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Ib型黄色〜褐黄色CVD合成ダイヤモンド

2015年7月No.27

リサーチルーム 北脇 裕士、久永 美生、山本 正博、岡野 誠、江森 健太郎

図1:中央宝石研究所に非開示で持ち込まれたⅠb型CVD合成ダイヤモンド15個。重量は0.18~0.40ct、平均0.25ct
図1:中央宝石研究所に非開示で持ち込まれたⅠb型CVD合成ダイヤモンド15個。重量は0.18~0.40ct、平均0.25ct

中央宝石研究所(CGL)東京支店に非開示で持ち込まれた15個のIb型黄色系CVD合成ダイヤモンドを検査した。これらはラウンドブリリアントカットされたルースで平均重量が0.25ctであった。 カラーはVery Light Yellow~Light Yellowで、一部はBrownish であるが、同系色の天然ダイヤモンドと視覚的には識別ができない。赤外領域の吸収スペクトルにおいてすべての試料に平均3.6ppmの置換型単原子窒素の存在が確認され、これらが主な色因となっている。また、3032、2948、2908、2875 cm–1に天然ダイヤモンドには見られないC-H由来の吸収が見られた。これらとフォトルミネッセンス(PL)分析で検出されたH3、NVおよびN3センタなどの光学中心との組み合わせから結晶成長後に1900~2200℃程度のHPHT処理が施されていることが示唆される。
このようなIb型の黄色系CVD合成ダイヤモンドは、標準的な宝石学的検査だけでは識別が困難であるが、低温下でのPL分光分析やDiamondView™による紫外線蛍光像の観察によって、これらが確実にCVD合成ダイヤモンドであることを識別できる。

背景

2012年、アントワープの国際的なダイヤモンドグレーディングラボラトリーから大量ロットのCVD合成ダイヤモンドの報告があり、ダイヤモンド業界を賑わせた(文献1)。それ以降、インドや中国の検査機関からも相次いでCVD合成ダイヤモンドに関する報告がなされており(文献2、3)、当研究所からも非開示で持ち込まれた1ct upのCVD合成ダイヤモンドについて報告を行った(文献4)。宝飾用に供されるCVD合成ダイヤモンドのサイズおよび品質は年々向上しており、その色のバラエティも無色~ほぼ無色だけではなく、ピンクやブルーなど多様化している(文献5、6、7)。これまで報告されているCVD合成ダイヤモンドはほとんどがⅡ型であったが、一部で置換型単原子窒素を含む黄色系CVD合成ダイヤモンドも市場供給されている(文献8、9)。
本報告ではCGLに非開示で持ち込まれた15個の黄色~褐黄色のCVD合成ダイヤモンドの宝石学的特徴をまとめ、天然ダイヤモンドとの重要な識別特徴について検討する。

試料と分析方法

天然ダイヤモンドとして通常のダイヤモンドグレーディングに供された15個のダイヤモンドを検査対象とした(表1)。これらはすべてラウンドブリリアントカットが施されたルースで、重量は0.18~0.40ct、平均0.25ctであった(図1および図2)。カラーグレードおよびクラリティグレードは経験を積んだ当研究所のダイヤモンドグレーディングスタッフによりGIAのグレーディングシステムを用いて行われた。外部特徴および包有物の観察にはMotic製の双眼実体顕微鏡GM168を用いた。紫外線蛍光の観察にはマナスル化学工業製の標準的な4ワットの長波紫外線ライト(365nm)と短波紫外線ライト(253.6nm)を用いて完全な暗室にて行った。紫外-可視-近赤外分光分析には日本分光製V570を用いて分析範囲は220nm-1100nm、バンド幅2.0nm、分解能0.5nm、スキャンスピード400nm/minで室温にて測定を行った。赤外分光分析には日本分光製FT/IR4200を用いて分析範囲は7000-400、分解能は4.0㎝–1で、20回の積算回数で測定を行った。フォトルミネッセンス(PL)分析にはRenishaw社製 inVia Raman MicroscopeとRenishaw社製 Raman system-model 1000を用いて633nm、514nm、488nmおよび325nmの各波長のレーザーを励起源に液体窒素に浸漬した状態で分析を行った。さらに、Diamond Trading Company (DTC)製のDiamondPlus™による検査とDiamondView™による紫外線ルミネッセンス像の観察を行った。

表1: 本研究で検査した15個のⅠb型CVD合成ダイヤモンド
表1:本研究で検査した15個のⅠb型CVD合成ダイヤモンド
結果

◆カラーおよびクラリティ

カラーは15個中12個がVery Light Yellow~Light Yellowであったが、3個はLight Brownish Yellowでやや褐色味があった。クラリティグレードはVS2が2個、SI1が9個、SI2が4個であった。
(注:日本国内においては宝石鑑別団体協議会(AGL)の規約により合成ダイヤモンドのグレーディングは行わない)

図2:カラーグレードは15個中12個がVery Light Yellow~Light Yellowであったが、3個はLight Brownish Yellow。   (左から右へDAG0119~DAG0133)
図2:カラーグレードは15個中12個がVery Light Yellow~Light Yellowであったが、3個はLight Brownish Yellow。
  (左から右へDAG0119~DAG0133)

◆拡大検査
検査したすべての試料に10倍ルーペで少数の微小包有物が観察された。これらの存在がVS以下のクラリティの要因となっている。顕微鏡下でさらに数10倍に拡大すると、黒褐色の不定形を呈しており、非ダイヤモンド構造炭素と考えられる(図3)。ひとつの試料(DAG0133)には2本のほぼ平行で幅の細い直線性色帯(おそらく種結晶に平行)が観察された(図4)。別の試料(DAG0126)には平面的に分布する多数のピンポイントが観察された(図5a)。これらをさらに拡大すると個々は四角形を呈しており(図5b)、おそらく{100}面上に規制されて配列する非ダイヤモンド構造炭素と考えられる。また、一部の試料のガードル部(ブリリアントカットの側面)に黒色のグラファイト化が認められた(図6)。この特徴はHPHT処理が施されたダイヤモンドに見られるものと同様のもので、CVD合成後に色調の改善のためにHPHT処理が施されたことを強く示唆している。

図3:検査したすべての試料に非ダイヤモンド状炭素と思われる不定形の黒色包有物が見られた。
図3:検査したすべての試料に非ダイヤモンド状炭素と思われる不定形の黒色包有物が見られた。
図4:試料DAG0133に見られた平行状の2本の色帯
図4:試料DAG0133に見られた平行状の2本の色帯
図5 a:試料DAG0126に見られた平面上に分布する微小包有物。
図5a:試料DAG0126に見られた平面上に分布する微小包有物。
図5 b:高倍率で拡大すると個々は四角形を呈している。
図5b:高倍率で拡大すると個々は四角形を呈している。
図6:一部の試料のガードル部に黒色のグラファイト化が認められた。
図6:一部の試料のガードル部に黒色のグラファイト化が認められた。

◆歪複屈折
交差偏光板を用いた顕微鏡観察において、今回観察した試料すべてに特徴的な筋模様の歪複屈折(低次の白黒の干渉色)が認められた。これらは結晶の成長方向に平行に伸長したもので(図7b)、主に種結晶と成長結晶の界面から引き継がれた線状欠陥(ディスロケーション)によるものと思われる。その概念図を図7cに示す。このような線状の歪複屈折はCVD合成ダイヤモンドの特徴の1つと考えられる。しかし、成長面に対して垂直方向に観察した場合は細かく交差する網目模様が観察され(図7a)、天然Ⅱ型ダイヤモンドの“タタミ構造”に酷似するため解釈には注意を要する。

図7a
図7a
図7b a、bともに交差偏光下において見られる歪複屈折。
図7b
a、bともに交差偏光下において見られる歪複屈折。
図7c:CVD合成ダイヤモンドに見られる歪複屈折の概念図。
図7c:CVD合成ダイヤモンドに見られる歪複屈折の概念図。

◆紫外線蛍光
すべての検査石に長波・短波ともに黄緑色蛍光が観察された。また、同系色の数秒程度の短い燐光も観察された。蛍光強度は弱~中程度であったが、概して長波よりも短波の方が強かった。

◆紫外-可視-近赤外分光分析
すべての試料において近赤外領域から可視領域の600nm付近まで緩やかに吸収率が増加し、470~480nm付近からは急激な吸収が始まる。またすべての試料において270nm付近に幅広い吸収が認められた。これらの吸収は置換型単原子窒素によるものである(文献10)。褐色味のある3個の試料(DAG0122、DAG0132、DAG0133)には520~530nmを中心とした緩やかな吸収が認められた(図8)。文献11 は窒素を添加して高速度成長させたCVD合成ダイヤモンドに270nm、365nmおよび520nm付近に吸収が見られ、365nm および520nmの吸収はHPHT処理によって消失するとしている。文献12 は同様に窒素添加で高速度成長させた褐色のCVD合成ダイヤモンドに270nm、370nmおよび550nm付近に吸収が見られ、550nmの吸収はNVに関連するものでHPHTにて消失するとしている。また、文献13はAs grownの褐色CVD合成ダイヤモンドに270nm、360nmおよび515nmの吸収が見られ、515nmバンドはNVH0に起因するのではないかとしている。

図8:室温下での紫外-可視-近赤外吸収スペクトル。すべての試料に置換型単原子窒素に由来する270nmのピークが見られる。褐色味のある3個の試料には520nmの緩やかな吸収が見られた。
図8:室温下での紫外-可視-近赤外吸収スペクトル。すべての試料に置換型単原子窒素に由来する270nmのピークが見られる。褐色味のある3個の試料には520nmの緩やかな吸収が見られた。

◆赤外分光分析
すべての試料に1130cm–1、1344cm–1および1332cm–1に置換型単原子窒素のピークが検出された(図9)。1130cm–1と1344cm–1は中性の電荷状態Ns0によるものであり(文献14)、1332cm–1は正の電荷状態Nsに関連するものである(文献15)。1130cm–1のピーク強度から(文献16)の手法により検査石の単原子窒素の濃度を見積もると1.1~7.2ppm、平均3.6ppmであった。また、すべての試料に3200 cm–1~2800cm–1に複数のC-H由来の吸収と考えられるピークが検出された。これらは黄色系の12個の試料では3107、3032、2948、2908、2875 cm–1であったが、褐色味のある3個の試料では2908および2875cm–1のピークはそれぞれ2902および2871cm–1と低波数側にシフトしていた(再び図9)。文献5および文献6はこれらと同様のピークをそれぞれピンク色のCVD合成ダイヤモンドに報告している。

図9:赤外吸収スペクトルではすべての試料に置換型単原子窒素による吸収が見られた。またC-H由来の吸収が見られるが、褐色味のある3個の試料は一部のピーク位置が低波数側にシフトしている。
図9:赤外吸収スペクトルではすべての試料に置換型単原子窒素による吸収が見られた。またC-H由来の吸収が見られるが、褐色味のある3個の試料は一部のピーク位置が低波数側にシフトしている。

◆フォトルミネッセンス分析
633nmレーザーによるPLスペクトルを図10に示す。737nm(736.4/736.8nmのダブレット)ピーク(SiV)が15個中13個に検出された(DAG0122とDAG125を除く)。うち5個は非常に弱いピークであった。天然ダイヤモンドに737nmピークが検出されるのはきわめてまれで、その場合649.4、651.1、714.7nmなどの一連のピークが付随する(文献17)。これまでに報告されている宝飾用CVD合成ダイヤモンドにはほぼすべてに737nmピークが検出されている。737nmピークは合成装置由来のSi起源と解釈されており、CVD合成ダイヤモンドの特徴として理解されている(文献18、11)。ほとんどの試料に795.8、819.1、824.6、850.2、851.6、853.4、854.3、876.7および908.9nmに帰属不明の小さなピークが認められた(一部は図示せず)。
514nmレーザーによるPLスペクトルを図11に示す。非常に強い637.0nm(NV)および 574.9nm(NV0)がすべてに検出された。しかし、633nmレーザーで検出されていた737nmピークはいずれの試料にも検出されなかった。628.6および630.4nmの対のピークが15個中9個に見られた。また、ほとんどの試料に521.4、524.1、528.0、529.1、532.0、533.0、534.9、536.5、544.4、554.0、555.6および565.6nm(一部図示せず)に帰属不明の小さなピークが検出された。ゼロフォノン線(ZPL)の幅は局地的な歪が増すと幅が広くなることが知られており、しばしばダイヤモンド中の歪を調べるために利用されている(文献19)。図12に637.0nm(NV)および 574.9nm(NV0)の半値全幅(FWHM)を示す。過去にCGLで分析した天然Ⅱ型ダイヤモンド166個、無色~ほぼ無色CVD合成ダイヤモンド(製造者不明)39個およびピンク色CVD合成ダイヤモンド(製造者不明)5個もプロットした(未公表データ)。天然Ⅱ型ダイヤモンドはカラーグレードが低い程半値全幅(FWHM)が広い傾向にある。本研究における黄色系CVD合成ダイヤモンドは天然Ⅱ型ダイヤモンドの比較的カラーグレードの低いものの領域に重複するが、無色~ほぼ無色およびピンク色CVD合成ダイヤモンドは天然Ⅱ型ダイヤモンドの比較的カラーグレードの高い領域にプロットされている。

図10:633nmレーザーによるPLスペクトル。15個中13個に737nmピークが検出された
図 10:633nmレーザーによるPLスペクトル。15個中13個に737nmピークが検出された
図 11:514nmレーザーによるPLスペクトル。すべての試料に非常に強い637.0nm(NV-)および 574.9nm(NV0)が検出された。
図 11:514nmレーザーによるPLスペクトル。すべての試料に非常に強い637.0nm(NV)および 574.9nm(NV0)が検出された。
図 12:N-VセンタのPLピークの半値幅。本研究のⅠb型黄色系CVD合成ダイヤモンドは半値幅がやや大きく、天然Ⅱ型ダイヤモンドの比較的カラーグレードの低いものの領域に重複する。
図 12:N−VセンタのPLピークの半値幅。本研究のⅠb型黄色系CVD合成ダイヤモンドは半値幅がやや大きく、天然Ⅱ型ダイヤモンドの比較的カラーグレードの低いものの領域に重複する。

488nmレーザーによるPLスペクトルを図13に示す。すべての試料に637.0nm(NV)、574.9nm(NV0)および503.2nm(H3)の強いピークが検出された。H3/NV0の強度比は黄色系の12個の平均が1.43、褐色味のある3個の平均が0.82であった。また、すべての試料に494.6、500.8、506.8nmにピークが検出された。これらと同様のピークはCGLで過去に分析した無色~ほぼ無色のHPHT処理されたCVD合成ダイヤモンドにも見られたことがある。
325nmレーザーによるPLスペクトルを図14に示す。すべての試料に415.2nm(N3)のピークが検出された。N3シリーズとは別に天然ダイヤモンドには見られない425、428、439、441、451、453、457、462、486、492および499nmにピークが 検出された(図示せず)。文献18と文献11は、意図的に窒素が添加されて合成された後にHPHT処理が施されたCVD合成ダイヤモンドに帰属不明の451~459nmピークを報告している。

図 13:488nmレーザーによるPLスペクトル。すべての試料に非常に強い574.9nm(NV0)および503.2nm(H3)ピークが検出された。H3/NV-の強度比は褐色味のある3個が低めであった。
図  13:488nmレーザーによるPLスペクトル。すべての試料に非常に強い574.9nm(NV0)および503.2nm(H3)ピークが検出された。H3/NV0の強度比は褐色味のある3個が低めであった。
図 14:325nmレーザーによるPLスペクトル。すべての試料に415.2nm(N3)のピークが検出された。
図 14:325nmレーザーによるPLスペクトル。すべての試料に415.2nm(N3)のピークが検出された。

◆DiamondPlus™
DiamondPlus™はDTCにより開発され、2009年から市販されているⅡ型ダイヤモンドのHPHT処理を粗選別するためのコンパクトな装置である。この装置では15秒以内の測定時間で“PASS”あるいは“REFER”などと結果が表示される。“PASS”は天然で未処理のダイヤモンドであるが、“REFER”と表示されたものは更なるラボラトリーの検査が必要である。また、この装置はCVD合成ダイヤモンドの検出にも対応しており、737nmのピークを検出すると“REFER (CVD SYNTHETIC?)”と表示されるとともに正規化された強度が表示される。
測定した15個の試料すべては“REFER”もしくは“REFER (CVD SYNTHETIC?)”と表示され、“PASS”と表示されるものはなかった。しかし、“REFER (CVD SYNTHETIC?)”と表示されたものでも改めて測定すると“REFER”となることや、“REFER”と表示された試料が次に測定した際には“REFER (CVD SYNTHETIC?)”と表示されることもあった。これらの試料は“REFER (CVD SYNTHETIC?)”と同時に表示される正規化された数値が0.057~0.179であり、737nmピークの強度が低いためと考えられる。

