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日本鉱物科学会2012年年会

研究室 江森健太郎  

去る9月19日(水)~21日(金)までの3日間、京都大学吉田キャンパス北部構内において日本鉱物科学会の2012年年会が行われました。弊社からは2名の技術者が参加し、発表を行いました。以下に年会の概要をご報告いたします。

鉱物科学会2012年年会が行われた京都大学吉田キャンパス理学部正門前にて

鉱物科学会2012年年会が行われた
京都大学吉田キャンパス理学部正門前にて

日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Sciences)は平成19年9月に日本鉱物学会と日本岩石鉱物鉱床学会の2つの学会が統合・合併され発足し、現在は大学の研究者を中心におよそ1000名の会員数を擁しています


日本鉱物科学会2012年年会

京都大学正門

会場となった京都大学吉田キャンパスは筆者が学生時代学部から博士後期過程まで在籍した大学です。京都大学は日本で2番目に創設された帝国大学の流れを汲んでいる国立大学で、精神的な基盤として「自由な学風」を謳っており、その自由な学風からノーベル賞受賞者も多数輩出しています。最近では、医学部山中教授がiPS細胞の研究でノーベル医学賞を受賞し、話題になりました。
地理的には京都市の中心部より北東側に位置する左京区にあります。銀閣寺や節分祭で有名な吉田神社が校舎の近くにあります。交通手段としては京都市営バス(京都駅より30分程度)や京阪電鉄出町柳駅から徒歩15分ほどで、どちらも本数があるためアクセスは良好です。


ポスターセッションの様子

ポスターセッションの様子

一日目、19日(水)の午前9時より2つの会場で「地球表層・環境・生命」「大震災及び福島原発事故にかかわる環境有害元素の挙動を鉱物学から探る」「火成作用と流体」「深成岩・火山岩及びサブダクションファクトリー」「結晶構造・結晶科学・物性・結晶成長・応用鉱物」「変成岩とテクトニクス」のセッションがはじまりました。また別会場でポスターセッションが同時に開催されていました。お昼の12時~14時はポスターセッションのコアタイムに指定されており、ポスター発表者による説明や質疑応答、議論などが活発に行われていました。なお、このポスター発表は学会開催期間3日間を通して行われており(それぞれの日で発表演目は異なります)、3日間ともコアタイムはたくさんの人で賑わっていました。


鉱物科学会受賞講演の様子

鉱物科学会受賞講演の様子

二日目、20日(木)の午前9時15分より鉱物科学会の総会、そして10時30分より鉱物科学会受賞講演がありました。平成23年度日本鉱物科学会賞第8回受賞者の熊本大学理学部吉朝朗教授の講演の後、研究奨励賞第9回受賞者の浜根大輔氏、研究奨励賞第10回受賞者の小松一生氏の講演がありました。


午後14時から「結晶構造・結晶科学・物性・結晶成長・応用鉱物」「高圧・地球深部」「岩石水相互作用」「変成岩とテクトニクス」のセッションがありました。弊社研究者は「結晶構造」のセッションを聴講しました。筆者の恩師である北村雅夫名誉教授の「部分キンクにおける着脱平衡とカイネティックス」という発表がありました。非常に難しい内容でしたが、鉱物学の最先端を垣間見る内容の発表で感銘を受けました。

三日目の21日(金)は朝9時から三箇所の会場で各セッションが行われました。弊社研究者は午前9時からの定番セッション「鉱物記載・分析評価」のセッションで「LA-ICP-MS分析法の宝石学への応用~合成ルビーと天然ルビーの鑑別について」と「宝石質天然ダイヤモンドの包有鉱物及びCL像の研究」の2件の講演を行いました。宝石鑑別の依頼についてや情報開示等についての質問があり、聴講者の宝石学への興味が感じられ発表を行った成果は上々であったように思われます。

