エメラルドの原産地鑑別に有用なインクルージョン

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リサーチ室 趙政皓・江森健太郎

コロンビア産エメラルドのリング
コロンビア産エメラルドのリング

エメラルドは、ベリルの一種であり、古くから貴重な宝石として扱われている。最初は中央アジアとエジプトのエメラルドが知られていたが、16世紀になってスペインの征服者がコロンビアの高品質のエメラルドを国際市場に持ち込んだ時、世界中が驚かされた。現在に至って、コロンビアはエメラルドの最も重要な産地である。19世紀から20世紀にかけて、コロンビアのエメラルドに比べても劣らない新しい鉱山が世界中に出現した。高品質のエメラルドを産出するブラジル、ロシア、ザンビアの他に、マダガスカルやエチオピア、アフガニスタンなどにも小さな鉱床が発見された。加えて昨今の流通の透明性などに対する社会的欲求のため、エメラルドの産地鑑別の重要性が急速に高まっている。
本稿ではエメラルドの原産地鑑別に有用なインクルージョンについて概要を説明する。

 

エメラルドの形成

ベリルの化学組成はBe₃Al₂(SiO₃)₆であり、エメラルドはベリル中に含まれるクロム(Cr)とバナジウム(V)によって緑色を呈する宝石変種である。上部大陸地殻に存在するベリリウム(Be)は2 ppm程度しかない上、クロム(Cr)とバナジウム(V)も海洋地殻や上部マントルに濃縮している。そのため、エメラルドの形成に必要なベリリウム(Be)とクロム(Cr)が同時に存在するためには限定された地質学的条件が必要である。故に、エメラルドは産出量が限られ、希少性の高い宝石となっている。

エメラルドは形成する地質学的条件によっていくつかのタイプに分類される。例えば、G. Giuliani et al. (2019) はエメラルドを産出する地域の地質的環境を考察し、花崗岩マグマに起因するかどうかによってエメラルドを構造–変成関連タイプと構造–マグマ関連タイプに分類した。一方、S. Saeseaw et al. (2019) は地質学的形成条件を考えた上、コロンビアのエメラルドの特徴と類似するかどうかによってエメラルドを「熱水/変成タイプ」と「片岩ホスト/マグマタイプ」に分類した。本稿では後者を参考し、表1には、世界各地の重要なエメラルドの鉱床のタイプを示した。

片岩ホスト/マグマタイプのエメラルド鉱床は世界中に分布しており、最も数の多いタイプとなっている。このタイプのエメラルドの多くは花崗岩マグマに起因するものであり、その典型的な形成モデルの概略を図1に示した。その形成過程には、ベリリウム(Be)を含む酸性マグマがクロム(Cr)、バナジウム(V)を含む苦鉄質岩や超苦鉄質岩に侵入することによってベリリウム(Be)とクロム(Cr)、バナジウム(V)が同じ場所に濃縮され、エメラルドを形成した。このタイプのエメラルドの普遍的な内部特徴は、ブロック状または不規則な多相インクルージョンを含むことであり、バイオタイトなどの固相インクルージョンも多い。

熱水/変成タイプのエメラルドの鉱床は比較的に少なく、エメラルドの形成は主に熱水に起因するものとなっている。典型的な例として、図2にコロンビアの熱水/変成タイプのエメラルドの形成モデルを示した。深い地層からの熱水によって岩石内部にある元素が移動し、結果としてエメラルドの形成を促した。このタイプのエメラルドの普遍的な内部特徴は、縁がギザギザな多相インクルージョンを含むことである。

次節から、商業的に重要な各産地のエメラルドの特徴的なインクルージョンについて紹介する。

 

表1エメラルドの分類

T01

 

図1 片岩ホスト/マグマタイプのエメラルドの典型的な形成モデル(G. Giuliani et al., 2019を加筆)。
図1 片岩ホスト/マグマタイプのエメラルドの典型的な形成モデル(G. Giuliani et al., 2019を加筆)。

 

図2 コロンビアの熱水/変成タイプエメラルドの形成モデル(G. Giuliani et al., 2000を加筆)。
図2 コロンビアの熱水/変成タイプエメラルドの形成モデル(G. Giuliani et al., 2000を加筆)。

 

