cgl のすべての投稿

CVD合成ピンクダイヤモンド

CVD合成ダイヤモンドについてはこれまでもCGL通信などで随時お知らせしてまいりましたが、最近、ピンクのCVD合成ダイヤモンドがグレーディング目的で弊社に持ち込まれました。CGL通信9号で報告しましたように、1/4サイズのCVD合成ダイヤモンドがグレーディング依頼されたことはありましたが、ピンクのものが持ち込まれたのは初めてです。

以下に当該合成ダイヤモンドの特徴を報告します。

今回のピンク色のCVD合成ダイヤモンドは、0.24ct(4.00 – 4.04 × 2.45)の形の良いラウンドブリリアントカットです。弊社では合成ダイヤモンドのグレーディングレポート発行を行っていませんが、参考までにグレーディングを行うとカラーはIntense Pink、クラリティはほんのいくつかの微小内包物が僅かに認められるVVS程度でした。長波・短波紫外線下での蛍光は、アーガイル産天然ピンクダイヤモンドなどでは弱い青色のものが多いのに反し、このCVD合成のピンクダイヤモンドは強いオレンジ色を示します。

今回のピンク色のCVD合成ダイヤモンド今回のピンク色のCVD合成ダイヤモンド
長波紫外線下での強いオレンジ色蛍光長波紫外線下での強いオレンジ色蛍光

この強いオレンジ色の蛍光はダイヤモンドビュー*でも観察でき、尚且つ燐光の存在も確認出来ます。またCVD合成ダイヤモンドは基盤に平行に成長するため、その成長痕がピッチの異なる層状模様として一定の角度を保ちながら線状に境界を形成している構造も観察されました。

ダイヤモンドビュー*の画像。ほぼ平行に走る層状構造が確認できます。ダイヤモンドビュー*の画像。ほぼ平行に走る層状構造が確認できます。
*) ダイヤモンドビューは、デビアスグループのDTC(Diamond Trading Company)で合成ダイヤモンドを区別するために開発された装置です。ダイヤモンドに紫外線を当て蛍光像をモニターで観察しながらあらゆる角度で石の検査を可能にした機器で、カソードルミネッセンス(CL)像と同様に天然と合成を判別できますが、よりスピーディに検査が行えます。

 

赤外分光スペクトルでは、孤立した窒素の存在を示す1344cm−1の吸収、放射線処理後の焼きなましを示唆する1450cm−1の吸収、および水素に関連した1405cm−1の吸収を示しました。
赤外分光光度計(FT–IR)の検査で、当該合成ダイヤモンドは窒素を殆んど含まないII型に属し、興味深い特徴として原子構造中で孤立した窒素原子の存在を示す非常に弱い1344cm−1吸収ピークも検出されました。ピンク色を発生させるために広く使用されている1つのテクニックは、放射線の照射と焼きなましの組み合わせによるもので、この処理により生まれた孤立した窒素と原子の抜けた孔が組み合わさった欠陥([N–V])による影響でダイヤモンドがピンク色になります。この孤立した窒素原子が合成時に生まれたものか高温高圧(HPHT)処理によって生まれたものかは今回のCVD合成石では決められませんが、一般的にCVD合成ダイヤモンドは育成されたままの状態では茶色味を帯びており、HPHT処理を施すことで茶色味を取り除き、尚且つある窒素の集合体が存在していれば、孤立している窒素の濃度を増加させることも可能です。色の濃さは孤立した窒素原子の濃度によって決まるので、今回のCVD合成ダイヤモンドもHPHT処理が施されていると考えられます。

紫外可視分光検査でも孤立した窒素と原子の抜けた孔が組み合わさった欠陥を示す明瞭な吸収、さらに照射と焼きなましを示唆する吸収も認められました。スペクトルが示すように緑からオレンジ領域の強い光の吸収により強いピンク色の実体色がもたらされています。更にCVD合成を示唆する737nmの吸収が現れており、これはプラズマを発生させる反応容器からのシリコンに関連する欠陥によって引き起こされたものです。

 

サンプルを冷却した状態で紫外可視分光スペクトルを取ると、CVD合成を示唆する737nmのシリコン関連の吸収、ピンク色の原因である637nmの吸収、放射線照射による741nm及び595nmの吸収が示されました。(本データはAGTジェムラボラトリーにて測定)

 

シリコン関連の欠陥は、フォトルミネッセンス分析ではより容易に観察可能です。液体窒素温度に冷却した633nmレーザーで励起したフォトルミネッセンス分光分析では、736.7nmと737nmの2本に分離したピークとして明瞭に認められます。(上図参照)

このように構造の観察及び一連の光学的特徴を確認することでCVD合成ダイヤモンドであることを特定できます。一般的な鑑別でCVD合成ダイヤモンドを特定するのは非常に困難ですが粗選別は可能です。強いオレンジ色の蛍光は石の起源を示唆するものではありませんが、アーガイル産天然ピンクダイヤモンドなどでは蛍光が青色のものが多いため、それと比較してこの蛍光は不自然で、その色が処理の色である可能性を暗示します。ピンクのCVD合成ダイヤモンドは外観上非常に魅力的な石であるため、今後大いに市場に現れることが予測されますので、ご注意下さい。

CVD合成ダイヤモンドについて-その2

宝飾用CVD合成ダイヤモンドの登場が近いと2005年3月の「ニューズウイーク」誌で刺激的な内容で取り上げられてから3年以上が経過しました。当社はその特徴と鑑別法を伝え、CVDダイヤモンドが看破不可能という間違った情報に惑わされないよう、正しい理解を深めていただくためにCGL通信の第1号を発行しました。

3年前にCVD合成ダイヤモンドを近く市場に供給すると発表したApollo Diamond社(ボストン、マサチューセッツ州)からの正式な販売開始の発表は業界紙等にもありませんが、Apollo社のホームページを見る限り、製品での販売は既に始まっているようです。GIAでは2月のGIAインサイダーでグレーディングレポート作成のために持ち込まれたニアカラレスの1/3サイズのダイヤモンドがCVD合成ダイヤモンドであり、それが研究目的以外で初めて預かったCVD合成ダイヤモンドであったと報告がありました。また香港のIGIでも1/3サイズのGからIカラー、VVSクラスの石が5石持ち込まれたというニュースがラパポートで発表され、その直後に当社でもグレーディングのためにお預かりした1/4~1/3サイズの2石がCVD合成であることが判明しています。

今回のCGL通信では、再びCVD合成ダイヤモンドを取り上げ、その特徴をお伝えしたいと思います。

CVDの意味は

CVDとはChemical Vapor Depositionの略で、化学的に気体状態から積層させる合成法を意味しており、日本語では化学気相成長法や化学蒸着法と呼ばれます。MPCVDと書かれている場合は、Microwave Plasma Chemical Vapor Depositionの略でマイクロ波プラズマ法と呼ばれています。
Apollo Diamond社の合成ダイヤモンドもMPCVD法を用いて作られています。

写真1

写真1 CVD合成ダイヤモンドが作られているところ。プラズマ化したガスは白い雲のように見えている。


CVDダイヤモンドの特徴

外観特徴

写真2

写真2 今回当社に持ち込まれた
    CVD合成ダイヤモンド
   (左 0.29ct、右 0.21ct)

以前、我々が検査し報告させて頂いたCVD合成ダイヤモンドは開発初期のものであったため、深さの浅いファンシーシェープのものでしたが、今回持ち込まれたものは適当な厚みをもったラウンドブリリアントでした。合成ダイヤモンドには通常グレーディングを行いませんが、敢えて合成ダイヤモンドにグレーディングを行ったところ、両方ともカット評価はVery Goodと良好なもので、カラーとクラリティもH、VS1で品質の高い石でした。内包物は黒色結晶だけで、高屈折率の液体に浸すことにより基盤に平行に成長した痕跡である褐色の層状模様もテーブルに平行な方向で観察出来ました。


鑑別

ハンディータイプの長短紫外線下での蛍光反応は2石共にありませんでした。しかし、DTC社製ダイヤモンドビュー(*)の、より強くより短い波長の紫外線下ではそれぞれブルーとグリーンの蛍光を発します。典型的なCVD合成ダイヤモンドはオレンジ色の蛍光を見せますが、CVD合成後高温高圧プロセスを施すことにより、石の地色のブラウン味を薄く出来るだけではなくダイヤモンドビューでの蛍光色もオレンジ色からブルー~グリーン系になることは知られています。更にこの装置で観察すると天然ダイヤモンドや高温高圧合成ダイヤモンドには見られない不規則な成長模様も見ることができます。

