CGL通信 vol54 「天然ダイヤモンドvs合成ダイヤモンド-生い立ちの違い-」
リサーチ室室長 北脇 裕士
近年、合成ダイヤモンドが宝飾市場にも現れ、業界の重要な関心ごとになっています。装飾用に供される合成ダイヤモンドのサイズおよび品質は年々向上しており、HPHT法合成ダイヤモンドでは15ct以上、CVD法合成ダイヤモンドも9ct以上のものが報告されています。いっぽう、メレサイズの無色合成ダイヤモンドのジュエリーへの混入が、ここ数年宝飾業界の大きな懸念材料となっています。
しばしば、業界の方々から合成ダイヤモンドはどのように見分けるのかと質問を受けます。さらに、鑑別の決め手は・・・?と質問されることもあります。
天然ダイヤモンドも合成ダイヤモンドも等しく炭素でできた結晶です。物質としては基本的に同じものです。したがって、硬度、電気伝導性などの物理的性質や屈折率、分散度などの光学的性質に本質的な違いはありません。宝石質の天然ダイヤモンドは地下深部の上部マントルで結晶化し、合成ダイヤモンドは人工的に地下深部の高温高圧を再現した高圧発生装置内で育成されます。また、近年ではCVD法と呼ばれる低圧下のガスからも合成ダイヤモンドが製造されています。
このように天然と合成ではその成長の条件や環境などの生い立ちが異なります。そして、その生い立ちの違いに起因する包有物や内在する結晶欠陥を手掛かりとして鑑別が行われています。そのため、天然と合成を識別するためには、それぞれの結晶成長にかかわる環境や条件などを詳しく知る必要があります。
本稿では、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドを識別するための手助けとなるよう、それぞれの生い立ちについて少し掘り下げて考えてみることにします。
◆天然ダイヤモンドの成因
天然ダイヤモンドの産状は、① マントルで生成し、キンバーライトやランプロアイト等の火山岩により地表に運ばれたもの、② 超高圧変成岩に産するもの、③ 隕石の衝突や隕石中に含まれるもの、に分類されます。また、ごく最近になってロシア科学アカデミーと北海道大学等の研究チームが地殻内の地下5kmよりも浅い低温低圧下(300℃、1000気圧以下)で生成したナノダイヤモンドについて報告しています。しかし、これらのうち装飾用や工業用に適用できるサイズのダイヤモンドは、①のマントル由来のものに限定されます。
マントル由来のダイヤモンドの年代は、その包有鉱物の年代測定により9億9000万年~33億年前の範囲にあると考えられています。これに対して、母岩であるキンバーライトやランプロアイトはそれぞれのパイプによって異なっていますが、およそ1億年~12億年前の範囲にあります。したがって、ダイヤモンドはこれらのパイプ中で結晶化するのではなく、これらの火山岩によって地表に運搬されたと考えられます。
ダイヤモンドを含む捕獲岩及びダイヤモンド中の包有鉱物の研究から、ダイヤモンドはペリドタイト及びエクロジャイト中で形成すると考えられています。ペリドタイト中のダイヤモンドは、大規模なマントルの部分溶融のため炭素を失った融け残りマントルが、数億年の時間を経た後に炭素の濃集過程を受けて生成します。いっぽう、エクロジャイト中のダイヤモンドは、海洋プレートの沈み込みによってマントル深部まで運ばれた玄武岩質海洋地殻が、高温高圧下で相転移した際に形成したと考えられています。
◆世界のダイヤモンド産出状況
天然ダイヤモンドの産出地は全世界に広がっています。Fig.1に世界の主要な24のダイヤモンド・パイプ鉱床と7件の先端プロジェクトを示します。これまでにキンバーライト・パイプで開発された主要なダイヤモンド鉱山は、すべて始生代の地質区分に含まれていますが、ランプロアイト・パイプ上に位置する大規模なダイヤモンド鉱山(アーガイル鉱山)は、原生代に含まれています。
