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GIT 2016参加報告

2017年3月No.37

教育部 野田  真帆、リサーチ室 江森  健太郎

2016年11月14日(月)~15日(火)の2日間、GIT2016 The 5th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)がタイのパタヤで行われました。本会議には当研究所から4名が参加し、1名が口頭発表を行いました。以下に概要をご報告致します。先に発行されましたCGL通信No.36ではPre-Conference Excursion(本会議前の原産地視察)の報告がされています。

GIT 2016とは

International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)はGIT(The Gem and Jewelry Institute of Thailand)が主催する国際的に有数の宝飾関連のカンファレンスの一つです。2006年に第1回が開催され、今回2016年11月に第5回目としてGIT 2016が開催されました。
GITはLMHC(ラボマニュアル調整委員会)にも属する国際的に著名な宝石検査機関であり、CGLと科学技術に関する基本合意を締結し、密接な技術交流を行っています。本カンファレンスはGITが主催していますが、タイの商務省等が後援しており国を挙げての国際会議ともいえます。本会議運営のため、15ヵ国36名の国際技術委員会が結成され、CGLの堀川洋一もその一役を担いました。

本会議

本会議はパタヤ市内のZign Hotelが会場となり、世界22ヵ国から300名を超える参加者が集いました。また、開催地であるタイ王国は2016年10月13日のラーマ9世(チャクリー王朝第9代のタイ国王)の崩御が記憶に新しく、亡き国王への敬愛の深さから死を悼む表示が空港、各街のいたるところに見かけられました。この厳かな雰囲気と国民の服喪期間はGIT 2016にも影響が出ており、特設ウェブサイトは白黒基調、このカンファレンスの開会に際しても国王の偉業を思いだすVTRが流され、私達出席者も皆、哀悼の意を示しました。日常的にみられることはないであろう黒い装いのGITスタッフ一同の姿が印象的でした。
開会式の挨拶の後、8件の基調講演と招待講演の他、30件の一般講演が行われました。各種宝石素材についての発表、カットの重要性の再考と評価システムについての検討、ファッション業界の流行を意識したカラー/テイストのトレンド紹介等様々な切り口の発表がありました。CGLからは江森が一般講演「Gem Deposits & Identification」のセッションにおいて、「Identification between natural and synthetic amethyst using discriminant analysis」という題で発表を行いました。

江森所員による発表
江森所員による発表

また、GIT 2016会場の一部に設けられたポスター・セッションでは、開催中は自由に研究の成果を見ることができますが、コアタイムにおいて、発表者から直接研究内容を聞くことができます。各種トピックについて質疑応答が盛んに行われている様子は、このようなカンファレンスならではの光景です。

ポスターセッションの様子
ポスターセッションの様子
MOU Signing セレモニー

GIT 2016開催期間中にMOU Signing (Memorandum of Understanding Signing)と言われる企業間における了解覚書/基本合意の調印が3件執り行われました。GITと当社との間では業務提携の一環として、共同ブランディング鑑別書(海外向け)を発行する調印式を行い、常務取締役 堀川洋一が代表出席・署名を行いました。組織間の技術協力・業務提携における基本合意はCGLとGITのよりよい前途を示すものとして印象付けられました。鑑別・研究最前線に立つもの同士の国境を越える協力関係と相互理解はこれからの時代に必要不可欠なものと認識しております。

MOU Signingセレモニーの様子
MOU Signingセレモニーの様子
調印に参加したその他関係各社との集合写真
調印に参加したその他関係各社との集合写真

国際学会の本質的な開催意義は宝石・宝飾品に関する多様な研究分野での成果を発表することにあります。定期的に開催されるGIT 2016のような国際学会では、国際交流を通して多くの方々と意見交換を行ったり、宝飾業界に従事する者同士で、ある特定のテーマに関して共通の認識を持つように働きかけたりと、参加することで個人・組織が前進的な刺激に触れることができます。中央宝石研究所も国内のみならず、このような国際学会に積極的に参加することで新たな研究成果を発表・情報発信に努めております。◆