写真3

写真3 Diamond ViewTM
 

写真4

写真4 ダイヤモンドビューで観察される
テーブルに見られる不規則な成長模様


図1

図1 フォトルミネッセンス分光分析ではCVDの決め手となる736.6/736.9 nm の
ダブレットピーク(Si-V欠陥)を示している。

FT–IR分光分析でこれらの合成ダイヤモンドはIIa型であることを示しました。石を極低温に冷やした状態での514nmレーザーで励起したフォトルミネッセンス分光分析では、CVDの決め手となる736.6/736.9 nmのダブレットのピーク(Si-V欠陥)が検出されました。その他N-Vセンターと呼ばれる欠陥の特徴が575nmと637nmに明瞭に見られました。

今回のようにグレーディングレポート依頼で預かったものからCVD合成ダイヤモンドが発見されたことで日本の市場にも入ってきていることが明らかになりました。AGLに所属する鑑別機関では、グレードの前にダイヤモンドのタイプを分類することが義務付けられておりますが、当社では更に合成や高温高圧プロセスの可能性のあるタイプのダイヤモンドについては、義務づけられた分類の後ダイヤモンドビューやフォトルミネッセンス分光分析を実施し、ダイヤモンドの起源についての検査を行なっています。

*) ダイヤモンドビューは、デビアスグループのDTC(Diamond Trading Company)で合成ダイヤモンドを区別するために開発された装置です。ダイヤモンドに紫外線を当て蛍光像をモニターで観察しながらあらゆる角度で石の検査を可能にした機器で、カソードルミネッセンス(CL)像と同様に天然と合成を判別できますが、よりスピーディに検査が行えます。

『ひすいのエクボ』と『染色樹脂含浸ひすい』について

1 『ひすいのエクボ』について

○ひすいとは

一般的に言われる「ひすい」は鉱物学でいうところの「ひすい(Jadeite)」の単結晶ではなく、輝石や角閃石を主体とする多種鉱物の集合体です。写真1に、今回実験で用いたミャンマー産のひすいの薄片写真を紹介します。この写真を見ていただいても、ひすいは単結晶ではなく、多結晶体であることが分かります。

写真1
 
写真1 ひすいの偏光顕微鏡写真 (左:オープンニコル、右:クロスニコル。40倍)
※注意:通常の薄片より少々厚めなので干渉色が強めに出ています

 

○ひすいのエクボとは

宝飾品としてよく用いられる「ひすい」の表面には、少し凹んだ部分が点在します。この凹んだ部分は通称「エクボ」と呼ばれます(写真2)。

写真2写真2 ひすいのエクボ(45倍)

研磨の際、完全にフラットな面ができない理由には、周囲に比べて相対的に軟らかい部分が存在する(図1)か多結晶の一部の粒子が削げ落ちる(図2)かの2種類が考えられます。

図1
 
図1 表層部の軟らかい部分が研磨することによって、「凹む」場合
図2
 
図2 表層部に出ている小さい粒子が、研磨する事で削られてなくなった場合

多結晶体であるひすいは、図1のように相対的に軟らかい部分が凹んでしまう場合や、図2のように小さい粒子が削れてしまう場合、どちらも考えられます。現在、ひすいの「エクボ」の成因は、繊維状になったひすいの結晶の向きが原因であるという説もありますが、広い範囲で繊維の結晶の向きがそろっているということは考えにくい等、疑問点があります。そこで今回は、ひすいの「エクボ」の発生原因について検証しました。

○ひすいのエクボの発生工程

今回の実験では、ミャンマー産のひすいを切断してその断面を研磨し、研磨の前後を比較しました。ひすいの断面を丁寧に且つゆっくりと研磨を行っても(最終研磨はダイヤモンドペースト1μmを用いて行いました)、エクボは観察されませんでしたが、少々荒っぽく研磨すると、エクボが少量発生しました。
ここでいう「荒っぽい研磨」とは、強い力でスピードを速くして研磨した場合のことです。「丁寧な研磨」、「荒っぽい研磨」というのは、研磨盤の回転スピード、研磨盤に試料を押さえつける強さのことを指します。

研磨面を、京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室鉱物学講座の走査型電子顕微鏡「S–3000H(HITACHI)」とエネルギー分散型X線検出装置「EMAX–7000(HORIBA)」をお借りして、観察、そして分析を行いました。

写真3にエクボ発生前後の走査型電子顕微鏡を用いて観察した後方散乱電子像(後方散乱電子像では平均原子番号が重いものほど白っぽく見えます)と写真4にエクボが発生した周囲の組成マッピング(色が濃いところほどその元素の濃度が高いことを示します)を紹介します。

写真3
 
写真3 エクボ発生前と発生後の後方散乱電子像(250倍)
(左、発生前、右発生後、AMP:マグネシオアルベゾン閃石、OMP:オンファス輝石、Jd:ひすい輝石)
写真4
 
写真4 エクボ発生現場付近の組成マッピング結果(左から、Na、Mg、Al、Ca)

今回、観察したひすいは、主としてひすい輝石、オンファス輝石、マグネシオアルベゾン閃石(角閃石の一種)からなる多結晶体でした(分析結果については表1参照)。また、今回エクボが発生した部分はマグネシオアルベゾン閃石の部分でした。今回は紙面の都合上1箇所(の写真)しか紹介できませんでしたが、他の箇所でも角閃石部分がエクボになっていました。角閃石族は、輝石にくらべ硬度が低いため、研磨工程で、その部分が剥がれたり、凹んでしまう可能性は十分にあり得ます。また、研磨盤をゆっくりまわした研磨ではエクボは発生せず、高速にまわした研磨ではエクボが発生したことから、エクボ部分というのは、角閃石部分が凹むというよりも剥がれてしまったものであろうと推測されます。

結論として、今回の観察結果から、ひすいのエクボは、ひすい中の輝石よりも硬度が低い角閃石部分が剥がれることにより発生したと考えられます。

表1

(1) (2) (3) (4)
Na2O 13.64 9.49 6.17 8.76
MgO 2.28 19.05 10.9 8.05
Al2O3 20.8 6.42 8.51 13.25
SiO2 59.1 57.48 56.56 57.98
CaO 2.99 2.53 15.46 11.39
Cr2O3 0.44 0.26 0.96 0.57
Fe2O3 2.01 1.83 1.61 1.52
Total 101.26 97.06 100.17 101.52
11Na 0.89 2.5 0.42 0.58
12Mg 0.11 3.86 0.57 0.41
13Al 0.83 1.03 0.35 0.54
14Si 2 7.82 2 199
20Ca 0.11 0.37 0.59 0.42
24Cr 0.01 0.03 0.03 0.02
26Fe 0.05 0.19 0.04 0.04
😯 6 23 6 6

※ひすい中の鉱物の分析結果。番号は写真3右に対応。

 

○謝辞

今回の実験には、京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室鉱物学研究室の北村雅夫教授、下林典正助教授、三宅亮助教授の協力で、走査型電子顕微鏡「S–3000H(HITACHI)」とエネルギー分散型X線検出装置「EMAX–7000(HORIBA)」を使用させていただき、研究上重要な助言をいただきました。また、実験装置使用に関しては同研究室の大井修吾君、高谷真樹君に手伝っていただき、サンプル石の研磨には同技術職員の堤久雄氏に協力していただきました。ご助力下さいました皆様に対し感謝を申し上げます。

2 『染色樹脂含浸ひすい』について

写真0

最近、大きめの処理ひすいを検査する機会を得ました。それらはCジェード(染色ひすいを示す)と称して中国・広州で安く売られているようですが、当方で検査したところ色を付けたエポキシ樹脂の含浸が行われている処理ひすいであることが判明しました。

樹脂含浸ひすいは約15年位前に香港から国内に大量に持ち込まれ、大問題へと発展したため多くの方々にはまだ記憶に鮮明であると思われます。当時、弊社では処理の情報をいち早くつかみ、看破を可能にする手段として赤外分光光度計(FT–IR)を鑑別機関では世界で最初に導入し、樹脂含浸ひすいの鑑別に努力して参りました。噂によると、今回検査したものと同じような有色樹脂含浸が行われたひすいがどれ程の量かは分りませんが国内で流通しているという情報もあるため、改めて業界に注意を促す意味でこの処理ひすいの特徴を紹介させていただきます。

図3
 
図3 600~700nm間に幅広い吸収は見られますが、690・655・630nmに3本存在する
クロムによる吸収バンドは見られません

今回の石は36.50キャラットでサイズは21.75×16.11×11.24mmの明るい帯黄緑色のひすいです。一般的な検査方法である屈折率や比重はひすい(ジェイダイトJadeite)のデータ範囲ですが、色が鮮やかな緑色のわりに本来ひすいの緑色の原因であるクロム元素に因る吸収は見られません(図3参照)。一般的な染色ひすいではカラーフィルターで赤味が見られるのですが、今回の石では変化が見られませんでした。