コロンビア

コロンビアは最も重要なエメラルドの産地であり、16世紀から高品質のエメラルドを産出している。現在でも日本国内市場には50~60 %のシェアがある。コロンビアのエメラルド鉱床は東コルディレラ山脈の堆積盆地の両側に分布しており、砂岩、石灰岩、黒い頁岩、蒸発岩で構成する堆積岩の中からエメラルドが産出している。盆地の東側は6500万年前に形成されたガチャラ、チボールとマカナル鉱床;西側には3800万~3200万年前に形成されたムゾ、コスクェス、ラ・ピタなどの鉱床がある(G. Giuliani et al., 2019)。これらのエメラルド鉱床はすべて熱水/変成タイプに属する。この地で生じた大規模な熱水変成作用が、蒸発岩から高濃度の塩水(~40 wt%相当の塩化ナトリウム(NaCl))の形成を引き起こした。その結果、黒い頁岩中の豊富な有機物からベリリウム(Be)、クロム(Cr)、バナジウム(V)が放出され、エメラルドが形成した。

コロンビアのエメラルドは形成中、濃度の高い塩水を取り込むため、図3に示したような輪郭がギザギザの三相(固相、液相、気相)インクルージョンが観察される。多くの場合、それらの三相インクルージョンに含まれる気泡は二酸化炭素(CO2)であり、固体は塩水から析出された塩化ナトリウム(NaCl)である。このようなギザギザなインクルージョンは、アフガニスタン・パンジシールなど他の熱水/変成タイプのエメラルドにも見られることが多いが、S. Saeseaw et al. (2019)によると、長さ500 μmを超えるもの(図4)はコロンビア特有のものとなる。

図3 熱水/変成エメラルドによく見られる輪郭がギザギザな三相インクルージョン。気泡の下に小さな四角い固体が見える。視野0.8 mm。
図3 熱水/変成エメラルドによく見られる輪郭がギザギザな三相インクルージョン。気泡の下に小さな四角い固体が見える。視野0.8 mm。

 

図4 コロンビアのエメラルドの特徴である500 μmを超える大きなギザギザな三相インクルージョン。 視野1.2 mm。
図4 コロンビアのエメラルドの特徴である500 μmを超える大きなギザギザな三相インクルージョン。視野1.2 mm。

 

エメラルドの形成過程中、熱水中の硫酸塩と黒い頁岩に含まれる有機物と化学反応を起こし、ベリリウム(Be)、クロム(Cr)、バナジウム(V)を放出すると同時に、有機物の還元反応によって硫化水素(H₂S)と炭酸水素イオン(HCO₃ )が生成する。そして最終的には金属イオンと結合してパイライト、カルサイト、ドロマイトなどが生成される(図5–6)。これがコロンビアのエメラルドにしばしばパイライトなどが観察される原因である。同時に、この地域の鉄(Fe)成分がほとんどパイライトとして結晶化するため、結果的にコロンビア産エメラルドに取り込まれる鉄(Fe)の濃度は低くなる。ただし、これらの鉱物固体インクルージョンは他の鉱床のエメラルドにも見られるため、産地鑑別には強力な指標とはなれない。その他、パリサイトはコロンビアのエメラルドしか報告されていないが、観察できるのは極めて珍しい(K. Thu, 2021)。

 

図5 パイライトのクラスター。コロンビア以外の産地からのエメラルドにも観察されることがある。 視野0.9 mm。
図5 パイライトのクラスター。コロンビア以外の産地からのエメラルドにも観察されることがある。視野0.9 mm。

 

図6 コロンビアのエメラルドにあるカルサイト。菱面体の形が見える。
図6 コロンビアのエメラルドにあるカルサイト。菱面体の形が見える。

 

原産地鑑別に強力な指標となるGota de Aceite(スペイン語で「油の滴」を意味する)は、コロンビアのエメラルドのもう一つの特徴であり、これはエメラルド内部の異常な成長構造に起因するものである(図7–8)。類似した成長構造はアフガニスタンやザンビアなど他の鉱床からのエメラルドでも稀に観察されることがあるが、観察頻度は極めて低い(N. Ahline, 2017; R. Zellagui, 2022)。多くの場合、Gota de Aceiteの構造は結晶の基底面と平行に分布しており、光軸方向から観察できる。その他、図9に示した鋸歯状の成長線もコロンビアのエメラルドの特徴である。これは結晶のc軸方向にギザギザと伸長した分域境界で、熱水/変成タイプのエメラルドの特徴と考えられる。

