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第10回NDNC国際会議2016に参加して

2016年7月No.33

リサーチ室 北脇  裕士

去る 5月22日(日)~26日(木)に中国の西安にて表題の国際会議が開催されました。リサーチ室より筆者が参加しましたのでご報告いたします。

NDNCとは

NDNC(New Diamond and Nano Carbons)は2007年にICNDST (International Conference for Diamond Science and Technologies)とADC(Applied Diamond Conference)が統合されて新たに創設された国際学会です。ダイヤモンドの気相合成に始まり、ナノチューブ、フラーレン、グラフェンといったナノ構造的に新しい炭素も対象に盛り込まれています。創設第1回目の会議は2007年に大阪で開催されており、以降台湾(2008)、米国(2009)、中国(2010)、松江(2011)、米国(2012)、シンガポール(2013)、米国(2014)、そして昨年は静岡で開催されています。日本からはニューダイヤモンドフォーラム(http://www.jndf.org/)の会員が中心となって本会をサポートしています。

北側城壁より西安駅を望む
北側城壁より西安駅を望む
開催地西安

第10回NDNC国際会議は5月22日(日)~26日(木)に中国西安のThe Westin Xi’anで開催されました。この会議は西安交通大学、中国真空学会、陝西省科学技術協会、陝西省真空学会、西安電子科学技術大学、蘇州大学や多くの産業界からサポートされています。
開催の地となった西安(Xi’an)は中国陝西省の州都であり、常住人口885万人(2012年現在)の都市です。古くは中国古代の諸王朝の都として栄えてきました。紀元前11世紀にはこの地に都が定められ、前漢、新、後漢、西晋、前趙、秦、西魏、北周および唐の時代には長安と呼ばれており、その都は日本の平城京・平安京のモデルにもなっています。日本とのかかわりも深く、空海、阿倍仲麻呂他、遣隋使、遣唐使がその足跡を残しています。現在も都市の中心部は明の時代に築かれた(1370–1378年)城壁に囲まれており、往時の面影を残しています。市の中心部から車で約1時間のところに1987年に世界文化遺産に登録された秦の始皇陵(兵馬俑–へいばよう–)があり、この地を訪れた人々が必ず立ち寄る遺跡です。
開催場所となったThe Westin Xi’anは唐の時代に創建された(652年)大雁塔の程近くにあり、朝夕の散策に適したロケーションです。

市の中心部を取り囲む明代に築かれた城壁
市の中心部を取り囲む明代に築かれた城壁
世界文化遺産に登録された兵馬俑(へいばよう)
世界文化遺産に登録された兵馬俑(へいばよう)
唐の時代に建設された大雁塔
唐の時代に建設された大雁塔
大雁塔より東方面を望む
大雁塔より東方面を望む
第10回NDNC

今回の第10回会議には22ヶ国から400名以上の参加がありました。開催地である地元中国からの参加者が260名と最も多く、他国からは約150名でした。日本は中国に次いで二番目に多く、約20名の参加があり、日本のこの分野における研究熱の高さが伺えます。その他には台湾、ドイツ、韓国、ロシア、フランス、イスラエル、インド、スイス、ベルギー、ポルトガル、フィンランド、イタリア、オーストラリアやアフリカ諸国からの参加が見られました。

会場となったThe Westin Xi’an
会場となったThe Westin Xi’an
会場のスクリーンにNDNC2016 歓迎の文字
会場のスクリーンにNDNC 2016 歓迎の文字

本会議では同時に二つのセッションが進行するマルチトラック方式が採用され、ダイヤモンド合成、グラフェン、生物および生物化学、ダイヤモンド表面、カーボン、ダイヤモンドデバイス、NVセンタ、カーボンナノチューブなど、総計24のセッションが行われました。本会議初日と三日目の最後に特別講演が計2題、本会議初日に基調講演が計6題、各セッションの中に計47題の招待講演が行われました。一般講演は全期間を通して計83題が行われました。特別講演は2題とも日本からの招待者によるものでした。初日の特別講演は物質材料研究機構の小出康夫氏によるワイドバンドギャップのⅢ–窒化物とダイヤモンド素材とデバイスに関する講演で、3日目の特別講演は名城大学の飯島澄男氏によるカーボンナノチューブに関する講演でした。  小出氏は2014年に青色発光ダイオードの発明でノーベル賞を受賞された赤﨑勇氏に師事して博士号を取得され、現在物質材料研究機構で中核機能部門長をされています。また、ニューダイヤモンドフォーラム学術委員会の委員長でもあります。飯島氏はカーボンナノチューブの発見と電子顕微鏡による構造決定において世界的に著名な研究者で、ノーベル化学・物理学賞に最も近いとの評判です。
6題の基調講演のうち1題が日本の研究者で、早稲田大学の川原田洋氏でした。川原田氏はナノデバイスの世界的な権威で2010–2014年までニューダイヤモンドフォーラムの会長をされていました。
47題の招待講演のうち日本の研究者によるものは7題ありました。産業総合研究所の梅沢仁氏、山田英明氏、長岡技術科学大学の斎藤秀俊氏、北海道大学の金子純一氏、徳島大学の酒井四郎氏、物質材料研究機構の寺地徳之氏、山口尚秀氏らがそれぞれのセッションで講演されています。
講演時間は特別講演が45分、基調講演が30分、招待講演が20分、一般講演が15分でした。
全講演のプログラムについてはNDNC2016のホームページhttp://ndnc2016.xjtu.edu.cn/でご覧いただくことが可能です。

講演会場の様子
講演会場の様子
ポスターセッションの様子
ポスターセッションの様子

筆者は一般講演において宝飾用のメレサイズの合成ダイヤモンドの現状について報告しました。概要については既報のCGL通信No.30とNo.32をご覧ください。その他に宝石関連としてはGIAのW. Wang氏による口頭発表と同じくGIAのU. F. S. D’Haenens–Johansson氏によるポスター発表がありました。これらの発表内容を以下に簡単にご紹介します。
GIAのW. Wang氏は[Si–V]センタの天然と合成に見られる分布の相違について報告されました。[Si–V]センタはフォトルミネッセンス分析で736. 6と736.9nmにダブレットのピークを示します。宝石学においてはCVD合成ダイヤモンドの識別特徴として良く知られています。しかし、天然でも稀に見られることがあり、最近はHPHT合成でも確認されています。Ⅱ型の天然ダイヤモンドでは3%以下に見られ、しばしばオリビンの包有物を伴っています。[Si–V]をマッピングしても分布は不規則でGR1(空孔)の分布とも関連が見られませんでした。HPHT合成では{111}セクターの境界付近にのみ分布していることが確認されました。また、CVD合成では分布は不規則ですが、マルチステップ成長をしたものでは{100}成長方向に平行に分布していると報告しました。
GIAのU. F. S. D’Haenens–Johansson氏は天然と合成のⅡ型ダイヤモンドの成長特徴をCLとUVによるルミネッセンス像から検討しました。ダイヤモンド中の不純物や欠陥の分布は成長やその後に蒙った塑性変形などの影響を受けています。これらの履歴を観察するために宝石学分野ではDiamond View™が用いられており、天然・合成起源の判別に役立てられています。GIAではUVを用いたDiamond View™に加えて電子顕微鏡によるCLも研究に用いています。天然Ⅱ型ダイヤモンドは塑性変形により線状やネットワーク状のディスロケーションパターンが見られ、成長分域は観察されません。いっぽうHPHT合成では六–八面体の成長分域構造が明瞭でディスロケーションはほとんど見られません。CVD合成ではステップフロー成長のためストリエーション(線模様)が観察されます。また、ディスロケーションも発達しており、観察する方向によっては未熟なオペレーターは天然Ⅱ型と誤認する恐れがあると報告しました。
今回のNDNC国際会議は2010年に次いで6年ぶりに中国での開催となりましたが、次回のNDNC2017はオーストラリアのケアンズ(Cairns)で開催されることが決定しています。◆

平成28年度宝石学会(日本)

2016年7月No.33

リサーチ室 江森  健太郎

平成28年の宝石学会(日本)講演会・総会が6月11日(土)に北海道大学工学部フロンティア応用研究棟鈴木ホールで開催されました。また、翌日の6月12日(日)には見学会が行われました。
北海道大学は日本初の学士授与機関として1876年(明治9年)に設立された札幌農学校を前身とする大学です。札幌農学校の源流は1872年(明治5年)に設立された開拓使仮学校ですが、大学全体としては札幌農学校が設立された1876年を北海道大学の創立年としています。1907年(明治40年)に東北帝国大学農科大学(北海道札幌区)として帝国大学に昇格、1918年(大正7年)に北海道帝国大学、1947年(昭和22年)に北海道大学、2004年に国立大学法人北海道大学となりました。

北海道大学構内にある札幌農学校初代教頭 ウィリアム・スミス・クラーク像
北海道大学構内にある札幌農学校初代教頭
ウィリアム・スミス・クラーク像

札幌農学校初代教頭であるウィリアム・スミス・クラーク(マサチューセッツ農科大学前学長)が米国帰国にあたり、札幌近くの島松で馬上から叫んだという「Boys, be ambitious.」は現在でも北海道大学のモットーとして受け継がれており、フロンティア精神、実学の重視、全人教育、国際性の涵養等を建学理念とし、現在も基本理念として掲げられています。
また、今回会場として使用した鈴木ホールは、2010年に芳香族化合物の合成法としてしばしば用いられる反応のひとつである「鈴木・宮浦カップリング」という合成法を編み出したことでノーベル化学賞を受賞した北海道大学名誉教授である鈴木章名誉教授に因んで建築されたホールあり、会場には鈴木章名誉教授の銅像他、研究に関する展示が設営されていました。

会場となったフロンティア応用科学研究棟
会場となったフロンティア応用科学研究棟
鈴木章名誉教授の銅像
鈴木章名誉教授の銅像
鈴木章名誉教授の研究に関する展示
鈴木章名誉教授の研究に関する展示

初日、11日(土)は9時半より受付が開始され、9時50分から16時45分の間で一般講演15題、特別講演が1題行われました。一般講演・特別講演には国内の主要な鑑別機関をはじめ、宝石業界関係者、北海道大学の学生等52名が参加しました。一般講演の内訳はダイヤモンド関係4題、色石関係8題、真珠関係3題でした。CGLからは久永美生所員(リサーチ室)による「メレサイズの無色~ほぼ無色HPHT法合成ダイヤモンド」、筆者(リサーチ室)による「判別分析を用いた天然・合成アメシストの鑑別」、水野拓也所員による「過去5年間のCGLにおける宝石鑑別依頼内容にみられた国内市場動向」の3題が報告されました。

一般講演会の様子
一般講演会の様子
研究報告を行う久永美生所員
研究報告を行う久永美生所員
研究報告を行う筆者
研究報告を行う筆者
 研究報告を行う水野拓也所員
研究報告を行う水野拓也所員

特別講演として、北海道大学大学院理学研究科地球惑星科学部門、橘省吾准教授による「宇宙の宝石―実験天文学から『はやぶさ2』まで」というタイトルで講演がありました。橘省吾准教授は日本の国家プロジェクトである「はやぶさ2」のサンプル分析を担当しており、「はやぶさ」は何故イトカワに行ってサンプリングを行ったのか、「はやぶさ2」が目的地であるリュウグウで何をするのかといった大変興味深い話をしてくださいました。

特別講演を行う橘省吾准教授
特別講演を行う橘省吾准教授

11日(土)午後18時からは、宝石学会(日本)懇親会がキリンビール園本館にて行われ、45名の参加がありました。通常は宝石学会(日本)の懇親会は立食パーティーで行われますが、北海道ということでジンギスカンパーティーが行われ、他の出席者の方々との交流等、有意義な時間を過ごすことができました。

2日目、12日(日)は石狩浜と三笠市博物館において見学会が行われ、31名が参加しました。
石狩浜や厚田区の無煙浜には石狩川やその支流の夕張川、空知川等の流域にある炭田地区から流れたコハクが浜辺に漂着するため、石狩浜はコハクが採取できることで有名です。参加者一同でコハク採取にでかけましたが、採取は難しかったようです。

石狩浜を後にした参加者一同は、次の目的地、三笠市博物館に向かいます。三笠市博物館は1976年に三笠市内に分布している白亜紀の地層からウミトカゲ類のものとみられる頭蓋骨が発掘され、この出来事が発端となり、郷土資料等の民族部門と併せて1979年に創立されました。地質学関連の資料展示、主にアンモナイト等化石を中心とした3000点に上る資料が展示されています。また、野外博物館が併設されており、ここでは「三笠ジオパーク」のジオサイトの1つとなっており、野外において実際の地層や炭鉱遺跡等を見ることができ、5000万年前~1億年前の地層を見学することができ、好評でした。

