要約

コランダム中に天然由来のBeが存在することは知られているが、その起源についてはまだ解明されていない。本研究ではマダガスカル、ディエゴ産のブルーサファイアを用いてBeの起源を明らかにするための調査を行った。LA–ICP–MSで分析した30個のサンプルのうち、27個のコランダムにBeが検出され、Be、Nb、Taとの間に相関関係が認められた。さらに天然Beを多く含むサンプルについて透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。Beを含む領域では、幅10 nm、長さ40 nm程度のナノインクルージョンが観察され、それらはTi、Nb、Taを含む、コランダムではない結晶であることが判明した。このナノインクルージョンはBe、Ti、Nb、Taからなる未知の鉱物である可能性がある。

 

◆背景と目的

コランダムのベリリウム(Be)拡散加熱処理は2001年後半にタイのバンコクとチャンタブリで同時に開発された。このBe拡散加熱処理は後にコランダムをクリソベリルの粉末と一緒に高温で加熱し、クリソベリル中のベリリウムをコランダムに拡散し、色変化を起こしているものであることが明らかになった(文献1)
Be拡散加熱処理が出始めた当初は、天然コランダムにはBeは内在しないと考えられてきた(文献2)が、処理が行われていないコランダムからもBeが検出される事例が複数報告された(文献3)。その後、天然由来のBeか否かを判定する方法はある程度確立されたが(文献4)、天然Beの起源についてはいまだ不明のままである。
Shen et al.(2012)(文献5)はマダガスカル、イラカカ産の非加熱原石を調査し、その原石のクラウド部分にBeと同時にNb、Taを検出した。Beが検出されたクラウド部分を透過型電子顕微鏡(TEM) で調べたところ、長さ20–40 nm、幅5–10 nmサイズのTiに富み、TiO2のα–PbO2構造のナノインクルージョン結晶が見つかったと報告している。しかし、その報告ではナノインクルージョン結晶とBe、Nb、Taについての関係は明らかにされていない。
本研究は、コランダム中の天然由来のBeについてその起源となるナノインクルージョンを明らかにすることを目的とする。

 

◆サンプルと手法

本研究には、マダガスカル、ディエゴ産非加熱ブルーサファイア30個を用いた(図1)。分析には、LA–ICP–MS装置として、LA(レーザーアブレーション装置)はNew Wave Research UP–213を、ICP–MSはAgilent 7500aを使用した。標準試料にはNIST612を用い、内標準として27Alを用いた。またTEM用試料作製の為、FIB(Focused Ion Beam、集束イオンビーム)装置としてFEI社(現Thermo Fisher Scientific社)Quanta 200 3DS、TEMとして日本電子製JEM–2100Fを用いた。それぞれの装置の分析条件は表1の通りである。

 

図1 分析に用いたサンプル(1個は破損のため未掲載)
図1 分析に用いたサンプル(1個は破損のため未掲載)

 

表1 分析条件
表1 分析条件

 

◆結果および考察

1. LA–ICP–MS分析結果

サンプル30個(diego01~diego30)について、LA–ICP–MS分析を行った。それぞれのサンプルにつき5点ずつ測定を行い、Beの最小値と最大値を求めた。結果を表2に記す。30個のサンプル中27個にBeの存在が確認され、Beの最大値は26.07 ppmwであった。

 

表2 ブルーサファイア30個の分析結果(bdlは検出限界未満)
表2 ブルーサファイア30個の分析結果(bdlは検出限界未満)

 

Beが検出限界未満~14.16 ppmw検出されたdiego10について詳細な検査を行った。レーザーアブレーションのスポット径80 μm、一定間隔で線分析を行った。分析点01–30、分析点31–57と2つの線分析を行った。それぞれのBe、Ti、Nb、Taの線分析結果を図2、図3に示す。

 

図2–1 diego10、分析点01–30の線分析結果
図2–1 diego10

 

図2–2 diego10、分析点01–30の線分析結果
図2–2 diego10、分析点01–30の線分析結果

 

図3–1 diego10、分析点31–57の線分析結果
図3–1 diego10

 

図3–2 diego10、分析点31–57の線分析結果
図3–2 diego10、分析点31–57の線分析結果

 

BeとNb、Taには非常によい相関関係が認められるが、Tiとは相関関係は認められない。また、分析点01–57について、Be–Nb、Be–Taの濃度プロットを行った結果を図4に示す。これらは筆者らの先行研究でカンボジア、ナイジェリア、ラオス等の玄武岩関連のブルーサファイアに見られた相関関係に一致する(文献4)。Be、Nb、Taの濃度関係からmol比を見積もったところ、Be : Nb : Ta ≒ 3 : 1 : 4の結果を得ることができた。

 

図4 diego10のBeとNb、Taの濃度関係
図4 diego10のBeとNb、Taの濃度関係

 

 

« FIB(Focused Ion Beam、集束イオンビーム)装置とは »

FIB装置は、集束したイオンビームを試料に照射することにより観察や加工を行う装置である。

 

図A FIB装置
図A FIB装置

 

図B FIB装置の概略図
図B FIB装置の概略図

 

