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平成27年度宝石学会(日本)

2015年9月No.28

大阪支店 奥田 薫、水野 拓也

宝石学会(日本)は、宝石学およびこれに密接に関連する科学の進歩と普及をはかることを目的として、1974年に設立されました。国内で年に1回開催される講演会(学会発表)では、宝石に関する最新の情報や研究結果が報告されています。
本年度は山梨県にて、総会・講演会が6月27日に、見学会が6月28日に開催されました。

やまなしプラザ・オープンスクエアー
やまなしプラザ・オープンスクエアー

講演会
やまなしプラザ・オープンスクエアーにて開催された講演会(学会発表)では、国内の主要な鑑別機関をはじめ、山梨県立宝石美術専門学校や大学および宝石業界関係者等73名が参加し、特別講演1題および一般講演17題の発表が行われました。
特別講演では、山梨大学の綿打敏司教授による「合成結晶研究の歩みと最新の結晶合成の紹介~クリスタル科学研究センターの功績と最新の話題~」が行われました。

特別講演中の綿打教授
特別講演中の綿打教授
講演風景
講演風景

一般講演の内訳は、カラーストーン関連9題、真珠関連4題、ダイヤモンド関連2題およびその他2題でした。
当社からは、江森健太郎所員(本社・リサーチ室)による「LA-ICP–MSによる微量元素測定と三次元プロットを用いたルビーとブルーサファイアの産地鑑別について」と、久永美生所員(本社・リサーチ室)による「Ⅰb型黄色~褐黄色のCVD合成ダイヤモンド」の2題が報告されました。

研究報告をする江森所員
研究報告をする江森所員
研究報告をする久永所員
研究報告をする久永所員
座長を務める北所員
座長を務める北脇所員

昨年度に引き続き、本年度の一般講演でも、鉱物学的な考察や新しい鑑別方法の提案だけでなく、人工結晶、ジュエリーを使用する上での耐久性に関する考察や、歴史、輝きの測定等、「宝石」をテーマに、多方面からのアプローチがされていました。改めて「宝石学会」が網羅する領域の広さを実感することができた講演会でした。

学会奨励賞
当社の久永美生所員が、ダイヤモンドの成長履歴に関する研究において優れた発表を続けていることが評価され、学会奨励賞を受賞しました。
本年度の学会奨励賞受賞者は、福田千紘氏(ジェムリサーチジャパン株式会社)との2名でした。

学会奨励賞を受賞した久永所員
学会奨励賞を受賞した久永所員

懇親会
講演会終了後は、古名屋ホテルにて懇親会が行われました。他の出席者の方々との交流がはかれ、有意義な時間を過ごすことができました。

懇親会の様子
懇親会の様子

見学会
見学会では、特別講演を行った綿打教授が在籍する「山梨大学工学部クリスタル科学研究センター」をはじめ、近隣の宝石関連博物館を訪れました。宝石加工・研磨や貴金属加工等、ジュエリー関連産業が集中する山梨県での開催とあって、見学した施設がどれも大変素晴らしかったことが印象的でした。

山梨大学工学部クリスタル科学研究センター
山梨大学工学部クリスタル科学研究センター
浮遊帯域(FZ)法合成装置
浮遊帯域 ( FZ ) 法合成装置

○山梨大学工学部クリスタル科学研究センター
天然の鉱物・宝石を人工合成する研究施設として、1962年に創立。地元業界との密接な交流を基に、その発展に貢献するとともに、人工鉱物として位置付けられる無機材料に関する最新の研究が行われています。今回は、特別講演で紹介された合成結晶や、それを生成する浮遊帯域(FZ)法合成装置を視察しました。

○山梨宝石博物館
宝石で名高い山梨県に創立された国内で唯一の宝石博物館。
原石、カット石、ジュエリー製品や彫刻作品に至るまで、約500種3,000点のコレクションが収集されています。

山梨宝石博物館
山梨宝石博物館
館内の様子
館内の様子

○象牙彫刻美術館
甲府盆地が一望できる丘の上に立つ美術館。
象牙を用いた細密彫刻やシベリアから発掘された5万年前のマンモスの牙等、約300点もの美術品が展示されています。

象牙彫刻美術館のある総合施設入口
象牙彫刻美術館のある総合施設入口

○山梨県立宝石美術専門学校附属ジュエリーミュージアム
(通称:山梨ジュエリーミュージアム)
山梨県におけるジュエリー産業の発祥と歴史、受け継がれてきた加工技術等が実演を含めて大変分かりやすく展示されていました。
期間限定の企画展では、「イメージをまとう  -  モチーフジュエリーの魅力-  」が開催されていました。◆

山梨ジュエリーミュージアム
山梨ジュエリーミュージアム

第9回NDNC国際会議 2015に参加して

2015年9月No.28

リサーチ室 北脇  裕士

去る 5月24日(日)~28日(木)にGRANSHIP(静岡コンベンション&アーツセンター)にて表題の国際会議が開催されました。リサーチ室より筆者が参加しましたのでご報告いたします。
NDNC(New Diamond and Nano Carbons)は2007年にICNDST (International Conference for Diamond Science and Technologies)とADC(Applied Diamond Conference)が統合されて新たに創設された学会です。ダイヤモンドの気相合成に始まり、ナノチューブ、フラーレン、グラフェンといったナノ構造的に新しい炭素も対象に盛り込まれています。創設第1回目の会議は2007年に大阪で開催されており、以降台湾(2008)、米国(2009)、中国(2010)、松江(2011)、米国(2012)、シンガポール(2013)、米国(2014)と開催されています。