ある資料によると、世界のダイヤモンドの産出量は、過去に新鉱山の開業によって幾度も増加し、戦争、政変、金融危機などの要因によって減少しています。20世紀中頃までの主要産地はアフリカ大陸にありました。ソ連、オーストラリア、カナダ等のアフリカ以外の産地が台頭したのは1960年代に入ってからです。古代から現代までの世界のダイヤモンド総産出量は45億ctと推定されています。1870年から2005年までは、南アフリカが産出額で1位、産出量で4位であり、その主な理由は産出の歴史が長いことにあります。ボツワナは産出額で2位、産出量で5位ですが、産出が始まったのは1970年のことです。2001年から2005年までの世界産出量は、およそ8億4千万ctでした。この期間、産出量ではロシアが1位、産出額ではボツワナが1位でした。
近年の主要な天然ダイヤモンドの原産地としてロシア、カナダ、オーストラリア、ボツワナ、南アフリカ、アンゴラ、コンゴ(旧ザイール)、ナミビア等が良く知られています。
産出量に対して産出額が多いのは、宝石品質の割合が高いことを示し(例えばボツワナ、アンゴラ)、産出量に対して産出額が低いのは、宝石品質の割合が低いことを示しています(例えばコンゴ(旧ザイール)/オーストラリア)。
◆天然ダイヤモンド:地球科学における重要性
地球内部を研究する手法は、①地震学的手法、②高温高圧実験、③地球内部起源の天然試料の研究の3つに大別することができます。地震学的には地球内部の地震波伝播速度の3次元的な解析において、地殻・マントル・核の密度構成や地球内部での物質移動や循環が研究されています。高温高圧実験ではマルチアンビル高圧発生装置の開発や放射光X線を用いたX線回折のその場観察の発展等において、マントル物質の高圧相転移が詳しく調べられ、地震波の不連続と相転移の関連が議論されています。
地球内部起源の天然試料として研究対象となるのは、上部マントル物質が直接野外で観察できるオフィオライト岩体やマントル捕獲岩などです。特にマントル捕獲岩は地下深部の物質をもたらす重要な研究対象となります。マントル捕獲岩は地下深部で発生したキンバーライトやランプロアイトなどの噴出に伴ってマグマの火道周辺の岩石が取り込まれ地表にもたらされたもので、これらにはマントルの主要構成物であるペリドタイトやエクロジャイトが含まれています。
キンバーライトやランプロアイト中の捕獲岩はマントルの構成物質を直接知る手がかりとして重要な研究試料となりますが、地表に運搬されるまでのマグマ中の液体と化学反応を起して組成等が広範囲に変化する可能性があります。
ダイヤモンドはキンバーライトやランプロアイト中の外来結晶として産出しますが、捕獲岩中のペリドタイトやエクロジャイト中にも含まれることがあり、これらの捕獲岩が直接の母岩と考えられています。ダイヤモンドは炭素原子間の結合がsp3共有結合だけで構造ができているため、物質中最高の硬度、きわめて小さな熱膨張係数などの物理的特性をもち、ダイヤモンド中の包有物にとっては良好な圧力保持容器として働きます。また、ダイヤモンドはきわめて高い化学的安定性を有しており、よほどの酸化条件でないかぎり化学変化を起こしません。したがって、ダイヤモンド中の包有物はダイヤモンドが生成した際の地球深部の状況(鉱物組成や温度・圧力等)をより実際の状態に近いまま保持していると考えられています。このようにダイヤモンド中の包有物は、地球深部の情報を提供するきわめてすぐれた研究試料といえます。
ダイヤモンド中の包有鉱物を最初に記録したとされる17世紀の頃は、おそらくガーネットと考えられる赤色の鉱物がルビーと記載されているなど、確証が得られている情報ではありませんでした。ダイヤモンドを含有するキンバーライトが発見された19世紀後半以降は、ダイヤモンドの初生的な包有鉱物の報告がなされています。1950年代に入るとX線回折法がダイヤモンド中の包有鉱物の同定に初めて使用され、ロシアの研究者等によって精力的に研究が行われました。1970年代に入ると電子顕微鏡における分析手法が導入され、過去に報告例のない多くの包有鉱物が新たに発見されています。さらに1990年代後半になると顕微ラマン分光分析が包有鉱物の同定に使用されるようになり、非破壊での分析が可能となりました(Fig.2)。