図Aは本研究で用いたFIB装置、FEI社Quanta200 3DS(京都大学地球惑星科学科地質学鉱物学分野鉱物学研究室所属)の写真である。
SEM(Scanning Electron Microscopy、走査型電子顕微鏡)で観察しながら、所定の位置をnm〜μmの正確さで切り出すことが可能である。TEM(Transmission Electron Microscopy、透過型電子顕微鏡)観察試料には厚さ100 nm程度の薄膜に試料を切り出さなければならないため、TEM観察試料の作成にFIBを使用することが近年では一般的である。
図BはFIB装置の概略図である。
LIMSは液体金属イオン源(Liquid Metal Ion Source)の略であり、イオン材料として通常Ga(ガリウム)が用いられる。Ga(ガリウム)をイオン材料として使う理由には原子量が69.723と比較的重く、加工に十分なスパッタリング速度が得られること、また融点が29.8℃と低く、加熱後は過冷却減少で室温でも液体の状態を維持でき、針材料のW(タングステン)と反応せず流れが安定すること、が挙げられる。このLIMSから放出されたイオンを設定領域に照射し、加工を行うのがFIB装置ということになる。

 

本研究では、TEM観察のため、コランダム試料から15 μm × 10 μm × 0.1 μmのサイズの観察試料を切り出した。その手順を下図Cに記す。まず表面の赤く塗りつぶした部分をイオンで削り、(a)の右図の状態にする。その後、中央にできた板の部分の左右下を削り(b)、針で試料の上端を保持しつつ、切り離し、TEM試料を得る(c)。図DにFIB加工後のコランダムの表面の写真を記す。上部にある丸い穴がLA–ICP–MS分析でできたスポット(直径80 μm)であり、その下部にある四角い穴がFIB加工の穴である。非常に小さな加工痕しか残らないことがわかる。

 

図C FIBによるTEM試料作製の手順
図C FIBによるTEM試料作製の手順

 

 

図D FIB加工痕。中央部の丸い穴がLA-ICP-MS分析痕あ(直径80μm)、下部の四角い穴がFIB加工痕である
図D FIB加工痕。中央部の丸い穴が LA–ICP–MS分析痕(直径80μm)、下部の四角い穴が FIB加工痕である

 

2. TEMによる観察・分析結果

サンプルdiego10において、Be濃度が一番高く検出されたスポット、Beが検出されなかったスポットの2ヶ所の近傍でFIBを用いてTEMとして切り出し、TEM観察・分析を行った。両方の箇所のADF–STEM(環状暗視野走査型透過電子顕微鏡)像を図5に示す。ADF–STEM像はおおよそ平均質量数の軽い場所が暗いコントラスト、平均質量数の重い場所が明るいコントラストとして観察される像である。

 

図5–1 diego10のADF–STEM像。上像はBeが検出された箇所(x 100,000) 像の上部がコランダムの表面となる
図5–1 diego10のADF–STEM像。Beが検出された箇所(x 100,000)
像の上部がコランダムの表面となる

 

図5–2 diego10のADF–STEM像。下像はBe未検出の箇所(x 100,000) 像の上部がコランダムの表面となる
図5–2 diego10のADF–STEM像。Be未検出の箇所(x 100,000)
像の上部がコランダムの表面となる

 

Beが検出された箇所では周囲に対し白く小さなインクルージョン(周囲に対し白く見えるということは周囲の平均質量数よりその箇所の平均質量数が大きいことを示す)が観察されるのに対し、Beが未検出の箇所ではインクルージョンは見当たらないことがわかる。なお、表面に見える深さ200 nm程度の暗いコントラストはコランダムの表面を研磨したときにできた損傷由来のコントラストである。その他、Beが検出された部分では暗いコントラストのモヤのようなものが複数観察されている。
このインクルージョン(以下ナノインクルージョン)を拡大して観察したADF–STEM像を図6に示す。

 

図6 Beが検出された箇所に観察されるナノインクルージョンのADF–STEM像( x600,000)
図6 Beが検出された箇所に観察されるナノインクルージョンのADF–STEM像( x600,000)

 

このナノインクルージョンは長さ40 nm、幅10 nm程度であり、Shen et al. (2012)(文献5)で観察されたナノインクルージョンの観察結果と調和的である。このナノインクルージョンと、その外側部についてTEM付属のEDXを用いて化学分析を行った。結果を表3に示す。また、今回使用したEDXはBeの測定が行えないため、Beの濃度を得ることはできなかった。

 

表3 TEM–EDXによる分析結果 (GaはFBIのスパッタリング由来、Cuは試料を保持するホルダー由来の元素)
表3 TEM–EDXによる分析結果
(GaはFIBのスパッタリング由来、Cuは試料を保持するホルダー由来の元素)

 

ナノインクルージョン部分からはAl、Ti、Fe、Ga、Nb、Taが検出され、ナノインクルージョン外側からはAl、Feが検出されている。また、ナノインクルージョンとその周囲を元素マッピングした結果を図7に示す。

 

図7 ナノインクルージョンとその周辺の元素マッピング結果。左上から右にTEM像(明視野)、Al、Ti、左下から右にFe、Nb、Taをマッピングしたもの
図7 ナノインクルージョンとその周辺の元素マッピング結果。左上から右にTEM像(明視野)、Al、Ti、左下から右にFe、Nb、Taをマッピングしたもの

 

