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中国におけるダイヤモンドの高圧合成

2016年11月No.35

中国吉林大学超硬材料国家重点実験室 教授 賈 暁鵬

概要

中国で合成ダイヤモンドが誕生してから半世紀にわたり発展を続けてきた。同国では、主に立方体式高圧装置(キュービック・プレス)を用いてダイヤモンドが合成されている。近年来、中国は砥粒ダイヤモンドの国際的な生産国となるまで急速に成長してきた。2015年、中国国内の合成ダイヤモンド生産量は150億カラット以上に達した。大型ダイヤモンド単結晶の合成は温度差法を用いることによって成功し、商品化・量産され、それらの商品の殆どは切削工具市場及び宝石市場で取引されている。現在、3mm以下のIIa型のダイヤモンド単結晶の生産量は20万カラット/月に達した。中国のダイヤモンド合成技術は著しく進歩してきたが、特殊な高品質砥粒ダイヤモンドのハイエンド製品、及び良質な大型ダイヤモンド単結晶の製造は未だ発展の途上にある。
本文では、中国におけるダイヤモンドの高圧合成技術の発展史、及び現状について紹介し、併せて今後の発展について展望を記す。

1.立方体高圧装置(キュービック・プレス)の中国国内開発史

中国の立方体式高圧装置(キュービック・プレス)は元機械工業部済南鋳鍛研究所によって設計され、1964年に誕生した。シリンダーの直径(口径)はΦ230(mm)で、その外観を図1に示す。しかしそれ以降、約20年間にわたりプレスの開発は停滞していた。1985年、桂林鉱産地質研究所の設計、長沙鉱冶研究院および桂林冶金機械総工場の共同開発によって製造されたΦ260–Φ320型プレスによって再び開発が進むことになった。1993年、咸陽202研究所は、Φ360–Φ400型を発表し、プレスの大型化を展開した。1999年、Φ500型が登場すると、プレスの大型化が加速し、たちまち、ダイヤモンド生産用のメイン設備となった。
表1は、現在中国において主流となっているプレスの口径と砥粒ダイヤモンドの生産能率の関係を示すものであり、口径の拡大につれて、ワンサイクルのダイヤモンドの生産量が急激に増加するという相関関係がわかる。

図1中国式立方体高圧装置(キュービック・プレス)
図1.中国式立方体高圧装置(キュービック・プレス)
表1:プレスのパラメータと単位生産量との関係
表1:プレスのパラメータと単位生産量との関係

中国国内で最大手のダイヤモンドメーカーである「中南」・「黄河」・「華晶」の三社は、このようなプレス大型化の進行を牽引するという重要な役割を果たした。
現在は主にΦ650、Φ700、Φ750の大型プレスが使用されている。中国国内にあるダイヤモンド合成用のプレスは1万台を超え、そのうちΦ600より大きいサイズのものがその過半数と言われている。また、プレスの制御技術も飛躍的に向上され、制御の精密度と自動化の程度も著しく進歩した。そして、群制御技術とネットワーク技術の使用も開始された。

図2.ある会社のダイヤモンドの合成生産現場の写真
図2.ある会社のダイヤモンドの合成生産現場の写真
2.砥粒ダイヤモンド合成の発展史

1963年、中国で初めてダイヤモンドの合成に成功した。1966年、中国鄭州三磨研究所が砥粒ダイヤモンドの商品化・生産を開始し、年産は約1万カラットであった。年代別に分けてみると、商品化生産は、大まかに以下の三つの歴史的段階に分けられる。1980–1990年代、生産会社は主に東北地域の遼寧省に集中していた。当時はメーカーの規模が小さく、Φ320–360型プレスが主流で、年産は1億カラットであった。1990–2000年代、生産の本拠地は徐々に湖南省、安徽省など南の省に移るようになり、Φ360–Φ460型プレスがこの時期の主流となって、年産は15億カラットにも達した。2000年以降、主な生産地は河南省に移った。現在、河南省には、「中南」・「黄河」・「華晶」の三大ダイヤモンド生産メーカーが所在するほか、数多くの中小規模のダイヤモンド生産会社が所在している。河南省は、中国における合成ダイヤモンドの主要生産地域となり、「90%以上のダイヤモンド合成企業は河南省に所在し、市場に流れる95%以上のダイヤモンドは河南省で生産されている」と言われている。
1980–2000年という20年余りの期間にわたり、砥粒ダイヤモンド合成は片状触媒、直接加熱という立遅れた技術を踏襲していた。エネルギーの高消耗、生産能力の低下、結晶体の低品質はこの時期の合成技術と製品の典型的な特徴であった。2000年より、粉末触媒、間接(旁熱)加熱など新たな合成技術の開発に成功し、また、各メーカーによる新合成技術の迅速な導入を受け、国内の合成ダイヤモンドの生産量と品質は実質的に飛躍的な発展を遂げた。2005年、多くのダイヤモンドメーカーが全面的な生産モデルチェンジに成功し、中国の砥粒ダイヤモンドは国際市場を支配するようになった。以降、中国のダイヤモンド生産は高度発展期に突入した。2015年、年産は既に150億カラットに達し、全世界の生産量の90–95%を占めるようになった。図3には、中国における合成ダイヤモンド生産量の推移を示してある。

