国際宝石学会(IGC2021)日本開催について

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リサーチ室 北脇 裕士

国際宝石学会 (International Gemmological Conference) 通称IGCは、宝石学における国際学会として最も歴史と伝統があります(http://www.igc-gemmology.org/)。この度、フランスのナントで行われた第36回本会議において、次回の国際宝石学会(IGC2021)を日本で開催することが正式に決定致しました。

 

IGCは国際的に著名な地質学者、鉱物学者、先端的なジェモロジストで構成されており、宝石学の発展と研究者の交流を目的に2年に1度本会議が開催されています。
本学会は、1951年にドイツのイーダーオーバーシュタインにおいてB.W. Anderson, E. Gubelin等によってフレームワークが形成され、翌1952年スイスのルガノで第1回会議が開かれました。発足当初はヨーロッパの各国で毎年開催されていましたが、近年では原則2年に1回、ヨーロッパとそれ以外の地域の各国で交互に開催されています。
日本からは近山晶氏、エドウィン佐々木氏の両名が1970年ベルギーでの第13回会議に初参加されています。1979年のドイツの会議からは宝石学会(日本)初代会長の砂川一郎博士も参加され、以降2007年のロシア会議まで砂川博士と近山氏の両名は日本代表としてご活躍されてきました。

 

IGCは他の一般的な学会とは異なり、クローズド・メンバー制が守られています。メンバーはデレゲート(Delegate) とオブザーバー(Observer) で構成されます。デレゲートは原則的に各国1~2名で、現在33ヶ国からの参加者で構成されています。このようなメンバー制は排他的な一面があるいっぽう、メンバーたちの互いに尊重し合う格式ある風土やアットホームで親密なファミリーという認識の交流が保たれています。そのため、非常に濃密な時間を共有することができ、きわめて質の高い情報交換が可能となります。
毎回の本会議においては、時々の先端的なトピックス(ヒスイの樹脂含浸、コランダムのBe処理、ハイブリッド・ダイヤモンドなど)、産地情報、分析技術などが報告されます(IGCのホームページにて本会議の講演要旨が過去4回分ダウンロード可能です)。

IGCの本会議は、発足当初には宝石学の発祥であるヨーロッパの各国を中心に開催されてきましたが、1981年に始めてヨーロッパ以外の国としてアジアの日本が選ばれました。当時の日本は宝石学のまさに発展途上期で、業界を挙げてのバックアップにより、日本会議が大成功を収めたことが当時の文献に誇らしげに記されています。また、この日本会議に参加されたIGCの現在のエグゼクティブたちにも好印象が記憶されており、再び日本で本会議を誘致するよう要望されてきました。
そして、2017年ナミビアで開催された第35回本会議において2021年の開催国が検討され、賛成多数で日本での開催が内定しました。宝石学会(日本)では、このIGCの日本開催を支援することが評議委員会に提案されて承認され、2018年の富山大学での総会で報告されました。また、一般社団法人日本宝石協会からもご支援をいただけることが理事会で決議されています。

 

IGCはクローズドなメンバー制ですが、日本開催時にはオープンセッションを設けて日本の業界関係者に広く開放したいと考えています。オープンセッションでは、海外著名研究者による複数の講演や業界関係者との懇親の場としてのレセプションも開催予定です。さらに本会議にも宝石学会(日本)および日本宝石協会の会員をはじめご支援いただいた方々からも一定数の参加を検討しています。
開催時期は2021年5月中旬を予定しており、東京での本会議と糸魚川ヒスイ峡へのプレカンファレンスツアーと伊勢志摩へのポストカンファレンスツアーを計画しております。

半世紀以上にわたり、先人から引き継がれてきた宝石学の殿堂とも言えるIGCが2021年に日本で開催されます。逼塞する国内の宝飾業界のさらなる飛躍と未来のリーダーの育成の機会として、IGC2021日本開催をご支援いただければ幸いです。◆

IGC2021日本開催が内定したナミビアのウイントフックでの記念撮影(2017年10月)
IGC2021日本開催が内定したナミビアのウイントフックでの記念撮影(2017年10月)

IGC36 参加報告

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リサーチ室 江森 健太郎、北脇 裕士

去る2019年8月27日~8月31日、フランスのナントにて第36回国際宝石学会(International Gemmological Conference, IGC)が開催されました。弊社リサーチ室から筆者らが出席し、本会議における口頭発表を行いました。以下に概要を報告致します。

