2016年11月14日(月)~15日(火)の2日間、GIT2016 The 5th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)がタイのパタヤで行われました。本会議には当研究所から4名が参加し、1名が口頭発表を行いました。以下に概要をご報告致します。先に発行されましたCGL通信No.36ではPre-Conference Excursion(本会議前の原産地視察)の報告がされています。
GIT 2016とは
International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)はGIT(The Gem and Jewelry Institute of Thailand)が主催する国際的に有数の宝飾関連のカンファレンスの一つです。2006年に第1回が開催され、今回2016年11月に第5回目としてGIT 2016が開催されました。
GITはLMHC(ラボマニュアル調整委員会)にも属する国際的に著名な宝石検査機関であり、CGLと科学技術に関する基本合意を締結し、密接な技術交流を行っています。本カンファレンスはGITが主催していますが、タイの商務省等が後援しており国を挙げての国際会議ともいえます。本会議運営のため、15ヵ国36名の国際技術委員会が結成され、CGLの堀川洋一もその一役を担いました。
本会議
本会議はパタヤ市内のZign Hotelが会場となり、世界22ヵ国から300名を超える参加者が集いました。また、開催地であるタイ王国は2016年10月13日のラーマ9世(チャクリー王朝第9代のタイ国王)の崩御が記憶に新しく、亡き国王への敬愛の深さから死を悼む表示が空港、各街のいたるところに見かけられました。この厳かな雰囲気と国民の服喪期間はGIT 2016にも影響が出ており、特設ウェブサイトは白黒基調、このカンファレンスの開会に際しても国王の偉業を思いだすVTRが流され、私達出席者も皆、哀悼の意を示しました。日常的にみられることはないであろう黒い装いのGITスタッフ一同の姿が印象的でした。
開会式の挨拶の後、8件の基調講演と招待講演の他、30件の一般講演が行われました。各種宝石素材についての発表、カットの重要性の再考と評価システムについての検討、ファッション業界の流行を意識したカラー/テイストのトレンド紹介等様々な切り口の発表がありました。CGLからは江森が一般講演「Gem Deposits & Identification」のセッションにおいて、「Identification between natural and synthetic amethyst using discriminant analysis」という題で発表を行いました。
2016年11月16日(水)〜 16日(金)の3日間、GIT 2016 The 5th International Gem and Jewelry Conference (国際宝石宝飾品学会)のPost–Conference Excursion(本会議後の原産地視察)として、タイのチャンタブリ、トラットの鉱山ツアーが行われました。タイの宝飾用コランダム鉱床は、バンコク南東方のチャンタブリ県(Chanthaburi)タマイ市からトラット県(Trat)ボ・ライ町(Bo Rai)、バンコク西方のカンチャナブリ県(Kanchanaburi)ボ・プロイ町(Bo Phloi)周辺、タイ東部コラート高原のシサケット県(Sisaket)からスリン県(Surin)にかけて発達し、盛んに採掘され世界的な産地となっています。このうち、チャンタブリ~トラット地区から産するルビーは、世界の高品質ルビーの多くを占めていると言われており、今回はそのトラット地区の鉱山を数箇所見学することができました。
CGLからは2名参加し、鉱山の状況を視察することができました。以下に概要を報告致します。
ジェムマーケットのすぐ近くにはThe Cathedral of the Immaculate Conception(チャンタブリ処女降誕聖堂)という教会があります(図23)。300年以上前に建てられたタイで最も大きく美しい教会でベトナム人から寄贈されました。教会の中にはサファイアで飾られた聖母マリア像があり(図24)、礼拝中でしたので遠くからしか眺められませんでしたが、とても綺麗でした。
この後、昼食をとり、GIT のPornsawat Wathanakul代表からのご挨拶があり、帰路につきました。◆
去る2016年11月9日(水)~13日(日)の5日間、GIT 2016 The 5th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石宝飾品学会)のPre–Conference Excursion(本会議前の原産地視察)として、ミャンマーのモゴック鉱山ツアーが行われました。CGLからは著者が参加し、最新のモゴック鉱山の状況を視察することができましたので以下に概要を報告致します。
次に訪れたのは、Pyaung Gong VillageにあるPurifie Mineというペリドット鉱山(図13)です。ミャンマー語でペリドットは”Pyaung Gong Sein”と言います(Seinはミャンマー語で”緑”という意味)。ダイナマイトを使用して坑道を掘り進め(図14)、ペリドットを採掘するという手法で採掘が進められています。
最後に我々が訪れたBaw Ba Tan鉱山はRuby Dragonと政府の鉱山省が合弁して採掘を行っている大規模な鉱山で、1996年より採掘を行っています(図23)。この鉱山は67エーカー(約27万平方メートル)に200人の労働者が8時間シフト(6時〜14時、14時〜22時)で採掘を行っています。現在、地下1140フィート(約350メートル)まで掘り進めていますが、一番よい品質のものが採掘されたのは地下900フィート(約275メートル)とのことでした(図24)。◆
河南省力量新材料有限公司(Henan Province Liliang New Materials Co.,Ltd)は、2010年に設立された新興の会社で主にダイヤモンドの微粉末を製造していました。目覚しい技術革新によって高品質の単結晶が育成できるようになり、2015年に社名を河南省力量钻石股份有限公司(Henan Liliang Diamond Co.,Ltd)に改名しました。2014年以降、宝飾用の無色合成ダイヤモンドを製造しており、その生産量は中国において上位4社に入る勢いです。同社の邵增明(Shao Zengmin)社長の招待により、今回の筆者の訪問が実現しました(Fig.5)。
日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Sciences)は平成19年9月に日本鉱物学会と日本岩石鉱物鉱床学会の2つの学会が統合・合併され発足し、現在は大学の研究者を中心におよそ1000名の会員数を擁しています。日本鉱物科学会は鉱物科学およびこれに関する諸分野の学問の進歩と普及をはかることを目的としており、「出版物の発行(和文誌、英文誌、その他)」、「総会、講演会、研究部会、その他学術に関する集会および行事の開催」、「研究の奨励および業績の表彰」等を主な事業として活動しています。今年、2016年は総会にて「日本の石(国石)」を決定する選挙を行いました。