図7 コロンビアのエメラルドの特徴であるGota de Aceite。疑似六角形の形が見える。視野1.3 mm。
図7 コロンビアのエメラルドの特徴であるGota de Aceite。疑似六角形の形が見える。視野1.3 mm。

 

図8 コロンビアのエメラルドに見られるGota de Aceite。六角形の形が見えないタイプ。視野4.0 mm。
図8 コロンビアのエメラルドに見られるGota de Aceite。六角形の形が見えないタイプ。視野4.0 mm。

 

図9 コロンビアのエメラルドに観察できる鋸歯状の成長線。
図9 コロンビアのエメラルドに観察できる鋸歯状の成長線。

 

アフガニスタン

アフガニスタンのエメラルドは紀元前から知られており、18世紀以前は歴史的に重要な産地であった。1970年代以降、商業的に採掘されるようになったが、一般に高品質なものは少ない。しかし、時折コロンビアのエメラルドに匹敵する大粒で透明度の高いエメラルドが産出することがある。2017年に新たな鉱床も発見され、再び注目されている。アフガニスタンのエメラルドはパンジシール谷から産出しており、熱水/変成タイプに属する。この地域には断層が多く、エメラルド鉱床は混成岩、片麻岩、片岩、大理石と角閃岩で形成された原生代の変成基盤中に見られる。片岩が激しく破砕され、流体循環と熱水変成作用の影響を受けている。エメラルドは、白雲母、トルマリン、アルバイト、パイライト、ルチル、ドロマイトに関連する空洞と石英脈中から発見される。Ar–Ar法で測定した年齢は2300±100万年であり、クロム(Cr)とベリリウム(Be)の由来はまだわかっていない。

コロンビアの石と同じく熱水/変成タイプに属するため、アフガニスタンのエメラルドにも輪郭がギザギザな三相インクルージョンが観察できる(図10–11)。しかし、アフガニスタンのエメラルドの三相インクルージョンは、細長い針のような形をする傾向があり、その中に複数の固体鉱物インクルージョンが含まれることがよくある。鉱物固体インクルージョンとして、パイライト、ライモナイト、ベリル、炭酸塩鉱物、長石などが見られる。

図10 アフガニスタンにある多相インクルージョン。 一つのインクルージに複数の固体インクルージョンが含まれている。視野1.0 mm。
図10 アフガニスタンにある多相インクルージョン。
一つのインクルージに複数の固体インクルージョンが含まれている。視野1.0 mm。

 

図11 アフガニスタンにある細長くて縁が鋭い多相インクルージョン。視野0.6 mm。
図11 アフガニスタンにある細長くて縁が鋭い多相インクルージョン。視野0.6 mm。

 

M. S. Krzemnicki et al. (2021)によると、パンジシール渓谷のエメラルドは2つのタイプに分けることができ、そのうちタイプ2に分類されるものは固体インクルージョンが少ないだけではなく、鉄(Fe)やスカンジウム(Sc)の濃度も低い。そのため屈折率や紫外–可視分光スペクトルは、コロンビア産エメラルドの特徴と重複しており、産地鑑別には注意深く観察する必要がある。

 

ザンビア(カフブ)

ザンビアには複数のエメラルド鉱床があり、そのうちムサカシ地域のエメラルドは熱水/変成タイプであり、カフブ地域のエメラルドは片岩ホスト/マグマタイプのエメラルドである。ムサカシ地域の鉱床は2002年頃に発見された新しい鉱床であり、未解明の部分も多く、現時点においては産出量も限定的なため本稿では紹介しない。カフブ地域のエメラルドは1930年代に発見され、大規模な鉱山開発が行われた。日本市場では、ザンビアのエメラルドはコロンビアに次いで多く、20%程度のシェアがあり、その大部分はカフブ地域のエメラルドである。カフブのエメラルド鉱床は典型的な花崗岩マグマに起因するタイプであり、主に変成した苦鉄質–超苦鉄質岩中から発見される。鉄(Fe)の含有量が多いため、ここのエメラルドは青味が強い。