フランス、ナントのシンボルの1つ、ブリュターニュ大公城
フランス、ナントのシンボルの1つ、ブリュターニュ大公城

 

フランス、ナントの位置
フランス、ナントの位置

 

国際宝石学会(IGC)とは

国際宝石学会(以下IGC)は国際的に著名な地質学者、鉱物学者、先端的なジェモロジストで構成されており、宝石学の発展と研究者の交流を目的に2年に1度本会議が開催されます。この会議は1952年にドイツで第1回会議が開かれてから、今年で36回目の開催となります。
IGCは他の一般的な学会とは異なり、今もなお、クローズド・メンバー制が守られています。メンバーにはデレゲート(Delegate)とオブザーバー(Observer)で構成されています。デレゲートはオブザーバーとして3回以上IGCに出席し、優れた発表がなされたとエグゼクティブコミッティ(Executive Committee)に推薦されたものが昇格します。オブザーバーは国際的に活躍するジェモロジストでエグゼクティブコミッティ(Executive Committee)もしくはデレゲートの推薦によりIGCの会議に招待されます。IGCの沿革、ポリシーについてはCGL通信vol.29、vol.42に詳しく記載してありますので参照して下さい(https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/)。
今回の第36回IGCではメンバー(デレゲート)とオブザーバー、そしてゲストをあわせて約70名が会議に出席しました。日本からは弊社技術者(筆者ら2名)以外にデレゲートとしてAhmadjan Abduriyim氏と古屋正貴氏、オブザーバーとして大久保洋子氏が会議に出席しました。

会場全体を含むナントの街並み
会場全体を含むナントの街並み

 

開催地

フランス、ナント(Nantes)はフランスの西部、ロワール川河畔に位置する都市です。ブルターニュ半島南東部に位置し、大西洋への玄関口となっています。グラン・ウエスト地域最大の都市でフランス第6の都市です。様々な戦争により、中心部を破壊された一部の大都市とは対照的に、あらゆる時代の歴史的街区を保持しており、歴史的な記念物が多く残っています。
ナントへはパリ=シャルル・ド・ゴール国際空港からフランス国内線で1時間ほど、またはパリ、モンパルナス駅からフランス高速鉄道であるTGVを利用し2時間ほどでアクセスすることができます。

 

第36回国際会議

今回のIGCは、過去のIGC同様Pre–Conference Tour(8/24(土)−26(月))、本会議(8/27(火)−8/31(土))、Post–Conference Tour(9/1(日)−9/4(水))の3本立てで行われました。本会議前後のConference Tourは開催地周辺のジェモロジーや地質・鉱物に因んだ土地・博物館を訪れます。筆者らは今回、本会議にのみ参加しました。

 

Open Colloquium Conference

本会議初日8/27(火)9:00より本会議会場である「Nantes Cité des Congrés」にてフランスの宝石学者や宝石学を学ぶ学生のためのオープンセッションが設けられ、10名のIGCメンバーによるプレゼンテーションが行われました。

第36回IGCの開催場所となった「Nantes Cité des Congrés」
第36回IGCの開催場所となった「Nantes Cité des Congrés」

 

本会議

同日18:00よりウェルカムレセプションパーティーが開催され、各国から集まったIGCメンバー達が2年ぶりに再会し、お互いの健康や研究成果をたたえあい、旧交を深め合いました。
翌日28日(水)からの本会議は、10時からのオープニングセレモニーで始まりました。主催者であり、今回のIGCの議長を務めるフランス、ナント大学教授のDr. Emmanuel Fritsch教授が開会宣言を行い、引き続き、Dr. Jayshree Panjikar氏がIGCの歴史と開催における感謝の言葉を述べました。その後、Dr. Emmanuel Fritsch教授がスポンサー紹介、会場説明、本会議の説明を行います。会場を埋めた参加者達は次第に気持ちが引き締まり、緊張感が高まります。40分のオープニングセレモニーが終了後、一般講演がはじまりました。

 

一般講演会の様子
一般講演会の様子

 