GIT2016 Post-Conference Excursion 参加報告

2017年3月No.37

東京支店 雨宮  珠実

2016年11月16日(水)〜 16日(金)の3日間、GIT 2016 The 5th International Gem and Jewelry Conference (国際宝石宝飾品学会)のPost–Conference Excursion(本会議後の原産地視察)として、タイのチャンタブリ、トラットの鉱山ツアーが行われました。タイの宝飾用コランダム鉱床は、バンコク南東方のチャンタブリ県(Chanthaburi)タマイ市からトラット県(Trat)ボ・ライ町(Bo Rai)、バンコク西方のカンチャナブリ県(Kanchanaburi)ボ・プロイ町(Bo Phloi)周辺、タイ東部コラート高原のシサケット県(Sisaket)からスリン県(Surin)にかけて発達し、盛んに採掘され世界的な産地となっています。このうち、チャンタブリ~トラット地区から産するルビーは、世界の高品質ルビーの多くを占めていると言われており、今回はそのトラット地区の鉱山を数箇所見学することができました。
CGLからは2名参加し、鉱山の状況を視察することができました。以下に概要を報告致します。

ボ・ライ周辺地図
ボ・ライ周辺地図
Trat – Chanthaburi

11月16日(水) 午前7時に、先日まで本会議が行われていたPataya Zign Hotel(図1) を出発し、2台の大型バスに乗りトラットに向かいました。

図1.Pataya Zign Hotel
図1.Pataya Zign Hotel
図2.チャンタブリに向かう街並み
図2.チャンタブリに向かう街並み

トラット地区の鉱山に向かう途中、小型バスに乗り換えBankaja鉱山に着きました。この日は鉱山のオーナーのご親族が亡くなられたとのことで、実際に機械を動かすところは見ることができませんでしたが、GIT のアカデミックアドバイザーのDr. Visut Pisutha Arnondから採掘方法を説明して頂きました。

図3.Bankaja 鉱山
図3.Bankaja 鉱山

水を入れ、周りの土を崩して掘り出したものを水と一緒にパイプを通して選別機に移動させます。
上から水と一緒にコランダムを含んだ土が左右に揺られながら下に(図5は図4の左側の部分)に落ちていき、比重の軽いものは途中に残り、コランダムのような比重の重いものが下まで運ばれます。採掘が全て終わった後は土を全て元に戻すそうです。

図4.選別機
図4.選別機
図5.選別機の最終部分
図5.選別機の最終部分
Chanthaburi Gem and Jewelry Museum

Bankaja鉱山を出た後、チャンタブリ市立の宝石宝飾博物館(図6・7)を見学しました。博物館の中には各国の宝石の原石や様々な王冠(レプリカ)が展示されていました。

図6.チャンタブリの宝石宝飾博物館
図6.チャンタブリの宝石宝飾博物館
図7.チャンタブリ宝石宝飾博物館に展示されていた タイの国旗をルビーとサファイアで作ったもの
図7.チャンタブリ宝石宝飾博物館に展示されていた
タイの国旗をルビーとサファイアで作ったもの
World Sapphire Co., Ltd.

チャンタブリ宝石宝飾博物館を見学した後、World Sapphire社を見学しました。ここには各国のサファイアの産地にオーナー自らが出向き収集してきたものが産地別に分けられて展示してあり、また2階にはカットや選別をする部屋がありました。私たちはサファイアのギャラリーと選別の様子を見せて頂きました。

図8.World Sapphire社
図8.World Sapphire社
図9.World Sapphire社にあるギャラリー
図9.World Sapphire社にあるギャラリー
図10–1.展示されているサファイア
図10–1.展示されているサファイア
図10–2.展示されているサファイア
図10–2.展示されているサファイア
図11–1.World Sapphire社の2階にある振り分けの部屋を見学。女性がカットする前の石を大きさ、形、色により選別している
図11–1.World Sapphire社の2階にある振り分けの部屋を見学。女性がカットする前の石を、大きさ、形、色により選別している
図11–2.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
図11–2.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
図11–3.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
図11–3.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
図11–4.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
図11–4.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
Wat San Too , Trat

2016年11月17日(木)、ワット・サン・トゥーの柱状節理(※)を見た後(図13)、ボ・ライにある博物館を見学し、その後鉱山見学、また川で鉱物の採集を体験しました。
※「柱状節理」:玄武岩質の火成岩などに見られる柱状の規則性のある割れ目のこと。断面は六角形となることが多い。
マグマが冷却する過程で体積が収縮するために生じる。

図12.車窓から見えたエビの養殖場
図12.車窓から見えたエビの養殖場
図13–1.ワット・サン・トゥーの柱状節理
図13–1.ワット・サン・トゥーの柱状節理
図13–2.ワット・サン・トゥーの柱状節理を反対側から眺める参加者
図13–2.ワット・サン・トゥーの柱状節理を反対側から眺める参加者
Gem City

