「38」カテゴリーアーカイブ

Seoul Jewelry Industry Support Centerを訪問して

2017年5月No.38

リサーチ室 北脇  裕士

去る 2017年2月1日(水)~3日(金)に韓国ソウル市のSeoul Jewelry Industry Support Center(SJC)を訪問し、最近の合成ダイヤモンドの現状と鑑別技術の話題を中心に情報交換を行いました。以下に概要をご報告致します。

ソウル市のシンボルともいえるソウルタワーの夜景
ソウル市のシンボルともいえるソウルタワーの夜景
Seoul Jewelry Industry Support Center(SJC)とは

Seoul Jewelry Industry Support Center(SJC)は2015年6月に開設されたソウル市のジュエリー産業を育成するための総合支援施設です。(https://www.seouljewelry.or.kr/eng/main/main.do)
SJCはソウル市のほぼ中心に位置するチョンノ3街(鍾路3丁目)にあります。この地は韓国ジュエリー産業のメッカであり、製造から販売までのジュエリー関連製品に関わる企業が集積しています。また、周辺には世界文化遺産に登録されている故宮(景福宮、昌徳宮)や宗廟(王と王妃の位牌を祀った儒教の祀堂)、韓国の伝統的家屋である韓屋(ハノク)の密集する地区である北村韓国村があり、朝鮮時代から近代までの歴史的な趣のある文化的地域です。SJCはまさに宗廟の外壁に面した閑静な場所に立てられています。

Seoul Jewelry Industry Support Center周辺 の地図
Seoul Jewelry Industry Support Center周辺 の地図
宿泊したホテルからのソウル市の眺望。遠くにソウルタワーが見える
宿泊したホテルからのソウル市の眺望。遠くにソウルタワーが見える
世界文化遺産に指定されている昌徳宮の入り口。チマチョゴリを纏った観光客
世界文化遺産に指定されている昌徳宮の入り口。チマチョゴリを纏った観光客

すでにオープンしているSJCの第1館は、リサーチ部門を担当するSJC研究所、事務局、ジュエリーライブラリーが併設しています。そして、およそ50m南に今年の6月28日に開館予定の第2館が現在建設中です。第2館では共同作業空間、体験館、カフェテリアおよび展示場として活用される予定です。
SJCはソウル市から経営を委託された財団法人ソウルジュエリー産業振興財団が運営しています。ソウル市で毎年ジュエリー産業に関わる予算が計上され、財団による実質上のサポートが行われています。

Seoul Jewelry Industry Support Centerの職員の皆さんとセンターの玄関にて
Seoul Jewelry Industry Support Centerの職員の皆さんとセンターの玄関にて

SJC第1館の1階には事務局があります。事務局では新進企業の支援、ジュエリーフェアや工藝技術大会の主催、ウェブドラマの制作やジュエリー関連の観光コースの開発などを行っています。また、加工、教育、鑑別などの技能者を登録してデータベース化し、各企業との人材マッチングなどの支援も行っています。
2階はジュエリー関連の雑誌や書籍および研究論文が収められており、一般の方々が自由に閲覧できるようになっています。

Seoul Jewelry Industry Support Centerの2階では一般の方々がジュエリー関連の書籍を閲覧できる
Seoul Jewelry Industry Support Centerの2階では一般の方々がジュエリー関連の書籍を閲覧できる

そして、地階にはSJC研究所があります。ここには宝石鑑別に使用される先端的な分析機器がそろえられており、各種分析サポートが行われています。特に微量成分の分析に使用されるLA–LIBSはApplied Spectra製の最新鋭の機種でICP–MSとも組み合わされています。これらはコランダムのBe処理の看破や金合金の定量などに有効利用されており、その成果は2016年6月の宝石学会(日本)でも発表されています。
SJC研究所での依頼分析は無償で受け付けられていますが、鑑別書は発行されずに分析結果の提供のみを行っています。したがって、依頼者はエンドユーザーではなく、鑑別機関や卸売業者が多いようです。その他に産業モニタリング(貴金属の含有率やダイヤモンド・グレーディングの現状把握)、各種情報セミナーの開催、海外からの専門家の招聘および技術交流などの業務を担当しています。また、後述するダイヤモンドの団体認定制度の実務的なサポートも行っています。