石狩浜海浜植物保護センター
石狩浜海浜植物保護センター
海岸でコハクを採取する参加者達
海岸でコハクを採取する参加者達
三笠市立博物館の外観
三笠市立博物館の外観
三笠市立博物館のアンモナイトの展示
三笠市立博物館のアンモナイトの展示
野外博物館にて。炭鉱跡と石炭の露頭(黒色部は石炭)
野外博物館にて。炭鉱跡と石炭の露頭(黒色部は石炭)

石狩浜、三笠市博物館と自然、地質学、北海道の歴史等について多くを学ぶことができ、見学会に参加された方々には有意義な一日となりました。次回、2017年宝石学会(日本)総会・講演会は東京地区で開催されることが決まっています。◆

中国吉林大学超硬材料国家重点実験室を訪問して

2016年5月No.32

リサーチ室 北脇  裕士

2015年3月27日(日)~4月3日(日)の一週間、中国吉林大学超硬材料国家重点実験室を訪問し、中国における宝飾用合成ダイヤモンド製造の現況についていくつかの知見を得ることができました。また、菅口にあるダイヤモンド合成用超高圧装置製造会社と大連にある高圧装置用アンビル製造会社を視察する機会を得ました。以下に概要をご報告致します。

中国製HPHT法合成ダイヤモンドの台頭

CGL通信No.30(2016年1月5日発行)で既報の通り、当研究所において昨年の9月頃からジュエリーに混入したメレサイズのHPHT法合成ダイヤモンドが相次いで確認されています。合成ダイヤモンドは、鑑別・グレーディングの日常業務において1990年代半ば頃から時折発見され、その都度話題となってきました。しかしながら、その検出頻度はごくわずかなもので、これまで無色の合成ダイヤモンドがジュエリーに混入していた例もほとんどありませんでした。最近、当研究所で確認されている無色のメレサイズの合成ダイヤモンドはほとんどがHPHT法によるものです。そして、これらは中国で大量に合成されていると言われており、その真偽の確認と今後の動向についての調査が急務となりました。

Fig.1中国の地図
Fig.1中国の地図
吉林大学超硬材料国家重点実験室

今回訪問した吉林大学超硬材料国家重点実験室は吉林省の長春にあります(Fig.1)。長春(英語:Changchun)は、吉林省の省都で市区人口は360万人、都市圏人口は750万人の大都市です。市内には吉林大学など27もの国立大学を擁しており、中国における重要な学研都市となっています。歴史的には1932年~1945年まで満州国(中国では偽満州国と言われる)の首都とされ、新京と呼ばれていました。市内には満州時代に日本が建築した政府系の建築物が当時のまま残され、今なお銀行、病院、大学校舎の一部として使用されています(Fig.2, Fig.3, Fig4)。

Fig.2旧満州国交通局の建物。現在は吉林大学の薬学系の校舎として利用されている。
Fig.2旧満州国交通局の建物。現在は吉林大学の薬学系の校舎として利用されている。
Fig.3旧満州国国務院の建物。現在は吉林大学の医学系の研究棟として利用されている。
Fig.3旧満州国国務院の建物。現在は吉林大学の医学系の研究棟として利用されている。
Fig.4満州中央銀行の建物。現在は中国人民銀行として利用されている。
Fig.4満州中央銀行の建物。現在は中国人民銀行として利用されている。

吉林大学は1946年に設立されましたが、2000年に他の5つの大学と併合され、さらに2004年には人民解放軍軍需大学も統合されて中国でも最大級の規模を誇る国立大学となりました。学生、院生および教職員を含めて10万人以上が在籍しています。正門には6つの大学が併合されたことを象徴する6本の石柱が立てられています(Fig.5)。

Fig.5–1吉林大学正門
Fig.5–1吉林大学正門
Fig.5–2理学系研究棟
Fig.5–2理学系研究棟

国家重点実験室は1984年に自国の基礎研究のレベルを引き上げ、国家の発展に寄与する技術活動を促し、経済・社会の重大問題を解決することを目的に計画が開始されました。最初の年には10の実験室が設置され、その後の10年間で81の実験室が設置されました。現在では中国全土に200以上の国家重点実験室が設置され、基礎研究の主要な学問分野と国民経済、社会発展の重点分野を基本的にカバーしています。
吉林大学超硬材料国家重点実験室は、原子力研究所と物理学研究室をベースに1989年に設立されました(Fig.6)。超硬材料は当時「戦略物資」として位置づけられ、高圧研究は近代的な国防の重要なデータを取得する方法と考えられました。超硬材料国家重点実験室は設立以来多くの成果を挙げてきましたが、特に新機能材料としての高品質ダイヤモンド結晶の研究は中国産業界の発展に大きく寄与してきました。現在では60~70名の研究者が在籍しています。

Fig.6–1吉林大学国家超硬材料重点実験室の建物
Fig.6–1吉林大学国家超硬材料重点実験室の建物
Fig.6-2吉林大学国家超硬材料重点実験室のエントランス
Fig.6-2吉林大学国家超硬材料重点実験室のエントランス

筆者は中国の超高圧法ダイヤモンド研究の第一人者である超硬材料国家重点実験室のXiaopeng Jia教授を尋ねました(Fig.7)。Jia教授は1988年に日本に留学され、1996年に筑波大学で博士号を取得されています。その後、無機材質研究所(現物質材料研究所)に在籍され、日本で長年高圧技術を学ばれていました。

Fig.7–1Xiaopeng Jia教授と キュービック型マルチ・アンビル装置の上部
Fig.7–1Xiaopeng Jia教授と
キュービック型マルチ・アンビル装置(上部)
Fig.7–2キュービック型マルチ・アンビル装置(下部)
Fig.7–2キュービック型マルチ・アンビル装置(下部)
中国製ダイヤモンド合成用超高圧装置

中国では1966年に初の国産キュービック型マルチ・アンビル装置が開発されました。そして、ダイヤモンド製造の実証実験が成功し、中国における超硬材料産業の形成や発展に大きく貢献しました。この装置は構造が単純で低価格、操作が容易であるなどの特長により、瞬く間に量産され、諸外国からも発注が相次ぐようになりました。
中国製のキュービック型マルチ・アンビル装置は(Fig.8)、蝶番(ヒンジ)で6個の独立アンビル駆動ラムが結合されていて、6個のアンビルが立方体(キュービック)試料を加圧します(Fig.9)。装置の開発当初はベルト型などの他の大型高圧装置に比べて試料部体積が小さく、工程1回あたりの生産量に限界がありました。

Fig.8稼働中のキュービック型マルチ・アンビル装置
Fig.8–1稼働中のキュービック型マルチ・アンビル装置
Fig.8–2キュービック型マルチ・アンビル装置のオペレーションシステム
Fig.8–2キュービック型マルチ・アンビル装置のオペレーションシステム
Fig.9 6つの独立したアンビルから成る加圧部(アンビルの1つは写真の枠外)
Fig.9 6つの独立したアンビルから成る加圧部(アンビルの1つは写真の枠外)

しかし、2000年~2005年にかけて大容積の大型ヒンジ式装置が開発され(Fig.10)、小粒石の大量生産が可能となりました。装置には油圧シリンダーの直径の違いによりいくつかのタイプがあります。最大級でφ850mmですが、現在宝飾用の合成ダイヤモンド製造に用いられているのはφ650mm~750mmのようです。この装置の特長は1台当たりの製作コストが低いことにあります。φ300mm~400mmの装置でオペレーションシステムも含めて1000万円程度、φ650mmのものでも1300万円程度のようです。
中国での高圧合成の研究は、1980年代には吉林省などの主に東北地方で行われていました。しかし、この地は朝夕の寒暖差が激しく、特に厳冬期の外気温は–30℃以下にもなるため装置内外の温度制御が困難でした。そのため年間平均気温の高い湖南省や河南省へその拠点が移動していきました。1990年以降、大手の合成ダイヤモンド製造会社のほとんどは河南省に集中しています。

Fig.10立方体の試料体(反応セル)
Fig.10立方体の試料体(反応セル)
中国での宝飾用HPHT合成の現状

中国では経済成長の減速が建設業にも大きな影響を与えています。マンションや高層ビルには買い手のつかない空き室が増え、一部報道ではゴーストタウンと化した地方都市もあるようです。この煽りをうけ、建設資材の切断や研磨に使用されるダイヤモンド砥粒の需要も激減しています。中国国内で使用されているダイヤモンド砥粒はほぼ100%中国製のHPHT法合成ダイヤモンドです。そのため中国製のダイヤモンド砥粒の価格も下落し、現在では1ctあたり10円以下となっています。
中国には三大巨頭と呼ばれる大手合成ダイヤモンド製造会社が河南省にあります。これら3社でダイヤモンド合成用の超高圧装置が7000台以上、砥粒の年間生産量が120億ctを誇っています。この3社ではそれぞれにおいて結晶育成の技術開発が進み、現在では無色の宝石品質のダイヤモンドを量産できるレベルに達しています。そして利益率の低い工業用途のダイヤモンド砥粒生産から新たな市場として宝石ダイヤモンドの生産にシフトしてきています。
A社では2014年末頃から2mm以下程度の宝飾用合成ダイヤモンドの量産を開始しており(Fig.11–a)、B社では2015年前期から2~3mm程度の原石を量産しています(Fig.11–b)。

Fig.11–a 三大巨頭といわれるA社の結晶原石。
Fig.11–a 三大巨頭といわれるA社の結晶原石。
Fig.11–b 三大巨頭のB社(b)の結晶原石。B社の原石には黄色い種結晶が付着。
Fig.11–b 三大巨頭といわれるB社の結晶原石。B社の原石には黄色い種結晶が付着。

その後、他の中小の砥粒製造会社も続々と宝石事業に参入しており、河南省だけで10社以上が宝石用の小粒ダイヤモンドを製造しています。また、山東省ではウクライナの技術を導入した合弁企業が2015年の6月に設立され、小粒ではなく、1ct以上の宝石質合成ダイヤモンドの製造を開始しています。ここでは70台以上のプレス装置を用いて月産で1000~2000ctが製造されているとのことです。
宝飾用に使用されている一般的な中国製の超高圧装置では1台当たり1回の工程(1日)で10ct(小粒原石300~350個程度)が製造できます。中国全土では月産で15万ct~30万ct(小粒原石で450万~1000万個程度)製造されていると思われます。

超高圧装置製造会社とアンビル製造会社訪問
Fig.12高速鉄道(新幹線)
Fig.12高速鉄道(新幹線)

長春の吉林大学を訪問した後、高速鉄道(新幹線)を利用して(Fig.12)、菅口の超高圧装置の製造会社とアンビル製造会社を訪れました。中国国内の移動にはこの高速鉄道(新幹線)が便利です。1000km以内であれば高速鉄道(新幹線)、それ以上の距離は飛行機が利用されているようです。
菅口の超高圧装置の製造会社は、2014年にリニューアルしてこの地に新たに工場を建設したそうです(Fig.13)。

Fig.13菅口にある超高圧装置製造会社
Fig.13菅口にある超高圧装置製造会社

4万5千平米の広大な土地を利用してφ750㎜クラスの装置を月産20台ほど生産しています(Fig.14)。

Fig.14–1製造中のキュービック型マルチ・アンビル装置
Fig.14–1製造中のキュービック型マルチ・アンビル装置
Fig.14–2製造中のキュービック型マルチ・アンビル装置
Fig.14–2製造中のキュービック型マルチ・アンビル装置

中国にはこのような超高圧装置の製造会社の大手が4社ほどあり、ここはそれらに次ぐ中堅クラスとのことでした。驚いたことにこの会社は装置の製造だけでなく、自らのプレス装置を用いて宝石用のダイヤモンドの製造も行っていました。現在生産されているのはφ3〜4mmの黄色いⅠb型の結晶だけですが(Fig.15)、将来はサイズの大きな各色の宝石用ダイヤモンドを量産したいとのことでした。このように中国では宝飾用のHPHT合成ダイヤモンドが新たなビジネスチャンスと考えられているようです。

