日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Science)は平成19年9月に日本鉱物科学会と日本岩石鉱物鉱床学会の2つの学会が統合・合併され発足し、現在は大学の研究者を中心におよそ900名の会員数を擁しています。日本鉱物科学会は鉱物科学およびこれに関する諸分野の学問の進歩と普及をはかることを目的としており、「出版物の発行(和文誌、英文誌、その他)」、「総会、講演会、研究部会、その他学術に関する集会および行事の開催」「研究の奨励および業績の表彰」等を主な事業として活動しています。2016年10月に、一般社団法人日本鉱物科学会として新たな出発の運びとなり、(1)社会的及び学術界における信頼性の向上、(2)責任明確化による法的安定、(3)学会による財産の保有等が確保され、コンプライアンスの高い団体として活動していくことになりました。2017年会・総会は、一般社団法人としてはじめての年会・総会になります。
試料は、最近CGLにグレーディング依頼で持ち込まれた2種類のファンシーカラー・ダイヤモンドである。これらは別々の顧客から持ち込まれたもので合成ダイヤモンドの可能性については開示されていなかった。1つは1.027ct, Fancy Dark Brown, VS1で検査の結果CVD合成と判断された(図1)。
図1:天然と同様の色調を示す褐色のCVD合成ダイヤモンド(赤丸検査石)。1.027ct, Fancy Dark Brown,VS1
天然の褐色ダイヤモンドの多くは塑性変形に由来して形成する色帯、いわゆるBrown grainingを伴っている。これらは{111}面に平行で、たいていカットされたダイヤモンド全体に及んでいる。Brown grainingは1方向の場合もあるが、2方向あるいは3方向と交差していることも多い(文献5)。
ただし、今回検査を行った1.027ct, Fancy Dark Brownのダイヤモンドは1方向のみに複数の明瞭な褐色の色帯が見られた(図3)。
図3:褐色CVD合成ダイヤモンドに見られた1方向のみの明瞭な褐色の色帯
Fancy Dark Brownというボディ・カラーとこのBrown grainingの存在により、初期の検査においては天然ダイヤモンドを思わせた(図1)。しかし、天然褐色ダイヤモンドであれば、Brown grainingに沿って交差偏光下で高次の干渉色を示す歪複屈折が認められるが、検査石にはgrainingに平行な1次干渉色の歪とそれに垂直方向に伸びる歪複屈折が認められた(図4)。この歪複屈折はCVD合成に特有のもので種結晶から派生する。その発生メカニズムの概略を図5に示す。
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去る 2017年7月中旬、中国北京市の国土资源部珠宝玉石首饰管理中心(National Gems & Jewelry Technology Administrative Center (NGTC))を訪問し、最近の合成ダイヤモンドの現状と鑑別技術の話題を中心に情報交換を行いました。以下に概要をご報告致します。
図1.中国北京市の象徴である天安門
National Gems & Jewelry Technology Administrative Center (NGTC)とは
国土资源部珠宝玉石首饰管理中心(National Gems & Jewelry Technology Administrative Center (NGTC))
( http://www.ngtc.com.cn/)は、故宮や天安門のある北京市の中心地から北へ数kmの北三环东路にあるグローバルトレードセンターにオフィスがあります。グローバルトレードセンターはA座、B座、C座、D座の計4棟の高層ビル群で、北京でも屈指の高級オフィスビルとして知られています。NGTCはそのC座の22階にあります。NGTCは国家珠宝玉石质量监督检验中心(National Gemstone Testing Center)を傘下にもち、ここも略称はNGTCと呼ばれています。同じフロアには中国珠宝玉石首饰行业协会(Gems & Jewelry Trade Association of China (GAC))も入っており、まさに中国の宝飾ビジネスのシンクタンクといえます。
これまでCGL通信で幾度かお伝えしているように(CGL通信No.35、No.36をご参照ください)、中国はHPHT合成ダイヤモンドの主要な生産国です。その中国での宝飾品の検査体制、合成ダイヤモンドの現状を理解するために今回の訪問が実現しました。筆者の訪問を快く受け入れてくれたのはNGTCの首席研究員の陸太進博士(Dr. Lu Taijin)です。陸博士は1982年に武漢地質学院を卒業された後、日本の東北大学で「水晶およびめのうの双晶と微細組織の形成」の研究において理学博士を取得されています。その後、理化学研究所ではレーザー光散乱トモグラフィを用いた半導体結晶の微小欠陥の評価など、現在の宝石鑑別技術の礎となる研究をされています。陸博士の活動範囲は広く、シンガポール大学や米国のGIAでも活躍され、宝石関連論文を100以上執筆されています。
本研究ではLA–ICP–MS装置として、LA(レーザーアブレーション装置)はNew Wave Research UP–213を、ICP–MSはAgilent 7500aを使用した。分析条件は表3に示した通りである。標準試料にはNIST612を用い、内標準として、アメシストの分析には28Si、ルビー、パライバトルマリンの分析には27Alを用いた。