写真5写真5
写真6写真6

 

 

次に、反射光を用いた拡大検査では表面にガサガサ感が存在します(写真5参照)。通常この様な処理を施す前の多くのひすいにはさびのような酸化物が石の中に存在し汚染で変色しているため、粒界とひびの間に存在する褐色や黄色の不純物を取り除くために温かい酸に浸けた状態で一定時間放置されます。この処理の過程でひすいの表面に空隙が残されるので、このようなガサガサ感が生まれます。その後、この空隙から含浸された場合、表面のガサガサ感は残っていますが見た目の色と透明度に明らかな影響を与えます。このように処理が行われたために、透過光などを用いて拡大観察すると含浸された色素(染料あるいは有色樹脂)は表面の荒い組織に相関して写真6のように見られます。

写真7写真7

紫外線による蛍光検査では全体的に樹脂による青白い蛍光を示し(写真7参照)、含浸が行われていることを暗示させますが、ワックスが含浸されたものでも似たような蛍光を発することがあります。

樹脂の存在を確実に知るための最も良い方法は、赤外分光光度計(FT–IR)で測定することです。FT–IRで測定した結果3000~3100cm−1にかけてエポキシ樹脂と思われる吸収が明らかになりました。図4の赤で描かれた分布曲線は今回のひすいのものです。比較のため未処理のひすいの分布曲線を緑色で示してあります。

図4
 
図4 FT–IRの検査では図の通り未処理のひすい(緑)と明らかに異なるエポキシと思われる吸収(赤)が
3000~3100cm−1にかけて見られます。

以上のように、今回検査したひすいは紛れもなく有色樹脂を含浸したひすい(ジェイダイト)で、このような処理ひすいは一見美しさを感じさせますが、価値は非常に低いものです。緑色以外にもトルコ石色、鮮やかなピンクなどの色で出回っているようです。くれぐれもこの様なひすいにはご注意下さい。

ピンクのコーティング・ダイヤモンド

はじめに

最近ピンクのコーティング・ダイヤモンドが市場に出回りはじめています。この報告書を用意している間にもGIAから同じものと思われるコーティング処理ダイヤモンドに関する報告がありましたが、今回は当所がこれまでに調査した結果を報告させていただきます。
現在流通しているものはメレサイズ中心で、当所で検査したコーティング・ダイヤモンドの重量は0.03ct~0.17ctの範囲でした。これらの石については、以下に報告する鑑別特徴を持つため鑑別は可能です。しかしながら、メレサイズの場合ルースの状態でもルーペでの識別は難しく、石留めされた場合にはさらに鑑別が困難になります。
コーティング・ダイヤモンドの流通の背景としては、メレサイズの天然ピンク・ダイヤモンドの主な供給源であったアーガイル(Argyle)鉱山からの供給が減少し、価格が上昇していることが一因と考えられます。

コーティング・ダイヤモンドの特徴

写真0
見た目のカラー・クラリティ

カラー
 Fancy Pink ~
  Fancy Intense Pink

クラリティ
 SI-2
 I-1

 *コーティングされたダイヤモンドはグレーディングを行ないません。

1 拡大検査および微分干渉顕微鏡検査

a.フェイスダウンの状態でパビリオン・ファセットを斜光照明法(蛍光管による落射照明)により表面の観察をすると、通常のダイヤモンドには見られない金属光沢感があり、やや緑がかった色調の印象を与えます。

b.コーティングが観察されるのは、パビリオン・ファセットのみです。

c.コーティングが剥れた部分が見られます(写真1)。写真では特に大きく剥れたものを撮影していますが、多くのものは小さくて高倍率に拡大しないと観察できないと思われます(写真2)。

d.コーティング部分が不均一で流れたような模様が見られます。微分干渉顕微鏡で観察するとより明瞭に観察出来ます(写真3、4、5)。

e.スリキズが見られます(写真6)。

f.メレに使用される天然ピンク・ダイヤモンドのほとんどはType I でダイヤモンド内部にピンク色の色帯(塑性変形が起こるすべり面に沿う)が観察されますが、今回鑑別したピンクのコーティング・ダイヤモンドには、それらの色帯は観察されませんでした。

写真1

写真1 剥がれた跡

写真2

写真2 微小な剥がれ


写真3

写真3 流れたような跡

写真4

写真4 同左、微分干渉


写真5

写真5 垂れたような跡

写真6

写真6 スリキズ(微分干渉)


2 蛍光X線元素分析(EDXRF)

クラウン側とパビリオン側の双方で測定を試みました。
クラウン側は、不純物が少ないのに対し、パビリオン側からは、Si(珪素)、Ca(カルシウム)が検出され、その他にAu(金)がわずかに確認されました。

3 LA-ICP-MS(レーザー・アブレーション・ICP・質量分析)

蛍光X線元素分析では、金の存在が検出限界に近かったため、確認のため微量元素の測定に最も適したLA-ICP-MSでの分析も行ない、コーティング層から金の存在が確認されました。

※ なお、LA-ICP-MSは基本的に準破壊検査であり、わずかですがダイヤモンドに損傷を与えることになるため、通常この検査はコーティングのダイヤモンドには行いません。

4 その他の検査

紫外・可視分光および赤外分光(FT-IR)の検査から、今回遭遇したピンクのコーティング・ダイヤモンドは、アーガイル鉱山産の天然ピンク・ダイヤモンドの特徴とは一致しませんでした。

コーティングの耐久性

拡大検査で見られた剥れた跡やスリキズの痕跡は、アルコール等で拭いても取れることはありませんでした。以下に超音波洗浄器、冷却、酸、による耐久性実験の結果をまとめます。

超音波洗浄器 60分間で変化無し
液体窒素 (-196℃) 1分間浸液しても変化無し
塩  酸 1分間浸液で変化無し
10分間浸液で除去されたものがある
硫  酸 12時間浸液放置しても変化無し*
フッ 酸 1分間浸液で除去

*GIAでは、30分硫酸中のボイルで完全に除去されたとの報告がされています。

上記実験結果およびGIAの報告から、当該コーティングは強酸に対し確実な耐久性は無いと考えられます。(なお、耐久性のテストでコーティングが完全に除去された後、カラーグレードしたところFancy Pinkに見えていたものがG~H(ケープスケール)になりました。)
従来のコーティング処理の対象である大きめのサイズとは異なりメレサイズが主流であるため、特にピンク・メレの取り扱いによりいっそうの注意が必要でしょう。

背 景

アーガイル鉱山

西オーストラリア州にあるアーガイル鉱山は工業用やニアジェムと呼ばれる低品質のダイヤモンドが大量に産出される事、他のダイヤモンド鉱床と比較して高い比率でブラウン~ピンクのダイヤモンドが産出される事で知られる。天然ピンク・ダイヤモンドの総供給量の90%を占めていると言われており、脇石等に使用されるメレサイズのピンク・ダイヤモンドはほとんど当鉱山からのものでまかなわれている。

☆2006年第一四半期は前年同期比で40パーセント減
アーガイル・ダイヤモンドの2006年第一四半期の産出量は大きく減少し、前年同期比で40%減の520万キャラット。

☆オープンピットでの採掘終了間近
アーガイル鉱山は現在の露天掘りによる採掘では2008年にはダイヤモンドが枯渇するという事が既に知られており、今回の産出量の減少は織り込み済み。

☆地下採掘へ
アーガイル鉱山では、およそ850億円を投じて地下採掘に移行。地下採掘により2018年まで採掘が可能とのこと。

※ アーガイル鉱山を所有するのは、リオ・ティント(Rio Tinto)社で、同社は世界でも最大級の多国籍鉱業資源グループを形成する。カナダのノースウェスト準州にあるダイアヴィク(Diavik)・ダイヤモンド鉱山も所有・管理している。

Be拡散加熱処理が施されたブルーサファイアについて

2005年末頃から、“新技法加熱処理が施された”ブルーサファイアがタイのマーケットに入ってきました。すぐさま、それらのブルーサファイアはベリリウム(Be)拡散加熱処理であることが判明しましたが、加熱方法自体未だ明らかにはされておらず、軽元素が色にどのような影響を与えているのか、解明されてはいません。今回のCGL通信では、このBe拡散加熱処理が施されたブルーサファイアを観察・分析する機会を得ましたので、その観察・分析結果を報告し、鑑別についての指針を述べたいと思います。

