3) Musée des Arts Décoratifs
アンティーク(1878年〜)から現在まで、4000点の素晴らしい宝飾品が飾られている。
“Jewelry Galley”として2004年6月にオープン。
江戸時代や明治時代の象牙や珊瑚の根付け、かんざし、くしなどもアールヌーボーやアールデコの作品と共に展示されていた。非常に緻密な象眼細工をパリで見ることができ見学者達の賞賛の声に日本人として誇らしい思いを持った。
2019年6月20日から21日の2日間、米国ワシントンD.C.のカーネギー研究所で開かれたアメリカ鉱物学会 (MSA, Mineralogical Society of America) の100周年記念シンポジウム (MSA Centennial Symposium: The Next 100 Years of Mineral Sciences) に参加した。文字通り、鉱物科学が今後100年でどのように発展していくかを議論するシンポジウムである。会場となったとなったカーネギー研究所のScience Buildingは、ホワイトハウスから真北に1.5 kmほどの距離にあり、Washington D. C.でも閑静な町並みの中にある。研究所に面した歩道の街路樹ではリスが愛嬌を振りまいていた(アメリカではリスは庭を荒らす害獣とみなされているはず)。(写真1,2,3)
初日の夜にスミソニアン自然史博物館で盛大にレセプションが開かれた(写真4)。正面玄関ホールの巨大なアフリカ象の剥製の前にステージが設置され、今回のワークショップのスポンサーでもあるGIA(Gemological Institute of America)のExecutive Vice Presidentを務めるTom Moses氏が冒頭の挨拶を行った。その後は料理や飲み物が博物館の展示ホールに用意され、貴重な鉱物展示をみながら参加者同士で情報交換を楽しむことができた。また、会場ではMSA100周年のロゴが入ったシャンパングラスが参加者に配られ、嬉しいお土産となった(写真5)。◆
<国際的には>
主要な国際的な宝石鑑別ラボで構成されるLaboratory Manual Harmonisation Committee (LMHC)では、原産地あるいは鉱物種に関係なく、青~緑色の含銅トルマリンを以下のようにパライバ・トルマリンと定義しています(文献1)。
A Paraiba tourmaline is a blue (electric blue, neon blue, violet blue), bluish green to greenish blue, green or yellowish green tourmaline, of medium–light to high saturation and tone (relative to this variety of tourmaline), mainly due to the presence of copper (Cu) and manganese (Mn) of whatever geographical origin. The name of the tourmaline variety “Paraiba” is derived from the Brazilian locality Paraiba where this gemstone was first mined.
このようなパライバ・トルマリンの定義づけは、CIBJO(国際貴金属宝飾品連盟)およびICA(国際色石協会)においても踏襲されており、国際的に広く受け入れられています。
トルマリン鉱物は、地質学的に種々の産状が見られますが、多くの宝石質トルマリンはペグマタイト中に産出します。ペグマタイトは、マグマが固化していく過程の晩期に形成される火成岩です。マグマの分化がある程度進んだあとには空洞が生じ、そこに大きな結晶が成長します。マグマから結晶が析出する際に、結晶に取り込まれやすい元素は、早期にマグマから失われていきます。いっぽう、結晶に取り込まれにくい元素(不適合元素と呼ばれる)は結晶化が進んでもマグマの中に残されます。したがって、マグマの残液に濃集しやすい特異な元素(イオン半径が大きい(小さい)、電荷が大きい(小さい))がペグマタイトに産するトルマリンに取り込まれます。
また、元素は地球化学的に親石元素と親銅元素に分類されます。前者は地殻(地球の表層付近)に濃集する傾向があり、後者はマントル下層(地球の深部)に濃集しやすい元素です。トルマリンを構成するほとんどの元素は親石元素で地殻に豊富ですが、パライバ・トルマリンの色の原因となる銅は親銅元素です。したがって、結晶中に両者が共存することはきわめて稀なことで、パライバ・トルマリンは特異な地質環境による限られた地域にしか産出していません。