一般講演は28日−31日と4日間に渡り行われました。各講演は質疑応答を含め20分で行われ、計48題が発表されました。うち、コランダム11題、ダイヤモンド8題、歴史・年代測定4題、真珠3題、産地情報3題、エカナイト1題、エメラルド1題、オパール1題、クォーツ1題、こはく1題、スピネル1題、長石1題、トルマリン1題、ハックマナイト1題、ひすい1題、ペッツォタイト1題、ペリドット1題、象牙1題、分析技術1題、その他5題でした。弊社リサーチ室から北脇が「Current Production of Synthetic Diamond Manufacturers in Asia」、江森が「Be–containing nano–inclusions in untreated blue sapphire from Diego, Madagascar」の2題発表を行いました。また一般講演中は会場の一部がポスターセッション会場となっており11件のポスター発表が行われていました。発表について、いくつか興味深いものを次に紹介します。

ポスターセッションの様子
ポスターセッションの様子

 

◆Phosphorescence of Type IIb HTHP Synthetic Diamonds from China

中国武漢にある中国地質大学宝石学研究室のAndy H. Shen教授は中国で製造されたIIb型HPHTダイヤモンドの燐光についての研究を発表しました。中国で製造され、ホウ素を含有したHPHT合成ダイヤモンドは470 nmを中心とする燐光を発します。グリニッシュブルーの蛍光を呈し、燐光時間は5–20秒でした。高濃度の「補償されないホウ素」を有するサンプルは565 nmを中心とする新しい燐光バンドを持ちます。こういったダイヤモンドの470 nmの燐光は時間と共に急速に減衰し、565 nmの燐光はより長く残ることを示しました。

 

◆Laser damage in gemstones caused by jewelry repair laser

スイスのGübelin Gem LaboratoryのLore Kiefert博士による発表で、ジュエリー修理用に用いられるレーザーにより損傷を受けた宝石についての発表でした。最近、ラボに鑑別に持ち込まれたサファイアでキャビティ充填のように見えるが充填物が確認されないものが観察されました。調査の結果、ジュエリー修理に用いるレーザーによる損傷であることが明らかとなりました。ジュエリー修理用レーザーを用いて検証を行った結果、多くの場合はレーザーが直接当たった場所ではなく、石の反対側にダメージが発生し、割れてしまうといった二次損害が発生する可能性もあることを示しました。宝石の種類によってレーザーの反応も異なり、また、フラクチャーの入った石はフラクチャー等がない石にくらべレーザー損傷を受けにくいという特徴があります。レーザーパワー等の設定は誘発される損傷に大きな影響を及ぼし、パワーが低いほど、損傷を受ける危険性は低くなることを示しました。ジュエリーを修理する際に用いるレーザーが金属部分から外れ、宝石にあたった場合に、宝石に損傷を与える可能性が存在するため、石から熱を逃すような物質で宝石を覆う等、注意する必要があります。

 

◆Color Origin of the Oregon Sunstone – the reabsorption and exsolution of Cu inclusions

中国武漢にある中国地質大学宝石学研究室のChengsi Wang氏の発表で、オレゴンサンストーンの色起源についての発表でした。オレゴンサンストーンは1908年にアメリカ・オレゴン州ダストデビル鉱山ではじめに発見された石で、光学的、鉱物学的特性は記載されており、色起源については銅元素が原因であるとされていますが、色の起源について完全な説明はされていません。最近、新しい鉱山が2つ発見されたと報告され、世界中から注目を集めましたが、最終的には銅を人工的に拡散させたものであることが明らかになりました。銅のナノ粒子の拡散実験およびHR–TEMによる観察の結果、天然および拡散オレゴンサンストーンの赤色は直径13 nmの球形銅ナノ粒子により引き起こされていることが判明しました。また、天然オレゴンサンストーンの多色性は回転楕円体をした銅のナノ粒子に起因するものであり、赤道半径が約10 nm、極半径が約26 nmであることに起因することが判明しました。

 

◆Blue sapphire heated with pressure and the effects of low temperature annealing on the OH–related structure
タイのGIT(Gemological Institute of Thailand)のTanapong

 

