cgl のすべての投稿

GIT 2016参加報告

2017年3月No.37

教育部 野田  真帆、リサーチ室 江森  健太郎

2016年11月14日(月)~15日(火)の2日間、GIT2016 The 5th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)がタイのパタヤで行われました。本会議には当研究所から4名が参加し、1名が口頭発表を行いました。以下に概要をご報告致します。先に発行されましたCGL通信No.36ではPre-Conference Excursion(本会議前の原産地視察)の報告がされています。

GIT 2016とは

International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)はGIT(The Gem and Jewelry Institute of Thailand)が主催する国際的に有数の宝飾関連のカンファレンスの一つです。2006年に第1回が開催され、今回2016年11月に第5回目としてGIT 2016が開催されました。
GITはLMHC(ラボマニュアル調整委員会)にも属する国際的に著名な宝石検査機関であり、CGLと科学技術に関する基本合意を締結し、密接な技術交流を行っています。本カンファレンスはGITが主催していますが、タイの商務省等が後援しており国を挙げての国際会議ともいえます。本会議運営のため、15ヵ国36名の国際技術委員会が結成され、CGLの堀川洋一もその一役を担いました。

本会議

本会議はパタヤ市内のZign Hotelが会場となり、世界22ヵ国から300名を超える参加者が集いました。また、開催地であるタイ王国は2016年10月13日のラーマ9世(チャクリー王朝第9代のタイ国王)の崩御が記憶に新しく、亡き国王への敬愛の深さから死を悼む表示が空港、各街のいたるところに見かけられました。この厳かな雰囲気と国民の服喪期間はGIT 2016にも影響が出ており、特設ウェブサイトは白黒基調、このカンファレンスの開会に際しても国王の偉業を思いだすVTRが流され、私達出席者も皆、哀悼の意を示しました。日常的にみられることはないであろう黒い装いのGITスタッフ一同の姿が印象的でした。
開会式の挨拶の後、8件の基調講演と招待講演の他、30件の一般講演が行われました。各種宝石素材についての発表、カットの重要性の再考と評価システムについての検討、ファッション業界の流行を意識したカラー/テイストのトレンド紹介等様々な切り口の発表がありました。CGLからは江森が一般講演「Gem Deposits & Identification」のセッションにおいて、「Identification between natural and synthetic amethyst using discriminant analysis」という題で発表を行いました。

江森所員による発表
江森所員による発表

また、GIT 2016会場の一部に設けられたポスター・セッションでは、開催中は自由に研究の成果を見ることができますが、コアタイムにおいて、発表者から直接研究内容を聞くことができます。各種トピックについて質疑応答が盛んに行われている様子は、このようなカンファレンスならではの光景です。

ポスターセッションの様子
ポスターセッションの様子
MOU Signing セレモニー

GIT 2016開催期間中にMOU Signing (Memorandum of Understanding Signing)と言われる企業間における了解覚書/基本合意の調印が3件執り行われました。GITと当社との間では業務提携の一環として、共同ブランディング鑑別書(海外向け)を発行する調印式を行い、常務取締役 堀川洋一が代表出席・署名を行いました。組織間の技術協力・業務提携における基本合意はCGLとGITのよりよい前途を示すものとして印象付けられました。鑑別・研究最前線に立つもの同士の国境を越える協力関係と相互理解はこれからの時代に必要不可欠なものと認識しております。

MOU Signingセレモニーの様子
MOU Signingセレモニーの様子
調印に参加したその他関係各社との集合写真
調印に参加したその他関係各社との集合写真

国際学会の本質的な開催意義は宝石・宝飾品に関する多様な研究分野での成果を発表することにあります。定期的に開催されるGIT 2016のような国際学会では、国際交流を通して多くの方々と意見交換を行ったり、宝飾業界に従事する者同士で、ある特定のテーマに関して共通の認識を持つように働きかけたりと、参加することで個人・組織が前進的な刺激に触れることができます。中央宝石研究所も国内のみならず、このような国際学会に積極的に参加することで新たな研究成果を発表・情報発信に努めております。◆

GIT2016 Post-Conference Excursion 参加報告

2017年3月No.37

東京支店 雨宮  珠実

2016年11月16日(水)〜 16日(金)の3日間、GIT 2016 The 5th International Gem and Jewelry Conference (国際宝石宝飾品学会)のPost–Conference Excursion(本会議後の原産地視察)として、タイのチャンタブリ、トラットの鉱山ツアーが行われました。タイの宝飾用コランダム鉱床は、バンコク南東方のチャンタブリ県(Chanthaburi)タマイ市からトラット県(Trat)ボ・ライ町(Bo Rai)、バンコク西方のカンチャナブリ県(Kanchanaburi)ボ・プロイ町(Bo Phloi)周辺、タイ東部コラート高原のシサケット県(Sisaket)からスリン県(Surin)にかけて発達し、盛んに採掘され世界的な産地となっています。このうち、チャンタブリ~トラット地区から産するルビーは、世界の高品質ルビーの多くを占めていると言われており、今回はそのトラット地区の鉱山を数箇所見学することができました。
CGLからは2名参加し、鉱山の状況を視察することができました。以下に概要を報告致します。

ボ・ライ周辺地図
ボ・ライ周辺地図
Trat – Chanthaburi

11月16日(水) 午前7時に、先日まで本会議が行われていたPataya Zign Hotel(図1) を出発し、2台の大型バスに乗りトラットに向かいました。

図1.Pataya Zign Hotel
図1.Pataya Zign Hotel
図2.チャンタブリに向かう街並み
図2.チャンタブリに向かう街並み

トラット地区の鉱山に向かう途中、小型バスに乗り換えBankaja鉱山に着きました。この日は鉱山のオーナーのご親族が亡くなられたとのことで、実際に機械を動かすところは見ることができませんでしたが、GIT のアカデミックアドバイザーのDr. Visut Pisutha Arnondから採掘方法を説明して頂きました。

図3.Bankaja 鉱山
図3.Bankaja 鉱山

水を入れ、周りの土を崩して掘り出したものを水と一緒にパイプを通して選別機に移動させます。
上から水と一緒にコランダムを含んだ土が左右に揺られながら下に(図5は図4の左側の部分)に落ちていき、比重の軽いものは途中に残り、コランダムのような比重の重いものが下まで運ばれます。採掘が全て終わった後は土を全て元に戻すそうです。

図4.選別機
図4.選別機
図5.選別機の最終部分
図5.選別機の最終部分
Chanthaburi Gem and Jewelry Museum

Bankaja鉱山を出た後、チャンタブリ市立の宝石宝飾博物館(図6・7)を見学しました。博物館の中には各国の宝石の原石や様々な王冠(レプリカ)が展示されていました。

図6.チャンタブリの宝石宝飾博物館
図6.チャンタブリの宝石宝飾博物館
図7.チャンタブリ宝石宝飾博物館に展示されていた タイの国旗をルビーとサファイアで作ったもの
図7.チャンタブリ宝石宝飾博物館に展示されていた
タイの国旗をルビーとサファイアで作ったもの
World Sapphire Co., Ltd.

チャンタブリ宝石宝飾博物館を見学した後、World Sapphire社を見学しました。ここには各国のサファイアの産地にオーナー自らが出向き収集してきたものが産地別に分けられて展示してあり、また2階にはカットや選別をする部屋がありました。私たちはサファイアのギャラリーと選別の様子を見せて頂きました。

図8.World Sapphire社
図8.World Sapphire社
図9.World Sapphire社にあるギャラリー
図9.World Sapphire社にあるギャラリー
図10–1.展示されているサファイア
図10–1.展示されているサファイア
図10–2.展示されているサファイア
図10–2.展示されているサファイア
図11–1.World Sapphire社の2階にある振り分けの部屋を見学。女性がカットする前の石を大きさ、形、色により選別している
図11–1.World Sapphire社の2階にある振り分けの部屋を見学。女性がカットする前の石を、大きさ、形、色により選別している
図11–2.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
図11–2.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
図11–3.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
図11–3.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
図11–4.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
図11–4.World Sapphire社の2階にある振り分け部屋
Wat San Too , Trat

2016年11月17日(木)、ワット・サン・トゥーの柱状節理(※)を見た後(図13)、ボ・ライにある博物館を見学し、その後鉱山見学、また川で鉱物の採集を体験しました。
※「柱状節理」:玄武岩質の火成岩などに見られる柱状の規則性のある割れ目のこと。断面は六角形となることが多い。
マグマが冷却する過程で体積が収縮するために生じる。

図12.車窓から見えたエビの養殖場
図12.車窓から見えたエビの養殖場
図13–1.ワット・サン・トゥーの柱状節理
図13–1.ワット・サン・トゥーの柱状節理
図13–2.ワット・サン・トゥーの柱状節理を反対側から眺める参加者
図13–2.ワット・サン・トゥーの柱状節理を反対側から眺める参加者
Gem City

ジェム・シティに着くと、トラットの副知事の歓迎の挨拶を受けました。
博物館の中には鉱物の採掘から処理、カット、売買までが本物と見分けがつかないほどのリアルな蝋人形で作られており、GITのPornsawat Wathanakul代表が写真に入っていても見分けがつかないほどです(図15–6)。展示スペースを抜けると原石から枠のついたものまで販売するコーナーが設けられていました。

図14.ジェム・シティの外観
図14.ジェム・シティの外観
図15 – 1.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 1.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 2.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 2.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 3.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 3.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 4.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 4.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 5.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 5.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 6.蝋人形による採掘から売買まで
図15 – 6.蝋人形による採掘から売買まで(手前に座っているのがGIT・Pornsawat Wathanakul代表)
図16–1.販売している石
図16–1.販売している石
図16–2.2200 x 250と書かれているのは 2200ct x 250バーツ/ctの意味
図16–2.2200 x 250と書かれているのは 2200ct x 250バーツ/ctの意味
Trat, Bo Rai鉱山

ジェム・シティ見学後のボ・ライ鉱山では、オーナーもいらしたので採集させてもらうことができました。ボ・ライ鉱山は何十年も前にルビーとサファイアの鉱床として有名だった所です。採掘量はかなり減りましたが現在も重要な資源である事に変わりありません。ボ・ライにあるHua Tung Gems マーケットは現在も取引が行なわれていますが、全盛期ほど買い物客は集っていません。ただ、宝石学的調査が進めば、新しい鉱床が見つかる可能性もある場所です。

図17–1.ポンプで水とともに土、石が運ばれ、比重により振り分けられて溜まったものを屋根の下で拾う
図17–1.ポンプで水とともに土、石が運ばれ、比重により振り分けられて溜まったものを屋根の下で拾う
図17–2.ポンプで水とともに土、石が運ばれ、比重により振り分けられて溜まったものを屋根の下で拾う
図17–2.ポンプで水とともに土、石が運ばれ、比重により振り分けられて溜まったものを屋根の下で拾う
図18.参加したメンバー。中央の一番後ろに立つ帽子の方がこの鉱山のオーナー
図18.参加したメンバー。中央の一番後ろに立つ帽子の方がこの鉱山のオーナー
ボ・ライ鉱山の漂砂鉱床

