CGL通信 vol42 「1st. Seoul International Jewelry Conferenceに参加して」

CGL通信


CGL通信 vol42 「1st. Seoul International Jewelry Conferenceに参加して」

Adobe_PDF_file_icon_32x32-2018年1月PDFNo.42

リサーチ室 北脇 裕士

去る 2017年10月20日(金)に表題の学術会議が韓国ソウル市のSeoul Donhwamun Traditional Theaterで開催されました。筆者は演者として招待され、カラーダイヤモンドの色起源に関する講演を行いました。以下に本会議の概要をご報告致します。

 

図1:世界遺産に登録される昌徳宮の正面にある敦化門
図1:世界遺産に登録される昌徳宮の正面にある敦化門

 

図2:会場周辺の地図
図2:会場周辺の地図

 

Seoul International Jewelry Conferenceとは

Seoul International Jewelry Conferenceは、 Seoul Jewelry Industry Support Center(SJC)(https://www.seouljewelry.or.kr/eng/main/main.do)とソウルジュエリー振興財団が共催する学術会議で、本会が第1回目となります。
ソウル特別市、(社)韓国貴金属宝石団体長協議会、Wolgokジュエリー産業研究所、韓国ダイヤモンドプロモーションセンター、GIA韓国、(株)KDT Holdings、(株)ダビスダイヤモンド、鍾路貴金属生活安全協議会、(社)韓国貴金属販売業中央会、(社)韓国貴金属宝石デザイン協会、(社)韓国宝石協会、韓国ジュエリー製造協議会、EunYoungSa、ジュエリー新聞、貴金属経済新聞など、公的機関を含めた多くの業界団体および企業が後援しており、まさに韓国のジュエリー業界の総力を結集した学術会議といえそうです。
端緒となる今回の会議では「ダイヤモンド市場の挑戦と未来」をテーマに、海外からの3人の招待者と主催者による計4題の講演が行われました。加えて、ソウル市の宝石鑑別機関などによる4件のポスター発表もありました。

 

Seoul Donhwamun Traditional Theater

今回の本会議の会場となったSeoul Donhwamun Traditional Theater(http://sdttor.kr/user/)は、ユネスコ世界遺産にも指定されている昌徳宮に隣接しています。その昌徳宮の顔ともいえる敦化門の名前を冠してDonhwamun(敦化門)Traditional Theaterと命名されています。
ソウル市が土地を買い取り、国楽専門公演場として造成し、現在の世宗文化会館が委託運営しています。伝統韓屋と現代建築様式が混在した会場は、自然な音で国楽を鑑賞することができる屋内会場と野外公演のための国楽庭で構成されており、観客が演奏者と一緒に呼吸し、私たちの伝統の趣を簡単に体験することができます。

 

図3:会場となったSeoul Donhwamun Traditional Theater
図3:会場となったSeoul Donhwamun Traditional Theater

 

図4:会場内の様子
図4:会場内の様子

 

本会議プログラム

本会議に先立って、ソウルジュエリー振興財団のKim JongMok理事長が、「ダイヤモンドをテーマとして各国の専門家たちを招待し、海外市場の現状及び事例を共有すると共に韓国ジュエリー市場とソウルジュエリーセンターの役割を議論する場を準備しました。今回の会議が国内のダイヤモンド市場が必要とする情報を共有すると共にこれからの方向性を一緒に考えてみる足掛かりになることを望みます。」と力強く開会の挨拶をされました。
本会議の講演は以下の順番と持ち時間で行われ、招待講演者は各国の言語でスピーチし、韓国語に通訳されました。

 

講演1 『ファンシーカラー・ダイヤモンド –ナチュラルカラーと処理石』:80分
日本CGL / Kitawaki Hiroshi
講演2 『Evolution of the Hong Kong diamond market in the past 70 years and its role in
China’s diamond industry and market development-past, present and future』:70分
香港 DFHK / Lawrence Ma
講演3 『Developments in Man-Made Gem Diamonds and their Detection』:70分
米国GIA / Ulrika D’Haenens-Johansson
講演4 『韓国ダイヤモンド市場の現状とSJCの役割』:30分
韓国SJC / Lee YoungChu

 