SJC研究所に設置されているICP–MS(左)とLA–LIBS(右)
SJC研究所に設置されているICP–MS(左)とLA–LIBS(右)
現在建設中のSJC第2館。韓国の伝統的な木造建築のデザイン。
現在建設中のSJC第2館。韓国の伝統的な木造建築のデザイン。
SJC研究所のダイヤモンド鑑別機器

韓国のジュエリー業界においてもこの1–2年メレサイズの合成ダイヤモンドの流入が深刻となり、その対応が急務となっていました。SJC研究所ではWolgok Jewelry Foundation※( http://w-jewel.or.kr/index.php)からDTC製のDiamondSure™、DiamondPlus™、DiamondView™、PhosView™、そしてGLIS–3000などのダイヤモンドの判別機器の寄贈を受け、合成ダイヤモンドの鑑別体制を整えてきました。さらに、GIAからDiamond–Check、アントワープのAWDC(Antwerp World Diamond  Center)からメレダイヤモンドの自動選別機M–Screen Plusの貸与を受けており、CGLからもCGL–Diamond Kensa を2台提供させていただいております。
これらの分析器機のすべての設置は2017年の1月に終了し、2月からはダイヤモンドの分析依頼を始めています。依頼を受けたルースのメレダイヤモンドのパーセルのうち、最大で60%が合成であったこともあるそうで、SJC研究所におけるダイヤモンドの分析サポートは韓国のジュエリー産業に大いに貢献していると思われます。

DTC製のダイヤモンド判別機器。左から PhosViewTM、 DiamondPlusTM、DiamondSureTM、DiamondViewTM
DTC製のダイヤモンド判別機器。左から PhosViewTM、
DiamondPlusTM、DiamondSureTM、DiamondViewTM
AWDCから寄贈されたM–Screen Plus
AWDCから寄贈されたM–Screen Plus
FTIRの機能でダイヤモンドのタイプを粗選別するGIAのDiamond–Check
FTIRの機能でダイヤモンドのタイプを粗選別するGIAのDiamond–Check
燐光で無色の合成ダイヤモンドを選別するGLIS–3000
燐光で無色の合成ダイヤモンドを選別するGLIS–3000

※Wolgok Jewelry Foundationは、株式会社LeeGoldの創業者として50年以上韓国のジュエリー産業に従事してきたイジェホLee Jae Ho氏が200億ウォンの私財を投じて2009年に設立した公益法人。韓国のジュエリー産業の健全な発展に寄与すべく、傘下にWolgok Jewelry Research Centerを有し、定期的に業況調査を行っている。

ダイヤモンド団体認定制度

韓国では消費者からの信頼を得るための正しいダイヤモンド・グレーディング文化の構築に向けての活動が長年にわたって行われてきており、その一環として2016年11月より「ダイヤモンド団体認定制度」が発足しています。この制度は“研磨されたダイヤモンドの鑑定”に関する韓国標準規格(KS D 2371)を基にしており、ダイヤモンド・グレーディングすべての平準化を目指しています。その最初の試みとして、日本と同様にマスターストーンを統一してのカラー・グレードの平準化が進められています。この制度の主宰は社団法人韓国貴金属宝石団体長協議会です。同協議会は材料、貴金属、研磨、加工、製造、鑑別、デザインなどの韓国のジュエリー産業に関わる10以上の団体から構成されています。カラーグレーディングのマスターストーンの選定を含む認定制度の実務は同協議会の傘下としてダイヤモンド鑑定団体認定委員会が組織され運営されています。このダイヤモンド団体認定制度の適正な管理・運営の活動の一環として2016年9月に社団法人韓国貴金属宝石団体長協議会会長Kim Jong–Mok氏、ダイヤモンド鑑定団体認定委員会委員長Cho Ki–Sun氏、Wolgok Jewelry Research Center所長Ohn Hyun–Sung氏、Seoul Jewelry Industry Support CenterのLee Bo–Hyun氏の4名がAGLを表敬訪問され、一足早く実施されてきた日本のマスターストーン制度について視察されています。
韓国のダイヤモンド・マスターストーンはGIA基準の12石(E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、S、Z)がそろえられており、その原器はSJCに保管されています。現在、この団体認定制度に加盟している鑑別機関は5社あり、加盟機関のグレーディング・レポートはデザインが統一されています。そのため書面を見ればすぐに認定制度によるレポートであることがわかります。この認定制度を推奨している販売業者はすでに10社以上あり、韓国のジュエリー産業で根ざしていくことが期待されています。◆