分析結果とマッピングを比較したところ、ナノインクルージョン部から測定されるAlとFeはナノインクルージョン外部にも含まれることから、ナノインクルージョンはTi、Nb、Ta、そしてわずかなFeを含む相である可能性が高い。また、分析結果から、TiとTaの比はおよそTi : Ta ≒ 4 : 1であることが明らかになった。
LA–ICP–MS分析の結果、BeとNb、Taの量には相関関係が存在し、Beが検出されない箇所からはNb、Taも検出されないことがわかっている。ナノインクルージョンにはNb、Taが存在し、ナノインクルージョン以外の場所からはNb、Taが検出されないことを合わせると、Beはナノインクルージョン中に含まれる元素であり、Beの濃度はナノインクルージョンの存在密度に比例するものと考えられる。また、LA–ICP–MSで見積もったBe、Nb、Taの比と併せると、Ti : Be : Nb : Ta ≒ 16 : 3 : 1 : 4という結果が得られた。
さらにこのナノインクルージョンの相を同定するため、TEMを用いて回折図形を取得した。結果を図8に示す。

 

図8 ナノインクルージョンの回折図形 (a)回折図形を得た箇所の明視野像 (b)得られた回折図形。強く光っているスポットはコランダムによるもの (c)『(b)』を拡大したもの。コランダムの回折スポットの間に別の回折スポットが観察される(矢印部)
図8 ナノインクルージョンの回折図形
(a) 回折図形を得た箇所の明視野像
(b) 得られた回折図形。強く光っているスポットはコランダムによるもの
(c)『 (b) 』を拡大したもの。コランダムの回折スポットの間に別の回折スポットが観察される(矢印部)

 

回折図形ではコランダムの回折スポットに加え、コランダム以外の回折スポットが観察される(図8 (c))。これはナノインクルージョン由来の回折スポットであり、コランダムとは別の相を持つ結晶であることを示す。しかし、今回の実験では1方向のみの回折図形しか得られなかったこと、観察試料が厚く明瞭なスポットが得られなかったため、構造解析は行えなかった。

 

◆結論

マダガスカル、ディエゴ産ブルーサファイアに含まれるBeの起源についてLA–ICP–MS、TEMを用いて検討を行った。LA–ICP–MS分析の結果、Beの濃度とNb、Taの濃度には他の玄武岩関係のブルーサファイアと同様の相関関係があり、それらのモル比はBe : Nb : Ta ≒ 3 : 1 : 4であることが新たにわかった。また、透過型電子顕微鏡観察の結果、Beが含まれる部分には幅10 nm、長さ40 nm程度のナノインクルージョンが存在することが判明し、Ti、Nb、Taが含まれており、Ti、Taのモル比はTi : Ta ≒ 4 : 1程度であることがわかった。回折像を調べた結果、コランダムとは相が異なる鉱物であることがわかったが、相は明らかにできなかった。LA–ICP–MSとTEMの結果を合わせると、ナノインクルージョンはBe、Ti、Nb、Taからなる鉱物であり、検出されるBeはナノインクルージョンの存在密度に比例すると考えられる。また、Be、Ti、Nb、Taのモル比はBe : Ti : Nb : Ta ≒ 3 : 16 : 1 : 4程度であり、本研究では構造を決定することはできなかったが、Shen et al. (2012)(文献5)の結果と併せて考慮すると、知られていない未知の鉱物である可能性がある。

 

◆文献

1.Emmett J.L., Scarrat K., McClure S.F., Moses T., Douthit T.R., Hughes R., Novak S., Shigley J.E., Wang W., Bordelon O., Kane R.E. (2013) Beryllium diffusion of Ruby and Sapphire. Gems & Gemology, 39(2), 84–135
2.Emmett, J.E., Wang W. (2007) The Corundum group, Memo to the Corundum Group: How much beryllium is too much in blue sapphire – the role of quantitative spectroscopy. 26 August 2007
3.Shen A., McClure S., Breeding C. M., Scarratt K., Wang W., Smith C., Shigley J. (2007) Beryllium in Corundum: The Consequences for Blue Sapphire. GIA Insider, Vol.9, Issue 2
4.Emori K., Kitawaki H., Okano M., (2014) Beryllium-Diffused Corundum in the Japanese Market, and Assessing the Natural vs. Diffused Origin of Beryllium in Sapphire. Journal of Gemmology, 34(2), 2014, 130–137
5.Shen A. and Wirth R. (2012) Beryllium-bearing nano-inclusions identified in untreated Madagascar sapphire. Gems and Gemology, 48(2), 150–151

平成30年度 宝石学会(日本)総会・講演会・見学会

PDFファイルはこちらから2018年7月PDFNo.45

平成30年度宝石学会(日本)総会・講演会が6月9日(土)富山大学理学部多目的ホール、懇親会が富山大学カフェアザミにて開催されました。また、6月10日(日)には見学会が実施されました。
富山大学は平成17年に旧富山大学、富山医科薬科大学、高岡短期大学が再編・統合、12年目を迎えた大型総合国立大学です。地域と世界に向かい開かれた大学として、生命科学、自然科学と人文社会科学を総合した特色ある国際水準の教育・研究を行い、人間尊重の精神を基本に高い使命感と創造力のある人材を育成し、地域と国際社会に貢献するとともに科学、芸術文化、人間社会と自然環境の調和的発展に寄与することを理念としています。

 

写真1 総会・講演会を行なった富山大学理学部
写真1 総会・講演会を行なった富山大学理学部

 

<総会・講演会参加報告>

色石鑑別部 藤田 直也

富山大学理学部多目的ホールにて開催された宝石学会(日本)総会・講演会では、2件の特別講演、18件の口頭発表が行われ、聴講者は60名でした。本会で発表された20件のタイトル、発表者(口頭発表者の名前の前に〇がつけてあります)、内容は以下の通りです。