今回の第9回会議は4年ぶりに日本での開催となりました。国内はもとより、台湾、中国、韓国などのアジア諸国に加え米国、ドイツ、ロシア、オーストラリア、フランスなど24か国から293名が参加しました。招待講演は15講演あり、口頭発表は総計で90に及びました。また、ポスター発表も147件行われました。各演題は結晶成長、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、グラフェン、ディテクター(検出器)、NVセンタ、デバイス、ナノダイヤモンドなど24のセッションに振り分けられ、ダイヤモンドに関する幅広い分野での最先端の研究成果が披露されました。
本年はジェモロジーのセッションも設けられており、ここで3題の口頭発表と1題のポスター発表が行われました。ここでの発表内容を以下に簡単にご紹介します。

IIa Technologies Pte Ltd., Singaporeの C.M. Yap氏は13Cに富むCVD単結晶合成ダイヤモンドの性質について講演されました。GIAのW. Wang氏は炭素同位体の分析により天然Ⅱ型ダイヤモンドとCVD合成が識別できることを紹介されました。これは天然ダイヤモンドとCVD合成では炭素の同位体比に違いがあるためですが、製造者があえて天然と同じ同位体比の原料を用いると区別ができなくなります。
GIAのU. F. S. D’Haenens–Johansson氏は高濃度のSiVを有するCVD合成ダイヤモンドについて講演されました。その中でSiV0/–センターのフォトクロミズムにより褐ピンク色~青色の色変化が生じることを報告されました。また、ポスター発表ではGIAのS. Odake氏が超高圧下(16GPa)における天然Ⅱ型ダイヤモンドのHPHT処理実験の結果を紹介されました。処理後にGR1の半値幅がやや小さくなるものの、一般的なHPHT処理と大きな変化は見られなかったと報告されました。
次回のNDNC2016は中国の西安で開催されることが決定されています。◆

写真1:会場となったGRANSHIP (静岡コンベンション&アーツセンター)
写真1:会場となったGRANSHIP
(静岡コンベンション&アーツセンター)
写真2:NDNC2015のインフォメーション
写真2:NDNC2015のインフォメーション

ICA Congress 参加報告

2015年9月No.28

リサーチ室 江森 健太郎、北脇 裕士

去る5月15日(金)から19日(火)にかけてスリランカのコロンボにてICA Congress2015が開催されました。CGLリサーチ室より2名が参加し、主任研究員の江森が招待講演を行いました。また、Congress終了後にラトナプラ、ベルワラのサファイア鉱山とマーケットを視察する機会を得ましたので合わせてご報告いたします。

ICA Congress
ICA Congress
ICA Congressで発表を行う江森所員
ICA Congressで発表を行う江森所員
ICA Congress 2015

ICA(International Colored Gemstone Association)は1984年に設立された色石についての知識と認識を促進するための非営利団体で、現在47ヶ国600人の宝石ディーラー、カッター、鉱夫と小売業者から成っています。色石についての国際的なコミュニケーション、取引を改善し、ビジネスのための一般的な用語統一のため、ICAの世界的なネットワークが機能しています。
ICA Congressは2年に1度開催されるICA主催の国際会議で、本年はスリランカで開催されました。会場となったのはコロンボの格式のある「Cinnamon Grand」ホテルです。会議期間中は、世界中の著名な宝石鑑別ラボやICAの主要メンバーによる招待講演、そしてGem Show、会員間の交流を深めるスポーツ大会などが行われました。 Congress後にはPost Congress (会議後の巡検)として、5/20~5/26にスリランカの主要な鉱山等を回るツアーが企画されていました。CGLからは北脇裕士と江森健太郎が参加し、江森が「Beryllium-Diffused Corundum in the Japanese Market and Assessing the Natural vs. Diffused Origin of Beryllium Sapphires」(日本市場におけるBe拡散処理コランダムの現状と天然起源のBeを有するサファイアとの識別)というタイトルで講演を行いました。

Sri Lanka 鉱山ツアー

ICA Congress終了後、 ICA主催のPost Congressとは別にベルワラのマーケット、加熱処理現場、ラトナプラの鉱山を視察する機会を得ました(すでにスリランカ宝石最新事情についての詳細な情報はCGL通信11号(https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/11/12.html)に掲載されておりますのでご参照ください)。