HRD アントワープダイヤモンドセミナー報告

2017年5月No.38

リサーチ室 北脇  裕士

『合成ダイヤモンドvs.天然ダイヤモンド』

去る2017年1月25日(水)、東京ビッグサイトにおける第28回国際宝飾展(IJT 2017)の開催期間に合わせてHRD Antwerpと株式会社APの主催によるダイヤモンドセミナー『合成ダイヤモンドVS.天然ダイヤモンド』が行われました。昨年に引き続いてのセミナー開催ですが、メレサイズの合成ダイヤモンドは業界内での最大の懸案事項であり、定員100名の会場が満員となる盛況ぶりでした。

第28回国際宝飾展の会場となった東京ビッグサイト
第28回国際宝飾展の会場となった東京ビッグサイト
第28回国際宝飾展の案内板
第28回国際宝飾展の案内板

このセミナーでは合成ダイヤモンドの製造技術に関する解説、HPHT合成法とCVD合成法のそれぞれの特徴、天然と合成ダイヤモンドの識別における最新のテクノロジーに関するプレゼンテーションが行われました。そして、メレサイズの合成ダイヤモンドのスクリーニング(粗選別)用にHRDで開発され、新たにバージョンアップされたM–SCREEN+が日本国内で初めて紹介されました。
以下にプレゼンテーションの内容を詳しくご紹介いたします。

HRD Antwerp

HRD(Hoge Raad voor Diamant)は、ベルギー・アントワープに本部を置く世界最大のダイヤモンド研究機関で、AWDC(アントワープ・ワールド・ダイヤモンド・センター)によって運営されています。世界で最も高い水準と信頼性をもつ鑑定機関の一つとして知られており、ダイヤモンド鑑別の分野において最先端の技術を有しています。また、世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)および国際ダイヤモンド製造者協会(IDMA)の2大機関によって承認され、国際ダイヤモンド審議会(IDC)の基準に準拠している国際的研究機関でもあります。さらにHRDはダイヤモンドのグレーディングのみならず、教育、器材、研究の各部門を有しています。
今回の講師はHRDアントワープのチーフエデュケーションオフィサーのKatrien De Corte博士です。彼女はベルギーのGhent大学で宝石学の客員教授もされている第一線の宝石学者でもあります。国際宝石学会(IGC)などでも研究発表をされており、世界各国の業界関係者にダイヤモンドに関する講演を数多く提供されています。今回の講演でも非常にわかりやすくプレゼンテーションを行っていただきました。

講師のKatrien De Corte博士
講師のKatrien De Corte博士
講演会の様子
講演会の様子
後援・協力

本セミナーは駐日ベルギー大使館が後援していました。そしてAntwerp World Diamond Centre(AWDC)、時計美術宝飾新聞社および弊社が協力させていただきました。ベルギー大使館からは一等書記官のBent Van Tassel氏が会場に来られ、セミナー開始前に挨拶をされました。同氏のスピーチとCorte博士の講演は英語で話されるため、その通訳をGem–Aに留学経験があり、宝石学に造詣の深い徳山薫氏が勤めてくださいました。

挨拶される駐日ベルギー大使館の一等書記官 Bent Van Tassel氏
挨拶される駐日ベルギー大使館の一等書記官
Bent Van Tassel氏
1. ホットトピック

2003年に発行されたWIREDという雑誌ではダイヤモンドのジュエリーを身にまとった女性モデルの写真が表紙を飾っています。これらのダイヤモンドはすべて合成ダイヤモンドであり、しかも非常に安価であるということで世の中に衝撃を与えました。
合成ダイヤモンドの需要は年々増加しています。例えば、米国では2015年から2016年までの1年間で合成ダイヤモンドの販売は230%増加しています。