スリランカ宝石最新事情

2012年6月11日(月)~16日(土)の約一週間、弊社研究室の技術者がスリランカを訪れ、同国最大の国際都市コロンボでの宝石取引、ラトナプーラでの採掘現場を視察しました。また、同年2月に新たに発見されたカタラガマ鉱山に関する最新の情報を入手し、原石と研磨石を検査する機会を得ることが出来ました。

以下に概要をご報告致します。

ラトナプーラの鉱山:縦穴掘り方式ラトナプーラの鉱山:縦穴掘り方式

宝石の島スリランカ

スリランカの地図スリランカの地図

スリランカはインド半島南東のインド洋にあるセイロン島からなる国で正式名称はスリランカ民主社会主義共和国です。スリランカとは現地の言葉(シンハラ語)で“光り輝く島”という意味で、まさに宝石の島にぴったりです。セイロン島は世界で25番目に大きい島で、面積は日本の1/6。北海道よりはやや小さめです。ちなみに宝石の島として近年良く比較されるマダガスカル島は世界で4番目に大きい島で、セイロン島のおよそ9倍もの面積があります。スリランカは16世紀の初めポルトガル領となり、次いで17世紀にはオランダ領、18世紀にはイギリス領となりました。1948年にはイギリス領セイロン自治領として独立、1972年には共和国として独立国家となりました。

スリランカは歴史を通じて宝石の島として知られており、採掘された宝石は2000年以上も前から世界中へ供給されてきました。かつてソロモン王はセイロンに使者を遣わせシバの女王のためにルビーを探させたと言われています。また、マルコポーロは東方見聞録にアヌラダープラで男の拳大ほどのキズのないルビーを見たと記述しています。

スリランカは世界的に著名な宝石を多く産出していますが、とりわけサファイアは有名です。NYのアメリカ自然史博物館に展示されている“Star of India”は世界でも最大級のスリランカ産のブルースターサファイアです。また、1981年にチャールズ皇太子からダイアナ妃へ、2010年ウィリアム王子からキャサリン妃へと贈られた英国王室継承の18ctのブルーサファイアもスリランカ産として話題を集めました。

国際都市コロンボでの宝石取引

コロンボの地名はコランバという果樹に由来すると考えられていますが、ポルトガル人がコロンブスにちなんで改称したともいわれています。海洋交易の要地で、10世紀にはアラブ商人の居留地ができ、16世紀初めにはポルトガル人が香辛料交易のために築城しました。独立後、1985年の遷都までセイロン(スリランカ)の首都となっていました。

その昔、大航海時代にはラトナプーラで採掘された宝石は南西海岸に位置するニゴンボやベルワラといった港町から世界に広く伝えられました。特にベルワラは西暦800年頃スリランカに宝石や香辛料を求めてやってきたアラブ商人たちが開いて発展した港町で当時は大いに栄えました。しかし、航空機時代に入った今日、スリランカ産の宝石はスリランカ最大の国際都市コロンボが宝石取引の中心となっています。

筆者がコロンボを訪れた際も、とある宝石商の自宅兼事務所で活発な取引が行われていました。事務所に買い手が現れると、どこからともなく売り手も集まってきます。そして長蛇の順番待ちも厭わず持参した宝石を取り出し商談が始まります。買い手はパーセルペーパーから宝石を取り出し、窓際でルーペとペンライトを使用して慎重に吟味します。要らないと判断した宝石はすぐに返し、買いたいと思った宝石は集めておいて最後に値段交渉が行われます。売り手が持参する宝石はスリランカ産のありとあらゆる宝石の他にブラジル産、ミャンマー産、アフリカ産等、世界各地の宝石が含まれていました。

中でもコランダムは最も取引量が多く、原産地と加熱・非加熱の情報開示が明確になされていました。ルビーはモザンビーク産、マダガスカル産、タンザニア産、ミャンマー産等で、パーセルペーパーに何も書かれていなければ加熱ですが、非加熱にはNaturalもしくは“N”と記載されていました。産地ごとに若干色味が異なっており、モザンビーク産はやや橙色味を、マダガスカル産はやや紫色味を感じます。並べて比較するとその違いが良く判ります。筆者もバイヤー等と共に朝から夕方まで数多くのルビーやサファイアをペンライトの光を透過させてルーペで包有物を観察しました。Naturalと記載されたものには非加熱の特徴がほとんどのものに確認でき、産地特徴も含めて大変良い勉強になりました。