 

○特別講演

特別講演は会場をお借りした富山大学都市デザイン学部地球システム科学科の教授2名に講演をしていただきました。

 

特別講演1:富山県の鉱物
清水 正明(富山大学都市デザイン学部地球システム科学科)
富山県に産出する代表的な鉱物及びその産地について、産状別にまとめての報告であった。富山県には約30の代表的な鉱物産地があり、産状としては(1)スカルン鉱床(Pb–Zn–Cu型、Fe型)、(2)鉱脈鉱床(Au–Ag–Cu型、Mo型等)、(3)その他の3つに分けられる。富山県の鉱物として指定されている十字石は黒部郡宇奈月町明日谷、深谷で採掘され、(3)その他に分類されるとのこと。また、越中は、かつて黄金郷(エルドラード)であり、富山藩分藩の際、加賀藩の飛び地として加賀藩の領地があった(松倉金山)。佐渡金山より金の採掘量が多い時期があり、17世紀後半までは加賀藩財政のドル箱だったそうだ。

 

写真2 特別講演中の清水正明教授
写真2 特別講演中の清水正明教授

 

特別講演2:ジルコンという鉱物から見た日本列島形成の歴史
大藤 茂(富山大学都市デザイン学部地球システム科学科)
日本の中・古生界は、古くから層位、古生物学的に研究されていたにもかかわらず、堆積盆と大陸の位置関係(後背地問題)について諸説ある。近年、後背地問題の解決に有効な手法となっているのが、砕屑性ジルコン年代測定である。ジルコンは晶出時に少量のウラン(U)を含み、鉛(Pb)を含まないため、ウラン(U)の放射改変を利用したU–Pb年代測定が可能である。LA–ICP–MSを使用し、短時間で多くのジルコン年代を求めることが可能である。本講演では砕屑性ジルコン年代分布に基づく、シルル~下部白亜系、西南日本の下部白亜系手取層群(内帯)及び物部川層群(外帯)との後背地解析結果を紹介し、西南日本外帯が内帯とアジア大陸東縁に対し、相対的に北上したことを示した。

 

写真3 特別講演中の大藤茂教授
写真3 特別講演中の大藤茂教授

 

 

写真4 一般講演会の様子
写真4 一般講演会の様子

 

 

○一般講演

1.TYPE Ⅱa天然ピンクダイヤモンドのフォトルミネッセンスピーク H3 535.8 nm
上杉 初、 〇斉藤 宏、小滝 達也(AGTジェムラボラトリー)
ピンクダイヤモンドとブラウンダイヤモンドの半値幅については2017年度宝石学会一般講演にて発表を行っていたが、データにオーバーラップする部分が多かった。本研究は昨年の研究をさらに進めた内容であった。
本研究では535.8 nmピークの強度について検討していた。535.8 nmピークは帰属不明ではあるが、ピンクダイヤモンドとブラウンダイヤモンドで検出されることが多い。高温に加熱すると、このピークは消失するが、比較的低温の加熱であれば残ることが多い。また、このピークは歪みによる影響はなく半値幅はほぼ一定である。また、HPHT処理を施したピンクダイヤモンドにも検出されることがある。
535.8 nmのピーク強度に関し、ダイヤモンドの2次ラマン線596 nmのピークとの強度比I535.8 nm/I596 nmを強度比較の指標として用いていた。また、本研究においてNVセンタの発光が強いサンプルについては除外したとのことである。結果、I535.8 nm/I596 nmが1.5未満のピンクダイヤモンドは30個中20個、1.5未満のブラウンダイヤモンドは30個中8個、その半分以上は2.0以上であったとの報告であった。
また、576 nmピークについても調査を行った。576 nmと535.8 nmのピークが両方存在するブラウンダイヤモンドはピーク強度が高く、I576 nm/I596 nm、I535.8 nm/I596 nm共に1.5以上であった。ピンクダイヤモンドは両方のピークが存在していても、強度が強いものと弱いものがあり、576 nmピークを検出したのはピンクダイヤモンドが30個中13個、ブラウンダイヤモンドが30個中25個であったと発表した。

 

2.LPHT処理がされたピンクCVD合成ダイヤモンド
〇北脇 裕士、江森 健太郎、久永 美生、山本 正博、岡野 誠(中央宝石研究所)
この研究内容についてはCGL通信のNo.43に掲載されている。

 

3.ルビー、スピネル、ガーネット結晶に添加したCr3+イオンからの蛍光の温度変化
○勝亦 徹、相沢 宏明、小室 修二(東洋大学理工学部)
温度計や圧力計等のセンサーとして合成結晶が用いられている。Cr3+を少量添加したルビー、スピネル、イットリウムアルミニウムガーネット、イットリウムオルソアルミネートの結晶は赤色の蛍光材料であり、これらの結晶から発する赤色の蛍光寿命や強度は温度や圧力によって変化するため、温度計のセンサーとして使用することができる。本研究では蛍光温度センサーとして使用する際の特徴について調査を行っていた。励起スペクトルと光源の発光スペクトルの差から、ほとんどの可視光が光源として利用可能であるという発表であった。しかし、光源の波長と蛍光の波長が近い場合、分解能が高い分光器、もしくは時間分解測定が必要となるであろうとのことである。

 