Fig.15–1 合成された宝飾用の単結晶ダイヤモンド
Fig.15–1 合成された宝飾用の単結晶ダイヤモンド
Fig.15–2 合成された宝飾用の単結晶ダイヤモンド
Fig.15–2 合成された宝飾用の単結晶ダイヤモンド

菅口視察後に大連まで車で移動し、アンビルの製造会社を訪問しました(Fig.16)。

Fig.16大連のアンビル製造会社
Fig.16大連のアンビル製造会社

この会社では中国国内のみならず、日本を含めた諸外国にもアンビルを輸出しています。先に訪れた菅口の超高圧装置の製造会社や河南省の大手製造会社であるB社にも供給しているとのことでした。ここでは大型の装置がいくつも導入されており、高度な加工技術を有しているようでした(Fig.17, Fig.18, Fig.19)。

Fig.17最新鋭の加工用大型装置
Fig.17最新鋭の加工用大型装置
Fig.18独自に開発された加工用設備
Fig.18独自に開発された加工用設備
Fig.19–1 大型の焼結用設備
Fig.19–1 大型の焼結用設備
Fig.19–2 大型の焼結用設備の内部の様子
Fig.19–2 大型の焼結用設備の内部の様子

アンビルは超高圧装置のピストンの先端に付けられている部品です。超高圧発生のためには、その圧力に耐える高強度のアンビルが重要となります。アンビルは通常タングステン・カーバイドにコバルトを添加した超硬合金(WC–Co)が用いられています。しかし、それだけではダイヤモンドを合成するのに必要な超高圧には耐えられないためアンビル先端の形状が工夫され、円錐形にされています。円錐形にすることでアンビルの先端から離れるに従い圧力を受ける面積が増え応力が分散されます。これにより超高圧下でのアンビルの破壊が抑制されます。このテーパー角の最適化により強度は2~3倍になるようです(Fig.20)。◆

Fig.20製造されたアンビル製品
Fig.20製造されたアンビル製品

HRDアントワープ 『合成ダイヤモンドセミナー』報告

2016年3月No.31

リサーチ室 北脇  裕士

去る1月21日(木)、東京ビッグサイトにおける第27回国際宝飾展(IJT 2016)の開催期間に合わせてHRD アントワープと株式会社APの主催による表題のセミナーが開催されました。昨今、メレサイズの合成ダイヤモンドは業界内での最大の懸案事項であり、まさに時宜にかなった話題と言えます。
このセミナーでは合成ダイヤモンドの製造技術に関する解説、HPHT合成法とCVD合成法のそれぞれの特徴、天然と合成ダイヤモンドの識別における最新のテクノロジーに関するプレゼンテーションが行われました。そして、メレサイズの合成ダイヤモンドのスクリーニング(粗選別)用にHRDで開発されたM–SCREENが日本国内で初めて紹介されました。
以下にプレゼンテーションの内容を詳しくご紹介いたします。

Fig.1:第27回国際宝飾展の会場となった東京ビッグサイト
Fig.1–1:第27回国際宝飾展の会場となった東京ビッグサイト
Fig.1-2:第27回国際宝飾展の案内板
Fig.1–2:第27回国際宝飾展の案内板

表題:合成ダイヤモンドの粗選別と鑑別
講師:HRD アントワープ 研究員 Ellen Barrie 氏

1.HRD アントワープ
HRD(Hoge Raad voor Diamant)は、ベルギー・アントワープに本部を置く世界最大のダイヤモンド研究機関で、AWDC(アントワープ・ワールド・ダイヤモンド・センター)によって運営されています。世界で最も高い水準と信頼性をもつ鑑定機関の一つとして知られており、ダイヤモンド鑑別の分野において最先端の技術を有しています。また、世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)および国際ダイヤモンド製造者協会(IDMA)の2大機関によって承認され、国際ダイヤモンド審議会(IDC)の基準に準拠している国際的研究機関でもあります。さらにHRDはダイヤモンドのグレーディングのみならず、教育、器材、研究の各部門を有しています。

Fig.2–1:講演会場の様子(時計美術宝飾新聞社提供)
Fig.2–1:講演会場の様子(時計美術宝飾新聞社提供)
Fig.2–2:講師のEllen Barrie氏(時計美術宝飾新聞社提供)
Fig.2–2:講師のEllen Barrie氏(時計美術宝飾新聞社提供)

2.合成ダイヤモンド
合成ダイヤモンドは、化学組成および結晶構造が天然ダイヤモンドとまったく同じであり、光学特性および物理特性にも違いは見られません。合成ダイヤモンドはキュービックジルコニアやモアッサナイトのように単に見かけが似ているだけの類似石とは異なります。
天然ダイヤモンドも合成ダイヤモンドも炭素(C)だけでできており、熱伝導性はきわめて高く、屈折率は2.417、ファイアの源となる分散度は0.044でこれらの特性値すべてが同じです。一方、類似石の代表であるキュービックジルコニアは、化学組成がZrO2です。熱伝導性は低く、屈折率は2.16、分散度は0.060でダイヤモンドとは異なります。モアッサナイトは化学組成がSiCで、熱伝導性は高いのですがその他の諸特性はダイヤモンドと完全に異なります。
宝石品質の合成ダイヤモンドを製造する方法は主に2種類あります。HPHT合成法とCVD合成法です。それではそれぞれの合成方法について説明します。

2–1.HPHT合成
HPHT(高温高圧)法は、地球深部で天然ダイヤモンドができる環境を人工的に再現したものです。非常に高い温度と圧力を与えて原料となる炭素をダイヤモンドの結晶へと成長させます。
どのくらいの圧力が必要かといえば、パリのエッフェル塔を逆さまにして、その総重量9441トンすべてが塔の先端にかかるようなイメージです。その圧力はおよそ5GPaに及びます。温度は1400℃以上でグラファイト等の炭素物質を鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の金属溶媒を用いて溶解し、温度差を利用してダイヤモンドを結晶化させます。
高圧を発生させる装置にはいくつかの種類があります。たとえばベルト式と呼ばれる装置は日本のNIMS(著者注:無機材質研究所→現、物質材料研究機構)などで使用されているものです。ロシアや米国フロリダのGemesisではBARSと呼ばれる分割球型を用いています。米国ユタ州のSuncrest社では6方向から圧縮するキュービックプレス装置が用いられています。

Fig.3–1:HPHT合成装置/      物質材料研究機構
Fig.3–1:HPHT合成装置/ 物質材料研究機構
Fig.3–2:HPHT合成装置/Gemesis(Gemesis HPより)
Fig.3–2:HPHT合成装置/Gemesis(Gemesis HPより)
Fig.3−2:HPHT合成装置/Suncrest
Fig.3−3:HPHT合成装置/ Suncrest

2–2.CVD合成
CVD合成法は、Chemical Vapor Depositionの略です。(著者注:化学気相成長法(化学蒸着法)と呼ばれるものです)。高温低圧下でメタンガスなどの炭素を主成分とするガスからダイヤモンドを作ります。種結晶となるスライスしたダイヤモンドの結晶の上に炭素原子を降らせて沈積させていきます。一度の工程でたくさんの種結晶を並べて成長させることが可能です。Scio Diamond社(旧Apollo diamond)では何十台もの装置を使って宝飾用のCVD合成ダイヤモンドを製造しています。

Fig.4–1: Scio Diamond社のCVD合成装置 (Scio Diamond HPより)
Fig.4–1: Scio Diamond社のCVD合成装置 (Scio Diamond HPより)
Fig.4–2: Scio Diamond社のC反応容器 (Scio Diamond HPより)
Fig.4–2: Scio Diamond社の反応容器 (Scio Diamond HPより)
Fig.4–3: Scio Diamond社の反応容器内 (Scio Diamond HPより)
Fig.4–3: Scio Diamond社の反応容器内 (Scio Diamond HPより)

2–3.原石と研磨石
HPHT合成ダイヤモンドもCVD合成ダイヤモンドも原石の状態であればすぐに識別することができます。それは結晶原石の形態が天然とは異なるからです。天然ダイヤモンドは良く知られているように八面体の結晶が基本です。一方、HPHT合成法では種結晶を用いて金属溶媒中で成長させるため、六–八面体を主体とした集形となります。またCVD合成法では、種結晶の上に炭素原子を沈積させて一方向に層成長させるため板状の形態となります。
しかし、これらが宝飾用にカット・研磨された後では結晶の形態からは天然との識別ができなくなってしまいます。見た目では判らないため鑑別の技術が重要となります。
現在、HPHT合成法ではカット・研磨後で10ct以上のものができており、CVD合成法でも3ct以上のものができています。ラボに持ち込まれた3ct upのCVD合成ダイヤモンドは昨年9月にHRDアントワープで初めて検査されました。

2–4.天然と合成の混在
合成ダイヤモンドに関して最も懸念されているのが天然ダイヤモンドへの混入です。とりわけ無色のメレサイズの混入は業界内における最大の関心事となっています。今や世界各国のさまざまなメディアによって、天然ダイヤモンドに混入する合成ダイヤモンドの話題が報じられています。実際にHRDアントワープのラボにおいても天然石に混入する合成ダイヤモンドを幾度も発見しています。これらはすべて非開示で持ち込まれたものです。
大切なのは情報開示と鑑別です。市場では合成ダイヤモンドかどうかの情報開示が必要ですし、ラボにおいては明確に天然と合成を識別する確かな技術を保有していなければなりません。

3.鑑別
ダイヤモンドの鑑別は、未処理の天然ダイヤモンドであることを確認することです。
・    天然ダイヤモンドであってもHPHT処理が施されたものではないか?
・    HPHT合成ではないか?
・    CVD合成ではないか?
・    天然であってもコーティングされていないか?
など、いろいろなポイントを確認する必要があります。では、鑑別の流れに沿って説明します。
最初のステップは、ダイヤモンドと思しき石が本当にダイヤモンドなのか類似石ではないかの確認です。次いで、ダイヤモンドであった場合、天然なのか合成なのかの起源を調べます。天然ダイヤモンドであった場合、さらに未処理なのか何らかの処理が施されていないかの確認が必要です。合成であった場合、HPHT合成なのかCVD合成なのか、また合成されたままのものか、合成後に色の改変が行われたものなのかを調べる必要もあります。
このような鑑別の手掛かりとなるのが、天然と合成では異なる結晶の成長構造、成長環境に由来する微量元素、光学欠陥、包有物などです。
そして、このような鑑別には以下に示す種々の鑑別技術が適正に組み合わされて利用されています。

・    FTIR(赤外分光分析)
・    紫外–可視–近赤外分光分析
・    顕微鏡下の詳細な観察
・    EDXRF(蛍光X線)分析
・    DiamondView™による観察
・    フォトルミネッセンス分析
・    ラマン分光分析

これらの分析装置を有効に活用するためには多くの蓄積されたデータベースとそれらを解析する能力が必要となります。ただ分析機器がたくさん揃っていれば良いというわけではありません。
例えば、DiamondView™による観察を例に挙げて説明します。DiamondView™はDTCが開発した天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドを識別するための装置です。波長の短い紫外線をダイヤモンドに照射することで発生する蛍光を画像化します。ダイヤモンドに含まれるわずかな不純物元素や欠陥により、発光する色や強度が変化します。従って、天然と合成の成長環境の相違が蛍光像の違いとなって現れます。
天然ダイヤモンドでは主に八面体面に沿った成長縞が観察されますが、HPHT合成では八面体面や六面体面などの成長分域が観察されます。一方、CVD合成では種結晶の上に炭素原子が沈積して層状の成長をするため線状の成長模様が観察されます。それぞれが典型的な蛍光像を示すものは起源の判断が容易ですが、中には非常に判別が困難な例や明瞭な蛍光像を示さないものもあります。従って、できるだけ多くの画像診断の経験と技術が必要となります。
次にHRDアントワープのラボにおいてCVD合成法としては最大の3.09ctのダイヤモンドを鑑別した例を紹介します。2015年9月、3.09ctのラウンドブリリアントカットが施されたダイヤモンドが供せられました。色はほぼ無色(Iカラー)でクラリティはVS2でした。紫外線蛍光は無く、FTIR分析ではⅡ型と分類されました。紫外–可視–近赤外分光分析では575nm(NV0)と737nm(SiV)が検出されました。633nmレーザーによるフォトルミネッセンス分析では736.6nmと736.9nmの明瞭なダブレット(SiV)が確認されました。DiamondView™の観察ではオレンジ色の蛍光色とCVD合成特有の層状の成長構造が確認されました。また、多段階成長によると思われる直線状の線模様も複数観察されました。