パライバ・トルマリン中の銅(Cu)。このような地球化学的に相反する元素の稀有な共存は他にも見られます。ルビー、エメラルド、アレキサンドライトなどのクロム(Cr)です。コランダム、ベリル、クリソベリルを構成するBe, O, Al, Si などは地球浅部に濃集しやすい元素ですが、クロムは地球深部に存在しやすい元素です。クロムが希少な宝石の鮮やかな色の原因となることは良く知られていましたが、微量な銅(Cu)が着色に起因する宝石はパライバ・トルマリンがはじめての発見でした。
Mineracao Terra Branca社が所有しているので一般にはMTB鉱山として知られています。この鉱山では最盛期に100名以上のスタッフが従事しており、砕石された鉱石からパライバ・トルマリンを選別する女性スタッフだけでも60名以上働いていました。選別は1次選別と2次選別があります。1次選別では白いテーブルの上に山積みになった鉱石からパライバ・トルマリンを探します(図 21)。
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高温高圧(High Pressure High Temperature : HPHT)によるダイヤモンドの合成は、地球の上部マントルと同様の環境を再現したもので、典型的には2100℃、7GPaというような条件下での、固相液相平衡状態における合成である。これに対して、C V D (Chemical Vapor Deposition)は、固相に直接、気相を接することによって、固体表面で一層ずつ成長していく非平衡の合成方法である。気相を提供する手法によって図1に示すような方法が報告されている。この中で圧倒的に広く用いられているのが、熱フィラメントCVDとマイクロ波プラズマCVDである。いずれも1980年頃、つくばの無機材質研究所(現 物質・材料研究機構)の加茂氏らにより発明された合成法であり1)2)など、日本が誇るべき研究成果である。ダイヤモンドがグラファイトに変換せずに合成する温度は、概ね850~1000℃程度であり、約2800℃程度の高温プラズマに至近距離で接する。この様子を図2に模式的に示す。一般的に熱フィラメントCVD(Hot Filament CVD)はHFCVDと略記され、マイクロ波プラズマCVD(Microwave Plasma CVD)はMPCVDと略記される。
マイクロ波CVDの合成中の写真を図3 b)に示す。用いるマイクロ波は、日本ではISM帯(総務省指定のフリー周波数帯:Industry, Scientific and Medical band)の2.45GHz(2.4~2.5)が主流である。入力パワーは概ね1〜6kWが主流である。海外では950MHz帯がISM帯に指定されている国が多く、低周波数の方が長波長で、成膜面積が大きくなるため多用されている。MPCVDも、世界中で既存設備が市販されている。典型的な装置群を図5a) に内部模式図と共に示す。b)は、所謂「セキ型」と呼ばれるコーンズテクノロジー社の装置(日本:元セキテクノロジー社)で、周波数は2.45GHzを用いている。この図は下部からマイクロ波を導入してアンテナで広げるタイプのものである。これに対して、大面積用に波長の大きな915MHzを用いるのがc)d)に示した海外の装置である。出力もこの周波数帯は30kWというような大出力装置も可能である。概ね4インチΦ(約10cmΦ)面積に対応可能である。成膜速度は、入力パワーに依存し、典型的には3~50µm/h程度である。HFCVDと異なり、高速・小面積合成となる。合成速度×合成面積で見ると、HFCVDとMPCVDは、ほぼ同等といえよう。
宝石用の原石合成は、ある程度厚めのダイヤモンドが必要であり、殆どの場合MPCVDが用いられている。例えば25µm/hの速度で連続合成して、1mm厚合成に40時間、6mm厚で240時間(10日)というイメージになる。
ベトナム産ルビーはミャンマー産のものに匹敵する品質を持つものも存在しており、その産地鑑別は宝石学では重要な課題の1つとなっている。また、他の色のベトナム産サファイアについては、市場性は低く、そのため宝石学的特性もあまり知られていない。本研究ではベトナムLuc Yen産コランダム51点(青色系30点、赤色系21点:0.16 〜 1.70 ct)の宝石学的検査とLA–ICP–MS分析を行い、産地鑑別の可能性について検証を行った。ベトナムLuc Yen産コランダムは非玄武岩起源のコランダムに分類され、青色系はLA–ICP–MS分析によるGa vs. Vプロット、赤色系はFe vs. Vプロットが同じ非玄武岩起源のコランダムと区別する際の指標となることがわかった。