4.紫水晶とシトリンの色の起源について
荻原 成騎(東京大学大学院理学系地球惑星)
紫水晶、シトリンの色について具体的な鉄イオンの濃度と色の関係についてのデータが明らかにされていない。本研究は紫水晶とシトリンについて色の起源と考えられている全鉄、各イオンの種類と濃度の関係を明らかにすることを目的とする。ブラジル産紫水晶を用い、EPMAで微量元素測定をした後、紫外線による照射処理(800時間)、加熱実験(350℃、400℃、450℃)、γ線照射(16kGy)といった処理を施し、分光分析、XAFS(X線吸収微細構造)法を用いた分析を行っている。結果として紫水晶はFe(vi)が着色に関与していることが判明したとの報告であった。今後は単色の紫水晶について色変化前後のイオン状態を分析する予定だそうだ。

 

5.カンボジアで遭遇した合成ブルーサファイア
○林 政彦、安井 万奈、山崎 淳司(早稲田大学)
カンボジアの店で合成ブルーサファイアがブルージルコンとして売られていたとの報告で、その合成ブルーサファイアはベルヌイ法で合成されたものであったとのことである。

 

6.カンボジア・パイリン産のブルーサファイア
小川 日出丸(東京宝石科学アカデミー)
カンボジアのパイリンでコランダム採掘の現地調査を行った報告である。タイの宝石産地であるチャンタブリ~トラートに隣接地域であり、(1)国境地域の産地、(2)火山岩が露出する独立丘陵、(3)平野部の田園地帯、(4)南部の産地より流れ出る大小の河川、といった採掘場がある。(1)ではトラックや動力機器等、重機を用いた大規模採掘を行っていたが、多くの地区ではスコップや棒を使用した人力に頼った小規模なものが多く、手作業採掘は深度5 mまでの採掘のみ許可という規則があるため深い縦穴は見られなかったそうだ。また、(3)ではサファイアよりルビーが多く産出、(4)ではサファイアが多く産出していたとのこと。
元素分析を行った結果、パイリン産のブルーサファイアはFe2O3が0.303~1.099 wt%と、Fe2O3の含有量が非常に多いという特徴があった。また、Fe2O3が多いことと関係して、Fe3+、Fe2+–Fe3+、Fe3+–Fe3+による吸収が大きく、暗色の原因となる。また通常光と異常光方向の色調の差が大きいのが特徴である。インクルージョンは有色結晶のパイロクロアに微小インクルージョンが伴っているもの、クラウド状の色帯、鉄さびがしみ込んだ膜、二相インクルージョン、黄色の結晶等が存在した。1600℃で6時間、還元雰囲気で加熱実験を行った結果、赤外領域のOH吸収が消失した。クラウド状の色帯はクラウドがなくなり、鉄さびも消失した。二相インクルージョンの変化はあまり見られなかったが、黄色の結晶は白濁し、ヘイローを伴っていた。

 

7.Beを含む天然ブルーサファイアのナノインクルージョン
○江森 健太郎、北脇 裕士(中央宝石研究所)、三宅 亮(京大院理)
この研究内容については本号(P1〜P8)に掲載されている。

 

8.ナイジェリア産サファイアの微量元素比較
桂田 祐介(GIA Tokyo)
ナイジェリアでは、今世紀初頭に南東部マンビラ高原から濃色のブルーサファイアが産出、2014年ごろからは淡色で高品質のブルーサファイアが産出され、主にバンコクの宝石市場で注目されてきた。本発表は、ナイジェリア産サファイアは産地によってバナジウムと鉄の含有量が異なる、という内容であった。ジョス高地のカドゥナ州アンタンでは主にブルーサファイアとグリーンサファイアが産出され、バナジウムが多く、鉄が少ない傾向にある。アダマワ高地のゴンベ州フトゥクおよびクラニでは、イエローサファイア、バイカラーサファイアが産出され、ブルーサファイアの産出量は少なく、色が暗い傾向にある。この産地のサファイアはバナジウムが少なく、鉄が多い傾向にある。また、マンビラ高地で産出するサファイアは微量元素の分布が広いが、バナジウムの量は少ない傾向にあるとの報告であった。

 

9.ゴールドシーンサファイアの化学的特徴
○三浦 真、桂田 祐介、猿渡 和子(GIA Tokyo)
ゴールドシーンサファイアは、ケニア北東部が唯一の産地とされており、流通量が少ないと言われている。本研究では研磨石18石、原石5石の計23石について検査を行った結果が報告された。
色については「青色と黄色が混在するもの」「黄色単色のもの」「インクルージョンで色が不明瞭なもの」が存在した。主たるインクルージョンはヘマタイト、イルメナイトの針状結晶があり、これがシーンを形成する原因となっている。他、ヘマタイト、マグネタイト、マスコバイト、パラゴナイトがインクルージョンとして存在し、ゲーサイトとヘマタイトが共生する結晶も存在した。
ケニアのコランダム産地はアルカリ玄武岩起源のLake Turkanaとサイヤナイト起源のGraba Tulaがあり、ゴールドシーンサファイアはGraba Tulaの成分に近い。鉄の量が多く、紫外可視分光スペクトルが非玄武岩型になるものがサイヤナイト起源の特徴であり、産地鑑別の重要な手がかりとなるとの報告であった。

 