非加熱ルビー:産地ごとに色味が若干異なる。右からモザンビーク産、タンザニア産、マダガスカル産非加熱ルビー:産地ごとに色味が若干異なる。右からモザンビーク産、タンザニア産、マダガスカル産

ブルーサファイアはスリランカ産とマダガスカル産がほとんどでした。スリランカ産のものは当地だけあってラトナプーラ産、エラヘラ産、オカンピティア産等、産出鉱山の明らかなものも見ることが出来ました。鉱山ごとの違いは特に感じられませんでしたが、一般に非加熱のスリランカ産ブルーサファイアは色調のやや淡いものが多いのですが、どこの鉱山にも産地を見紛う程濃色のものがあることが確認できました。

ラトナプーラ産:濃色のブルーサファイアラトナプーラ産:濃色のブルーサファイア

マダガスカル産では幸運なことに最近見つかったばかりの新しい鉱山のものを6ピース見ることが出来ました。これらは2012年の4月にマダガスカル中央部のディディ村周辺で見つかったものです。ディディ村は首都のアンタナナリボから北東に150kmくらいの場所で、ルビーの産地として知られるバトゥマンドリーとアンディラムナの中間点位に位置します。2012年のPardieuらによる研究論文(Pardieu et al., 2012a ※1)によると、現在この地ではサファイアラッシュが起きており、主にスリランカのバイヤーが数百人買い付けに集まっているそうです。今後この地のサファイアが日本の市場にも登場するかもしれません。これらのブルーサファイアを強力なスポットライトの下でみると若干紫味が感じられました。ルーペで内部特徴を観察すると、従来のマダガスカル産ブルーサファイアに一般的なシルクインクルージョンやクラウド状の微小インクルージョンは認められませんでした。一部に針状インクルージョンとおそらくグラファイトと思われる黒色板状結晶が見られました。その他に褐色の酸化膜が認められました。

マダガスカルの新鉱山ディディ産のブルーサファイアマダガスカルの新鉱山ディディ産のブルーサファイア

ラトナプーラ鉱山視察

ラトナプーラは現地の言葉で“宝石の町”を意味します。紀元前から宝石の産出が知られている歴史的にも最も重要な宝石鉱山のひとつと言えます。ラトナプーラの町はコロンボから南東約110kmに位置し、車で3時間あまりの距離にあります。コロンボからしばらくは高速道路並みの舗装道路が続きますが、途中からは湾曲した山道となります。ラトナプーラ周辺は平坦な農耕地で、この地下にイラム層と呼ばれる宝石含有の砂利層があります。スリランカでは商業的に採掘されているのはほとんどが漂砂鉱床(第二次鉱床)で、多くが縦穴掘り方式でこのイラム層を採掘しています。また、付近の川から川底を直接さらうことにより宝石が採取されてもいます。

筆者が訪れたパラダイス地区はもともと国有地でしたが、国から採掘権を購入し、近代的な採掘が行われていました。数年前からは重機の使用が認められ、生産性が向上したとのことでした。スリランカでは過去に相当量の宝石が採掘されたので、鉱床が消耗していずれ枯渇しないかとの懸念もありましたが、現状はそのようなことはなく採掘量に問題はなさそうでした。ブルーサファイアは、2000年代に入ってからマダガスカルでの産出量が増加し、我々が日常業務でみる限りではスリランカ産を凌駕した感がありました。しかし、米国地質調査所の統計によると、スリランカ産のブルーサファイアの産出量は2000年以降も漸次増加し続けています。2007年に一旦減少しますが、2010年には過去最高を記録しています(Kuo氏論文2003年, 2011年参照/(Kuo,2003 ※2、Kuo,2011 ※3))。