◆紫外線ルミネッセンス法
DiamondView™の波長の短い(<225nm)強力な紫外線を用いて検査した15試料すべてにH3に因ると思われる緑色が優勢の発光色とCVD合成特有の線模様が観察された(図15ab)。また、同系色の燐光もすべてに観察された。これらのうち、3個は黄色味の発光色が強く(DAG0122、DAG132、DAG133)、4個は部分的に青色味のオーバートーンが見られた(DAG0119、DAG0120、DAG0125、DAG0127)。黄色味の発光色が強い3個は地色のカラーがLight Brownish Yellowにグレードされた3個に一致しており、PL分析によるH3/NVの強度比が他のものよりも低い。また、青色味のオーバートーンが強いものはPL分析において比較的明瞭なN3センタが検出されている。

図15
図15:DiamondView™によるUVルミネッセンス像。
図15:DiamondView™によるUVルミネッセンス像。すべての試料にH3に因ると思われる緑色が優勢の発光色とCVD合成特有の線模様が観察された。
図15:DiamondView™によるUVルミネッセンス像。すべての試料にH3に因ると思われる緑色が優勢の発光色とCVD合成特有の線模様が観察された。

考察
現在市場で見られる無色~ほぼ無色のCVD合成ダイヤモンドの多くは成長速度を速めるために意図的に窒素が添加されている(文献20)。このような高速度成長は結果的にあまり魅力的ではない褐色味を呈する原因となっている。従って、商品化されているCVD合成ダイヤモンドの多くは褐色味を除去する目的で成長後にHPHT処理が施されている(文献18)。本研究で用いた試料もすべてppmオーダーの置換型単原子窒素が検出されており、意図的に窒素が添加されていることは確実である。
本研究での紫外-可視-近赤外分光分析においてすべての試料に置換型単原子窒素に起因する270nm付近の幅広い吸収が認められ、褐色味を帯びた3個の試料では520~530nmを中心とした緩やかな吸収が認められた。520~530nmの吸収は窒素添加で成長させたCVD合成ダイヤモンドに見られ、その後のHPHT処理において除去できることが知られている(文献11、12、13)。この吸収について文献12はNVに関連するものとし、文献13はNVH0に起因するのではないかとしている。
赤外分光分析においてすべての試料に3200 cm–1~2800cm–1に複数のC-H由来の吸収と考えられるピークが検出された。これらのピークは窒素を意図的に添加して成長させ、HPHT処理を施したCVD合成ダイヤモンドに見られるものである(文献21、12)。文献21は1900℃のHPHT処理後に検出された2902、2872cm–1のピークは2200℃の処理後に2905、2873cm–1にシフトしたとしている。我々が独自に行ったCVD合成ダイヤモンドのHPHT処理実験(未公表データ)においても1600℃の処理で2902、2871cm–1に検出されたピークは2300℃の処理において2907、2873cm–1にシフトした。本研究の黄色ダイヤモンドでは2908、2875cm–1にピークが検出されており、2300℃以上でHPHT処理された可能性がある。また、褐色味のある3個の試料ではそれぞれ2902および2871cm–1と低波数側にシフトしており、熱処理温度は~1900℃ではないかと推定される。
H3センタはAs-grown のCVD合成ダイヤモンドには見られないが、HPHT処理後に検出されることが知られている(文献21、12)。文献12は1970℃でLPHT処理した後はNV0>H3であったが、2030℃でHPHT処理した後はNV0<H3とその比率が逆転することを見出した。本研究では褐色味のある3個のみがNV0>H3であり、黄色系に比べて熱処理温度が低く1970℃以下であったことが推定できる。
N3のピークは成長時のCVD合成ダイヤモンドからは検出されておらず、成長後のHPHT処理によって形成することが知られている(文献21、11)。この場合、2200℃での長時間の加熱においてその強度は強くなる。本研究のPL分析ではすべての試料にN3センタが検出されているが、褐色味のある3個はN3センタのピーク強度が他よりも低かった。この結果からも褐色味が残る試料はHPHT処理温度が他よりもやや低かったと考えられる。

まとめ
非開示でグレーディングに供された15個の黄色系CVD合成ダイヤモンドを検査した。これらは平均3.6ppmの置換型単原子窒素を含有するⅠb型であることが判った。拡大特徴、H3およびN3の生成、H3/NVの強度比および赤外分光で検出されたC-H由来の吸収ピークから、これらは成長後に1900~2200℃程度の加熱(おそらくHPHT処理)をこうむっていると推測される。

謝辞
紫外レーザーによるPL分析には物質材料研究機構の渡辺賢司博士にご協力いただいた。つくばエキスポセンターの神田久生博士には光学中心についてご討論いただいた。ここに謝意を表する。◆

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コラム

本編でご紹介したようにダイヤモンドの鑑別にはタイプの粗選別が重要です。正確なタイプ分類には赤外分光分析(FTIR)が必要ですが、ダイヤモンドのカット形状からも手掛かりを得ることができます。
窒素を含有しないⅡ型のダイヤモンド原石は、比較的大粒の結晶が多いのですが、不定形の形状が多くなります。実際にダイヤモンドの原石を選別する際には、八面体の結晶面を示さない不定形のものはⅡ型として分類されています。地下深部でダイヤモンドが形成し、マグマの上昇過程において周囲の偏圧により塑性変形をこうむります。窒素が偏析したⅠ型に比べてⅡ型は塑性変形に弱いため、Ⅱ型のダイヤモンドは破断しやすく不定形になると解釈されています。
Ⅰ型を含むすべてのダイヤモンドにおいては、ラウンド以外の形状は10%程度に過ぎませんが(図1)、1ct以上のサイズのⅡ型ダイヤモンドでは、50%がラウンド以外のカッティング・スタイルが取られています(図2)。この統計は、明らかにⅡ型ダイヤモンドの原石の形状が八面体から外れた不規則な形状をしており、歩留まりを重視したラウンド以外のスタイルが選ばれたことを示唆しています。

図1 CGLにグレーディングに供されたダイヤモンドのカット形状
図1 CGLにグレーディングに供されたダイヤモンドのカット形状(2010年6月〜2015年5月)
図2 1ct以上のⅡ型ダイヤモンドのカット形状 (2010年6月~2015年5月)
図2 1ct以上のⅡ型ダイヤモンドのカット形状
(2010年6月~2015年5月)

ミャンマー、モゴック鉱山視察報告

2015年5月No.26

リサーチルーム北脇 裕士

去る2014年12月3日(月)~7日(土)の5日間、GIT2014 The 4th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石宝飾品学会)のPre-Conference Excursion(本会議前の原産地視察)としてミャンマーのモゴック鉱山ツアーが行われました。世界的に著名なモゴック鉱山の最新状況を視察することができましたので、以下に概要をご報告致します。

モゴック産ルビーの結晶原石と母岩
Fig.1 モゴック産ルビーの結晶原石と母岩の大理石
Pre-Conference Excursion

宝石や地質学関連の学術会議ではしばしば本会議の前後にタイプロカリティ(基準産地)や鉱山などを視察するツアーが組み込まれます。GIT2014ではPre-Conference Excursion(本会議前の原産地視察)として4泊5日でミャンマーのモゴック鉱山ツアーが行われました。Mogokは長い間外国人の立ち入りが厳しく規制されていましたが、最近になってようやく受け入れを始めました(文献1)。 GIT2014のツアーではAIGS(Asian Institute of Gemological Sciences)の協力の下、ミャンマー政府の許可を得てMogok Stone Tractを視察することができました。参加者は世界各国から総勢27名(ガイドとスタッフを含む)で、マンダレー空港に集合したのち、ワゴン車3台に分乗してモゴックを目指しました(Fig.2)。

Pre-Conference Excursion
Fig.2 Pre-Conference Excursionに参加したメンバー
パゴダのある国ミャンマー

ミャンマーは正式にはミャンマー連邦共和国ですが、以前はビルマと呼ばれていました。1989年、当時の軍事政権は国名の英語表記をUnion of BurmaからUnion of Myanmarに改称しましたが、軍事政権の正統性を否定する立場の方々や組織からはミャンマーではなく、今なおビルマと呼称されています。

ミャンマーはインドシナ半島西部に位置し、周囲をインド、中国、ラオス、タイおよびバングラデシュといった国々に囲まれており、南はベンガル湾に接しています(Fig.3)。

ミャンマーの地図
Fig.3 ミャンマーの地図

その面積は68万平方キロメートルで日本のおよそ1.8倍あります。人口は5,141万人でその70%がビルマ族です。ミャンマーは多民族国家で130以上の少数民族があり、主なものとしてカレン族、カチン族、カヤー族、ラカイン族およびシャン族などが知られています(文献2)。10世紀以前にいくつかの民族文化が栄えていたと言われていますが、遺跡などから確実にビルマ族の存在が認められるのはパガン朝(11世紀~13世紀)以降と考えられています。
ミャンマーでは多くの人々(およそ90%)が仏教徒で、いたるところにパゴダ(Pagoda)と呼ばれる寺院があります。パゴダは日本の仏塔と同じで仏舎利(釈迦仏の遺骨など)などを安置するための施設です。今回訪れたモゴックにも数多くのパゴダがありました(Fig.4)。人々が多く居住する街中だけではなく、見渡す限りの山々の頂にも大小様々なミャンマー様式の仏塔が見られました(Fig.5)。ミャンマーの人々にとって、パゴダは釈迦に代わる存在であり、釈迦の住む家とされています。従って、パゴダに入る時は履物を脱ぐことが求められ、訪れる人々は皆素足になります。

モゴックの街中にあるパゴダ
Fig.4 モゴックの街中にあるパゴダ
パゴダと仏陀像
Fig.5 山上にあるパゴダと仏陀の像
世界の宝石採掘地Mogok Stone Tract (モゴック ストーン トラクト)

ミャンマーにはMogok(モゴック)、Mong Hsu(モンスー)、Nanyaseik(ナムヤー)などの著名なルビー鉱山がありますが、最も歴史と名声があるのはモゴックです。歴史的なロイヤルジュエリーにセットされているルビーのほとんどはこのモゴックで採掘されたものです。また、世界的に著名なオークションにおいて1ctあたり$50,000以上の価格が付けられた150個以上のルビーのうちモゴック産でなかったものは12個に過ぎなかったという報告もあります(文献3)。モゴックはルビーだけでなくレッドスピネルやブルーサファイアも有名です。その他にペリドット、アパタイト、スカポライト、ムーンストーン、ジルコン、ガーネットおよびアメシストも良く知られています。また、ペイナイト、ポードレッタイト、ダイアスポアおよびハックマナイトなどのレアストーンの重要な産地でもあります(Fig.6)。モゴックはチャッピン(Kyatpyin)やその他の複数の村や宝石を産出する渓谷を含めてMogok Stone Tract(モゴック ストーン トラクト)を形成しています。

モゴックはミャンマー第二の都市であるマンダレー(Mandalay)から北東におよそ200kmに位置します。以前はマンダレーから船や曲がりくねった未舗装道路を車で乗り継ぎ、かなり大変な道のりであったとされていますが(文献4)、現在は全区間舗装されており、小型車でも6~7時間ほどでたどり着くことができます。しかし、標高が1500m以上あることから(Fig.7)、最後の1時間は曲がりくねったアップダウンの激しい道が続きます。
モゴック地域の居住者は1960年代で6000名程度に過ぎませんでしたが(文献4)、現在はモゴックで30万人、チャッピンで25万人程度といわれています(文献5)。これらの人口の増加は近年著しく、政府に因る宝石取引自由化が引き金になっていると考えられます。

Jordan氏のモゴック産宝石コレクション
Fig.6 本ツアーガイドのJordan氏所有のモゴック産宝石コレクション
霧のモゴック
Fig.7 標高の高いモゴックでは日較差が大きく、早朝には霧が発生する
モゴック鉱山の歴史

モゴック鉱山がいつごろから採掘されてきたかは文献により諸説があります。しかし、この地域の実際の採掘についての最も古い記録が6世紀にはすでに存在したとされています(文献6)。そして、ビルマ族による最初の王朝であるバガン王朝が樹立された1044年にはモゴックのルビーはすでに王国の経済活動の重要な位置づけにあったと考えられています(文献3)。信頼できるビルマの史録に、1597年にシャン族からモゴックの鉱床がビルマ国王の手に渡ったとされています。ビルマ国王は一定のサイズを超える価値の高いルビーはすべて自身の所有にし、供出しなかった者は拷問の責め苦や死罪にしました。そのため、いくつかの大きなルビーは無償で国王に供出するよりも売却するために割られてしまったそうです(文献5)。17世紀~18世紀にかけてはビルマ国王の過酷な統制の下、宝石を増産するために容赦ない要求が出され、鉱山は流刑場と化しました。
3度に及ぶ英緬戦争の末、英国がこの地を支配すると、宝石の採掘と売買に関しても監視するようになりました。1887年に採掘権がロンドンのジュエラーに与えられ、ビルマ ルビー マインズ社(BRM)が設立されました。同社は政府に権利金と利益の30%を支払うことで採掘の独占権を獲得し、重機を使用した機械化された採掘を行いました(文献6)。

BRMはモゴック ストーン トラクトとして知られる大部分の場所で作業をしていましたが、ヨーロッパ市場における合成ルビーの出現、第一次世界大戦の勃発および世界恐慌などの障害により1925年に自主解散し、その後賃借権を政府に譲渡しました。BRMが採掘していた跡地は大雨などで排水溝が破壊されてその後大きな湖となり、今も往時の繁栄を垣間見ることができます(Fig.8)。

モゴックのパノラマ写真
Fig.8 世界的なルビーの原産地モゴックのパノラマ写真。美しい湖は英国統治時代の採掘跡である。(2014年12月4日撮影)

1930年代に英国人が撤退すると、現地人の手による採掘が再開されました。採掘方法は彼らに馴染の深い昔ながらの手法に戻り、経験に基づく作業が行われていました。1963年にはビルマ政府によって事業は完全に国営化され、外国人による採掘や販売はすべて禁止され、実質上鉱山への立ち入りが不可能になりました。1990年代になると、これらの規制は緩やかになり、政府と個人企業に因る合弁事業が許可されるようになりました。さらに最近の数年間のうちにミャンマーの宝石取引は革新的な変化を遂げました。宝石の個人売買と合法的な輸出入が可能となり、多くの外国人によって活発な商取引がなされるようになっています。

モゴック ストーン トラクトの地質

多くの著名な宝石産地がそうであるように、モゴック ストーン トラクトも地勢、植生、気候などの悪条件が重なり地質踏査が困難な地域といえます。それでも先人の努力により精度の高い地質図が作成されています。これによると、この地区にはモゴック片麻岩類と呼ばれる変成度の高い変成岩類、花崗岩類、大理石などが広く分布しています(文献6)。
片麻岩類は黒雲母片麻岩、グラニュライト、角閃岩などの多様な種類で構成されており、東部地域の3分の2を占めています。花崗岩類は狭義の花崗岩や閃長岩などを含んでおり、これらはブルーサファイアの重要な母岩となっています。大理石はルビー、スピネルの重要な母岩でモゴック片麻岩類に挟在しています。
モゴック地域のルビー、サファイアの成因は5,500万年前に始まったインドプレートとユーラシアプレートの衝突に関連があります。2つのプレートの衝突による広域的な温度・圧力の上昇により、この地の変成岩が形成されました。アフガニスタン、パキスタン、タジキスタン、ネパールおよびベトナムにまで広がる一連の大理石起源のルビー鉱床も同一の地質学的イベントによるものと考えられています(文献7)。

採掘方法

モゴック ストーン トラクトでは、伝統的な手法から重機を用いた近代的な方法まで種々の採掘方法が見られます。ルビーは母岩の大理石を直接採掘する方法(第一次鉱床)とByonと呼ばれる含宝石土壌を採掘する方法(第二次鉱床)が見られます。第一次鉱床では主に目的とする宝石種が採掘されますが、第二次鉱床からはルビー、スピネル、サファイアなど種々の宝石類が同時に採取されています。
規模の大きい鉱山では一般にオープンピット法と呼ばれる地表から土を掘り返す手法や重機や火薬を用いて大理石の母岩を直接採掘する手法がとられています。いっぽう、大多数の規模の小さな鉱山ではtwin-lonと呼ばれる丸い穴をあけて谷底の堆積物を採掘する手法がとられています。また、大理石のカルスト地形特有の手法があり、lu-dwinと呼ばれています。これは大理石の浸食によってできた空洞や亀裂に集積するルビーを採掘します。他の方法に比べて歩留りは良いのですが、複雑に入り組む洞窟に奥深く入るため危険を伴います。実際に1992年に鉱夫が何人も死亡するという事故があったそうです(文献6)。