10.トラピッチェパターンの形成過程
○川崎 雅之(狭山市)、長瀬 敏郎(東北大・学術博物館)
トラピッチェ構造を持つ宝石にはエメラルド、コランダム、ガーネット、トルマリン、スピネル、水晶、アンダリュサイト(紅柱石)―キャストライト(十字石・空晶石)などがある。トラピッチェ構造は(a)セクター境界に沿って異種鉱物が樹枝状に配列しているものと、(b)柱面から垂線方向に結晶自身が成長、または異種鉱物・欠陥が集中して柱状模様を示すもの、の2つに大別される。(a)は高飽和条件下での樹枝状成長とそれに続く低飽和条件下での多面体成長の二段階を経ていると説明されているが、(b)については十分な検討がされておらず、本発表は(b)の構造を示すトラピッチェ・エメラルドについて形成過程の検討についての発表であった。小枝成長と成長面の方位は垂直であり、同時成長したと考えられ、変成岩中の成長であり、また成長に際して余剰なスペースが存在しない為、樹枝状結晶は形成されない。柱面セクターにはインクルージョンを起源として成長方向に伸びた細かい模様(第二種不純物縞)が存在し、不純物が継続的に取り込まれることでトラピッチェパターンが形成されたと発表者は考察している。なお、インクルージョンはアルバイト、クォーツ、パイライト、炭酸カルシウムだったらしい。

 

11.570 nm付近の吸収によるガーネットの様々な変色性とブルーガーネット
○中嶋 彩乃(株式会社彩)、古屋 正貴(日独宝石研究所)
1998年にマダガスカル南部のBekelyから発見されたパイロープ/スペサルティンガーネット、いわゆる「マラヤガーネット」は帯緑青~青緑色から赤色に変色し、分光はV3+による575 nmの吸収が確認される。スリランカ産のガーネットで紫色から赤色に弱く変色するものは、分光はCrの影響が強く、572 nmに吸収が存在する。南アフリカ、スリランカで産出するガーネットで帯緑褐色から赤色になるものは、570 nmに弱い吸収とMnによる460 nm、483 nmの吸収が存在する。タンザニアやケニアのUmba渓谷等から産出するロードライトガーネットで“ピーチカラー”と呼ばれているものは、褐色からピンクに極めて弱く変色するが、Fe2+による570 nmの吸収をはじめ、506 nm、526 nm、696nmの吸収が存在し、Mn2+による青色域の吸収も弱い。青色域の透過が多いため570–506 nm付近の吸収の谷があり、変色性があるとされている。Bekely産のガーネットはVを多く含むため、紫~青色域のみ透過するスペクトルになるものがあり、青色から赤色に変化するガーネットになるとの報告であった。

 

12.アクワマリンの加熱処理について
○藤原 知子、岩松 利香、難波 里恵(東京宝石科学アカデミー)
アクワマリンの色因は鉄のイオンであり、その大半は加熱処理により緑味や黄色味を取り除いて青色に変化させている。この加熱処理は、コランダムのような高温の加熱処理ではなく、300〜500℃程度の低温で加熱されているとされており、現状では処理の看破は難しいとされている。本研究では、5つの産地(ブラジル、ナイジェリア、ナミビア、パキスタン、マダガスカル)の原石を集め、還元雰囲気で加熱処理前後の分光データを比較していた。
加熱処理前後で色の変化が見られた石について分光分析を行ったところ、427 nm、370 nmの吸収は弱くなり、820 nmの吸収が強くなった。赤外領域では水に関する吸収7306 cm−1、7105 cm−1、5270 cm−1、5441 cm−1が弱くなる傾向にある。また、フォトルミネッセンス分析を行ったところ、加熱後に帰属不明の581 nmのピークが出現するものがあり、560〜650 nmの部分が加熱前に比べ盛り上がることから、フォトルミネッセンス分析は加熱の痕跡を見つける上でひとつの手掛かりになるのではないかという発表であった。

 

13.近代に生産された特殊な外観を呈するガラスについて
福田 千紘(ジェムリサーチジャパン株式会社)
19世紀~20世紀に作られていた特殊な外観を持つガラスがあり、それらについての化学組成と特徴についての報告であった。
サフィレットは19世紀チェコで製造されていたが、いったん途絶え、20世紀に入ってから旧西ドイツで復刻された。復刻されたものはサフィリーンとも呼ばれ区別がされている。色は青色透明、フォイルバックはあるものとないものがある。基本的にカットではなく鋳造されており、強い自然光や人工光で褐色にみえるので一見変色性に見えるという特徴がある。化学組成はSi、K、Pbが多くFe、Cuを含む。B、 Alは少ない。Alは耐食性を付与するために添加するのだが、当時は入れていなかった。褐色の色因は銅のコロイドではないかと推測される。フォイルバックは、表側は銀、裏側は真鍮の粉末と鉛を混ぜたものであった。
アイリスガラスはアイリスクォーツを模して作られた。無色のガラスに赤、青、緑の各色ガラスが混入している。フォイルバックはあるものとないものがあり、鋳造で作られている。化学組成はSi、K、Pbが多くTi、Cu、Asも含む。BとAlは少ない。青、緑の色因はFe、Cuであり、橙色の色因はSeによるものであった。赤色部分の分光結果は金コロイドのプラズモン吸収と一致した。EDSでは検出しなかったが、LIBSで10ppm程度の金を検出し、金のコロイドによる着色ではないかという考察であった。
ドラゴンブレスは赤~オレンジ色を呈するガラス中に不規則な青色の干渉色を呈する。表層と下層でガラスの性質が違い、オレンジのガラスの上に無色のガラスが貼り合わせてあり、間に皮膜がある。この皮膜は火炎によって発生する変質層と思われる。フォイルバックもされている。オレンジの下層はPbが多くSiが少なく、無色の上層はPbが少なくSiが多いという特徴がある。他に含まれている元素はH、B、Ti、Fe、Cu、Zn、As、Seであった。2種類の異なるガラスを用いることで青色の干渉が起こっているのではないかと考察していた。

