2016年7月No.33
リサーチ室 北脇 裕士
去る 5月22日(日)~26日(木)に中国の西安にて表題の国際会議が開催されました。リサーチ室より筆者が参加しましたのでご報告いたします。
NDNCとは
NDNC(New Diamond and Nano Carbons)は2007年にICNDST (International Conference for Diamond Science and Technologies)とADC(Applied Diamond Conference)が統合されて新たに創設された国際学会です。ダイヤモンドの気相合成に始まり、ナノチューブ、フラーレン、グラフェンといったナノ構造的に新しい炭素も対象に盛り込まれています。創設第1回目の会議は2007年に大阪で開催されており、以降台湾(2008)、米国(2009)、中国(2010)、松江(2011)、米国(2012)、シンガポール(2013)、米国(2014)、そして昨年は静岡で開催されています。日本からはニューダイヤモンドフォーラム(http://www.jndf.org/)の会員が中心となって本会をサポートしています。
開催地西安
第10回NDNC国際会議は5月22日(日)~26日(木)に中国西安のThe Westin Xi’anで開催されました。この会議は西安交通大学、中国真空学会、陝西省科学技術協会、陝西省真空学会、西安電子科学技術大学、蘇州大学や多くの産業界からサポートされています。
開催の地となった西安(Xi’an)は中国陝西省の州都であり、常住人口885万人(2012年現在)の都市です。古くは中国古代の諸王朝の都として栄えてきました。紀元前11世紀にはこの地に都が定められ、前漢、新、後漢、西晋、前趙、秦、西魏、北周および唐の時代には長安と呼ばれており、その都は日本の平城京・平安京のモデルにもなっています。日本とのかかわりも深く、空海、阿倍仲麻呂他、遣隋使、遣唐使がその足跡を残しています。現在も都市の中心部は明の時代に築かれた(1370–1378年)城壁に囲まれており、往時の面影を残しています。市の中心部から車で約1時間のところに1987年に世界文化遺産に登録された秦の始皇陵(兵馬俑–へいばよう–)があり、この地を訪れた人々が必ず立ち寄る遺跡です。
開催場所となったThe Westin Xi’anは唐の時代に創建された(652年)大雁塔の程近くにあり、朝夕の散策に適したロケーションです。
第10回NDNC
今回の第10回会議には22ヶ国から400名以上の参加がありました。開催地である地元中国からの参加者が260名と最も多く、他国からは約150名でした。日本は中国に次いで二番目に多く、約20名の参加があり、日本のこの分野における研究熱の高さが伺えます。その他には台湾、ドイツ、韓国、ロシア、フランス、イスラエル、インド、スイス、ベルギー、ポルトガル、フィンランド、イタリア、オーストラリアやアフリカ諸国からの参加が見られました。
本会議では同時に二つのセッションが進行するマルチトラック方式が採用され、ダイヤモンド合成、グラフェン、生物および生物化学、ダイヤモンド表面、カーボン、ダイヤモンドデバイス、NVセンタ、カーボンナノチューブなど、総計24のセッションが行われました。本会議初日と三日目の最後に特別講演が計2題、本会議初日に基調講演が計6題、各セッションの中に計47題の招待講演が行われました。一般講演は全期間を通して計83題が行われました。特別講演は2題とも日本からの招待者によるものでした。初日の特別講演は物質材料研究機構の小出康夫氏によるワイドバンドギャップのⅢ–窒化物とダイヤモンド素材とデバイスに関する講演で、3日目の特別講演は名城大学の飯島澄男氏によるカーボンナノチューブに関する講演でした。 小出氏は2014年に青色発光ダイオードの発明でノーベル賞を受賞された赤﨑勇氏に師事して博士号を取得され、現在物質材料研究機構で中核機能部門長をされています。また、ニューダイヤモンドフォーラム学術委員会の委員長でもあります。飯島氏はカーボンナノチューブの発見と電子顕微鏡による構造決定において世界的に著名な研究者で、ノーベル化学・物理学賞に最も近いとの評判です。
6題の基調講演のうち1題が日本の研究者で、早稲田大学の川原田洋氏でした。川原田氏はナノデバイスの世界的な権威で2010–2014年までニューダイヤモンドフォーラムの会長をされていました。
47題の招待講演のうち日本の研究者によるものは7題ありました。産業総合研究所の梅沢仁氏、山田英明氏、長岡技術科学大学の斎藤秀俊氏、北海道大学の金子純一氏、徳島大学の酒井四郎氏、物質材料研究機構の寺地徳之氏、山口尚秀氏らがそれぞれのセッションで講演されています。
講演時間は特別講演が45分、基調講演が30分、招待講演が20分、一般講演が15分でした。
全講演のプログラムについてはNDNC2016のホームページhttp://ndnc2016.xjtu.edu.cn/でご覧いただくことが可能です。
筆者は一般講演において宝飾用のメレサイズの合成ダイヤモンドの現状について報告しました。概要については既報のCGL通信No.30とNo.32をご覧ください。その他に宝石関連としてはGIAのW. Wang氏による口頭発表と同じくGIAのU. F. S. D’Haenens–Johansson氏によるポスター発表がありました。これらの発表内容を以下に簡単にご紹介します。
GIAのW. Wang氏は[Si–V]−センタの天然と合成に見られる分布の相違について報告されました。[Si–V]−センタはフォトルミネッセンス分析で736. 6と736.9nmにダブレットのピークを示します。宝石学においてはCVD合成ダイヤモンドの識別特徴として良く知られています。しかし、天然でも稀に見られることがあり、最近はHPHT合成でも確認されています。Ⅱ型の天然ダイヤモンドでは3%以下に見られ、しばしばオリビンの包有物を伴っています。[Si–V]−をマッピングしても分布は不規則でGR1(空孔)の分布とも関連が見られませんでした。HPHT合成では{111}セクターの境界付近にのみ分布していることが確認されました。また、CVD合成では分布は不規則ですが、マルチステップ成長をしたものでは{100}成長方向に平行に分布していると報告しました。
GIAのU. F. S. D’Haenens–Johansson氏は天然と合成のⅡ型ダイヤモンドの成長特徴をCLとUVによるルミネッセンス像から検討しました。ダイヤモンド中の不純物や欠陥の分布は成長やその後に蒙った塑性変形などの影響を受けています。これらの履歴を観察するために宝石学分野ではDiamond View™が用いられており、天然・合成起源の判別に役立てられています。GIAではUVを用いたDiamond View™に加えて電子顕微鏡によるCLも研究に用いています。天然Ⅱ型ダイヤモンドは塑性変形により線状やネットワーク状のディスロケーションパターンが見られ、成長分域は観察されません。いっぽうHPHT合成では六–八面体の成長分域構造が明瞭でディスロケーションはほとんど見られません。CVD合成ではステップフロー成長のためストリエーション(線模様)が観察されます。また、ディスロケーションも発達しており、観察する方向によっては未熟なオペレーターは天然Ⅱ型と誤認する恐れがあると報告しました。
今回のNDNC国際会議は2010年に次いで6年ぶりに中国での開催となりましたが、次回のNDNC2017はオーストラリアのケアンズ(Cairns)で開催されることが決定しています。◆