Lhuaamporn氏は、圧力と高温による処理(PHT)を行ったブルーサファイアに対し、低温アニーリングを行った結果を発表しました。ブルーサファイアに対し、PHT処理を行うとサファイアのブルーが強調され、より暗い色味になりますが、PHT処理を施された石に対し低温アニーリングを行うことでブルーの色味を明るくすることができます。しかし、1000℃以上の温度でアニーリングを行うことでPHT処理サファイアのインクルージョンは通常の加熱処理を施されたものとほぼ同じになるため、インクルージョン特徴により区別することはできません。FTIRスペクトルにおいてはPHT処理のみを施したサファイアはOHに関連した吸収バンドが認められますが、1200℃未満のアニーリングではOH関連の吸収は減少し、1200℃以上ではほぼ完全に消滅することを示しました。このアニーリングにおいては1200℃以下でもブルーの色味に明確な変化を与えるため、OH吸収が観察される限りはPHTサファイアの鑑別が可能であることを示しました。

 

◆Multi–element analysis of gemstones and its application in geographical origin and determination

スイスSSEFの研究者Hao A. O. Wang氏はLA–ICP–TOF–MSを用いたブルーサファイアの微量元素測定を用いた産地鑑別と年代測定、ダイヤモンドのインクルージョン分析、次元削減という手法 (t–SNE, PCA) を用いたエメラルド及び銅マンガン含有トルマリン(パライバトルマリン)の産地鑑別についての発表を行いました。ICP–TOF–MSはICPイオン化法とTOF (Time–of–Flight, 時間飛行) 型質量分析を組み合わせた質量分析装置であり、SSEFではGemTOFという名称で運用しています。一般的なLA–ICP–MSと比較すると、質量1–260の同位体を含む全元素完全同時測定が可能といった特徴があります。ブルーサファイアについては、Be、Zr、Nb、La、Ce、Hf、Thといった元素はマダガスカル産、カシミール産ブルーサファイアで比較するとマダガスカル産のほうがより多く見られる傾向にあり、Pb、Thの同位体を測定することで年代測定を行い、マダガスカル産(約550Ma)とカシミール産(30Ma)の産地を区別する方法を紹介しました。ダイヤモンドのインクルージョンについては表面に出たものを直接レーザーアブレーションすることで測定する方法を紹介しました。またエメラルドについてはLi–Fe–Csの三次元プロットおよび多変量解析の一種であるPCA(主成分分析) およびt–SNE(T–distributed Stochastic Neighbor Embedding)といった手法を用いたクラスタリングによる産地鑑別、また銅マンガン含有トルマリン(パライバトルマリン)についてもt–SNEを用いた産地鑑別法が紹介され、使用する元素が37元素の場合、53元素の場合での比較を行い、53元素のほうが精度が高くなることを示しました。

 

Closing Celemony

最後に、会議の最終日31日の閉会式において、次回の第37回IGCの開催地は日本であることが正式に発表され、今回の開催地のオーガナイザーであるナント大学のEmmanuel Fritsch教授よりIGCのフラッグを弊社リサーチ室室長の北脇が受け取りました。

次回の第37回IGCは日本で行われます
次回の第37回IGCは日本で行われます

 

国際宝石学会は世界的に著名なジェモロジストが参加し、交流を深めることができます。この交流によって各国の状況や生の声を聞くことができます。また、今回はPostおよびPre–Conference Tourには参加しませんでしたが、カンファレンス前後のツアーは宝石を研究する上で必要な原産地視察を行うことができ、貴重な体験となります。中央宝石研究所はこれからもこのような国際会議に積極的に参加し、情情報を仕入れるよう努めていく予定です。◆

IGC36の集合写真
IGC36の集合写真

国際宝石学会(IGC2019フランス)報告

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ジェムY.O.代表 大久保 洋子(FGA,CGJ)

第36回国際宝石学会(International Gemmological Conference)が、フランス/ロアール地方の「フランス人が最も住みたい町」ともいわれているナント(Nantes)−人口約29万8000人−において、2019年8月27日から31日まで5日間にわたり開催された。
2年に一度開催されるこの会議は、前回(2017年)アフリカ/ナミビアで行われ、次回(2021年)は日本での開催が決定している。
今回は、フランス/ナント在住のDr.Emmanuel Fritschが中心となり、以下のスケジュールでの開催となった。

8/23〜26  Pre–Conference Tour(以下Pre–con.)
8/27〜31  La Cite Nantes Congress Center, Nantes(本会議)
9/1〜4    Post–Conference Tour(以下Post–con.)

