CGL通信 vol28 「ICA Congress 参加報告」
2015年9月No.28
リサーチ室 江森 健太郎、北脇 裕士
去る5月15日(金)から19日(火)にかけてスリランカのコロンボにてICA Congress2015が開催されました。CGLリサーチ室より2名が参加し、主任研究員の江森が招待講演を行いました。また、Congress終了後にラトナプラ、ベルワラのサファイア鉱山とマーケットを視察する機会を得ましたので合わせてご報告いたします。
ICA Congress 2015
ICA(International Colored Gemstone Association)は1984年に設立された色石についての知識と認識を促進するための非営利団体で、現在47ヶ国600人の宝石ディーラー、カッター、鉱夫と小売業者から成っています。色石についての国際的なコミュニケーション、取引を改善し、ビジネスのための一般的な用語統一のため、ICAの世界的なネットワークが機能しています。
ICA Congressは2年に1度開催されるICA主催の国際会議で、本年はスリランカで開催されました。会場となったのはコロンボの格式のある「Cinnamon Grand」ホテルです。会議期間中は、世界中の著名な宝石鑑別ラボやICAの主要メンバーによる招待講演、そしてGem Show、会員間の交流を深めるスポーツ大会などが行われました。 Congress後にはPost Congress (会議後の巡検)として、5/20~5/26にスリランカの主要な鉱山等を回るツアーが企画されていました。CGLからは北脇裕士と江森健太郎が参加し、江森が「Beryllium-Diffused Corundum in the Japanese Market and Assessing the Natural vs. Diffused Origin of Beryllium Sapphires」(日本市場におけるBe拡散処理コランダムの現状と天然起源のBeを有するサファイアとの識別)というタイトルで講演を行いました。
Sri Lanka 鉱山ツアー
ICA Congress終了後、 ICA主催のPost Congressとは別にベルワラのマーケット、加熱処理現場、ラトナプラの鉱山を視察する機会を得ました(すでにスリランカ宝石最新事情についての詳細な情報はCGL通信11号(https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/11/12.html)に掲載されておりますのでご参照ください)。
○ ベルワラのガス炉による加熱処理現場
ベルワラはコロンボの南方およそ60kmに位置する中規模の都市で、重要な宝石マーケットとして古くから知られています。我々はまず初めにベルワラでコランダムの加熱を行っている処理業者を訪ね、彼らが使用しているガス炉を見せていただき、詳しい説明を聞くことができました。ガス炉では1600°C〜1900°Cの温度範囲で加熱することで、ギウダの処理を行っています。ブルーやパパラチャなどの色の違いにより加熱の手法が異なるのはもちろんのこと、同じブルーでも原石がマダガスカル産なのかスリランカ産なのかによっても異なるそうです。ギウダとひとことで言ってもディーゼル、シルキー、ミルキー、オットゥなどその原石の性質に応じて細かく区別され、加熱の手法(加熱温度、時間、酸化なのか還元なのかなど)も異なります。また、ガス炉で加熱したのちに、ある種のサファイアは電気炉を用いて再加熱を行っているとのことでした。
○ ベルワラのマーケット
次にベルワラのマーケットへ市場調査に行きました。ベルワラの市場では早朝から夕方(18時頃)まで取引が行われています。5000人におよぶディーラーそして100近いオフィスがあるそうで、コロンボの有名なディーラーはベルワラにもオフィスを構えている人が多いとのことでした。ここにはスリランカ産だけではなく、アフリカ、その他世界中の産地のサファイアが集まります。オフィスの中には次々にサファイアを持ったディーラーが集まり、入れ替わり立ち代わりで非常に活発な取引が行われていました。
取引では、非加熱、加熱、Be拡散処理などが明確に開示されており、買い手はその情報をもとに慎重に品定めをします。また、産地に関してもスリランカ産、マダガスカル産など適宜情報開示がなされていました。
○ Blow pipe(吹管)を用いた加熱処理
ラトナプラでは、伝統的な加熱手法であるBlow pipeを用いてルビーを加熱する現場と研磨作業を視察することができました。 Blow pipeはスリランカにおける伝統的なコランダムの加熱方法で、主にルビーの色調を改善し、内在する青味を除去するために行っています。ルビーを一粒ずつ練った石灰で包んでボールを作り、炭火の中に入れ、Blow pipeで火をあおりつつ、1時間ほど加熱します。そして焼けた石灰を割り、ルビーを取り出します。この手法では1000°Cまでしか温度は上がらないといわれています。
○ ラトナプラでの鉱山視察
ラトナプラは現地語で”宝石の街”を意味します。ラトナプラは平坦な農耕地で、その地下にイラム層と呼ばれる宝石を含有した砂利層が存在します。スリランカで商業的に採掘がおこなわれているのは、ほとんどが漂砂鉱床(第二次鉱床)で、多くが縦穴掘り方式でイラム層を採掘しています。また、付近の川からmammoties(マッモティーズ)という棒を用いて川底を直接さらうことによる採取も行われています。我々も今回の視察で、縦穴掘り方式の採掘法や川底からの採取を視察することができました。
○ ラトナプラの原石マーケット
最終日、我々はラトナプラの原石マーケットを視察しました。ここはカットされたサファイアではなく、原石のサファイアのみを扱うマーケットで、オフィス等を使用せずに公園のような場所で直接取引が行われます。ざっと見たところ200名ほどのディーラーが集まっているようでした。