前述したように、片岩ホスト/マグマタイプのエメラルドの特徴として、ザンビア・カフブのエメラルドには図12に示した輪郭が長方形の角型二相インクルージョンが観察される。これらは後述するブラジル産エメラルド中の二相インクルージョンよりも、輪郭が丸くない明瞭な角型である。不規則な二相インクルージョンの中でも鋭い角を持つものが度々見られるが(図13)、後述するブラジルなどの産地のエメラルドにある丸い輪郭をもつものもある。

図12 カフブのエメラルドにある角型二相インクルー ジョン。視野1.3 mm。
図12 カフブのエメラルドにある角型二相インクルージョン。視野1.3 mm。

 

図13 不規則な二相インクルージョン。視野1.0 mm。
図13 不規則な二相インクルージョン。視野1.0 mm。

 

鉱物固体インクルージョンとして、マグネタイト、ヘマタイト、イルメナイトなどの酸化物で構成される樹枝状や小板状のインクルージョンが観察される(図14)。この形状のものはブラジルのエメラルドに報告されることが少ない。また、ブラジルのエメラルドと同様、丸みを帯びた雲母インクルージョンが観察される(図15)。その他、アパタイト、パイライト、タルク、バライト、アルバイト、カルサイトなども報告されている。

図14 樹枝状の黒い固体インクルージョン。 視野0.5 mm。
図14 樹枝状の黒い固体インクルージョン。視野0.5 mm。

 

図15 丸みを帯びたフレーク状の固体インクルージョン。 視野1.1 mm。
図15 丸みを帯びたフレーク状の固体インクルージョン。視野1.1 mm。

 

図16 ブロック状の二相インクルージョン。角が比較的に丸い。視野1.6 mm。
図16 ブロック状の二相インクルージョン。角が比較的に丸い。視野1.6 mm。

 

図17 不規則な二相インクルージョン。視野0.5 mm。
図17 不規則な二相インクルージョン。視野0.5 mm。

 

図18 雨のようなチューブインクルージョン。 視野2.2 mm。
図18 雨のようなチューブインクルージョン。視野2.2 mm。

 

図19 丸みを帯びた黒褐色の雲母インクルージョン。 視野2.2 mm。
図19 丸みを帯びた黒褐色の雲母インクルージョン。視野2.2 mm。

 

図20 疑似六角形をする褐色がかった雲母インクルージョン。視野0.8 mm。
図20 疑似六角形をする褐色がかった雲母インクルージョン。視野0.8 mm。

 

ブラジル(ミナス・ジェライスなど)

ブラジルには複数のエメラルド鉱床がある。それらの大部分は花崗岩マグマに起因する片岩ホスト/マグマタイプに属し、現在主にミナス・ジェライス州(74%、イタビラやノバエラ鉱床など)とバーイア州(22%、カルナイーバ鉱床など)から産出している(G. Giuliani et al., 2019)。前文で説明したように、このタイプのエメラルド鉱床は花崗岩マグマが苦鉄質–超苦鉄質岩に侵入することによって形成したものである。

これらのエメラルドには、ブロック状あるいは不規則な二相インクルージョンが観察されることが多い(図16–17)。このようなインクルージョンは他の片岩ホスト/マグマタイプのエメラルドにもよく見られるため、産地鑑別に使える強力な指標にはなりにくい。また、ミナス・ジェライス州イタビラからのエメラルドの特徴として、図18に示した「雨のような」チューブインクルージョンが観察される。鉱物固体インクルージョンとして、丸みを帯びた初生の黒褐色雲母と、同生や後生の疑似六角形の形をする褐色の雲母インクルージョンが観察される(図19–20)。しかし、前述した二相インクルージョンと同様、他の片岩ホスト/マグマタイプエメラルドにも観察されることが多いため、強力な指標にはならない。

 

ブラジル(ゴイアス)