◆天然ダイヤモンド:包有鉱物による地球深部の情報
ダイヤモンド中の包有鉱物はその種類と化学組成から一般にP–タイプ(ペリドタイト:peridotite)とE–タイプ(エクロジャイト:eclogite)に大別されています。P–タイプ包有鉱物はオリビン、エンスタタイト、ダイオプサイド、パイロープ・ガーネットなどの珪酸塩鉱物とMgに富んだイルメナイトや硫化鉱物からなり(Fig.3)、ペリドタイト捕獲岩の鉱物組み合わせや鉱物組成と類似しています。いっぽう、E–タイプ包有鉱物は主にパイロープ/アルマンディン・ガーネットとオンファサイトからなり(Fig.4)、コーサイト、カイヤナイトおよび硫化鉱物を含有し、エクロジャイト捕獲岩の鉱物組み合わせや鉱物組成と類似しています。
P–タイプのガーネット包有物は、CaとCrの比率において、さらにレルゾライト・タイプとハルツバージャイト・タイプに細分されます。すなわち、レルゾライト・タイプのガーネット包有物は、ハルツバージャイト・タイプのガーネットに比べて高いCa量と低いCr量を示します。そして、これらはREEパターン(希土類元素を隕石などの標準物質で規格化したプロット)とも連動しており、生成起源についての議論がなされています。
このようなP–タイプとE–タイプ包有物に見られる鉱物組み合わせと、化学組成の違いは母岩のダイヤモンドの起源や生成プロセスの違いを示していると考えられ、ダイヤモンドもP–タイプとE–タイプに大別されています。これらの両タイプのダイヤモンドについて包有鉱物の化学組成や炭素同位体組成が詳しく調べられ、ダイヤモンドの生成起源についてさまざまな説が唱えられています。
その中でも有力な説の1つは日本の研究者が提唱しており、P–タイプ・ダイヤモンドは大規模な部分溶融をこうむった溶け残りマントル起源であり、E–タイプ・ダイヤモンドの多くはプレートの沈み込みでマントル深部へ運び込まれた海洋地殻中の炭素が起源と考えられています。
包有鉱物はほとんどが固溶体を形成し、共存する2種以上の鉱物間の元素分配は温度と圧力に依存しています。そのためこれらの鉱物の化学組成から平衡温度や圧力を推定することができます。P–タイプ・ダイヤモンドのガーネットとオリビンおよびガーネットとエンスタタイト間においてそれぞれ温度と圧力が推定されています。E–タイプ・ダイヤモンド中には大きな圧力依存性をもつ鉱物組み合わせが無く、温度の推定のみが可能です。これらの研究において、両者の生成条件は、800~1400℃、5~6GPa(150~200km)の範囲であり、E–タイプ・ダイヤモンドの方がP–タイプ・ダイヤモンドよりやや高温と考えられています。
近年、南アフリカのKimberley鉱山産ダイヤモンド中の包有鉱物にメージャライトと呼ばれる高圧型のガーネットの存在が確認され、高圧実験により、これらは420km以深のマントル遷移層で生成したと考えられています。さらに、ブラジルの鉱山(Juina, Sao Luiz等)を始め複数の地域から産出するダイヤモンド中からフェロペリクレースやマグネシオウスタイトが発見され、実験的事実に基づき下部マントル起源のダイヤモンドと推論されています。当初この考えは必ずしも広く受け入れられませんでしたが、その後の研究によって、現在この下部マントル起源説は一般に支持されるようになっています。
さらに最近になって、有名なカリナンなどの大粒のⅡ型ダイヤモンドやⅡb型のブルーダイヤモンドは、マントル遷移層~下部マントルで形成された可能性が示唆されています。
◆合成ダイヤモンドの用途