コランダム中に含まれる主要な微量元素Mg、Ti、V、Cr、Fe、GaについてLA–ICP–MS分析を行った。サンプルには色むらが存在したが、測定箇所は無作為に選び、各石につき4点ずつ分析を行った。Ga/Mg比はマグマ起源、変成岩起源のブルーサファイアを分別する信頼のおける手法として使われている(文献4)。Peucat et al. (2007)(文献)を元にCGLで収集したデータを元に作成した図にプロットをした結果を図11に示す。本研究で用いたサンプルにおけるGa/Mg比は色、鉱区(Luc Yen、An Phu、Chau Binh)関係なく0.03–3.32であり、10以下であることから変成岩起源であることを示唆する。
図11. Peucat et al.2017(文献4)を元に作成したグラフに本研究で用いたコランダムをプロットしたグラフ
表2には本研究で用いたベトナム Luc Yen 産ブルー、ブルー+バイオレット、バイオレット系サファイアのMg、Ti、V、Cr、Fe、Gaのサンプルの最小~最大値(ppma)と、対比用に変成岩起源のミャンマー、スリランカ、マダガスカル産ブルーサファイアの同データ(CGL所有データベースより)を記載した。本研究で用いたベトナム産サファイアは色むらが多く、色に関連する主要元素(Mg、Ti、Cr、Fe)に関しては同一サンプル内でも濃度のばらつきが多いという特徴がある。V、Gaはサンプル内でのばらつきは少なく、ほぼ一定している傾向にあった。Gaを横軸、Vを縦軸とし、プロットを行った図を図12に示す。
図12 ベトナムLuc Yen産ブルー、ブルー+バイオレット、バイオレット系サファイアのGa vs. Vプロット
ブルー、ブルー+バイオレット、バイオレット系のサファイアは他の変成岩起源のサファイア(ミャンマー、スリランカ、マダガスカル)産と比較し、Vが多い傾向にある。Ga vs. Vプロットにおいて、ベトナムLuc Yen産とスリランカ産はオーバーラップする部分が多いがミャンマー、マダガスカル産ブルーサファイアとは非常に良く乖離しており、産地の比較には有効であることがわかる。
またブルー系サファイア同様、表3にはベトナム Luc Yen 産ピンクサファイア、ルビーについてMg、Ti、V、Cr、Fe、Gaの最小、最大値について表にまとめた。また、変成岩起源のミャンマー、モザンビーク、マダガスカル産のルビーとの対比を行った(CGL所有データベースより)。ピンクサファイア、ルビーについても、色むらの影響でCrの濃度が同一サンプル内でばらつきが多いという傾向にある。
ベトナム Luc Yen 産コランダム51点(青色系30点、赤色系21点:0.16 〜 1.70 ct)について一般的な宝石学検査に加え、紫外―可視分光、赤外分光、LA–ICP–MSによる微量元素分析を行い、他産地との比較を行った。紫外―可視分光、赤外分光分析の結果では、際立った特徴は見いだせなかったが、LA–ICP–MS分析の結果、Ga/Mg比が0.03〜3.32と10未満であり、非玄武岩起源のコランダムであることがわかった。また、ブルー、ブルー+バイオレット、バイオレット系のサファイアでは他の非玄武岩起源のスリランカ、ミャンマー、マダガスカル産ブルーサファイアと比較するとVに富む傾向が見られ、Ga vs. Vプロットを行うとベトナムLuc Yen産サファイアはスリランカ、ミャンマー、マダガスカル産と若干オーバーラップする部分が含まれるが、産地鑑別の一助となることが判明した。また、ピンクサファイア、ルビーにおいては同じ非玄武岩起源のミャンマー産ルビーと比較すると、Vが少なく、モザンビーク、マダガスカルと比較した結果Feが少ないという傾向にあり、Fe vs. Vプロットを行うことで、よい乖離を示すことが分かった。◆
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HPHT法は、High Pressure High Temperatureの略で、地球深部で天然ダイヤモンドができる高温高圧の環境を人工的に再現したものです。非常に高い温度(1500℃程度)と高い圧力(5–6GPa)を与えて、原料となる炭素物質(グラファイトやダイヤモンド微粒)をダイヤモンドの結晶へと成長させます。炭素物質は水には溶けないため、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の金属溶媒を用いて溶解し、ダイヤモンドを結晶化させます(図4)。種結晶を用いずに合成すると、自発核発生した小粒の単結晶が短時間で成長します。最大のサイズでも1 mm以下であり、結晶内部に多くの不純物(溶媒金属等)を含み、宝飾用には適しません。これらの微小単結晶は、ダイヤモンド砥粒と呼ばれ、研削砥石の素材として工業用に多量に製造されています。