2. 合成ダイヤモンドとは・・・

HRDではIDCの用語使用に準拠しており、合成ダイヤモンドに対してLaboratory Grown Diamondという用語を使用しています。英語では他にSynthetic Diamond, Laboratory–Created,  Lab–grownなどと表記されますが、すべて同じ意味です。
合成ダイヤモンドは、化学組成および結晶構造が天然ダイヤモンドとまったく同じであり、光学特性および物理特性にも違いは見られません。合成ダイヤモンドはキュービックジルコニアやモアッサナイトのように単に見かけが似ているだけの類似石とは異なります。
天然ダイヤモンドも合成ダイヤモンドも炭素(C)だけでできており、熱伝導性はきわめて高く、屈折率は2.417、ファイアの源となる分散度は0.044でこれらの特性値すべてが同じです。いっぽう、類似石の代表であるキュービックジルコニアは、化学組成がZrO2です。熱伝導性は低く、屈折率は2.16、分散度は0.060でダイヤモンドとは異なります。モアッサナイトは、化学組成がSiCで、熱伝導性は高いですがその他の諸特性はダイヤモンドと完全に異なります。
天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドには違いもあります。天然ダイヤモンドは地下の高温高圧下で何億年という長い年月をかけて成長し、複雑な環境の変化をこうむります。いっぽう、合成ダイヤモンドはラボという閉鎖された一様な環境下で短い時間で育成されます。その結果、天然ダイヤモンドには多くの窒素不純物を含みますが、合成ではその量はごくわずかです。
宝石品質の合成ダイヤモンドを製造する方法は主に2種類あります。HPHT合成法とCVD合成法です。そして合成ダイヤモンドには製造したままのものと、成長後に処理をしたものがあります。それではそれぞれの合成方法について説明します。

3. 合成方法

3–1 HPHT合成
HPHT(高温高圧)法は、地球深部で天然ダイヤモンドができる環境を人工的に再現したものです。非常に高い温度と圧力を与えて原料となる炭素をダイヤモンドの結晶へと成長させます。グラファイト等の炭素物質を鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の金属溶媒を用いて溶解し、温度差を利用してダイヤモンドを結晶化させます。

3–2 CVD合成
CVD合成法は、Chemical Vapor Depositionの略です。化学気相成長法(化学蒸着法)と呼ばれるものです。高温低圧下でメタンガスなどの炭素を主成分とするガスからダイヤモンドを作ります。種結晶となるスライスしたダイヤモンドの結晶の上に炭素原子を降らせて沈積させていきます。

3–3 合成ダイヤモンドの生産量
宝飾用合成ダイヤモンドの生産量についての公式な発表はありません。しかし、1年間でHPHT合成ダイヤモンドは130–300万ct、CVD法合成ダイヤモンドは100–120万ct生産されていると推定されており、天然ダイヤモンドの生産量の2–3%程度と見積もられています。

4. 合成ダイヤモンドの原石

HPHT合成ダイヤモンドもCVD合成ダイヤモンドも原石の状態であればすぐに識別することができます。それは結晶原石の形態が天然とは異なるからです。HPHT合成法では種結晶を用いて金属溶媒中で成長させるため、六–八面体を主体とした集形となります。この形状は天然では極めて稀です。ただ、生産量は非常に少ないものの台湾の会社で天然と同様の八面体の形状のものも製造しているようです。
また、CVD合成法では種結晶の上に炭素原子を沈積させて一方向に層成長させるため、特徴的な板状の形態となります。

5. 研磨された合成ダイヤモンド

現在、HPHT合成法では最大で10.02ct、 E、VS1のものができています。CVD合成法でも3ct 以上のものが確認されています。いずれの製法においても多くの製造者が存在し、その品質は高品質から低品質まで多岐に渡ります。
これらの合成ダイヤモンドが宝飾用にカット・研磨された後では見た目では判らないため、常に天然か合成かの疑問を持つことが必要となります。今後は天然ダイヤモンドの上に薄くCVD合成ダイヤモンドをコーティングしたようなものも出現する可能性がありますからさらに注意が必要です。

6. 研磨された合成ダイヤモンドの鑑別

カット・研磨された合成ダイヤモンドの鑑別は容易ではありません。ルーペや顕微鏡などの標準的な鑑別器材では識別が困難で、高度な分析器機や洗練されたラボの技術が必要となります。鑑別には時間もかかります。ラボで受け付けて即日でお返しするというわけには行きません。
ラボで使用する代表的な分析器機として、紫外-可視分光光度計、FTIR、フォトルミネッセンス(PL)を測定するラマン分光装置、紫外線ルミネッセンス像で結晶成長を観察するDiamondView™などがあります。これらの分析装置を有効に活用するためには多くの蓄積されたデータベースとそれらを解析する能力が必要となります。ただ、分析機器がたくさん揃っていれば良いというわけではありません。
一例をあげます。2015年9月、3.09ctのラウンドブリリアントカットが施されたダイヤモンドがHRDに供せられました。色はほぼ無色( Iカラー)でクラリティはVS2でした。紫外線蛍光は無く、FTIR分析ではⅡ型と分類されました。交差偏光下では天然のⅡ型ダイヤモンドに一般的なタタミパターンに類似する歪複屈折が見られました。しかし、フォトルミネッセンス分析では736.6nmと736.9nmの明瞭なダブレット(SiV)が確認され、DiamondView™の観察ではオレンジ色の蛍光色とCVD合成特有の層状の成長構造が確認されました。
別の例はM–Screen で見つけた0.005ctの非常に小粒のダイヤモンドです。これはFTIRでわずかなボロンを含むⅡb型であることが判りましたが、DiamondView™では特別なパターンは見られませんでした。PL分析ではわずかなSiVの欠陥が見られました。さらに電子顕微鏡を用いたカソードルミネッセンス(CL)分析で特徴的な六–八面体の成長構造がみられ、HPHT合成と結論付けられました。