ダイヤモンドは炭素原子が強固に結びついた典型的な共有結合物質であり、物質中最高の硬さと熱伝導性を有し、化学的安定性、透光性などにも優れています。この卓越した特性から、超精密加工用バイト、線引きダイス、ドレッサー、医療用ナイフなどの加工工具や耐摩工具のほか、ヒートシンク、各種窓材や超高圧アンビルなど、工業や科学の広範な分野で利用されています。高品質なダイヤモンドは、工業や科学技術の発展に寄与する重要な素材であり、技術の多様化、高度化に伴い、その重要性は今後もさらに増すものと考えられます。しかし、天然ダイヤモンドは、大型で良質の結晶は極めて稀産であり、複雑な成長履歴を反映して、多様な結晶欠陥、不純物あるいは内部歪みを有しています。また、品質における個体差が大きいため、これらの工業用途には不向きな側面があります。これに対し、合成ダイヤモンドは合成される環境、成長条件を制御できるため、安定的に必要とされる結晶を量産することが可能です。制御精度によっては、天然ダイヤモンドを凌駕する品質の結晶を得ることも期待できます。
1)硬さと強靭さの利用
地球上で最も硬いダイヤモンドは、古くから石の切断やガラスの加工に用いられてきました。身近なところでは、ガラス切りや砥石があります。また、硬さを測定するための圧子にはダイヤモンドの単結晶が用いられています。石やコンクリートの加工にもダイヤモンドが用いられ、切断するときには金属製のワイヤーにダイヤモンド・ビーズを付けたダイヤモンド・ワイヤーソーが用いられています。また、精度の高い切断にはダイヤモンド鋸が用いられます。これらには主として天然ダイヤモンドが用いられてきましたが、近年では多くが合成ダイヤモンドにとって代わられています。ダイヤモンドの切削工具は、加工の難しいものを大量に削るときにも用いられます。このときは、単結晶ダイヤモンドではなく、ダイヤモンド焼結体が利用されます。焼結ダイヤモンドは単結品ダイヤモンドより大きなものを作ることがきるので、大きい切れ刃の必要な用途に用いられています。大型の工具としては、石油井戸やトンネルの掘削に用いられるドリルビットや道路カッター、穴開け用のドリルなどがあります。また、研磨用テープ、手術用のメス、線引き用のダイス、超高圧発生用のダイヤモンド・アンビルセルなどがあります。
2)熱特性利用
半導体デバイスは、高温になると性能や寿命が低下するので、出力の大きい素子では、放熱のためのヒートシンク(放熱板)が必要となります。ダイヤモンドは、極めて熱伝導性が高いのでヒートシンク材料に適しています。はじめて光通信用の半導体レーザーにヒートシンクとして用いられたのは天然の単結晶ダイヤモンドでしたが、最近ではHPHT法やCVD法による合成ダイヤモンドが利用されています。ダイヤモンドの熱伝導率は不純物がわずかに混入しただけで大きく低下します。天然ダイヤモンドは窒素等の不純物や欠陥を多く含むので、ヒートシンクにはⅡ型の合成ダイヤモンドが有効です。最近になってCVD法による合成技術が進歩し、面積の大きい放熱性回路基板への適用も検討されています。ダイヤモンドの耐摩耗性と熱的特性を生かして製品化されているものに、IC(集積回路)や液晶基板の製造に用いられるTAB (Tape Automated Bonding) ツールなどがあります。近年、ICチップが大型化するにつれて大きいTABツールが必要となり、ダイヤモンド焼結体やHPHT合成ダイヤモンドが用いられるようになりました。
3)合成ダイヤモンドの今後の展開
CVD法は、固体の表面にダイヤモンドを被覆することが可能で、これを生かした新たな利用が始まっています。CVD合成ダイヤモンドのコーティング技術は、特殊材料の切削や長寿命化に応用されています。ダイヤモンドは、物質中で最も振動を伝える速度の大きい材料です。このため弾性表面波(Surface Acoustic Wave: SAW)の速度も大きく、弾性表面波素子として有効です。最近では、通信の高周波化に対応してダイヤモンドを基板とするSAWフィルターが実用化されており、今後、高周波を用いる光通信をはじめ衛星、移動体など無線通信に適用され、IT産業に貢献するものと期待されています。
