CGL通信 vol54 「日本鉱物科学会2019年年会・総会参加報告」
リサーチ室 江森 健太郎・北脇 裕士
去る2019年9月20日(金)から22日(日)までの3日間、九州大学伊都キャンパスにて日本鉱物科学会2019年年会・総会が行われました。CGLリサーチ室から筆者ら2名が参加し、それぞれ発表を行いました。以下に年会の概要を報告致します。
日本鉱物科学会とは
日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Science)は平成19年9月に日本鉱物科学会と日本岩石鉱物鉱床学会の2つの学会が統合・合併され発足し、現在は大学の研究者を中心におよそ900名の会員数を擁しています。日本鉱物科学会は鉱物科学およびこれに関する諸分野の学問の進歩と普及をはかることを目的としており、「出版物の発行(和文誌、英文誌、その他)」、「総会、講演会、研究部会、その他学術に関する集会および行事の開催」「研究の奨励および業績の表彰」等を主な事業として活動しています。2016年10月に一般社団法人日本鉱物科学会として新たな出発の運びとなり、(1)社会的及び学術界における信頼性の向上、(2)責任明確化による法的安定、(3)学会による財産の保有等が確保され、コンプライアンスの高い団体を目指して活動していくことになりました。2019年会・総会は、一般社団法人として前年2017年の愛媛大学、2018年の山形大学での開催に続き、3回目の年会・総会になります。
九州大学について
九州大学は1867年(慶応3年)に設立された医学教育を行う賛生館を起源とする九州帝国大学を直接の母体としています。九州帝国大学の初代総長は東京帝国大学の総長と明治専門学校(現:九州工業大学)の初代総裁を務めた山川健次郎です。2003年(平成15年)に九州芸術工科大学を吸収し、2004年(平成16年)に国立大学法人による設置へと移行しました。1991年(平成3年)、キャンパスへの統合移転計画が決定すると、1998年(平成10年)に「改革の大綱案」を定め、優秀な研究者の要請、研究レベルの向上を目的とする大学院重点化を行い、2000年(平成12年)に学府・研究員制度を導入しました。2005年(平成17年)には本学会が行われた伊都地区が開設され、2014年、九州大学本部が伊都地区へと移転しました。2018年には伊都地区へのすべての移転が完了し、総合大学にふさわしい広大なキャンパスが誕生しました。九州大学には特に建学の精神は定められていませんが、「九州大学教育憲章」と「九州大学学術憲章」が存在します。
伊都キャンパスへのアクセスは、博多駅もしくは天神駅から九州大学まで直行バスで40~50分、JR筑肥線九大学園都市駅(福岡市地下鉄空港線から直通運行有)からバスで15分と福岡中心部の博多、天神から約1時間程度であり、少し時間はかかりますがアクセス自体は良好です。
学会について
今年の年会は、4件の受賞講演、11件のセッションで123件の口頭発表、89件のポスター発表が行われました。
1日目
20日(金)の9時15分より、イースト一号館大講義室Iにて「結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物」「岩石・水相互作用」「地球外物質」「火成作用の物質科学」「変成岩とテクトニクス」の5つのセッションが行われました。また3日間ポスター発表が開催されており、12時~14時がコアタイム(ポスター発表者がポスターの横に立ち、質疑応答を行う)として設定されていました。
2日目
21日(土)は9時よりイースト一号館大講義室Iにて総会が行われました。総会は前述の通り、一般社団法人化して3回目の総会で当日出席者、委任状あわせ、定足数を満たしました。総会では、各種事業報告の他、モンゴル資源地質学会との学術調印式、授賞式が行われました。総会の後、受賞講演が行われ、2018年度日本鉱物科学会賞第20回受賞者である野口高明会員(九州大学)による「小さきものはみなうつくし〜宇宙塵の鉱物学的研究」、2018年度鉱物科学会賞第21回受賞者である山崎大輔会員(岡山大学)による「高圧実験に関するマントルとレオロジー」、2018年度日本鉱物科学会研究奨励賞第25回受賞者である吉村俊平会員(北海道大学)による「塩素を利用した火山噴火メカニズムの研究」、2018年度日本鉱物科学会研究奨励賞第26回受賞者である篠崎彩子会員(北海道大学)による「地球深部、氷天体深部での炭素、水素、窒素関連物質の振る舞い」の講演がありました。
同日14時からは「深成岩・火山岩およびサブダクションファクトリー」「地球表層・環境・生命」「岩石・鉱物・鉱床一般」のセッションが行われました(「岩石・鉱物・鉱床一般」のセッションは資源地質学会との共催セッションでした)。
3日目
22日(日)はイースト一号館大講義室Iにて「鉱物記載・分析評価」「高圧科学・地球深部」「北東アジアの鉱物・岩石・資源」のセッションが行われ、「鉱物記載・分析評価」セッションで弊社研究者2名が「“パライバ ” トルマリン (1);宝石学的定義の変遷と原産地」「“パライバ ” トルマリン (2);LA–ICP–MSを用いた組成分析と原産地鑑別への応用」の発表を行いました。講演後、多数の質問が寄せられ、鉱物科学会会員の方々の宝石学への興味を感じることができました。この日は九州地区を中心に甚大な被害をもたらすこととなった台風17号が接近しており、午後のセッションはすべて13時迄に繰り上げられ、時間を早めての閉会となりました。セッションの予定変更については、会員各位に逐一メールで報告されるなど学会運営者の適確な判断と情報提供が好印象でした。
毎年開催される日本鉱物科学会年会では、最先端の鉱物学研究が発表され、弊社も毎年2件研究発表を行っています。鉱物学と宝石学は密接な関係があり、参加・聴講することで最先端の鉱物学に関する知識を得られ、普段接する機会が少ない研究者の方々と交流を深めることができます。来年も鉱物科学会年会に参加し、中央宝石研究所で行われている各種宝石についての最先端の研究を発表、深めていく予定です。なお、来年の日本鉱物科学会年会は2020年9月東北大学で開催されます。