モゴック鉱山現況

モゴック ストーン トラクトにはルビー、サファイアの鉱山が大小合わせると300以上あります。今回のツアーではこれらのうち生産量の多い規模の大きな鉱山5か所と伝統的な採掘を行っている小規模な鉱山を複数訪ねました。

Bhone Myint Aung ルビー鉱山
Fig.9 Bhone Myint Aung ルビー鉱山
機械による選鉱
Fig.10 機械による選鉱

モゴック東部のShun Pun 村にあるBhone Myint Aung ルビー鉱山は風化した大理石を含む土砂を採掘する第二次鉱床です(Fig.9)。宝石を含む土砂は川底周辺の採掘が容易ですが、最近は山腹や丘陵までが採掘の対象となっています。ここでは重機を用いて土砂を堀り、水圧を使って土を砕いていきます。これらを水と一緒にホースで吸い上げ、ベルトコンベアー上でふるいにかけられます。最終的に集積タンクに比重の大きい石(宝石類)が集められています(Fig.10)。ここではルビーが採取されていますが、その何倍ものレッドスピネルが採れています。

モゴック北部のYadana Shin Ruby鉱山は大理石から直接ルビーを採掘する第一次鉱床です。モゴック ストーン トラクトの中でも最大級の規模の鉱山で、400名に及ぶ鉱夫が働いており、寝食を共にしています。大理石の露岩も見られる広大な敷地内から縦坑がいくつも掘られています。風化していない硬い大理石は削岩機で砕かれ、10cm~20cm程度のサイズにされます。それをバケツに入れて地表に運び、一旦山積みにされます(Fig.11)。地上では積まれた大理石の塊を鉱夫が人力で運搬し(Fig.12)、クラッシャーにかけられます。細かくなった大理石はさらにハンマーで慎重に砕かれ、中からルビーやスピネルが採取されていきます。

Yadana Shin Ruby鉱山の採掘
Fig.11Yadana Shin Ruby鉱山における採掘
鉱夫による大理石の運搬
Fig.12 鉱夫による大理石の運搬。ロンジーと呼ばれる巻きスカートのような民族衣装をまとっている。

モゴック西部のチャッピン地区にあるBawmar 鉱山は、2008年以降採掘量が急増したブルーサファイアの重要な鉱床です(文献8)。この地域は主にモゴック片麻岩類が分布しており、閃長岩や花崗岩類を伴っています。ブルーサファイアは高度に変成した黒雲母片麻岩などに貫入した閃長岩やペグマタイトの風化土壌から採掘されています。Bawmar 鉱山は10年ほど前から重機を用いた採掘がおこなわれており、現在は露天掘りとトンネル方式が組み合わされています(Fig.13)。トンネル方式では最大で深さ80mにもおよぶ縦坑が掘られています(Fig.14)。

Bawmar鉱山全景
Fig.13 Bawmar鉱山の全景
Bawmar鉱山の縦坑
Fig.14 最大80mの深さに及ぶBawmar鉱山の縦坑

そこから削岩機を用いて風化した岩石を砕き、水平方向に掘り進められていきます。地表に挙げられた鉱石は洗浄され、サイズの異なるふるいにかけて選別されます。その後、女性たち(ミャンマーの女性の多くは伝統的なおしゃれで頬にタナカと呼ばれる木の粉を付けています)の手によってトリミングされ(Fig.15)、最終的にカット・研磨されます。  この鉱山のブルーサファイアは原石のままで濃色であり(Fig.16)、最大で15ct程度ものカット石が得られています。

ブルーサファイア、トリミング作業
Fig.15 女性たちによるブルーサファイアのトリミング作業
非加熱のBawmar鉱山産ブルーサファイア
Fig.16 非加熱のBawmar鉱山産ブルーサファイアのカット石(6〜8ct)

モゴック西部のBaw Lone Gyi ルビー鉱山ではミャンマーならではの採掘風景を見ることができます。この地には近くの鉱山で既に選鉱された尾鉱(廃石)がトラックで運ばれてきます(Fig.17)。モゴックの村人たちにはこれらの尾鉱から宝石を探すことが許されており、見つけた者が所有することができます。しかし、英国が鉱山を支配していたころはこの権利は女性に限定されており、KANASE(カナセ)と呼ばれていました。Baw Lone Gyiでは多くのカナセが真っ白な大理石の小石から赤いルビーやスピネルを探す姿が見られます(Fig.18)。そして、見つけた宝石をオープンマーケットで販売します。

Baw Lone Gyi での採掘作業
Fig.17 Baw Lone Gyi でのカナセたちによる採掘作業
ルビーやスピネルを探すカナセ
Fig.18 ハンマーで慎重に大理石を砕いてルビーやスピネルを探すカナセ
モゴックの宝石マーケット

今回のモゴックツアーでは計5か所のジェムマーケットを訪れました。うち4か所は毎日開催されていますが、午前中のみもしくは午後のみの2~3時間の開催です。
モゴック東部地区のYoke Shin Yoneは、通称“Cinema”と呼ばれる午前中のみ開催のマーケットです。その名の通り古い映画館前の通りに活気にあふれた露店が並んでいます。手作りの背の低い机や木箱、あるいは直接地面に白い布を敷いてその上に真鍮製の皿に盛られた宝石類が並べられています(Fig.19)。そのほとんどは低品質の未研磨石で、カナセたちが持ち寄ったものです。地元の通貨(kyat)で取引されていますが、交渉次第では米ドルの使用も可能です。
同じく東部地区のPan Shanの宝石マーケットは、午後1時~3時に開催されています。モゴック最大規模で、強い日差しを遮るため広げられた300近いパラソルが圧巻です。その様子から通称“umbrella”マーケットと呼ばれています(Fig.20)。

Yoke Shin Yoneのジェムマーケット
Fig.19 Yoke Shin Yoneのジェムマーケット。古い映画館前の広場にあることから通称Cinemaと呼ばれている。
Pan Shanのジェムマーケット
Fig.20 Pan Shanのジェムマーケット。多くのパラソルが広げられていることから通称Umbrellaと呼ばれている。

ここではカナセたちが持ち寄った低品質の未研磨石や原石もありますが、カット・研磨された質の良いルビー、サファイア、スピネル、ペリドット・・・など多くの種類の宝石が見られ、トーチとヘッドルーペを用いて慎重に検品する様子も伺えます(Fig.21)。
このようなジェムマーケットにはミャンマー族の人々に加え多くのネパール人の姿が見られます。彼らは英国統治時代にモゴック鉱山の警備に送られてきたグルカ族の子孫ということです。彼らはヒンディー語を話すため、我々のツアーに参加していたインド人達とは会話が弾み交渉もスムーズに行われているようでした(Fig.22)。

Pan Shanのジェムマーケット
Fig.21 Pan Shanのジェムマーケット。トーチやヘッドルーペを用いて慎重に商品をチェックする女性のディーラー。
Pan Shanのジェムマーケット
Fig.22 ジェムマーケットにはグルカ族の子孫であるネパール人の方々が多い。

モゴック北部Bamard-myoのマーケットは5日に一度の周期で開催されています。ここは宝石類というより野菜、干物、衣類、花など日用雑貨が豊富に取り揃えられており、モゴックの人々の生活に密着したマーケットです。
メインの通り沿いでは店舗を構えていますが(Fig.23)、脇に入ると多くは路上にシートを敷き品物を並べています。売り手の多くは女性で小さな子供たちを連れている光景もあちこちに見られます(Fig.24)◆

Bamardmyoのマーケット
FIg.23 Bamardmyoのマーケットは5日に一度開催され、宝石だけでなく、生活必需品が売買されている。
Bamardmyoのマーケット
Fig.24 Bamardmyoのマーケットでは子連れの売り子も多く見られる。

【参考文献】
文献1.Huges R W. (2014) Ruby & Sapphire a collector’s guide. Gem and Jewelry Institute of Thailand,383pp

文献2.外務省ホームページ ミャンマー基礎データhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/area/myanmar/

文献3.Shor R., Weldon R. (2009) Ruby and sapphire production: A quarter century of change. Gems & Gemology,     Vol.45, No.4, pp.236-259

文献4.Keller P.C. (1983) The rubies of Burma: A review of the Mogok Stone Tract. Gems & Gemology, Vol.19,
No.4, pp.209-219

文献5.Lucas A., Pardieu V. (2014) Mogok expedition series, part1~part3
http://www.gia.edu/gia-news-research-expedition-to-the-valley-of-rubies-part-1-3

文献6.Kane R E., Kammerling R C. (1992) Status of ruby and sapphire mining in the Mogok Stone Tract.
Gems & Gemology, Vol.28, No.3, pp.152-174

文献7.Smith C P., Beesley C R., Darenius E Q., Mayerson W M. (2008) Inside Rubies. RAPAPORT magazine, Vol.31,     No.47, pp.140-149

文献8.Kan-Nyunt H P., Karampelas Stefanos., Link K., Thu K., Kiefert L., Hardy P. (2013) Blue sapphires from the     Baw Mar mine in Mogok. Gems & Gemology, Vol.49, No.4, pp.223-232

GIT2014参加報告

2015年12月No.25

リサーチルーム 江森健太郎

2014年12月8日~9日の2日間、GIT2014 The 4th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)がタイのチェンマイで行われました。また、前3日~7日までの5日間Pre-Conference Excursion(会議前の原産地視察)としてミャンマーのモーゴックの鉱山視察、後10日~12日の3日間Post-Conference Excursion(会議後の原産地視察)としてタイのPhrae(フィラエ)の鉱山視察が行われました。本会議には当研究所から5名が参加し、3名が口頭発表を行いました。以下に概要をご報告致します。

GIT2014とは・・・

International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)はGIT(The Gem and Jewelry Institute of Thailand)が主催する国際的に有数の宝飾関連学会の一つです。第1回目は2006年、第2回目は2009年、第3回目は2012年、そして今回は2014年12月に第4回目としてGIT2014が開催されました。
GITはLMHC(ラボマニュアル調整委員会)にも属する国際的に著名な宝石検査機関であり、CGLと科学技術に関する基本合意を締結し、密接な技術交流を行っています。本学会はGITが主催していますが、タイの商務省等が後援しており国を挙げての国際会議といえます。本会議運営のため15ヵ国31名の国際技術委員会が結成され、CGLの堀川もその一役を担いました。

本会議

本会議はチェンマイ市内のHoliday Inn Chiang Maiが会場となり、世界25ヵ国から250名を超える参加者が集いました。
6件の基調講演の他、一般講演は

「Innovative Identification and Characterization – Manufacturing and Cutting Edge Technology
(革新的な鑑別及び特徴 ― 製造と最先端の技術)」
「Gem and Precious Metal Deposits, Exploration and Mining(宝石、貴金属の産地、探査および採掘)」
「Treatment and Synthetic: Update and Disclosure(処理と合成:アップデートと開示)」
「Miscellaneous(その他)」
「Closing Highlights(閉会前のハイライト)」

の5つのセッションで構成されており、2つの会場に分かれて同時進行しました。
口頭発表は34件、ポスター発表は38件のエントリーがありました。

当研究所からは技術顧問の赤松が「Miscellaneous」のセッションで
「About Bead Nucleus Used for Pearl Culturing(真珠養殖に使用されるビード核について)」、

北脇が
「Innovative Identification and Characterization – Manufacturing and Cutting Edge Technology」のセッションで
「Peculiar Natural Type II Diamonds Showing Pseudo-Synthetic Characteristics(偽合成の特徴を示す特異な天然II型ダイヤモンド)」、

江森が同セッションで
「Geographic Origin Determination of Ruby and Blue Sapphire: an Application of LA-ICP-MS(ルビー、ブルーサファイアの原産地鑑別:LA-ICP-MS分析の応用)」

という題でそれぞれ口頭発表を行いました。
また堀川は「Treatment and Synthetic: Update and Disclosure」のセッションで座長を務めました。

Holiday Inn Chiang Mai
本会議のメイン会場となったHoliday Inn Chiang Mai
ポスター発表
会場に張り出された38件のポスター発表。口頭発表の合間には熱心な研究者が著者に質問を投げかける
「Treatment and Synthetic: Update and Disclosure(処理と合成:アップデートと開示)」セッションで座長を務める堀川所員
「Treatment and Synthetic: Update and Disclosure (処理と合成:アップデートと開示)」セッションで座長を務める堀川所員

GIT2014-Post Excursion報告

GIT2014 Conferenceの翌日より三日間(12/10~12/12)の日程でPost Excursionが行われ、CGLより堀川と江森が参加しました。

1.Thai Elephant Conservation Center (TECC)

12月10日、GIT2014の開催地であるChiang Mai をバスで出発し、初めの目的地である Thai Elephant Conservation Center (TECC)に訪れました。全世界から象使いの資格を取るための養成に来ている人たちを使い、政府によって経営されている象の保護施設であり、象の病院も併設されています。ここでは、象乗り体験、ショー等が行われています。今回のGIT2014のロゴマークは象が描いたものです。ショーで実際に象が絵を描くところを観ることができました。

象が描いたGIT2014のロゴマーク
象が描いたGIT2014のロゴマーク
象が絵を描いているところ
象が絵を描いているところ
2.Baan Wong Buri (Wong Buri Old House)

次にBaan Wong Buriに向かいました。ここは、かつてPhraeを統治していた王族の邸宅で、現在は博物館として公開されています。Phraeはチーク材の売買で財を築いた街で、現在も街のいたるところに、チーク材を利用した家が残っています。その中で一番有名なものがBann Wong Buriだということです。館内は20世紀初頭の写真や手紙、アンティークコレクションが並んでおり、当時を偲ばせる記念物として親しまれています。

Baan Wong Buriの外観
Baan Wong Buriの外観
Baan Wong Buriの中の様子
Baan Wong Buriの中の様子。アンティークコレクションが並んでいる
3.Wat Phra that Cho Hae (The Royal Temple)

12月10日最後の目的地は、Wat Phra that Cho Haeです。Wat Phra that Cho Haeは仏舎利を祭る仏教寺院で、寅年生まれの人が巡礼すべき仏塔とされており、900年以上の歴史があるといわれている仏像やSiwichai僧の遺骨が納めらています。

寺院の外観
寺院の外観
寺院
寺院
4.Phrae地区のサファイア鉱区

12月11日、タイのPhrae地区のサファイア鉱区へ向かいました。バンコクから北におよそ500kmにPhrae地区のサファイア鉱区があります。この地は1920年代に発見されていましたが、実際に採掘されるようになったのは1970年代に入ってからです。この地のサファイアは濃色のブルーで小粒のものが多いとされています。

○Mon Hin Lae Pee

柱状節理の玄武岩の露頭に、スピネルを発見することができました。柱状節理とは、岩体に発達した規則性のある柱状の割れ目で両側にずれがないもののことを言い、マグマの冷却面と垂直に発達します。

柱状節理の露頭の様子
柱状節理の露頭の様子
スピネル
スピネル
○Gems by waterfall

Mon Hin Lae Peeから6.5kmほど離れた場所に滝があります。この滝には3つの玄武岩層が露出しており、最下層に雨季に降った雨水で削られ、流された宝石が運ばれてきます。川の下にたまった砂利から宝石を探します。

岩を削る滝
岩を削る滝と
川
○Huai Mae Kanung

Huai Mae Kanungは、その名前が20年程前にサファイアを産出することで知られることになりました。現在はその土地の人々が雨季の最後にパニングを行い、宝石を探しています。

Blue Sapphire River
Huai Mae Kanungの様子。Blue Sapphire Riverの看板があるように、半ば観光地化している
パンニング
川をせき止め、水をためた池でパニングを行う現地の人々
5.Sukhothai Gold Jewelry Shop

タイにおいてゴールドジュエリーの生産はスコータイ王朝時代(1238−1448)からアユタヤ王朝時代(1351−1767)まで続いた伝統的な生産物で、その当時は厳格な規制がしかれていたため、王族や貴族しか身に着けることができませんでした。ラタナコーシン朝の中期より、ヨーロッパや中国から商人が来て、タイで商売をはじめると同時に、外国の金細工職人もタイにワークショップを設立して定住するようになり、より自由にゴールドジュエリーが広く身に着けられるようになりました。スコータイには現在もゴールドジュエリーを加工、生産、販売するショップが数多く存在し、今回のエクスカーションでは、スコータイにある販売店舗と生産工場が一体となっているゴールドジュエリーショップを2箇所見学しました。