加熱に使用するガス炉
加熱に使用するガス炉

○ ベルワラのガス炉による加熱処理現場

ベルワラはコロンボの南方およそ60kmに位置する中規模の都市で、重要な宝石マーケットとして古くから知られています。我々はまず初めにベルワラでコランダムの加熱を行っている処理業者を訪ね、彼らが使用しているガス炉を見せていただき、詳しい説明を聞くことができました。ガス炉では1600°C〜1900°Cの温度範囲で加熱することで、ギウダの処理を行っています。ブルーやパパラチャなどの色の違いにより加熱の手法が異なるのはもちろんのこと、同じブルーでも原石がマダガスカル産なのかスリランカ産なのかによっても異なるそうです。ギウダとひとことで言ってもディーゼル、シルキー、ミルキー、オットゥなどその原石の性質に応じて細かく区別され、加熱の手法(加熱温度、時間、酸化なのか還元なのかなど)も異なります。また、ガス炉で加熱したのちに、ある種のサファイアは電気炉を用いて再加熱を行っているとのことでした。

ブルーサファイアは還元雰囲気で加熱する必要があるため、炭素を使用します。その結果炉内は黒色になります。
ブルーサファイアは還元雰囲気で加熱する必要があるため、炭素を使用します。その結果炉内は黒色になります。
また、酸化雰囲気で加熱するために使用される炉は炭素を使用しないため、炉は白いままになります。
一方、酸化雰囲気で加熱するために使用される炉は炭素を使用しないため、炉は白いままになります。

○ ベルワラのマーケット

次にベルワラのマーケットへ市場調査に行きました。ベルワラの市場では早朝から夕方(18時頃)まで取引が行われています。5000人におよぶディーラーそして100近いオフィスがあるそうで、コロンボの有名なディーラーはベルワラにもオフィスを構えている人が多いとのことでした。ここにはスリランカ産だけではなく、アフリカ、その他世界中の産地のサファイアが集まります。オフィスの中には次々にサファイアを持ったディーラーが集まり、入れ替わり立ち代わりで非常に活発な取引が行われていました。

取引では、非加熱、加熱、Be拡散処理などが明確に開示されており、買い手はその情報をもとに慎重に品定めをします。また、産地に関してもスリランカ産、マダガスカル産など適宜情報開示がなされていました。

ベルワラのマーケット、路上の様子。ディーラーで道が埋め尽くされてしまうくらい多くのディーラーが集まっています。
ベルワラのマーケット、路上の様子。ディーラーで道が埋め尽くされてしまうくらい多くのディーラーが集まっています。
オフィス内部の様子。サファイアを持ったディーラーが次々に入ってきて商談が行われます。
オフィス内部の様子。サファイアを持ったディーラーが次々に入ってきて商談が行われます。
い付けの様子。売り手の情報開示の下、慎重に品定めをする。
買い付けの様子。売り手の情報開示の下、慎重に品定めをします。

○ Blow pipe(吹管)を用いた加熱処理

ラトナプラでは、伝統的な加熱手法であるBlow pipeを用いてルビーを加熱する現場と研磨作業を視察することができました。 Blow pipeはスリランカにおける伝統的なコランダムの加熱方法で、主にルビーの色調を改善し、内在する青味を除去するために行っています。ルビーを一粒ずつ練った石灰で包んでボールを作り、炭火の中に入れ、Blow pipeで火をあおりつつ、1時間ほど加熱します。そして焼けた石灰を割り、ルビーを取り出します。この手法では1000°Cまでしか温度は上がらないといわれています。

Blow pipeによる加熱処理を行っている様子
Blow pipeによる加熱処理を行っている様子
ルビーの研磨を行なっている様子
ルビーの研磨を行なっている様子

○ ラトナプラでの鉱山視察

ラトナプラは現地語で”宝石の街”を意味します。ラトナプラは平坦な農耕地で、その地下にイラム層と呼ばれる宝石を含有した砂利層が存在します。スリランカで商業的に採掘がおこなわれているのは、ほとんどが漂砂鉱床(第二次鉱床)で、多くが縦穴掘り方式でイラム層を採掘しています。また、付近の川からmammoties(マッモティーズ)という棒を用いて川底を直接さらうことによる採取も行われています。我々も今回の視察で、縦穴掘り方式の採掘法や川底からの採取を視察することができました。

農耕地の中に縦穴式の鉱山があちこち点在しています。
農耕地の中に縦穴式の鉱山があちこち点在しています。
縦穴の下から宝石を人力で汲み上げる鉱夫
縦穴の下から宝石を人力で汲み上げる鉱夫
縦穴内部
縦穴内部
川底から汲み上げて採取している様子
川底から汲み上げて採取している様子
採掘した砂利から、パニングを行い、サファイアを探します。
採掘した砂利から、パニングを行い、サファイアを探します。

○ ラトナプラの原石マーケット

最終日、我々はラトナプラの原石マーケットを視察しました。ここはカットされたサファイアではなく、原石のサファイアのみを扱うマーケットで、オフィス等を使用せずに公園のような場所で直接取引が行われます。ざっと見たところ200名ほどのディーラーが集まっているようでした。

ラトナプラの原石マーケット。公園のような場所で活発な取引が行われていました。
ラトナプラの原石マーケット。公園のような場所で活発な取引が行われていました。
原石マーケットでの取引の様子。立っていると次々に原石が入ったパーセルを開いたディーラーがやってきます。
原石マーケットでの取引の様子。立っていると次々に原石が入ったパーセルを開いたディーラーがやってきます。◆