今回のCGL通信では、新しい2種類の技法の処理(paw mai)が行われたルビーについて、鑑別する機会を得ましたのでご紹介致します。
I.鉛ガラス充填とベリリウム拡散処理を同時に行ったルビー
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写真1
はじめに紹介するルビー4ピース(8.05ct、4.02ct、3.05ct、2.79ct)は、「新技法で処理されたといわれるルビー」として持ち込まれたものです。(写真1)
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写真2
このルビーの中の1ピースを蛍光X線元素分析装置で分析した結果は図1の通りです。4ピース全てを分析した結果、含まれていた鉛(Pb)の量は重量%で0.06%から0.38%でした。写真2は図1に示したルビーを軟X線透過装置で観察したものです。脈状に黒い影が入っている部分が認められます。
また、拡大検査ではフラッシュ効果も認められており、以上の結果から鉛ガラスの充填であることは明らかです。
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図1
これら4ピースのルビーに対しLA-ICP-MS(レーザーアブレーション ICP質量分析装置)を用いて分析した結果、ルビー自体にベリリウム(Be)の拡散は認められませんでしたが、鉛ガラスが充填されているフラクチャー部からは多量のベリリウムが検出されました。ベリリウム拡散処理と鉛ガラス充填を同時に行うつもりであったかは不明ですが、ルビー自体にはベリリウムの拡散は認められず、鉛ガラスの充填の処理のみが行われた石と同様の外観を呈したものであることがわかりました。
II.フラクチャーの部分を修復する処理が施されたルビー
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写真3
次に紹介するルビー(5.110ct)は、表面に達するフラクチャー部を修復する処理が施されたと考えられるルビーです(写真3)。
このルビーの表面(写真4)と、鉛ガラス充填処理を行ったルビーの表面(写真5)をご覧下さい。鉛ガラス充填処理を行ったルビーはフラクチャー部がファセット面上にはっきりと見える(写真5)のに対し、今回のルビーはフラクチャー部は確認されず、ファセット表面に不連続した穴のようなものが観察されることがわかると思います(写真4)。
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写真4 フラクチャーが修復されたルビーの表面写真
(左:落射証明下、右:落射証明+暗視野証明下、50倍)
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写真5 鉛ガラス充填処理が施されたルビーの表面写真
(左:落射証明下、右:落射証明+暗視野証明下、50倍)
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写真6
蛍光X線元素分析装置で分析した結果(図2)と軟X線透過装置で観察した結果(写真6)を示します。蛍光X線元素分析装置では鉛が検出されているにもかかわらず、軟X線透過装置では黒い粒のようなものがわずかに観察されるだけで、鉛ガラスのような膜状に入っている充填は観察されませんでした。
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図2
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写真7
拡大検査したところ、鉛ガラス充填処理に特有のカラーフラッシュは見られませんでしたが、部分的な融着を起こしたフェザーインクルージョンが観察されました。写真7はこのルビーを液浸した状況、写真8・9はこのルビーに見られるフェザーインクルージョンです。
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写真8(×33)
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写真9(×200)
これらの結果から、このルビーはフラクチャーに鉛ガラスが充填されたものではないということがわかります。また、加熱に用いたフラックスだと思われる付着物をLA-ICP-MSで分析した結果、鉛とビスマス(Bi)が検出されました。特に表面に出ている不連続した穴周辺部からは大量の鉛が検出されました。
さらにこの石をLA-ICP-MSで分析した結果、コランダム本体にベリリウムの拡散が確認されています。
フェザーインクルージョンの部分的な融着については図3のような手法で生まれたと考えられます。
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図3 ルビーのフラクチャー修復プロセス
(1)フラクチャーを埋める処理をはじめるために、鉛を主体としたフラックス材と、酸化アルミニウム(ルビーの原料になるもの)を処理するルビーと一緒にルツボに入れます(黄色い部分がフラックス材+酸化アルミニウム)。
(2)加熱すると、フラックス材と酸化アルミニウムがフラクチャーの部分に浸透します。その際、図で白く示した部分のように気泡ができてしまいます。
(3)冷却するとフラクチャー部に合成ルビーが晶出します。オレンジ色の部分が合成ルビーです。また残りのフラックス材がガラスとして図で示した緑の部分のように残ります。この残されたフラックス材は鉛を含んでいるため、軟X線透過装置で観察すると黒い粒として見えます。
(4)表面にも合成ルビーが生成してしまうので、リカットして取り除く必要があります。リカットした結果、フラクチャーの部分がきれいに修復された状態になります(写真4)。
これらの結果から、このルビーは、フラクチャーの修復処理とベリリウム拡散処理を同時に行うために、フラックス材とベリリウムを同時に入れて高温で加熱したものであると考えられます。
今回のCGL通信では、2つの新しい処理技法が施されたルビーについて紹介致しました。タイでは日々新しい処理技法が開発されているため、気をつける必要があります。当社では、常時海外等から新しい処理の情報を入手し、日々の鑑別においても新しい処理が施されていないか注意を払っております。
以上