 

14.教材としての宝石活用の試み 真珠を例として
嶽本 あゆみ、田邊 俊朗(沖縄工業高等専門学校)
沖縄工業高等専門学校生物資源工業科は沖縄の生物資源の産業化を目標の一つにしている。主に食品や有用微生物の探索がおこなわれている。生物スケッチの基礎を学ぶ実験の授業があるが、そこで真珠貝を用いた。本発表は真珠貝を用いた解剖実験の実施報告であり、男子と女子で真珠に対する興味の違いを明らかにした。

 

15.マーケットに流通している有核のアコヤ養殖真珠のサイズについての一考察
渥美 郁男(東京宝石科学アカデミー)
真珠振興会では日本で養殖しているアコヤ真珠は2~11mmと公表している。本発表は有核のアコヤ真珠の最小サイズ、最大サイズ、養殖地についての調査報告であった。なお、ケシ真珠、ジェル核は除外している。三重県の神明と長崎県の五島列島では大粒のアコヤ真珠が養殖されている。アコヤ真珠の有核で最小のものは日本産ではなくベトナム産であり、1.7mmのものが存在した。ベトナムのどこで養殖されているかは不明である。最大のアコヤ真珠は五島列島の奈留島で養殖されている14mmの真珠であり、自生の12cmぐらいあるアコヤ貝を18~24ヶ月かけて養殖しているそうだ。

 

16.例外的にみられた干渉色と輝度の関係性について
○南條 沙也香、鈴木 千代子、小松 博(真珠科学研究所)
テリが良いのに干渉色が弱い真珠についての調査報告であった。そのような真珠の断面を観察したところ、結晶層の乱れは認められなかった。弱い干渉色の原因として考えられるのは(1)結晶層の厚さが均一ではないこと、(2)0.3μm未満の結晶層があること、(3)0.5μm以上の結晶層があること、の3点が挙げられる。(1)に関しては干渉色がお互い打ち消しあってしまうことが干渉色の弱さの原因であり、(2)(3)に関しては2次の干渉色が可視光外になってしまい、干渉の次数が高くなるので干渉色が弱くなることが判明した。

 

17.ゴールド系シロチョウ真珠に及ぼす稜柱層の影響
○大巻 裕一(㈱桑山)、矢崎 純子、小松 宏(真珠科学研究所)
本研究では、ゴールド系シロチョウ真珠の一部が褪色してしまう原因について考察していた。 (1)色素の変化による褪色、(2)亀裂が入ることで見た目の色が変わって見える、の2点が原因として考えられる。日光に40日あてる褪色実験をおこなったが、色素の褪色は認められなかった。また、経験的に褪色が起こりやすいと考えられる緑味が強く、暗い色の珠を切断して観察した。これらの珠のうちのいくつかは稜柱層が大きく、大小さまざまな亀裂が稜柱層に入っており、これが褪色の原因ではないかと推察していた。しかし稜柱層が入っているかどうかは軟X線では判断が難しく、対策としては稜柱層、混在層が含まれないようなピースの取り方を検討する必要があるとのことであった。また、養殖所と協力し、ピース貝とピースを取る箇所、生成真珠の相関など、研究を進める必要があるとのことである。

 

18.サンゴパールとその色の起源
猿渡 和子(GIA Tokyo)
サンゴパールはピンクサンゴを核にして養殖されたアコヤ真珠で、愛媛県宇和島市の松本真珠で養殖されている。核は高知県産のCorallium elatius(モモイロサンゴ)を用いていると推測される。本研究ではサンゴパールのピンク色がサンゴの色を反映したものなのかどうかについて考察していた。穴口に色だまりはなく、真珠層の厚みは0.12–0.40ミリであった。真珠層が厚いと真珠全体のピンク色が淡く、真珠層が薄いとピンク色が濃く観察される。反射型紫外可視分光光度計で反射率を測定したところ、真珠層が薄い試料の反射率はピンクサンゴ核の反射率に近く、低めの反射率を示したのに対し、真珠層が厚い試料の反射率はより高くなる傾向を示した。また、モモイロサンゴの色は、カロテノイド系色素のカンタキサンチンが原因といわれており、ラマン分光分析を行うと1129cm−1、1517cm−1の炭素結合のピークが出てくる。今回の真珠にもそのピークが弱く認められた。以上の結果より、サンゴパールのピンク色はピンクサンゴ核の色を反映している可能性が高いことを示した。

 

○懇親会

6月9日(土)、総会・講演会終了後、富山大学構内カフェアザミにて、懇親会が行われました。47名が参加し、会員同士の交流や、同日行われた一般講演・特別講演の発表内容について質疑応答や討論等が行われ、有意義な時間を過ごしました。

 

写真5 懇親会の様子
写真5 懇親会の様子

 

 

<見学会参加報告>

 