同じボ・ライ鉱山からの石が川に流れた二次鉱床 で採集しました(図19)。すでに川岸では採れないため、現地の人が川の中央から川底の石を持ってきてくれたものをザルで洗い、その中から拾いました。

図19–1.ボ・ライ漂砂鉱床での採集
図19–1.ボ・ライ漂砂鉱床での採集
図19–2.ボ・ライ漂砂鉱床での採集
図19–2.ボ・ライ漂砂鉱床での採集
Chanthaboon–Water front

2016年11月18 日(金)、チャンタブーンのジェムマーケットを見学しました。マーケットの近くの川沿いにはタイとベトナムの人が半々くらいで住んでいるそうです(図20)。

図20–1.川沿いの集落
図20–1.川沿いの集落
図20–2.川沿いの集落
図20–2.川沿いの集落

ジェムマーケットの街の一角で路上にテーブルを出している店と、屋内のみの店がありました(図21)。想像とは異なり、テーブルの上には何もなく顧客の要望ににより石を出すため、バンコクの街中で思ったものが手に入らなかった人がここに来て必要なものを買うそうです。中には観光客目当てに近づいて路上で石を売る人もいました。

図21–1.ジェジュマーケットの様子
図21–1.ジェムマーケットの様子。路上の店
図21–2.ジェジュマーケットの様子
図21–2.ジェムマーケットの様子
図21–3.ジェムマーケットの店舗
図21–3.ジェムマーケットの屋内の店舗
図22.観光客に群がる宝石業者
図22.観光客に群がる宝石業者
The Cathedral of the Immaculate Conception

ジェムマーケットのすぐ近くにはThe Cathedral of the Immaculate Conception(チャンタブリ処女降誕聖堂)という教会があります(図23)。300年以上前に建てられたタイで最も大きく美しい教会でベトナム人から寄贈されました。教会の中にはサファイアで飾られた聖母マリア像があり(図24)、礼拝中でしたので遠くからしか眺められませんでしたが、とても綺麗でした。
この後、昼食をとり、GIT のPornsawat Wathanakul代表からのご挨拶があり、帰路につきました。◆

図23–1.チャンタブリ処女降誕聖堂
図23–1.チャンタブリ処女降誕聖堂
図23–1.チャンタブリ処女降誕聖堂
図23–2.チャンタブリ処女降誕聖堂
図24.サファイアで飾られた聖母マリア像
図24.サファイアで飾られた聖母マリア像

宝石学会(日本)シンポジウム報告

2017年1月No.36

リサーチ室 北脇  裕士

去る 2016年10月29日(土)にTKP上野ビジネスセンターにて宝石学会(日本)シンポジウムが開催されました。今回のテーマは「中国におけるダイヤモンドの高圧合成」で、中国吉林大学の賈暁鵬(Xiaopeng Jia) 教授が招聘されて講演されました。以下に概要をご報告します。

宝石学会(日本)は「科学者と、宝石界との良き協力関係を生み出し、両者が有無相通じ合うことによって宝石学を振興し、その成果を還元する公共的な媒体となる(趣意書の一部抜粋)」 ことを目的として、昭和49年(1974年)に設立されました。 以降、継続して毎年一回の講演会・総会が開催されています。2013年には評議員が改選され、新たな活動計画としてニュースレターの配布やシンポジウムの開催が発案されました。ニュースレターは2014年11月に第1号が発刊され、この原稿執筆時で既に第8号が発行されています。シンポジウムは2015年の12月に引き続いての開催となりました。

今回のテーマは「中国におけるダイヤモンドの高圧合成」です。最近、ジュエリーにも混入している合成ダイヤモンドのほとんどが中国製のHPHT合成ということもあって、きわめてタイムリーな話題といえます。

開会の挨拶をされる神田会長
開会の挨拶をされる神田会長

神田会長による挨拶と趣旨説明、そして賈暁鵬(Xiaopeng Jia) 教授の紹介が行われた後、筆者が「ジュエリー中の合成ダイヤモンド」と題して、現在の宝飾用合成ダイヤモンドの現状について以下のような前説をさせていただきました。

国内では昨年の9月以降、リングやペンダントなどのダイヤモンド・ジュエリーにHPHT合成が混入するという事例が見られるようになりました。海外においても同様で、中国深圳(シンセン)のNGTCラボからは昨年9月に検査したダイヤモンドのうち10%が合成であったと報告されています。このような合成石は中国で製造されたものと考えられており、ほとんどが0.01ct–0.1ctの小粒石です。これらの対策として種々の簡易的な判別機器が開発されており、判別器機の原理には主に2通りあります。ひとつはダイヤモンドの紫外線透過性に着目したもので、もうひとつは無色のHPHT合成ダイヤモンドの燐光を捕らえるものです。価格帯にはいろいろな選択肢がありますが、測定精度についても留意しておく必要があります。また、筆者は2016年3月に中国吉林大学に賈暁鵬(Xiaopeng Jia) 教授を訪ねておりますので、賈教授と国家重点実験室の施設についても紹介させていただきました。

講演中の賈暁鵬 教授
講演中の賈暁鵬 教授

続いて、中国吉林大学超硬材料国家重点実験室の賈暁鵬(Xiaopeng  Jia) 教授が「中国におけるダイヤモンドの高圧合成」のタイトルでおよそ80分の講演をされました。
賈教授は1980年代後半に来日され、90年代を日本で過ごされています。筑波大学で修士と博士の学位を取得され、外国人研究員として研究を続けられました。その後、無機材質研究所や金属材料技術研究所(どちらも現在の物質材料研究機構)で研究員として過ごされています。無機材質研究所時代には神田会長とも共同研究をされており、共著で論文発表もされています。その後、中国に帰国され、国家による特聘待遇により現職に就かれています。

賈教授の講演は通訳なしの日本語で行われました。そのため翻訳による時間のロスがなく、講演時間いっぱい熱弁をふるっていただけました。 まず、中国で発展してきた高圧装置について述べられました。中国では1964年に独自の立方体高圧装置(キュービック・プレス)が開発されましたが、その後しばらくは発展がありませんでした。しかし、1985年にピストンの直径が260-320mmのものが開発されると次第に大型化が進み、2000年以降はφ650、φ700などの大型プレスが次々と開発されました。この装置の大型化に伴い工業用の砥粒ダイヤモンドの生産も増加し、1990年代には年間生産量が1億ctであったものが、2015年には150億ctにまで達したそうです。
宝飾用に供される無色の単結晶ダイヤモンドは、2014年に鄭州華晶金剛石股份有限公司が2mm以下の結晶の量産を開始したのを端緒に複数の会社がそれに続きます。河南黄河旋風股份有限公司社では2015年前期から2~3mm程度の原石を量産しており、さらなる量産計画があるようです。現在、中国では宝飾用の合成ダイヤモンドの生産量が20万ct/月に達しているそうです。今後はさらに結晶の大型化が進むであろうと予測されていました。
賈教授の研究室でもさまざまな研究プロジェクトがあり、その一端をご紹介いただきました。高濃度の窒素を含有するⅠa型結晶の合成もそのひとつです。この話題は聴衆の興味を引き、その後の質疑応答の時間にいくつかの質問が寄せられていました。というのも、無色の合成ダイヤモンドは窒素を含有しないⅡ型であることが前提で種々の判別装置が作られているためです。ジェモロジストにとっては聞き逃せない話題であるわけです。賈教授の研究目的は、天然と判別できない宝飾用合成ダイヤモンドを作ることではなく、一般に合成よりも窒素濃度の高い天然ダイヤモンドの成因に関する地球科学的なアプローチです。 そして、このⅠa型ダイヤモンドの合成は実験室レベルの手法であり、量産できる技術ではありません。また、色も宝石に使用できる無色ではありません。したがって、現時点において日常の宝石鑑別における危惧はなさそうです。

講演会場の様子
講演会場の様子

さて、今回のシンポジウムでは質疑応答の時間が60分設けられており、聴衆からの質問に十分なディスカッションが行われました。合成方法や合成装置に関する技術的な話題になると、神田会長も自らマイクを持ちご自身の経験を踏まえたわかりやすい解説をされました。また、会場には賈教授の筑波大学時代の恩師である若槻雅男先生(筑波大学名誉教授)もお見えになっており、討論にご参加いただきました。若槻先生は1962年、東芝中央研究所時代に本邦で初めてのダイヤモンド合成を発表され、その後、筑波大学においてダイヤモンド合成法(触媒、結晶核形成制御、単結晶育成)と高温高圧発生制御に関する研究を精力的に遂行されてきた偉大な研究者です。多くの若手研究者を育成され、留学生らに対しても惜しみなく技術指導をされてきました。賈教授もその留学生の一人で、恩師との質疑応答にも筆者には非常にすばらしい師弟の信頼関係が見て取れました。
講演会の後、別室で懇親会が行われ、そこでも賈教授を囲んで活発な情報交換と参加者間の交流が行われました。◆

GIT 2016 Pre–Conference Excursion参加報告

2017年1月No.36

リサーチ室 江森  健太郎

去る2016年11月9日(水)~13日(日)の5日間、GIT 2016 The 5th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石宝飾品学会)のPre–Conference Excursion(本会議前の原産地視察)として、ミャンマーのモゴック鉱山ツアーが行われました。CGLからは著者が参加し、最新のモゴック鉱山の状況を視察することができましたので以下に概要を報告致します。

図1.世界的なルビーの原産地モゴック(2016年11月10日撮影)
図1.世界的なルビーの原産地モゴック(2016年11月10日撮影)
Pre–Conference Excursionとは

宝石や地質学関連の学術会議では、本会議の前後にタイプロカリティ(基準産地)や鉱山等を視察するツアーが組み込まれることがあります。GIT 2016ではPre–Conference Excursion(本会議前の原産地視察)として4泊5日でミャンマーのモゴック鉱山ツアーが行われ、スタッフを含む18名(ガイド除く)が参加しました(図2)。

図2.Pre–Conference Excursionに参加したメンバー
図2.Pre–Conference Excursionに参加したメンバー
Jade Pagoda

11月9日(水)、ミャンマーのマンダレー空港に集合した我々はワゴン車3台に乗り、モゴックを目指すことになります。モゴックへ行く前にマンダレーのJade Pagodaへ立ち寄りました。ミャンマーでは多くの人々(90%程度)が仏教徒であり、いたるところにパゴダ(Pagoda)と呼ばれる寺院があります。パゴダは日本の仏塔と同じで仏舎利(釈迦仏の遺骨等)を安置するための施設で、ミャンマーではパゴダを建てることは「人生の最大の功徳」とされ、そうすることにより幸福な輪廻転生が得られるとされています。Jade Pagodaはその名の通り、ヒスイでできたパゴダで(図3)、ヒスイ鉱山のオーナーによって2014年に建立されました。また、パゴダの周りには建設中の建物がたくさんあり(図4)、現在あるジェードマーケットが来年移転してくるそうです。

図3.Jade Pagoda
図3.Jade Pagoda
図4.建設中のJade Market
図4.建設中のJade Market
Mandalay Gem Association & Co., Ltd.見学

