[1] Lafuente B., Downs R. T., Yang H., & Stone N. (2015). The power of databases: the RRUFF project. In: Highlights in Mineralogical Crystallography, T. Armbruster and R. M. Danisi, eds. Berlin, Germany, W. De Gruyter, 1–30
[2] Chen HF., Lin S., Li YH., & Fang JN. (2020). Dyed chalcedony imitation of chrysocolla–in–chalcedony. Gems and Gemology, 56(1), 188–189
[3] Temujin J., Okada K., Jadambaa TS., Mackenzie K. J. D., & Amarsanaa J. (2002), Effect of grinding on the preparation of porous material from talc by selective leaching. Journal of Materials Science Letters, 21, 1607–1609
(2) 各産地における微量元素の差
図3にマンガン(Mn)と鉛(Pb)濃度をプロットしたグラフを示す。三重県志摩産のサンプルは他産地よりマンガン(Mn)の含有量が多いことがわかる。また、長崎県産の対馬・佐世保産については鉛(Pb)の量が多い。愛媛県蒋渕産と熊本県天草産サンプルはマンガン(Mn)、鉛(Pb)の量が分析した他の産地に比べ少ない傾向にあるが、一部の重複はあるものの個別のグループを形成している。しかし、マンガン(Mn) vs. 鉛(Pb)プロットのみだと、長崎県壱岐産と愛媛県蒋渕産のサンプルはオーバーラップする部分が多く、この2者の区別は困難である。
参考文献 (文献1) 正岡哲治(2005) 分子遺伝学的手法によるアコヤガイ属貝類の系統と種判別に関する研究. 北海道大学大学院水産科学位論文 (文献2) Kinoshita S, Wang N, Inoue H, Maeyama K, Okamoto K, et al. (2011) Deep Sequencing of ESTs from Nacreous and Prismatic Layer Producing Tissues and a Screen for Novel Shell Formation–Related Genes in the Pearl Oyster. PLoS ONE 6(6): e21238. doi: 10.1371/journal.pone.0021238 (文献3) 新井崇臣 (2007) 耳石が解き明かす魚類の生活史と回遊. 日本水産学会誌73(4),652-655
2022年2月2日〜 3日の2日間、GIT2021 The 7th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)がタイのチャンタブリとオンラインのハイブリッド形式で行われました。本会議にはCGLリサーチ室から3名がオンラインで参加し、うち1名が口頭発表を行いました。以下に概要をご報告致します。
GIT2021とは
International Gem and Jewelry Conference (国際宝石・宝飾品学会))はGIT (The Gem and Jewelry Institute of Thailand) が主催する国際的に有数の宝飾関連学会の一つです。第1回目は2006年で、以降は2〜3年に1回開催されています。今回は第7回目としてGIT2021が開催されました。本来であれば、2021年中に開催される予定でしたが、コロナ禍により延期となり、2022年2月の開催となりました。
GITはLMHC(ラボマニュアル調整委員会) にも属する国際的に著名な宝石検査機関であり、CGLと科学技術に関する基本合意を締結し、密接な技術交流を行っています。本学会はGITが主催していますが、タイの商務省などが後援しており、国を挙げての国際会議といえます。GIT2021の本会議運営のため、17名の諮問委員会が結成されており、CGLの堀川洋一もその一役を担いました。
講演は2/2(水)はタイ時刻午前10時(日本時刻午後0時)、2/3(木)はタイ時刻午前9時(日本時刻午前11時)から行われました。開催は、現地であるチャンタブリのマネーチャンリゾートとオンラインのハイブリッドであり、当研究所からはオンラインで参加しました。基調講演15件と一般口頭発表20件が行われ、基調講演は講演時間一人20分、一般口頭発表は一人15分でした。これらの発表の中で特に興味深かったものをいくつか紹介します。なお、弊社リサーチ室からは、一般講演で「The origin determination of “Paraiba” tourmaline using LA–ICP–MS-the methods of quantitative analysis and its application to samples with low Cu content-(LA–ICP–MSを用いたパライバトルマリンの原産地鑑別-サンプルの定量分析方法と、銅の少ないサンプルについて-)」というタイトルで江森健太郎が発表を行いました(この発表についてはGIT2021ウェブサイトhttps://www.git.or.th/git2021_en.htmlから視聴可能な他、CGL通信で別途掲載される予定です)。