以下 Pre&Post–con.で訪問した場所について報告する。

 

本会議の前に、会議出席者及び同伴者の為に企画されたPre–con.には、12名が参加した。(スイス/オランダ/ドイツ/カナダ/イスラエル/フランス/日本)
8月24日(土)ロアール地方のナントから約145km離れたブルターニュ地方の、カルナック(Carnac) と更にカルナックから35km 離れたロクマリアケール(Locmariaquer)の巨大な石の遺跡を、8/24、25の2日間に亘り地元のガイドの説明のもとに見聞した。

カルナックという地名は、ケルト語で“丘”や“高台”を表す。紀元前45万年頃、この地に前期旧石器人が暮らしていた為、数多くの本ヒスイの装飾品やお守り、土器、木製の道具などを「先史博物館」で見ることができた。
この地域に数多く残る巨石遺跡は、特に世界的に有名である。この遺跡の特徴は3000個近い巨大な石が全長4kmにも渡り整然と並べられていることである。紀元前5000〜3000年前とされている。巨大な石のテーブルは圧巻で、火成岩といわれている。

 

【8月24日(土)】カルナックの巨石遺跡

メンヒル(巨石記念物)を幌馬車で巡るエコ・ツアーの看板
メンヒル(巨石記念物)を幌馬車で巡るエコ・ツアーの看板

 

03-03カルナックの巨石遺跡のメンヒル(巨石記念物)RGB180-505

 

03-05カルナック遺跡の全体地図RGB255-702
カルナック遺跡の全体地図

 

【8月25日(日)】 ロクマリアケールの古墳群
巨石記念物の前で記念撮影

 

【8月25日(日)】 ロクマリアケールの古墳群

03-08ロクマリアケールの古墳RGB185-504

 

03-10ロクマリアケールの古墳の入口RGB225-499

 

巨石群を見学後、ヴァンヌ(Vennes)の”Museum of History”を訪問。
カルナックで発掘された、多くの生活用品や装飾品、銅や鉄製品、頭蓋骨等が、古いお城を改造した部屋に、考古学的に美しく展示がされている。

 

【ヴァンヌの歴史博物館の展示物】

03-12ヴァンヌ歴史博物館展示1修正RGB175-501

 

03-13ヴァンヌ歴史博物館展示2RGB175-509

 

03-15ヴァンヌ歴史博物館展示4RGB175-509

 

03-20ヴァンヌ歴史博物館展示9RGB190-505

 

03-18ヴァンヌ歴史博物館展示7RGB140-507

 

03-19ヴァンヌ歴史博物館展示8RGB140-500

 

3日目 8月26日(月)は、ヴァンヌ(Vannes)から約145km離れたアレー山地(Monts d’Arrée)を散策後、8km離れたブラスパール(Brasparts)の真珠の稚貝を育てている養殖場を見学。
ミリサイズの極小の貝の卵を魚に食べさせて、お腹の中で育った貝が吐き出される行程の説明を受ける。

 

【ブラスパールの稚貝の養殖場】

03-23ブラスパール稚貝養殖場2RGB190-505

 

03-24ブラスパール稚貝養殖場3RGB185-499

 

途中ブラスパールから約165km離れた、ヴァンヌ近郊の非常に美しい入江の町オレー(Auray)に立ち寄る。
翌日8月27日(火)から本会議が行われるナントまで130kmの行程を約2時間45分かけ帰路につき、無事にPre–con.が終了する。

 

9/1〜4迄の日程でPost–con.が行われ、ナントからパリへ移動する。
フランスの歴史的遺産の宝庫と言われる、セーヌ川とオワーズ川に囲まれた「フランスの島」といわれている、イル・ド・フランスのシャンティイ城と、パリのSchool of Jewelry Artsと3つの博物館を視察した。
Post–con.には、11名が参加。(スイス/カナダ/USA/グリーンランド/日本)

 

【9月1日(日)】ナントから430kmを車で5時間30分かけ移動。
イル・ド・フランスに在るシャンティイ城に午後3時に到着。

シャンティイ城:
Great Stable
(馬の博物館)見学
18世紀に建設
宮殿のような素晴らしい建物は馬小屋で、そこを通り過ぎると博物館になっていて、長い歴史のなかで関わりを持った人間と馬をテーマにした壮大な展示品や、絵画などに感嘆。

 

03-28馬博物館RGB170-497

 

03-29馬の博物館2RGB190-507

 

03-30馬の博物館の木馬RGB200-506

 

03-31馬房の馬RGB200-5-6

 