パラダイス地区での採掘方法は、縦坑を掘りません。[1]先ず重機を用いて土を堀り進め、イラム層を採掘します。[2]水圧を使って土を砕きます。[3]砕かれたイラム層を含む土を水と一緒にホースで吸い上げます。[4]吸い上げられた土はベルトコンベアー上でふるいにかけられます。[5]最終的に集積タンクに比重の大きい石(宝石類)が集められます。集積タンクには鍵がかけられており、オーナーが随時回収します。この方法ではまとまった初期投資が必要ですが、立坑での採掘方法に比べると圧倒的に生産性が高いのが特徴です。国の法律により最終的には採掘で掘り起こした土地は元通りに埋め直さなければならないそうです。

パラダイス地区での重機を使用した近代的な採掘
パワーショベルで採掘パワーショベルで採掘

水圧で土を砕きポンプで吸い上げる水圧で土を砕きポンプで吸い上げる

 

パラダイス地区から少し外れた場所で、一般的な縦坑の鉱区も視察できました。ここではイラム層が地下の深い位置に有り、最大で60mも立坑を掘っているとのことです。掘削は全て手作業で進められています。縦坑の断面は一片が1~1.5mくらいの正方形です。深さ方向はイラム層が横たわる位置により異なりますが、通常は5m~10m程度です。縦坑の壁面は土砂が崩れないようゴムの木から削られた杭で補強されていきます。縦坑が浅い場合は杭の量も少ないのですが、縦坑が深い場合は杭も太くぎっしりと敷き詰められています。縦坑がイラム層に達すると横坑を掘ります。縦坑が深くなると周囲が暗くなるため、ロウソクが灯されます。ロウソクの火が消えると酸素が薄いことの警告にもなります。しかし、希にメタンガスが発生して爆発の危険もあるとのことです。そのような深い縦坑にはホースを使って地上から常に新鮮な空気が送られます。逆に切羽からは排水が必要なため、常にポンプで水が汲み上げられています。掘削されたイラム層の土は、縦坑が浅い時は地下にいる鉱夫と地上にいる鉱夫がザルを使って土だけをうまく投げてはキャッチしています。縦坑が深くなると布の袋に詰められてロープに結んで地上に引き上げられます。地上に引き上げられた土は一箇所に集められその後選鉱されます。

ここで採掘される宝石はコランダム(ルビー、サファイア)、クリソベリル(キャッツアイ、アレキサンドライト)、ジルコン、スピネル、ムーンストーン、トパーズ、トルマリン、ペリドット、ガーネット及びクォーツ等です。中でもブルーサファイアは非加熱でも美しい色合いのものが採掘されており、ラトナプーラを代表する宝石と言えます。

ラトナプーラでの一般的な縦穴方式の採掘
ゴムの木で補強された縦坑ゴムの木で補強された縦坑

人力で引き上げられるイラム層の土人力で引き上げられるイラム層の土

 

サファイアの加熱

一説によるとスリランカでの加熱処理は宝石取引が始まった2000年前に遡るとされていますが、文献として記載されているのは13世紀に入ってからです(Hughes,1997 ※4)。スリランカにおける伝統的なコランダムの加熱方法は吹管(blow-pipe)法と呼ばれるものです。主にルビーの色調を改善したり、内在する青味を除去するために加熱されていました。[1]先ずルビーを一粒ずつ練った石灰でくるんでボールを作り炭火の中に入れます。[2]吹管で吹いて炎を煽り1時間以上加熱します。[3]焼けた石灰のボールを割ってルビーを取り出します。この吹管法では1000℃位までしか温度が上がらないと言われています。