ゴールドジュエリーの販売風景
ゴールドジュエリーの販売風景
加工工場
加工工場
6.Si Satchanalai Historical Park

Post Conferenceで最後に訪れたのは「Si Satchanalai Historical Park」です。この歴史公園はSi SatchanalaiとChaliangの遺跡群です。Si Satchanalaiとは「City of good people(善良な民の街)」という意味で、1250年代にスコータイ王朝第2の都市として建造され、13世紀と14世紀には皇太子の住居がありました。

Si Satchanalai Historical Park
Si Satchanalai Historical Park
Si Satchanalai Historical Park
Si Satchanalai Historical Park
おわりに

GIT2014の本会議とPost Excursionに参加、CGLリサーチルームの日ごろの研究成果を発表し、世界各国のジェモロジスト達と意見交換・交流を深めることができ、有意義な時間を過ごすことができました。宝石の研究は一国の一研究室だけで深められるものではなく、世界中の鑑別機関や研究機関で研究するジェモロジスト達との情報交換、意見交換が必要不可欠です。CGLリサーチルームは今後もこのような国際的な学会に出席し、積極的な交流を図っていく予定です。◆

宝石鑑別に応用される分析技術とその発展

2015年3月No.25

リサーチルーム 室長 北脇裕士

⑪ダイヤモンドビュー(Diamond View™)

1990年代より高温高圧法による宝飾用合成ダイヤモンドの商業的な生産が始まり、宝飾業界からはその情報開示と明確な天然と合成の識別法の確立が切望されるようになりました。DTC(Diamond Trading Company)ではこれらの声に応えるためにダイヤモンド判別機の製作・販売を開始しました。ダイヤモンドシュア(Diamond Sure™)はダイヤモンドのタイプ判別を簡易的に行う機器で、ダイヤモンドビュー(Diamond View™)は紫外線蛍光を用いた画像診断装置です。さらにDTCは、1999年に出現した新たなHPHT処理の検出のためにダイヤモンドプラス(Diamond Plus™)を世に送り出しました。今日のダイヤモンド鑑別にはこれらの装置もしくはこれらと同等の機能を有する分析機器は無くてはならない必需品と言えます。

◆ダイヤモンドビューの基本原理

天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドでは成長環境の相違により結晶形態が異なります。そして、このことが天然と合成とを識別する重要な手がかりとなります。しかし、宝石ダイヤモンドは既にカット・研磨が施されているため、結晶の外形や表面の観察はほぼ不可能であり、成長履歴を読み取るためには結晶内部に残された不均一性を検知する必要があります。ダイヤモンド内部の不均一性はさまざまな方法を用いて研究されてきましたが、宝石品質のダイヤモンドの鑑別には非破壊で行えるカソードルミネッセンス法や紫外線ルミネッセンス法が有効であることが知られています。
ダイヤモンドに紫外線を照射すると、原子レベルの欠陥や微量な含有元素の影響で蛍光を発します。微視的に研磨面を見た場合、欠陥や微量元素の濃度が成長時や成長後にこうむる環境の変化によってわずかに異なるためさまざまな蛍光像が観察できます。これが紫外線ルミネッセンス法であり、このような蛍光像はダイヤモンドの成長履歴を反映するために、天然と合成では明確な相違がみられ、その判別を行う上で非常に有効な手がかりになります。
ダイヤモンドビューは、この紫外線ルミネッセンス法の一種で、ダイヤモンドの天然と合成を識別することを目的としてDTCにより開発された装置です。ダイヤモンドの研磨面に225nm以下の波長をもつ強い紫外線を照射することによって、表面直下に励起された蛍光像を観察することができます。この蛍光像は、ダイヤモンドの成長構造に対応し、これをオペレーターが結晶学的な解釈を加えて天然・合成の判断を下します。従って、ダイヤモンドビューによる観察には技術者の経験と知識が不可欠となります。

◆ダイヤモンドビューの操作方法

2007年末に市場投入された最新式ダイヤモンドビュー(Fig.1)は第3世代にあたり、1996年に発表された初代のもの(Fig.2)に比べると本体が小型化したと共に、サンプルの設置方法や紫外線の照射方向が改良されています。
ダイヤモンドをルースで観察する時は、キューレットあるいはテーブル面を下にしてホルダーにセッテイングし、ポンプで吸引することで固定します。これにより、テーブル面およびパビリオン側双方の観察が可能となります。また、リングやペンダントもステージに固定することが可能ですが、この場合はテーブル方向だけからの観察となり、得られる情報が少なくなります。マニュアルでは、0.05ct〜10ctが観察可能とされていますが、装置の制約上焦点を合わせきれないほど小さい試料や、ステージに固定しきれないほど大きい製品でない限りは観察が可能です。ステージはつまみによって回転したり、傾きを変えたり、試料の方向を容易に変えてあらゆる方向から観察することができます。最新式のダイヤモンドビューは、このような観察方法を採用することで、初代のものと比べて観察できる試料の大きさや形状の幅が広がり、ステージの可動範囲も増しているため、操作性が大幅に向上していると思われます。また、紫外線のエネルギー強度も初代のものより高くなっており、イメージの質が向上しています。試料室奥にはCCDカメラが装着されており、イメージをパソコンのディスプレイ上に表示して観察します。得られる画像の倍率・画質は一定ですが、細部を観察しやすいようにデジタルズームで拡大することが可能となっています。観察には可視モード、蛍光モード、燐光モードが用意されており、照射する紫外線の強度は制御ソフトウェアを用いて自由に調整することができます。また、燐光を発するダイヤモンドを見落とすことがないように、蛍光モードで蛍光像をキャプチャーした際には、自動的に燐光像も撮影できるようになっています。

最新ダイヤモンドビュー
Fig.1 最新のダイヤモンドビュー:コンパクトになり、操作性も向上している。モニターにはCVD合成ダイヤモンドのイメージが映し出されている。
旧タイプダイヤモンドビュー
Fig.2 初期のダイヤモンドビュー:パソコンのモニターには高温高圧合成ダイヤモンドのイメージが映し出されており、鑑別技術者にはこれあを解釈する結晶学的な知識が必要とされる。

⑫ダイヤモンドビュー(Diamond View™)−2−

天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドでは成長環境の相違により結晶形態が異なります。そして、この形態の相違に着目した鑑別法がDiamond View™による紫外線(UV)ルミネッセンス法です。それではDiamond View™観察の基礎となるダイヤモンドの結晶形態(専門的にはモルフォロジーといいます)について考えてみましょう。

◆ダイヤモンドのモルフォロジー

結晶の形態を決めるのは、結晶の構造と環境条件(外的要因)です。そこで後者を無視して構造だけを反映したモルフォロジーが判れば、これをその結晶の基準モルフォロジーと考えることができます。
ダイヤモンドの結晶構造から導き出された基本の形は平滑な{111}で囲まれた正八面体となります(Fig.3−A)。(結晶学では八面体の面を{111}、六面体の面を{100}、十二面体の面を{110}と表記します。これをミラー指数といいます)

ダイヤモンドの形態
Fig.3 ダイヤモンドに見られる形態
A:{111}で囲まれた八面体(天然ダイヤンドに一般的)
B:{100}で囲まれた六面体
C:{111}と{100}がよく発達した六・八面体の外形(高圧合成に一般的)

しかし、実際の天然結晶は正八面体であることは少なく、たいていはマグマ中での融解により丸みを帯びています。また、まれに{111}と{100}が共存したミックスド・ハビット・グロースと呼ばれるものが存在します。この際、{100}は平滑な面ではなく曲面であるためキューブ(六面体)ではなく、キューボイドと呼ばれています。
一方、金属溶媒中で成長する高温高圧法合成ダイヤモンドでは{111}と{100}が共によく発達した六・八面体の外形(Fig.3−C)をとるのが一般的で、他に{110}などを伴うこともあります。高温高圧法合成ダイヤモンドは溶媒の種類や成長温度によっても形態が変化することも知られています。比較的低温では{100}が優勢に、逆に高温では{111}が優勢になります。
また、CVD法合成ダイヤモンドでは水素ガス中での成長となり、表面自由エネルギーの計算からも{100}が最も形態的に安定な面となることが知られています。

◆ダイヤモンドビューによる天然ダイヤモンドの観察例

Ⅰ型の無色の天然ダイヤモンドには、四角形の年輪のような成長縞が観察されます。これはピラミッド(八面体の上半分)を真上から見ると四角形に見えるのと同じで、ダイヤモンドが八面体を維持して成長してきたことを示しています。
また、ほとんどのダイヤモンドにおいてN3センタによる青白色の発光色が確認できます。N3センタは窒素が地質学的な時間を経て凝集したカラーセンタです。余程でない限り(高圧下で長時間加熱処理するなど)、人工的には作り出せないため天然特徴となります。ちなみにN3のNはNitrogen(窒素)ではなく、Natural(天然)の頭文字です。このようにDiamond View™では直接発光色が観察できるというメリットもあり、天然・合成の判断に有効です。
さらに、このようなダイヤモンドのルミネッセンス像は個体ごとに異なり、個体識別にも応用が可能です。天然ダイヤモンドは地球の深部で育まれ、地表で産出するまでに自然界の多くの環境変化をこうむるため、その成長履歴は決して一様ではありません。そのため、まったく同じルミネッセンス像を示すダイヤモンドは二つと存在しません。しかし、Fig.4に示すようにひとつの結晶からカット研磨された二つのダイヤモンドなら貝合わせのようにこの断面のルミネッセンス像が一致します。

Fig.4 ツインダイヤモンドの模式図。ひとつの原石からカット研磨された2つのダイヤモンドは相似形のルミネッセンス像を示す
Fig.4 ツインダイヤモンドⓇの模式図。ひとつの原石からカット研磨された2つのダイヤモンドは相似形のルミネッセンス像を示す。

Fig.5で示す二つのダイヤモンドは相似形のルミネッセンス像を示しており、同一の原石からカットされたと考えられます。このような組み合わせをまったく無作為のダイヤモンドから見つけることは困難ですが、あらかじめひと組とされているダイヤモンドの双子の真偽を確認するには有効です。
CGLではこのように同じ原石から得られた二つのダイヤモンドを双子のダイヤモンドという意味を込めてツインダイヤモンド®と呼んでおり、ツインダイヤモンド®レポートサービスを行っております。

05ツインA

Fig.5 ツインダイヤモンドの例。
Fig.5 ツインダイヤモンドⓇの例(上・下)。2つのダイヤモンドのDiamond View™によるUVルミネッセンス像は相似形をしており、ひとつの原石からカットされたことが判ります。

⑬ダイヤモンドプラス(Diamond Plus™)

我々鑑別機関における日常のダイヤモンド鑑別において最も重要な項目のひとつに天然ダイヤモンドに施されたHPHT処理の看破があります。HPHTはHigh-Pressure High-Temperatureの略語で、合成ダイヤモンドを製造する大型の高圧発生装置を用いた高温高圧下での熱処理のことです。ダイヤモンドを高温で熱処理する際にグラファイト(石墨)化を防ぐために高圧が必要というわけです。
窒素含有量のほとんどないⅡ型の天然褐色ダイヤモンドをHPHT処理すると無色にすることができます。これは米国のGE社が開発した手法で1999年に公表されました。以降、複数の製造者がこのHPHT処理を適用して種々のカラーを生み出しています。最近ではHPHT処理に放射線照射やその後の熱処理を組み合わせたマルチプロセスによる新たな処理色も出現しており、ダイヤモンド鑑別を非常に困難なものにしています。
さて、Ⅱ型の褐色ダイヤモンドが無色化できる事実が知られるようになると、すべてのⅡ型無色ダイヤモンドに潜在的なHPHT処理の可能性が考慮され、検査の対象となります。現在、HPHT処理の看破には各種の励起波長を用いたフォトルミネッセンス(PL)分析が有効であることが判っており、先端的な鑑別ラボでは日常の業務にPL分析を導入しています。

◆ダイヤモンドプラスとは

Diamond Plus™はDTCにより開発され、2009年から市販されているHPHT処理を粗選別するためのコンパクトな装置です。鑑別ラボが使用しているフォトルミネッセンス分析装置は大型でコストもかかり、得られた結果の解釈にダイヤモンドの格子欠陥に関する深い知識が要求されます。そのため宝飾用ダイヤモンドが取引されているあらゆる場面において設置可能な器具としてDiamond Plus™が設計されました。
検査対象は無色の天然Ⅱ型ダイヤモンドのルースです。サイズは0.05ct〜10ctまでが測定可能です。事前にDiamond Sure™やFTIRなどでⅡ型であることを確認しておく必要があります。この装置では15秒以内の測定時間で“PASS”あるいは“REFER”などと結果が表示されます。

Diamond Plus
DTC社製 Diamond Plus™
◆ダイヤモンドプラスの原理と使用方法

Diamond Plus™は液体窒素を試料室に注ぎ、サンプルホルダーに取り付けたダイヤモンドを本体にセット、測定ボタンを押すだけで測定がはじまるという非常にシンプルな分析機器です。Diamond Plus™は液体窒素温度でのフォトルミネッセンス分析を行っています。詳細は公表されていませんが、ある特定波長の発光センタの強度と半値幅を測定していると思われます。

ダイヤモンドプラスの使用方法
ダイヤモンドプラスの使用方法
◆測定結果の解釈

Diamond Plus™で測定した結果には5種類の表示が用意されています。
PASS と表示されたものはHPHT処理が施されていないダイヤモンドと判断できます。従って、これ以上の検査の必要はありません。
REFER と表示されたものはHPHT処理された天然ダイヤモンドである可能性があるため、鑑別ラボで使用する、より高度なPL分析を行う必要があります。また、合成ダイヤモンドの可能性もあり、他の検査において確認する必要があります。
REFER ( IRRADIATED? ) と表示されたものは照射処理された可能性があります。地色が緑味を帯びていないかどうかのチェックが必要です。
REFER ( CVD SYNTHETIC? ) と表示されたものはCVDダイヤモンドの特徴である737nmの発光ピークを検出した際に表示されます。
NO DIAMOND DETECTED と表示されたものはダイヤモンドのラマンピークが検出されなかった際に表示されます。ダイヤモンドではないものや、セッティング状態が悪い可能性があります。◆

宝石コランダムの原産地鑑別 -日本鉱物科学会2014 年年会より-

2015年1月No.24

リサーチルーム 江森健太郎、北脇裕士

ルビーやブルーサファイアの原産地鑑別には内部特徴の観察が最も重要と考えられているが、近年では高精度の元素分析によってその判定精度が補完されている。本研究では商業的に重要度の高い産地のルビーおよびブルーサファイアについてLA-ICP-MSによる微量元素の分析を行い、その原産地判定の精度向上に寄与するケミカルフィンガープリントの作成を試みた。

1.はじめに

(1)産地鑑別とは
宝石鑑別は、宝石鉱物の種類および変種の同定、天然・合成の起源、加熱や照射などの人的処理の有無などを客観的に判定する技術である。また、付随的に顧客のリクエストに応じて宝石の産出する地理的地域の判定、いわゆる原産地鑑別が行われることがある(日本国内の規定では一般鑑別書における産地表記は認められておらず、別途分析報告書によるものとされている)。
原産地鑑別は個々の結晶が産出した地理的地域を推定するために、その地域がどのような地質環境さらには地球テクトニクスから由来したかを考慮しなければならない。そのためには産地が既知の標本石の収集が何よりも重要となる。そしてこれらの詳細な内部特徴の観察、標準的な宝石学的特性の取得が基本となる(文献1) 。その上で紫外-可視分光分析、赤外分光(FTIR)分析、顕微ラマン分光分析、蛍光X線分析さらにはLA-ICP-MSによる微量元素の分析が行われ、鉱物の結晶成長や岩石の成因、地球テクトニクスなどに関する知識と経験をも併せ持つ技術者による判定が行われている。

(2)産地鑑別の正確性と限界
原産地鑑別における判定基準に国際的なスタンダードは存在しない。地理的地域の結論は、それを行う宝石鑑別ラボの独自の手法および評価による意見であり、その宝石の出所を保証するものではない。同様な地質環境から産出する異なった地域の宝石(たとえばスリランカ産とマダガスカル産のブルーサファイア、ミャンマー産とベトナム産のルビーなど)は原産地鑑別が困難もしくは不可能なこともある。原産地の結論は、潤沢な既知の標本およびデータベースとの比較、検査時点での継続的研究の成果および文献化された情報に基づいて引き出されたもので、検査された宝石の最も可能性の高いとされる地理的地域を記述することとなる。また、情報のない段階での新産地の記述にはタイム・ラグが生じる可能性がある。

