CGL通信 vol64 「令和5年度 宝石学会(日本)見学会参加報告」

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CGL通信 vol64 「令和5年度 宝石学会(日本)見学会参加報告」

Adobe_PDF_file_icon_32x32-2023年9月PDFNo.64

リサーチ 江森健太郎

 

6月11日(日)、総会・講演会の翌日に見学会が実施され、(1)フォッサマグナパーク、(2)高浪の池を見下ろす展望台、(3)コスモクロア露頭、(4)須沢海岸、合計4か所の見学を行い、宝石学会(日本)会員・賛助会員・非会員合わせて61名の参加がありました。

 

(1)フォッサマグナパーク

フォッサマグナパークでは、糸魚川から静岡県までつながる断層である「糸魚川―静岡構造線」を見ることができました(写真1、2)。「糸魚川―静岡構造線」はユーラシアプレートと北アメリカプレートの境界であると考えられており、フォッサマグナの西側の境界断層でもあります。両プレートの押す力により糸魚川を含む中央日本が隆起し、高い山脈を作っています。

写真1-1.フォッサマグナパークで見ることが出来る糸魚川-静岡構造線。
写真1-1:フォッサマグナパークで見ることが出来る糸魚川-静岡構造線。

 

写真1-2.写真1-1にプレート境界線を赤線で加えた。
写真1-2:写真1-1にプレート境界線を赤線で加えた。

 

写真2:プレート境界の破断面。プレートが動いた際に擦りあった結果、境界は粘土状になっている。
写真2:プレート境界の破断面。プレートが動いた際に擦りあった結果、境界は粘土状になっている。

 

◆フォッサマグナとは

フォッサマグナ(Fossa Magna)はラテン語で、「大きな溝」という意味です。アジア大陸から日本列島が離れる時にできた裂け目と考えられています。裂け目には、主に海底にたまった新しい岩石が埋まっています。やがて、海底が隆起し、今の地形を作り上げました。

 

(2)高浪の池を見下ろす展望台

高浪の池を見下ろす展望台からは、明星山の岩壁(写真3)を見ることができました。この岩壁をつくる石灰岩は3億年前の太平洋にあったサンゴ礁であり、プレートによって運ばれてきたものです。石灰岩からはサンゴやウミユリなどかつてのサンゴ礁に住んだ生物の化石が見つかるそうです。
プレートによって運ばれてきた石灰岩(サンゴ礁)は蛇紋岩によって地下から持ち上げられたヒスイと出会うことになりました。地下でヒスイが形成され、持ち上げられてきたことや、ヒスイと石灰岩が出会っていることは、すべてプレート境界だったからこそ起こった地質学的イベントなのです。

 

写真3:明星山の岩壁
写真3:明星山の岩壁

 

(3)小滝川ヒスイ峡

小滝川ヒスイ峡のヒスイは蛇紋岩メランジュの中の構造岩塊として取り込まれていたものです。地すべりにより蛇紋岩眼帯が小滝川に滑り落ち、その後の浸食により蛇紋岩が削り取られ、強固なヒスイだけが流域に残されたと考えられています。ヒスイが下流に運ばれるのは大洪水や土石流が起こった時のみです。小滝川ヒスイ峡は1956年に国指定の天然記念物として大切に保護され、保全計画に基づき公開されています。
小滝川ヒスイ峡についての詳しい情報は、CGL通信vol. 47「小滝川ヒスイ峡を訪ねて(リサーチ室 北脇裕士)」(https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/47/80.html)に詳しく掲載されています。

 

峡が国の天然記念物であることを示すモニュメント。
写真4-1:小滝川ヒスイ峡が国の天然記念物であることを示すモニュメント。

 

小滝川のヒスイ。赤線で囲った部分はすべてヒスイである。
写真4-2:小滝川のヒスイ。赤線で囲った部分はすべてヒスイである。

 

(4)山之坊コスモクロア露頭

コスモクロア輝石(Kosmochlor、NaCrSi2O6)はヒスイと同じ「輝石」と呼ばれる鉱物グループに属します。1894年、メキシコのToluca隕石の中から世界で初めて発見され「コスモ=宇宙」の名が付いています。日本でのコスモクロア輝石は1996年に岡山県大佐山のヒスイからはじめて発見され、1997年糸魚川姫川産(根知付近、翠宝堂廣川様所蔵標本)のヒスイからも発見されています。糸魚川では益富地学会館の益富壽之助博士によって1978年にコスモクロア輝石と考えられる鉱物が発見されていましたが、未発表のままでした。糸魚川におけるコスモクロアは山之坊のネフライト露頭、姫川産のヒスイ(転石)、青梅金山谷のネフライト(転石)から発見されています。
今回訪問した露頭は鈴木ら(文献)で発表された場所と同一であり、糸魚川市から国道148号を小谷側に進み、山之坊地内の茶臼山トンネル南側出口の付近の斜面に位置します。この露頭のネフライト中に直径1 mm以下のコスモクロア輝石が含まれています。現場はすでに盗掘されていますが、2020年7月3日に第133号「天然記念物 山之坊コスモクロア輝石露頭」としてこの露頭を指定し、監視カメラや柵を設置することで露頭を保護しています。
コスモクロア輝石はとても珍しい鉱物であり、世界的にみてもロシアなどごく一部の地域で産出が報告されているのみと、希少度的にはヒスイを上回ると考えられています。この露頭の発見まで、糸魚川市内でコスモクロア輝石の産地が特定されたことはありませんでしたが、それだけでなく、ネフライトの露頭もこの場所以外に市内での発見例はありません。
また、このコスモクロア露頭はから産出されたコスモクロアは組成がNa0.98Cr0.97Al0.03Si2.01O6と理想値に近く、端成分に近いコスモクロア輝石であると言えます。

 

山之坊コスモクロア露頭のコスモクロア輝石(矢印で示す)
山之坊コスモクロア露頭のコスモクロア輝石(矢印で示す)

 

(5)須沢海岸

通常の岩石より比重が大きいヒスイは、通常の川の流れで下流に運ばれることはありません。山々が隆起し、発生した土石流によりヒスイは海岸まで運ばれます。縄文時代の人々は緑色に輝くヒスイを海岸から発見し、世界最古のヒスイ文化を花開かせました。糸魚川がずっと昔よりプレート境界周辺であり続けたことにより、人はヒスイと出会ったのです。
数十万年の間に5億年以上の歴史を有する山岳地域からヒスイを含む大量の岩石が海岸に運ばれ、糸魚川海岸は色とりどりの、いろいろな模様を持つ小石の海岸となっています。須沢海岸もその1つでありこの海岸でヒスイ探しを行うことができます。
宝石学会(日本)見学会においても、この須沢海岸でヒスイ探しが行われ、見学会の参加者1名がヒスイを見つけることができました。

須沢海岸でヒスイ探しを行う見学会参加者達
写真6-1:須沢海岸でヒスイ探しを行う見学会参加者達

 

須沢海岸で発見されたヒスイ
写真6-2:須沢海岸で発見されたヒスイ

◆ 参考文献
鈴木・大木(2019)地学研究,65: 185–187.