ゴイアス州のエメラルドも片岩ホスト/マグマタイプに属するが、ブラジルの他の鉱床と異なり、形成過程中に熱水の変成作用が重要な役割を担っていると考えられている。熱水の浸透は剪断帯などの構造にコントロールされている。ペグマタイト脈はなく、エメラルドは金雲母および金雲母化した炭酸塩–タルク片岩の変成火山堆積層内に散在する。1980年代に発見されたサンタ・テレジーニャは90年代までに大量に採掘されて、日本市場では多く流通していた。この鉱床のエメラルドには高濃度のセシウム(Cs)が含まれるという特徴があり、このことから、サンタ・テレジーニャのエメラルドはマグマ流体と変成流体の混合体に起因するものという仮説が挙げられている(C. Aurisicchio et al., 2018)。

花崗岩マグマに直接起因しないが、ゴイアス州のエメラルドも片岩ホスト/マグマタイプに属し、ブロック状の二相インクルージョンが観察される(図21)。また、ゴイアス州のエメラルドの最大の特徴である大量に散在するヘルシナイトが観察されることがある(図22)。ただし、他のブラジルの鉱床やザンビア・カフブなどの鉱床からのエメラルドに含まれる大量に散在するマグネタイトまたはクロマイトのインクルージョンと区別しにくい。また、同じような形として、ゴイアス州のエメラルドに大量のクロマイトが観察されることがある(T. T. H. Le, 2008)。鑑別する際は注意深く扱う必要がある。

図21 ゴイアス州のエメラルドにあるブロック状の二相インクルージョン。
図21 ゴイアス州のエメラルドにあるブロック状の二相インクルージョン。

 

図22 エメラルドに散在する大量のヘルシナイトあるいはクロマイト。金属光沢を呈する。視野1.9 mm。
図22 エメラルドに散在する大量のヘルシナイトあるいはクロマイト。金属光沢を呈する。視野1.9 mm。

 

ロシア

ロシアのエメラルドは1830年代からウラル山脈地域から産出されて、1990年代半ばではほとんどの採掘作業が終止されたが、2010年代にロシアの国営企業の下で採掘が再開された。この地域のエメラルド鉱床も花崗岩マグマに起因する片岩ホスト/マグマタイプに属する。ただし鉄が少なくて、色が淡いものが多い。

ロシア産エメラルドには、ザンビア・カフブのエメラルドにある角型の二相インクルージョンが観察される。ただし、ロシア産エメラルド中の二相インクルージョンの一部は、斑状や粒状の輪郭をもつという特徴がある(図23)。図23と図24に示した長い針状や管状の成長構造も観察されやすいが、他の産地のエメラルドにも観察されることがある。ロシアのエメラルドにとって最も強力な指標になるのは、結晶の底面に平行に配列する薄膜インクルージョンである(図25–26)。一般に平行状液膜インクルージョンと呼ばれている。

図23 ブロック状の二相インクルージョン。その下の不規則な二相インクルージョンの縁が粒状や斑状になっている。 上には細長い成長管も見える。視野1.6 mm。
図23 ブロック状の二相インクルージョン。その下の不規則な二相インクルージョンの縁が粒状や斑状になっている。
上には細長い成長管も見える。視野1.6 mm。

 

図24 同じ方向に配列する細長い成長管。視野1.2 mm。
図24 同じ方向に配列する細長い成長管。視野1.2 mm。

 

図25 基底に平行する大量の薄膜インクルージョン。視野0.5 mm。
図25 基底に平行する大量の薄膜インクルージョン。視野0.5 mm。

 

図26 横から観察する大量の薄膜インクルージョン。
図26 横から観察する大量の薄膜インクルージョン。

 

ロシアのエメラルドにも樹枝状の黒い固体インクルージョンと雲母が観察できるが、これらは前述したザンビアやブラジルなどの片岩ホスト/マグマタイプ鉱床からのエメラルドにも観察されるため、強力な指標にはならない。

 

マダガスカル

マダガスカルのエメラルドは南部のイナペラとマナンジャリから産出される。この地域のエメラルドはすべて花崗岩マグマに起因する片岩ホスト/マグマタイプに属する。そのうち、イナペラには同年代の二つのエメラルド鉱床があり、それらはそれぞれペグマタイトと苦鉄質岩の接触で形成されるものと、黒雲母片岩にホストされるものがある。