■参考文献 文 献1:Blodgett T., Shen. A., 2011, Application of discriminant Analysis in gemology: country-of-origin separation in colored stones and distinguishing HPHT-treated diamonds, Gems & Gemology, Summer 145 文 献2:Luo Z., Yang M., Shen A., 2015, Origin determination of dolomite-related white nephrite through iterative-binary linear discriminant analysis, Gems & Gemology, Fall 300-311 文 献3:Fisher, R.A., 1936, The use of multiple measurements in taxonomic problems. Annals of Eugenics, 7, 179-188 文 献4:Cox, D.R., 1958, The Regression Analysis of Binary Sequences. Journal of the Royal Statistical Society Series B (Methodological), 20(2), 215-242
15. Observations on New Enhanced Sapphires: Before and After
○Hyunmin Choi, Sunki Kim, Youngchool Kim (Hanmi Gemological Institute & Laboratory)
韓国の会社がダイヤモンドをHPHT処理する機械を使い、サファイアの処理を始めた。処理する温度圧力はダイヤモンドよりもずっと低く、500–900kbar、温度は1200–1800℃で15分加熱を行うらしい。処理する温度圧力を変化させ実験を行い、宝石学の一般的な特性と分光特性を調べた。処理後のインクルージョン、分光分析結果は通常の加熱処理が施されたサファイアと同じであった。しかし、サンプルによっては結晶やネガティブクリスタル、フィッシャーやフラクチャーができていたり、反射する薄い膜が消えたり、色帯が弱くなったものもあった。FT–IRによる分析結果では、処理前に認められなかった構造的OH基(3047cm–1)に関する強い吸収帯が発生した。
去る 2017年2月1日(水)~3日(金)に韓国ソウル市のSeoul Jewelry Industry Support Center(SJC)を訪問し、最近の合成ダイヤモンドの現状と鑑別技術の話題を中心に情報交換を行いました。以下に概要をご報告致します。
ソウル市のシンボルともいえるソウルタワーの夜景
Seoul Jewelry Industry Support Center(SJC)とは
Seoul Jewelry Industry Support Center(SJC)は2015年6月に開設されたソウル市のジュエリー産業を育成するための総合支援施設です。(https://www.seouljewelry.or.kr/eng/main/main.do)
SJCはソウル市のほぼ中心に位置するチョンノ3街(鍾路3丁目)にあります。この地は韓国ジュエリー産業のメッカであり、製造から販売までのジュエリー関連製品に関わる企業が集積しています。また、周辺には世界文化遺産に登録されている故宮(景福宮、昌徳宮)や宗廟(王と王妃の位牌を祀った儒教の祀堂)、韓国の伝統的家屋である韓屋(ハノク)の密集する地区である北村韓国村があり、朝鮮時代から近代までの歴史的な趣のある文化的地域です。SJCはまさに宗廟の外壁に面した閑静な場所に立てられています。
※Wolgok Jewelry Foundationは、株式会社LeeGoldの創業者として50年以上韓国のジュエリー産業に従事してきたイジェホLee Jae Ho氏が200億ウォンの私財を投じて2009年に設立した公益法人。韓国のジュエリー産業の健全な発展に寄与すべく、傘下にWolgok Jewelry Research Centerを有し、定期的に業況調査を行っている。
ダイヤモンド団体認定制度
韓国では消費者からの信頼を得るための正しいダイヤモンド・グレーディング文化の構築に向けての活動が長年にわたって行われてきており、その一環として2016年11月より「ダイヤモンド団体認定制度」が発足しています。この制度は“研磨されたダイヤモンドの鑑定”に関する韓国標準規格(KS D 2371)を基にしており、ダイヤモンド・グレーディングすべての平準化を目指しています。その最初の試みとして、日本と同様にマスターストーンを統一してのカラー・グレードの平準化が進められています。この制度の主宰は社団法人韓国貴金属宝石団体長協議会です。同協議会は材料、貴金属、研磨、加工、製造、鑑別、デザインなどの韓国のジュエリー産業に関わる10以上の団体から構成されています。カラーグレーディングのマスターストーンの選定を含む認定制度の実務は同協議会の傘下としてダイヤモンド鑑定団体認定委員会が組織され運営されています。このダイヤモンド団体認定制度の適正な管理・運営の活動の一環として2016年9月に社団法人韓国貴金属宝石団体長協議会会長Kim Jong–Mok氏、ダイヤモンド鑑定団体認定委員会委員長Cho Ki–Sun氏、Wolgok Jewelry Research Center所長Ohn Hyun–Sung氏、Seoul Jewelry Industry Support CenterのLee Bo–Hyun氏の4名がAGLを表敬訪問され、一足早く実施されてきた日本のマスターストーン制度について視察されています。
韓国のダイヤモンド・マスターストーンはGIA基準の12石(E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、S、Z)がそろえられており、その原器はSJCに保管されています。現在、この団体認定制度に加盟している鑑別機関は5社あり、加盟機関のグレーディング・レポートはデザインが統一されています。そのため書面を見ればすぐに認定制度によるレポートであることがわかります。この認定制度を推奨している販売業者はすでに10社以上あり、韓国のジュエリー産業で根ざしていくことが期待されています。◆