図3.中国におけるダイヤモンド生産量の推移
図3.中国におけるダイヤモンド生産量の推移
3.大型ダイヤモンド単結晶の高圧合成についての研究

中国における大型ダイヤモンド単結晶の高圧合成についての研究と開発の歴史は、1980年代に遡る。1980年当初、上海珪酸塩研究所が温度差法を用いて、約3mmのダイヤモンド結晶体を合成したが、良質なものを作ることはできなかった。1990年頃、「高温高圧法による大型単結晶の育成」は、国の「863プロジェクト」中の重要プロジェクトの一つとして立ち上げられたが、核となる技術が確立されていなかったため、高圧法を用いた大型単結晶ダイヤモンド合成の研究は中断された。

図4.10mm、2.45ctのIb型単結晶
図4.10mm、2.45ctのIb型単結晶
図5.高濃度窒素含有のダイヤモンド単結晶
図5.高濃度窒素含有のダイヤモンド単結晶
図6.Ia型ダイヤモンド単結晶
図6.Ia型ダイヤモンド単結晶

同研究が本格的に再始動されたのは、1999年末からであった。当時、吉林大学で筆者が率いた研究チームは、立方体高圧装置(キュービック・プレス)に対して、一連の技術改造を実施したことによって合成条件の精密な制御を実現し、2000年、4.5mmの良質なIb型単結晶の合成に成功した。さらに2004年、4.3mmのIIa型と4.0mmのIIb型の良質な単結晶の合成に成功し、2011年、約10mm、2.45ctのIb型の単結晶(図4)の合成に成功した。そのほかに研究チームは、高濃度窒素含有の緑色のダイヤモンド(図5)、Ia型(図6)、硼素と水素含有、水素含有のIbおよびПa型、水素と窒素含有のIbおよびIa型、また、水素と酸素の共同含有などの大型単結晶ダイヤモンドの合成に相次いで成功した。2006年、筆者は河南理工大学においても大型単結晶の合成研究を行った。

4.大型ダイヤモンド単結晶の商品化生産

2010年6月、河南省焦作市の美晶科技有限公司は、最初に単結晶の商品化生産を始め、3x3x1mm のIb型単結晶片(図7)を市場に提供した。2012年12月、鄭州華晶金鋼石股份有限公司と焦作美晶科技有限公司は、共同で出資し、焦作華晶ダイヤモンド有限公司を設立し、Ib型単結晶片の量産を開始した。2014年9月、鄭州華晶金鋼石股份有限公司(シノ·ダイヤモンド)が1.0–2.0mmサイズのIIa型単結晶(図8)を宝飾市場に提供し始めた。2015年下期、技術漏洩によって、河南省では十数社の企業が「シノ・ダイヤモンド」と同様の技術で宝飾用無色合成ダイヤモンドの生産を始めた。生産能力は当初の約1万カラット/月から、2015年4月の20万カラット/月まで達した。その後、1.0–2.0mmサイズのIIa型単結晶の価額も生産量の激増によって急激に下落し、わずか二年間で、当初の1カラット60米ドルから、現在の1カラット16~18米ドルまで下落した。

図7.3x3x1mm のIb型単結晶片
図7.3x3x1mm のIb型単結晶片
図8.1.0–2.0mmのIIa型単結晶
図8.1.0–2.0mmのIIa型単結晶
図9.黄河旋風の2–3mmのIIa型単結晶
図9.黄河旋風の2–3mmのIIa型単結晶