写真1写真1 新技法処理が施されたブルーサファイア

今回、観察及び分析を行ったブルーサファイアは、1.5490ct、1.3745ct、1.3480ctの3ピースです(写真1)。これらすべてのサンプルについて、光学顕微鏡による拡大検査、紫外–可視分光光度計、赤外分光光度計、蛍光X線分析装置、LA-ICP-MS(レーザーアブレーションICP質量分析装置)による分析を行いました。

1 拡大検査で観察されるインクルージョンについて

写真2 通常の加熱処理サファイアに観察されるインクルージョン

写真2-a写真2-a 白濁結晶(拡大倍率x45)

写真2-b写真2-b ヘイローを伴う白濁結晶(x40)

 

写真2-c写真2-c 途切れた針状結晶(x30)

拡大検査で観察されるインクルージョンには、大きくわけて通常の加熱処理のサファイアに観察されるものと、今回の“新技法加熱処理が施された”サファイアに特有のものとがありました。
通常の加熱処理のサファイアにも観察されるインクルージョンとして、白濁結晶(写真2-a)、ヘイローを伴う
白濁結晶(写真2-b)、途切れた針状結晶(写真2-c)が観察されました。

写真3 今回観察した“新技法加熱処理が施された”ブルーサファイアに特有のインクルージョン

写真3-a写真3-a 円形微小包有物

写真3-b写真3-b 円形フィルム包有物が点在する
ように十文字に並んでいる状態

 

写真3-c写真3-c くもの巣状のテクスチャー(x20)

今回検査した新技法加熱処理が施されたサファイアに特有のインクルージョンとして、円形微小包有物(写真3-a)や、円形のフィルム包有物が点在するように十文字に並んでいる状態(写真3-b)、くもの巣状のテクスチャー(写真3-c)が観察されました。

2 レーザートモグラフによる観察

写真4 今回観察したブルーサファイアに特有のレーザートモグラフ写真

写真4-a写真4-a C軸方向から見える六角形状を
した散乱像

写真4-b写真4-b つるまき状散乱像

 

写真4-c写真4-c 円形の散乱像

レーザートモグラフによる観察では、通常の加熱処理では見られない、c 軸方向から見える六角形状をした散乱像(写真4-a)、つるまき状の散乱像(写真4-b)、光学顕微鏡では見ることができない円形の散乱像(写真4-c)を見ることができました。

3 LA-ICP-MSによるBeの分析結果について

LA-ICP-MSは固体試料にレーザーを照射し、極微小の領域を蒸発させ、その蒸気を質量分析することで、固体中の微量元素の濃度を求める装置です。現在ではコランダムのBe処理の看破を確実に行うには必須の装置です。レーザー装置 (NEW WAVE社UP-213) とICP-MS (Agilent 7500a)を用いて、今回の試料を測定した結果、3つのサンプルから9.38~11.17ppmの濃度のベリリウム(Be)を検出しており、Be拡散加熱処理が施されたことは明白です。

以上の結果より、このようなBe拡散加熱処理が施されたブルーサファイアには特有のインクルージョン、特有なレーザートモグラフ像でのパターンが観察されるため、ある程度はそのインクルージョンないしはパターンでBe処理であるという疑いを立てることは可能です。しかし、それらインクルージョンないしはパターンが見られない可能性もあるので、Be拡散加熱処理が施されたブルーサファイアを確実に看破するためにはLA-ICP-MSによる分析が必須であると思われます。

なお、今回の題についての詳細な内容は宝石学会日本2006にて発表しました。

今あらためて 真珠について

真珠の歴史

真珠は私たち人類が最初に出会った宝石といわれています。古代の人々は狩猟生活を営んでおり、日々の食料として入手しやすい貝類を多く採取していました。河川や湖、海辺から採取した貝から天然の真珠が現れたであろう事は容易に想像することが出来ます。

I.日本の天然真珠

最古の真珠は今からおよそ5500年前の縄文時代中後期の福井県鳥浜貝塚から出土したもので「トリハマ・パール」と呼ばれています。変形の半球状で大きさは長径15.6mm、短径14.5mm、厚さ10mmの大きさがあり、淡水産の二枚貝(カワシンジュガイ・ドブガイ・カラスガイ)が母貝と考えられ、底部に削り取った様な痕があることから天然真珠の一種、ブリスターパール(貝の体内に生成した天然真珠が貝殻部に癒着したもの)といわれています。

そのほかに、北海道西積丹の泊地区で約4500年前の縄文時代の遺跡から全国的に見ても非常に珍しい、紐を通すために穴のあけられた真珠が出土しています。分析により、この真珠の母貝は海水産2枚貝のエゾヒバリガイ(イガイ科の貝でムール貝と同種)であると推定されています。

同じく岩手県の岩谷洞窟からも紐を通す為の穴があけられた真珠が発見されています。淡水産のカワシンジュガイの真珠と考えられています。希少性の高い真珠に穴をあけたという事は装飾用として、または権力の象徴として用いられたのでしょう。

古事記や日本書紀、万葉集などにも真珠を表した言葉が出てきます。「シラタマ、マタマ」はアコヤ真珠をさし、「アハビタマ」はおそらくアワビ真珠の事をさしているしょう。

また魏志倭人伝に「シラタマ、5000個が魏の国に献上された」という記録が残っています。正倉院には奈良時代(1200年前)の宝物として、4158個のとても保存状態の良い真珠が伝承されています。当時から日本では天然真珠が産出していたので正倉院宝物真珠は日本産のアコヤ真珠やアワビ真珠といわれていますが、正倉院はシルクロードの終着点ともいわれ、遥か遠くのペルシャやセイロンともつながっていたので、もしかするとペルシャ湾産やセイロン産の真珠も含まれているかもしれません。

II.世界各国の天然真珠

よく知られているのは、"オリエンタルパール"と呼ばれる、ペルシャ湾、紅海やスリランカ周辺の天然真珠でしょう。紀元前からの歴史があり、8世紀以降は色々な文献にも登場します。また、古くから組織的に真珠採取を行い、1920年代に養殖真珠が台頭するまで天然真珠の一大産地でした。

アメリカ大陸ではカリフォルニア半島から南米ペルーにかけてと、西インド諸島からパナマ、ベネズエラにかけての海域が天然真珠を産出していました。しかしコロンブスのアメリカ大陸発見以降真珠を手に入れるために真珠貝が取り尽されてしまいました。近年ようやく真珠貝の数が回復してきたようです。巻貝のアワビやピンクガイ、ホラガイの一種やハルカゼヤシガイなどからも美しい天然真珠が産出します。

海水産真珠以外に淡水産真珠も古くから知られていました。ヨーロッパでは中世、ルネッサンス期にスコットランド、ドイツ、ロシアの川で淡水真珠が採取され王侯貴族や教会(宗教的および霊的な対象とした装飾に用いられた)に供給されていました。

アメリカでは、今から2000年以上前の古代ホープウェル文化(現在のオハイオ州付近で発達したアメリカ先住民の文化)まで遡ることが出来ます。19世紀の中ごろニュージャージーで食用として採取した貝より真珠が取れ、これをきっかけに多くの人達が押し寄せ "パールラッシュ" が起こりました。

III.養殖真珠

天然真珠の採取にはとてつもない労力を必要とします。丸一日、何十回と海へ潜り何千個もの貝をしらべなければならず、100~1000個を調べてやっと見つかる程度と言われています。貝が真珠をはぐくむ事が出来るなら、自分たちの手で作ることが出来ないのか?当然人々は考えました。

最初の養殖真珠と呼べる物は中国で作られました。鉛などで仏像を型取りカラスガイの貝殻の内面と外套膜との間に挿入、固定します。貝が成長するに伴い真珠質も分泌するので仏像の形に真珠層が形成された"仏像真珠"といわれるもので、11世紀頃から盛んに作られました。その後18世紀以降にヨーロッパではスウェーデンの自然科学者カール・フォン・リンネが、19世紀になるとドイツやフランスの科学者が本格的に実験に取り組み始めました。日本でも御木本幸吉が1893年に半形真珠の養殖に成功し、その後の1905年に赤潮でアコヤガイが全滅したが5個の真円真珠を得る事が出来ました。また、西川藤吉、三瀬辰平が球形真珠養殖法の特許を1907年に申請しています。

日本がヨーロッパより一歩先を進むことが出来たのは、ヨーロッパはカワシンジュガイを使い真円真珠の養殖を目指したのに対し、日本はアコヤガイを使い半形真珠の養殖に成功しその後、真円真珠に移行していった事によるといわれています。その後日本は近代真珠養殖に大いに貢献し、全世界を席巻したことはご存知のことと思います。