7. グレーディングレポート

HRDではIDCの規則に従い、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドのグレーディングレポートが一目でわかるように色分けしています。合成ダイヤモンドは黄色カバーのレポート、天然ダイヤモンドには青色カバーのレポートを用いています。また、合成と判断されたダイヤモンドにはガードルに“Laboratory Grown”とシリアルNo.をレーザー刻印しています。

HRDのグレーディングレポート:天然用
HRDのグレーディングレポート:天然用
HRDのグレーディングレポート:合成用
HRDのグレーディングレポート:合成用
8. スクリーニング(粗選別)と鑑別

メレサイズのダイヤモンドの鑑別には時間とコストがかかるため、スクリーニング(粗選別)が重要となります。粗選別とは100%天然といえるダイヤモンドと更なる詳細検査が必要なものとを分別することです。そのためにある際立った特性に着目した限られた技術を用いています。そのため粗選別=鑑別ではありません。厳密には粗選別≠鑑別です。

9. ダイヤモンドのタイプ

多くの粗選別機器はダイヤモンドのタイプ分類を基本原理としています。良く知られているように、ダイヤモンドは窒素を不純物として含有するⅠ型と含まないⅡ型に分類されます。そして、天然のダイヤモンドのほとんど(98%以上)はⅠ型に分類され、無色の合成ダイヤモンドはすべてⅡ型に分類されます。そのためダイヤモンドのタイプ分類がダイヤモンドの鑑別の重要な第一ステップになります。窒素を含有するⅠ型は窒素の存在の仕方によってⅠa型とⅠb型に細分されます。前者は窒素が凝集した形態で、後者は孤立した単原子の状態です。さらにⅠa型はⅠaA型とⅠaB型に細分されます。ⅠaB型は合成ダイヤモンドにはないので、起源は天然と考えることができますが、色の改善のためのHPHT処理が施される可能性があるため更なる詳細検査が必要となります。

ダイヤモンドのタイプの模式図 (HRD作成)
ダイヤモンドのタイプの模式図 (HRD作成)
10. HRDの粗選別機器

HRDが開発した粗選別機器にはD–ScreenとAlpha Diamond Analyzerがあります。
D–Screenは2005年に販売が開始された最初のHRD製粗選別機器です。紫外線の透過性を基本原理としています。検査可能なダイヤモンドはルースのみで、サイズは0.2ct〜10ct、カラーはD〜Jまでです。測定した結果、緑色のランプが点灯すれば天然ダイヤモンドでHPHT処理の可能性もないものです。黄色のランプが点灯すれば、HPHT処理が施された天然ダイヤモンドもしくは合成ダイヤモンドの可能性があります。しかし、未処理の天然ダイヤモンドの可能性もあることから更なる詳細検査が必要となります。
Alpha Diamond Analyzerは2012年に発売されたFTIR(赤外分光光度計)です。ルースと一部のセット石でも測定が可能です。分析結果を独自のソフトで診断し、IRのスペクトルを確認することができます。
しかし、これらの粗選別機器は一石ずつのマニュアル操作になるため、多数のダイヤモンドを検査するためには時間と労力がかかります。そのため、多数個のメレダイヤモンドの検査は非常にコストが高くなります。業界からも自動的にメレダイヤモンドを粗選別する装置が要望されるようになりました。そこで、HRDでは自動メレ粗選別装置M–Screenを開発しました。