黄河旋風股份有限公司は、現在3000台以上のプレスを保持しており、中国国内最大規模のダイヤモンドメーカーの一つである。 同社は、2001年から大型単結晶ダイヤモンドの合成についての研究開発を推進し、現在、Ib型単結晶片だけではなく、2.0–3.0mmサイズのIIa型単結晶(図9)も宝飾市場に提供している。資料によれば、同社が宝石用の大型単結晶ダイヤモンド合成プロジェクトへ投資した総額は4.30億元、生産ラインも建設する予定とのことである。このプロジェクトを実現すれば、宝飾用の無色IIa型単結晶は年間73.50万カラット、板状単結晶は年間49.28万カラットという莫大な生産能力を有することになる。

中南钻石股份公司も3000台以上のプレスを保有するなど、世界一の規模と言われるメーカーである。同社では粉末触媒成長技術を用いて、自発核生長法により1–2mmの粗粒度のIb型ダイヤモンド(図10)を生産している。粗粒度の結晶体の品質は良好だが、価格は高く設定されている。現在、同社はまだ温度差法を用いて合成した単結晶ダイヤモンドを市場に出していない。

図10.中南の1–2mmのIb型ダイヤモンド
図10.中南の1–2mmのIb型ダイヤモンド

済南中烏新材料有限公司(略称:中烏新材)は2013年に設立され、2015年6月に中烏貝斯特公司から名称変更した会社である。小規模な会社で、現在70台ほどのプレスを所有している。注目すべき点は、同社ではウクライナの合成技術を用いて、Ib、IIa及びIIb型単結晶(図11)を生産していることである。製品一粒の質量は10ctにも達している。同社は、中国で唯一3.5mm以上の良質なIIa型の単結晶を宝飾用に商品化したメーカーであるが、製品の価格は高価である。

図11.中烏新材のIb、IIa、IIb型ダイヤモンド単結晶
図11.中烏新材のIb、IIa、IIb型ダイヤモンド単結晶

現在、中国は既に大型ダイヤモンド単結晶生産の中心となっている。これらのメーカーは殆ど河南省と山東省の両省に集中しており、毎月1.0–2.0mmサイズの宝飾用IIa型ダイヤモンド単結晶を16–20万カラット生産している。

5.結論

1) 中国のダイヤモンド合成技術は著しく進歩してきたが、特種な砥粒単結晶ダイヤモンドと大型単結晶ダイヤモンドの合成技術は外国と比べ、未だに大きな成長の幅がある。
2) 3mm以下のIIa型ダイヤモンドについては、すでに量生産ができており、宝石市場に入り天然ダイヤモンド市場に衝撃を与えている。

6.展望

上記に紹介した、既に大型単結晶ダイヤモンドの生産能力を有する数社のほか、幾つかのダイヤモンドメーカーも現在、3mm程度のIIa型単結晶ダイヤモンドの研究開発と生産に注力している。研究開発の進歩に伴い、やがてカラットレベルのIIa型ダイヤモンドの大規模な生産時代が訪れ、間違いなく宝石・装飾市場に大きな衝撃を与えることになるであろう。以上◆

− 賈 暁鵬 氏 −

Jia先生2CMYK統合2

【略 歴】
1962.12.15生
1980.09−1984.06  中国吉林大学物理学系 (大卒)
1984.09−1987.06  中国吉林大学原子と分子物理研究所(理学修士取得)
1990.04−1992.03  筑波大学工学研究科物質工学専攻(工学修士取得)
1992.04−1996.03  筑波大学工学研究科物質工学専攻(工学博士取得)
1996.04−1997.04  筑波大学物質工学系 外国人研究員
1997.05−1998.03  無機材質研究所 COE特別研究員
1998.04−1999.11  金属材料研究所 外国人研究員
1999.12−現在    中国吉林大学超硬材料国家重点実験室 教授

中国河南省、宝飾用合成ダイヤモンドの製造会社を訪問して

2016年11月No.35

リサーチ室 北脇  裕士

2016年9月6日(火)~13日(火)の一週間、中国河南省にあるHPHT合成ダイヤモンドの工場を訪問し、中国における宝飾用合成ダイヤモンド製造の現況について調査しました。河南省では宝飾用にHPHT合成ダイヤモンドが盛んに製造されており、その品質とサイズは漸次向上しています。今後、宝飾ダイヤモンドの流通に与える影響が懸念されます。以下に概要をご報告致します。