日本を取り巻く環境

I.「真珠養殖事業法」廃止による影響

半形養殖真珠に成功して110年あまり、日本を取り巻く環境が大きく変わってきています。1998年に、「真珠養殖事業法」が廃止になりました。その中に、海外真珠養殖3原則というものがあり、海外で日本人が養殖を行う場合は、資本関係の確保、技術の非公開、生産真珠の買い取りを決めていました。また、国内で密殖と生産過剰をきたさないように、水産庁・県・団体・識者が集まり、毎年全体数量を決め、各県別・個人別に至るまで数量を決め、生産調整を行なっていました。

輸出検査所では品質検査国の輸出振興策の一環として、輸出する真珠はすべて国営の輸出検査所で検査し、合格した真珠のみ輸出することを義務付けていました。この検査基準は業界の品質の自主管理にも役立っていました。(現在は日本真珠輸出組合が検査を引き継いでいます。)この「真珠養殖事業法」は約半世紀にわたり、真珠養殖産業の振興に貢献してきましたが、国際化が進む中で独占や閉鎖性はゆるされることではなく、廃止になりました。自由化されたことで、人材も資金も技術も海外に流出することになり、世界規模で真珠養殖地域の拡大や母貝の多様化、生産量と品質と加工が想像できない方向へ展開しています。鑑別の現場では、今まで見ることの無かった加工が行われた養殖真珠や従来の概念や手法では判別できないような真珠に遭遇します。各国であらゆる方法、可能性を追求し加工が行われているようです。

II.日々の業務で遭遇する加工の例

養殖真珠には様々な加工が行われます。一般的な加工法として、加温、調色、漂白が行なわれています。これらを「潜在的に有する美しさを引き出す真珠特有の加工が行われています。」との言葉に置き換え、真珠鑑別書には加工の有無、内容、程度に応じてコメントが記載されます。(その他のコメントについては紙面の関係上省略させていただきます。詳細については社団法人日本ジュエリー協会発行の「真珠の定義および命名法に関する規定」を御覧下さい。)

以下に母貝別の真珠に見られる加工を紹介します。

【アコヤ養殖真珠】
1.加温、調色、漂白が一般に行われており、「潜在的に有する美しさを引き出す真珠特有の加工が行われています。」のコメントが付記されます。
2.テリをよくする(キズ取り・研磨を含む)
3.色の改変(着色、照射処理)

【シロチョウ養殖真珠】
1.テリを良くする(キズ取り・研磨を含む)
2.アコヤ真珠に似せるアコヤ仕上げ
3.薄黄色を隠すための照射処理
4.茶金に似せる着色処理
5.変形珠を研磨形成し見せかけの真円珠等にする
*従来、加工は行なわれていないとされていましたが、近年は何らかの加工が行われている真珠が見られます。

【クロチョウ養殖真珠】
1.テリを良くする(キズ取り・研磨を含む)
2.色を薄くする
3.色を濃くする
4.変形珠を研磨形成し見せかけの真円珠等にする
*従来加工は行なわれていないとされていましたが、近年は何らかの加工が行われている真珠が見られます。

【淡水養殖真珠】
1.テリを良くする(キズ取り・研磨を含む)
2.アコヤ真珠に似せる、アコヤ仕上げ
3.シロチョウ真珠に似せるシロチョウ仕上げ
4.色を薄くする
5.色を濃くする
6.変形珠を研磨形成し見せかけの真円珠等にする
*淡水養殖真珠は本来淡く色を帯びているものが多く、世界の需要に答えるために多くは漂白が行なわれています。

詳細な観察や蛍光X線分析装置、分光光度計や他の装置を用いた分析でほとんど鑑別できますが、情報の開示が少ないために、母貝の種類やどんな加工が行なわれたのか等、看破できないものが存在することも事実です。

最後に

鉱物ではない真珠の美しさを最大限に引き出すための加工は古くから行なわれています。しかし過度に加工処理を行なえば品質にも大きく影響し、経年変化が短時間に起こってしまいます。今後は母貝の同定、加工の有無の鑑別だけでなく、新たな品質基準(加工基準)を作ることが求められる時代になって行くかもしれません。

昨年9月下旬に香港で開かれたCIBJO(国際貴金属宝飾品連合)の真珠委員会において、アメリカやヨーロッパ勢が積極的に真珠の新しい国際ルール作りへ動き出しています。

以上

新しい処理のルビーについて

今回のCGL通信では、新しい2種類の技法の処理(paw mai)が行われたルビーについて、鑑別する機会を得ましたのでご紹介致します。

I.鉛ガラス充填とベリリウム拡散処理を同時に行ったルビー

写真1

写真1

はじめに紹介するルビー4ピース(8.05ct、4.02ct、3.05ct、2.79ct)は、「新技法で処理されたといわれるルビー」として持ち込まれたものです。(写真1

写真2

写真2

このルビーの中の1ピースを蛍光X線元素分析装置で分析した結果は図1の通りです。4ピース全てを分析した結果、含まれていた鉛(Pb)の量は重量%で0.06%から0.38%でした。写真2図1に示したルビーを軟X線透過装置で観察したものです。脈状に黒い影が入っている部分が認められます。
また、拡大検査ではフラッシュ効果も認められており、以上の結果から鉛ガラスの充填であることは明らかです。

図1

図1

これら4ピースのルビーに対しLA-ICP-MS(レーザーアブレーション ICP質量分析装置)を用いて分析した結果、ルビー自体にベリリウム(Be)の拡散は認められませんでしたが、鉛ガラスが充填されているフラクチャー部からは多量のベリリウムが検出されました。ベリリウム拡散処理と鉛ガラス充填を同時に行うつもりであったかは不明ですが、ルビー自体にはベリリウムの拡散は認められず、鉛ガラスの充填の処理のみが行われた石と同様の外観を呈したものであることがわかりました。

II.フラクチャーの部分を修復する処理が施されたルビー

写真3

写真3

次に紹介するルビー(5.110ct)は、表面に達するフラクチャー部を修復する処理が施されたと考えられるルビーです(写真3)。

このルビーの表面(写真4)と、鉛ガラス充填処理を行ったルビーの表面(写真5)をご覧下さい。鉛ガラス充填処理を行ったルビーはフラクチャー部がファセット面上にはっきりと見える(写真5)のに対し、今回のルビーはフラクチャー部は確認されず、ファセット表面に不連続した穴のようなものが観察されることがわかると思います(写真4)。

 

 

写真4

写真4 フラクチャーが修復されたルビーの表面写真
(左:落射証明下、右:落射証明+暗視野証明下、50倍)

写真5

写真5 鉛ガラス充填処理が施されたルビーの表面写真
(左:落射証明下、右:落射証明+暗視野証明下、50倍)

写真6

写真6

蛍光X線元素分析装置で分析した結果(図2)と軟X線透過装置で観察した結果(写真6)を示します。蛍光X線元素分析装置では鉛が検出されているにもかかわらず、軟X線透過装置では黒い粒のようなものがわずかに観察されるだけで、鉛ガラスのような膜状に入っている充填は観察されませんでした。

図2

図2

写真7

写真7

拡大検査したところ、鉛ガラス充填処理に特有のカラーフラッシュは見られませんでしたが、部分的な融着を起こしたフェザーインクルージョンが観察されました。写真7はこのルビーを液浸した状況、写真8・9はこのルビーに見られるフェザーインクルージョンです。


写真8

写真8(×33)

写真9

写真9(×200)

これらの結果から、このルビーはフラクチャーに鉛ガラスが充填されたものではないということがわかります。また、加熱に用いたフラックスだと思われる付着物をLA-ICP-MSで分析した結果、鉛とビスマス(Bi)が検出されました。特に表面に出ている不連続した穴周辺部からは大量の鉛が検出されました。
さらにこの石をLA-ICP-MSで分析した結果、コランダム本体にベリリウムの拡散が確認されています。

フェザーインクルージョンの部分的な融着については図3のような手法で生まれたと考えられます。

図3

図3 ルビーのフラクチャー修復プロセス

(1)フラクチャーを埋める処理をはじめるために、鉛を主体としたフラックス材と、酸化アルミニウム(ルビーの原料になるもの)を処理するルビーと一緒にルツボに入れます(黄色い部分がフラックス材+酸化アルミニウム)。
(2)加熱すると、フラックス材と酸化アルミニウムがフラクチャーの部分に浸透します。その際、図で白く示した部分のように気泡ができてしまいます。
(3)冷却するとフラクチャー部に合成ルビーが晶出します。オレンジ色の部分が合成ルビーです。また残りのフラックス材がガラスとして図で示した緑の部分のように残ります。この残されたフラックス材は鉛を含んでいるため、軟X線透過装置で観察すると黒い粒として見えます。
(4)表面にも合成ルビーが生成してしまうので、リカットして取り除く必要があります。リカットした結果、フラクチャーの部分がきれいに修復された状態になります(写真4)。