(3)ケミカルフィンガープリント
宝石鉱物には主成分以外の微量成分が含まれており、その種類や量などは地質学的な産状に関連している。したがって、精度の高い元素分析を行い、検出された微量元素の組み合わせや量比を検討することで原産地の判定に活かされている。これをケミカルフィンガープリントといい、元素分析の手法には主に蛍光X線分析が用いられてきた(文献2)。近年では分析精度の高いLA-ICP-MSも使用され始めており(文献3)、原産地鑑別の精度向上への寄与が期待されている。

2.試料および分析方法

試料は筆者ら自身が原産地で収集するなど産地情報が明確なルビー(114点)とブルーサファイア(81点)を使用した。分析に使用した試料の原産地と産状、および個数は表1、2の通りである。ルビーは宝石品質の原石の表面を研磨し、研磨面を1サンプルにつき5点ずつLA-ICP-MSで分析を行った。ブルーサファイアはファセットカットされたサンプルのテーブル面を1サンプルにつき5点ずつ分析を行った。

表1 分析に用いたルビーとその産状、個数
表1 分析に用いたルビーとその産状、個数
表2 分析に用いたブルーサファイアとその産状、個数
表2 分析に用いたブルーサファイアとその産状、個数

分析に使用したLA(レーザーアブレーション装置) はNew Wave Research UP-213を、 ICP-MSは Agilent 7500aを使用した。分析条件は表の通り。レーザーアブレーションにおけるCrater Sizeはコランダム中のAlと置換される元素であり、一定の量の検出が見込まれるMg, Ti, V, Cr, Fe, Gaについては30μmを使用して測定を行い、微小包有物(ジルコンやルチルなど)から検出される可能性のある微量元素(Li, Be, B, Sc, Co, Cu, Zn, Zr, Nb, In, Sn, Sb, Ba, La, Ce, Hf, Ta, W, Pb, Bi, Th) については80μmを使用して測定を行った。分析には標準試料としてNIST612を使用し、Alを内標準に用いて定量分析を行った。なお、フラクチャー等に二次的に混入する可能性のある不純物元素を回避するため、これらの部位についての分析は行わなかった。

3.分析結果と考察

(1)ルビー
測定した元素を用いた様々な組み合わせにおいてデータのプロッティングを試みた。結果の一例として、Mg,V,Feの三次元プロットを示す。三次元プロットは従来広く用いられてきた3成分の比率を表す三角ダイヤグラムとは異なり、単に3成分の比率を示すだけではなく、量そのものもプロッティングに反映される。公表されている関連分野の先行研究に三次元プロットは見られないが、gnuplotのソフトを用いれば比較的簡単に作成することが可能であり、ケミカルフィンガープリントとして最適と考えられる。
図1では一部に重複する領域も認められるが(特にタンザニアとマダガスカル)、ミャンマー、カンボジアおよびタンザニアの各々の産地ごとに明瞭に分布域が異なっている。
地質学的な産状が異なれば、包有物の相違等から産地の判別は比較的容易であることが期待される。しかし、産状が類似もしくは同一起源の宝石の原産地鑑別は困難だと考えられる。特に大理石起源のミャンマー、ベトナム、タンザニアのモロゴロ産のルビーの産地鑑別は非常に困難、もしくは不可能だとされてきた。

図1:主要産地のルビーをMg,V,Feでプロットしたグラフ
図1:主要産地のルビーをMg,V,Feでプロットしたグラフ

本研究において、Mg,V,Feの三次元プロットを行ったところ、これらの識別が比較的明瞭となることが新たに見いだされた (図2)。

アフガニスタンからベトナムまで伸びるルビー鉱床は大理石起源であり、この区域の大理石はFeの含有量が低いことが知られている。そのため、ミャンマー、ベトナムのFe濃度は低い傾向にあると考えられる。また、ミャンマー産のルビーはその母岩中に含まれる頁岩中の不純物の影響でV濃度が高くなると考えられる。

図2: 大理石起源のルビーをプロットしたグラフ
図2: 大理石起源のルビーをプロットしたグラフ

ルビー中に検出された微量元素の測定結果を表3に記す。各産地、試料、測定点等で特徴があり、これらを組み合わせることで産地鑑別の精度を向上させることが可能である。例えば、ベトナムのルクエン産のルビーは母岩の不純物の影響で微量元素が検出されやすい傾向にある。また、マダガスカル産のルビーは微量元素が検出されにくい傾向にあるが、亜鉛やアンチモンが検出されるといった特徴が認められる。

表3: ルビーの産地別微量元素検出表
表3: ルビーの産地別微量元素検出表
オレンジ枠は必ず検出される元素、グレーは未検出、白は未検出~微量を示す

(2)ブルーサファイア
ブルーサファイアについても、測定された元素を用いて様々なプロットを試みた。J.J.Peucat ら2007年の研究ではGa濃度をMg濃度で割ったものを横軸に、Fe濃度を縦軸にプロットしたグラフでアルカリ玄武岩起源のブルーサファイアと変成岩起源および交代作用起源(合わせて非玄武岩起源とされることが多い)のブルーサファイアを分別できるとしている(文献4)。本研究においても図3のように同様の結果が得られた。
アルカリ玄武岩のブルーサファイアはこのように産地毎にデータの集まりが良く、産地特定の有力な一助となる。一方、非玄武岩起源のグループでは多くの領域で重複が見られる。特にマダガスカルはプロット範囲が広く、原岩の多様性の影響と考えられる。

図3:主要産地のブルーサファイアをGa/Mg vs Fe プロットしたグラフ
図3:主要産地のブルーサファイアをGa/Mg vs Fe プロットしたグラフ

変成岩起源のブルーサファイアで商業的な重要度が高い、マダガスカル、ミャンマー、スリランカのサンプルについて、種々の元素の組み合わせにおいて比較を行った。その一例として、X軸にMg、Y軸にTiを取ったグラフを図4に示す。ミャンマーとスリランカは重複する領域も認められるが、それぞれがほぼ一定の直線上に乗っている。この際、Mg:Ti比はスリランカ産のほうがミャンマーよりもTiが多く、両者の識別において重要なポイントとなることが判る。一方、マダガスカルはプロット範囲が散らばる傾向にある。マダガスカル産は原岩の多様性と、微小包有物を多く含む特徴を持つため、プロット範囲が広くなり、MgとTiの比が一定にならないと考えられる。

図4:変成岩起源のブルーサファイアをMg vs Ti プロットしたグラフ
図4:変成岩起源のブルーサファイアをMg vs Ti プロットしたグラフ

ルビー同様、ブルーサファイアで検出された微量元素を表4に示す。マダガスカル産のブルーサファイアは微量元素が多種含まれる傾向にあるが、これはジルコン等の微小包有物由来と考えられる。このように微量元素の検出量と組み合わせのパターンは産地鑑別の精度向上の一助となることが期待できる。

表4: ブルーサファイアの産地別微量元素検出表
表4: ブルーサファイアの産地別微量元素検出表
オレンジ枠は必ず検出される元素、グレーは未検出、白は未検出~微量を示すブルーは鑑別の際にキーとなる元素
4.まとめ

LA-ICP-MSによる微量元素の分析を行い、その原産地判定の精度向上に寄与するケミカルフィンガープリントの作成を試みた。Mg,V,Feの濃度を軸にとった三次元プロットがルビーの産地鑑別に有効であることがわかった。これらの元素の組み合わせによるプロットは同様な大理石起源のミャンマー、ベトナムおよびタンザニアのモロゴロ産の識別にも応用可能であることが見いだされた。
ブルーサファイアについてGa/MgとFe濃度によるプロットが変成岩起源とアルカリ玄武岩起源の大別に有効であることがあらためて確認された。Mg:Ti比によるプロットは商業的に重要性の高い変成岩起源のミャンマー、スリランカおよびマダガスカル産の判別の一助となることが判った。さらに、ルビー、ブルーサファイア共に微量元素の存在パターンが産地判別の精度向上に寄与することが期待できる。
LA-ICP-MS法を用いた微量元素測定による産地鑑別は一部データがオーバーラップする部分もあるため、詳細な内部特徴の観察や標準的な宝石学特性を併用することによって相互補充的に産地鑑別の精度向上に寄与できるものである。

5.参考文献

1.  Huges, R. W ., 1997, R uby and Sapphire, RWH P ublishing
2.  Muhlmeister, S., Fritsch, E., Shigley J. E., Devouard, B. and Laurs, B. M. 1998. Rubies on the basis of trace-element chemistry ., Gems & Gemolog y, Summer 80-101
3.  Abduriyi, A. and Kitawaki, H., 2006, Determination of the origin of blue sapphire using Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry (LA-ICP-MS). Journal of Gemmology., 30 (1/2), 23-6
4.  Peucat, J. J., Ruffault, P., Fritsch E., Bouhnik-Le, Coz M., Simonet, C. and Lasnier, B., 2007, Ga/Mg ratio as a new geochemical tool to differentiate magmatic from metamorphic blue sapphires, Lithos, 98, 261-274

宝石鑑別に応用される分析技術とその発展

2015年1月No.24

リサーチルーム 室長 北脇裕士

⑧蛍光X線分析(EDXRF)

◆蛍光X線分析とは

物質にX線を照射すると、物質を構成している元素から特有の2次X線が発生します。この2次X線は蛍光X線(X-Ray Fluorescence)とも呼ばれ、これを調べることによって物質を構成している元素の種類と量を知ることができます。宝石の多くは結晶であり、結晶は特定の化学元素で構成されていますから、この組成分析は宝石鑑別で極めて有効な手法になり得ます。もちろん非破壊で分析することができます。
蛍光X線分析装置には2次X線を光学的に分離する波長分散型(WDS)とX線検出器のエネルギー特性を利用するエネルギー分散型(EDS)の二種類があります。

◆蛍光X線分析の原理

◇1次X線の発生
試料(宝石)へ照射される1次X線はX線管球から得られます。X線管球は真空管の一種で、真空中に対陰極(アノード)と 陰極(カソード)を封じ込めたものです。対陰極はターゲットと呼ばれ、W(タングステン)、Cr(クロム)、Rh(ロジウム)、Mo(モリブデン)などの融点の高い金属が使用されます。カソードを構成するフィラメントから発生した熱電子が高電圧の中で運動エネルギーを与えられてターゲットに衝突します。衝突の際、多くのエネルギーは熱に変換されますが、一部は制動放射によりX線に変換されます。これが1次X線です。

 ◇蛍光X線の発生
蛍光X線は、X線と物質の相互作用で発生する特性X線です。X線管球で発生した1次X線が物質(宝石)に入射すると、相互作用としてエネルギーがその物質(宝石)を構成している原子の内殻軌道電子に与えられます。エネルギーを与えられた電子は原子核からの束縛から解き放たれて飛び出し、より外側の軌道に飛び移ります(励起)。
励起した状態は不安定なため、電子の抜けあと(空孔)には直ちに外殻の軌道電子が落ち込んできます(遷移)。この際の両軌道間のエネルギー差に相当するエネルギーがX線として放出されます。これが蛍光X線です。各電子軌道がもつエネルギー準位は元素により固有の値を持ちますので、蛍光X線の波長(エネルギー)も元素によって固有の値となります。Fig.1に示すように、K殻の空孔がL殻から補われた場合にはKα、M殻から補われた場合にはKβなど、複数のスペクトルでK系列蛍光X線スペクトルが構成されます。同様にL殻においても補われた外殻電子軌道の種類によってLα、LβなどのL系列のスペクトルが構成されます。

Fig.1 蛍光X線の発生(フィッシャー・インストルメンツ資料より)
Fig.1 蛍光X線の発生(フィッシャー・インストルメンツ資料より)
◆蛍光X線分析装置

中央宝石研究所では20年近く前に蛍光X線分析装置を導入し、多くの成果を挙げて参りました。分析機器は日進月歩で、今日では分析精度が高く且つ測定時間が短い機種が市販されています。当研究室では日本電子製エネルギー分散型蛍光X線分析装置JSX3201Mを設置しています。試料の形態、大小を問わず非破壊で多元素を同時に定性・定量分析ができます。試料室が広いので(直径200mm、高さ110mmの円筒形)比較的大きな彫刻などでも分析することができます。多くの蛍光X線分析装置では通常検出可能元素が原子番号11のNa(ナトリウム)からですが、この機種は原子番号6のC(炭素)から分析することが可能です。さらに16試料自動交換機構が装備されているので多試料の連続分析が可能です。研究などで一時期にたくさんの分析が必要な場合でも試料のセッティングさえしておけば後は機械任せでオペレーターの手を煩わすことはありません。この機種は微小コリメータが採用されているので、最小で500μmφ領域の分析が可能です。試料の測定場所は高感度のCCDカメラで観察できます。
蛍光X線分析装置の具体的な分析例は次項で説明致しますが、宝石中の微量元素の分析は宝石種の同定だけでなく、天然・合成さらには産地や合成メーカーの特定にも寄与します。

Fig.2 蛍光X線分析装置 日本電子製JSX-3201M
Fig.2 蛍光X線分析装置 日本電子製JSX-3201M

⑨蛍光X線分析(EDXRF)の応用例

◆未知の鉱物種の同定

蛍光X線分析(EDEXRF)な鑑別手法によって確証的なデータが得られない場合(例えば、屈折率や比重が測定不能あるいは特性値が重複する宝石種など)の鑑別には組成分析がきわめて有効となります。もちろん、標準的なデータのみでは鑑別が困難な希少石などの同定にも役立ちます。
具体例としてダイヤモンドの類似石を例に見てみましょう。ダイヤモンドは通常無色透明で、屈折率が高く輝きの強い宝石です。同様な光学特性を有する素材は、ダイヤモンドの類似石として利用されていますキュービック・ジルコニア(CZ)、モアッサナイトなどの代表的な類似石はすべて屈折率が高く、標準的な屈折計では測定が不可能です。もちろん、熟練したジェモロジストならばこれらの類似石とダイヤモンドとを標準的な手法で見分けるのは可能です。しかし、類似石の種類を正確に識別するのは困難です。さらに、近年においては産業界の要請で生まれた全く新しい素材が宝石用素材として利用されるケースも増えています。ダイヤモンドではない事がわかっていても素材の確証が得られない場合などは、元素分析を行ってその化学組成を知ることが重要です。

◆同形鉱物の分類

結晶構造が同一で化学組成が異なる一連の鉱物グループを同形と言います。多くの宝石鉱物は同形で化学組成の違いによって特性値も異なり名称も変わります。ガーネットはしばしばこの同形鉱物の代表例として取り上げられます。ガーネットは等軸晶系でいわゆるガーネット構造と呼ばれる一定の結晶構造を有しています。ところが、含有する元素の組み合わせによって十数種類の端成分が存在します。宝石に利用されるガーネットの端成分は6種類程度ですが、これらの中間タイプも存在するため、変種の分類は簡単ではありません。ガーネットの変種分類は基礎的な知識があれば色、屈折率、比重、分光および拡大などの標準的な鑑別手法である程度は分類可能です。しかし、中間組成のものや幾種類もの端成分が固溶したものはやはり元素分析が必要となります。

◆天然・合成の識別

ルビー、エメラルド、アレキサンドライトなどの主要宝石は商業ベースで合成されています。これらの合成石は屈折率、比重などの物理特性が天然石と重複していますから、標準的な鑑別手法では拡大検査による内部特徴の観察が最も重要となります。ところが、近年は合成技術の進歩や合成石に施される加熱処理によって、内部特徴だけでは識別が困難な事例が多く見られるようになりました。天然石は化学式どおりの組成を有することはなく、何らかの不純物元素を含有するのが常で、それは結晶が成長するときの環境に影響を受けます。したがって、微量に含まれる不純物元素を正確に分析することにより、天然石のおよその産状(玄武岩起源か非玄武岩起源かなど)を知ることができます。また、合成石では合成法あるいはメーカーごとに添加される元素や用いるフラックス等に相違があり、それぞれに含有する不純物元素にも特徴が見られます。

ルビーを例に挙げてみましょう。天然ルビーは個体差があるものの、必ずTi、V、Cr、Fe、Gaなどの不純物元素を含有しています。これに対して合成ルビーにはFeやGaを含有しないものがほとんどです。一部の合成メーカーのものでFeおよびGaを含有するものがありますが、他の不純物元素に相違が見られます(Fig.3)。より詳細な分析にはLA-ICP-MS分析などのより高度な検査が必要となりますが、EDXRF分析は非破壊で迅速に行える特長があります。

Fig.3 合成ルビーのEDXRFによる組成分析(北脇1997より) 
Fig.3 合成ルビーのEDXRFによる組成分析(北脇1997より)