タイ、チャンタブリで行われたGIT2021の会場の様子。
GIT2021にて発表するCGLリサーチ室の江森健太郎 (オンラインによるリモート参加)
Latest Advancements in Corundum Testing コランダム鑑別の最新情報
スイスSSEFのMichael. S. Krzemnick博士はコランダム鑑別の最新の進歩について発表しました。数十年間、コランダム鑑別は宝石ラボの主要な仕事の一つとなっています。近年、FTIRやRamanスペクトルなどを始め、様々な分析技術が用いられています。今回の発表においては天然と合成、加熱処理(特に低温加熱処理)、Be拡散処理、産地鑑別に用いる技術や手法などが紹介されました。最近SSEFではマダガスカル産ルビー中のジルコンクラスターに酷似したインクルージョンを持つフラックス合成ルビーを検査しました。このように拡大検査において識別が困難な場合でもVやMgなどの微量元素を正確に測定することで確実に識別することができます。また、産地鑑別には顕微ラマンスペクトルによるインクルージョンの鑑別と、LA–ICP–TOF–MSによる微量元素分析の他、現在ではジルコンインクルージョンに対する放射線年代測定が用いられています。年代測定により、鉱床の形成など産地鑑別に有用な情報が得られます。このように、顕微鏡観察などの古典的な方法と最新の技術を組み合わせることで、コランダムに対して細かくアプローチすることができます。
A Gemological Review of Blue Sapphires from Mogok, Myanmar ミャンマー、モゴック産ブルーサファイアの宝石学的レビュー
参考文献
1) Tsuchiyama, A. (2017) Jadeite: The national stone of Japan, Elements, 13, 51.
2) Ikesue, A. and Yan, L. A. (2008) Ceramic laser materials, Nature Photonics, 5, 258-277.
3) Roussel, N., Lallemant, L., Chane–Ching, J., Guillemet–Fristch et al. (2013) Highly dense, transparent α–Al2O3 ceramics from ultrafine nanoparticles via a standard SPS sintering, Journal of American Ceramic Society, 96, 1039–1042.
4) Apetz, R. and Van Bruggen, M. P. (2003) Transparent alumina: a light‐scattering model, Journal of the American Ceramic Society, 86, 480-486.
5) 入舩徹男 (2018) 透明ナノセラミックスの超高圧合成, 高圧力の科学と技術, 28, 162–169.
6) Irifune. T., Kawakami. K., Arimoto. T., Ohfuji. H., et al. (2016) Pressure–induced nano–crystallization of silicate garnets from glass, Nature Communications, 7, 13753.
7) Mitsu, K., Irifune, T., Ohfuji, H. and Yamada, A. (2021) Synthesis of transparent polycrystalline jadeite under high pressure and temperature, Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 116, 203–210.
8) Schiøtz J. and Jacobsen K. W. (2003) A maximum in the strength of nanocrystalline copper. Science, 301, 1357–1359.
9) Irifune, T., Kurio, A., Sakamoto, S., Inoue, T. and Sumiya, H. (2003) Ultrahard polycrystalline diamond from graphite, Nature, 421, 599-600.
10) 入舩徹男 (2021) 超高圧合成法によるナノ多結晶ダイヤモンドの合成と応用, 岩石鉱物科学, 50, 43–52.
11) Skalwold, E. A. (2012) Nano–polycrystalline diamond sphere: A gemologist’s perspective, Gems & Gemology, 48, 128–131.
12) Wollmershauser, J. A., Feigelson, B. N., Gorzkowski, E. P., Ellis, C. T. et al. (2014) An extended hardness limit in bulk nanoceramics, Acta Materialia, 69, 9–16.