これらの結果から、このルビーは、フラクチャーの修復処理とベリリウム拡散処理を同時に行うために、フラックス材とベリリウムを同時に入れて高温で加熱したものであると考えられます。

今回のCGL通信では、2つの新しい処理技法が施されたルビーについて紹介致しました。タイでは日々新しい処理技法が開発されているため、気をつける必要があります。当社では、常時海外等から新しい処理の情報を入手し、日々の鑑別においても新しい処理が施されていないか注意を払っております。

以上

チャザム合成ダイヤモンド

写真1

CVDダイヤモンドについては、CGL通信No.1でその特徴と鑑別法を既にお伝えしておりますが、宝飾市場で稀に遭遇する合成ダイヤモンドは全て高温高圧法によって合成されたものと考えて良いでしょう。
ダイヤモンドの合成は、1954年アメリカのGE社の高温高圧法による成功が最初です。これ以降、合成ダイヤモンドは主に研磨材として砥粒などの工業用目的で生産されるようになり、また情報通信機器用のヒートシンク材料などの先端産業分野での合成ダイヤモンドの研究も進むにつれ飛躍的な合成技術の進歩を遂げました。
宝石品質のものはというと、これまで実験的にデビアスやGE社が作っており、商業的にはチャザム社がロシア産合成ダイヤモンドの販売を1990年代初めに行っています。新たに昨年より “Chatham Created Diamond” と称して販売を開始した合成ダイヤモンドはチャザム社が以前販売していたものとは異なり、ロシア以外の国で製造したものです。今回はこの合成ダイヤモンド “Chatham Created Diamond” について報告します。

Chatham Created Diamond の特徴

チャザム社が販売している合成ダイヤモンドは、ピンク、ブルー、イエロー系でその色調の違いによってイエロー系ならカナリー/マリーゴールド/アンバー、ピンク系ならピンク/ラズベリー/ピーチーピンク、ブルー系ならブルー/スカイブルー/アクアとそれぞれ呼んでいます(グリーン系もあるようですが現在はまだ販売されていません)。これらは合成技術の発達によって、ボロンや窒素濃度のコントロールが可能になり、ブルーやイエローなどの色合いも以前にはなかった明るくより天然に近い色のものが作れるようになったわけです。
本来合成ダイヤモンドにはグレーディングは行わないのですが、今回弊社が検査する機会に恵まれたブルー、ピーチーピンク、ラズベリーの石(合計11ピース)を敢えてカラーグレードをすると下記の表の通りになります。

重量(ct) カラーグレード クラリティグレード
0.317 Fancy Deep Blue I-1
0.162 Fancy Deep Blue SI-2
0.165 Fancy Deep Blue SI-2
0.198 Fancy Deep Blue SI-2
0.311 Fancy Light Brownish Pink VVS-2
0.386 Fancy Deep Orangy Pink SI-1
0.377 Fancy Deep Orangy Pink VS-1
0.389 Fancy Deep Orangy Pink VS-1
0.360 Fancy Deep Orangy Pink VS-1
0.324 Fancy Deep Orangy Pink VVS-2
0.264 Fancy Intense Pink VVS-1

今回のサンプル石の形状は全てラウンドブリリアントでしたが、その他カットコーナーリクタンギュラー、オクタゴンシェープもあるそうで、重量については0.1ct台から0.5ctまでのものが殆どのようです。

ブルー系ダイヤモンドの特徴

ブルーの合成ダイヤモンドは、全てタイプIIbで天然ブルーダイヤモンドと同じタイプに属します。タイプIIbとは、窒素は殆んど含みませんが不純物としてボロンを含有するタイプで、色がブルーであることと導電性をもつことが特徴です。今回検査した4ピース全てにも導電性が認められました。

拡大検査
◆明瞭なブルーと無色のカラーゾーニング(写真1
◆金属光沢を有する不透明な包有物(写真2)が有り、これは石に緑味を与えるニッケル除去を目的で用いられた鉄-コバルト系溶媒から晶出した包有物だと考えられます。

偏光検査
◆偏光レンズを用いたクロスニコル下での検査で、天然II型のダイヤモンドに特有のタタミマット(写真3)と呼ばれる干渉模様は全く見られません。タタミマットが見えない場合は合成ダイヤモンドの疑いがありますので注意すべきです。

蛍光検査
◆長波紫外線に対しては不活性でしたが、短波紫外線ではグリニッシュイエローを示し、燐光も約50~60秒ほど続きました。短波での燐光は天然のタイプIIbに一般的なものでありますが、非常に長い燐光はやはり合成ダイヤモンドの疑いがあるため注意が必要です。

ダイヤモンドビュー
◆DTC社が合成ダイヤモンドの鑑別のために開発した DiamondView(CGL通信No.1 参照)によって検査したところ、高温高圧合成ダイヤモンドに特有の成長模様がみられました(写真4)。

写真1

写真1

写真2

写真2


写真3

写真3

写真4

写真4



ピンク系ダイヤモンドの特徴

写真5

写真5

今回のピンクの合成ダイヤモンドは、ブルーのものに比べて0.3ct台と大きく包有物も殆んどない高品質なものが揃っていました。クラリティーグレードに影響を与えるインパーフェクションは、通常の拡大検査では微小な金属インクルージョンが入ったものが1ピースあったのみで他に包有物はなく、その他のものは全て外部からの特徴によるものでした。更に液浸して内部を観察するとピンクと無色のカラーゾーニングが見えました(写真5)。
蛍光性は皆強いオレンジ色で、概ね短波よりも長波紫外線の方が強い蛍光を示しました。燐光に関しては1ピースも観察できませんでした。
FT-IRのの検査によってこれらは全てIbタイプのダイヤモンドに分類されました。本来黄色であるはずのIbタイプのダイヤモンドは、照射とその後の加熱(アニーリング)でイエローからピンクへと色を変える事が可能です。今回のサンプルはその良い例と言えるでしょう。

今回検査した “Chatham Created Diamond” はブルー系とピンク系の2種類でしたが、同じ高温高圧法で合成されたものであっても、添加される不純物や溶媒の違いで出来るダイヤモンドのタイプは異なります。鑑別する際には、それぞれの色やタイプを十分考慮した上で、それに対応した検査を重ねて行く必要があります。当社ではグレーディング依頼のあったダイヤモンドは、ケープディテクターおよび簡易FT-IRでの全量検査から始まり、通常の拡大、偏光、蛍光、燐光検査などを行い、更に必要に応じてより高倍率での拡大検査、各種の分光検査、EDXRFによる元素分析、Diamond Viewによる成長模様の観察などを行った上で、確実に天然と判断をした上でグレーディングを行っております。

以上

ダイヤモンドの高温高圧(HPHT)プロセスについて

ご存知でしょうか? 地球上で最も豊富に産出されるダイヤモンドは褐色であることを。カラーレスや最近人気のインテンス・イエロー、ブルー、レッド、ピンク、グリーンなどの“ファンシーカラー”ダイヤモンドと比較すると褐色のダイヤモンドの産出量は圧倒的に多く、これら褐色のダイヤモンドをより価値あるカラーレスやファンシーカラーダイヤモンドに変化させたいという願望は昔から存在していました。

このような理由から、ダイヤモンドの外観を変える方法は昔から多くの方法が提案され、特に放射線処理は一般的に魅力のないカラーから魅力的なカラーのダイヤモンドへと色を変えるのに用いられて来ましたし、コーティング処理は見た目“カラーレス”に変えるのに用いられて来ました。

放射線処理やコーティング処理は、色の変化に関してある程度効果的ですが、従来の宝石学的検査によって簡単に看破可能です。しかし、褐色のダイヤモンドに超高圧下で加熱処理を施しダイヤモンドの色を改良したものが近年現れており、これらの処理ダイヤモンドはそれが処理されていると断定することが従来の鑑別法ではほとんど出来ません。この処理は『高温高圧プロセス』と呼ばれています。

I.高温高圧(HPHT)プロセスとは

写真0

天然ダイヤモンドの結晶が生まれるのは地球の奥深く120km以上の場所で、そこは超高圧高温の環境です。そこで育ったダイヤモンドはマグマの噴出等によって急速なスピードで地上まで運ばれるため、我々は地球の奥深くにあったままの状態でダイヤモンドの結晶を手にすることが出来ます。
地球上で最も豊富に産出されるダイヤモンドが褐色であることは既に説明しましたが、これは結晶が成長した後に超高圧高温の環境で受ける熱や応力が原因だと言われています。

このような原因で褐色となったダイヤモンドをもとあった地下の超高圧高温の環境に戻すことが出来れば、それらのダイヤモンドの色は再び変化しにます。これを、そのダイヤモンドが本来の色に戻ると表現する人もいます。

