CGL通信 vol35 「日本鉱物科学会2016年年会参加報告」
2016年11月No.35
リサーチ室 北脇 裕士、江森 健太郎
去る2016年9月23日(金)から25日(日)までの3日間、金沢大学角間キャンパスにて日本鉱物科学会の2016年年会が行われました。弊社からは2名の技術者が参加し、それぞれ口答発表を行いました。以下に年会の概要を報告致します。
日本鉱物科学会とは
日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Sciences)は平成19年9月に日本鉱物学会と日本岩石鉱物鉱床学会の2つの学会が統合・合併され発足し、現在は大学の研究者を中心におよそ1000名の会員数を擁しています。日本鉱物科学会は鉱物科学およびこれに関する諸分野の学問の進歩と普及をはかることを目的としており、「出版物の発行(和文誌、英文誌、その他)」、「総会、講演会、研究部会、その他学術に関する集会および行事の開催」、「研究の奨励および業績の表彰」等を主な事業として活動しています。今年、2016年は総会にて「日本の石(国石)」を決定する選挙を行いました。
日本鉱物科学会2016年年会
会場となった金沢大学は、1862年(文久2)に加賀藩が種痘所を設置したことを源流とし、旧制金沢医科大学、旧制第四高等学校、金沢高等師範学校、金沢高等工業学校を主な母体として設立された大学です。2004年4月に「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」という位置づけをもって改革に取り組むとして金沢大学憲章を制定しました。憲章は、教育・研究・社会貢献・運営の各分野からそれぞれ2項目、計8項目から成ります。地理的にはJR金沢駅より南東方向に本学会の会場となった角間キャンパスがあります。交通手段としてはJR金沢駅からバスで30分程度、通学時間帯は本数も多く、アクセスに不便はありません。
今回の年会では、4件の受賞講演をはじめ、シンポジウム「ちきゅう掘削鉱物科学」、口頭発表、ポスター発表を合わせ、発表講演総数237件が行われ、278名が参加しました。
一日目、23日(金)午前9時より「鉱物記載・分析評価」「岩石・鉱物・鉱床一般」「地球外物質」「岩石―水相互作用」「変成岩とテクトニクス」の4つのセッションが同時に行われました。弊社研究者は「鉱物記載・分析評価」のセッションで「中国製無色HPHT合成ダイヤモンドの物性評価と宝石鑑別」と「LA–ICP–MS分析を用いた天然・合成アメシストの鑑別」の2件の講演を行いました。講演後、多数の質問が寄せられ、鉱物科学会会員の方々の宝石学への興味の強さを感じることができました。
総会
平成28年度の鉱物科学会総会が二日目の9月24日(土)朝8時30分より大講義室で行われ、早朝にもかかわらず多くの会員が参加しました。小山内康人会長(九州大学)の挨拶の後、昨年の物故会員5名に黙祷が捧げられ、議事を開始。議長は愛媛大学の大藤会員が努められました。最初に会員幹事から会員数についての報告がなされました。現在有効会員数は929名で漸次減少傾向にあるようです。続いて広報の報告、渉外報告、和文誌GKKより報告、英文誌JMPSより報告、庶務報告がなされ、行事・年会担当幹事から次回(2017年)の年会は愛媛大学で開催されることが報告されました。そして、本総会の最重要審議事項である一般社団法人化の説明と承認がなされ、10月1日から鉱物科学会は一般社団法人として新たな活動を開始することが決定しました。新会長には京都大学の土`山明氏が選任されました。総会審議事項が終了後、日本鉱物科学会平成27年度受賞者の表彰と記念講演が行われました。
日本の石(国石)が「ひすい」に決定
総会の一般審議と受賞者の表彰が終了後、日本の石(国石)の選定が行われ、総会参加者全員による投票の結果、「ひすい」に決定しました。
日本の石(国石)は日本鉱物科学会の一般社団法人化の記念事業の一環として考案されたものです。「日本で広く知られて、国内でも産する美しい石(岩石および鉱物)であり、鉱物科学のみならず様々な分野でも重要性をもつものを、「国石」として選定することにより、私たち日本人が立っている大地を構成する石について、自然科学の観点のみならず社会科学や文化・芸術の観点からもその重要性を認識するとともに、その知識を広く共有する」という趣旨のもと、有識者14名による選定ワーキンググループ(WG)を発足して取り組んできました。
当初、選定委員会において花崗岩、輝安鉱、玄武岩、讃岐岩(サヌカイト)、黒曜石、自然金、水晶、トパーズ、ひすいの10種が候補に挙げられましたが、その後、会員と一般からの意見や追加候補を募り、赤間石、安山岩、大谷石、かんらん岩、絹雲母、黒鉱、結晶片岩、琥珀、さざれ石、硯石および石灰岩の11種が加えられました。これら21種の候補のうちからWGの討議により、花崗岩、輝安鉱、自然金、水晶、ひすいの5種に絞り込まれ、本総会において会員の投票により決定されることになりました。投票に先立って、5種の石にゆかりのある研究者がそれぞれの応援演説を行い、その石の魅力をアピール。 投票は出席会員が投票箱にそれぞれの石の名前が書かれた5つの穴のどれかにビー玉を一つ投入するというスタイルで、投票終了後にビー玉の重量を測定すると得票数がわかるという仕掛けです。5つの穴はゆっくりと回転しており、投票者がどの石に投票したかは他の人にはわかりません。一回目の投票でひすいと水晶が上位となり、両者の決選投票となりました。 結果、ひすいが71票で水晶の52票を上回り、日本の石に決定しました。
受賞講演とポスターセッション
総会後、10時40分より日本鉱物科学会受賞講演が行われました。受賞講演は、平成27年度日本鉱物科学会賞第14回受賞者のバイロイト大学バイエルン地球研究所の桂智男教授、同第15回受賞者の熊本大学先端科学研究部の西山忠男教授、同学会研究奨励賞第19回受賞者の東北大学大学院理学研究科の坂巻竜也助教授、同学会研究奨励賞第20回受賞者の門馬綱一氏の4名より行われました。受賞講演の後はポスターセッションのコアタイムとなっており、発表者の前にはたくさんの人でにぎわい、説明、質疑応答、議論等が活発に行われていました。また同日午後は、シンポジウム「ちきゅう掘削鉱物科学」が行われました。
最終日25日(日)は午前9時より「結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物」「高圧科学・地球深部」「深成岩・火山岩及びサブダクションファクトリー」「火成作用と流体」「地球表層・環境・生命」のセッションが行われ、日本鉱物科学会2016年年会は幕を閉じました。
毎年開催される鉱物科学会年会では、最先端の鉱物学研究が発表されます。鉱物学と宝石学は密接な関係があり、参加し、聴講することで最先端の鉱物学に関する知見を得られ、多くの研究者の方々と交流を深めることができます。来年も愛媛で開催される鉱物科学会年会に参加し、中央宝石研究所で行われている各種宝石についての研究をさらに深める予定です。◆