中国製HPHT合成ダイヤモンドの台頭

合成ダイヤモンドは、鑑別・グレーディングの日常業務において1990年代半ば頃から時折発見され、その都度話題となってきました。しかし、その検出頻度はごくわずかなもので、これまで無色の合成ダイヤモンドがジュエリーに混入していた例もほとんどありませんでした。しかしながら、2015年後半頃から世界各地の宝石鑑別ラボよりジュエリーに混入した小粒合成ダイヤモンドの事例が相次いで報告されるようになりました。当研究所においても2015年の9月頃からジュエリーに混入したメレサイズの無色合成ダイヤモンドが確認されており、現在も増加傾向にあります。これらの合成ダイヤモンドはほとんどがHPHT法によるもので、中国で合成されたものと考えられます。中国では2014年頃から宝飾用合成ダイヤモンドが大量に製造されており、今後もその動向を慎重に見守る必要があります。

河南省:世界の合成ダイヤモンド産業の中心地

河南省は、黄河の下流域にあることが省名の由来となっています(Fig.1)。省全体に黄河の堆積物による広大な平野が広がる重要な農業生産地域です。河北省、山東省、安徽省、山西省、陝西省、湖北省に隣接しています(Fig.2)。河南省は中国8大古都のうち4つ(鄭州、洛陽、開封、安陽)を有しており、中国文明の発祥の地といわれます。中国における33の行政区分の中で面積は17番目ですが、人口では広東省と山東省に次いで3番目です。黄河による水害や旱魃(かんばつ)などにより経済発展は緩慢でしたが、1970年代後半~1980年代にかけて国策により合成ダイヤモンドの製造会社が次々に立ち上げられていきます。工業用途のダイヤモンド砥粒や焼結体の生産が中心でしたが、高圧装置の大型化、操作技術のインテリジェント化、溶媒金属の選択やグラファイト原料の粉末化などの技術革新によって単結晶合成ダイヤモンドの大規模生産が成し遂げられていきます。

Fig.1河南省鄭州市北部を流れる黄河
Fig.1河南省鄭州市北部を流れる黄河
Fig.2中国河南省鄭州市の位置
Fig.2中国河南省鄭州市の位置

河南省には大小合わせると80社以上の合成ダイヤモンドの製造会社があります。中でも河南黄河旋風股份有限公司、中南钻石股份有限公司、鄭州華晶金剛石股份有限公司は中国における合成ダイヤモンド業界の「3大巨頭」と称され、これら3社を合わせると高圧合成装置(キュービック型マルチ・アンビル装置)は8,000台以上、ダイヤモンド生産量は120億ct以上に達し、全世界の合成ダイヤモンドの需要を支えられるといわれています。まさに河南省は合成ダイヤモンド製造の世界の中心地といえます。

河南省鄭州市:急速に発展する都市

鄭州市は河南省の州都(1954年~)です。人口937万人(2014年)の大都市です。日本のさいたま市とは1981年に姉妹・友好都市提携が結ばれています。3500年前には商(殷)王朝の都があったとされる歴史深い街ですが、近年は機械・食品・繊維などの産業による新興工業都市としてもめざましい発展を遂げています。鄭州は京広線(北京~広州市を南北に結ぶ)と隴海線(連雲港市~蘭州市を東西に結ぶ)が交差する中国鉄道交通の要所です。鄭州駅は1904年に開業しており、2010年に現在の駅舎が完成しました(Fig.3)。

Fig.3鄭州駅駅舎
Fig.3鄭州駅駅舎

また、高速鉄道(新幹線)が停車する鄭州東駅が2012年9月に開業し、中国では杭州東駅と南京南駅に次いで3番目に広い建築総面積を誇ります。市内には地下鉄網が現在建設中で、東西に延びる1号線は2013年12月に、南北に延びる2号線は2016年の8月に開通したばかりです。空の玄関口は鄭州新鄭国際空港で、2016年の4月には就航する全33社の航空会社が新たに増設されたターミナル2に移行したばかりです。シンガポール、シドニー、フランクフルトやロサンゼルスなどと結ばれており、成田からも直行便が就航しています。
2001年以降から旧市街の東部に面積約150平方キロで150万人規模の新都市(鄭東地区)が建設されています。新たにCBD(中心業務地区)を建設し、コンベンションセンター、アートセンター、高層住宅、高層オフィスが人工湖を囲むように建ち並んでいます(Fig.4)。この新都市のマスタープランは建築家の黒川紀章の立案といわれています。