Jade Pagoda見学後、マンダレーにあるMandalay Gem Association & Co., Ltd.(図5)を見学しました。Mandalay Gem Association & Co., Ltd.は宝石教育を行う機関で、ヒスイや他の色石、ダイヤモンドについての教育を行っています。すでに授業が終わった時刻に到着したため教育現場を観察することはできませんでしたが、教育に使用しているサンプル類を見せていただきました。ヒスイのサンプルは各色大小、数がたくさん揃っており、参加者達は感嘆していました。

図5–1.Mandalay Gem Association & Co., Ltd.
図5–1.Mandalay Gem Association & Co., Ltd.
図5–2.Mandalay Gem Association & Co., Ltd.が所有する教育用サンプル(ヒスイ)
図5–2.Mandalay Gem Association & Co., Ltd.が所有する教育用サンプル(ヒスイ)
モゴックへ

モゴックはマンダレーから北東に200kmに位置します。以前はマンダレーから船や曲がりくねった未舗装道路を車で乗り継ぎ、かなりの道のりであったとされていますが、現在は殆どの区間が舗装されています。11/10(水)朝6時、マンダレーのホテルを出発した我々はモゴックの入口まで4時間ほどで到着しました。モゴックは外国人の立ち寄りが制限されており、政府の許可なしでは入ることができません(図6)。

図6.モゴックの入口の看板 外国人の立ち寄りが制限されており、ここで許可を取らなければいけない。
図6.モゴックの入口の看板
外国人の立ち寄りが制限されており、ここで許可を取らなければいけない。
Phaungdow–U Pagoda

モゴックに入った我々がまず初めに向かった先はPhaungdow–U Pagodaです。このパゴダはモゴックで最も有名なパゴダの1つです。仏像はLEDで電飾されています(図7)。また、モゴックで訪れたパゴダに共通することですが、たくさんの宝石が寄贈されており(図8)、信仰心の高さを垣間見ることができます。

図7.Paungdow–U Pagoda 仏像は電飾されている。
図7–1.Paungdow–U Pagoda
電飾されている仏像。
図7–2Paungdow–U Pagoda 台座の部分は色とりどり様々な宝石で装飾されている。
図7–2.Paungdow–U Pagoda
台座の部分は色とりどり様々な宝石で装飾されている。
図8.寄贈された宝石類 写真で示したものはごく一部にすぎず、莫大な量の宝石類が寄贈されている。
図8.寄贈された宝石類
写真で示したものはごく一部にすぎず、莫大な量の宝石類が寄贈されている。
Yoke Shin Yone (Cinema Market)

11月11日(金)、モゴック東部地区のYoke Shin Yoneを訪れました(図9)。 Yoke Shin Yoneは通称Cinema MarketまたはMorning Marketと言われ、午前中朝6時から9時まで開かれています。細い路地に手作りの背の低い机、木箱、地面に布を敷いて、その上に宝石類を並べ、販売を行っています。低品質の未研磨石や原石もありますが、カット・研磨された質のよいルビー、サファイア、スピネル、ペリドット等多くの種類の宝石が見られます。ミャンマーの通貨(Kyat)での取引が基本ですが、米ドルの使用も可能でした。

図9–1.Yoke Shin Yoneの様子:古い映画館前広場にあることからCinema Market と呼ばれている。
図9–1.Yoke Shin Yoneの様子:古い映画館前広場にあることからCinema Market と呼ばれている。
図9–2.路地に机、箱を並べ、宝石を売る女性たちを見ることができる。
図9–2.路地に机、箱を並べ、宝石を売る女性たちを見ることができる。
MEC鉱山

Yoke Shin Yoneを後にした我々は、モゴックの北西10マイルのところにあるShan HillのShwe Tharyar Village(Bernard Village)にあるMEC鉱山(図10)を訪れました。この鉱山はルビーの小規模な採掘を行っており、すぐ傍には1887年におこった3rd Burma Warで戦士した英兵の墓が点在しています(図11)。

図10–1.Shwe Tharyar VillageのMEC鉱山
図10–1.Shwe Tharyar VillageのMEC鉱山
図10–2.Shwe Tharyar VillageのMEC鉱山
図10–2.Shwe Tharyar VillageのMEC鉱山
図11.Shwe Tharyar Villageの英兵の墓
図11.Shwe Tharyar Villageの英兵の墓
突然現れるマーケット(?)

筆者の乗っていたワゴンは気がつくと他の2台のワゴンとはぐれ、道に迷ってしまいました。運転手はミャンマー語しか話せず、ワゴンに同行していたスタッフはミャンマー語が話せず、他のワゴンと合流するため、一旦停車しなければならなくなりました。停車していると、宝石を持った村民たちが「宝石を買わないか」と寄って来て、彼らの家で突然宝石マーケットが開催されます(図12)。低品質な未研磨石がほとんどでしたが、中程度の品質のものも存在しました。はぐれてしまったことにより、この日の昼食を食べることはできませんでしたが、ミャンマーの人たちと宝石のつながりについて深く感じることができ、貴重な体験であったと思います。

図12–1.路上で突然はじまる宝石取引
図12–1.路上で突然はじまる宝石取引
図12–2.路上で突然はじまる宝石取引 モゴックの人たちと宝石のつながりを感じる貴重な経験をすることができた。
図12–2.路上で突然はじまる宝石取引
モゴックの人たちと宝石のつながりを感じる貴重な経験をすることができた。
Purifie Mine

次に訪れたのは、Pyaung Gong VillageにあるPurifie Mineというペリドット鉱山(図13)です。ミャンマー語でペリドットは”Pyaung Gong Sein”と言います(Seinはミャンマー語で”緑”という意味)。ダイナマイトを使用して坑道を掘り進め(図14)、ペリドットを採掘するという手法で採掘が進められています。

図13–1.ペリドットが採掘されるPurifie鉱山。中はじめじめしているが、ほこりっぽくはなく、意外と快適。
図13–1.ペリドットが採掘されるPurifie鉱山。中はじめじめしているが、ほこりっぽくはなく、意外と快適。
図13–2.Purifie鉱山。
図13–2.Purifie鉱山。
図14–1.ダイナマイトを差し込むために造られた穴。この穴にダイナマイトを仕掛けて発破する。
図14–1.ダイナマイトを差し込むために造られた穴。この穴にダイナマイトを仕掛けて発破する。
図14–2.発破に使用するダイナマイト
図14–2.発破に使用するダイナマイト
Baw Mar Mine

11月12日(土)、モゴックBaw Mar地区のKyauk Sound鉱山を訪れました(図15)。このエリアは2008年以降採掘量が急増したブルーサファイアの重要な鉱床で、モゴック片麻岩類が分布しており、閃長岩や花崗岩類を伴っています。ブルーサファイアは高度に変成した黒雲母片麻岩などに貫入した閃長岩やペグマタイトの風化土壌から採掘されます。Baw Mar鉱山は10年ほど前から重機を用いた採掘がおこなわれており、露天掘り、トンネル方式が組み合わされています(図16)。

図15.Baw Mar, Kyauk Sound鉱山全景
図15.Baw Mar, Kyauk Sound鉱山全景
図16–1.削った土砂を機械で選鉱している様子。選鉱されたものは、朝と夕方の2回オーナーが回収しにくるとのこと。昼は流れた土砂をパニングしている。
図16–1.削った土砂を機械で選鉱している様子。選鉱されたものは、朝と夕方の2回オーナーが回収しにくるとのこと。昼は流れた土砂をパニングしている。
図16–2.入口にはミャンマー語で「立ち入り禁止」
図16–2.入口にはミャンマー語で「立ち入り禁止」
Yadana Shin Ruby鉱山

Baw Marを後にした我々はモゴック北部にあるYadana Shin Ruby鉱山に向かいました(図17)。 Yadana Shin Ruby鉱山は大理石から直接ルビーを採掘する第一次鉱床で、大理石の露岩も見られる敷地内から縦坑がたくさん掘られています(図18・19)。モゴックの中でも最大級の規模の鉱山で400名に及ぶ鉱夫が働いており(図20)、寝食を共にしています(図21)。

図17.Yanada Shin Ruby鉱山の玄関口。「Yanada Shin Gems Co., Ltd.」の看板がある。
図17.Yanada Shin Ruby鉱山の玄関口。「Yanada Shin Gems Co., Ltd.」の看板がある。
図18.敷地内の各所にある縦穴への入口
図18.敷地内の各所にある縦穴への入口
図19.採掘された大理石が積み上げられている様子。風化していない大理石を削岩機で砕き、10cm〜20cmのサイズにされたものが積まれている。
図19.採掘された大理石が積み上げられている様子。風化していない大理石を削岩機で砕き、10cm〜20cmのサイズにされたものが積まれている。
図20–1.選鉱機と働く労働者たち
図20–1.選鉱機
図20–2.選鉱機と働く労働者たち
図20–2.働く労働者たち
図21.敷地内に労働者が寝泊まりをするため、大食堂も完備。本日の昼食はカレーのようだ。
図21.敷地内に労働者が寝泊まりをするため、大食堂も完備。本日の昼食はカレーのようだ。
Pan Shanマーケット

Yadana Shin Ruby鉱山の次に向かったのは、Pan Shanの宝石マーケットです。午後1時から3時に開催されており、モゴックでは最大規模です。強い日差しを遮るための300近いパラソルが圧巻で、その様子から”Umbrella”マーケットと呼ばれています(図22)。このマーケットは前日に訪れたYoke Shine Yoneとは違い、宝石を広げ並べているのではなく、宝石を持ったディーラーがバイヤーに直接売りにきます。興味を持ち、宝石を見ていると次々とディーラーが現れ、囲まれてしまいます。

図22.Pan Shanのジェムマーケット。訪問当日は祭りが行われていたため、普段よりは人が少ないとのことだったが、それでも人の量に圧倒された。
図22–1.Pan Shanのジェムマーケット。訪問当日は祭りが行われていたため、普段よりは人が少ないとのことだったが、それでも人の量に圧倒された。
図22–2.ディーラーが直接宝石を持ってきて販売しにくる。
図22–2.ディーラーが直接宝石を持ってきて販売しにくる。
Baw Ba Tan鉱山

最後に我々が訪れたBaw Ba Tan鉱山はRuby Dragonと政府の鉱山省が合弁して採掘を行っている大規模な鉱山で、1996年より採掘を行っています(図23)。この鉱山は67エーカー(約27万平方メートル)に200人の労働者が8時間シフト(6時〜14時、14時〜22時)で採掘を行っています。現在、地下1140フィート(約350メートル)まで掘り進めていますが、一番よい品質のものが採掘されたのは地下900フィート(約275メートル)とのことでした(図24)。◆

図23.鉱山の地図模型を手に説明をするRuby DragonのAlex Phyo氏
図23.鉱山の地図模型を手に説明をするRuby DragonのAlex Phyo氏
図24–2.Baw Ba Tan鉱山の入口。ここから1140フィートの地下の世界が広がる。中からはほこり のにおいが噴出している。
図24–1.Baw Ba Tan鉱山の入口。ここから1140フィートの地下の世界が広がる。中からはほこり のにおいが噴出している。
図24–2.1000米ドル支払えば中に入れるが危険は保証しない、などの注意が書かれている。
図24–2.1000米ドル支払えば中に入れるが保証しない、などの注意が書かれている。