HPHTプロセスとはこのようにダイヤモンドを超高圧高温下に置く処理です。

II.超高圧発生装置

ダイヤモンドが生まれた地球深部のような超高圧高温を再現する装置の利用は、1955年にGE社が合成ダイヤモンドの製造に成功したことにより可能になりました。当時、GE社が製造した超高圧発生装置はベルト型プレスと呼ばれ、写真1のような大型の装置です。それ以降、米国ではキュービック型やプリズム型と呼ばれる装置が開発され、ロシアからはバール型と呼ばれる超高圧発生装置が開発されています。

写真1

写真1 ベルト型

写真2

写真2 キュービック型


写真3

写真3 プリズム型
写真:Novadiamond HPより転載

写真4

写真4 バール型
写真:Novadiamond HPより転載



III.ダイヤモンドのタイプと色

ダイヤモンドのタイプは慣例的に以下の4つに分類されています。

図1

I型(窒素を含むタイプ)
I a型・・・窒素原子が集合体を作っているもの。大抵の無色から黄系(ケープ系)ダイヤモンドがこれにあたります。
I b型・・・窒素原子が単独で存在しているもの。ファンシーインテンスイエローなどの濃い黄色系のダイヤモンドを生みます。


図2

II型(窒素を含まないタイプ)
II a型・・・窒素やホウ素などの不純元素を含まない無色のダイヤモンドです。希少性が非常に高いタイプです。
II b型・・・不純元素としてホウ素を含むもの。電気を通す特異な性質を持ち、ファンシーブルーのダイヤモンドが属するタイプで有名です。希少性が非常に高いタイプです。



IV.色の変化のメカニズム

4-1 窒素の凝集と分解
窒素を含有するI型ダイヤモンドは、地球の奥深くで100万年から30億年程かかって窒素原子が単独で存在するIb型から窒素が集合したI aA型、I aB型に変化すると云われています。高温高圧プロセスではこの過程とは正反対に集合した窒素を単原子の状態に分解します。このように処理されたダイヤモンドは、ファンシーイエロー系や所謂アップルグリーンと呼ばれるファンシーイエローグリーン系のダイヤモンドに変化します。

図3

4-2 ダイヤモンド中の格子の歪み
ダイヤモンドの褐色味は地球深部で受けた応力で生まれた結晶格子の歪みが原因と云われています。高温高圧プロセスで再度この応力に相当するような圧力をかけることでその歪み(左図)を修正することが可能になり、褐色味を取り除くことになります。その結果、II a型のダイヤモンドは本来のカラーレスへ、II b型のダイヤモンドならブルーへと変化します。

図4



V.ダイヤモンドのタイプ別による色の変化

ダイヤモンドのタイプとHPHTプロセスによる色の変化を表したのが以下の図です。

図5

II a型
本来このタイプは無色系のダイヤモンドですから、HPHTプロセスによって地球深部の応力に相当する圧力を与え結晶格子の歪みを治せば無色系ダイヤモンドになります。また、HPHTプロセスで無色に変わる前にピンク色が出現することもあります。
II b型
本来このタイプは青色系のダイヤモンドですから、同じようにHPHTプロセスによって結晶格子の歪みを治せばブルー系のダイヤモンドになります。
I a型
窒素原子の集合体を分解してI b型に近づけることがHPHTプロセスでは可能なため、HPHTプロセスを施すとファンシーインテンスイエローなどの濃い黄色やイエローグリーン系に変化します。
I a型
現段階では、HPHTプロセスによるI b型からI a型への変化は確認されていません。

X.市場に出回っているダイヤモンド

写真5

Bellatair社 HPより転載

6-1 ベラテア(Bellatair)
1999年4月にペガサスオーバーシーズ社(アントワープ:LKIの子会社)がGE社でHPHTプロセスを施したダイヤモンドの販売を開始しました。これがHPHTプロセスダイヤモンドを公式に市場化させた最初の例です。
当初は “GEPOL” ”と呼ばれていましたが、その後 “Monarch” に変更し、現在では “Bellataire” というブランド名で呼ばれています。何れかのブランド名がガードルにレーザー刻印されています。

販売されている色は以下の通りです。
・Colorless(II a型)
・Pink(II a型)
・Intense Yellow~Greenish Yellow(I a型)
・Blue(II b型)

写真6

NovaDiamond社 HPより転載

6-2 ノバダイヤモンド(NovaDiamond)
2000年2月にノバダイヤモンド社(アメリカ・ユタ州)が親会社のNovatech社でHPHTプロセスしたダイヤモンドをインターネット上で販売を開始しました。
当初はHPHTプロセスダイヤモンドを自社ブランドで “NovaDiamond” とガードル刻印を入れて販売していましたが、現在はHPHTプロセス業務を請け負っているだけで販売はしていないようです。

販売されていた色は以下の通りです。
・Intense Yellow(I a型)
・Yellowish Green~Greenish Yellow(I a型)

写真7

Nouv社 HPより転載

6-3 ノーブ(Nouv)
2008年3月からイルジンダイヤモンド社(韓国)が自社でHPHTプロセスを施したダイヤモンドを “Nouv” というブランド名で販売しています。現在、最も積極的に海外の展示会にも参加して営業活動を行っている会社の一つです。
HPHTプロセスダイヤモンドには “Nouv” とガードル刻印を入れています。

販売されている色は以下の通りです。
・Intense Yellow~Orangy Yellow(I a型)
・Yellowish Green~Greenish Yellow(I a型)

鑑別機関での検査法
市場には以上に紹介したHPHTプロセスダイヤモンド以外にも中国やロシアでHPHTプロセスが行われたものも僅かではありますが存在しています。ガードル刻印も削られることもあり、HPHTプロセスであることを開示するガードル刻印がないからと言って安心できるものではありません。
当社ではお預かりした全てのダイヤモンドを自社開発したケープディテクターという装置を通し、合成や処理の可能性のあるダイヤモンドだけを選別し、更に高度な検査を行っています。HPHTプロセスに適したダイヤモンドのタイプは既に説明したようにある範囲に限定されています。ですから、それらのタイプをケープディテクターや赤外分光光度計で測定することによってHPHTプロセスの可能性があるタイプの石かどうかを確実に分類することが出来ます。

高度な検査
現在、HPHTプロセスを看破する手段としてはフォトルミネッセンスの分析が最も有効と言われています。当社では、このフォトルミネッセンスの測定には顕微ラマン分光分析装置(レニショー社製システム1000およびジョバンイボン製ラブラムインフィニティ)を用いて、検査する石をマイナス150℃以下に冷却し測定を行っています。一言にHPHTプロセスと言っても既にご紹介したように多くの会社で行われています。それらは超高圧発生装置の種類も違えば超高圧高温の条件も処理時間もそれぞれに異なり、またこの処理に供せられるダイヤモンドが持つ固有の性質などによりフォトルミネッセンスで得られる特徴も多岐に亘ります。

当社ではこれら様々な特徴に対応するためにフォトルミネッセンス測定に用いるレーザー光線も5種類(325nm、488nm、514nm、532nm、633nm)を用意し、これまで数多くのHPHTプロセスダイヤモンドを検査してまいりました。現在もなおHPHTプロセスを施す前後でのフォトルミネッセンスの変化を調査しております。このように蓄積したデータをもとに、最も確実に天然ダイヤモンドとHPHTプロセスされた石の選別を行っています。

写真8

これらのダイヤモンドは、当社の研究のためS社(米国)でHPHTプロセスしたものの一部です。HPHTプロセスする前はFancy Light Brownの石でした。HPHTプロセス後は、左からカラーレス(テーブルしか再研磨していないためカラーグレードの判断は不能)、Light Orangy Pink、Very Light Orangy Pink、Fancy Vivid Yellowに変化しています。


尚、AGLのルールで鑑別書およびグレーディングレポートへの記載法は次のように決められています。HPHTプロセスされたダイヤモンドであると判断された場合には、鑑別書に『色の変化を目的とした高温高圧プロセスが行われています』とその処理法が明記されます。グレーディングレポートには、鑑別書と同様のコメントが『備考欄』に記載されるだけでなく『カラーグレード欄』と並んだ『色の起源(カラーオリジン)欄』に『高温高圧プロセス』と記載されます。

一方、HPHTプロセスだけでなくその他の処理もされていない天然ダイヤモンドについては、グレーディングレポートにおいて『色の起源(カラーオリジン)欄』に『天然(Natural)』と記載されます。