Fig.4鄭州市新都心のビル群を望む
Fig.4鄭州市新都心のビル群を望む
河南省での宝飾用HPHT合成の現状

河南省の大手合成ダイヤモンド製造会社は、それぞれにおいて結晶育成の技術開発が進み、現在では無色の宝石品質のダイヤモンドを量産できるレベルに達しています。そして利益率の低い工業用途のダイヤモンド砥粒生産から新たな市場として宝石ダイヤモンドの生産にシフトしてきています。
鄭州華晶金剛石股份有限公司では2014年末頃から2mm以下の宝飾用合成ダイヤモンドの量産を開始しており、河南黄河旋風股份有限公司では2015年前期から2〜3mm以下の原石を量産しています。その後、他の中小の砥粒製造会社も続々と宝石事業に参入しており、河南省だけで10社以上が宝飾用の小粒ダイヤモンドを製造していると思われます。

宝飾用HPHT合成ダイヤモンド製造会社訪問

河南省力量新材料有限公司(Henan Province Liliang New Materials Co.,Ltd)は、2010年に設立された新興の会社で主にダイヤモンドの微粉末を製造していました。目覚しい技術革新によって高品質の単結晶が育成できるようになり、2015年に社名を河南省力量钻石股份有限公司(Henan Liliang Diamond Co.,Ltd)に改名しました。2014年以降、宝飾用の無色合成ダイヤモンドを製造しており、その生産量は中国において上位4社に入る勢いです。同社の邵增明(Shao Zengmin)社長の招待により、今回の筆者の訪問が実現しました(Fig.5)。

Fig.5河南省力量钻石股份有限公司の邵增明社長(左)
Fig.5河南省力量钻石股份有限公司の邵增明社長(左)
Fig.6河南省力量钻石股份有限公司の工場玄関
Fig.6河南省力量钻石股份有限公司の工場玄関

河南省力量钻石股份有限公司は、鄭州市の新都市中心業務地区にオフィスがありますが、ダイヤモンド生産工場は鄭州市から南東へ車でおよそ3時間の商丘市柘城県にあります(Fig.6)。柘城県は河南省の中でも最大の微粉末の製造(砥粒ダイヤモンドの粉砕加工)拠点です。中国全体の70%を占めるともいわれています。河南省力量钻石股份有限公司は、1990年に前進となる小さなダイヤモンド粉末製造工場として出発しました。急速な経済成長の波に乗り、機敏にチャンスを捉えて順調に業績を伸ばしました。2010年には3.8億元(およそ50億円)を投資して、143,334m2(東京ドーム3個分)の広大な敷地に10棟の生産工場および加工場が建てられました(Fig.7)。

Fig.7工場の鳥瞰図(図版提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.7工場の鳥瞰図(図版提供:河南省力量钻石股份有限公司)

そしてシリンダー径700mmの大型キュービック型マルチ・アンビル装置が多数設置されました(Fig.8)。邵社長によると、300台ある装置のうち現在150台が宝飾用単結晶合成ダイヤモンドの製造に使用されており(Fig.9)、月産で150,000ctの原石が生産されているとのことです。

Fig.8キュービックマルチ・アンビル装置(写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.8キュービックマルチ・アンビル装置(写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.9キュービックマルチ・アンビル装置近影
Fig.9キュービックマルチ・アンビル装置近影

生産されている宝飾用合成ダイヤモンド原石の90%は直径2mm程度で(Fig.10、Fig.11)、研磨すると0.01ct程度になるそうです。直径3mm以上の原石は全体の5%以下で、これらは0.1~0.2ctになるとのことです。製造技術は漸次向上しており、1年以内には0.5ctのカット石の量産を目指しているそうです。生産された原石の90%はインドで研磨されているそうですが、一部は中国国内で研磨しているとのことです。また、セールスマネージャーの陈宁宁(Lynn Chen)氏によると、同社では自社製品(無色合成ダイヤモンド)を用いたジュエリーも製造しており、販路を広く世界に求めて開拓中とのことです。