中国におけるダイヤモンドの高圧合成

2016年11月No.35

中国吉林大学超硬材料国家重点実験室 教授 賈 暁鵬

概要

中国で合成ダイヤモンドが誕生してから半世紀にわたり発展を続けてきた。同国では、主に立方体式高圧装置(キュービック・プレス)を用いてダイヤモンドが合成されている。近年来、中国は砥粒ダイヤモンドの国際的な生産国となるまで急速に成長してきた。2015年、中国国内の合成ダイヤモンド生産量は150億カラット以上に達した。大型ダイヤモンド単結晶の合成は温度差法を用いることによって成功し、商品化・量産され、それらの商品の殆どは切削工具市場及び宝石市場で取引されている。現在、3mm以下のIIa型のダイヤモンド単結晶の生産量は20万カラット/月に達した。中国のダイヤモンド合成技術は著しく進歩してきたが、特殊な高品質砥粒ダイヤモンドのハイエンド製品、及び良質な大型ダイヤモンド単結晶の製造は未だ発展の途上にある。
本文では、中国におけるダイヤモンドの高圧合成技術の発展史、及び現状について紹介し、併せて今後の発展について展望を記す。

1.立方体高圧装置(キュービック・プレス)の中国国内開発史

中国の立方体式高圧装置(キュービック・プレス)は元機械工業部済南鋳鍛研究所によって設計され、1964年に誕生した。シリンダーの直径(口径)はΦ230(mm)で、その外観を図1に示す。しかしそれ以降、約20年間にわたりプレスの開発は停滞していた。1985年、桂林鉱産地質研究所の設計、長沙鉱冶研究院および桂林冶金機械総工場の共同開発によって製造されたΦ260–Φ320型プレスによって再び開発が進むことになった。1993年、咸陽202研究所は、Φ360–Φ400型を発表し、プレスの大型化を展開した。1999年、Φ500型が登場すると、プレスの大型化が加速し、たちまち、ダイヤモンド生産用のメイン設備となった。
表1は、現在中国において主流となっているプレスの口径と砥粒ダイヤモンドの生産能率の関係を示すものであり、口径の拡大につれて、ワンサイクルのダイヤモンドの生産量が急激に増加するという相関関係がわかる。

図1中国式立方体高圧装置(キュービック・プレス)
図1.中国式立方体高圧装置(キュービック・プレス)
表1:プレスのパラメータと単位生産量との関係
表1:プレスのパラメータと単位生産量との関係

中国国内で最大手のダイヤモンドメーカーである「中南」・「黄河」・「華晶」の三社は、このようなプレス大型化の進行を牽引するという重要な役割を果たした。
現在は主にΦ650、Φ700、Φ750の大型プレスが使用されている。中国国内にあるダイヤモンド合成用のプレスは1万台を超え、そのうちΦ600より大きいサイズのものがその過半数と言われている。また、プレスの制御技術も飛躍的に向上され、制御の精密度と自動化の程度も著しく進歩した。そして、群制御技術とネットワーク技術の使用も開始された。

図2.ある会社のダイヤモンドの合成生産現場の写真
図2.ある会社のダイヤモンドの合成生産現場の写真
2.砥粒ダイヤモンド合成の発展史

1963年、中国で初めてダイヤモンドの合成に成功した。1966年、中国鄭州三磨研究所が砥粒ダイヤモンドの商品化・生産を開始し、年産は約1万カラットであった。年代別に分けてみると、商品化生産は、大まかに以下の三つの歴史的段階に分けられる。1980–1990年代、生産会社は主に東北地域の遼寧省に集中していた。当時はメーカーの規模が小さく、Φ320–360型プレスが主流で、年産は1億カラットであった。1990–2000年代、生産の本拠地は徐々に湖南省、安徽省など南の省に移るようになり、Φ360–Φ460型プレスがこの時期の主流となって、年産は15億カラットにも達した。2000年以降、主な生産地は河南省に移った。現在、河南省には、「中南」・「黄河」・「華晶」の三大ダイヤモンド生産メーカーが所在するほか、数多くの中小規模のダイヤモンド生産会社が所在している。河南省は、中国における合成ダイヤモンドの主要生産地域となり、「90%以上のダイヤモンド合成企業は河南省に所在し、市場に流れる95%以上のダイヤモンドは河南省で生産されている」と言われている。
1980–2000年という20年余りの期間にわたり、砥粒ダイヤモンド合成は片状触媒、直接加熱という立遅れた技術を踏襲していた。エネルギーの高消耗、生産能力の低下、結晶体の低品質はこの時期の合成技術と製品の典型的な特徴であった。2000年より、粉末触媒、間接(旁熱)加熱など新たな合成技術の開発に成功し、また、各メーカーによる新合成技術の迅速な導入を受け、国内の合成ダイヤモンドの生産量と品質は実質的に飛躍的な発展を遂げた。2005年、多くのダイヤモンドメーカーが全面的な生産モデルチェンジに成功し、中国の砥粒ダイヤモンドは国際市場を支配するようになった。以降、中国のダイヤモンド生産は高度発展期に突入した。2015年、年産は既に150億カラットに達し、全世界の生産量の90–95%を占めるようになった。図3には、中国における合成ダイヤモンド生産量の推移を示してある。

図3.中国におけるダイヤモンド生産量の推移
図3.中国におけるダイヤモンド生産量の推移
3.大型ダイヤモンド単結晶の高圧合成についての研究

中国における大型ダイヤモンド単結晶の高圧合成についての研究と開発の歴史は、1980年代に遡る。1980年当初、上海珪酸塩研究所が温度差法を用いて、約3mmのダイヤモンド結晶体を合成したが、良質なものを作ることはできなかった。1990年頃、「高温高圧法による大型単結晶の育成」は、国の「863プロジェクト」中の重要プロジェクトの一つとして立ち上げられたが、核となる技術が確立されていなかったため、高圧法を用いた大型単結晶ダイヤモンド合成の研究は中断された。

図4.10mm、2.45ctのIb型単結晶
図4.10mm、2.45ctのIb型単結晶
図5.高濃度窒素含有のダイヤモンド単結晶
図5.高濃度窒素含有のダイヤモンド単結晶
図6.Ia型ダイヤモンド単結晶
図6.Ia型ダイヤモンド単結晶

同研究が本格的に再始動されたのは、1999年末からであった。当時、吉林大学で筆者が率いた研究チームは、立方体高圧装置(キュービック・プレス)に対して、一連の技術改造を実施したことによって合成条件の精密な制御を実現し、2000年、4.5mmの良質なIb型単結晶の合成に成功した。さらに2004年、4.3mmのIIa型と4.0mmのIIb型の良質な単結晶の合成に成功し、2011年、約10mm、2.45ctのIb型の単結晶(図4)の合成に成功した。そのほかに研究チームは、高濃度窒素含有の緑色のダイヤモンド(図5)、Ia型(図6)、硼素と水素含有、水素含有のIbおよびПa型、水素と窒素含有のIbおよびIa型、また、水素と酸素の共同含有などの大型単結晶ダイヤモンドの合成に相次いで成功した。2006年、筆者は河南理工大学においても大型単結晶の合成研究を行った。

4.大型ダイヤモンド単結晶の商品化生産

2010年6月、河南省焦作市の美晶科技有限公司は、最初に単結晶の商品化生産を始め、3x3x1mm のIb型単結晶片(図7)を市場に提供した。2012年12月、鄭州華晶金鋼石股份有限公司と焦作美晶科技有限公司は、共同で出資し、焦作華晶ダイヤモンド有限公司を設立し、Ib型単結晶片の量産を開始した。2014年9月、鄭州華晶金鋼石股份有限公司(シノ·ダイヤモンド)が1.0–2.0mmサイズのIIa型単結晶(図8)を宝飾市場に提供し始めた。2015年下期、技術漏洩によって、河南省では十数社の企業が「シノ・ダイヤモンド」と同様の技術で宝飾用無色合成ダイヤモンドの生産を始めた。生産能力は当初の約1万カラット/月から、2015年4月の20万カラット/月まで達した。その後、1.0–2.0mmサイズのIIa型単結晶の価額も生産量の激増によって急激に下落し、わずか二年間で、当初の1カラット60米ドルから、現在の1カラット16~18米ドルまで下落した。

図7.3x3x1mm のIb型単結晶片
図7.3x3x1mm のIb型単結晶片
図8.1.0–2.0mmのIIa型単結晶
図8.1.0–2.0mmのIIa型単結晶
図9.黄河旋風の2–3mmのIIa型単結晶
図9.黄河旋風の2–3mmのIIa型単結晶

黄河旋風股份有限公司は、現在3000台以上のプレスを保持しており、中国国内最大規模のダイヤモンドメーカーの一つである。 同社は、2001年から大型単結晶ダイヤモンドの合成についての研究開発を推進し、現在、Ib型単結晶片だけではなく、2.0–3.0mmサイズのIIa型単結晶(図9)も宝飾市場に提供している。資料によれば、同社が宝石用の大型単結晶ダイヤモンド合成プロジェクトへ投資した総額は4.30億元、生産ラインも建設する予定とのことである。このプロジェクトを実現すれば、宝飾用の無色IIa型単結晶は年間73.50万カラット、板状単結晶は年間49.28万カラットという莫大な生産能力を有することになる。

中南钻石股份公司も3000台以上のプレスを保有するなど、世界一の規模と言われるメーカーである。同社では粉末触媒成長技術を用いて、自発核生長法により1–2mmの粗粒度のIb型ダイヤモンド(図10)を生産している。粗粒度の結晶体の品質は良好だが、価格は高く設定されている。現在、同社はまだ温度差法を用いて合成した単結晶ダイヤモンドを市場に出していない。

図10.中南の1–2mmのIb型ダイヤモンド
図10.中南の1–2mmのIb型ダイヤモンド

済南中烏新材料有限公司(略称:中烏新材)は2013年に設立され、2015年6月に中烏貝斯特公司から名称変更した会社である。小規模な会社で、現在70台ほどのプレスを所有している。注目すべき点は、同社ではウクライナの合成技術を用いて、Ib、IIa及びIIb型単結晶(図11)を生産していることである。製品一粒の質量は10ctにも達している。同社は、中国で唯一3.5mm以上の良質なIIa型の単結晶を宝飾用に商品化したメーカーであるが、製品の価格は高価である。

図11.中烏新材のIb、IIa、IIb型ダイヤモンド単結晶
図11.中烏新材のIb、IIa、IIb型ダイヤモンド単結晶

現在、中国は既に大型ダイヤモンド単結晶生産の中心となっている。これらのメーカーは殆ど河南省と山東省の両省に集中しており、毎月1.0–2.0mmサイズの宝飾用IIa型ダイヤモンド単結晶を16–20万カラット生産している。

5.結論

1) 中国のダイヤモンド合成技術は著しく進歩してきたが、特種な砥粒単結晶ダイヤモンドと大型単結晶ダイヤモンドの合成技術は外国と比べ、未だに大きな成長の幅がある。
2) 3mm以下のIIa型ダイヤモンドについては、すでに量生産ができており、宝石市場に入り天然ダイヤモンド市場に衝撃を与えている。