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ヒスイは、低温高圧で変成した地質帯で発見される(Essene, 1967; Chihara, 1971; Harlow and Sorensen, 2005)。日本海溝は、太平洋プレートと日本列島を含むユーラシアプレートの境界で、冷たい太平洋プレートが日本列島の下に沈み込んでいる。この場所はヒスイができる低温高圧の条件に符合する。日本には8か所ほどのヒスイ産地がある(地図1)。日本海側に分布する蓮華帯および三郡帯のヒスイ(糸魚川、大佐、大屋、若桜)のほとんどは純度が高く、90%以上がヒスイ輝石(同類オンファサイトを含む)からできている。その他の地域では、ヒスイ輝石が80~50%を超える岩石は稀であり、ほとんどが曹長石、藍晶石、方沸石などを多く含む(Yokoyama and Sameshima, 1982; Miyazoe et al., 2009; Fukuyama et al., 2013)。
地図1:日本におけるヒスイ輝石の産出地
蓮華–三郡帯 糸魚川地区は蓮華帯に属し、蓮華帯は低温高圧の変成岩、変成堆積岩、角閃岩、ロジン岩など様々な構造岩塊を含む蛇紋岩メランジェである(Nakamizu et al., 1989)。宝石質のヒスイは小滝川流域と青海川の橋立地区でのみ、二畳紀-石炭紀の石灰岩と白亜紀の砂岩・頁岩との断層の境界に置かれた蛇紋岩の巨礫として産するのが見つかっている。ヒスイの巨礫は大きさが1~数メートルで、ほとんどが数百メートルの距離の地域に分布している。小滝地区のヒスイ岩石には、曹長石(石英を伴うまたは伴わない)、白色ヒスイ、緑色ヒスイ、水酸化ナトリウムに富むカルシウム含有角閃石、そして母岩である蛇紋岩が外縁に向かって同心の帯状に放射状になっているのが見られる。青海のヒスイ岩石は「独特の層状構造」を持ち、特に交互に粗と密になったコンパクトな層が見られることもあり、ラベンダーヒスイを含むことがよくある(Chihara, 1991)。
日本産ヒスイについて更なる研究
日本産ヒスイの歴史と地質産状についてこれまでに多くの研究が行われてきた。一部の研究報告では、糸魚川産の緑色ヒスイは鉱物学的にヒスイ輝石とオンファサイトから成り、緑色部はオンファサイトであり、緑色の主な原因はFeであると指摘されきた(Oba et al., 1992, 宮島1996, 2004)。筆者は世界的にヒスイの名産地であるミャンマー、グアテマラ、ロシアからのヒスイの光学的特性や岩石学的構造、および地球化学を学習すると共に、日本産ヒスイの色の種類、鉱物学的内部組織、化学成分の特徴などを宝石学的な観察と分光分析法、そして電子線マイクロプローブ(EPMA)およびレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA–ICP–MS)による定量分析を行ってみた。本稿では糸魚川産(小滝川および青海川)ヒスイに限定して、その宝石学的特徴と化学的性質を記述する。本研究に用いた糸魚川産ヒスイは、小滝川地域のものが32個、青海川地域のものが7個である(図5)。
これらは『フォッサマグナ・ミュージアム』http://www.city.itoigawa.lg.jp/fmm/と、
日本産ヒスイにおける希土類元素(REE)は、緑・白・黒のヒスイよりも、ラベンダー色~青色の試料の方がより富んでいる傾向にある。すべての色において、軽希土類元素(LREE: La, Ce, Nd, Sm)の濃度は重希土類元素(HREE: Eu, Gd, Dy, Y, Er, Yb, and Lu)の濃度より高い傾向にあった。このコンドライト規格化希土類元素パターンから、日本産のラベンダー色~青色のヒスイは高いLREE/HREE比と、他のREEに比べて低いEu濃度を特徴とすることができる。
興味深いことに、すべての色の日本産ヒスイの原始マントル規格化微量元素パターンは、イオン半径の大きい親石元素(LILE)であるSrおよびBa、そして電荷の大きいな元素(HFSE)であるZrおよびNbの強い正の異常を示した。緑色ヒスイの希土類元素パターンはだいぶ少なく抑えられているようだが、白や黒のヒスイと比べるとかなり高く、Sr、Zr、Hfは強い正の異常を示す。この結果はMorishita et al.(2007)による結論とも合致し、それは、沈み込み帯における糸魚川-青海産のヒスイの形成に関連した流体は、珍しくも流体により沈み込み帯にもたらされたLILEおよびHFSEの両方に富んでいて、また、こうした元素は蛇紋岩化したかんらん岩にリサイクルされるというものである。
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