アレキサンドライトの鑑別にもこの微量元素の分析は有効です。天然アレキサンドライトは必ず相当量のTi、V、Cr、FeおよびGaを含有します。これに対して結晶引き上げ法ではTi、Fe、Gaが欠如することが多く、フラックス法においてはGaの欠如に加えてBi、Geなどのフラックス起源の元素が検出されることがあります。

◆真珠の母貝鑑別

近年ではアコヤ真珠の生産量低迷を背景に白蝶真珠の低サイズ化、有核淡水真珠の台頭などで、外観が酷似した真珠の母貝鑑別が性急な問題として浮上しています。母貝鑑別には真珠の色、てり、などの外観や光透過の程度、結晶成長模様の観察、分光測定などの手法がとられていますが、元素分析も重要な手がかりを与えてくれます。以前から、Mnの検出が淡水真珠の特徴といわれており、海水産真珠にはSrの含有が多いことが知られています。また、アコヤ真珠は一般的な加工(漂白・調色)の工程を経ることによってCa/Srの測定強度比が上昇することが分かっています。また、アコヤガイ、白蝶貝、黒蝶貝から産出されたホワイト系の真珠の母貝鑑別にはSr/CaとNa/Caの強度比の測定が参考になります。

⑩レーザー・トモグラフィ

標準的な宝石鑑別検査には低倍率(通常、10倍~60倍程度)の宝石顕微鏡(双眼実体顕微鏡)が用いられています。いうまでもなく、宝石内部を効率良く観察するためです。包有物(インクルージョン)や成長組織などは宝石鉱物が成長した環境あるいは履歴を反映しているため、これらを観察することによってその起源(天然か合成かなど)を明らかにすることが可能になります。

結晶内部の欠陥や不均一性を検知する有効な一手段に、X線回折トポグラフィが知られており、主に半導体材料や鉱物検査等に利用されています。ところが、この方法は操作が難しく得られた像の解析にも高度な技術が要求されます。その上試料サイズなどにも大きな制約があることから、特殊な場合を除いて宝石鑑別には用いられていません。レーザー・トモグラフィはX線の代わりに可視光を用いて同様な観察を可能にした顕微法であり、操作が比較的容易で宝石試料に対するダメージもないことから古くから宝石鉱物の観察に利用されてきました。中央宝石研究所では主にルビーやサファイアなどの加熱の履歴に関する情報を得るために活用しています。

◆レーザー・トモグラフィ

宝石顕微鏡では直接実態を見ることができない微小物質も、光束を当てた時に生じるチンダル現象を利用すれば観察が容易となります。このような光散乱法を利用した観察の歴史は古く、1903年にはすでに限外顕微鏡を用いて、光学顕微鏡の解像力をはるかに超える微小散乱体の存在が確認されています。

1970年代後半には学習院大学の守矢博士等の研究グループが【光散乱トモグラフィ】と名付けた細く絞ったレーザー・ビームを試料内に走査させ、三次元的な断層写真を得る方法を開発しました。この方法には以下に示すような優れた長所があり、特に透明結晶の不均一性の観察には最適です。

Fig.4 レーザー・トモグラフィ装置(CGLオリジナル)
Fig.4 レーザー・トモグラフィ装置(CGLオリジナル)

①細く絞ったレーザー・ビームを使用するため、迷光が取り除かれ、結晶欠陥などのごく微弱な散乱像も、そのままの状態で捕らえることができます。これまでの研究によると、サブミクロン・サイズの光散乱体の外に成長縞、成長分域境界やディスロケーション(線状欠陥)などの検知が可能です。
しかし、結晶学的方位を無視してさまざまに方向にカットされた多数のファセットを有する宝石を観察するには、レーザー光の取り入れに工夫が必要となります。これらの多くのファセット表面からの反射を防ぎ、レーザー・ビームを効率よく試料石内に入射させるために、試料とできる限り近似する屈折率の浸液中に浸漬した状態で観察する必要があります。例えば、コランダム(屈折率1.76~1.77)ならヨウ化メチレン(室温での屈折率1.745程度)が適しています。

②レーザー・ビームを試料中の一定のレベルでゆっくりと走査しながら、内部の断層写真(トモグラフ)を撮影しますが(シリンドリカルレンズを用いて平面的なレーザー光を使用することで走査させない撮影法も可能です)、試料内でビームの走査深度を変化させることで、任意の断面の映像を得ることができます。また、試料の方位を変えて同様に観察すれば、結晶の不均一性を三次元的に捉えることができます。

③レーザー・トモグラフィは、非常に微弱な散乱像を観察することができるうえ、それを鮮明に記録写真に撮ることも可能です。この場合、数十倍程度の光学的倍率ですが、宝石に関して言えば、この程度の低倍率のほうが石全体の構造を観察するのに適しています。

④レーザー源には各種の波長を選択することが可能であり、このトモグラフィにはアルゴンイオン・レーザー(青色)が適しています。トモグラフィによって結晶欠陥などの散乱像が明瞭に捉えられるだけではなく、アルゴン・レーザーにより励起される蛍光像の観察も期待できるからです。いうなれば散乱トモグラフと蛍光トモグラフの観察を同時に得られることになります。蛍光像について少し詳しく説明します。蛍光とは外部から光などのエネルギーを受けることによって発光中心の電子が励起し、基底状態に戻るときにエネルギーを放出(発光)する現象です。この時、発光する光の波長は励起源の波長よりも長くなります。したがって、可視光の発光(蛍光)を観察するためには波長の短い青色光が有利となるのです。青色光で励起すると緑、黄色、オレンジや赤色の蛍光色の観察が可能となります。逆に赤色のレーザーで励起しますと、青色~オレンジ色までの波長の発光は期待できませんし、赤色レーザー中の赤色蛍光は非常に観察し辛くなってしまいます。

Fig.5
Fig.5 加熱ブルー・サファイアのレーザートモグラフ:画像中の白っぽく見える領域(左上)は微小散乱体。オレンジ色(右上)及び黄色(下部)は青色レーザーによって発行した蛍光像。

Fig5は加熱されたブルー・サファイアのレーザートモグラフです。写真左上に白っぽく見えるのが微小散乱体で宝石顕微鏡下ではほとんど見えません。また、写真右半分および左下部に明るく写っているのが蛍光像です。このような非常に鋭角的な輪郭を持った蛍光像は加熱されたサファイアの特徴といえます。

日本鉱物科学会2014 年年会・総会参加報告

2014年11月No.23

リサーチルーム 江森健太郎

去る9月17日(水)から19日(金)までの3日間、熊本大学黒髪北キャンパスにて日本鉱物科学会の2014年年会・総会が行われました。弊社からは2名の技術者が参加し、それぞれ発表を行いました。以下に年会の概要を報告致します。

熊本のシンボル、熊本城
熊本のシンボル、熊本城
日本鉱物科学会とは

日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Sciences)は平成19年9月に日本鉱物科学会と日本岩石鉱物鉱床学会の2つの学会が統合・合併されて発足し、現在は大学の研究者を中心におよそ1000名の会員数を擁しています。日本鉱物科学会は鉱物科学およびこれに関する諸分野の学問の進歩と普及をはかることを目的としており、「出版物の発行(和文誌、英文誌、その他)」、「総会、講演会、研究部会、その他学術に関する集会および行事の開催」「研究の奨励および業績の表彰」等を主な事業として活動しています。今年、2014年は世界結晶年であり、世界結晶年とのコラボセッションもありました。

世界結晶年2014年について

マックス・フォン・ラウエ博士がX線による結晶の回折現象の謎を解き、1914年にノーベル物理学賞を受賞しました。また、ヘンリー・ブラッグとローレンス・ブラッグ親子は結晶が原子配列して作られているものであることを食塩の結晶のX線回折により明らかにし、1915年にノーベル物理学賞を受賞しました。これらの革新的な実験は近代結晶学の誕生と位置づけられています。その後、近代結晶学は23ものノーベル賞受賞につながり科学技術の発展に貢献してきました。2012年7月、国際連合の総会はモロッコからの提案を承認し、国際結晶学連合(IUCr)、ユネスコ(UNESCO)と国際科学会議(ICSU)の支援のもと、これらの業績の100周年を記念するため、2014年を世界結晶年として制定しました。

日本鉱物科学会2014年年会

会場となった熊本大学は1949年の学制改革の際に熊本市所在の旧制諸学校を包括して、新制大学として誕生しました。日本の結晶学のパイオニア的存在である寺田寅彦氏の母校(第五高等学校時代)でもあり、今でも往時の教室や実験設備が国指定の重要文化財として一部保存されています(写真参照)。地理的には熊本市のシンボルである熊本城より北東に黒髪北キャンパスがあります。交通手段としては熊本駅からバスで30~40分程度かかりますが、本数も多く、アクセスに不便はありません。
今回の年会では、5件の受賞講演、10のセッションで136件の口頭発表、108件のポスター発表が行われ、参加者286名、懇親会参加者135名でした。

熊本大学黒髪北キャンパス前にて
熊本大学黒髪北キャンパス前にて
寺田寅彦が授業を受けた教室
寺田寅彦が授業を受けた教室
当時化学実験等で使用されていたドラフト
当時化学実験等で使用されていたドラフト

一日目、17日(水)の午前9時30分より、「結晶構造」「地球外物質」「岩石―水相互作用」のセッションが行われました。また、別会場でポスターセッションが同時に開催されました。12時~14時はポスターセッションのコアタイムに指定されており、ポスター発表者による説明、質疑応答、議論などが活発に行われていました。なお、ポスター発表は学会開催期間3日間を通して行われており、3日間ともコアタイムはたくさんの人で賑わっていました。

ポスターセッションのコアタイムの様子
ポスターセッションのコアタイムの様子

二日目、18日(木)午前8時50分より鉱物科学会の総会、10時10分より鉱物科学会受賞講演がありました。平成25年度日本鉱物科学会第11回受賞者である茨城大学理学部の木村眞氏、平成25年度日本鉱物科学会第12回受賞者である愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターの土屋卓久氏、平成25年度日本鉱物科学会研究奨励賞第13回受賞者である物質・材料研究機構の佐久間博氏、平成25年度日本鉱物科学会研究奨励賞第14回受賞者である愛媛大学理工学研究科の斉藤哲氏、平成25年度日本鉱物科学会研究奨励賞第15回受賞者である大阪大学大学院理学研究科の横山正氏の講演がありました。また、受賞講演終了後、午後14時より「高圧化学・地球深部」「深成岩・火山岩及びサブダクションファクトリー」「地球表層・環境・生命」のセッションがありました。

鉱物科学会受賞講演の様子
鉱物科学会受賞講演の様子

三日目の19日(金)午前9時30分より「変成岩とテクトニクス」「鉱物記載・分析評価」「岩石・鉱物・鉱床一般」のセッションがあり、弊社研究者は「鉱物記載・分析評価」のセッションで「宝石コランダムの原産地鑑別①-その正確性と限界についてー」「宝石コランダムの原産地鑑別②-LA-ICP-MS分析の応用例―」の2件の講演を行いました。講演後、多数の質問が寄せられ、鉱物学会会員の方々の宝石学への関心の強さを感じ取ることができました。

毎年開催される鉱物科学会年会では最先端の鉱物学研究が発表されています。鉱物学と宝石学は密接な関係があり、参加し、聴講することで最先端の鉱物学に関する知見を得られ、普段接する機会が少ない研究者の方々との交流を深めることができます。来年も鉱物科学会年会に参加し、中央宝石研究所で行っている各種宝石についての研究をさらに深める予定です。なお、来年の鉱物科学会年会は9月24日~26日、東京大学で開催されます。

熊本大学五高記念館
熊本大学五高記念館
夏目漱石像
夏目漱石像

夏目漱石は1896(明治29)年4月14日、第五高等学校嘱託教員として着任し、同年7月9日に教授となった。
翌1897(明治30)年10月10日、創立記念日に教員総代として述べた祝辞の一説「夫レ教育ハ建国ノ基礎ニシテ師弟ノ和熟ハ育英ノ大本タリ」の文字が記念碑として本学内(黒髪北キャンパス)に建てられている。

宝石鑑別に応用される分析技術とその発展

2014年11月No.23

リサーチルーム 室長 北脇裕士

④フォトルミネッセンス(PL) 分析法

◆フォトルミネッセンス(PL)分析とは

フォトルミネッセンス(PL)とは、物質に光を照射し、励起された電子が基底状態に遷移する際に発生する光のことです。

Fig.1
Fig.1 フォトルミネッセンスの原理(コスモ・バイオ(株)HPより)

Fig.1の①を基底状態、②を励起状態といいます。励起状態は不安定なため、通常発熱などで少しエネルギー順位の低い③の状態に一時的に移行します。③から元の基底状態④に戻る際に発光します。②から③へ移行する際にエネルギーのロスがありますから、励起させる光の波長(②-①のエネルギーに相当)よりも長い波長の光(③-④のエネルギーに相当)が発光します。この発光は物質の不純物や欠陥に影響を受けやすいため、発光を分光し詳細に解析をすることによって、物質中の欠陥や不純物の情報を得ることが可能となります。PL分析は、主に超格子構造や半導体結晶の構造解析などに用いられています。結晶中の不純物や欠陥に起因した発光の強度分布を測定し、結晶の均一性や欠陥の分布状況を高い分解能で評価します。この手法の特徴として、測定の際に試料を破壊することがなく、また特殊な前処理を必要としないことが挙げられます。装置は前回( C G L 通信No.21)でご紹介した顕微ラマン分光装置と併用することができます。ラマン分光は既述のとおり、レーザー光を照射した際に発生する微弱なラマン散乱を検知しますが、その際の発光を検知するのがPL分析です。励起源のレーザーも検出器も併用できますが、分析結果の表示が異なります。ラマン分光法では単位はcm–1を用いますが、PL分析ではnmで表記します。

Fig.2
Fig.2 顕微ラマン分光装置(PL分析も同装置で行う)

測定方法は波長と強度の関係を観察するためのスペクトル測定が一般的ですが、近年では試料から放出される様々な発光の強度分布を測定するマッピング測定も可能になりました。
PL分析では、励起する波長の種類において発光するピークの種類や強度も異なります。従って、期待される発光センタに応じた励起波長を選択することが重要となります。
例えば、ダイヤモンドのPLを測定する場合、N3センタ(415.2nm)や491センタ等の検出には325nm(UV)波長のHe/Cd laserが、H3センタ(503.2nm)、3Hセンタ(503.5nm)及びH4センタ(496.1nm)等の検出には488nm波長のArイオンlaser(青色)が有効となります。また、NV0センタ(575nm)、NVセンタ( 6 3 7 n m )及びG R 1 センタ( 7 4 1 n m )の検出には514nm波長のArイオンlaser(緑色)が、737センタ(Si-V)等の検出には、633 nm波長の He-Ne laser(赤色) が有効です。近年ではレーザー源の発展もめざましく、多くの波長で半導体固体レーザーが使用されるようになり、サイズもコンパクトで寿命も長くなりました。弊社では2台の装置に上記4種波長、計6本のレーザーを目的に応じて有効に使用しています。

Fig.3
Fig.3 PL分析で用いるレーザー発信機:左から488nm,515nm (半導体励起固体レーザー),325nm(He/Cd laser)

また、存在する可能性のあるPL特徴をすべて適切に分解するには低温条件が必要なため、冷却測定には専用の冷却ステージを用いています。
宝石学分野におけるPL分析は、2000年以降のダイヤモンドのHPHT処理がきっかけとなりその有効性が確認されました。当初は看破が不可能と言われていたHPHT処理の検出がこのPL分析によりかなりのレベルまで可能となり、ダイヤモンドの天然・合成起源、HPHT処理及び放射線照射処理の検出に必要不可欠となっています。具体的な分析例については次項でご紹介します。

⑤フォトルミネッセンス(PL) 分析法の実際

◆HPHT処理の目的と背景

ダイヤモンドの品質改善の目的でダイヤモンドを高圧下で熱処理する手法があり、高温高圧(High Pressure-High Temperature)処理と呼ばれています。古くは1970年代後半にはGE社やデビアス(現Element Six)の工業用ダイヤモンド部門において、それぞれ独自にHPHT処理関連の特許が取得されています。1994年には、GE社によるCVD合成ダイヤモンドのHPHT処理を用いた “靭性の改善”及び“結晶欠陥の軽減”等に関する一連の米国特許が出願され受理されています。近年では電子デバイス用の高品質ダイヤモンドの必要性から、CVD合成ダイヤモンドに対するHPHT処理が精力的に行われています。