Fig.5–1: 3.09ctのCVD合成ダイヤモンド(HRD Antwerp HPより)
Fig.5–1: 3.09ctのCVD合成ダイヤモンド(HRD Antwerp HPより)
Fig.5–2: 3.09ctのDiamondViewTM像(HRD Antwerp HPより)
Fig.5–2: 3.09ctCVD合成ダイヤモンドのDiamondViewTM像(HRD Antwerp HPより)

このように合成ダイヤモンドの鑑別には多くの知識やノウハウ、そして高度な鑑別機器が必要です。そのため鑑別には多くの時間と多大なコストがかかります。特にメレサイズのダイヤモンドの鑑別には非常な困難を伴います。

4.スクリーニング(粗選別)
ダイヤモンドの鑑別には時間とコストがかかるため、スクリーニング(粗選別)が重要となります。粗選別とは100%天然といえるダイヤモンドと、更なる詳細検査が必要なものとを分別することです。そのためにある際立った特性に着目し限られた技術を用いています。つまり粗選別=鑑別ではありません。厳密には粗選別≠鑑別です。

4–1.ダイヤモンドのタイプ
多くの粗選別機器はダイヤモンドのタイプ分類を基本原理としています。良く知られているように、ダイヤモンドは窒素を不純物として含有するⅠ型と含まないⅡ型に分類されます。そして、天然のダイヤモンドのほとんど(98%以上)はⅠ型に分類され、無色の合成ダイヤモンドはすべてⅡ型に分類されます。そのためダイヤモンドのタイプ分類がダイヤモンドの鑑別の重要な第一ステップになります。窒素を含有するⅠ型は窒素の存在の仕方によってⅠa型とⅠb型に細分されます。前者は窒素が凝集した形態で、後者は孤立した単原子の状態です。さらにⅠa型は、ⅠaA型とⅠaB型に細分されます。ⅠaB型は合成ダイヤモンドにはないので、起源は天然と考えることができますが、色の改善のためのHPHT処理が施される可能性があるため更なる詳細検査が必要となります。

4–2.粗選別機器
HRDが開発した粗選別機器にはD–ScreenとAlpha Diamond Analyzerがあります。
D–Screenは2005年に販売が開始された最初のHRD製粗選別機器です。紫外線の透過性を基本原理としています。検査可能なダイヤモンドはルースのみで、サイズは0.2ct〜10ct、カラーはD〜Jまでです。測定した結果、緑色のランプが点灯すれば天然ダイヤモンドでHPHT処理の可能性もないものです。黄色のランプが点灯すれば、HPHT処理が施された天然ダイヤモンドもしくは合成ダイヤモンドの可能性があります。しかし、未処理の天然ダイヤモンドの可能性もあることから更なる詳細検査が必要となります。
Alpha Diamond Analyzerは2012年に発売されたFTIR(赤外分光光度計)です。ルースと一部のセット石でも測定が可能です。分析結果を独自のソフトで診断し、IRのスペクトルを確認することができます。
しかし、これらの粗選別機器はメレダイヤモンドに特化したものではありません。また、一石一石のマニュアル操作になるため、多数のダイヤモンドを検査するためには時間と労力がかかります。そのため、多数個のメレダイヤモンドの検査は非常にコストが高くなります。業界からも自動的にメレダイヤモンドを粗選別する装置が要望されるようになりました。そこで、HRDでは自動メレ粗選別装置M–Screenを開発しました。

Fig.6–1: D–Screen(HRD Antwerp HPより)
Fig.6–1: D–Screen(HRD Antwerp HPより)
Fig.6–2: Alpha Diamond Analyzer(HRD Antwerp HPより)
Fig.6–2: Alpha Diamond Analyzer(HRD Antwerp HPより)

5.M–SCREEN
M–ScreenはHRDアントワープとWTOCD(Wetenschappelijk en Technisch OnderzoeksCentrum
voor Diamant アントワープのダイヤモンドリサーチセンター)の共同で開発したメレサイズダイヤモンドの全自動スクリーニング(粗選別)システムです。
卓上設置が可能なデスクトップサイズで、超高速(最小でも毎秒2個)でメレサイズのダイヤモンドを粗選別します。1時間あたり7200〜12000個のダイヤモンドを全自動で識別することが可能です。対象は0.01ct〜0.20ctのD〜Jカラーのラウンドブリリアントカットされたダイヤモンドです。選別を行う基本原理は波長の短い紫外線による特性と未公開の特許技術が使用されています。選別結果は「天然ダイヤモンド」、「合成ダイヤモンドの可能性」、「HPHT処理の可能性がある天然ダイヤモンド」、「類似石」に分別されます。

6.結論
HPHT法およびCVD法による宝石品質合成ダイヤモンドが市場供給されており、特にメレサイズの天然石への混入が懸念されています。これらに対して、市場における正確な情報開示とラボに因る明確な識別が重要です。
合成ダイヤモンドの検出にはスクリーニング(粗選別)が大切です。 粗選別は限られた特性に着目した技術を用いており、鑑別とは異なります。粗選別では未処理の天然ダイヤモンドを選別し、要詳細検査となったものは洗練されたラボの複数の技術の組み合わせで鑑別がなされます。
HRDでは、粗選別機器としてD–ScreenとAlpha Diamond Analyzerを開発・販売してきましたが、今回、メレサイズに対応した自動メレ粗選別装置M–Screenを新たに開発し、市販を開始しました。また、HRD Antwerpではメレサイズダイヤモンドの粗選別のサービスと各種レポートの発行を行っています。◆

Fig.7: M–Screen (HRD Antwerp HPより)
Fig.7: M–Screen (HRD Antwerp HPより)

無色系メレサイズHPHT法合成ダイヤモンド

2016年1月No.30

リサーチ室 北脇  裕士、久永  美生、山本  正博、岡野  誠、江森  健太郎

研究用に入手した45個の無色系メレサイズHPHT法合成ダイヤモンドを検査した。これらはラウンドブリリアントカットされたルースで重量は0.0075ct~0.023ctであった。標準的な宝石学的検査においては、宝石顕微鏡下における塊状や樹枝状の金属包有物の存在と短波紫外線下における明瞭な青色の燐光が鑑別特徴となる。赤外分光分析ではすべてⅡ型の特徴を示し、フォトルミネッセンス分析では多くのものに天然石には稀なNi(ニッケル)に関連するピークが検出された。また、紫外線ルミネッセンス像およびカソードルミネッセンス像ではHPHT法特有の分域構造と青色の燐光が観察された。

背景

2012年、アントワープの国際的なダイヤモンドグレーディングラボラトリーによる大量ロットのCVD法合成ダイヤモンドの報告を皮切りに、世界各地の検査機関からも相次いで合成ダイヤモンドに関する報告がなされている(文献1)。宝飾用に供される合成ダイヤモンドのサイズおよび品質は年々向上し、HPHT法合成ダイヤモンドでは10.02ctのVS1、Eカラーの報告がされており(文献2)、CVD法合成ダイヤモンドにおいても3ct以上のものの報告が相次いでいる(文献3)。一方、メレサイズの無色合成ダイヤモンドのジュエリーへの混入も業界の大きな懸念材料となっている。当研究所においても2015年9月以降、ジュエリーに小粒の無色合成ダイヤモンドが混入した事例が相次いでおり、ルーティンにおける合成ダイヤモンドの検査体制を強化している。
今回、メレサイズの無色合成ダイヤモンドを研究用に入手し、検査することができた。これらは中国もしくはロシアで製造されたものがインドで研磨されたと推測される。以下にこれらの宝石学的特性と天然ダイヤモンドとの重要な識別特徴について検討する。
本報告は今後増加が懸念されるメレサイズの合成ダイヤモンドの鑑別における有益な鑑別指針を提供できると思われる。

図1:無色系メレサイズHPHT法合成ダイヤモンド   (0.0075ct~0.023ct)
図1:無色系メレサイズHPHT法合成ダイヤモンド   (0.0075ct~0.023ct)
試料と分析方法

研究用に入手した無色系HPHT法合成ダイヤモンド45石を検査対象とした(前ページ図1)。これらはすべてラウンドブリリアントカットが施されたルースで、重量は0.0075ct~0.023ctであった。カラー、クラリティおよびカットグレードについては小粒石のため実施されなかった。45石すべてに対して標準的な宝石学的検査とCGLの開発したCGL Diamond Kensaによるタイプの粗選別を行い、うち12石についてはFTIR、フォトルミネッセンス分析を、5石については紫外線ルミネッセンス像およびカソードルミネッセンス像の観察を行った。また、拡大検査で金属包有物を豊富に含有していた5石については蛍光X線分光法による組成分析を行った。さらに、うち1石についてはLA–ICP–MS分析を行った。

外部特徴および包有物の観察にはMotic製の双眼実体顕微鏡GM168を用いた。紫外線蛍光の観察にはマナスル化学工業製の標準的な4ワットの長波紫外線ライト(365nm)と短波紫外線ライト(253.6nm)を用いて完全な暗室にて行った。紫外-可視-近赤外分光分析には日本分光製V570を用いて分析範囲は220nm–1100nm、バンド幅2.0nm、分解能0.5nm、スキャンスピード400nm/minで室温にて測定を行った。赤外分光分析には日本分光製FT/IR4200を用いて分析範囲は7000–400㎝–1分解能は4.0㎝–1で、20回の積算回数で測定を行った。フォトルミネッセンス(PL)分析にはRenishaw社製 inVia Raman MicroscopeとRenishaw社製 Raman system–model 1000を用いて633nm、514nm、488nmの各波長のレーザーを励起源に液体窒素に浸漬した状態で分析を行った。紫外線ルミネッセンス像の観察には当研究所が独自に開発した紫外線ルミネッセンス像観察装置を用いて行った。また、SEM–CLにはTopcon社製走査型電子顕微鏡 sm–350を用いて試料は金蒸着を施して観察を行った。蛍光X線分析にはJEOL社製JSX3201Mを用いて2㎜φのコリメーターを使用して50kV、3mAの条件で400秒の測定を行った。LA–ICP–MS分析には、New Wave Research UP–213とAgilent 7500aを使用した。レーザーアブレーションにおけるクレーターサイズは15μm、レーザーパワーは15J/cm2で1秒間に10発を20秒間継続した。プラズマのRFパワーは1200Wであった。

結果と考察

◆拡大検査
検査した多くのものは10倍ルーペにおいて特徴的な包有物は認められなかった。およそ2割弱程度のものには棒状や塊状、あるいは樹枝様の金属包有物が認められた((図2、図3、図4、図5、図6)。これらの金属包有物を内包するものは、強力なフェライト磁石に対しては明瞭な磁性を示した(45個中6個)(図7)。このような金属包有物はCVD合成ダイヤモンドには見られず、HPHT法合成の特徴となる。また、天然ダイヤモンドには磁性を示す例は極めて稀であり(多数の鉄鉱物の存在や研磨・カット工程が原因の汚染)、磁性の存在もHPHT法合成の特徴となる。

図2:棒状の金属包有物
図2:棒状の金属包有物
図3:テーブルの3時方向に樹枝様の金属包有物の集合体
図3:テーブルの3時方向に樹枝様の金属包有物の集合体
図4:テーブルの中心付近に塊状の金属包有物とそれを取り囲む樹枝様金属包有物
図4:テーブルの中心付近に塊状の金属包有物とそれを取り囲む樹枝様金属包有物
図5:テーブル全面に広がる樹枝様金属包有物
図5:テーブル全面に広がる樹枝様金属包有物
図6:研磨面に達した樹枝様金属包有物
図6:研磨面に達した樹枝様金属包有物
図7:強力なフェライト磁石にくっつくHPHT合成ダイヤモンド
図7:強力なフェライト磁石にくっつくHPHT合成ダイヤモンド
図8:交差偏光下での特徴のない歪複屈折
図8:交差偏光下での特徴のない歪複屈折

◆歪複屈折
交差偏光板を用いた顕微鏡観察において、明瞭な歪複屈折は認められなかった(図8)。CVD合成ダイヤモンドには特徴的な筋模様の歪複屈折(低次の白黒の干渉色)が認められ、すべての天然Ⅱ型ダイヤモンドには塑性変形に由来するタタミマット構造が見られる。したがって、検査するダイヤモンドがⅡ型であった場合、このような特徴のない偏光下の歪複屈折はHPHT法合成を暗示する手掛かりとなる。