HRD(Hoge Raad voor Diamant)は、ベルギー・アントワープに本部を置く世界最大のダイヤモンド研究機関で、AWDC(アントワープ・ワールド・ダイヤモンド・センター)によって運営されています。世界で最も高い水準と信頼性をもつ鑑定機関の一つとして知られており、ダイヤモンド鑑別の分野において最先端の技術を有しています。また、世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)および国際ダイヤモンド製造者協会(IDMA)の2大機関によって承認され、国際ダイヤモンド審議会(IDC)の基準に準拠している国際的研究機関でもあります。さらにHRDはダイヤモンドのグレーディングのみならず、教育、器材、研究の各部門を有しています。
今回の講師はHRDアントワープのチーフエデュケーションオフィサーのKatrien De Corte博士です。彼女はベルギーのGhent大学で宝石学の客員教授もされている第一線の宝石学者でもあります。国際宝石学会(IGC)などでも研究発表をされており、世界各国の業界関係者にダイヤモンドに関する講演を数多く提供されています。今回の講演でも非常にわかりやすくプレゼンテーションを行っていただきました。
講師のKatrien De Corte博士
講演会の様子
後援・協力
本セミナーは駐日ベルギー大使館が後援していました。そしてAntwerp World Diamond Centre(AWDC)、時計美術宝飾新聞社および弊社が協力させていただきました。ベルギー大使館からは一等書記官のBent Van Tassel氏が会場に来られ、セミナー開始前に挨拶をされました。同氏のスピーチとCorte博士の講演は英語で話されるため、その通訳をGem–Aに留学経験があり、宝石学に造詣の深い徳山薫氏が勤めてくださいました。
M–ScreenはHRDアントワープとWTOCD(Wetenschappelijk en Technisch Onderzoeks Centrum voor Diamant’ アントワープのダイヤモンドリサーチセンター)の共同で開発したメレサイズダイヤモンドの全自動スクリーニング(粗選別)システムです。
卓上設置が可能なデスクトップサイズで、超高速(最小でも毎秒3個)でメレサイズのダイヤモンドを粗選別します。対象は0.01ct〜0.20ctのD〜Jカラーのラウンドブリリアントカットされたダイヤモンドです。選別を行う基本原理は波長の短い紫外線による特性と未公開の特許技術が使用されています。選別結果は、「天然ダイヤモンド」と100%確信できるもの、さらに検査が必要な「合成あるいはHPHT処理の可能性がある天然ダイヤモンド」、そして「類似石」に分別されます。
そして2017年1月からは新しくバージョンアップしたM–Screen+を提供しています。この装置はより小さなダイヤモンド(0.005–0.10)にも対応し、さらに早い(1秒間で5石以上)測定が可能となっております。
2016年11月14日(月)~15日(火)の2日間、GIT2016 The 5th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)がタイのパタヤで行われました。本会議には当研究所から4名が参加し、1名が口頭発表を行いました。以下に概要をご報告致します。先に発行されましたCGL通信No.36ではPre-Conference Excursion(本会議前の原産地視察)の報告がされています。
GIT 2016とは
International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)はGIT(The Gem and Jewelry Institute of Thailand)が主催する国際的に有数の宝飾関連のカンファレンスの一つです。2006年に第1回が開催され、今回2016年11月に第5回目としてGIT 2016が開催されました。
GITはLMHC(ラボマニュアル調整委員会)にも属する国際的に著名な宝石検査機関であり、CGLと科学技術に関する基本合意を締結し、密接な技術交流を行っています。本カンファレンスはGITが主催していますが、タイの商務省等が後援しており国を挙げての国際会議ともいえます。本会議運営のため、15ヵ国36名の国際技術委員会が結成され、CGLの堀川洋一もその一役を担いました。
本会議
本会議はパタヤ市内のZign Hotelが会場となり、世界22ヵ国から300名を超える参加者が集いました。また、開催地であるタイ王国は2016年10月13日のラーマ9世(チャクリー王朝第9代のタイ国王)の崩御が記憶に新しく、亡き国王への敬愛の深さから死を悼む表示が空港、各街のいたるところに見かけられました。この厳かな雰囲気と国民の服喪期間はGIT 2016にも影響が出ており、特設ウェブサイトは白黒基調、このカンファレンスの開会に際しても国王の偉業を思いだすVTRが流され、私達出席者も皆、哀悼の意を示しました。日常的にみられることはないであろう黒い装いのGITスタッフ一同の姿が印象的でした。
開会式の挨拶の後、8件の基調講演と招待講演の他、30件の一般講演が行われました。各種宝石素材についての発表、カットの重要性の再考と評価システムについての検討、ファッション業界の流行を意識したカラー/テイストのトレンド紹介等様々な切り口の発表がありました。CGLからは江森が一般講演「Gem Deposits & Identification」のセッションにおいて、「Identification between natural and synthetic amethyst using discriminant analysis」という題で発表を行いました。