Fig.10宝飾用原石 (写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.10宝飾用原石
(写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.11宝飾用原石拡大
Fig.11宝飾用原石拡大

このように中国河南省は今なお経済発展の途上にあり、鉄道、都市整備などが着々と進行中です。合成ダイヤモンド産業も利益率が低くなった砥粒生産から宝飾用合成ダイヤモンドの製造へシフトしていますが、生産過剰のため技術革新の遅れた会社はすでに宝飾事業から撤退し、もとの砥粒生産に回帰しているところもあるようです。今後、彼らはさらなる利益を求めて結晶の高品質化とともに大型化を目指していくと思われます。また、各色のファンシーカラーダイヤモンドの生産、鑑別が困難な種々の性質を改良したものが出現することも予測の範囲にとどめておく必要がありそうです。◆

日本鉱物科学会2016年年会参加報告

2016年11月No.35

リサーチ室 北脇  裕士、江森  健太郎

石川県金沢市のシンボル、金沢城石川門
石川県金沢市のシンボル、金沢城石川門

去る2016年9月23日(金)から25日(日)までの3日間、金沢大学角間キャンパスにて日本鉱物科学会の2016年年会が行われました。弊社からは2名の技術者が参加し、それぞれ口答発表を行いました。以下に年会の概要を報告致します。

日本鉱物科学会とは

日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Sciences)は平成19年9月に日本鉱物学会と日本岩石鉱物鉱床学会の2つの学会が統合・合併され発足し、現在は大学の研究者を中心におよそ1000名の会員数を擁しています。日本鉱物科学会は鉱物科学およびこれに関する諸分野の学問の進歩と普及をはかることを目的としており、「出版物の発行(和文誌、英文誌、その他)」、「総会、講演会、研究部会、その他学術に関する集会および行事の開催」、「研究の奨励および業績の表彰」等を主な事業として活動しています。今年、2016年は総会にて「日本の石(国石)」を決定する選挙を行いました。

会場となった金沢大学角間キャンパス自然科学棟
会場となった金沢大学角間キャンパス自然科学棟
日本鉱物科学会2016年年会

会場となった金沢大学は、1862年(文久2)に加賀藩が種痘所を設置したことを源流とし、旧制金沢医科大学、旧制第四高等学校、金沢高等師範学校、金沢高等工業学校を主な母体として設立された大学です。2004年4月に「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」という位置づけをもって改革に取り組むとして金沢大学憲章を制定しました。憲章は、教育・研究・社会貢献・運営の各分野からそれぞれ2項目、計8項目から成ります。地理的にはJR金沢駅より南東方向に本学会の会場となった角間キャンパスがあります。交通手段としてはJR金沢駅からバスで30分程度、通学時間帯は本数も多く、アクセスに不便はありません。

今回の年会では、4件の受賞講演をはじめ、シンポジウム「ちきゅう掘削鉱物科学」、口頭発表、ポスター発表を合わせ、発表講演総数237件が行われ、278名が参加しました。
一日目、23日(金)午前9時より「鉱物記載・分析評価」「岩石・鉱物・鉱床一般」「地球外物質」「岩石―水相互作用」「変成岩とテクトニクス」の4つのセッションが同時に行われました。弊社研究者は「鉱物記載・分析評価」のセッションで「中国製無色HPHT合成ダイヤモンドの物性評価と宝石鑑別」と「LA–ICP–MS分析を用いた天然・合成アメシストの鑑別」の2件の講演を行いました。講演後、多数の質問が寄せられ、鉱物科学会会員の方々の宝石学への興味の強さを感じることができました。

一般講演口頭発表会場の様子
一般講演口頭発表会場の様子

総会
平成28年度の鉱物科学会総会が二日目の9月24日(土)朝8時30分より大講義室で行われ、早朝にもかかわらず多くの会員が参加しました。小山内康人会長(九州大学)の挨拶の後、昨年の物故会員5名に黙祷が捧げられ、議事を開始。議長は愛媛大学の大藤会員が努められました。最初に会員幹事から会員数についての報告がなされました。現在有効会員数は929名で漸次減少傾向にあるようです。続いて広報の報告、渉外報告、和文誌GKKより報告、英文誌JMPSより報告、庶務報告がなされ、行事・年会担当幹事から次回(2017年)の年会は愛媛大学で開催されることが報告されました。そして、本総会の最重要審議事項である一般社団法人化の説明と承認がなされ、10月1日から鉱物科学会は一般社団法人として新たな活動を開始することが決定しました。新会長には京都大学の土`山明氏が選任されました。総会審議事項が終了後、日本鉱物科学会平成27年度受賞者の表彰と記念講演が行われました。