◆紫外線蛍光
ほとんどの検査石は長波紫外線下において明瞭な発光は認められなかったが、一部に弱い青白色もしくはオレンジ色の蛍光が観察された。短波紫外線下においても同様であるが、青白色蛍光を示す割合が多かった。短波紫外線下ではほとんどのものに強弱の差はあるものの青白色の燐光が観察された。短いものでは数秒であったが、長いものは5分以上発光が継続した。一部にオレンジ色の燐光を示すものもあった(図9)。天然ダイヤモンドでは明瞭な青白色の燐光を示す例は極めて稀であり、短波紫外線下において数秒以上継続する明瞭な燐光の存在はHPHT合成の警鐘となる。

図9:短波紫外線下の燐光
図9:短波紫外線下の燐光

◆CGL Diamond Kensa
CGLがダイヤモンドのタイプを粗選別するために独自に開発したCGL Diamond Kensaでは検査した45個すべてが要詳細検査となった。CGL Diamond Kensaはダイヤモンドのタイプを粗選別するコンパクトな装置で、0.01ct ~3.00ctの重量が測定可能範囲である。今回検査した試料の中には0.01ct未満のものもあったが、すべて適正な検査結果を得ることができた。ダイヤモンドのタイプを粗選別する装置としてDTCのDiamondSure™やHRDのD–Screenが先行販売されており、業界で広く利用されている。しかし、これらの装置における適用重量範囲は、前者が0.1ct、後者が0.2ct以上であり、今回のメレサイズについてはすべて適用範囲外で測定が不可能であった。
CGL Diamond Kensaは、無色系の合成ダイヤモンド(HPHT法およびCVD法)がすべて紫外線の透過性の良いⅡ型に分類されることを基本原理としている。現時点においてⅠ型に属する無色の合成ダイヤモンドは存在しないため、CGL Diamond Kensaは合成ダイヤモンドの粗選別装置として有効に機能している。

◆赤外分光分析
測定した12個すべての試料はダイヤモンドの窒素領域(1500~1000cm–1)に吸収を示さないⅡ型に分類された。  12個中9個にはホウ素に由来する4093、2928、2810、2460cm–1に吸収が見られ、Ⅱb型であることが確認された(図10)。これらのホウ素に起因するピークが強いものには1332 cm–1のピークも認められた。ホウ素は窒素との電荷補償により、窒素に起因する黄色味を軽減する目的で意図的に添加されることがあるが、製造時の炭素原料や金属溶媒に由来する不純物としても混入する。今回検査した12個のHPHT合成ダイヤモンドは、ホウ素の濃度(FTIRによるピーク強度)に個体差が大きく、不純物である可能性が高い。

図10:赤外吸収スペクトルではⅡa型(赤線)を示すものとⅡb型(青線)を示すものがある。
図10:赤外吸収スペクトルではⅡa型(赤線)を示すものとⅡb型(青線)を示すものがある。

◆フォトルミネッセンス分析
633nmレーザーでPL測定を行った12個中10個に883.2nmと884.8nmのダブレットが検出された。ほとんどのものは小さなピークであったが、うち1個はきわめて明瞭なピークを示した(図11)。

図11:633nmレーザーによるPLスペクトルでは883.0nmと884.7nmのダブレットピーク(Ni+)を示すものが多い。
図11:633nmレーザーによるPLスペクトルでは883.0nmと884.7nmのダブレットピーク(Ni)を示すものが多い。

これらのダブレットはNi(ニッケル)をベースとした溶媒金属を用いて製造されたHPHT法合成ダイヤモンドの{111}領域に頻繁に観察されている。これらは格子間のNiによるものではないかと考えられている(文献4)。この883.2nmと884.8nmのダブレットのピークは、CVD法合成ダイヤモンドや天然ダイヤモンドにも稀に見られることがあるため、その存在のみではHPHT法の確実な証拠とすることはできない。12個中1個の試料にのみ737nm(736.4/736.8nmのダブレット)ピーク(SiV)が検出された。これらのピークはCVD法合成ダイヤモンドには頻繁に観察されるものではあるが、HPHT法合成や天然ダイヤモンドにも稀に検出されることがある。
514nmレーザーによるPLスペクトルを図12に示す。分析を行った12個すべてに575nm(NV0)が検出された。また、12個中9個に637nm(NV)が検出された。双方が検出される場合は、常に575nm(NV0)>637nm(NV)であった。
488nmレーザーによるPLスペクトルを図13に示す。分析を行った12個すべての試料に575nm(NV0)の比較的強いピークが検出された。12個中5個に504nm付近に帰属不明の半値幅(FWHM)のやや大きなピークが検出された。HPHT処理が施されたCVD合成ダイヤモンドには503.2nm(H3)の明瞭なピークが検出されるが、今回のHPHT合成ダイヤモンドにはいずれにも検出されなかった。

"図12:514nmレーザーによるPLスペクトルでは575nm(NV0)と637nm(NV-)が検出され、常に575nm(NV0)

図13:488nmレーザーによるPLスペクトルでは575nm(NV0)の他に504nm付近に帰属不明の半値幅(FWHM)のやや大きなピークが検出されるものがあった。
図13:488nmレーザーによるPLスペクトルでは575nm(NV0)の他に504nm付近に帰属不明の半値幅(FWHM)のやや大きなピークが検出されるものがあった。

◆紫外線およびカソードルミネッセンス法
CGLが独自に開発した紫外線ルミネッセンス像観察装置を用いて無作為に選別した5個の試料を検査した。本装置は、波長の短い(<225nm)強力な紫外線を用いてダイヤモンドのルミネッセンス像を観察する装置で、小粒石やジュエリーにセッティングされたダイヤモンド用に開発されたものである。試料室が125mm(縦)×170mm(横)×40mm(高さ)と広めに設計されており、XYZの移動が自動で制御できるよう工夫されている。また、小粒石が観察しやすい用にDTC製のDiamondView™よりも光学ズームの拡大率を高くしている。
すべての試料にホウ素に起因すると思われるやや緑色味のある青白色の発光色が観察された(図14a〜c)。同様の発光色はHPHT処理が施されたCVD合成ダイヤモンドにも見られることがある。天然のⅡ型ダイヤモンドは、ほとんどのもの(90%以上)がバンドAに因るやや暗い青色蛍光を示すため(CGL未公表資料)、今回の試料のような青白色の発光色は合成起源の警鐘となる。また、すべてに同系色の燐光が観察され、燐光の継続時間は数分におよぶものが多かった。本装置においては無色の天然Ⅱ型ダイヤモンドにもしばしば燐光が観察されるが、継続時間は数秒以下程度である。また、HPHT処理が施された無色系のCVD合成ダイヤモンドにも燐光が観察される。従って、このように数分にもおよぶ長い時間の燐光の存在は合成起源を強く示唆する。紫外線ルミネッセンス像の観察において、HPHT合成には通常{111}、{100}{110}などの成長分域が観察される。今回検査した5石にも分域構造が見られたが、不鮮明なものもあった。より詳細な成長構造を確認するために、これらの試料について電子顕微鏡を用いたカソードルミネッセンス像の観察も併せて行った。紫外線ルミネッセンス像ではやや不明瞭であった成長分域がカソードルミネッセンスでは明瞭に観察されたものもあった(図15)。

図14:紫外線ルミネッセンス像
図14a:紫外線ルミネッセンス像
図14:紫外線ルミネッセンス像
図14b:紫外線ルミネッセンス像
図14c 図14a〜c:紫外線ルミネッセンス像の観察おいてはホウ素に起因すると思われるやや緑色味のある青白色の発光色が観察された。HPHT合成特有の分域構造はやや不明瞭であった。
図14c
図14a〜 c:紫外線ルミネッセンス像の観察おいてはホウ素に起因すると思われるやや緑色味のある青白色の発光色が観察された。HPHT合成特有の分域構造はやや不明瞭であった。
図15:カソードルミネッセンスに因る蛍光像ではHPHT合成特有の分域構造が確認された。
図15:カソードルミネッセンスに因る蛍光像ではHPHT合成特有の分域構造が確認された。

◆蛍光X線分析
拡大検査で金属包有物を含有しており、それらが研磨面付近に達している5個の試料について蛍光X線による定性分析を行った。Fe(鉄)、Co(コバルト)およびTi(チタン)が検出されたが、Ni(ニッケル)のピークは不明瞭であった。FeとCoについては5個の試料ともに明瞭なピークが得られたが、Tiについては個体差が大きかった。

◆LA-ICP-MS分析
樹枝様の金属包有物が研磨面付近に多く見られる試料1個に対してLA–ICP–MS分析による定性分析を行った。測定元素はHPHT合成に一般的に使用される溶媒金属と窒素ゲッターに使われる元素を想定して選定し、以下の元素について行った。Ti(47)、Fe(56、57)、Co(59)、Ni(60)、Cu(銅)(63)、Hf(ハフニウム)(178)、Zr(ジルコニウム)(90)(カッコ内の数字は質量数)。
測定した元素のうち、Coが最も多く検出された。次いでFe、Ti、Cuの順であった。Niは非検出であった。CoおよびFeは無色系のダイヤモンドを製造する際に一般的に使用される溶媒金属である。無色系を合成する際には着色に関与するカラーセンタを形成するNiは通常用いられない。CoとFeの割合は重要でCo量は40~60wt%が適している。この範囲を外れると、金属包有物の混入や骸晶の発生など良質な結晶が得られなくなる(文献5)。また、黄色味の原因となる置換型単原子窒素を除去するために窒素ゲッターと呼ばれるTi、Hf、Zrなどの元素が適量添加される。これらのうちTiが最も効率の良い窒素ゲッターとなるが、溶媒中にTiCが多量に生成し、成長結晶表面の沿面成長が阻害され、金属包有物の巻き込みが顕著となる。そのため成長速度を落として結晶育成が行われるが、Cuを適量添加することでTiCの生成を抑制することができる(文献5)。

まとめ

研究用に入手した45個のメレサイズHPHT法合成ダイヤモンドを検査した。標準的な宝石学的検査においては、宝石顕微鏡下における塊状や樹枝様の金属包有物の存在が鑑別上の手掛かりとなる。金属包有物に加えて明瞭な磁性が存在すればHPHT法合成を示唆する有力な情報となる。短波紫外線下における明瞭な青色の燐光が重要な鑑別特徴となる。しかし、HPHT法合成においても燐光が弱いものも存在するため、燐光の欠如が天然起源を示唆するものではない。赤外分光分析ではすべてⅡ型(Ⅱa型およびⅡb型)の特徴を示し、CGL Diamond Kensaにおいてすべて要詳細検査となった。フォトルミネッセンス分析では多くのものに天然には稀なNiに関連するピークが検出された。また、紫外線ルミネッセンス像およびカソードルミネッセンス像ではHPHT法特有の分域構造と青色の燐光が観察された。
これまで合成ダイヤモンドの宝飾用への利用は限定的であった。しかし、メレサイズの宝飾向けのHPHT法合成ダイヤモンドは相当量の製造が見積られており(次ページコラム参照)、今後ジュエリーへの混入がますます懸念される。正確な情報開示と適切なスクリーニングが重要である。

謝辞
電子顕微鏡によるカソードルミネッセンスの分析には物質材料研究機構の渡辺賢司博士とつくばエキスポセンターの神田久生博士にご協力頂いた。ここに謝意を表する。◆

【文 献】
1.Even-Zohar C. (2012) Synthetic specifically “made to defraud”. Diamond Intelligence
Briefs, vol.27, No.709, pp7281–7290,

2.IGI certifies record-breaking, world’s largest colorless grown diamond.
http://www.igiworldwide.com/igi-certifies-worlds-largest-colorless-grown-diamond.html

3.Two Large CVD-Grown Synthetic Diamonds Tested by GIA
http://www.gia.edu/gems-gemology/winter-2015-labnotes-two-large-CVD-grown-
synthetic-diamonds

4.Kanda H. and Watanabe K. (1999) Distribution of nickel related luminescence centers in
HPHT diamond. Diamond and Related Materials, 8, 1463-1469