HPHTプロセスダイヤモンドの表記方法
鑑別書

鉱物名(Group/Species)
天然ダイヤモンド

宝石名(Variety)
○○ダイヤモンド

開示コメント(Comment)
色の変化を目的とした高温高圧プロセスが行われています

グレーディングレポート

カラーグレード(Color Grade)
○ *

色の起源(Color Origin)
高温高圧プロセス *(HPHT Prosessed)

備考(Comment)
*色の変化を目的とした高温高圧プロセスが行われています


何も処理されていない天然ダイヤモンドの表記方法
鑑別書

鉱物名(Group/Species)
天然ダイヤモンド

宝石名(Variety)
○○ダイヤモンド

開示コメント(Comment)

グレーディングレポート

カラーグレード(Color Grade)

色の起源(Color Origin)
天然(Natural)

備考(Comment)

以上

CVDダイヤモンドについて

はじめに

2005.3.23発売のニューズウイーク誌に “あなたのダイヤ「本物」ですか”という刺激的なタイトルで発表された合成ダイヤモンドの記事は、お読みになりましたか?
この記事では、米国Apollo Diamond社で製造しているCVD合成ダイヤモンドを取り上げ、鑑別が難しいと書かれていますが、当中央宝石研究所は昨年(2004年)の早い段階でサンプルを入手し、6月の宝石学会でCVDダイヤモンドの特徴を示し、日本では当社のみが所有しているデビアス社製ダイヤモンドビューTM等を用いれば、鑑別が可能であることを発表しています。

今回のCGL通信第1号では、このCVDダイヤモンドを取り上げ、その特徴と鑑別法をできるだけ分かり易く皆様にお伝えしたいと思います。また、今後もホットな話題を(不定期ですが)配信していくつもりです。

CVDの意味は

CVDとは Chemical Vapor Deposition の略で、化学的に気体状態から積層させる合成法を意味します。日本語では「化学気相成長法」や「化学蒸着法」と呼ばれます。MPCVDと書かれている場合は、Microwave Plasma Chemical Vapor Deposition の略でマイクロ波プラズマ法と呼ばれています。
最近話題となっているApollo Diamond社(ボストン・マサチューセッツ州)の合成ダイヤモンド法を用いて作られています。
CVD合成ダイヤモンドがこれ程までに市場で問題化した背景には、Apollo Diamond社が2004年にCVD法で製造したタイプII a合成ダイヤモンドを1年以内に商品化すると発表したことに始まります。その直後、このCVD合成ダイヤモンドがこれまでの高温高圧(HPHT)法の合成ダイヤモンドの鑑別特徴では看破出来ないと発表されたことから、市場では『天然ダイヤモンドと識別がつかない』という間違った情報に変化して大問題に発展しました。

昨年春、当社はApollo Diamond社製CVDダイヤモンドのファセットカット石および原石(合計3石)を検査する機会を得、その後同社製のより高品質CVDダイヤモンド原石を更に3石調査致しました。その検査結果はすでに昨年度の宝石学会で当社スタッフの間中が発表し、当社の情報誌であるGemmy(121号/2004年11月発行)でも紹介いたしました。今回ニューズウイーク誌で取り上げられたことでCVDダイヤモンドが鑑別できないという間違った情報が広がるのを防ぐため、再度これらの石についての鑑別特徴を紹介させていただきます。

ファセットカット石 原石
CVD合成ダイヤモンドCVD合成ダイヤモンドが作られているところ。プラズマ化したガスは白い雲のように見えている。

写真3CVD合成装置の例:モデルAX6600
(写真はセキテクノトロン社のHPより引用)

 

CVDダイヤモンドの特徴

外観特徴

写真11

製造が始まったばかりのCVDダイヤモンドでは厚さ方向に成長させるのに時間がかかるため、原石からの歩留まりを考慮すると写真のような形となってしまいます。
合成ダイヤモンドには通常グレーディングを行いませんが、敢えてクラリティ検査を行うと、このカット石のグレードはI-1になります。これは網目状に入った表面上の割れ(フラクチャ)によるものであって内包物(インクルージョン)は実際には多くありません。将来、大型のCVD結晶が得られるようになればかなり高品質のカット石も出来るでしょう。

CVD合成ダイヤモンド上記のカット石の写真を見ても分かる様に、非常にフラットな形状を示します。

鑑別

偏光検査
ヨー化メチレンに液浸し、偏光(クロスニコル)下で観察するとCVDダイヤモンドは天然II型に現れるタタミマットと良く似た干渉模様が観察されました。天然のII型ダイヤモンドは偏光下で回転させても合成スピネルに見られるような石全体にわたるタビー状のゆらぎは見られないのに対して、CVDダイヤモンドでは偏光下で回転させるとタビー状の異常消化が観察されるため、これらは通常観察における区別の指針となるでしょう。この他にも特有の模様が見られます。

写真5偏光(クロスニコル)下で観察するとCVDダイヤ
モンドはタタミマットと良く似た模様が
観察されます。

写真6他の石で見られる特有の模様



拡大検査

写真7

CVDダイヤモンドは、基盤に平行に成長するため、その痕跡が残ってしまいます。高屈折率の液体に浸すと、テーブルに平行な特有の成長模様(褐色)を観察する事ができます。分析機器を用いずに観察できる重要なポイントです。
ただし、今後高品質化された場合、観察しづらくなると予想されるため、別の方法で観察できる方法が必要になるでしょう。


ダイヤモンドビュー(Diamond ViewTM)による観察

ダイヤモンドビューは、デビアス系のDTC(Diamond Trading Company)で合成ダイヤモンドを区別するために開発された装置です。ダイヤモンドに紫外線を当て蛍光像をモニターで観察しながらあらゆる角度で石の検査を可能にした機器で、カソードルミネッセンス(CL)像と同様に天然と合成を判別できますが、よりスピーディに検査が行えます。
この装置でCVDダイヤモンドを観察すると前ページで観察された成長線が蛍光の差となって見ることができます。成長線がみづらい石に遭遇したときにこの装置は非常に有効な手段となります。

写真8Diamond ViewTM

写真9ダイヤモンドビューにより観察される
テーブルに平行な蛍光像
(前ページと同じCVDダイヤモンド)


その他の特徴的なCVDダイヤモンド

次の写真は円柱状に研磨されたCVDダイヤモンドですが、従来の高温高圧法による合成ダイヤモンドを基盤に使用したためその部分が残ってしまい、高温高圧法ダイヤモンド特有のクロスした模様が観察される例です。

写真10高温高圧合成ダイヤモンドの基盤が残った
CVDダイヤモンド

全体にはN-Vの欠陥(Nは窒素・Vは空孔)によるオレンジ色の発行が見られますが、写真下部にクロスした高温高圧法合成ダイヤモンドの典型的な模様が見られます。これにより基盤には合成ダイヤモンドが用いられていることがわかります。反対側の面には、このクロス模様は見られません。
※ダイヤモンドビューは、本来このような合成ダイヤモンド特有のクロス模様を見るために開発されたものです。



フォトルミネッセンス(PL)
フォトルミネッセンスの検査には、顕微ラマン分光分析装置(レニショー社製システム1000およびジョバンイボン製ラブラムインフィニティ)を用いてサンプル石を-150℃以下に冷却し測定を行いました。異なる波長のレーザーと組み合わせてフォトルミネッセンス測定を行うことで、予期しない特徴が捕まえられることがありますので、3種類のレーザー(325nm、514nm、633nm)で検査を行いました。

514nmレーザー励起(れいき)
N-Vセンターと呼ばれる欠陥の特徴が575nmと637nmに明瞭に見られ、さらにはシリコンに関連する737nmの強い発光ピークも観察されました。このシリコンは、製造装置のカプセル由来であって、基盤がシリコンであるためではないと言われています。シリコン基盤でダイヤモンドの製造は可能ですが、多結晶質になりやすいため、単結晶のダイヤモンドを作る場合は単結晶ダイヤモンドを基盤として用います。

633nmレーザー励起
シリコンによる737nmは励起している波長に近いため、より強いピークとして観察されます。2004年のG&G春号ではデビアス系のエレメントシックス社で製造されたCVDダイヤモンドが紹介され、最新のCVDダイヤモンドでは既にシリコンのピークが検出されなくなってきているそうですが、このシリコン関連のピークが検出されればCVD合成のダイヤモンドであると考えて良いでしょう。

325nmレーザー励起
CVDダイヤモンドには天然石と比べてたくさんのピークが存在し、特徴的なピークとしては天然石には観察されない533nmの発光が検出されました。

中央宝石研究所では、CVD合成ダイヤモンドがいずれ市場に出回ることを予測しデータを集め、現段階で鑑別は可能とであることが分かっております。今後も様々な状況変化にできるだけ迅速に対応し、皆様のご期待に添えるよう努力してまいります。

以上