1時間の見学後、宮殿へ移動。水に影を落とす姿がとても優雅なルネサンス様式のシャンティイ城の一部のみ見学。
14〜16世紀に建造されたが、フランス革命で破壊され19世紀に改たに修復された。

 

03-32シャンテイィ城RGB511-195

 

03-33シャンテイィ城2RGB190-501

 

【9月2日(月)】
シャンティイ城内コンデ公の膨大な絵画、調度品、美術品、宝飾品が展示されている“コンデ美術館”と図書室を見学。この図書室は300点以上の彩色装飾を施した写本を含む700点の写本と3万冊の書物が所蔵されている。

今回のハイライトである“Le Grand Condé”と命名されているピンクダイヤモンドを特別に見る事ができた。17世紀フランス最大の武将、コンデ公ルイ2世 (1621–1686) が所蔵。彼はこの宝石を国王ルイ13世から授かり、杖に取り付け持っていた。
9.01ctの世界で最も大きなピンクダイヤモンドの一つに数えられている。
1926年10月に盗まれて3ヶ月後の12月20日に見つかる。
盗難後非公開のこの素晴らしいダイヤモンドを目の前にして、Nicole Garnier 女史の解説と共に当時の貴重な新聞記事まで見ることができ、大興奮したひとときとなった。

ピンクダイヤモンド
“Le Grand Condé ”

 

03-36ピンクダイヤを見るRGB180-509

また、今回ブラウンダイヤモンドの美しいフルネックレスも見る事ができた。

03-37フルネックレスRGB175-506

 

シャンティイ城を後にして、パリのバンドーム広場へ向かう。

Van Cleef & Arpelsが出資をして設立した学校で宝石の講義、デザイン、カット、研磨などを学べる。
英語もしくはフランス語で受講できる。

パリで最も豪華で、ルイ14世の為に作られた四角のバンドーム広場の高級宝石店の美しい宝石をため息をつきながら眺めたことは数回あるが、今回はメゾンの中でも老舗のヴァンクリーフ&アーペルの中に入る機会に恵まれた。
400年以上も前の建物の内部は非常に明るくシンプルでモダンに整われていて、宝石を学ぶのに相応しい環境に思われた。
構内の一角に、フランスの宝石商で旅行家として有名なTAVERNIER(1605〜1689)がインドから持ち帰り、ルイ14世(1638〜1715)に売った20個のダイヤモンドのレプリカが展示されている。タベルニエは6回に渡り東洋を旅行し、インド産の大きなダイヤモンドを買いヨーロッパに持ち帰った。中でも112.25ctのタベルニエ・ブルー・ダイヤモンドは特に有名である。1642年にインドから持ち帰り、ルイ14世が買って67.50ctのフレンチ・ブルー・ダイヤモンドとなり、1792年に盗難にあった後、再カットされて45.50ctのホープ・ダイヤモンドになった。(現在はUSA スミソニアン博物館に展示されている)

 

【9月3日(火)】
Post–con.の最終日は3箇所の博物館訪問と、サクレクール寺院界隈を散策。

1)  Muséum national d’Histoire Naturelle
フランス3大博物館の1つであり、広大な植物園を併設した荘厳で重厚な博物館内部には、巨大な水晶の原石や美しい数々の鉱物が展示されている。F.Farges教授の案内で館内を2時間にわたり見学した。

 

03-38自然史博物館RGB135-500

 

03-39F-Farges教授RGB205-500

 

03-40自然史博物館内1RGB205-505

 

03-41自然史博物館オブジェRGB210-509

 

03-42自然史博物館内2RGB190-502

 

03-43自然史博物館紫水晶ガマと大原石RGB165-499

 

03-44自然史博物館大原石3つRGB206-500

 

03-45自然史博物館螺鈿ぽいものRGB200-510

 

2)  Musée de Minéralogie MINES ParisTech (Mineralogy Museum)

A〜Oまでの部屋に、世界中の岩石、鉱物、隕石、宝石など10万点が分類され展示されている。
ex)Room L:Gem stones&French Crown Jewels
Room O:Synthetic Mineral collection
見学時間が2時間だった為、全ての部屋の展示物を見ることはできなかったが、大変有意義な時間であった。

 

03-46鉱物博物館1RGB190-509

 

03-47鉱物博物館2パイライトwクォーツRGB190-500

 