6.展望

上記に紹介した、既に大型単結晶ダイヤモンドの生産能力を有する数社のほか、幾つかのダイヤモンドメーカーも現在、3mm程度のIIa型単結晶ダイヤモンドの研究開発と生産に注力している。研究開発の進歩に伴い、やがてカラットレベルのIIa型ダイヤモンドの大規模な生産時代が訪れ、間違いなく宝石・装飾市場に大きな衝撃を与えることになるであろう。以上◆

− 賈 暁鵬 氏 −

Jia先生2CMYK統合2

【略 歴】
1962.12.15生
1980.09−1984.06  中国吉林大学物理学系 (大卒)
1984.09−1987.06  中国吉林大学原子と分子物理研究所(理学修士取得)
1990.04−1992.03  筑波大学工学研究科物質工学専攻(工学修士取得)
1992.04−1996.03  筑波大学工学研究科物質工学専攻(工学博士取得)
1996.04−1997.04  筑波大学物質工学系 外国人研究員
1997.05−1998.03  無機材質研究所 COE特別研究員
1998.04−1999.11  金属材料研究所 外国人研究員
1999.12−現在    中国吉林大学超硬材料国家重点実験室 教授

中国河南省、宝飾用合成ダイヤモンドの製造会社を訪問して

2016年11月No.35

リサーチ室 北脇  裕士

2016年9月6日(火)~13日(火)の一週間、中国河南省にあるHPHT合成ダイヤモンドの工場を訪問し、中国における宝飾用合成ダイヤモンド製造の現況について調査しました。河南省では宝飾用にHPHT合成ダイヤモンドが盛んに製造されており、その品質とサイズは漸次向上しています。今後、宝飾ダイヤモンドの流通に与える影響が懸念されます。以下に概要をご報告致します。

中国製HPHT合成ダイヤモンドの台頭

合成ダイヤモンドは、鑑別・グレーディングの日常業務において1990年代半ば頃から時折発見され、その都度話題となってきました。しかし、その検出頻度はごくわずかなもので、これまで無色の合成ダイヤモンドがジュエリーに混入していた例もほとんどありませんでした。しかしながら、2015年後半頃から世界各地の宝石鑑別ラボよりジュエリーに混入した小粒合成ダイヤモンドの事例が相次いで報告されるようになりました。当研究所においても2015年の9月頃からジュエリーに混入したメレサイズの無色合成ダイヤモンドが確認されており、現在も増加傾向にあります。これらの合成ダイヤモンドはほとんどがHPHT法によるもので、中国で合成されたものと考えられます。中国では2014年頃から宝飾用合成ダイヤモンドが大量に製造されており、今後もその動向を慎重に見守る必要があります。

河南省:世界の合成ダイヤモンド産業の中心地

河南省は、黄河の下流域にあることが省名の由来となっています(Fig.1)。省全体に黄河の堆積物による広大な平野が広がる重要な農業生産地域です。河北省、山東省、安徽省、山西省、陝西省、湖北省に隣接しています(Fig.2)。河南省は中国8大古都のうち4つ(鄭州、洛陽、開封、安陽)を有しており、中国文明の発祥の地といわれます。中国における33の行政区分の中で面積は17番目ですが、人口では広東省と山東省に次いで3番目です。黄河による水害や旱魃(かんばつ)などにより経済発展は緩慢でしたが、1970年代後半~1980年代にかけて国策により合成ダイヤモンドの製造会社が次々に立ち上げられていきます。工業用途のダイヤモンド砥粒や焼結体の生産が中心でしたが、高圧装置の大型化、操作技術のインテリジェント化、溶媒金属の選択やグラファイト原料の粉末化などの技術革新によって単結晶合成ダイヤモンドの大規模生産が成し遂げられていきます。

Fig.1河南省鄭州市北部を流れる黄河
Fig.1河南省鄭州市北部を流れる黄河
Fig.2中国河南省鄭州市の位置
Fig.2中国河南省鄭州市の位置

河南省には大小合わせると80社以上の合成ダイヤモンドの製造会社があります。中でも河南黄河旋風股份有限公司、中南钻石股份有限公司、鄭州華晶金剛石股份有限公司は中国における合成ダイヤモンド業界の「3大巨頭」と称され、これら3社を合わせると高圧合成装置(キュービック型マルチ・アンビル装置)は8,000台以上、ダイヤモンド生産量は120億ct以上に達し、全世界の合成ダイヤモンドの需要を支えられるといわれています。まさに河南省は合成ダイヤモンド製造の世界の中心地といえます。

河南省鄭州市:急速に発展する都市

鄭州市は河南省の州都(1954年~)です。人口937万人(2014年)の大都市です。日本のさいたま市とは1981年に姉妹・友好都市提携が結ばれています。3500年前には商(殷)王朝の都があったとされる歴史深い街ですが、近年は機械・食品・繊維などの産業による新興工業都市としてもめざましい発展を遂げています。鄭州は京広線(北京~広州市を南北に結ぶ)と隴海線(連雲港市~蘭州市を東西に結ぶ)が交差する中国鉄道交通の要所です。鄭州駅は1904年に開業しており、2010年に現在の駅舎が完成しました(Fig.3)。

Fig.3鄭州駅駅舎
Fig.3鄭州駅駅舎

また、高速鉄道(新幹線)が停車する鄭州東駅が2012年9月に開業し、中国では杭州東駅と南京南駅に次いで3番目に広い建築総面積を誇ります。市内には地下鉄網が現在建設中で、東西に延びる1号線は2013年12月に、南北に延びる2号線は2016年の8月に開通したばかりです。空の玄関口は鄭州新鄭国際空港で、2016年の4月には就航する全33社の航空会社が新たに増設されたターミナル2に移行したばかりです。シンガポール、シドニー、フランクフルトやロサンゼルスなどと結ばれており、成田からも直行便が就航しています。
2001年以降から旧市街の東部に面積約150平方キロで150万人規模の新都市(鄭東地区)が建設されています。新たにCBD(中心業務地区)を建設し、コンベンションセンター、アートセンター、高層住宅、高層オフィスが人工湖を囲むように建ち並んでいます(Fig.4)。この新都市のマスタープランは建築家の黒川紀章の立案といわれています。

Fig.4鄭州市新都心のビル群を望む
Fig.4鄭州市新都心のビル群を望む
河南省での宝飾用HPHT合成の現状

河南省の大手合成ダイヤモンド製造会社は、それぞれにおいて結晶育成の技術開発が進み、現在では無色の宝石品質のダイヤモンドを量産できるレベルに達しています。そして利益率の低い工業用途のダイヤモンド砥粒生産から新たな市場として宝石ダイヤモンドの生産にシフトしてきています。
鄭州華晶金剛石股份有限公司では2014年末頃から2mm以下の宝飾用合成ダイヤモンドの量産を開始しており、河南黄河旋風股份有限公司では2015年前期から2〜3mm以下の原石を量産しています。その後、他の中小の砥粒製造会社も続々と宝石事業に参入しており、河南省だけで10社以上が宝飾用の小粒ダイヤモンドを製造していると思われます。

宝飾用HPHT合成ダイヤモンド製造会社訪問

河南省力量新材料有限公司(Henan Province Liliang New Materials Co.,Ltd)は、2010年に設立された新興の会社で主にダイヤモンドの微粉末を製造していました。目覚しい技術革新によって高品質の単結晶が育成できるようになり、2015年に社名を河南省力量钻石股份有限公司(Henan Liliang Diamond Co.,Ltd)に改名しました。2014年以降、宝飾用の無色合成ダイヤモンドを製造しており、その生産量は中国において上位4社に入る勢いです。同社の邵增明(Shao Zengmin)社長の招待により、今回の筆者の訪問が実現しました(Fig.5)。

Fig.5河南省力量钻石股份有限公司の邵增明社長(左)
Fig.5河南省力量钻石股份有限公司の邵增明社長(左)
Fig.6河南省力量钻石股份有限公司の工場玄関
Fig.6河南省力量钻石股份有限公司の工場玄関

河南省力量钻石股份有限公司は、鄭州市の新都市中心業務地区にオフィスがありますが、ダイヤモンド生産工場は鄭州市から南東へ車でおよそ3時間の商丘市柘城県にあります(Fig.6)。柘城県は河南省の中でも最大の微粉末の製造(砥粒ダイヤモンドの粉砕加工)拠点です。中国全体の70%を占めるともいわれています。河南省力量钻石股份有限公司は、1990年に前進となる小さなダイヤモンド粉末製造工場として出発しました。急速な経済成長の波に乗り、機敏にチャンスを捉えて順調に業績を伸ばしました。2010年には3.8億元(およそ50億円)を投資して、143,334m2(東京ドーム3個分)の広大な敷地に10棟の生産工場および加工場が建てられました(Fig.7)。

Fig.7工場の鳥瞰図(図版提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.7工場の鳥瞰図(図版提供:河南省力量钻石股份有限公司)

そしてシリンダー径700mmの大型キュービック型マルチ・アンビル装置が多数設置されました(Fig.8)。邵社長によると、300台ある装置のうち現在150台が宝飾用単結晶合成ダイヤモンドの製造に使用されており(Fig.9)、月産で150,000ctの原石が生産されているとのことです。

Fig.8キュービックマルチ・アンビル装置(写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.8キュービックマルチ・アンビル装置(写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.9キュービックマルチ・アンビル装置近影
Fig.9キュービックマルチ・アンビル装置近影

生産されている宝飾用合成ダイヤモンド原石の90%は直径2mm程度で(Fig.10、Fig.11)、研磨すると0.01ct程度になるそうです。直径3mm以上の原石は全体の5%以下で、これらは0.1~0.2ctになるとのことです。製造技術は漸次向上しており、1年以内には0.5ctのカット石の量産を目指しているそうです。生産された原石の90%はインドで研磨されているそうですが、一部は中国国内で研磨しているとのことです。また、セールスマネージャーの陈宁宁(Lynn Chen)氏によると、同社では自社製品(無色合成ダイヤモンド)を用いたジュエリーも製造しており、販路を広く世界に求めて開拓中とのことです。

Fig.10宝飾用原石 (写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.10宝飾用原石
(写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.11宝飾用原石拡大
Fig.11宝飾用原石拡大

このように中国河南省は今なお経済発展の途上にあり、鉄道、都市整備などが着々と進行中です。合成ダイヤモンド産業も利益率が低くなった砥粒生産から宝飾用合成ダイヤモンドの製造へシフトしていますが、生産過剰のため技術革新の遅れた会社はすでに宝飾事業から撤退し、もとの砥粒生産に回帰しているところもあるようです。今後、彼らはさらなる利益を求めて結晶の高品質化とともに大型化を目指していくと思われます。また、各色のファンシーカラーダイヤモンドの生産、鑑別が困難な種々の性質を改良したものが出現することも予測の範囲にとどめておく必要がありそうです。◆