11. M–SCREEN

M–ScreenはHRDアントワープとWTOCD(Wetenschappelijk en Technisch Onderzoeks Centrum voor Diamant’ アントワープのダイヤモンドリサーチセンター)の共同で開発したメレサイズダイヤモンドの全自動スクリーニング(粗選別)システムです。
卓上設置が可能なデスクトップサイズで、超高速(最小でも毎秒3個)でメレサイズのダイヤモンドを粗選別します。対象は0.01ct〜0.20ctのD〜Jカラーのラウンドブリリアントカットされたダイヤモンドです。選別を行う基本原理は波長の短い紫外線による特性と未公開の特許技術が使用されています。選別結果は、「天然ダイヤモンド」と100%確信できるもの、さらに検査が必要な「合成あるいはHPHT処理の可能性がある天然ダイヤモンド」、そして「類似石」に分別されます。
そして2017年1月からは新しくバージョンアップしたM–Screen+を提供しています。この装置はより小さなダイヤモンド(0.005–0.10)にも対応し、さらに早い(1秒間で5石以上)測定が可能となっております。

12. 合成ダイヤモンドの未来

合成ダイヤモンドは将来的に市場でどうなっていくのかという疑問があります。ここに2016年5月にある調査会社が行った結果があります。Googleで1番検索された宝飾ブランドはカルティエ、2位はティファニー、そして3位はスワロフスキーでした。1番検索されたカルティエは天然ダイヤモンドしか扱いませんし、サプライヤーにも天然であることを保障するように厳しく要求しています。いっぽう3位のスワロフスキーは天然ダイヤモンドではなく、キュービックジルコニアなどのイミテーションを使用しています。現在、合成ダイヤモンドは積極的にプロモートされるようになって来ています。人権の配慮や環境への優しさをうたい、有名な俳優が宣伝に出演しています。今後、合成ダイヤモンドは天然とイミテーションの中間に位置するようになるかもしれません。
ここで非常に大切になるのが情報開示です。消費者にとって合成ダイヤモンドであることがわかっている場合は問題ありません。天然ダイヤモンドであると信じていたものが合成であることが問題です。信頼・信用が大切になるのです。

13. 結論

非常に高品質な宝石品質合成ダイヤモンドが市場供給されており、合成ダイヤモンドは原石であれば識別は容易ですが、カットされてしまうと鑑別が困難となります。
HRDアントワープでは、大量のメレサイズのダイヤモンドの中から合成ダイヤモンドを分別する粗選別する装置を開発しており、粗選別のサービスと各種レポートの発行を行っております。◆

全質連研修(講習)会参加報告

2017年5月No.38

カスタマーサービス部 長谷川  晃祥

2017年3月30日(木)に全国質屋組合連合会(全質連)による会員様限定の講習会が東京千代田区神田にある東京質屋会館にて開催されました。弊社技術者が講師の一人として招待を受け講習を行ないました。
以下に概要をご報告致します。

本講習会は全国の拠点をTV会議システムで結びその模様をリアルタイムで配信し、各拠点の会場にて同時開催されました。第3回目の今回から徳島会場を新設し、札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・福岡の全国7拠点、合わせて151名の方々が参加しました。

今回の講習会は午後1時より始まり4人の講師による講習が行われ、午後4時半まで参加者は熱心に聴講されていました。1時間目、全質連会長 菊池章二氏による『全質連活動の現状報告について』、2時間目は全質連顧問弁護士 松村龍彦氏による『質屋の利息について、過去から現在と将来について』、3時間目は(株)ネットジャパン本社営業部 副部長 土肥栄一氏による『地金相場と、色石の相場等について』、そして最後の4時間目に弊社リサーチ室室長 北脇裕士により『最近出回っている合成ダイヤ等について』のテーマで講習が行われました。
宝石に関する講習は今回が初との事です。

3時間目のネットジャパン土肥氏の講習では貴金属の価格はどのように決められているのか、GDB(グッドデリバリーバー)の国際公式ブランドの紹介、海外ジュエリーショーでのカラーストーンのトレンド、インゴットの偽物と注意喚起など大変興味深い内容でした。

4時間目の弊社北脇による講習ではプロジェクターを使用させて頂き、合成ダイヤモンド(HPHT法・CVD法)の製法や、鑑別方法、現在販売されている粗選別機器等、ダイヤモンド鑑別の手順を話し、最後に講師が自ら訪問した中国でのHPHT法合成ダイヤモンドの生産状況や今後の展望を話して締めくくりました。

講習後の質疑応答では時間内に収まりきれないほど参加者からの質問があり、その内容も全員が熱心に聞いていた様子が印象的でした。◆

講習会の様子(東京会場)
講習会の様子(東京会場)