03-48鉱物博物館STIBINERGB195-500

 

03-49鉱物博物館3展示室RGB180-505

 

3) Musée des Arts Décoratifs
アンティーク(1878年〜)から現在まで、4000点の素晴らしい宝飾品が飾られている。
“Jewelry  Galley”として2004年6月にオープン。
江戸時代や明治時代の象牙や珊瑚の根付け、かんざし、くしなどもアールヌーボーやアールデコの作品と共に展示されていた。非常に緻密な象眼細工をパリで見ることができ見学者達の賞賛の声に日本人として誇らしい思いを持った。

 

03-50装飾芸術美術館1ラリックRGB190-513

 

03-51装飾芸術美術館2ラリックRGB190-506

 

03-52装飾芸術美術館3ラリックのコームRGB255-502

 

03-55装飾芸術美術館6ストマッカーRGB165-501

 

03-53装飾芸術美術館4コームRGB175-507

 

国際会議最後の夜は、パリ北部のモンマルトルの丘へ行き、白亜の聖堂サクレ・クール寺院の見えるレストランでディナーを楽しんだ。◆

03-56大久保洋子さまRGB72_297

【著者紹介】
大久保 洋子
ジェムY.O. 代表
FGA(英国宝石学協会認定資格)、CGJ取得。
日本の宝石学の黎明期を牽引された「宝石学の父」故近山晶氏の長女。
幼少より身近にあった近山氏の豊富な宝石鉱物コレクションに興味を持ち、
本格的に宝石学を習得。
現在はGSTVの人気コメンテイターとしても活躍中。

Mineralogical Society of America Centennial Symposiumに参加して

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東京大学大学院理学系研究科 鍵 裕之

2019年6月20日から21日の2日間、米国ワシントンD.C.のカーネギー研究所で開かれたアメリカ鉱物学会 (MSA, Mineralogical Society of America) の100周年記念シンポジウム (MSA Centennial Symposium: The Next 100 Years of Mineral Sciences) に参加した。文字通り、鉱物科学が今後100年でどのように発展していくかを議論するシンポジウムである。会場となったとなったカーネギー研究所のScience Buildingは、ホワイトハウスから真北に1.5 kmほどの距離にあり、Washington D. C.でも閑静な町並みの中にある。研究所に面した歩道の街路樹ではリスが愛嬌を振りまいていた(アメリカではリスは庭を荒らす害獣とみなされているはず)。(写真1,2,3)

 

写真1:会場となったワシントンD.C.のカーネギー研究所正面
写真1:会場となったワシントンD.C.のカーネギー研究所正面

 

写真2:カーネギー研究所入り口のエンブレム
写真2:カーネギー研究所入り口のエンブレム

 

写真3:街路樹に見かけたリス
写真3:街路樹に見かけたリス

会議は朝8時20分から夕方5時半まで午前・午後一回ずつのコーヒーブレイクとランチタイムをはさみながら、まるまる2日間みっちりと行われた。今回のシンポジウムでは以下に挙げる14のテーマが用意された。

 

「持続可能な開発と鉱物資源の利用」

「原子レベルから地形レベルに至る生物地球化学的物質循環」

「変成岩岩石学の第2の黄金時代」

「鉱物分析の進歩」

「大陸の起源」

「深部起源ダイヤモンドの包有物」

「博物館における鉱物コレクション」

「シンクロトロンを用いた高圧下での鉱物研究」

「地球外の鉱物学」

「鉱物学、結晶学、岩石学におけるデータ駆動型発見の可能性」

「考古学資料への応用鉱物学的なアプローチ」

「宝石の科学的評価」

「アパタイトの社会的関連性」

「鉱物と産業:ダストの健康影響」

 

各テーマに1時間が割り当てられ、モデレーターのイントロダクションに続いて、二人の講演者がそれぞれ20分の持ち時間で最近の研究動向と今後100年で展開が予想される未来について熱弁を振るった。二人の講演が終わったところで会場から質問と議論を受け付けるが、さすがアメリカだけあって議論がつきない。質問や議論にとどまらず、今後の鉱物学について自らの考えを説く参加者も多くいた。現在、アメリカ鉱物学会のホームページでワークショップの講演がビデオデータとして公開されているので、興味のある方は是非ご覧いただきたい。