ジェム・シティに着くと、トラットの副知事の歓迎の挨拶を受けました。
博物館の中には鉱物の採掘から処理、カット、売買までが本物と見分けがつかないほどのリアルな蝋人形で作られており、GITのPornsawat Wathanakul代表が写真に入っていても見分けがつかないほどです(図15–6)。展示スペースを抜けると原石から枠のついたものまで販売するコーナーが設けられていました。

図14.ジェム・シティの外観
図14.ジェム・シティの外観
図15 – 1.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 1.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 2.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 2.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 3.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 3.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 4.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 4.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 5.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 5.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 6.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 6.蝋人形による採掘から売買まで(手前に座っているのがGIT・Pornsawat Wathanakul代表)
図16–1.販売している石
図16–1.販売している石
図16–2.2200 x 250と書かれているのは 2200ct x 250バーツ/ctの意味
図16–2.2200 x 250と書かれているのは 2200ct x 250バーツ/ctの意味
Trat, Bo Rai鉱山

ジェム・シティ見学後のボ・ライ鉱山では、オーナーもいらしたので採集させてもらうことができました。ボ・ライ鉱山は何十年も前にルビーとサファイアの鉱床として有名だった所です。採掘量はかなり減りましたが現在も重要な資源である事に変わりありません。ボ・ライにあるHua Tung Gems マーケットは現在も取引が行なわれていますが、全盛期ほど買い物客は集っていません。ただ、宝石学的調査が進めば、新しい鉱床が見つかる可能性もある場所です。

図17–1.ポンプで水とともに土、石が運ばれ、比重により振り分けられて溜まったものを屋根の下で拾う
図17–1.ポンプで水とともに土、石が運ばれ、比重により振り分けられて溜まったものを屋根の下で拾う
図17–2.ポンプで水とともに土、石が運ばれ、比重により振り分けられて溜まったものを屋根の下で拾う
図17–2.ポンプで水とともに土、石が運ばれ、比重により振り分けられて溜まったものを屋根の下で拾う
図18.参加したメンバー。中央の一番後ろに立つ帽子の方がこの鉱山のオーナー
図18.参加したメンバー。中央の一番後ろに立つ帽子の方がこの鉱山のオーナー
ボ・ライ鉱山の漂砂鉱床

同じボ・ライ鉱山からの石が川に流れた二次鉱床 で採集しました(図19)。すでに川岸では採れないため、現地の人が川の中央から川底の石を持ってきてくれたものをザルで洗い、その中から拾いました。

図19–1.ボ・ライ漂砂鉱床での採集
図19–1.ボ・ライ漂砂鉱床での採集
図19–2.ボ・ライ漂砂鉱床での採集
図19–2.ボ・ライ漂砂鉱床での採集
Chanthaboon–Water front

2016年11月18 日(金)、チャンタブーンのジェムマーケットを見学しました。マーケットの近くの川沿いにはタイとベトナムの人が半々くらいで住んでいるそうです(図20)。

図20–1.川沿いの集落
図20–1.川沿いの集落
図20–2.川沿いの集落
図20–2.川沿いの集落

ジェムマーケットの街の一角で路上にテーブルを出している店と、屋内のみの店がありました(図21)。想像とは異なり、テーブルの上には何もなく顧客の要望ににより石を出すため、バンコクの街中で思ったものが手に入らなかった人がここに来て必要なものを買うそうです。中には観光客目当てに近づいて路上で石を売る人もいました。

図21–1.ジェジュマーケットの様子
図21–1.ジェムマーケットの様子。路上の店
図21–2.ジェジュマーケットの様子
図21–2.ジェムマーケットの様子
図21–3.ジェムマーケットの店舗
図21–3.ジェムマーケットの屋内の店舗
図22.観光客に群がる宝石業者
図22.観光客に群がる宝石業者
The Cathedral of the Immaculate Conception

ジェムマーケットのすぐ近くにはThe Cathedral of the Immaculate Conception(チャンタブリ処女降誕聖堂)という教会があります(図23)。300年以上前に建てられたタイで最も大きく美しい教会でベトナム人から寄贈されました。教会の中にはサファイアで飾られた聖母マリア像があり(図24)、礼拝中でしたので遠くからしか眺められませんでしたが、とても綺麗でした。
この後、昼食をとり、GIT のPornsawat Wathanakul代表からのご挨拶があり、帰路につきました。◆

図23–1.チャンタブリ処女降誕聖堂
図23–1.チャンタブリ処女降誕聖堂
図23–1.チャンタブリ処女降誕聖堂
図23–2.チャンタブリ処女降誕聖堂
図24.サファイアで飾られた聖母マリア像
図24.サファイアで飾られた聖母マリア像