参考文献
文献1: Shigley J. E., Laurs B. M., Janse A. J. A., Elen S., Dirlam D. M., 2010, Gem localities of the 2000s,
Gems & Gemology, vol. 46, No.3, pp. 188–216
文献2:Kitawaki H., 2002, Natural amethyst from the Caxarai Main, Brazil, with a spectrum containing an
absorption peak at 3543cm–1, Journal of Gemmology, vol. 28, No2, pp101–108
文献3: JCK Magazine, 1998, Buying Amethyst Today, JCK Magazine, 1998, January 1
文献4: Borenstein G., 2010, Visual Characteristics of synthetic quartz, THE VALUER, April – June 2010,
p.2–6
文献5: Hainschwang T.. 2009, The synthetic quartz problem, Gem Market News, January/February 2009,
p.1–5
文献6:Breeding C. M., 2009, Using LA–ICP–MS analysis for the separation of natural and synthetic
amethyst and citrine., News from Research, July 31, 2009.,
http://www.gia.edu/research–resources/news–from–research
文献7:Blodgett T., Shen. A., 2011, Application of discriminant Analysis in gemology: country–of–origin
separation in colored stones and distinguishing HPHT–treated diamonds, Gems & Gemology, Summer 145
文献8:Luo Z., Yang M., Shen A., 2015, Origin determination of dolomite–related white nephrite through
iterative–binary linear discriminant analysis, Gems & Gemology, Fall 300–311◆
NDNC(New Diamond and Nano Carbons)は2007年にICNDST (International Conference for Diamond Science and Technologies)とADC(Applied Diamond Conference)が統合されて新たに創設された国際学会です。ダイヤモンドの気相合成に始まり、ナノチューブ、フラーレン、グラフェンといったナノ構造的に新しい炭素も対象に盛り込まれています。創設第1回目の会議は2007年に大阪で開催されており、以降台湾(2008)、米国(2009)、中国(2010)、松江(2011)、米国(2012)、シンガポール(2013)、米国(2014)、そして昨年は静岡で開催されています。日本からはニューダイヤモンドフォーラム(http://www.jndf.org/)の会員が中心となって本会をサポートしています。
筆者は一般講演において宝飾用のメレサイズの合成ダイヤモンドの現状について報告しました。概要については既報のCGL通信No.30とNo.32をご覧ください。その他に宝石関連としてはGIAのW. Wang氏による口頭発表と同じくGIAのU. F. S. D’Haenens–Johansson氏によるポスター発表がありました。これらの発表内容を以下に簡単にご紹介します。
GIAのW. Wang氏は[Si–V]−センタの天然と合成に見られる分布の相違について報告されました。[Si–V]−センタはフォトルミネッセンス分析で736. 6と736.9nmにダブレットのピークを示します。宝石学においてはCVD合成ダイヤモンドの識別特徴として良く知られています。しかし、天然でも稀に見られることがあり、最近はHPHT合成でも確認されています。Ⅱ型の天然ダイヤモンドでは3%以下に見られ、しばしばオリビンの包有物を伴っています。[Si–V]−をマッピングしても分布は不規則でGR1(空孔)の分布とも関連が見られませんでした。HPHT合成では{111}セクターの境界付近にのみ分布していることが確認されました。また、CVD合成では分布は不規則ですが、マルチステップ成長をしたものでは{100}成長方向に平行に分布していると報告しました。
GIAのU. F. S. D’Haenens–Johansson氏は天然と合成のⅡ型ダイヤモンドの成長特徴をCLとUVによるルミネッセンス像から検討しました。ダイヤモンド中の不純物や欠陥の分布は成長やその後に蒙った塑性変形などの影響を受けています。これらの履歴を観察するために宝石学分野ではDiamond View™が用いられており、天然・合成起源の判別に役立てられています。GIAではUVを用いたDiamond View™に加えて電子顕微鏡によるCLも研究に用いています。天然Ⅱ型ダイヤモンドは塑性変形により線状やネットワーク状のディスロケーションパターンが見られ、成長分域は観察されません。いっぽうHPHT合成では六–八面体の成長分域構造が明瞭でディスロケーションはほとんど見られません。CVD合成ではステップフロー成長のためストリエーション(線模様)が観察されます。また、ディスロケーションも発達しており、観察する方向によっては未熟なオペレーターは天然Ⅱ型と誤認する恐れがあると報告しました。
今回のNDNC国際会議は2010年に次いで6年ぶりに中国での開催となりましたが、次回のNDNC2017はオーストラリアのケアンズ(Cairns)で開催されることが決定しています。◆
札幌農学校初代教頭であるウィリアム・スミス・クラーク(マサチューセッツ農科大学前学長)が米国帰国にあたり、札幌近くの島松で馬上から叫んだという「Boys, be ambitious.」は現在でも北海道大学のモットーとして受け継がれており、フロンティア精神、実学の重視、全人教育、国際性の涵養等を建学理念とし、現在も基本理念として掲げられています。
また、今回会場として使用した鈴木ホールは、2010年に芳香族化合物の合成法としてしばしば用いられる反応のひとつである「鈴木・宮浦カップリング」という合成法を編み出したことでノーベル化学賞を受賞した北海道大学名誉教授である鈴木章名誉教授に因んで建築されたホールあり、会場には鈴木章名誉教授の銅像他、研究に関する展示が設営されていました。