日本鉱物科学会2016年年会参加報告

2016年11月No.35

リサーチ室 北脇  裕士、江森  健太郎

石川県金沢市のシンボル、金沢城石川門
石川県金沢市のシンボル、金沢城石川門

去る2016年9月23日(金)から25日(日)までの3日間、金沢大学角間キャンパスにて日本鉱物科学会の2016年年会が行われました。弊社からは2名の技術者が参加し、それぞれ口答発表を行いました。以下に年会の概要を報告致します。

日本鉱物科学会とは

日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Sciences)は平成19年9月に日本鉱物学会と日本岩石鉱物鉱床学会の2つの学会が統合・合併され発足し、現在は大学の研究者を中心におよそ1000名の会員数を擁しています。日本鉱物科学会は鉱物科学およびこれに関する諸分野の学問の進歩と普及をはかることを目的としており、「出版物の発行(和文誌、英文誌、その他)」、「総会、講演会、研究部会、その他学術に関する集会および行事の開催」、「研究の奨励および業績の表彰」等を主な事業として活動しています。今年、2016年は総会にて「日本の石(国石)」を決定する選挙を行いました。

会場となった金沢大学角間キャンパス自然科学棟
会場となった金沢大学角間キャンパス自然科学棟
日本鉱物科学会2016年年会

会場となった金沢大学は、1862年(文久2)に加賀藩が種痘所を設置したことを源流とし、旧制金沢医科大学、旧制第四高等学校、金沢高等師範学校、金沢高等工業学校を主な母体として設立された大学です。2004年4月に「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」という位置づけをもって改革に取り組むとして金沢大学憲章を制定しました。憲章は、教育・研究・社会貢献・運営の各分野からそれぞれ2項目、計8項目から成ります。地理的にはJR金沢駅より南東方向に本学会の会場となった角間キャンパスがあります。交通手段としてはJR金沢駅からバスで30分程度、通学時間帯は本数も多く、アクセスに不便はありません。

今回の年会では、4件の受賞講演をはじめ、シンポジウム「ちきゅう掘削鉱物科学」、口頭発表、ポスター発表を合わせ、発表講演総数237件が行われ、278名が参加しました。
一日目、23日(金)午前9時より「鉱物記載・分析評価」「岩石・鉱物・鉱床一般」「地球外物質」「岩石―水相互作用」「変成岩とテクトニクス」の4つのセッションが同時に行われました。弊社研究者は「鉱物記載・分析評価」のセッションで「中国製無色HPHT合成ダイヤモンドの物性評価と宝石鑑別」と「LA–ICP–MS分析を用いた天然・合成アメシストの鑑別」の2件の講演を行いました。講演後、多数の質問が寄せられ、鉱物科学会会員の方々の宝石学への興味の強さを感じることができました。

一般講演口頭発表会場の様子
一般講演口頭発表会場の様子

総会
平成28年度の鉱物科学会総会が二日目の9月24日(土)朝8時30分より大講義室で行われ、早朝にもかかわらず多くの会員が参加しました。小山内康人会長(九州大学)の挨拶の後、昨年の物故会員5名に黙祷が捧げられ、議事を開始。議長は愛媛大学の大藤会員が努められました。最初に会員幹事から会員数についての報告がなされました。現在有効会員数は929名で漸次減少傾向にあるようです。続いて広報の報告、渉外報告、和文誌GKKより報告、英文誌JMPSより報告、庶務報告がなされ、行事・年会担当幹事から次回(2017年)の年会は愛媛大学で開催されることが報告されました。そして、本総会の最重要審議事項である一般社団法人化の説明と承認がなされ、10月1日から鉱物科学会は一般社団法人として新たな活動を開始することが決定しました。新会長には京都大学の土`山明氏が選任されました。総会審議事項が終了後、日本鉱物科学会平成27年度受賞者の表彰と記念講演が行われました。

日本の石(国石)が「ひすい」に決定
総会の一般審議と受賞者の表彰が終了後、日本の石(国石)の選定が行われ、総会参加者全員による投票の結果、「ひすい」に決定しました。
日本の石(国石)は日本鉱物科学会の一般社団法人化の記念事業の一環として考案されたものです。「日本で広く知られて、国内でも産する美しい石(岩石および鉱物)であり、鉱物科学のみならず様々な分野でも重要性をもつものを、「国石」として選定することにより、私たち日本人が立っている大地を構成する石について、自然科学の観点のみならず社会科学や文化・芸術の観点からもその重要性を認識するとともに、その知識を広く共有する」という趣旨のもと、有識者14名による選定ワーキンググループ(WG)を発足して取り組んできました。
当初、選定委員会において花崗岩、輝安鉱、玄武岩、讃岐岩(サヌカイト)、黒曜石、自然金、水晶、トパーズ、ひすいの10種が候補に挙げられましたが、その後、会員と一般からの意見や追加候補を募り、赤間石、安山岩、大谷石、かんらん岩、絹雲母、黒鉱、結晶片岩、琥珀、さざれ石、硯石および石灰岩の11種が加えられました。これら21種の候補のうちからWGの討議により、花崗岩、輝安鉱、自然金、水晶、ひすいの5種に絞り込まれ、本総会において会員の投票により決定されることになりました。投票に先立って、5種の石にゆかりのある研究者がそれぞれの応援演説を行い、その石の魅力をアピール。 投票は出席会員が投票箱にそれぞれの石の名前が書かれた5つの穴のどれかにビー玉を一つ投入するというスタイルで、投票終了後にビー玉の重量を測定すると得票数がわかるという仕掛けです。5つの穴はゆっくりと回転しており、投票者がどの石に投票したかは他の人にはわかりません。一回目の投票でひすいと水晶が上位となり、両者の決選投票となりました。 結果、ひすいが71票で水晶の52票を上回り、日本の石に決定しました。

日本の石(国石)投票の様子
日本の石(国石)投票の様子
国石として決定した「ひすい」 (写真:糸魚川産ひすい原石、写真提供:フォッサマグナミュージアム 宮島宏氏)
国石として決定した「ひすい」
(写真:糸魚川産ひすい原石、写真提供:フォッサマグナミュージアム 宮島宏氏)

受賞講演とポスターセッション
総会後、10時40分より日本鉱物科学会受賞講演が行われました。受賞講演は、平成27年度日本鉱物科学会賞第14回受賞者のバイロイト大学バイエルン地球研究所の桂智男教授、同第15回受賞者の熊本大学先端科学研究部の西山忠男教授、同学会研究奨励賞第19回受賞者の東北大学大学院理学研究科の坂巻竜也助教授、同学会研究奨励賞第20回受賞者の門馬綱一氏の4名より行われました。受賞講演の後はポスターセッションのコアタイムとなっており、発表者の前にはたくさんの人でにぎわい、説明、質疑応答、議論等が活発に行われていました。また同日午後は、シンポジウム「ちきゅう掘削鉱物科学」が行われました。

ポスターセッションの様子
ポスターセッションの様子

最終日25日(日)は午前9時より「結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物」「高圧科学・地球深部」「深成岩・火山岩及びサブダクションファクトリー」「火成作用と流体」「地球表層・環境・生命」のセッションが行われ、日本鉱物科学会2016年年会は幕を閉じました。
毎年開催される鉱物科学会年会では、最先端の鉱物学研究が発表されます。鉱物学と宝石学は密接な関係があり、参加し、聴講することで最先端の鉱物学に関する知見を得られ、多くの研究者の方々と交流を深めることができます。来年も愛媛で開催される鉱物科学会年会に参加し、中央宝石研究所で行われている各種宝石についての研究をさらに深める予定です。◆

判別分析を用いた天然・合成アメシストの鑑別

2016年9月No.34

リサーチ室 江森  健太郎、北脇  裕士

要旨

LA–ICP–MSによる微量元素分析データを用いた判別分析を行い、アメシストの天然・合成の鑑別の可能性について検討を行った。分析に用いたサンプルは、ブラジル産、ザンビア産及び日本産を含む天然アメシスト50個と、原産国や日本国内市場で入手した合成アメシスト49個である。分析の結果、7Li、9Be、11B、23Na、27Al、39K、45Sc、47Ti、66Zn、69Ga、72Ge、90Zr、208Pbが判別分析において天然・合成の鑑別における良い指標となることがわかった。また、同様の元素の組み合わせが、ザンビア産とブラジル産の産地鑑別に有効であることが判った。

背景

アメシストは2月の誕生石で、一般にも良く知られた宝石の1つである。鉱物としては地殻上で長石に次いで多く産出する石英である。化学組成はSiO2であり、酸素(O)と珪素(Si)は地殻を構成する元素の中で1番目と2番目に存在度の高い元素である。アメシストの紫色はFe4+のカラーセンタに起因しており、宝石アメシストの主な産地はブラジル、ザンビア、ロシア、タンザニア及びナミビア等である(文献1)。
合成アメシストは1970年代から商業的に供給されている。オートクレーブを用いた熱水法で合成しており、ロシア、中国等で量産されている。特に1990年代に入って旧ソ連が崩壊し、市場経済が発達するにつれ、ロシアの結晶育成技術が輸出用のジュエリー製造に向けられるようになってからは、大量供給に伴い合成アメシストの価格が急落した。さらに中国製との競合の結果、その価格はコランダムのベルヌイ製品並みにまで下落した(文献2)。
業界ではこのような合成アメシストが天然アメシストの原産地において混入され、鑑別されないまま商品として流通する危険性が懸念され続けている。たとえば文献3によると、市場におけるアメシストの半分は合成であるとし、文献4では、東アジアで取引されるアメシストの25%は合成であるとしている。また、ヨーロッパのある鑑別ラボでは1年間に持ち込まれた水晶類の70%が合成であったと報告している(文献5)。
このように「合成と気付かずに天然として売られている」というアメシスト(文献3)に対して、昨今の情報公開や消費者利益の観点からも天然・合成アメシストの鑑別に関する重要性は高まっている。

サンプルおよび分析方法

本研究で用いたサンプルは、天然アメシスト50点、合成アメシスト49点である。天然アメシスト50点の中で、産地が既知のサンプルは、ブラジル産10点、ザンビア産6点、日本産2点、ニュージーランド産1点、また合成アメシストは日本製5点、ロシア製4点を含み、ブラジルや国内市場で流通している市場性が高いサンプルを用いた。サンプルはすべてファセットカットされており、ブラジル産天然アメシスト5点、ザンビア産天然アメシスト6点については、LA–ICP–MSで5点ずつLA–ICP–MSで分析を行い、その他のサンプルについては2点ずつ分析を行った(図1)。

図1–1測定に用いた天然アメシストの一部     (0.54–1.86ct)
図1–1測定に用いた天然アメシストの一部
    (0.54–1.86ct)
図1–2測定に用いた合成アメシストの一部     (1.65–3.65ct)
図1–2測定に用いた合成アメシストの一部
    (1.65–3.65ct)

分析に使用したLA(レーザーアブレーション装置)はNew Wave Research UP–213を、ICP–MSはAgilent 7500aを使用した。分析条件は表1に示した通りである。まず予備的に定性分析を行い、検出された元素(7Li, 9Be, 11B, 23Na, 27Al, 39K, 45Sc, 47Ti, 66Zn, 69Ga, 72Ge, 90Zr, 208Pb)について定量分析を行った。また、標準試料としてNIST612を使用し、28Siを内標準に用いて定量分析を行った。