他の片岩ホスト/マグマタイプのエメラルドと同様、マダガスカルのエメラルドにもブロック状の二相インクルージョンが観察される(図27)。その他、特徴的な細長く湾曲した針状インクルージョンが観察できる(図28)。これらの針状インクルージョンはロシアのエメラルドにある同じ方向に配列した成長管と違って、交差して配列する。ただし、ジンバブエなど他の産地からのエメラルドにも類似するインクルージョンが観察されることがある。また、図29に示した隙間がある茎状のアクチノライトやトレモライトのインクルージョンも、マダガスカル産エメラルドによく見られる。

図27 ブロック状の二相インクルージョン。視野0.8 mm。
図27 ブロック状の二相インクルージョン。視野0.8 mm。

 

図28 交差する細長く湾曲した針状インクルージョン。視野3.4 mm。
図28 交差する細長く湾曲した針状インクルージョン。視野3.4 mm。

 

図29 隙間がある茎状のアクチノライトやトレモライトのインクルージョン。視野0.8 mm。
図29 隙間がある茎状のアクチノライトやトレモライトのインクルージョン。視野0.8 mm。

 

まとめ

エメラルドのインクルージは産地鑑別において重要な判断材料になる。インクルージョンだけで産地を決定できるケースも少なくない。インクルージョンだけで判断できない場合、赤外スペクトル、紫外–可視分光、蛍光X線分析、ICP–MSなどの測定方法と合わせて判断する必要がある。

本稿では、コロンビア、アフガニスタン、ブラジル、ザンビア、ロシア、マダガスカルのエメラルドにある特徴のあるインクルージョンを紹介した。表1に示したように、エメラルド鉱床は世界中に広く分布している。現在日本市場に流通するものはコロンビア、ブラジルとザンビアのエメラルドがメインになっているが、他の流通量の少ない産地のエメラルドと区別しにくい場合もあるため、注意を払わなければならない。◆

日本鉱物科学会2022年年会・総会参加報告

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リサーチ室 江森健太郎

去る2022年9月17日(土)から19日(月)までの3日間、新潟大学五十嵐キャンパスにて日本鉱物科学会2022年年会・総会が開催されました。Covid19の影響で2020年、2021年はオンラインでの開催のみでしたが、2022年はオンサイトとオンラインのハイブリッドで開催が行われました。CGLリサーチ室からは2名がオンサイト、1名がオンラインで参加し、2名が発表を行いました。以下に年会の概要を報告致します。

 

日本鉱物科学会とは

日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Science、JAMS)は2007年9月に日本鉱物科学会と日本岩石鉱物鉱床学会の2つの学会が統合・合併され発足し、現在は大学の研究者を中心におよそ800名の会員数を擁しています。日本鉱物科学会の沿革・活動についてはCGL通信54号等に詳しく掲載されていますので、そちらを参照して下さい。
2016年10月に一般社団法人日本鉱物科学会となり、以降の年会・総会は、2017年愛媛大学、2018年山形大学、2019年九州大学で開催されました。しかし、2020年は東北大学、2021年は広島大学で開催が計画されていましたが、Covid–19の影響でオンラインでの開催となりました。そして、2022年ようやくオンサイトでの講演会が可能となりました。

新潟大学について

 

新潟大学正門と五十嵐キャンパス
新潟大学正門と五十嵐キャンパス

新潟大学は、旧六医科大学の一校である旧新潟医科大学と、旧新潟高等学校を主な母体として1949年に開学した旧制大学の流れをくむ旧官立大学の一校で、本州日本海側において最大規模の総合大学です。発足当初は県内にキャンパスが点在していましたが、総合移転により新潟市郊外西部にある広大な五十嵐キャンパスと、市中心部に構える旧新潟医科大学由来の医歯学系学部が集まる旭町キャンパスに集約されています。その他、西大畑地区(旧新潟高等学校跡地)に教育学部付属学校(小学校、中学校、特別支援学校)がおかれています。
高志(こし)の大地に育まれた敬虔質実の伝統と世界に開かれた海港都市の進取の精神に基づいて、自立と創生を全学の理念とし、教育と研究を通じて地域や世界の着実な発展に貢献することを全学の目的としています。
五十嵐キャンパスへのアクセスは、JR新潟駅から直行バスで40~50分程度、JRで20–25分程度の新潟大学前駅もしくは内野駅から共に徒歩20分程度とアクセス自体は良好です。

