CGL通信 vol53 「国際宝石学会(IGC2019フランス)報告」
ジェムY.O.代表 大久保 洋子(FGA,CGJ)
第36回国際宝石学会(International Gemmological Conference)が、フランス/ロアール地方の「フランス人が最も住みたい町」ともいわれているナント(Nantes)−人口約29万8000人−において、2019年8月27日から31日まで5日間にわたり開催された。
2年に一度開催されるこの会議は、前回(2017年)アフリカ/ナミビアで行われ、次回(2021年)は日本での開催が決定している。
今回は、フランス/ナント在住のDr.Emmanuel Fritschが中心となり、以下のスケジュールでの開催となった。
8/23〜26 Pre–Conference Tour(以下Pre–con.)
8/27〜31 La Cite Nantes Congress Center, Nantes(本会議)
9/1〜4 Post–Conference Tour(以下Post–con.)
以下 Pre&Post–con.で訪問した場所について報告する。
本会議の前に、会議出席者及び同伴者の為に企画されたPre–con.には、12名が参加した。(スイス/オランダ/ドイツ/カナダ/イスラエル/フランス/日本)
8月24日(土)ロアール地方のナントから約145km離れたブルターニュ地方の、カルナック(Carnac) と更にカルナックから35km 離れたロクマリアケール(Locmariaquer)の巨大な石の遺跡を、8/24、25の2日間に亘り地元のガイドの説明のもとに見聞した。
カルナックという地名は、ケルト語で“丘”や“高台”を表す。紀元前45万年頃、この地に前期旧石器人が暮らしていた為、数多くの本ヒスイの装飾品やお守り、土器、木製の道具などを「先史博物館」で見ることができた。
この地域に数多く残る巨石遺跡は、特に世界的に有名である。この遺跡の特徴は3000個近い巨大な石が全長4kmにも渡り整然と並べられていることである。紀元前5000〜3000年前とされている。巨大な石のテーブルは圧巻で、火成岩といわれている。
【8月24日(土)】カルナックの巨石遺跡
【8月25日(日)】 ロクマリアケールの古墳群
巨石群を見学後、ヴァンヌ(Vennes)の”Museum of History”を訪問。
カルナックで発掘された、多くの生活用品や装飾品、銅や鉄製品、頭蓋骨等が、古いお城を改造した部屋に、考古学的に美しく展示がされている。
【ヴァンヌの歴史博物館の展示物】
3日目 8月26日(月)は、ヴァンヌ(Vannes)から約145km離れたアレー山地(Monts d’Arrée)を散策後、8km離れたブラスパール(Brasparts)の真珠の稚貝を育てている養殖場を見学。
ミリサイズの極小の貝の卵を魚に食べさせて、お腹の中で育った貝が吐き出される行程の説明を受ける。
【ブラスパールの稚貝の養殖場】
途中ブラスパールから約165km離れた、ヴァンヌ近郊の非常に美しい入江の町オレー(Auray)に立ち寄る。
翌日8月27日(火)から本会議が行われるナントまで130kmの行程を約2時間45分かけ帰路につき、無事にPre–con.が終了する。
9/1〜4迄の日程でPost–con.が行われ、ナントからパリへ移動する。
フランスの歴史的遺産の宝庫と言われる、セーヌ川とオワーズ川に囲まれた「フランスの島」といわれている、イル・ド・フランスのシャンティイ城と、パリのSchool of Jewelry Artsと3つの博物館を視察した。
Post–con.には、11名が参加。(スイス/カナダ/USA/グリーンランド/日本)
【9月1日(日)】ナントから430kmを車で5時間30分かけ移動。
イル・ド・フランスに在るシャンティイ城に午後3時に到着。
シャンティイ城:
Great Stable
(馬の博物館)見学
18世紀に建設
宮殿のような素晴らしい建物は馬小屋で、そこを通り過ぎると博物館になっていて、長い歴史のなかで関わりを持った人間と馬をテーマにした壮大な展示品や、絵画などに感嘆。
1時間の見学後、宮殿へ移動。水に影を落とす姿がとても優雅なルネサンス様式のシャンティイ城の一部のみ見学。
14〜16世紀に建造されたが、フランス革命で破壊され19世紀に改たに修復された。