表1LA-ICP-MSの分析条件

表1LA-ICP-MSの分析条件
表1LA-ICP-MSの分析条件
分析結果と考察

(1)元素濃度によるプロッティング
まず初めに、検出された元素の濃度についてNaとKあるいはGaとTiなどの2元素によるデータのプロッティングを幾通りか試みた。それらの結果の一例として、GaとTiを用いたプロットを図2に示す。文献6は、LA–ICP–MSによる分析結果において、Gaの含有量が天然・合成の鑑別に有効であると報告している。本研究においても天然アメシストの大部分はGaが1.00ppm以上であったが、1.00ppm未満の領域には天然と合成がオーバーラップする部分が見られ、両者の判別が困難であった。同様に他の元素の組み合わせを用いたプロッティングにおいてもオーバーラップする部分が多くみられ、特定の元素濃度の比率だけでは天然・合成の判別は困難であった。

図2:天然アメシスト、合成アメシストのGa vs Tiグラフ
図2:天然アメシスト、合成アメシストのGa vs Tiグラフ

(2)判別分析を用いた天然および合成アメシストの分類
続いて、天然アメシスト、合成アメシストの分析データを用いて判別分析(判別分析については後述「判別分析とは」を参照)を行った。判別分析には測定に用いた元素(7Li, 9Be, 11B, 23Na, 27Al, 39K, 45Sc, 47Ti, 66Zn, 69Ga, 72Ge, 90Zr, 208Pb)を使用し、計算には福山平成大学福井正康教授が作成したCollege Analysis(ver. 6.1)を使用した。扱う群は天然・合成の2群であり、判別得点は1つでもよいのであるが、2次元に拡張を行い計算を行った。得られた判別関数は

X=0.178[Li]–0.111[Be]+0.009[B]+0.052[Na]–0.03[Al]–0.009[K]+0.181[Sc]+0.019[Ti]+0.004[Zn]
+0.257[Ga]+4.901[Ge]–0.404[Zr]+0.003[Pb]–5.276
Y=0.113[Li]–0.119[Be]–0.012[B]–0.005[Na]–0.021[Al]+0.009[K]+0.179[Sc]+0.016[Ti]–0.003[Zn]
+0.014[Ga]+1.735[Ge]+0.009[Zr]+0.001[Pb]–1.347

となった。 なお、カッコ[ ]で囲われた部分は、その元素の濃度を示す。
上記関数にそれぞれの分析値を代入し、得られた結果を図3に示す。

図3 天然アメシスト、合成アメシストの判別分析グラフ
図3 天然アメシスト、合成アメシストの判別分析グラフ

判別分析の結果で得られたグラフには、単純に元素濃度をプロッティングする手法に比べてオーバーラップが少なく、天然と合成がよく分離しているのが見て取れる。
従って、実務における鑑別においてはLA–ICP–MSを用いて起源の不明なサンプルを分析し、得られた元素濃度をいくつかの組み合わせで評価、さらにこれらに加えて判別分析の結果を反映させることで天然・合成の判別をより正確に行うことが可能となる。

(3)ブラジル産天然アメシストとザンビア産天然アメシストの産地鑑別
本研究で用いたブラジル産天然アメシスト10点、ザンビア産天然アメシスト6点の分析データを用い、両者の産地を判別分析を用いて鑑別する方法について検討を行った結果、下に挙げる式を得ることができた。

X=0.668[Li]+0.323[Be]+3.049[B]–0.109[Na]–0.211[Al]+0.515[K]+7.143[Sc]–3.588[Ti]+7.127[Zn]
+0.008[Ga]–6.358[Ge]+3.476[Zr]–0.999[Pb]–19.741
Y=–0.024[Li]–0.392[Be]+2.712[B]–0.001[Na]–0.023[Al]+0.368[K]+9.267[Sc]–6.891[Ti]+9.65[Zn]
+0.117[Ga]+4.226[Ge]–9.517[Zr]–3.449[Pb]–23.386

この式を用いてデータをプロットした結果を図4に示す。

図4:ザンビア産、ブラジル産天然アメシストの判別分析
図4:ザンビア産、ブラジル産天然アメシストの判別分析

ブラジル産、ザンビア産天然アメシストのデータが非常によく分離し、判別分析によるブラジル産、ザンビア産天然アメシストの両者の分別には判別分析が有効であることが判った。しかし、この判別分析はブラジル産とザンビア産の2者を分別するものであり、より精度の高い産地鑑別に用いるには他の産地の多くのサンプルを集め、さらに研究を進めることが必要である。

まとめ

天然アメシスト、合成アメシストについて、LA–ICP–MSによる微量元素の分析を行い、両者の鑑別法について検討を行った結果、従来の濃度を比較するものに比べて判別分析を用いた手法が有力であることが判った。また、ブラジル産、ザンビア産の天然アメシストを分別することにも判別分析は有効であった。 宝石分野において判別分析を用いた研究例はまだ少なく、これから様々な問題を解決する手法として期待される。

判別分析とは

ここでは、判別分析(discriminant analysis)について、要点を簡単に説明する。なお、判別分析については多数の書籍や文献が出ているので詳細を知りたい方はそれらを当たって頂きたい(インターネットで「判別分析」と検索すれば多数の書籍及び文献にヒットするであろう)。なお、判別分析には複数の種類が存在するが、ここでは線形判別分析(liner discriminant analysis)について紹介する。
複数の結果変数からなる多変量データを統計的に扱う手法を多変量解析という。多変量解析にはクラスター分析、因子分析、主成分分析、重回帰分析、判別分析といった手法がある。 本研究で取り上げる「判別分析」は「すでに判明しているグループに基づき、まだ判明していない標本をグループ化するための関数」を探す手法である。例えば、本研究においては「すでに判明しているグループ」とは「天然アメシスト」「合成アメシスト」である。両者のデータ群(本研究においては微量元素の濃度)を用いて、この両者を分別する関数を探し、未知試料についてその関数を適用して「天然アメシスト」であるか「合成アメシスト」であるかを判別することが、判別分析である。
線形判別関数は、一般に以下の式で与えられる。
y = A1x1+ A2x2+A3x3+ A4x4+ ・・・・・・+ AnXn+ A0

xiはそれぞれの要素(アメシスト中のGa濃度等)を示し、aiは定数、yは判別得点である。 このaiを決定することが判別分析であり、aiは比較するそれぞれの集合の要素について得られる度数分布が重なる部分が最小になるように決定される(図5)。

図5:判別分析の概念図
図5:判別分析の概念図

集合が2群の場合は、判別関数は1つでよいのだが、判別関数を2つ以上用意し、2次元分布図へ拡張することができる(図6)。判別分析の応用分野は広く、病気の診断、考古学、入社試験、模擬試験の合否判定、アンケート、スパムメールフィルター等多岐に渡って使用されており、非常に身近な場所で使われている。宝石学の分野においては、文献7ではBlodgettらはルビー、サファイア、パライバタイプトルマリンの産地鑑別、ダイヤモンドのHPHT処理の看破に判別分析が有効であると述べており、また文献8ではLuoらがドロマイト関連のホワイトネフライトの産地鑑別に判別分析を用いている。

図6:2次元に拡張した判別分析
図6:2次元に拡張した判別分析

参考文献
文献1: Shigley J. E., Laurs B. M., Janse A. J. A., Elen S., Dirlam D. M., 2010, Gem localities of the 2000s,
Gems & Gemology, vol. 46, No.3, pp. 188–216
文献2:Kitawaki H., 2002, Natural amethyst from the Caxarai Main, Brazil, with a spectrum containing an
absorption peak at 3543cm–1, Journal of Gemmology, vol. 28, No2, pp101–108
文献3: JCK Magazine, 1998, Buying Amethyst Today, JCK Magazine, 1998, January 1
文献4: Borenstein G., 2010, Visual Characteristics of synthetic quartz, THE VALUER, April – June 2010,
p.2–6
文献5: Hainschwang T.. 2009, The synthetic quartz problem, Gem Market News, January/February 2009,
p.1–5
文献6:Breeding C. M., 2009, Using LA–ICP–MS analysis for the separation of natural and synthetic
amethyst and citrine., News from Research, July 31, 2009.,
http://www.gia.edu/research–resources/news–from–research
文献7:Blodgett T., Shen. A., 2011, Application of discriminant Analysis in gemology: country–of–origin
separation in colored stones and distinguishing HPHT–treated diamonds, Gems & Gemology, Summer 145
文献8:Luo Z., Yang M., Shen A., 2015, Origin determination of dolomite–related white nephrite through
iterative–binary linear discriminant analysis, Gems & Gemology, Fall 300–311◆

第10回NDNC国際会議2016に参加して

2016年7月No.33

リサーチ室 北脇  裕士

去る 5月22日(日)~26日(木)に中国の西安にて表題の国際会議が開催されました。リサーチ室より筆者が参加しましたのでご報告いたします。

NDNCとは

NDNC(New Diamond and Nano Carbons)は2007年にICNDST (International Conference for Diamond Science and Technologies)とADC(Applied Diamond Conference)が統合されて新たに創設された国際学会です。ダイヤモンドの気相合成に始まり、ナノチューブ、フラーレン、グラフェンといったナノ構造的に新しい炭素も対象に盛り込まれています。創設第1回目の会議は2007年に大阪で開催されており、以降台湾(2008)、米国(2009)、中国(2010)、松江(2011)、米国(2012)、シンガポール(2013)、米国(2014)、そして昨年は静岡で開催されています。日本からはニューダイヤモンドフォーラム(http://www.jndf.org/)の会員が中心となって本会をサポートしています。

北側城壁より西安駅を望む
北側城壁より西安駅を望む
開催地西安

第10回NDNC国際会議は5月22日(日)~26日(木)に中国西安のThe Westin Xi’anで開催されました。この会議は西安交通大学、中国真空学会、陝西省科学技術協会、陝西省真空学会、西安電子科学技術大学、蘇州大学や多くの産業界からサポートされています。
開催の地となった西安(Xi’an)は中国陝西省の州都であり、常住人口885万人(2012年現在)の都市です。古くは中国古代の諸王朝の都として栄えてきました。紀元前11世紀にはこの地に都が定められ、前漢、新、後漢、西晋、前趙、秦、西魏、北周および唐の時代には長安と呼ばれており、その都は日本の平城京・平安京のモデルにもなっています。日本とのかかわりも深く、空海、阿倍仲麻呂他、遣隋使、遣唐使がその足跡を残しています。現在も都市の中心部は明の時代に築かれた(1370–1378年)城壁に囲まれており、往時の面影を残しています。市の中心部から車で約1時間のところに1987年に世界文化遺産に登録された秦の始皇陵(兵馬俑–へいばよう–)があり、この地を訪れた人々が必ず立ち寄る遺跡です。
開催場所となったThe Westin Xi’anは唐の時代に創建された(652年)大雁塔の程近くにあり、朝夕の散策に適したロケーションです。