学会について

2022年の総会・年会は、3件の受賞講演、9つのセッションで110件の口頭発表、64件のポスター発表が行われました。筆者は17日、18日はオンサイト、19日はオンラインで参加しましたが、オンラインでの参加者に比べ、オンサイトでの参加者のほうが圧倒的に参加者は多く(筆者の体感だとオンライン:オンサイト=1:4程度)、学会のオンサイトでの開催が待ち焦がれていたことがわかります。

総会・年会が行われた五十嵐キャンパス総合教育研究棟
総会・年会が行われた五十嵐キャンパス総合教育研究棟

 

18日は午前中に「地球外物質」「岩石・鉱物・鉱床」「岩石・水相互作用」の3つのセッションが行われ、14時より総会・授賞式・受賞講演が行われました。総会は定足数 (会員809名の10分の1、81人)以上が必要となりますが、今回の総会は当日参加者(オンライン含む)97人、委任状23人、書面議決書13人と定足数を超え、無事成立となりました。物故会員への黙祷後、宮脇律郎会長の挨拶、1年の事業報告、決議事項を経て、閉会し、授賞式、受賞講演が行われました。授賞式では、学会賞、渡邉萬次郎賞、論文賞、研究奨励賞、応用鉱物科学賞、学生論文賞といった賞が表彰されますが、宝石学分野からは阿依アヒマディ会員(Tokyo Gem Science社,GSTV宝石学研究所)が「先端分析手法を適用した宝石の鑑別技術開発とデータベース構築」の題目で日本鉱物科学会応用鉱物科学賞を受賞しました。宝石分野からは、弊社北脇裕士以降、二人目の受賞となります。

日本鉱物科学会応用鉱物科学賞を受賞した阿依アヒマディ会員
日本鉱物科学会応用鉱物科学賞を受賞した阿依アヒマディ会員

 

受賞講演は、3件行われ、2021年度日本鉱物科学会賞第26回受賞者の金沢大学森下知晃会員の「超苦鉄質―苦鉄質岩に着目した物質科学的アプローチによる海洋プレート及び島弧下マントルの形成・進化プロセスの研究」、2021年度日本鉱物科学会研究奨励賞第31回受賞者の纐纈佑衣会員(名古屋大学)による「ラマン分光学・赤外分光学に関する基礎的研究と地質学全般への適用」、2021年度日本鉱物科学会研究奨励賞第32回受賞者の秋澤紀克会員(東京大学)による「上部マントルでの溶融-熱水活動記録の解読」の発表がありました。

日本鉱物科学会受賞講演の様子
日本鉱物科学会受賞講演の様子

 

19日午前9時より「鉱物記載・分析評価」「高圧科学地球深部」「火成作用の物質科学/深成岩・火山岩・サブダクションファクトリー」の3つのセッションが行われ、CGLからは3名が「鉱物記載・分析評価」のセッションに参加しました。「鉱物記載・分析評価」のセッションは宝石学会(日本)との共同セッションとなっており、日本鉱物科学会の会員でなくても、宝石学会(日本)の会員であれば、発表・聴講することができます。CGLからは北脇裕士が「宝飾用 HPHT大型合成ダイヤモンド単結晶のモルフォロジーと物性評価」、趙政皓が宝石学会(日本)の会員として「銅鉱物と共存するタルクの微細組織」の発表を行いました。多くの質問が寄せられ、聴講者の宝石分野への発表の興味を感じることができました。

毎年開催される日本鉱物科学会では、最先端の鉱物学の研究が発表され、弊社も毎年研究発表を行っています。宝石学は、鉱物学と密接な関係があり、参加・聴講することで最先端の知識を得られる他、普段接する機会が少ない研究者の方々と交流を深め、宝石学の研究を進めるための助力等を得ることができます。森下知晃会員の受賞講演の中の言葉に「誰かが見てくれている」というものがありました。これは研究データの発表を続けることで、「そのデータを見てくれている人」が必ずいること、その「見てくれている人」の意見に耳を傾け、コミュニケーションを取ることにより、自身の研究の新しい道が開ける、とのことです。CGLは来年も日本鉱物科学会年会・総会に参加し、弊社の研究成果を発表する予定です。なお、来年の日本鉱物科学会年会は2023年9月大阪公立大学で開催されます。◆