講演は、11月20日(土)、21(日)の両日ともGMT(世界標準時)12:00から開始され3時間半ほど行われました。日本時間では夜の9時から始まり午前零時を回るため、筆者らはそれぞれの自宅での参加となりました。
発表は質疑応答を含めてひとり15分が割り当てられていましたが、しばしば白熱した質疑が行われ、進行は遅れがちとなりました。2日間の発表内容は、ダイヤモンド4件、コランダム7件、その他色石9件(エメラルド、長石、トパーズ、ガーナイト、ジェダイト、ダイアスポア、トルマリン、クォーツ、トルコ石)、真珠3件の合計23件でした。これらの発表の中で特に興味深かったものをいくつか紹介します。
なお、弊社リサーチ室からは真珠セッションで「Analysis of Japanese Akoya Cultured Pearls using LA–ICP–MS(LA–ICP–MSを用いた国産アコヤ養殖真珠の分析)」というタイトルで発表を行いました(この研究についてはCGL通信で別途掲載される予定です)。
IGCの沿革、ポリシーについてはCGL通信vol.29、vol.42に詳しく記載してありますので参照して下さい(https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/)。
スイスSSEFの研究者M. S. Krzemnicki氏がマダガスカルIlakaka産ピンクサファイアにおけるジルコンインクルージョンのラマンスペクトルの研究について発表しました。Ilakaka産ピンクサファイアは商業的に重要で、たいてい丸みを帯びたジルコンを内包しています。ジルコンはさまざまな地質環境で生成するため、宝石学上有益な情報を提供してくれます。さらに、ジルコンインクルージョンのラマンスペクトルにおける1010 cm–1付近のν3ピークが熱処理と関連していると考えられているため、鑑別上注目されています。しかし、彼らが未加熱のサンプルにおけるジルコンインクルージョンを分析した結果、異なるサファイアだけでなく、同じサファイアの中にある隣接するジルコンインクルージョンも異なるν3ピークを示しました。彼らの実験結果によると、未加熱ピンクサファイアにおけるジルコンインクルージョンのν3ピークの半値幅は7.5~17.6 cm–1と非常に幅があり、中央値は10以下となります。よって、マダガスカル産ピンクサファイアの熱処理の判断をジルコンインクルージョンのラマンスペクトルのみで行う場合は間違いを犯さないよう慎重にとのことです。
スイスSSEFの研究者Hao. A. O. Wang氏らはブラジル産、グリーンの銅(Cu)含有トルマリンの銅(Cu)を含む薄いシート状インクルージョンについての発表を行いました。この珍しいインクルージョンはC軸方向に平行に配向していました。著者らは、集束イオンビーム (FIB) と走査型電子顕微鏡 (SEM)を組み合わせ、サンプルを切断し、インクルージョンの断面を調査しました。その他、マイクロFTIR、空間分解放射光X線吸収分光法 (XAS) で調査した結果、銅(Cu)が薄いシート状インクルージョン中に金属相としておそらく存在することを示しました。また、この薄いシート状インクルージョンの近くにエルバイト以外のトルマリンが存在する可能性も示しました。発表者らの予備的な観察に基づくとCuが含まれる薄いシート状インクルージョンは金属銅であり、これらのインクルージョンが銅(Cu)含有トルマリンホストからのエピジェネティックな溶出により形成されたという仮説が議論されています。これらはブラジルの銅(Cu)含有トルマリン中の酸化条件に関する重要な情報を提供する可能性があります。
国際珠宝首飾学術交流会(以下交流会)は、中国国家所属の宝石鑑別機関である国家珠宝玉石質量監督検験中心(National Gemstone Testing Center、以下NGTC)と中国珠宝玉石首飾行会協会(Gems & Jewelry Trade Association of China、以下GAC)が2年に1度主催する学会です。1994年に開催された北京国際宝石学術交流会がその前身であり、今年は15回目の開催となります。弊社リサーチ室からは2017年に北京で行われた交流会に現地参加しています(写真1)。
写真1.2017年北京で行われた国際珠宝首飾学術交流会会場の様子
NGTCとGACの他、中国地質大学(北京)、中国地質大学(武漢)、北京大学、中山大学、同済大学、タイGIT(Gemological Institute of Thailand)、インドGII(Gemological Institute of India)とスイスGGL(Gübelin Gem Lab)も本会議の開催に協力しました。