1970年代に入るとタイのバンコクやチャンタブリでいわゆるギウダの加熱が行われるようになりました。ギウダはシンハラ語で“白っぽい”を意味する言葉で、色の淡いシルクインクルージョンの詰まった透明度の低いサファイアのことです。スリランカの伝統的な吹管法では変化が見られませんでしたが、タイではオイル炉やガス炉を使用して1600℃~1900℃まで加熱することでギウダの処理を成し遂げました。このような高温下ではシルクインクルージョン(TiO2)が溶解し、チタン成分が結晶構造中に拡散して青色を発色します。また、タイでは1980年代に入って青色に変化しないサファイアを別の条件下で黄色~橙色にする方法も開発されました(Hughes,1997 ※4)。ギウダの加熱が開発された当初はスリランカ産の宝石に使用されない安価な素材がタイで処理され市場価値が高められていました。そのためスリランカ政府も自国で処理ができるように技術開発を支援し、1980年代後半からはスリランカにおいてもガス炉を使用したギウダの加熱が一般的に行われるようになりました。

筆者はコロンボからラトナプーラへ向かう途中、エヘリヤゴダの町でサファイアの加熱を行っているトリーターを訪ねました。ここではブルーサファイアを専門に加熱しており、2台のガス炉を使用していました。装置には温度計が設置されており、最高で1850℃に達するとのことです。毎日朝8時30分に炉に火を入れ、夕方まで加熱するそうです。ガスはプロパンガスと酸素ガスを用いていました。

エヘリヤゴダのトリーターがブルーサファイアの加熱に使用しているガス炉エヘリヤゴダのトリーターがブルーサファイアの
加熱に使用しているガス炉

加熱に使用されているるつぼ。何度もくり返し使用されている加熱に使用されているるつぼ。
何度もくり返し使用されている

 

加熱するのはギウダですが、目視で経験的に他の鉱物(ガーネットやクォーツ等)を取り除いており、ウォーミングは行っていないとのことでした(タイではしばしば加熱の第一ステップとして900~1200℃程度でコランダム以外の鉱物やフラクチャー中の不純物を取り除く“ウォーミング”を行っています)。加熱時はるつぼにギウダのみを入れており、いかなる化学物質も添加していないとのことでした。1回目目の加熱で希望する色に変化したものはそこで終了ですが、まだ色の変化が足りないものは2回目の加熱を行うそうです。3回目はありません。

ブルーサファイアの加熱に使用されているプロパンガスのボンベブルーサファイアの加熱に使用されている
プロパンガスのボンベ

1回目の加熱が施されたブルーサファイア未だ淡色のものは2回目の加熱が行われる1回目の加熱が施されたブルーサファイア
未だ淡色のものは2回目の加熱が行われる

 

ラトナプーラにはこのようなガス炉を使用したコランダムの加熱処理施設が複数あり、ブルー、ピンク、イエロー~オレンジ色に処理されているようです。一部では電気炉を使用しているところもあり、厳密な温度や雰囲気の制御を行っているようです。また、ベルワラにはパパラチャサファイアを専門に加熱しているところもあるようで、機会があればぜひ訪れてみたいと思っています。

ラトナプーラの鉱山で採掘された非加熱のサファイアラトナプーラの鉱山で採掘された
非加熱のサファイア

ラトナプーラのトリーターが加熱した黄色~橙色サファイア(一般に非加熱の黄色よりも濃色である)ラトナプーラのトリーターが加熱した黄色~橙色
サファイア(一般に非加熱の黄色よりも濃色である)

 

カタラガマ鉱山情報

カタラガマはコロンボから南東へおよそ280kmに位置する歴史の古い街です。1970年代の後半までサファイアの鉱区として知られていましたが、以降は産出がなく採掘はほとんど行われていませんでした。ところが、2012年の2月中旬、カタラガマからルヌガムウェヘラへの道路建設の際に新たにブルーサファイアが発見され、俄かに採掘ラッシュが起きました。文献Zoysa et al.(2012) ※5 及びPardieu et al.(2012b)によると、2012年2月13日、道路建設用に敷き詰められていた土砂から地元民によって偶然ブルーサファイアがいくつか発見されました。数日間続いていた雨が土砂を洗い、ブルーサファイアを露出させて発見を容易にしていたようです。見つけられたサファイアには何百キャラットのものも含まれており、筆者もあるディーラーから700ctの原石の写真を見せていただきました。

カタラガマ道路建設現場でのブルーサファイアの採掘(写真提供:Gamini Zoysa)カタラガマ道路建設現場でのブルーサファイアの
採掘(写真提供:Gamini Zoysa)

