CGL通信 vol47 「フォッサマグナミュージアム:「宝石の国」展に参加して」

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CGL通信 vol47 「フォッサマグナミュージアム:「宝石の国」展に参加して」

PDFファイルはこちらから2018年11月PDFNo.47

リサーチ室 北脇 裕士

新潟県糸魚川市のフォッサマグナミュージアムにて、2018年9月8日より10月28日までの予定で「宝石の国」展が行われていました。その関連イベントとして9月16日(日)に特別講演会が企画されhttp://www.city.itoigawa.lg.jp/7077.htm、筆者が「宝石の国の宝石学」というタイトルで講演させていただきました。

 

写真1:フォッサマグナミュージアム外観
写真1:フォッサマグナミュージアム外観

 

「宝石の国」は、月刊アフタヌーンで大好評連載中の市川春子氏原作の漫画です。昨年にはテレビアニメが放映され、その人気に拍車が掛かりました。登場人物が擬人化された宝石という斬新な内容で、ミネラルファン達をも取り込んだようです。
フォッサマグナミュージアムでは漫画世代の20–30代の若い男女に宝石や岩石鉱物(特に日本の国石となったヒスイ)の魅力を発信するために「宝石の国」展を企画しました。会場には複製原画や登場キャラクターに関係した宝石の原石、カット石、イラストを展示しており、宝石学会(日本)、日本鉱物科学会なども後援しました。

写真2:「宝石の国」展特別講演会会場
写真2:「宝石の国」展特別講演会会場

 

写真3:「宝石の国」展展示会場の様子
写真3:「宝石の国」展展示会場の様子

 

特別講演会当日は3連休の中日ということもあってか、県内だけでなく北海道から九州まで日本全国からの来場者がありました。特に関東近郊からのお客様が多く、新幹線の利便性が後押ししたようです。予定していた定員は80名でしたが、開始時刻の1時間前から人が並び始め最終的には124名の参加者で会場が超満員になりました。関係者の話によるとミュージアム史上最高の聴講者の数だったとの事で、アニメ化された漫画の人気に驚かされるばかりでした。この企画が次世代を担う若者たちに宝石の魅力を発信できる場になったことは間違いなさそうです。

 

【フォッサマグナミュージアム】

 

フォッサマグナミュージアムは、日本最大のヒスイ産地であり、世界最古のヒスイ文化発祥の地として知られる新潟県糸魚川地域にあります。現在は糸魚川ユネスコ世界ジオパークの情報発信の重要な拠点となっています。
フォッサマグナ(ラテン語で大きな溝:大地溝帯)の成立や人間と地球史とのかかわりを示す資料を収集・保管・展示し、あわせて調査研究およびその成果の普及を通して、市民の教育・学術および文化の発展に寄与することを目的に1994年(平成6年)に開館しました。1982年(昭和57年)の糸魚川市の総合計画を発端に平成元年には博物館開設の基本計画が策定されました。そしてふるさと創生事業の一環として、自治省や新潟県の補助を受け、総工費17億円が投じられ、立派な施設が出来上がりました。
開館当初は年間来場者が10万人近くありましたが、徐々に減少傾向が続き平均して4万人程度となりました。しかし、2008年(平成20年)に日本ジオパークに選定され、翌2009年(平成21年)に世界ジオパークに認定されて以降、来場者が増加に転じました。そして、2015年(平成27年)の展示リニューアルにより再び10万人を突破することになりました。

 

写真4–a:ミュージアム館外に展示されているヒスイの巨礫と学芸員の竹之内博士
写真4–a:ミュージアム館外に展示されているヒスイの巨礫と学芸員の竹之内博士

 

美山公園の高台に立地するミュージアムへは糸魚川駅から車(路線バスあるいはタクシー)で10分ほどです。館外の敷地にはヒスイの巨礫がいくつも並べられ、ここがヒスイの産地であることを思い起こさせてくれます。その一角に人の背丈ほどのヒスイの巨礫がひとつ。これは2007年(平成19年)5月に設置されたものですが、盗掘の被害を避けるためにここに疎開させてきたそうです。ミュージアム学芸員の竹之内博士の話によると、この巨礫はもともと国の天然記念物として指定されている小滝川上流のヒスイ峡からさらに4kmほど上流にあったそうです。天然記念物に指定された場所からは外れているので、小礫を拾う程度なら良いそうですが(指定区域では採取はもちろんのこと、石を動かすことも文化財保護法で禁止されています)、この巨礫は削岩機を使って運び出されようとしたため保護の目的でここに運ばれてきたそうです。これも重要なミュージアムの仕事のひとつです。この巨礫には削岩機で開けられた複数の穴や突き刺さったままのタガネを見ることができます。

 

写真4–b:削岩機で開けられた2つの穴
写真4–b:削岩機で開けられた2つの穴

 