1970年代末に取得されたそれぞれの特許の満期や90年代の工業用ダイヤモンドにおけるHPHT処理の研究が、宝飾用ダイヤモンドへの応用の布石となっているようです。また、一部には近年台頭してきた中国等の安価な工業用合成ダイヤモンド製品との競合が困難となったため、ダイヤモンド合成に関わる企業が宝飾用天然ダイヤモンドのHPHT処理に事業転換したとも言われています。

1999年4月、ペガサス社(アントワープに設立されたLKIの出資会社)が、GE社により処理されたダイヤモンドを販売すると発表しました。LKI社によると、『この処理はダイヤモンドの色、光沢、輝きの質を改善するもので、恒久性があり、看破は不可能』とされました。処理方法については、“ある種の褐色を無色化する”ことのみが伝えられ、具体的には公表されませんでしたが、後にⅡ型の褐色ダイヤモンドがHPHT処理されたものであることが確認されました。

その後、1999年12月にNovaDiamond社によるHPHT処理ダイヤモンドが公表されました。これは、先に発表されたGE社の製品がⅡ型なのに対し、Ⅰ型の褐色ダイヤモンドを独自のHPHT処理技術により黄色~緑色に改変したものです。NovaDiamond社はNovatek社の完全出資会社で、HPHT処理されたダイヤモンドを宝石市場に提供する目的で設立されています。H P H T 処理はダイヤモンドを合成する高圧発生技術があれば可能です。従って処理を公表しているGE社及び、NovaDiamond社以外にも設備と技術があれば処理を行うことが可能です。

2011年4月、ドバイで開催された世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)のプレジデントミーティングにおいて、H P H T 処理された石が適切な情報開示なしに意図的に鑑別ラボに持ち込まれている件が話題となりました。WFDBではHPHT処理ダイヤモンドを詐欺的に取り扱った業者には罰則を加えることや、鑑別ラボにも依頼者の公表が求められたようです。

◆HPHT処理の検出

1999年3月に行われたLKIの発表では、宝石ダイヤモンドに施されたHPHT処理の検出(看破)は不可能とされ、宝飾ダイヤモンドの業界関係者を不安にさせました。その後、国際的な宝石鑑別機関では各国の大学等の研究施設との連携による研究が開始され、現在ではかなりのレベルまで処理の検出が可能となっています。

【Ⅱ型】
窒素をほとんど含有しない(通常、分析で使用されるFTIRなどの赤外分光法で検出できない1ppm以下)ダイヤモンドはⅡ型に分類されます。Ⅱ型はさらに他の不純物も含まないⅡa型とホウ素を含有するタイプⅡbに細分されます。Ⅱa型のダイヤモンドは本来無色で、Ⅱb型は青色ですが、地中において塑性変形をこうむることにより褐色を帯びています。この宝石としては好ましくない褐色味を除去する目的でHPHT処理が施されます。処理の程度によってはⅡa型の褐色は無色ではなくピンク色になることがあります。また、Ⅱb型の褐色は褐色味が除去されるとともにホウ素が機能して青色になることが知られています。従って、Ⅱ型に分類される無色、ピンク色及び青色ダイヤモンドはすべてHPHT処理された可能性を考慮する必要があります。

現在、Ⅱ型ダイヤモンドのHPHT処理の検出に最も有効な分析手法がPL分析です。PL法はダイヤモンドに含まれる原子レベルのわずかな欠陥を高感度で捕らえることが可能で、その欠陥の種類や程度、あるいは組み合わせを解釈することによって処理・未処理の判断に応用できます。

例えば、HPHT処理されたⅡ型のダイヤモンドに637nmや575nmのNVセンタ(炭素原子を置換した窒素と炭素原子が抜けた空孔による欠陥)が検出される場合、その強度は637nm>575nmになることが知られています。637nmセンタは電子を捕獲して負の電荷を帯びた状態で、575nmセンタは電荷を持たないノーマルな状態です。赤外分光では検出されない程度のAセンタ(それぞれが炭素を置換したペアをなす窒素)がHPHT処理によって解離し、Cセンタ(炭素を置換した単原子窒素)が形成される際に遊離した電子がNVセンタに捕獲される結果、637nm>575nmになると考えられます。また、535nmセンタのようにHPHT処理によって軽減もしくは消滅する欠陥からも処理の有無に関する情報が得られます。

Fig.4

Fig.4 II型褐色ダイヤモンドのHPHT処理前後のPLスペクトル(514nm Laser)

少し混みいった話になってしまいましたが、近年のダイヤモンド鑑別は極めて難しくなってきており、このような高精度の分析が占める重要性がお分かりいただければ幸いです。

⑥赤外分光分析(FTIR)-1-

◆赤外分光分析(FTIR)とは

物質に赤外線を照射すると、それを構成している分子が光のエネルギーを吸収し、振動あるいは回転の状態が変化します。従って、ある物質を透過(あるいは反射)させた赤外線は、照射した赤外線よりも、分子の運動の状態遷移に使われたエネルギー分だけ弱いものとなります。この差を検出することで、分子に吸収されたエネルギー、言い換えれば対象分子の振動・回転の励起に必要なエネルギーが求められます。分子の振動・回転の励起に必要なエネルギーは、分子の化学構造によって異なるので、照射した赤外線の波数を横軸に、透過率もしくは吸光度を縦軸にとることで得られる赤外吸収スペクトルは、分子に固有の形を示します。これにより、対象とする物質がどのような構造であるかを知ることができ、特に有機化合物の構造決定に利用されています。

Fig.5
Fig.5 赤外分光光度計[FTIR](右)と赤外顕微鏡(左)
FTIRはフーリエ変換赤外(Fourier Transform Infra-Red)の略称で、最も広く利用されている赤外分光分析の手法です。フーリエはフランスの数学者・物理学者でフーリエ級数を創始した人物です。FTIRは光源からの光を干渉計により合成波とし、サンプルに照射して得られた波形についてフーリエ変換と呼ばれる周波数解析を行うことで吸収スペクトルが得られます。回折格子を用いた分散型分光法に比べて、光学的に明るく、波数分解能が高く、スペクトルの形態を見るだけなら測定時間も極めて短いのが特長です。1965年頃に実用化され始め、70年代後半から急速に普及し、現在では赤外顕微鏡と組み合わせた顕微FTIRが広く利用されています。特に有機系の化学分野においては一般的な分析機器として標準装備されています。
宝石学の分野では、1990年代に入って出現した樹脂含浸ジェイダイトの看破をきっかけに主要な鑑別ラボに導入され始めました。近年ではダイヤモンドのタイプ分類には欠かせないもので、その他に含浸物質の検出や各種宝石素材の同定に広く活用されています。以下に代表的な応用例を紹介します。

◆ジェイダイト鑑別への応用

1990年代に入ってジェイダイトの樹脂含浸処理が出現しました。これは原石の表層に酸化鉄などが付着したジェイダイトを漂白し、安定化と透明度の改善のためにエポキシ系等の合成樹脂を含浸する処理です。透明な樹脂を含浸するとそれだけで色が濃く見え、処理後のジェイダイトは見かけの価値が大きく変化します。従って、樹脂含浸処理の有無を看破する必要がありますが、標準的な鑑別手法では限界があります。そこで弊社が着目したのが赤外分光分析です。赤外分光法では目には見えない樹脂が赤外吸収スペクトルにはっきりと現れます。赤外分光法は含浸された樹脂を検出するのに極めて有効で、以降すべてのジェイダイトが分析されるようになりました。

◆エメラルドの含浸物質の看破

“傷のないエメラルドはない”といわれるように、エメラルドはどこの産地のものでも一般に包有物を有しています。また、採鉱時にはすでにフラクチャーが生じたものも多く、カット・研磨、ジュエリー加工などの段階でこれらのフラクチャーが拡大する可能性があります。このようなエメラルドの表面に達する特徴を軽減するために透明材の含浸が慣習的に行われています。

氷を透明な水の中に浸漬するとその輪郭が見え難くなるように、エメラルドの屈折率の近い物質がフラクチャーに含浸されると目立ち難くなります。エメラルドの屈折率はおよそ1.57~1.59なのでこの屈折率に近似するオイルや樹脂が含浸されます。含浸物質には種々のものが知られていますが、伝統的に利用されているのがシダーウッドオイルです。このオイルは数種類の針葉樹、特にビャクシンから採取されています。また、1990年代から急速に普及したのがエポキシ樹脂です。オイルに比べると樹脂は屈折率がエメラルドにより近いため、見かけのクラリティ向上に効果があります。業界で知名度の高いオプティコンは商標名でエポキシ樹脂の一種です。

F T I R 分光装置では、F i g . 6に示す未処理のエメラルドとオイルが含浸されたエメラルドのFTIRのスペクトルのように、オイル含浸されたエメラルドにはオイルに起因する吸収が見られます。このピークの深さが含浸されたオイルの量にほぼ比例します。

Fig.6
Fig.6 未処理エメラルド(黒線)とオイル含浸されたエメラルド(赤線)

⑦赤外分光分析(FTIR)-2-

◆ダイヤモンドのタイプ

ダイヤモンドには紫外線を透過するタイプとそうでないものがあることが1800年代後半には知られていました。その後、赤外線のスペクトルも併せて前者をⅠ型、後者はⅡ型に分類されました。1950年代後半には、この型の違いが精力的に調査され、窒素の不純物に因るものと分かり、窒素を含有するものがⅠ型、含有しないものがⅡ型とされました。1952年には、窒素を含有しないⅡ型の中には極めてまれに電気を通す半導体の性質をもつものがあることが分かり、Ⅱb型に分類されました。さらに、1960年代には、窒素の存在の仕方において、窒素が凝集するものをⅠa型、置換型単原子窒素として存在するものをⅠb型とされました。

筆者の調査によると、天然ダイヤモンドの99.3%はⅠ型、0.7%がⅡ型に分類されます。また、高温高圧法合成ダイヤモンドは、通常黄色でⅠb型に分類されます。しかし、無色の合成ダイヤモンドは高温高圧法であってもCVD合成法であってもⅡa型に属します。

Fig.7 ダイヤモンドのタイプ分類
Fig.7 ダイヤモンドのタイプ分類

Fig.7に示すようにダイヤモンドを赤外分光(FTIR)で測定すると、1000~1500㎝–1付近に窒素不純物に因る吸収が見られます。そして窒素の凝集の相違により異なったスペクトルが検出されます。通常、FTIRの測定において窒素不純物による吸収が見られるものはⅠ型、 見られないものはⅡ型に分類されます。さらにⅠ型で窒素が置換型単原子として含まれるものはⅠb型、凝集した形態のものはⅠa型に分類されます。さらにⅠa型のうち、A凝集体として窒素が存在するものはⅠaA型、B凝集体として存在するものはⅠaB型に細分されています。

Fig.8 赤外分光(FTIR)で測定した各タイプのダイヤモンド
Fig.8 赤外分光(FTIR)で測定した各タイプのダイヤモンド
◆宝石ダイヤモンドの色とタイプ

Ⅱa型に分類される宝石ダイヤモンドは有意な窒素の含有がないため通常は無色で、カラーグレーディングにおいて多くはDカラーと判定されています。しかし、塑性変形(原子レベルのひずみ)をこうむったものは褐色味を帯び、宝石としての価値は低くなります。このようなⅡa型の褐色はHPHT処理の原材として利用されています。一方、Ⅱa型に分類されるものの中に稀にピンク色が存在します。歴史的に著名なピンクダイヤモンドはほとんどがこのⅡa型です。Ⅱb型はⅡ型の中でもさらに少なく、ダイヤモンド全体の0.002%程度です。Ⅱb型のダイヤモンドはホウ素を含むことで青色~灰色を呈しますが、塑性変形を蒙ったものは独特の灰褐色を呈しており、HPHT処理の原材とされています。

宝石質ダイヤモンドのほとんどはⅠ型に分類されます。無色~ほぼ無色のダイヤモンドもⅠa型のものがほとんどです。Ⅰa型には無色~ほぼ無色に続いて黄色、褐色、ピンク等が含まれています。
宝石ダイヤモンドにとってこのタイプの理解は以下の点において重要です。

  1. 天然ダイヤモンドの色はある程度タイプに関連を持つこと
  2. 合成ダイヤモンドの色もタイプと関連すること
  3. 放射線照射処理やHPHT処理における色の変化もダイヤモンドのタイプにある程度関連を持つこと

ダイヤモンドのタイプと地理学的な産地との関連を科学的に証明することは困難です。しかし、ある特定のものについては歴史的背景と産出状況において推測が可能といわれています。Ⅰa型のダイヤモンドはすべての主要なダイヤモンド鉱山から産出しますが、Ⅰa型の淡黄色ダイヤモンドは南アフリカ地域からの産出が良く知られています。そのため、宝石学では一般に淡黄色のダイヤモンドを南アフリカの地名に因んで“ケープストーン”と呼んでいます。Ⅰa型のピンクダイヤモンドはオーストラリアのArgyle鉱山産のものが90%以上と言われています。Ⅰb型の黄色ダイヤモンドも主要な鉱山からはどこからも産しますが、インド、ブラジル及び南アフリカの鉱山産のものが多いようです。Ⅱ型のダイヤモンドもほとんどの鉱山から産出しますが、インド、ブラジル、アフリカが重要な産地です。Ⅱa型のピンクダイヤモンドはインドのゴルコンダ地方が歴史的に良く知られた産地であり、Ⅱb型の青色ダイヤモンドは南アフリカのカリナン(以前はプレミアと呼ばれていた)鉱山が重要な産地として知られています。

偽合成の特徴を示す特異な天然Ⅱ型ダイヤモンド

リサーチルーム 北脇裕士、久永美生、山本正博、江森健太郎

合成ダイヤモンドの鑑別には、標準的な宝石学的検査に加えて、多くの場合フォトルミネッセンス分析やDiamondView™などの先端的なラボの分析が必要である。本報告では、これらのラボラトリーの分析技術において合成に酷似した特徴を示す偽合成ともいえる天然Ⅱ型ダイヤモンドについて報告する(本報告は平成26年度宝石学会(日本)で講演した内容を一部加筆修正したものです)。

1.背景

2012年、アントワープの国際的なダイヤモンドグレーディングラボラトリーから大量ロットのCVD合成ダイヤモンドの報告があり、ダイヤモンド業界を賑わせた(文献1)。それ以降、インドや中国の検査機関からも相次いでCVD合成ダイヤモンドに関する報告がなされており(文献2)、当研究所からも非開示で持ち込まれた1ctupのC V D 合成ダイヤモンドについて報告を行った(文献3)。また、高圧法合成ダイヤモンドにおいてもA d v a n c e d Optical Technology Co.など無色合成ダイヤモンドの新たな提供者が現れて業界の関心を集めている(文献4)。
合成ダイヤモンドの鑑別には、宝石顕微鏡下における拡大検査、紫外線蛍光検査、歪複屈折の観察などの標準的な手法も不可欠であるが、多くの場合フォトルミネッセンス分析やDiamondView™などの先端的なラボの分析が必要である。
フォトルミネッセンス分析においては7 3 7 n mのS i – Vの発光ピークがC V D 合成ダイヤモンドの特徴であり、DiamondView™では天然とのモルフォロジーの相違によるセクターゾーニングが高圧合成ダイヤモンドの特徴となる。
本報告では、①フォトルミネッセンス分析においてS i – Vの発光ピークを示す天然Ⅱ 型ダイヤモンドと②DiamondView™の観察においてセクターゾーニングを示す偽合成ともいえる天然Ⅱ型ダイヤモンドについて報告する。

2.試料と分析方法

試料は、2012年後半から2014年前半までに分析を行った多数のⅡ型ダイヤモンドのうち、フォトルミネッセンス分析において737nmのSi-Vの発光ピークを示す天然ダイヤモンド9個(Min:0.123ct~Max:5.018ct, Ave.0 . 7 4 3 c t)とD i a m o n d Vi e w™の観察において高圧合成に誤認しやすい特徴を示す天然ダイヤモンド2個(0.376ct,1.117ct)である。また、同時期に検査した無色~ほぼ無色のCVD合成ダイヤモンド31個と無色~淡青色のHPHT合成ダイヤモンドおよそ300個を比較対象とした。
標準的な宝石学的検査に加えて、Ⅱ型の粗選別には自社で開発したDiamond-kensaを用い、赤外分光分析には日本分光製FT-IR4200を用いて分析範囲は7000-400㎝–1、分解能は4.0㎝–1で、20回の積算回数で測定を行った。フォトルミネッセンス(PL)分析にはRenishaw社製 inVia Raman MicroscopeとRenishaw社製Raman system-model 1000を用いて633nm(赤色)、514nm(緑色)、488nm(青色)および325nm(紫外)の各波長のレーザーを励起源に液体窒素に浸漬した状態で分析を行った。紫外線ルミネッセンス像の観察にはDTC製のDiamondView™を用いた。また、SEM-CLにはTopcon社製走査型電子顕微鏡SM-350を用いて試料は金蒸着を施して観察を行った。