5.角谷均., 戸田直大., 佐藤周一. (2005) 高品質大型ダイヤモンド単結晶の開発.
SEIテクニカルレビュー, 166, 7-12

コラム:中国のHPHT法合成ダイヤモンド

リサーチ室 北脇  裕士

ダイヤモンドの合成法はCVD法や衝撃法等も知られていますが、工業的に生産されているもののほとんどはHPHT法によるものです。ダイヤモンドは熱力学的に高圧下で安定なため、通常は5~6GPa以上の静的な超高圧下で合成されています。
ダイヤモンド合成用の高圧発生装置の心臓部ともいえる加圧部にはさまざまな形式が用いられています。代表的なものは以下の3つです。①アンビル・シリンダ型(ベルト型など)、②マルチ・アンビル型(キュービック型、分割球型など)、③アンビル対向型(トロイダル型など)。宝飾用にロシアで合成されているダイヤモンドは主に分割球型(BARS)と言われており、オランダに本社を置くAOTC社では分割球型とトロイダル型を使用していると報告されています。
さて、中国ではキュービック型のマルチ・アンビル装置が用いられており、中国国内に1万台以上(あるいは2万台)設置されていると推定されています。この装置は蝶番(ヒンジ)で6個の独立アンビル駆動ラムが結合されていて、6個のアンビルが立方体試料を加圧します。この装置の特長は1台当たりの製作コストが低いことにあります。一方、ベルト型などの装置に比べて試料部体積が小さく、量産が困難なことがあげられます。しかし、中国では2000年~2005年にかけて大容積の大型ヒンジ式装置が開発され、急成長を遂げていきました。このころから中国のダイヤモンド砥粒生産量が急増し、中国の生産量だけで全世界の消費量を生産できるまでになったと言われています。実際に現在の工業用ダイヤモンド生産量の90%以上が中国で生産されていると考えられています。
このように工業用合成ダイヤモンドは中国での大量生産により、供給過多となっています。そして、現在新たな供給先としてメレサイズの宝飾向けへと展開する動きがあり、今後目が離せない状況となっています。◆

1.キュービック型マルチアンビル装置   (US synthetics社製)
1.キュービック型マルチアンビル装置
  (US synthetics社製)
2.同加圧部
2.同加圧部

日本鉱物科学会2015年年会・総会参加報告

2015年11月No.29

リサーチ室 江森  健太郎、北脇  裕士

去る9月25日(金)から27(日)までの3日間、東京大学本郷キャンパスにて日本鉱物科学会の2015年年会・総会が行われました。弊社からは2名の技術者が参加し、うち1名が口頭発表を行いました。以下に年会の概要を報告致します。

2015年年会・総会の会場となった東京大学(象徴ともいうべき赤門)
2015年年会・総会の会場となった東京大学(象徴ともいうべき赤門)
日本鉱物科学会とは

日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Sciences)は2007年9月に日本鉱物学会と日本岩石鉱物鉱床学会の2つの学会が統合・合併して発足し、現在は大学の研究者を中心におよそ1000名の会員数を擁しています。日本鉱物科学会は鉱物化学およびこれに関する諸分野の学問と進歩、普及をはかることを目的とし、「出版物の発行(和文誌:岩石鉱物化学、英文誌:Journal of Mineralogical and Petrological Sciences、その他)」、「総会、講演会、研究部会、その他学術に関する集会および行事の開催」「研究の奨励および業績の表彰」を主な事業として活動しています。年会は、設立総会以降毎年行われており、重要な学術交流の場となっています。

日本鉱物科学会2015年年会

2015年の年会は東京大学で行われました。2007年に設立総会が開催されて以降、東大では8年ぶりの開催となります。東京大学は江戸幕府の昌平坂学問所や天文方、および種痘所の流れを汲みながらも、欧米諸国の諸制度に倣った、日本国内で初の近代的な大学として設立され国内外から高い評価を受けております。

会場となった本郷キャンパス理学部1号館
会場となった本郷キャンパス理学部1号館

会場となったのは本郷キャンパスの理学部1号館です。ここには小柴昌俊博士のノーベル賞受賞を記念して2005年に創設された小柴ホールも含まれています。この小柴ホールがメイン会場として使用され、2階~4階までの各教室が講演会、ポスター会場等に使用されました。
会場までの主な交通手段としては、上野駅から徒歩20分、地下鉄大江戸線・丸ノ内線の本郷三丁目駅、南北線の東大前駅の他、上野駅・御茶ノ水等から東大構内行の都営バスがでており、本数もかなりあって便利です。今回の年会では、4件の受賞講演、10のセッションで114件の口頭発表、95件のポスター発表が行われ、参加者は200名弱ありました。
一日目、25日(金)午前9時30分より「結晶構造・結晶科学・物性・結晶成長・応用鉱物」、「地球外物質」、「岩石―水相互作用」のセッションが行われました。別会場でポスターセッションが同時に開催され、12~14時のポスターセッションコアタイムではポスター発表者による説明・質疑応答・議論が活発に行われていました。なお、ポスター発表は学会開催期間3日間を通して行われており、3日間ともコアタイムはたくさんの人でにぎわっていました。

コアタイムのポスター発表の様子
コアタイムのポスター発表の様子

二日目、26日(土) 8時45分から小柴ホールにおいて日本鉱物科学会の平成27年度総会が行われました。早朝にも関わらず160名以上の会員が集まり、各委員会からの報告や会の運営に関わる議決が行われました。本年度の重要な議決案件として本学会の一般社団法人化問題があり、担当幹事より詳細な説明がなされました。説明と質疑応答を合わせると1時間ほど時間がかけられ、その後の議決の結果、来年度以降法人化を目指すことが承認されました。

引き続き、10時半より鉱物科学会の各賞受賞講演が行われました。平成26年度日本鉱物化学会賞第13回受賞者である京都大学の小畑正明氏、平成26年度日本鉱物科学会研究奨励賞第16回受賞者の東北大学の奥村聡氏、同第17回受賞者の神戸大学の瀬戸雄介氏、同第18回受賞者の九州大学の中野信彦氏の講演がありました。
その他各賞受賞者は以下の通りです。

日本鉱物科学会論文賞:田口知樹、榎並正樹
渡邉萬次郎賞:大沼晃助
日本鉱物科学会応用鉱物科学賞:豊田文紫
桜井賞:永嶌真理子

日本鉱物科学会 平成27年度受賞講演の様子(小柴ホール)
日本鉱物科学会 平成27年度受賞講演の様子(小柴ホール)

また、受賞講演終了後、午後14時より「鉱物記載・分析評価」「深成岩・火山岩及びサブダクションファクトリー」のセッションがあり、「鉱物記載・分析評価」のセッションにおいて弊社研究者が「Ib型CVD合成ダイヤモンドのキャラクタリゼーションと成長後の熱処理温度の推定」の講演を行いました。講演後、質問も寄せられ、鉱物学会会員の方々の宝石学への関心の強さを感じ取ることができました。

三日目、27日(日)は9時30分より「高圧科学・地球深部」「変成岩とテクトニクス」「岩石・鉱物・鉱床一般」「地球表層・環境・生命」「スペシャルセッション火成作用と流体」のセッションがありました。
鉱物学と宝石学は密接な関係があります。毎年開催される鉱物科学会年会に参加し聴講することで、最先端の鉱物学研究に関する知見を得ることができます。また、普段接する機会が少ない研究者の方々との交流を深められ、宝石学の研究に生かすことができます。なお、来年2016年度の鉱物科学会年会は9月23日~9月25日、金沢大学で開催される予定です。◆

IGC34 参加報告

2015年11月No.29

リサーチ室 江森  健太郎、北脇  裕士

去る2015年8月26日~9月3日、リトアニアのビルニュスにて第34回国際宝石学会(IGC)が開催されました。弊社リサーチ室の技術者が2名出席し、それぞれ本会議における口頭発表を行いました。以下に概要をご報告致します。

ビルニュスの街並み:旧市街は世界文化遺産に指定されている
ビルニュスの街並み:旧市街は世界文化遺産に指定されている
リトアニアの地図
リトアニアの地図

国際宝石学会(IGC)とは

国際宝石学会(International Gemological Conference)は国際的に著名な地質学者、鉱物学者、先端的なジェモロジストで構成されており、宝石学の発展と研究者の交流を目的に2年に1度本会議が開催されています。
この会議は1952年にドイツで第1回会議が開かれてから、今回で34回目の開催となります(表1参照)。発足当初はヨーロッパの各国で毎年開催されていましたが、近年では2~3年に1回、ヨーロッパとそれ以外の地域の各国で交互に開催されています。当社リサーチ室の北脇所員は1999年のインド以降続けて参加しており、江森所員は2007年のロシア、2013年のベトナムに続き3回目の参加となります。

表1:国際宝石学会、開催国のリスト
開催年  開催回  開催国    開催年  開催回  開催国
1952 第1回  ドイツ    1981  第18回  日本
1953 第2回  オランダ   1983  第19回  スリランカ
1954 第3回  デンマーク  1985  第20回  オーストラリア
1955 第4回  イギリス   1987  第21回  ブラジル
1956 第5回  ドイツ    1989  第22回  イタリア
1957 第6回  ノルウェー  1991  第23回  南アフリカ
1958 第7回  フランス   1993  第24回  フランス
1960 第8回  イタリア   1995  第25回  タイ
1962 第9回  フィンランド 1997  第26回  ドイツ
1964 第10回 オーストリア 1999  第27回  インド
1966 第11回 スペイン   2001  第28回  スペイン
1968 第12回 スウェーデン 2004  第29回  中国
1970 第13回 ベルギー   2007  第30回  ロシア
1972 第14回 スイス    2009  第31回  タンザニア
1975 第15回 アメリカ   2011  第32回  スイス
1977 第16回 オランダ   2013  第33回  ベトナム
1979 第17回 ドイツ    2015  第34回  リトアニア

IGCは他の一般的な学会とは異なり、今もなおクローズド・メンバー制が守られています。メンバーはデレゲート(Delegate)とオブザーバー(Observer)で構成されます。オブザーバーは国際的に活躍するジェモロジストで、 エグゼクティブコミッティ(Executive Committee)もしくはデレゲートの推薦によりIGCの会議に招待されます。デレゲートはオブザーバーとして3回以上IGC会議に出席し、優れた発表がなされたとエグゼクティブコミッティに推薦されたものが昇格します。デレゲートは原則的に各国1~2名で、現在33ヶ国からの参加者で構成されています。このようなメンバー制は排他的な一面がある一方、メンバーたちの互いに尊重し合う格式ある風土やアットホームで親密なファミリーという認識の交流が保たれています。今回はメンバー(Delegate)とオブザーバー(Observer)そしてゲスト(Guest)を合わせて90人が会議に出席しました。日本からは弊社技術者以外に、デレゲートとしてAhmadjan Abduriyim氏と古屋正貴氏、ゲストとして大久保洋子氏が会議に出席されました。

開催地

開催地のビルニュス(Vilnius)はリトアニア共和国の首都で、リトアニア最大の都市です。人口は55万人、かつてはポーランド領であったこともあります。1994年に旧市街がユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録され、2009年には欧州文化首都に選ばれました。今回の会議が行われたビルニュス大学は1579年に設置されたリトアニアの国立大学で、この地方ではクラクフのヤギェウォ大学(1364年) 、ケーニヒスベルグの大学(1544年)に次いで創立された最も古い大学の一つです。ビルニュス大学は旧市街地の中にあり、完全に街に溶け込んでいて、どこからどこまでが大学か見ただけではわかりません。

本会議が行われたビルニュス大学
本会議が行われたビルニュス大学
第34回国際会議

今回の国際宝石学会はこれまでと同様、Pre-Conference Tour 8/23(日)~25(火)、本会議8/26(水)~8/30(日)、Post Conference Tour 8/31(月)~9/3(木)の3本立てで行われました。本会議前後のConference Tourは開催地周辺のジェモロジーや地質・鉱物に因んだ土地や博物館を訪れます。弊社技術者は本会議とPost Conference Tourに参加しました。

本会議

本会議初日の26日(水)14時より、ショートエクスカーションとしてリトアニアで産出される主要な宝石の一つ、こはくの博物館「Amber Museum」と「Church Heritage Museum」の2か所を訪問しました。どちらもビルニュスの旧市街、大学のすぐ傍にあり徒歩にて気軽に訪れることが可能な場所にあります。「Amber Museum」ではリトアニアで産出されるこはくの生成メカニズム、こはくの採取方法、こはくを加工して作られた様々なアクセサリーの展示があり、非常に勉強になりました。また、ビルニュスの旧市街には多くの教会があり、地元の人たちの信仰の強さを垣間見ることができます。「Church Heritage Museum」は日本語にすると教会遺跡博物館というものでしょうか、キリスト教関連の展示が豊富にあり、リトアニアの宗教的な歴史を感じることができました。その後、18時より旧市街、大学傍にあるNarutis Hotelにてウェルカムレセプション・パーティーが開催されました。各国から集まった旧友たちが2年ぶりに再会し、お互いの健康や研究成果をたたえあい旧交を温めます。