カタラガマ鉱区でのブルーサファイアの採掘(写真提供:Gamini Zoysa)カタラガマ鉱区でのブルーサファイアの採掘
(写真提供:Gamini Zoysa)

 

このニュースは携帯電話やメール等によって瞬く間にスリランカ中に広がりました。英国王室のウィリアム王子の婚約に纏わるスリランカ産ブルーサファイアの人気も相まって、数日後には10,000~30,000人もの一攫千金を夢見た人々がこの発見の地に殺到しました。その後、この道路建設用に使用されている土砂は数km離れた農場から運び込まれていることが分かり、この農場を含む一帯が国によって管理されるようになりました。2月24日にはSri Lanka`s National Gem & Jewellery Authority(NGJA)によってこのおよそ14,000km2の土地が49の鉱区に分割され、それぞれがオークションにかけられました。

スリランカでは採掘に関して重機の使用が制限されており、この地においてもほとんどが簡単な道具を使った手作業で行われています。見つけられた原石は六角両錐体や六方偏三角面体に近い自形結晶があり、初生鉱床もしくはそれに近いものではないかと考えられています。スリランカでの宝石鉱床はごく一部を除いてほとんどが二次鉱床であり、初生鉱床の発見は地質学的にも非常に意義があります。

このようにカタラガマは新しいブルーサファイアの発見の地として期待されています。しかし、残念ながら筆者が収集した情報の限りにおいては現在まで思うような産出量は得られていないようです。発見当初のみ採掘ラッシュで賑わいましたが、採算に見合う産出が得られず多くの鉱夫たちは現地を引き上げているようです。今後、どのように推移するのか注視が必要です。

カタラガマ産サファイア原石(写真提供:Gamini Zoysa)カタラガマ産サファイア原石
(写真提供:Gamini Zoysa)

宝石品質のカタラガマ産ブルーサファイア宝石品質のカタラガマ産ブルーサファイア

 

帰国後、カタラガマ産のカット石を1ピース研究室で調べることが出来ました。色合いはスリランカの他の鉱区と特に相違はありませんでした。拡大検査において明瞭な色帯が観察されました。また、クラウド状の微小インクルージョンが見られ、一見したところ、いわゆる“コーンフラワー”タイプの外観を呈します。紫外-可視分光分析では一般的な非玄武岩起源の特徴を有しており、450nmと388nmに鉄(Fe3+)に関連する吸収が見られました。また、赤外分光分析では3309cm−1にOHに起因する僅かな吸収が見られました。蛍光X線分析ではごく微量のチタン(Ti)とガリウム(Ga)が検出されましたが、バナジウム(V)は検出限界以下でした。鉄(Fe)は相当量検出され、一般的なスリランカ産ブルーサファイアとしてはやや高めの数値でした。

カタラガマ産ブルーサファイアに見られる色帯カタラガマ産ブルーサファイアに見られる色帯
カタラガマ産ブルーサファイアに見られる微小インクルージョンアカタラガマ産ブルーサファイアに見られる
微小インクルージョン

 

【 参考文献 】
※1 Pardieu V., Rakotosaora N., Noverraz M. and Bryl L.P. (2012a) Ruby and Sapphire Rush near Didy,Madagascar, GIA news from research
※2 Kuo C.S. (2003) The Mineral Industry of Sri Lanka, U.S. Geological Survey Minerals Year Book 2003
※3 Kuo C.S. (2011) The Mineral Industry of Sri Lanka, U.S. Geological Survey Minerals Year Book 2010
※4 Hughes R. W. (1977) ruby & sapphire RWH Publishing Boulder, Colorado USA
※5 Zoysa G. and Rahuman S. (2012) Sapphire Rush in Kataragama. InColor, issue19 ,pp56-61
※6 Pardieu V., Dubinsky E. V., Sangsawong S. and Chauvire B. (2012b) Sappire rush near Kataragama,Sri Lanka, GIA news from research