イギリスWarwick大学のM. E. Newton教授は合成ダイヤモンドの燐光について発表しました。多くの研究結果により、無色のHPHT合成ダイヤモンドの青い燐光はドナー–アクセプターペアの再構成によるもので、Bs欠陥がアクセプターであると考えられています。FTIRとEPRにより、ダイヤモンドの{111}面では主にBs0欠陥、{100}面では主にNs0欠陥ができていることが明らかになりました。更に、224 nmのUVで照射すると、Bs0欠陥と{111}面のNs0欠陥が増加し、{100}面のNs0欠陥が減少することがわかりました。また、異なる温度条件下での燐光スペクトルと燐光寿命の変化により、ドナー–アクセプターペアの電荷移動は低温でのトンネル効果から高温での熱励起へ変化したことが明らかになりました。低温では隣接するドナー–アクセプターペアのみが電荷転移ができ、高温になると孤立した欠陥も電荷転移に参加すると考えられています。違う成長面のNs0欠陥のUVによる変化の差を解釈するために、Ns欠陥が電荷でNs0、Ns+、Ns-の三種類にわかれていると考えました。以上に基づいて、合成ダイヤモンドの燐光の主な発生過程は、Ns0+Bs0→Ns++Bs-→Ns++Bs0あるいはNs0+Bs+→Ns0+Bs0となりますが、Ns0+e-→Ns-、2Ns0→Ns++ Ns-、Ns-→Ns0+e-の過程もあると考えられています。
Irradiation of Diamond and Its Identification ダイヤモンドへの照射とその鑑別
スリランカは世界的に著名な宝石を多く産出していますが、とりわけサファイアは有名です。ニューヨーク自然史博物館に展示されている“Star of India”は世界でも最大級のスリランカ産のブルー・スター・サファイアです。また、1981年にチャールズ皇太子からダイアナ妃へ、そしてウィリアム王子から婚約者へと贈られた英国王室継承の12ctのブルー・サファイアもスリランカ産として話題を集めました。
1つ目はニューサウスウェールズ州のNew England Fields(ニューイングランドフィールズ)です。この地では1854年にオーストラリアで最初のサファイアが発見されています。商業的に採掘されるようになったのは1919年頃からです。1960年代後半~1970年代にはタイのバイヤーからの需要が急増し、タイにおけるカット・研磨、熱処理を含めた取引市場の拡大に貢献しました。近年ではここから産出する濃青色のサファイアがBe処理されてゴールデン系サファイアの供給源になっているようです。
2つ目はクイーンズランド州のAnakie Fields(アナキーフィールズ)です。1873年に発見されていますが、1890年代にオーストラリアで最初に商業採掘が始まっています。1970年~1980年にかけて機械化が進み大量生産が開始します。生産量は減少していますが、現在でも大型機械を使用した採掘が継続しています(写真–68)(写真–69)。
グリーン系のパライバ・トルマリンのガリウム(Ga)の濃度をX軸、鉛(Ga)の濃度をY軸としてプロットしたグラフを図8に示す。ブラジル(バターリャ)産とナイジェリア産パライバ・トルマリンがよく乖離していることが判る。このプロットを基に、ガリウム(Ga)と鉛(Pb)の組成式毎の原子数(apfu, atom per formula unit)の和をX軸、鉄(Fe)の濃度をY軸としてプロットしたグラフを図9に示す。図と比較するとブラジル産とナイジェリア産の乖離が明瞭になる。モザンビーク産についてはサンプル数が少なく、範囲も広いため、今後の課題である。
図8 グリーン系パライバ・トルマリンのガリウム (Ga) vs. 鉛 (Pb)プロット
図9 グリーン系パライバ・トルマリンの鉛+ガリウム (Pb+Ga) vs. 鉄 (Fe)のプロットまとめ
文献:
1.Abduriyim A., Kitawaki H., Furuya M., Schwarz D. (2006) “Paraíba”–type copper–bearing tourmaline from Brazil, Nigeria, and Mozambique:Chemical fingerprinting by LA–ICP–MS. Gems & Gemology, Vol. 42, No. 1, pp. 4–21
2.Milisenda. C. C., Horikawa Y., Emori K. (2006) Neues Vorkommen kupferführender Turmaline in Mosambik. Zeitschrift der deutschen gemmologischen gesellschaft, Vol. 55/1–2, pp. 5–24
3.Yusuke K., Ziyin Sun, Christopher M. B., Barbara L. D. (2019) Geographic Origin Determination of Paraíba Tourmaline. Gems & Gemology, Vol. 55, No. 4, pp. 648–659
4.Sun Z., Palke A. C., Breeding C. M., Dutrow B. L. (2019) A new method for determining gem tourmaline species by LA–ICP–MS. Gems and Gemology, Vol. 55, No. 1, pp. 2–17