【9月2日(月)】
シャンティイ城内コンデ公の膨大な絵画、調度品、美術品、宝飾品が展示されている“コンデ美術館”と図書室を見学。この図書室は300点以上の彩色装飾を施した写本を含む700点の写本と3万冊の書物が所蔵されている。
今回のハイライトである“Le Grand Condé”と命名されているピンクダイヤモンドを特別に見る事ができた。17世紀フランス最大の武将、コンデ公ルイ2世 (1621–1686) が所蔵。彼はこの宝石を国王ルイ13世から授かり、杖に取り付け持っていた。
9.01ctの世界で最も大きなピンクダイヤモンドの一つに数えられている。
1926年10月に盗まれて3ヶ月後の12月20日に見つかる。
盗難後非公開のこの素晴らしいダイヤモンドを目の前にして、Nicole Garnier 女史の解説と共に当時の貴重な新聞記事まで見ることができ、大興奮したひとときとなった。
また、今回ブラウンダイヤモンドの美しいフルネックレスも見る事ができた。
シャンティイ城を後にして、パリのバンドーム広場へ向かう。
Van Cleef & Arpelsが出資をして設立した学校で宝石の講義、デザイン、カット、研磨などを学べる。
英語もしくはフランス語で受講できる。
パリで最も豪華で、ルイ14世の為に作られた四角のバンドーム広場の高級宝石店の美しい宝石をため息をつきながら眺めたことは数回あるが、今回はメゾンの中でも老舗のヴァンクリーフ&アーペルの中に入る機会に恵まれた。
400年以上も前の建物の内部は非常に明るくシンプルでモダンに整われていて、宝石を学ぶのに相応しい環境に思われた。
構内の一角に、フランスの宝石商で旅行家として有名なTAVERNIER(1605〜1689)がインドから持ち帰り、ルイ14世(1638〜1715)に売った20個のダイヤモンドのレプリカが展示されている。タベルニエは6回に渡り東洋を旅行し、インド産の大きなダイヤモンドを買いヨーロッパに持ち帰った。中でも112.25ctのタベルニエ・ブルー・ダイヤモンドは特に有名である。1642年にインドから持ち帰り、ルイ14世が買って67.50ctのフレンチ・ブルー・ダイヤモンドとなり、1792年に盗難にあった後、再カットされて45.50ctのホープ・ダイヤモンドになった。(現在はUSA スミソニアン博物館に展示されている)
【9月3日(火)】
Post–con.の最終日は3箇所の博物館訪問と、サクレクール寺院界隈を散策。
1) Muséum national d’Histoire Naturelle
フランス3大博物館の1つであり、広大な植物園を併設した荘厳で重厚な博物館内部には、巨大な水晶の原石や美しい数々の鉱物が展示されている。F.Farges教授の案内で館内を2時間にわたり見学した。
2) Musée de Minéralogie MINES ParisTech (Mineralogy Museum)
A〜Oまでの部屋に、世界中の岩石、鉱物、隕石、宝石など10万点が分類され展示されている。
ex)Room L:Gem stones&French Crown Jewels
Room O:Synthetic Mineral collection
見学時間が2時間だった為、全ての部屋の展示物を見ることはできなかったが、大変有意義な時間であった。
3) Musée des Arts Décoratifs
アンティーク(1878年〜)から現在まで、4000点の素晴らしい宝飾品が飾られている。
“Jewelry Galley”として2004年6月にオープン。
江戸時代や明治時代の象牙や珊瑚の根付け、かんざし、くしなどもアールヌーボーやアールデコの作品と共に展示されていた。非常に緻密な象眼細工をパリで見ることができ見学者達の賞賛の声に日本人として誇らしい思いを持った。
国際会議最後の夜は、パリ北部のモンマルトルの丘へ行き、白亜の聖堂サクレ・クール寺院の見えるレストランでディナーを楽しんだ。◆
【著者紹介】
大久保 洋子
ジェムY.O. 代表
FGA(英国宝石学協会認定資格)、CGJ取得。
日本の宝石学の黎明期を牽引された「宝石学の父」故近山晶氏の長女。
幼少より身近にあった近山氏の豊富な宝石鉱物コレクションに興味を持ち、
本格的に宝石学を習得。
現在はGSTVの人気コメンテイターとしても活躍中。