「Amber Museum」内の展示。見事なこはくが数多く展示されていた。
「Amber Museum」内の展示。
「Amber Museum」内の展示。見事なこはくが数多く展示されていた。
「Amber Museum」内の展示。見事なこはくが数多く展示されていた。

27日(木)の本会議は朝9時からのオープニングセレモニーで始まりました。リトアニア大学の中央棟にあるSmall Aulaにおいて終始厳粛な雰囲気で進められました。まず、主催者であり、IGC34の議長を務めるArunas Kleismantas氏が開会を宣言され、引き続きIGCのExecutive Committeeを代表してJayshree Panjikar氏が挨拶をされました。これに呼応して、リトアニアの経済副大臣のGediminas Onaitis氏、ビルニュス大学研部門長のRimantas Jankauskas教授、自然科学部学部長のHabil教授、Osvaldas Ruksenas博士が祝辞を述べられました。会場を埋めた参加者たちは次第に気持ちが引き締まり、これからの本会議に向けて緊張感が高まります。およそ1時間のセレモニーが終了すると、場所を大講堂に移していよいよ一般講演が始まりました。

 本会議前日のウェルカムレセプション
本会議前日のウェルカムレセプション
リトアニア大学の中央棟のSmall Aulaでのオープニングセレモニー
リトアニア大学の中央棟のSmall Aulaでのオープニングセレモニー

一般講演は27日~30日と4日間にわたって行われました。各講演は質疑応答を含め各20分で行われ、計38題が発表されました。うち、こはく関連6題、ダイヤモンド関連3題、コランダム関連11題、パール関係4題、ひすい2題、オパール2題、エメラルド、ペリドット、デマントイド、ネフライト各1題、その他色石2題、産地関連2題、分析関連1題、光学関連1題でした。弊社研究室からは、北脇が「Type Ib yellow to brownish yellow CVD synthetic diamond」、江森が「Geographic origin determination of ruby and blue sapphire based on trace element analysis using LA-ICP-MS and 3D plot」という題で発表を行いました。
ここでは紙面に限りがありますので、発表された講演内容について詳述することはできませんが、IGC34で行われたすべての一般講演、ポスターセッションの要旨についてはオンラインでご覧戴けます。
http://www.igc-gemmology.net/ (2015年11月現在ダウンロード可)ご興味のある方はぜひこちらをご覧ください。
なお、会議の最終日30日の閉会式において次回のIGC35の開催地はアフリカのナミビアに決定しました。

ビルニュス大学内、本会議の様子
ビルニュス大学内、本会議の様子
次回開催地ナミビアへの引き継ぎ式
次回開催地ナミビアへの引き継ぎ式
Post Excursion Tour

8/31(月)~9/3(木)とPost Excursion Tour (会議後の巡検)に参加しました。参加者はおよそ40名で2台のバスに分乗して移動しました。初日31日にビルニュスをバスで出発した我々は、Kaunas(カウナス)を経由し、Palanga(パランガ)へ向かいました。Palanga(パランガ)はリトアニアでも有名なリゾート地です。翌日1日の朝、Palanga(パランガ)にある「Museum of Amber」へ行きました。「Museum of Amber」でこはくの生成メカニズム、海辺でのこはく採取の手法についての説明を受けました。

「Museum of Amber」での説明を聞く参加者たち
「Museum of Amber」での説明を聞く参加者たち
浅瀬でのこはくの採取風景
浅瀬でのこはくの採取風景

バルティック海のこはくは、古第三紀始新世の終わりころ(5300万年―3370万年)に北ヨーロッパ(現在のスウェーデン中南部)一帯に繁茂した松の木(Pinus succinifera)に由来します。これらの針葉樹は大量の樹脂を生成し、のちにこはくへと化石化しました。そして、その後の河川の作用によってスカンジナビアから現在のロシア領カリーニングラード~リトアニアを含む地域に運ばれました。これらのこはくを含むデルタ堆積物は3700万年~3370万年前にPrussian累層として形成しました。これらの堆積物は褐色がかった緑色の砂質シルトで “Blue Earth” とも呼ばれています。 こはくを含む層は10m以内の厚さで上部は35~40mほどの氷河を含む堆積物で覆われていました。完新世(およそ1万年前)に入るとバルティック海の海面が上昇し、海水がこはくを含む層を浸食します。海に流れ出したこはくは海水によって、現在のCuronianラグーン(潟)や一部はエストニアのサーレマー島の海岸周辺にまで運ばれました。
現在のリトアニア領での商業的なこはくの採掘は19世紀以降からです。1867年以前はこはくが採取可能な海岸を歩くだけでも違法とされていました。1992年~1994年にかけてリトアニアの地質調査所によって詳しく調査され、およそ350トンの埋蔵量が確認されました。それらのサイズの内訳はφ40㎜以上が10%、φ40~20㎜が30%、φ20~10㎜が29%、φ10㎜以下が31%であるとのことです。
バルティックこはくの予備知識を得たのち、海岸まで出てこはく採取を体験しました。浅瀬に沈んだ砂利や海藻を網ですくい上げ、浜辺に引き上げたのちその中からこはくを探します。海水より比重の大きいこはくは海の底に沈みますが、波の作用で海中を浮遊し移動します。そしてまた海の底に沈み、一部は海藻などに絡みついています。

砂利の中から拾い上げたこはく
砂利の中から拾い上げたこはく
砂利の中から拾い上げたこはく
砂利の中から拾い上げたこはく

こはく採取を終了した我々は次にリトアニアで最大のこはくのアクセサリーブランド「Amber Queen」の加工工場を訪れました。ここではオートクレーブによる浄化、洗浄、加熱処理、バレル研磨、そして研磨や加工の工程を見学することができました。

オートクレーブ
オートクレーブ
加熱に使用するオーブン
加熱に使用するオーブン
オートクレーブでの加熱後、流水で洗浄される
オートクレーブでの加熱後、流水で洗浄される
こはくのバレル研磨の様子
こはくのバレル研磨の様子

浄化に用いられるオートクレーブは我々が訪れた部屋だけでも13台あり、それぞれ60~80℃、10~30気圧の範囲にセットされていました。こはくは油紙の様なものに包まれ、何らかのオイルと共にオートクレーブに入れられていました。浄化はすべてのこはくに施される第1段階の工程です。 その後、流水で洗浄され、電器オーブンにて加熱が施されます。ここでは黄色、褐色、褐赤色、黒色など目指す色調によって温度や時間が異なります。バレル研磨ではこはくと一緒に入れられる研磨石としてセラミック、ガラスビーズ、木片などが使用されていました。磨き終わったこはくを色や透明度などの品質によって分類し、アクセサリーに組み上げられていきます。この工程はすべてが女性職人の手作業です。

加熱処理されたこはく
加熱処理されたこはく
こはくを選別しアクセサリーに加工している様子
こはくを選別しアクセサリーに加工している様子

加工工場を見学した後、「Amber Queen」のショップに併設されている「Amber Museum」の見学を行いました。このミュージアムはこはくで作られたアクセサリーに比重が置かれたミュージアムでしたが、虫入りこはくについての展示も充実しており参加者の目を楽しませていました。

Amber Queen店舗外観
Amber Queen店舗外観
虫入りこはくの展示。虫入りこはくは拡大鏡下で見られるよう展示されていた
虫入りこはくの展示。虫入りこはくは拡大鏡下で見られるよう展示されていた

こはく三昧な一日を過ごした後、クルシュー砂州へと船で向かいました。クルシュー砂州はバルト海とクルシュー・ラグーンを隔てる全長98kmの細長く湾曲した砂州であり、2000年にユネスコの世界文化遺産に登録されています。南のサンビア半島から、リトアニア本土の港町クライペダの真向かいにある狭い海峡へと北端が伸びており、北側の52kmがリトアニア領、残りがロシアの飛び地であるカリーニングラード州に属しています。

クルシュー砂州についての説明を受ける見学者一同
クルシュー砂州についての説明を受ける見学者一同

9月2日、クルシュー砂州のNida(ニダ)という町の「Amber Museum」に向かいました。規模は小さいものの、非常に大きなこはくを実際に手で触れることができ、見学者の方々は大興奮でした。

Nida(ニダ)の「Amber Museum」で説明を受ける見学者たち
Nida (ニダ)の「Amber Museum」で説明を受ける見学者たち
Nida(ニダ)の「Amber Museum」の巨大なこはく展示
Nida (ニダ)の「Amber Museum」の巨大なこはく展示

クルシュー砂州には砂丘が多く、地質学的に重要な意味を持つスポットです。今回のクルシュー砂州でのExcursionではクルシュー砂州の重要なポイントを数か所めぐり、見学が行われました。
Post Excursion最終日の9月3日、参加者一同は船にのり、Vente Cape(ベンテ岬)や他、地質学的に重要なスポットを巡った後ビルニュスに向かい、4日間に渡るPost Excursion Tourは終了しました。

移動バスに貼ったポスターを見ながら説明を受ける参加者達
移動バスに貼ったポスターを見ながら説明を受ける参加者達
一面に広がる砂丘
一面に広がる砂丘

宝石学を研究する上で、原産地まで赴き、実際に採取しているところを観察、もしくは実際に採取することは意義のあることです。今回、こはくの採取を実際に行い、こはくの処理を行っている現場、現状からアクセサリーの製造工程、販売まで一度に見ることができ、こはくの現状を目にすることができました。また、このExcursion中の他のジェモロジスト達との交流は非常に重要なことで、各国の状況、生の声を聞くことができます。中央宝石研究所は、これからもこのようなイベントには意欲的に参加し、積極的に情報を仕入れるよう努めていく予定です。◆

Post Excursion Tourの参加者達
Post Excursion Tourの参加者達

平成27年度宝石学会(日本)

2015年9月No.28

大阪支店 奥田 薫、水野 拓也

宝石学会(日本)は、宝石学およびこれに密接に関連する科学の進歩と普及をはかることを目的として、1974年に設立されました。国内で年に1回開催される講演会(学会発表)では、宝石に関する最新の情報や研究結果が報告されています。
本年度は山梨県にて、総会・講演会が6月27日に、見学会が6月28日に開催されました。

やまなしプラザ・オープンスクエアー
やまなしプラザ・オープンスクエアー

講演会
やまなしプラザ・オープンスクエアーにて開催された講演会(学会発表)では、国内の主要な鑑別機関をはじめ、山梨県立宝石美術専門学校や大学および宝石業界関係者等73名が参加し、特別講演1題および一般講演17題の発表が行われました。
特別講演では、山梨大学の綿打敏司教授による「合成結晶研究の歩みと最新の結晶合成の紹介~クリスタル科学研究センターの功績と最新の話題~」が行われました。

特別講演中の綿打教授
特別講演中の綿打教授
講演風景
講演風景

一般講演の内訳は、カラーストーン関連9題、真珠関連4題、ダイヤモンド関連2題およびその他2題でした。
当社からは、江森健太郎所員(本社・リサーチ室)による「LA-ICP–MSによる微量元素測定と三次元プロットを用いたルビーとブルーサファイアの産地鑑別について」と、久永美生所員(本社・リサーチ室)による「Ⅰb型黄色~褐黄色のCVD合成ダイヤモンド」の2題が報告されました。

研究報告をする江森所員
研究報告をする江森所員
研究報告をする久永所員
研究報告をする久永所員
座長を務める北所員
座長を務める北脇所員

昨年度に引き続き、本年度の一般講演でも、鉱物学的な考察や新しい鑑別方法の提案だけでなく、人工結晶、ジュエリーを使用する上での耐久性に関する考察や、歴史、輝きの測定等、「宝石」をテーマに、多方面からのアプローチがされていました。改めて「宝石学会」が網羅する領域の広さを実感することができた講演会でした。

学会奨励賞
当社の久永美生所員が、ダイヤモンドの成長履歴に関する研究において優れた発表を続けていることが評価され、学会奨励賞を受賞しました。
本年度の学会奨励賞受賞者は、福田千紘氏(ジェムリサーチジャパン株式会社)との2名でした。