教育部 野田 真帆

6月10日(日)、総会・講演会の翌日に見学会が実施され、 (1)富山県立山カルデラ砂防博物館、(2)魚津埋没林博物館、(3)ルビカ工業株式会社、合計3件の見学を行い、41名が参加しました。

 

(1)富山県立山カルデラ砂防博物館
カルデラとはポルトガル語で「大鍋」を意味する単語で、立山カルデラは火山活動と侵食作用で形成された日本最大規模の崩壊地形として知られています。この土地に住む人々が歩んできた道は「土砂との闘い<砂防>の歴史」そのものであり、当博物館はテーマ展示(大型地形模型、立山砂防のトロッコ列車を実車展示したもの等)を通して地質や、人々の自然との向き合い方について展示しています。
1858(安政5)年、跡津川断層の活動により推定M7.3~7.6の安政飛越地震が発生し、大鳶山と小鳶山が崩れ、数億立方メートルの土砂が立山カルデラとその出口付近に堆積し、天然のダムが形成されました。この天然ダムは2週間後と2か月後の2回決壊しますが、勢いを増した大土石流が下流部に到達し甚大な被害をもたらしました(安政の大災害)。その後も度重なる常願寺川の氾濫に人々は苦しみました。1906(明治39)年、富山県は砂防工事に着手し、1926年(大正15)年より国に引き継がれています。自然との共存が本来いかに困難で、試練の連続であるかを物語る展示は防災教育にも役立つものだと再認識しました。

 

写真6 立山カルデラ砂防博物館
写真6 立山カルデラ砂防博物館

 

 

写真7 同博物館で地形を確認する見学者
写真7 同博物館内で地形を確認する見学者

 

 

(2)魚津埋没林博物館
同博物館には特別天然記念物である埋没林が展示されています。埋没林とは「埋まった林」を意味し、魚津埋没林は約2000年〜1500年前、弥生時代から古墳時代の頃にできたと考えられています。魚津埋没林は、湧水によりスギ林が湿地化し、川の洪水によって埋まってできたと考えられています。埋没林で見られる樹木はほとんどがスギの木で、他にミズキ、トチノキなど50種類以上の植物が発見されています。立木の根元部分は埋まったことで原形を維持していますが、幹は地上に出ていたため腐敗してしまいました。根のまわりが約2000年も経った今も保存されているのは地下水による影響であると考えられているようです。埋没林水中展示は今でも地下120mからポンプアップされた片貝川の伏流水を流し込み、常に水が入れ替わるように整備されています。また、自然の湧水も利用するため、底張りはしていません。
乾燥展示館に展示されている埋没林は1930(昭和5)年の魚津漁港工事の際に発見されたものです。
埋没林展示以外に、同博物館エリアでは蜃気楼(海の上に冷たい空気と暖かい空気の層ができ、その間で光が屈折して遠くのものが伸長したり反転したりする現象)の観測が可能で(気候・気温状況による)、関連する展示がされています。

 

写真8 埋没林水中展示
写真8 埋没林水中展示

 

写真9 埋没林乾燥展示
写真9 埋没林乾燥展示

 

(3)ルビカ工業株式会社 <株式会社 信光社関連企業> 見学
見学会では主にルビカ工業株式会社工場内での合成サファイア結晶の製造を見せていただきました。
ルビカ工業株式会社の名前は「ルビー」と「カーバイド」を合わせたもので、日本カーバイド工業株式会社との合併で同社は1980(昭和55年11月)に設立されました。
参加者一行はまず信光社の沿革、合成コランダムの製造方法、技術革新について説明を受け、後に工場内へ案内していただきました。

写真10 会議室で説明を受ける様子
写真10 会議室で説明を受ける様子

 

 

写真11 工場見学の様子(写真提供:ルビカ工業株式会社)
写真11 工場見学の様子(写真提供:ルビカ工業株式会社)

 

 

工場内は撮影禁止でしたが、多くの合成サファイア製造装置が立ち並び、工場内は合成装置の発する熱で真夏のような暑さでした。夏場の工場内は50度にもなるそうで、高品質サファイア結晶完成品の涼しげなまでの透明度の高さからは想像もつかない大変な仕事を見てとることができました。技術の向上により現在は大型の結晶製造も可能です。

 

写真12–1 ルビカ工業で制作された合成コランダムの結晶 
写真12–1 ルビカ工業で制作された合成コランダムの結晶

 

 

写真12–2 ルビカ工業で制作された合成コランダムの結晶 
写真12–2 ルビカ工業で制作された合成コランダムの結晶

 

同社製造品は工業用品から装飾品、文房具やノベルティーグッズ等と幅広く用いられています。著名な高級ブランド時計の窓材受注も多いとのことで、日本の技術力の高さが評価されていることの好例として印象的でした。同社の製造現場最前線に多くの参加者が感動し興味深く解説を受けていました。
合成コランダムの結晶育成ではベルヌイ法(原料材料がハンマーで砕かれ、その粉末が上部から降下する際に水素ガスや酸素ガスを用いて溶融し、下部に用意される種結晶上に成長される方法)が量産に向いていると広く知られておりますが、上述のように大型結晶で尚且つ高純度の成長となると独自の技術開発が必要になります。
同社で一行は到着時より温かく迎えられ、多くの質問にもお答えいただきました。ここに改めて謝意を表します。◆

 

写真13 ルビカ工業、工場前にて集合写真
写真13 ルビカ工業、工場前にて集合写真