2005年末頃から、“新技法加熱処理が施された”ブルーサファイアがタイのマーケットに入ってきました。すぐさま、それらのブルーサファイアはベリリウム(Be)拡散加熱処理であることが判明しましたが、加熱方法自体未だ明らかにはされておらず、軽元素が色にどのような影響を与えているのか、解明されてはいません。今回のCGL通信では、このBe拡散加熱処理が施されたブルーサファイアを観察・分析する機会を得ましたので、その観察・分析結果を報告し、鑑別についての指針を述べたいと思います。
今回、観察及び分析を行ったブルーサファイアは、1.5490ct、1.3745ct、1.3480ctの3ピースです(写真1)。これらすべてのサンプルについて、光学顕微鏡による拡大検査、紫外–可視分光光度計、赤外分光光度計、蛍光X線分析装置、LA-ICP-MS(レーザーアブレーションICP質量分析装置)による分析を行いました。
1 拡大検査で観察されるインクルージョンについて
写真2 通常の加熱処理サファイアに観察されるインクルージョン
通常の加熱処理のサファイアにも観察されるインクルージョンとして、白濁結晶(写真2-a)、ヘイローを伴う
白濁結晶(写真2-b)、途切れた針状結晶(写真2-c)が観察されました。
写真3 今回観察した“新技法加熱処理が施された”ブルーサファイアに特有のインクルージョン
ように十文字に並んでいる状態
2 レーザートモグラフによる観察
写真4 今回観察したブルーサファイアに特有のレーザートモグラフ写真
した散乱像
3 LA-ICP-MSによるBeの分析結果について
LA-ICP-MSは固体試料にレーザーを照射し、極微小の領域を蒸発させ、その蒸気を質量分析することで、固体中の微量元素の濃度を求める装置です。現在ではコランダムのBe処理の看破を確実に行うには必須の装置です。レーザー装置 (NEW WAVE社UP-213) とICP-MS (Agilent 7500a)を用いて、今回の試料を測定した結果、3つのサンプルから9.38~11.17ppmの濃度のベリリウム(Be)を検出しており、Be拡散加熱処理が施されたことは明白です。
以上の結果より、このようなBe拡散加熱処理が施されたブルーサファイアには特有のインクルージョン、特有なレーザートモグラフ像でのパターンが観察されるため、ある程度はそのインクルージョンないしはパターンでBe処理であるという疑いを立てることは可能です。しかし、それらインクルージョンないしはパターンが見られない可能性もあるので、Be拡散加熱処理が施されたブルーサファイアを確実に看破するためにはLA-ICP-MSによる分析が必須であると思われます。
なお、今回の題についての詳細な内容は宝石学会日本2006にて発表しました。