3.結果と考察

①フォトルミネッセンス分析においてSi-Vの発光ピークを示す天然Ⅱ型ダイヤモンド 

フォトルミネッセンス分析における737nm(736.4/736.8nmのダブレット)の発光ピークはSi-Vがマイナスにチャージした欠陥であり、514nmレーザーよりも633nmレーザーで検出効率が高くなる。S(i シリコン)は、石英窓などのCVD合成装置に由来すると考えられており、現時点の商業生産の工程においては避けることが困難なようである(文献5)。 CGL(中央宝石研究所)には2012年後半~2014年前半までの間に総計31個のCVD合成ダイヤモンドが非開示で持ち込まれている。分析の結果、これらすべてに737nmピークが検出されており、現時点における有力なCVD合成の指標となることが確認されている。
しかしながら、天然ダイヤモンドにも737nmピークが検出される事例が報告されており(文献6)、我々もこの2年間で9個の天然Ⅱ型ダイヤモンドに737nmピークを確認している。Breedingらが報告しているように、フォトルミネッセンス分析において、天然で7 3 7 n mピークが検出されるものには、7 1 4 . 7、6 5 1 . 1、6 4 9 . 4、5 9 3 . 3、573.5、557.9、554.3、550.4、524.4nmなどのCVD合成ダイヤモンドには見られない一連のピークが付随する。
これらのピークはSiに関連したものと考えられているが、現時点において詳細は不明である。我々が確認した9個の試料にもすべてにおいてこれらの付随ピークが認められており、天然起源の有効な指標となる(図1)

図1
図1.天然II型ダイヤモンドに見られる737nmピーク: 714.7、651.1、649.4、593.3、573.5、557.9、554.3、550.4、524.4nmなどの多数のピークを伴う。

 

図2に737nmピークを有する天然およびCVD合成ダイヤモンドの637nm(NV)と575nm(NV0)のそれぞれの半値幅(FWHM)をプロットしたものを示す。これらの半値幅はダイヤモンド結晶に内在する歪の大きさを示す指標となることが知られている。全体的に天然・合成とも637nm(NV)と575 nm(NV0)の半値幅に正比例的な相関が認められる。CVD合成ダイヤモンドはそれぞれの半値幅が0.2~0.4付近に集中しており、Wangらが示したGemesis製のものに近似している(文献7)。いっぽう、天然ダイヤモンドはより幅広い領域にプロットされている。

図2
図2.737nmピークを有する天然およびCVD合成ダイヤモンドの637nm (NV) と575nm (NV0) の半値幅比

 

図3は7 3 7 n mピークの半値幅と強度の関係をプロットしたものである。ピーク強度はレーザーパワーとRenishaw標準シリコンのピーク強度で補正している。半値幅は天然ダイヤモンドが0.3~0.7までの範囲にあり、CVD合成ダイヤモンドは0.6~0.9までの広がりがある。ピーク強度は概してCVD合成ダイヤモンドの方が天然よりも高い。

図3
図3.737nmピークを有する天然およびCVD合成ダイヤモンドの737nmピークの半値幅と強度

 

図4は737nm/575nm半値幅比と強度比をプロットしたものである。半値幅比は天然ダイヤモンドが0.5~3.2であるのに対し、CVD合成ダイヤモンドは2~3.5である。また、強度比は概してCVD合成ダイヤモンドの方が天然よりも高い。

図4
図4.737nmピークを有する天然およびCVD合成ダイヤモンドの737nm/575nm半値幅比と強度比

 

フォトルミネッセンス分析における737nmのピーク強度は、CVD合成ダイヤモンドでは測定部位に関わらずほぼ一定である。これは商業的な合成方法において成長時の環境変化が少ないことが要因と考えられる。天然ダイヤモンドにおいては、しばしば測定部位においてピーク強度が変化する。今回737nmピークが検出された天然ダイヤモンドは、9個のうちSI以下のクラリティのものが5個でVS以上が4個であった。クラリティの低いものには結晶包有物が見られ、ラマン分光分析でオリビンであることが確認された。しかし、オリビン結晶包有物と737nmピーク強度には相関が認められなかった。天然Ⅱ型ダイヤモンドは一般に結晶包有物が少ないことが知られており、Si-Vを形成する成長環境の詳細は不明である。

 

②DiamondView™の観察においてセクターゾーニングを示す天然Ⅱ型ダイヤモンド

DiamondView™による紫外線ルミネッセンス像の解析は、ダイヤモンドの天然・合成の判断にきわめて重要である。天然ダイヤモンドは{111}で形成された八面体の晶癖を示すのが一般的であるが、金属溶媒を用いた高圧法合成ダイヤモンドでは{111}と{100}の集形であることが多く、{110}や{113}等の面を伴うことがある。また、天然Ⅱ型ダイヤモンドでは塑性変形に起因するディスロケーションネットワークによるモザイク模様が観察される。
図5は0.376ctと1.117ctの2個のダイヤモンドのDiamondView™による紫外線ルミネッセンス像である。これらは別々の時期に異なるクライアントから供されたダイヤモンドである。両者ともにわずかに緑色味を含む青色のルミネッセンス色と同系色の燐光が観察された。また、双方とも明瞭なセクターゾーニング(成長分域)が認められ、一見すると高圧合成ダイヤモンドに類似している。また、共に白色の微小包有物に因るクラウドを内在している。

図5
図5.高圧合成ダイヤモンドに類似した紫外線ルミネッセンス像を示す天然II型ダイヤモンド

 

図6
図6.0.376ct のDiamondViewTM像とSEM-CL像を比較

 

図6は0.376ctのDiamondView™像とSEM-CL像を比較したものである。DiamondView™像では明るく発光している領域がSEM-CL像では暗く、コントラストが逆になっている。これはDiamondView™の短波長の紫外線ではホウ素に起因する発光が強くなるのに対し、S E M – C Lの電子線ではバンドAを強く発光させるためと考えられる。SEM-CL像ではコントラストの暗い領域に直線的な成長縞が観察され、この領域が{111}のスムーズな界面での成長領域に相当すると考えられる。また、ややコントラストの明るい領域はジグザグ状の構造が見られ、{100}のラフな界面による成長領域と考えられる。
図7はこれら2個のダイヤモンドの赤外分光スペクトルである。3754, 3625, 2376, 653㎝–1にCO2 関連の吸収が認められる。天然ダイヤモンドの赤外スペクトル中のCO2ピークは1993年に報告されており、このときは高圧下でのCO2の固体包有物と考えられていたが(文献8)、最近では結晶格子中に結合したものとの見解もある(文献9)。また、1,000~1,500㎝–1の窒素領域にいくつかの吸収が見られるが、AおよびBセンタに一致しない。したがって、これらのダイヤモンドはⅡ型であり、1,000~1,500㎝–1のいくつかの吸収は炭酸塩鉱物の微小包有物に由来するものと考えられる。
DiamondView™像において一見高圧合成ダイヤモンドのセクターゾーニングのように見えるこれら2個のダイヤモンドは、天然Ⅱ型ダイヤモンドがCO2などの過飽和度の高い環境下で成長したため生じた{111}と{100}が共存するMixed-habit g rowthと考えられる。

図7
図7.赤外分光スペクトル:3754,3625,2376,653cm–1にCO2関連の吸収が認められる
4.まとめ

CVD合成およびHPHT合成ダイヤモンドの鑑別には標準的な鑑別手法に加えてフォトルミネッセンス分析やDiamondView™などの先端的なラボの分析が必要である。本研究ではこれらの先端的な分析において合成に酷似した特徴を示す偽合成ともいえる天然Ⅱ型ダイヤモンドの特徴をまとめた。
2 0 1 2 年以降、当研究所において鑑別を行った無色~ほぼ無色のC V D 合成ダイヤモンド3 1 個すべてに737nmピーク(736.4/736.8nm)が検出された。これらはCVD合成装置の石英ガラス由来と考えられる。いっぽう、同期間に分析を行った天然Ⅱ型ダイヤモンドにも9 個にS i – Vの発光ピークが検出された。これらには714nm他の多数の付随ピークが見られた。
別々の時期の異なるクライアントから供された2個の天然Ⅱ型ダイヤモンドに、DiamondView™において帯緑青色の発光色と燐光を伴う明瞭なセクターゾーニングが観察された。これらは一般的に高圧合成ダイヤモンドの証拠となるが、拡大下においてクラウドを伴い、FT-IRにて特有のピークを示すCO2を内在する天然ダイヤモンドであることが判った。
以上のように、フォトルミネッセンス分析やDiamondView™などのラボラトリーの技法において、天然Ⅱ型ダイヤモンドに合成と酷似した特徴がみられることがある。したがって、合成ダイヤモンドの鑑別には、標準的な鑑別手法と先端的な分析技術を集積した慎重な判断が必要である。

5.文献

1.Even-Zohar C. (2012) Synthetic specifically “made to defraud”. Diamond Intelligence Briefs, vol.27, No.709, pp7281‒7290
2.Song Z., Lu T., Lan Y., Shen M., Ke J., Liu J and Zhang Y. (2012) The identification features of undisclosed loose and mounted CVD synthetic diamonds which have appeared recently in the NGTC laboratory, Journal of Gemmology, vol.33, No.1-4, pp45-48
3.Kitawaki H., Y amamoto M., Hisanaga M., Okano M., Emori K. (2013) Undisclosed sample of large CVD synthetic diamond. G&G, V ol.49, No.1, pp60-61
4.D’Haenens-Johansson U.F.S., Moe K.S., Johnson P., Wong S.Y., L R and Wang W. (2014) Near colorless HPHT synthetic diamonds from A OTC g roup. G&G, V ol.50, No.1, pp30-45
5.Eaton-Magana S and D’Haenens-Johansson U.F.S. (2012) Resent Advances in CVD synthetic diamond quality. G&G, Vol.48, No.2, pp124-127
6.Breeding C.M. and Wang W. (2008) Occurrence of the Si-V defect in natural colorless gem diamonds. Diamond and Related Materials, v ol.17, pp1335-1344
7.Wang W., D’Haenens-Johansson U.F.S., Johnson P., Moe K.S.,Emerson E., Newton M.E., Moses T.M. (2012) CVD synthetic diamonds from Gemesis Corp. G&G, V ol.48, No. 2, pp80‒97
8.Schrauder M and Nav on O . (1993) Solid carbon dioxide in a natural diamond. Nature, V ol.365, pp42-44
9.Hainschwang T., Notari F., Fritsch E., Massi L., Rondeau B., Breeding C.M and Vollstaedt H. (2008) HPHT treatment of CO2-related brown diamonds. Diamond & Related Materials, V ol.17, pp340-351

平成26年度宝石学会(日本)【講演会・総会・見学会報告】

[講演会・総会報告]  北脇 裕士
[見学会報告] 江森 健太郎

平成26年の宝石学会(日本)講演会・総会が6月14日(土)に愛媛大学の城北キャンパス内の愛媛大学ミュージアム(愛大ミューズ)で開催されました。また、翌日の6月15日(日)には恒例の見学会が行われました。

本年度の総会・講演会は愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター長の入舩徹男教授の計らいにより同大学ミュージアム内の講堂を借用して行われました。入舩先生は世界的に著名な研究者で、超高圧実験を通して地球マントルや沈み込むプレートの構造と運動の解明に成果を挙げられています。また、高硬度のナノ多結晶ダイヤモンド(Nano-polycrystalline diamond, NPD )の開発者としても知られており、地球科学の世界に留まらず新素材の分野からも注目されています。これらの業績において多くの関連学会から表彰され、愛媛大学からは特別栄誉教授の称号を得られています。本学会においては『超高圧で創る多結晶ダイヤモンド~「世界最硬」ヒメダイヤの合成と応用~』との題目で特別講演をお願いしました。

特別講演中の入舩徹男博士
特別講演中の入舩徹男博士

14日(土)は午前9時から登録受付が開始され、9時30分から18時30分まで一般講演1 4 題が行われました(それぞれの演題については前号のCGL通信No.21をご覧ください)。
中央宝石研究所からはリサーチルームの久永所員が今号のP1~6にて掲載致しました『偽合成の特徴を示す特異な天然Ⅱ型ダイヤモンド』について講演を行いました。
本年度の講演会参加者はおよそ50名。内訳は鑑別技術者を中心に業界団体職員、大学・研究職者、宝飾業者および学生で、20代~80代までの幅広い年齢層が参加していました。
昼食後の空き時間には入舩先生のご厚意により創石実験室と命名された研究室を案内いただきました。ここには2009年に導入された世界最大級のマルチアンビル装置BOTCHAN-6000や高圧変形装置MADONNAⅡが設置されており、地球深部に迫る最先端の高圧実験が行われています。

マルチアンビル装置BOTCHAN-6000
マルチアンビル装置BOTCHAN-6000

さらに愛媛大学ミュージアムは自由見学が可能で、ここには創石実験室で生み出されたヒメダイヤが展示されており、見学者の注目を集めていました(展示品はカット研磨されていますが、ヒメダイヤは宝飾用としての用途は考えられていないとのことです)。このミュージアムは大学付属の博物館としては展示物の種類や内容がきわだって豊富です。地元の方々には無料で開放されており、愛媛大学の学術研究成果が積極的に発信されています。

愛媛大学ミュージアムに展示されているヒメダイヤ
愛媛大学ミュージアムに展示されているヒメダイヤ
博物館の展示品を熱心に見学する学会参加者
博物館の展示品を熱心に見学する学会参加者

総会においては昨年行われた評議員選挙の結果、新会長となられた神田久生博士が冒頭の挨拶をされ、今後の抱負を述べられました。 そして旧役員への謝意を表して、前会長の宮田雄史氏には感謝状が、真珠科学研究所の小松博氏と中央宝石研究所の堀川洋一氏に記念品が贈られました。その後、本年度の奨励賞が日独宝石研究所の古屋正貴氏に授与されました。

総会で挨拶をされる神田久生新会長
総会で挨拶をされる神田久生新会長

講演会終了後、午後7 時から同ミュージアム内の「セ・トリアン」に場所を移して懇親会が開かれました。講演会での緊張から解かれ和やかな雰囲気の中、参加者同士の交流が深められていました。

2日目は愛媛県総合科学博物館と別子銅山跡(マイントピア別子)において見学会が行われました。愛媛県総合科学博物館は、愛媛県民に科学技術に関する正しい理解を深めるための学習機会を提供し、科学技術に裏付けされた創造的風土の醸成を図るとともに、科学技術の進歩と愛媛県産業の発展に寄与することを目的として平成6年11月に愛媛県新居浜市にオープンしました。

愛媛県総合科学博物館
愛媛県総合科学博物館
展示されていた鉱物サンプル
展示されていた鉱物サンプル

屋外展示、科学技術館、産業館、自然館、プラネタリウムといった施設があります。自然館は宇宙のゾーン、地球のゾーン、愛媛のゾーンの3つに分けられ、動く恐竜模型や愛媛県に生息する動植物に関する展示がありました。また、鉱物標本類も充実しており見学者達を楽しませていました。
科学技術館は素のゾーン、生のゾーン、伝のゾーン、動のゾーンがあり、それぞれ体験装置を配置。楽しく物理実験ができる装置が多いのが特徴です。産業館は伝統産業と基幹産業の2つのゾーンがあり、愛媛県の伝統特産品についての紹介等がありました。

午後は別子銅山跡、マイントピア別子へと移動し、砂金採り体験と鉱山見学を行いました。別子銅山は1690年(元禄3年)に発見され、翌年から1973年(昭和48年)まで約280年間に70万トンを産出し、日本の貿易や近代化に寄与した銅山です。一貫して住友家が経営し、関連事業を興すことで発展をつづけ、住友が日本を代表する巨大財閥となる礎となりました。
砂金採り体験は用意された水槽に砂が敷かれており、その中に砂金が入っています。その砂金をパン(皿)で探し、採取するものです。

砂金採り体験の様子
砂金採り体験の様子
別子銅山入口
別子銅山入口

その後、旧火薬庫を利用して作られた333mの観光坑道を見学しました。坑道内には江戸時代の別子銅山に関する展示がある江戸ゾーン、明治以降近代化が進み世界有数となった別子銅山をテーマにした近代ゾーン、別子銅山での作業内容を遊びの中から学習できる遊学パーク体験ゾーンの3つがあります。別子銅山の歴史を体験しつつ学ぶことができ、好評でした。
愛媛県総合科学博物館、別子銅山跡共に鉱物とその歴史について多く学ぶことができ、見学会に参加された方々には大変有意義な一日となりました。