音速は密度が小さくヤング率の大きい材料ほど大きいので、ダイヤモンドは振動板に適した材料といえます。ツイーター等の高音域での振動版としてすでに実用化されています。ダイヤモンドは、紫外から赤外の広い範囲の光に対して透過率の高い素材で、機械的強度や熱伝導性、耐腐食性にも優れるので、窓材として適した材料です。CVD合成ダイヤモンドは、ガンマ線、X線用、近紫外から可視光、遠赤外光及びマイクロ波用の窓として期待されており、実用化されつつあります。さらに、ダイヤモンドが軽元素である炭素で構成されているためX線用の窓としても有効です。
ダイヤモンドは半導体としての特性も有しており、高出力、耐熱性、耐環境性にすぐれる電子部品としても期待されています。将来の応用を目指して、CVD法による良質の結晶や不純物ドーピングが精力的に検討されています。半導体ダイヤモンドは圧力センサーとしても感度に優れていることが判っており、放射線センサーとしては分解能の高さと耐久性が期待されています。また、ダイヤモンドは電子を放出する素子としても注目されており、量子コンピュータなどに応用できる新たな発光素子としても期待されています。
◆合成方法
現在、商業的にダイヤモンドを合成する方法はHPHT法(自発核発生法並びに温度差法)、CVD法、衝撃圧縮法および直接転換法があります。これらの方法の中で、宝石品質の単結品が合成できる方法は、HPHT法(温度差法)とCVD法の2種類です。
1)HPHT合成
HPHT法は、High Pressure High Temperatureの略で、地球深部で天然ダイヤモンドができる高温高圧の環境を人工的に再現したものです。非常に高い温度(1500℃程度)と高い圧力(5–6GPa)を与えて、原料となる炭素物質(グラファイトやダイヤモンド微粒)をダイヤモンドの結晶へと成長させます。炭素物質は水には溶けないため、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の金属溶媒を用いて溶解し、ダイヤモンドを結晶化させます。種結晶を用いずに合成すると、自発核発生した小粒の単結晶が短時間で成長します。最大のサイズでも1mm以下であり、結晶内部に多くの不純物(溶媒金属等)を含み、装飾用には適しません。これらの微小単結晶は、ダイヤモンド砥粒と呼ばれ、研削砥石の素材として工業用に多量に製造されています。
宝石品質のダイヤモンドを合成するためには温度差法を用います。この方法は、合成セル(容器)全体をダイヤモンドが安定な超高圧まで加圧し、次に温度を上げて溶媒金属を融解させ、高い温度に保持した炭素源から溶媒金属中に炭素を溶解させ、温度の低い種結晶上にダイヤモンドを成長させるというものです。無色透明の単結晶を合成するには、黄色の着色原因となる窒素を除去する必要があり、溶媒中で窒素との化合物を作るチタン(Ti) あるいはアルミニウム(Al)などを添加する方法が一般的に用いられています。
2)CVD合成
CVD法は、Chemical Vapor Depositionの略です。化学気相成長法または化学蒸着法と呼ばれるものです。高温低圧下でメタンガスなどの炭素を主成分とするガスからダイヤモンドを作ります。種結晶となるスライスしたダイヤモンドの結晶の上に炭素原子を降らせて沈積させていきます。CVD法には、熱フィラメント法、マイクロ波プラズマ法、燃焼法などがありますが、装飾用単結晶の育成にはマイクロ波プラズマ法が一般的です。
原料ガスを大量の水素(メタンのおよそ100倍)と混合して用います。この混合ガスを大気圧以下の圧力(0.1~1気圧程度)で反応容器に満たし、プラズマで分解して活性化させます。基板上の温度は800~1200℃程度に保ち、基板表面に炭素原子を結晶化させていきます。プラズマによって反応性が高まった水素(原子状水素)が、結晶化したダイヤモンド表面の炭素原子と化学結合し、ダイヤモンド表面のグラファイト化を防ぎます。さらに原子状水素には析
出したグラファイトを選択的にエッチングする作用があり、これにより準安定な低圧下(ダイヤモンドではなく、グラファイトが安定な環境)で継続的にダイヤモンドが形成されます。