写真4–c:刺さったままのタガネ
写真4–c:刺さったままのタガネ

 

館内の展示・収蔵標本は糸魚川産のヒスイをはじめ岩石・鉱物、化石など2,000点以上に及びます。これらがテーマ別に非常に見やすく配置されており、観客の興味を満たしています。正面のエントランスから入ってすぐの休憩室のスペースでは学芸員による無料鑑定サービスが行われています。これは市民や観光客が海岸などで拾った石を鑑定してもらえるサービスで1人1回10個までだそうです。土日や夏休みになると鑑定を希望する人たちで行列ができるそうです。
展示コーナーに向かうと、まず大小のヒスイ礫が目に飛び込んできます。スクリーンに映し出された小滝川の風景とあわせて擬似的にヒスイ峡を訪れた気分を味わえます。来館者の心をつかむ演出です。

 

続く第1展示室は、「魅惑のヒスイ」コーナーです。糸魚川産のヒスイの逸品が展示されています。おなじみの緑色のヒスイ、ラベンダーヒスイの原石や遺跡から発掘された勾玉のレプリカなどが展示されています。

第2展示室は、「糸魚川大陸時代」がテーマです。糸魚川の地質がどのように形成されたのかを詳しく解説しています。さらにヒスイを科学的に詳しく紐解いています。
第3展示室は、「誕生日本列島」がテーマとして取り上げられています。フォッサマグナシアターと名付けられた大型スクリーンと床に広がるマルチ画面で雄大な地球創生の映画が上映されています。また、日本地質学の父と呼ばれるナウマン博士のドイツの自宅を模した展示で、フォッサマグナを発見した博士の生涯を紹介しています。
第4展示室は、「変わりゆく大地」をテーマに、日本海の海抜0mから白鳥山(1,286.9m)、犬ヶ岳(1,592m)を経て朝日岳(2,418m)を結ぶ北アルプス最北部の縦走路となる栂海新道(つがみしんどう)や標高2400mの活火山である焼山などの形成について紹介されています。
第5展示室は、「魅惑の化石」をテーマに日本国内や世界のいろいろな化石が時代別に展示されています。日本の名前がついた奇妙な形のアンモナイトのニッポニテスやシーラカンス、さらには草食恐竜の糞の化石などが興味をそそります。
第6展示室は、「魅惑の鉱物」をテーマに各種岩石・鉱物が展示されています。鉱物名になった日本人や日本で発見された新鉱物、新潟県の鉱床など、他の博物館では見られない展示が工夫されています。

 

フォッサマグナミュージアムでは、このような魅力ある展示が多く成されており、特に糸魚川のヒスイについて理解を深めることができます。北陸新幹線で結ばれたことも有り、関東近郊からの日帰りさえも可能です。ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。

 

※【ユネスコ世界ジオパークとは・・・】

ジオパークとは、「地球・大地(ジオ:Geo)」 と 「公園(パーク:Park)」 とを組み合わせた言葉で、「大地の公園」を意味し、地球(ジオ)を学び、まるごと楽しめる場所をいいます。大地(ジオ)の上に広がる動植物や生態系(エコ)の中で人間(ヒト)は生活し、文化や産業などを築き、歴史を育んでいます。ジオパークでは、これらの「ジオ」、「エコ」、「ヒト」の3つの要素を楽しく理解することができます。
ジオパークでは、見所となる地形・地質の場所を「ジオサイト」に指定して、多くの人々がその場所の魅力を知り、将来にわたって継続的な保護を行います。その上で、これらのジオサイトを教育やジオツアーなどの観光活動などに活かし、地域を元気にする活動や、その地域の素晴らしさを発信する活動を行っています。
ユネスコ世界ジオパークは、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の定める基準に基づいて認定された質の高いジオパークで、2015年11月の第38回ユネスコ総会において正式プログラムとなりました。2018年4月現在、日本には、「日本ジオパーク」が44地域あります。そしてそのうちの9地域がユネスコ世界ジオパークに認定されています。世界的には38カ国、140地域にユネスコ世界ジオパークがあります。
糸魚川地域では2009年に日本のジオパークとして初めてユネスコ世界ジオパークに認定されました。この年には雲仙火山を擁する島原半島(長崎県)と洞爺湖有珠山(北海道)が同時にユネスコ世界ジオパークに認定されています。
ユネスコ世界ジオパークに認定されるためには、まず日本ジオパーク委員会の審査を通過した後、世界ジオパークネットワークの加盟申請をします。書類審査や現地審査を経た後合格すればユネスコ世界ジオパークと名乗ることができます。ユネスコ世界ジオパークに一度認定されても4年に一度の再審査に合格しなければ加盟を取り消されるという厳しい規則があります。◆