学会奨励賞を受賞した久永所員
学会奨励賞を受賞した久永所員

懇親会
講演会終了後は、古名屋ホテルにて懇親会が行われました。他の出席者の方々との交流がはかれ、有意義な時間を過ごすことができました。

懇親会の様子
懇親会の様子

見学会
見学会では、特別講演を行った綿打教授が在籍する「山梨大学工学部クリスタル科学研究センター」をはじめ、近隣の宝石関連博物館を訪れました。宝石加工・研磨や貴金属加工等、ジュエリー関連産業が集中する山梨県での開催とあって、見学した施設がどれも大変素晴らしかったことが印象的でした。

山梨大学工学部クリスタル科学研究センター
山梨大学工学部クリスタル科学研究センター
浮遊帯域(FZ)法合成装置
浮遊帯域 ( FZ ) 法合成装置

○山梨大学工学部クリスタル科学研究センター
天然の鉱物・宝石を人工合成する研究施設として、1962年に創立。地元業界との密接な交流を基に、その発展に貢献するとともに、人工鉱物として位置付けられる無機材料に関する最新の研究が行われています。今回は、特別講演で紹介された合成結晶や、それを生成する浮遊帯域(FZ)法合成装置を視察しました。

○山梨宝石博物館
宝石で名高い山梨県に創立された国内で唯一の宝石博物館。
原石、カット石、ジュエリー製品や彫刻作品に至るまで、約500種3,000点のコレクションが収集されています。

山梨宝石博物館
山梨宝石博物館
館内の様子
館内の様子

○象牙彫刻美術館
甲府盆地が一望できる丘の上に立つ美術館。
象牙を用いた細密彫刻やシベリアから発掘された5万年前のマンモスの牙等、約300点もの美術品が展示されています。

象牙彫刻美術館のある総合施設入口
象牙彫刻美術館のある総合施設入口

○山梨県立宝石美術専門学校附属ジュエリーミュージアム
(通称:山梨ジュエリーミュージアム)
山梨県におけるジュエリー産業の発祥と歴史、受け継がれてきた加工技術等が実演を含めて大変分かりやすく展示されていました。
期間限定の企画展では、「イメージをまとう  -  モチーフジュエリーの魅力-  」が開催されていました。◆

山梨ジュエリーミュージアム
山梨ジュエリーミュージアム

第9回NDNC国際会議 2015に参加して

2015年9月No.28

リサーチ室 北脇  裕士

去る 5月24日(日)~28日(木)にGRANSHIP(静岡コンベンション&アーツセンター)にて表題の国際会議が開催されました。リサーチ室より筆者が参加しましたのでご報告いたします。
NDNC(New Diamond and Nano Carbons)は2007年にICNDST (International Conference for Diamond Science and Technologies)とADC(Applied Diamond Conference)が統合されて新たに創設された学会です。ダイヤモンドの気相合成に始まり、ナノチューブ、フラーレン、グラフェンといったナノ構造的に新しい炭素も対象に盛り込まれています。創設第1回目の会議は2007年に大阪で開催されており、以降台湾(2008)、米国(2009)、中国(2010)、松江(2011)、米国(2012)、シンガポール(2013)、米国(2014)と開催されています。

今回の第9回会議は4年ぶりに日本での開催となりました。国内はもとより、台湾、中国、韓国などのアジア諸国に加え米国、ドイツ、ロシア、オーストラリア、フランスなど24か国から293名が参加しました。招待講演は15講演あり、口頭発表は総計で90に及びました。また、ポスター発表も147件行われました。各演題は結晶成長、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、グラフェン、ディテクター(検出器)、NVセンタ、デバイス、ナノダイヤモンドなど24のセッションに振り分けられ、ダイヤモンドに関する幅広い分野での最先端の研究成果が披露されました。
本年はジェモロジーのセッションも設けられており、ここで3題の口頭発表と1題のポスター発表が行われました。ここでの発表内容を以下に簡単にご紹介します。

IIa Technologies Pte Ltd., Singaporeの C.M. Yap氏は13Cに富むCVD単結晶合成ダイヤモンドの性質について講演されました。GIAのW. Wang氏は炭素同位体の分析により天然Ⅱ型ダイヤモンドとCVD合成が識別できることを紹介されました。これは天然ダイヤモンドとCVD合成では炭素の同位体比に違いがあるためですが、製造者があえて天然と同じ同位体比の原料を用いると区別ができなくなります。
GIAのU. F. S. D’Haenens–Johansson氏は高濃度のSiVを有するCVD合成ダイヤモンドについて講演されました。その中でSiV0/–センターのフォトクロミズムにより褐ピンク色~青色の色変化が生じることを報告されました。また、ポスター発表ではGIAのS. Odake氏が超高圧下(16GPa)における天然Ⅱ型ダイヤモンドのHPHT処理実験の結果を紹介されました。処理後にGR1の半値幅がやや小さくなるものの、一般的なHPHT処理と大きな変化は見られなかったと報告されました。
次回のNDNC2016は中国の西安で開催されることが決定されています。◆

写真1:会場となったGRANSHIP (静岡コンベンション&アーツセンター)
写真1:会場となったGRANSHIP
(静岡コンベンション&アーツセンター)
写真2:NDNC2015のインフォメーション
写真2:NDNC2015のインフォメーション

ICA Congress 参加報告

2015年9月No.28

リサーチ室 江森 健太郎、北脇 裕士

去る5月15日(金)から19日(火)にかけてスリランカのコロンボにてICA Congress2015が開催されました。CGLリサーチ室より2名が参加し、主任研究員の江森が招待講演を行いました。また、Congress終了後にラトナプラ、ベルワラのサファイア鉱山とマーケットを視察する機会を得ましたので合わせてご報告いたします。

ICA Congress
ICA Congress
ICA Congressで発表を行う江森所員
ICA Congressで発表を行う江森所員
ICA Congress 2015

ICA(International Colored Gemstone Association)は1984年に設立された色石についての知識と認識を促進するための非営利団体で、現在47ヶ国600人の宝石ディーラー、カッター、鉱夫と小売業者から成っています。色石についての国際的なコミュニケーション、取引を改善し、ビジネスのための一般的な用語統一のため、ICAの世界的なネットワークが機能しています。
ICA Congressは2年に1度開催されるICA主催の国際会議で、本年はスリランカで開催されました。会場となったのはコロンボの格式のある「Cinnamon Grand」ホテルです。会議期間中は、世界中の著名な宝石鑑別ラボやICAの主要メンバーによる招待講演、そしてGem Show、会員間の交流を深めるスポーツ大会などが行われました。 Congress後にはPost Congress (会議後の巡検)として、5/20~5/26にスリランカの主要な鉱山等を回るツアーが企画されていました。CGLからは北脇裕士と江森健太郎が参加し、江森が「Beryllium-Diffused Corundum in the Japanese Market and Assessing the Natural vs. Diffused Origin of Beryllium Sapphires」(日本市場におけるBe拡散処理コランダムの現状と天然起源のBeを有するサファイアとの識別)というタイトルで講演を行いました。

Sri Lanka 鉱山ツアー

ICA Congress終了後、 ICA主催のPost Congressとは別にベルワラのマーケット、加熱処理現場、ラトナプラの鉱山を視察する機会を得ました(すでにスリランカ宝石最新事情についての詳細な情報はCGL通信11号(https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/11/12.html)に掲載されておりますのでご参照ください)。

加熱に使用するガス炉
加熱に使用するガス炉

○ ベルワラのガス炉による加熱処理現場

ベルワラはコロンボの南方およそ60kmに位置する中規模の都市で、重要な宝石マーケットとして古くから知られています。我々はまず初めにベルワラでコランダムの加熱を行っている処理業者を訪ね、彼らが使用しているガス炉を見せていただき、詳しい説明を聞くことができました。ガス炉では1600°C〜1900°Cの温度範囲で加熱することで、ギウダの処理を行っています。ブルーやパパラチャなどの色の違いにより加熱の手法が異なるのはもちろんのこと、同じブルーでも原石がマダガスカル産なのかスリランカ産なのかによっても異なるそうです。ギウダとひとことで言ってもディーゼル、シルキー、ミルキー、オットゥなどその原石の性質に応じて細かく区別され、加熱の手法(加熱温度、時間、酸化なのか還元なのかなど)も異なります。また、ガス炉で加熱したのちに、ある種のサファイアは電気炉を用いて再加熱を行っているとのことでした。

ブルーサファイアは還元雰囲気で加熱する必要があるため、炭素を使用します。その結果炉内は黒色になります。
ブルーサファイアは還元雰囲気で加熱する必要があるため、炭素を使用します。その結果炉内は黒色になります。
また、酸化雰囲気で加熱するために使用される炉は炭素を使用しないため、炉は白いままになります。
一方、酸化雰囲気で加熱するために使用される炉は炭素を使用しないため、炉は白いままになります。

○ ベルワラのマーケット

次にベルワラのマーケットへ市場調査に行きました。ベルワラの市場では早朝から夕方(18時頃)まで取引が行われています。5000人におよぶディーラーそして100近いオフィスがあるそうで、コロンボの有名なディーラーはベルワラにもオフィスを構えている人が多いとのことでした。ここにはスリランカ産だけではなく、アフリカ、その他世界中の産地のサファイアが集まります。オフィスの中には次々にサファイアを持ったディーラーが集まり、入れ替わり立ち代わりで非常に活発な取引が行われていました。

取引では、非加熱、加熱、Be拡散処理などが明確に開示されており、買い手はその情報をもとに慎重に品定めをします。また、産地に関してもスリランカ産、マダガスカル産など適宜情報開示がなされていました。

ベルワラのマーケット、路上の様子。ディーラーで道が埋め尽くされてしまうくらい多くのディーラーが集まっています。
ベルワラのマーケット、路上の様子。ディーラーで道が埋め尽くされてしまうくらい多くのディーラーが集まっています。
オフィス内部の様子。サファイアを持ったディーラーが次々に入ってきて商談が行われます。
オフィス内部の様子。サファイアを持ったディーラーが次々に入ってきて商談が行われます。
い付けの様子。売り手の情報開示の下、慎重に品定めをする。
買い付けの様子。売り手の情報開示の下、慎重に品定めをします。

○ Blow pipe(吹管)を用いた加熱処理

ラトナプラでは、伝統的な加熱手法であるBlow pipeを用いてルビーを加熱する現場と研磨作業を視察することができました。 Blow pipeはスリランカにおける伝統的なコランダムの加熱方法で、主にルビーの色調を改善し、内在する青味を除去するために行っています。ルビーを一粒ずつ練った石灰で包んでボールを作り、炭火の中に入れ、Blow pipeで火をあおりつつ、1時間ほど加熱します。そして焼けた石灰を割り、ルビーを取り出します。この手法では1000°Cまでしか温度は上がらないといわれています。

Blow pipeによる加熱処理を行っている様子
Blow pipeによる加熱処理を行っている様子
ルビーの研磨を行なっている様子
ルビーの研磨を行なっている様子

○ ラトナプラでの鉱山視察

ラトナプラは現地語で”宝石の街”を意味します。ラトナプラは平坦な農耕地で、その地下にイラム層と呼ばれる宝石を含有した砂利層が存在します。スリランカで商業的に採掘がおこなわれているのは、ほとんどが漂砂鉱床(第二次鉱床)で、多くが縦穴掘り方式でイラム層を採掘しています。また、付近の川からmammoties(マッモティーズ)という棒を用いて川底を直接さらうことによる採取も行われています。我々も今回の視察で、縦穴掘り方式の採掘法や川底からの採取を視察することができました。

農耕地の中に縦穴式の鉱山があちこち点在しています。
農耕地の中に縦穴式の鉱山があちこち点在しています。
縦穴の下から宝石を人力で汲み上げる鉱夫
縦穴の下から宝石を人力で汲み上げる鉱夫
縦穴内部
縦穴内部
川底から汲み上げて採取している様子
川底から汲み上げて採取している様子
採掘した砂利から、パニングを行い、サファイアを探します。
採掘した砂利から、パニングを行い、サファイアを探します。

○ ラトナプラの原石マーケット

最終日、我々はラトナプラの原石マーケットを視察しました。ここはカットされたサファイアではなく、原石のサファイアのみを扱うマーケットで、オフィス等を使用せずに公園のような場所で直接取引が行われます。ざっと見たところ200名ほどのディーラーが集まっているようでした。

ラトナプラの原石マーケット。公園のような場所で活発な取引が行われていました。
ラトナプラの原石マーケット。公園のような場所で活発な取引が行われていました。
原石マーケットでの取引の様子。立っていると次々に原石が入ったパーセルを開いたディーラーがやってきます。
原石マーケットでの取引の様子。立っていると次々に原石が入ったパーセルを開いたディーラーがやってきます。◆