筆者は、ファンシーカラー・ダイヤモンドについての講演を行いました。主催者からの意向もあって、各色カラーダイヤモンドの色起源についての詳細と、処理石の現状について解説しました。CGLでは2016年の1年間で検査したカラーダイヤモンドのおよそ10%が処理されたものでした。処理のうちわけは照射処理とHPHT処理がほぼ同じ半数ずつで、ごく一部にマルチプロセス(複合処理)が見られました。照射処理石の色の内訳はブルー系が56.7%と最も多く、ついでイエロー18.1%、グリーン17.3%でした。HPHT処理ではグリーン系がもっとも多く87.9%でした。これはⅠ型の褐色を処理したもので、さまざまな商業名をつけて販売されています。Ⅱ型の褐色を処理して無色、ピンク、ブルーにしたものは5.2%ありました。そして、これらのHPHT処理の色変化について、筆者の処理前後の実験結果を紹介しました。
Diamond Federation of Hong KongのLawrence Ma氏は、過去70年の香港におけるダイヤモンド市場の発展と中国におけるその役割について講演されました。1980年代の香港市場では研磨済みダイヤモンドの輸入金額は10億米ドルでしたが、2003年には43億米ドル、2016年には174億米ドルに飛躍しています。また、同年の輸出金額は134億ドルで、そのほとんどは中国本土との取引です。2016年のファインジュエリーの輸入金額は126億米ドル、輸出金額は62億米ドルでした。2002年と2006年には税制も変更され、より貿易の活性化が見られるようになったとのことでした。

 

図5:Diamond Federation of Hong KongのLawrence Ma氏による講演
図5:Diamond Federation of Hong KongのLawrence Ma氏による講演

 

GIAのUlrika D’Haenens–Johansson氏は、合成ダイヤモンドの発展とその鑑別について講演されました。GIAのムンバイラボにおいて、323個のメレサイズのロットのうち101個がCVD合成であったことが冒頭に紹介され、市場への流入について警鐘をならしました。HPHT合成では最大で15.32ctのカット石が存在する一方で多量のメレサイズのダイヤモンドが問題となっています。GIAのニューヨーク、カールスバッド、バンコク、香港、東京、ムンバイのすべてのラボにおいてメレサイズのHPHT合成ダイヤモンドを確認しています。すなわち全世界的な広がりを示しているということです。年間に数千万個のメレサイズの天然ダイヤモンドが生産されており、ジュエリーウォッチなどに利用されています。これらに合成ダイヤモンドが混入していることが予想され、その識別が極めて重要となります。合成ダイヤモンドの鑑別には標準的な宝石学的検査に加え、分光学的手法が役立ちます。紫外 – 可視分光、FTIR、フォトルミネッセンス分析、EPRなどです。GIAではメレサイズのダイヤモンドのスクリーニング(粗選別)検査のサービスを開始しており、セッティングされたメレダイヤモンドの検査が可能なポータブルな装置を開発し、市販する予定です。

 

図6:GIAのUlrika D’Haenens-Johansson氏による講演
図6:GIAのUlrika D’Haenens-Johansson氏による講演

 

SJCのLee YoungChu氏は、今回の会議を主催するSeoul Jewelry Industry Support Center(SJC)と(財)ソウルジュエリー振興財団についての紹介を行いました。そして韓国ジュエリー市場の規模、国内ジュエリー企業の数、専従者の数などを紹介されました。続いて韓国のダイヤモンド市場について、特に合成ダイヤモンドに関する紹介を行いました。

 

図7:SJCのLee YoungChu氏による講演
図7:SJCのLee YoungChu氏による講演

 

4人のそれぞれの講演の後には活発な質疑応答があり、韓国の宝飾関係者の熱意が感じられました。すべての講演が終了した後、Kim JongMok理事長から海外の招待者に記念品が授与され、敬意を表していただきました。

 

図8:招待講演者への記念品贈呈(左はソウルジュエリー振興財団のKim JongMok理事長)
図8:招待講演者への記念品贈呈(左はソウルジュエリー振興財団のKim JongMok理事長)

 

◆ポスター発表

『Current market situation and identification of synthetic diamonds』
Hanmi Gemological Institute, Kim YoungChool, Choi HyunMin, Park HeeYul

『Photoluminescence characteristic of atomic level defects in natural diamonds』
Hanmi Gemological Institute, Choi HyunMin, Kim YoungChool

『Identification of diamonds by GLIS-3000 instrument』
Mirae Gemological Institute, Koo ChangSik

『Marketablity of Jewelry Diamond in Korea』
Korea Diamond Promotion Center, Lee MyungJin, Choi SuMin, Kim YoungA, Oh JiHyun

 

ポスター発表は上記の4つがありました。昼休憩の時間を利用して、Seoul Donhwamun Traditional Theaterの誇る美しい中庭に張り出されました。韓国の主だった鑑別機関による合成ダイヤモンドの鑑別手法や韓国ダイヤモンドプロモーションサービスによる市場報告がなされていました。

 

図9:中庭におけるポスター発表の様子
図9:中庭におけるポスター発表の様子

 

図10:関係者による記念写真
図10:関係者による記念写真

 

Seoul International Jewelry Conferenceは今回が第1回目です。主催したSeoul Jewelry Industry Support Center(SJC)も2015年に設立されたばかりです。韓国ではダイヤモンドの団体認定制度も開始されており、ダイヤモンド業界のさらなる発展に向かう確かな歩みが感じられました。◆