CGL通信 vol46 「ダイヤモンドのインクルージョン・ギャラリー」
リサーチ室
ダイヤモンドはきわめて高い物理的・化学的安定性を有しているため、インクルージョンにとっては非常に優れた保護容器(カプセル)となります。したがって、ダイヤモンド中のインクルージョンは地球深部の情報を直接提供してくれる優れた研究試料となります。
ダイヤモンド中のインクルージョンは鉱物の種類や化学組成からPタイプとEタイプに大別されています。Pタイプはオリビン、エンスタタイト、ダイオプサイド、パイロープなどを含み、Eタイプはパイロープ/アルマンディン、オンファサイト、ルチル、カイヤナイト、クロマイトなどを含みます。このようなPタイプとEタイプの相違は母結晶のダイヤモンドの生成起源に関連しており、インクルージョンの詳細な研究により、それぞれの成因が議論されています。いずれにしても、これまでの研究ではダイヤモンドのほとんどは地下150–200kmで生成したと考えられてきました。ところが、本誌掲載の鍵裕之教授の解説にあるように、最近では地下410–660kmよりも深い起源をもつ超深部起源のダイヤモンドの存在が明らかとなっています。
超深部起源のダイヤモンドには宝石ダイヤモンドとして良く知られているCullinanなどの大粒のⅡ型ダイヤモンドやホープなどで知られるⅡb型のブルーダイヤモンドも含まれます。
このように宝石ダイヤモンドでは“キズ”としてクラリティを下げる要因となるインクルージョンですが、地球科学の発展に寄与する重要な研究対象でもあります。
【Pタイプのインクルージョン】
PタイプはPeridotite(ペリドタイト)起源の鉱物インクルージョンを含みます。無色透明結晶はオリビンかエンスタタイトです。両者を視覚的に区別するのは困難ですが、顕微ラマン分光分析にて明確に識別することができます。鮮やかな緑色結晶はクロムダイオプサイドです。紫赤色の結晶はパイロープガーネットです。緑色と赤色の色彩のコントラストが綺麗です。
【Eタイプのインクルージョン】
EタイプはEclogite(エクロジャイト)起源の鉱物インクルージョンを含みます。橙色の結晶はアルマンディン/パイロープガーネットです。灰緑色の結晶はオンファサイトです。橙色と灰緑色の結晶の組み合わせはEタイプ起源の典型で、色彩のコントラストが鮮やかです。しばしば赤色の結晶が見られますが、これはガーネットではなくルチルの結晶です。頻度は低いのですが、青色の鮮やかな結晶が見られることがあります。これはカイヤナイトで、Eタイプの特徴となります。黒色の結晶は様々ありますが、クロマイトはEタイプに多く見られます。
【その他のインクルージョン】
いっぽう、インクルージョンには黒雲母、白雲母などのPタイプにもEタイプにも属さない鉱物も有ります。これらのインクルージョンもダイヤモンドの形成時に取り込まれたものと考えられており、キンバーライトのマグマ起源の可能性も指摘されています。また、何らかの結晶インクルージョンを取り囲むように黒色の円盤状のインクルージョンが見られることがあります。これらは宝石学では “カーボンブラック”と呼ばれることもあり、たいていは二次的に生成したグラファイトインクルージョンです。◆
【Pタイプのインクルージョン】
【Eタイプのインクルージョン】
【その他のインクルージョン】