日本の石(国石)が「ひすい」に決定
総会の一般審議と受賞者の表彰が終了後、日本の石(国石)の選定が行われ、総会参加者全員による投票の結果、「ひすい」に決定しました。
日本の石(国石)は日本鉱物科学会の一般社団法人化の記念事業の一環として考案されたものです。「日本で広く知られて、国内でも産する美しい石(岩石および鉱物)であり、鉱物科学のみならず様々な分野でも重要性をもつものを、「国石」として選定することにより、私たち日本人が立っている大地を構成する石について、自然科学の観点のみならず社会科学や文化・芸術の観点からもその重要性を認識するとともに、その知識を広く共有する」という趣旨のもと、有識者14名による選定ワーキンググループ(WG)を発足して取り組んできました。
当初、選定委員会において花崗岩、輝安鉱、玄武岩、讃岐岩(サヌカイト)、黒曜石、自然金、水晶、トパーズ、ひすいの10種が候補に挙げられましたが、その後、会員と一般からの意見や追加候補を募り、赤間石、安山岩、大谷石、かんらん岩、絹雲母、黒鉱、結晶片岩、琥珀、さざれ石、硯石および石灰岩の11種が加えられました。これら21種の候補のうちからWGの討議により、花崗岩、輝安鉱、自然金、水晶、ひすいの5種に絞り込まれ、本総会において会員の投票により決定されることになりました。投票に先立って、5種の石にゆかりのある研究者がそれぞれの応援演説を行い、その石の魅力をアピール。 投票は出席会員が投票箱にそれぞれの石の名前が書かれた5つの穴のどれかにビー玉を一つ投入するというスタイルで、投票終了後にビー玉の重量を測定すると得票数がわかるという仕掛けです。5つの穴はゆっくりと回転しており、投票者がどの石に投票したかは他の人にはわかりません。一回目の投票でひすいと水晶が上位となり、両者の決選投票となりました。 結果、ひすいが71票で水晶の52票を上回り、日本の石に決定しました。

日本の石(国石)投票の様子
日本の石(国石)投票の様子
国石として決定した「ひすい」 (写真:糸魚川産ひすい原石、写真提供:フォッサマグナミュージアム 宮島宏氏)
国石として決定した「ひすい」
(写真:糸魚川産ひすい原石、写真提供:フォッサマグナミュージアム 宮島宏氏)

受賞講演とポスターセッション
総会後、10時40分より日本鉱物科学会受賞講演が行われました。受賞講演は、平成27年度日本鉱物科学会賞第14回受賞者のバイロイト大学バイエルン地球研究所の桂智男教授、同第15回受賞者の熊本大学先端科学研究部の西山忠男教授、同学会研究奨励賞第19回受賞者の東北大学大学院理学研究科の坂巻竜也助教授、同学会研究奨励賞第20回受賞者の門馬綱一氏の4名より行われました。受賞講演の後はポスターセッションのコアタイムとなっており、発表者の前にはたくさんの人でにぎわい、説明、質疑応答、議論等が活発に行われていました。また同日午後は、シンポジウム「ちきゅう掘削鉱物科学」が行われました。

ポスターセッションの様子
ポスターセッションの様子

最終日25日(日)は午前9時より「結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物」「高圧科学・地球深部」「深成岩・火山岩及びサブダクションファクトリー」「火成作用と流体」「地球表層・環境・生命」のセッションが行われ、日本鉱物科学会2016年年会は幕を閉じました。
毎年開催される鉱物科学会年会では、最先端の鉱物学研究が発表されます。鉱物学と宝石学は密接な関係があり、参加し、聴講することで最先端の鉱物学に関する知見を得られ、多くの研究者の方々と交流を深めることができます。来年も愛媛で開催される鉱物科学会年会に参加し、中央宝石研究所で行われている各種宝石についての研究をさらに深める予定です。◆