市の中心部を取り囲む明代に築かれた城壁
市の中心部を取り囲む明代に築かれた城壁
世界文化遺産に登録された兵馬俑(へいばよう)
世界文化遺産に登録された兵馬俑(へいばよう)
唐の時代に建設された大雁塔
唐の時代に建設された大雁塔
大雁塔より東方面を望む
大雁塔より東方面を望む
第10回NDNC

今回の第10回会議には22ヶ国から400名以上の参加がありました。開催地である地元中国からの参加者が260名と最も多く、他国からは約150名でした。日本は中国に次いで二番目に多く、約20名の参加があり、日本のこの分野における研究熱の高さが伺えます。その他には台湾、ドイツ、韓国、ロシア、フランス、イスラエル、インド、スイス、ベルギー、ポルトガル、フィンランド、イタリア、オーストラリアやアフリカ諸国からの参加が見られました。

会場となったThe Westin Xi’an
会場となったThe Westin Xi’an
会場のスクリーンにNDNC2016 歓迎の文字
会場のスクリーンにNDNC 2016 歓迎の文字

本会議では同時に二つのセッションが進行するマルチトラック方式が採用され、ダイヤモンド合成、グラフェン、生物および生物化学、ダイヤモンド表面、カーボン、ダイヤモンドデバイス、NVセンタ、カーボンナノチューブなど、総計24のセッションが行われました。本会議初日と三日目の最後に特別講演が計2題、本会議初日に基調講演が計6題、各セッションの中に計47題の招待講演が行われました。一般講演は全期間を通して計83題が行われました。特別講演は2題とも日本からの招待者によるものでした。初日の特別講演は物質材料研究機構の小出康夫氏によるワイドバンドギャップのⅢ–窒化物とダイヤモンド素材とデバイスに関する講演で、3日目の特別講演は名城大学の飯島澄男氏によるカーボンナノチューブに関する講演でした。  小出氏は2014年に青色発光ダイオードの発明でノーベル賞を受賞された赤﨑勇氏に師事して博士号を取得され、現在物質材料研究機構で中核機能部門長をされています。また、ニューダイヤモンドフォーラム学術委員会の委員長でもあります。飯島氏はカーボンナノチューブの発見と電子顕微鏡による構造決定において世界的に著名な研究者で、ノーベル化学・物理学賞に最も近いとの評判です。
6題の基調講演のうち1題が日本の研究者で、早稲田大学の川原田洋氏でした。川原田氏はナノデバイスの世界的な権威で2010–2014年までニューダイヤモンドフォーラムの会長をされていました。
47題の招待講演のうち日本の研究者によるものは7題ありました。産業総合研究所の梅沢仁氏、山田英明氏、長岡技術科学大学の斎藤秀俊氏、北海道大学の金子純一氏、徳島大学の酒井四郎氏、物質材料研究機構の寺地徳之氏、山口尚秀氏らがそれぞれのセッションで講演されています。
講演時間は特別講演が45分、基調講演が30分、招待講演が20分、一般講演が15分でした。
全講演のプログラムについてはNDNC2016のホームページhttp://ndnc2016.xjtu.edu.cn/でご覧いただくことが可能です。

講演会場の様子
講演会場の様子
ポスターセッションの様子
ポスターセッションの様子

筆者は一般講演において宝飾用のメレサイズの合成ダイヤモンドの現状について報告しました。概要については既報のCGL通信No.30とNo.32をご覧ください。その他に宝石関連としてはGIAのW. Wang氏による口頭発表と同じくGIAのU. F. S. D’Haenens–Johansson氏によるポスター発表がありました。これらの発表内容を以下に簡単にご紹介します。
GIAのW. Wang氏は[Si–V]センタの天然と合成に見られる分布の相違について報告されました。[Si–V]センタはフォトルミネッセンス分析で736. 6と736.9nmにダブレットのピークを示します。宝石学においてはCVD合成ダイヤモンドの識別特徴として良く知られています。しかし、天然でも稀に見られることがあり、最近はHPHT合成でも確認されています。Ⅱ型の天然ダイヤモンドでは3%以下に見られ、しばしばオリビンの包有物を伴っています。[Si–V]をマッピングしても分布は不規則でGR1(空孔)の分布とも関連が見られませんでした。HPHT合成では{111}セクターの境界付近にのみ分布していることが確認されました。また、CVD合成では分布は不規則ですが、マルチステップ成長をしたものでは{100}成長方向に平行に分布していると報告しました。
GIAのU. F. S. D’Haenens–Johansson氏は天然と合成のⅡ型ダイヤモンドの成長特徴をCLとUVによるルミネッセンス像から検討しました。ダイヤモンド中の不純物や欠陥の分布は成長やその後に蒙った塑性変形などの影響を受けています。これらの履歴を観察するために宝石学分野ではDiamond View™が用いられており、天然・合成起源の判別に役立てられています。GIAではUVを用いたDiamond View™に加えて電子顕微鏡によるCLも研究に用いています。天然Ⅱ型ダイヤモンドは塑性変形により線状やネットワーク状のディスロケーションパターンが見られ、成長分域は観察されません。いっぽうHPHT合成では六–八面体の成長分域構造が明瞭でディスロケーションはほとんど見られません。CVD合成ではステップフロー成長のためストリエーション(線模様)が観察されます。また、ディスロケーションも発達しており、観察する方向によっては未熟なオペレーターは天然Ⅱ型と誤認する恐れがあると報告しました。
今回のNDNC国際会議は2010年に次いで6年ぶりに中国での開催となりましたが、次回のNDNC2017はオーストラリアのケアンズ(Cairns)で開催されることが決定しています。◆

平成28年度宝石学会(日本)

2016年7月No.33

リサーチ室 江森  健太郎

平成28年の宝石学会(日本)講演会・総会が6月11日(土)に北海道大学工学部フロンティア応用研究棟鈴木ホールで開催されました。また、翌日の6月12日(日)には見学会が行われました。
北海道大学は日本初の学士授与機関として1876年(明治9年)に設立された札幌農学校を前身とする大学です。札幌農学校の源流は1872年(明治5年)に設立された開拓使仮学校ですが、大学全体としては札幌農学校が設立された1876年を北海道大学の創立年としています。1907年(明治40年)に東北帝国大学農科大学(北海道札幌区)として帝国大学に昇格、1918年(大正7年)に北海道帝国大学、1947年(昭和22年)に北海道大学、2004年に国立大学法人北海道大学となりました。

北海道大学構内にある札幌農学校初代教頭 ウィリアム・スミス・クラーク像
北海道大学構内にある札幌農学校初代教頭
ウィリアム・スミス・クラーク像

札幌農学校初代教頭であるウィリアム・スミス・クラーク(マサチューセッツ農科大学前学長)が米国帰国にあたり、札幌近くの島松で馬上から叫んだという「Boys, be ambitious.」は現在でも北海道大学のモットーとして受け継がれており、フロンティア精神、実学の重視、全人教育、国際性の涵養等を建学理念とし、現在も基本理念として掲げられています。
また、今回会場として使用した鈴木ホールは、2010年に芳香族化合物の合成法としてしばしば用いられる反応のひとつである「鈴木・宮浦カップリング」という合成法を編み出したことでノーベル化学賞を受賞した北海道大学名誉教授である鈴木章名誉教授に因んで建築されたホールあり、会場には鈴木章名誉教授の銅像他、研究に関する展示が設営されていました。

会場となったフロンティア応用科学研究棟
会場となったフロンティア応用科学研究棟
鈴木章名誉教授の銅像
鈴木章名誉教授の銅像
鈴木章名誉教授の研究に関する展示
鈴木章名誉教授の研究に関する展示

初日、11日(土)は9時半より受付が開始され、9時50分から16時45分の間で一般講演15題、特別講演が1題行われました。一般講演・特別講演には国内の主要な鑑別機関をはじめ、宝石業界関係者、北海道大学の学生等52名が参加しました。一般講演の内訳はダイヤモンド関係4題、色石関係8題、真珠関係3題でした。CGLからは久永美生所員(リサーチ室)による「メレサイズの無色~ほぼ無色HPHT法合成ダイヤモンド」、筆者(リサーチ室)による「判別分析を用いた天然・合成アメシストの鑑別」、水野拓也所員による「過去5年間のCGLにおける宝石鑑別依頼内容にみられた国内市場動向」の3題が報告されました。

一般講演会の様子
一般講演会の様子
研究報告を行う久永美生所員
研究報告を行う久永美生所員
研究報告を行う筆者
研究報告を行う筆者
 研究報告を行う水野拓也所員
研究報告を行う水野拓也所員

特別講演として、北海道大学大学院理学研究科地球惑星科学部門、橘省吾准教授による「宇宙の宝石―実験天文学から『はやぶさ2』まで」というタイトルで講演がありました。橘省吾准教授は日本の国家プロジェクトである「はやぶさ2」のサンプル分析を担当しており、「はやぶさ」は何故イトカワに行ってサンプリングを行ったのか、「はやぶさ2」が目的地であるリュウグウで何をするのかといった大変興味深い話をしてくださいました。

特別講演を行う橘省吾准教授
特別講演を行う橘省吾准教授

11日(土)午後18時からは、宝石学会(日本)懇親会がキリンビール園本館にて行われ、45名の参加がありました。通常は宝石学会(日本)の懇親会は立食パーティーで行われますが、北海道ということでジンギスカンパーティーが行われ、他の出席者の方々との交流等、有意義な時間を過ごすことができました。

2日目、12日(日)は石狩浜と三笠市博物館において見学会が行われ、31名が参加しました。
石狩浜や厚田区の無煙浜には石狩川やその支流の夕張川、空知川等の流域にある炭田地区から流れたコハクが浜辺に漂着するため、石狩浜はコハクが採取できることで有名です。参加者一同でコハク採取にでかけましたが、採取は難しかったようです。

石狩浜を後にした参加者一同は、次の目的地、三笠市博物館に向かいます。三笠市博物館は1976年に三笠市内に分布している白亜紀の地層からウミトカゲ類のものとみられる頭蓋骨が発掘され、この出来事が発端となり、郷土資料等の民族部門と併せて1979年に創立されました。地質学関連の資料展示、主にアンモナイト等化石を中心とした3000点に上る資料が展示されています。また、野外博物館が併設されており、ここでは「三笠ジオパーク」のジオサイトの1つとなっており、野外において実際の地層や炭鉱遺跡等を見ることができ、5000万年前~1億年前の地層を見学することができ、好評でした。

石狩浜海浜植物保護センター
石狩浜海浜植物保護センター
海岸でコハクを採取する参加者達
海岸でコハクを採取する参加者達
三笠市立博物館の外観
三笠市立博物館の外観
三笠市立博物館のアンモナイトの展示
三笠市立博物館のアンモナイトの展示
野外博物館にて。炭鉱跡と石炭の露頭(黒色部は石炭)
野外博物館にて。炭鉱跡と石炭の露頭(黒色部は石炭)

石狩浜、三笠市博物館と自然、地質学、北海道の歴史等について多くを学ぶことができ、見学会に参加された方々には有意義な一日となりました。次回、2017年宝石学会(日本)総会・講演会は東京地区で開催されることが決まっています。◆