(http://www.minsocam.org/MSA/Centennial/MSA_Centennial_Symposium.html#S1)

 

MSAが用意した14の話題はいずれもホットなテーマで、1時間があっという間に過ぎてしまった。

いずれの話題も我が国でも活発に研究が行われているが、

「アパタイトの社会的関連性」

「鉱物と産業:ダストの健康影響」

のような医学鉱物学 (Medical mineralogy ) 分野の研究は、少なくとも日本の鉱物科学会ではあまり聴くことができないもので、たいへん新鮮な印象を受けた。アメリカでは他分野との連携を積極的に進め、鉱物科学の幅を広げてきたことがうかがえる。おそらく100年後は今では想像がつかないような新分野が切り拓かれているのであろう。

 

私自身が特に興味を持った「深部起源ダイヤモンドの包有物」と「宝石の科学的評価」のセッションで行われた講演について簡単に紹介したい。ここ数年でマントル遷移層や下部マントルに由来する超深部起源ダイヤモンドの研究がめざましく進展した。特にカルシウムペロブスカイト、氷の高圧相がダイヤモンド中の包有物として見つかったことは特筆に値する。

 

Padua大学のFabrizio Nestola教授はカルシウムペロブスカイトの包有物を初めて天然ダイヤモンドから報告した研究者であるが、Natureに論文が採択されるまでに多くの反論を受けて苦労した裏話を披露した。また、彼らはマントル遷移層に存在するRingwooditeをさらに別のサンプルから複数個発見したようで、現在審査中の論文の内容について熱弁を奮った。

 

Albert大のGraham Pearson教授は天然ダイヤモンドを調べることで、プレートの沈み込みによって水素、炭素、窒素、ホウ素といった軽元素が地球深部にもたらせる可能性について講演を行った。これらの軽元素のふるまいは同位体比の測定が不可欠である。深部起源ダイヤモンドのケイ酸塩包有物の酸素同位体組成に関する最近の研究結果を紹介した。

 

「宝石の科学的評価」のセッションでは、GIAの Wuyi Wang博士が装飾用の合成ダイヤモンドの現状と、それを見分ける最新の技術について講演した。現在、合成ダイヤモンドは高温高圧法と気相成長法(CVD)で合成されている。現在は高温高圧法によって、20カラットを超える大型のtype Ibのダイヤモンド単結晶が合成されている。ロシアのNew Diamond Technology社では10カラットのtype IIa ダイヤモンドが合成されている。一方、中国では1万台以上のプレスが稼働しており、多くのダイヤモンドが生産されている。一方、CVD法では大気圧条件でダイヤモンドを合成できるため、コストを大幅に節約できる。現在は6カラットを超える無色のダイヤモンド結晶が合成されている。合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドを区別する手法の詳細は紹介されなかったが、ダイヤモンドの欠陥構造、不純物濃度などを分光法(赤外吸収、紫外可視吸収、フォトルミネッセンス、ラマンスペクトルなど)で観察する例を紹介した。表面構造やディスロケーション構造の違いから合成ダイヤモンドを見分ける例についても述べられた。

 

同じくGIAのMandy Krebs博士はサファイヤ、ルビー、エメラルドなどの色石の産地鑑定に関する話題を提供した。蛍光X線分析やレーザーアブレーションICP–MSによって測定される宝石に含まれる微量元素濃度の特徴は産地の指紋になりうる。たとえばルビーに含まれる鉄濃度から産地に関する情報がわかるが、Mg(マグネシウム), V(バナジウム), Sn(スズ)濃度を使った研究、酸素同位体やSr(ストロンチウム)やPb(鉛)といった放射壊変起源の同位体組成同位体組成による産地鑑別に関する研究結果が紹介された。筆者が関わっている地球科学の世界でも、天然起源と報告されているダイヤモンドやコランダムが、実は研磨剤や工具に利用されている人工物の混入ではないかという議論が最近盛んに行われており、他人事ではない思いで二人の報告を聞いた。

 

写真4:スミソニアン自然史博物館で開かれたReception
写真4:スミソニアン自然史博物館で開かれたReception

初日の夜にスミソニアン自然史博物館で盛大にレセプションが開かれた(写真4)。正面玄関ホールの巨大なアフリカ象の剥製の前にステージが設置され、今回のワークショップのスポンサーでもあるGIA(Gemological Institute of America)のExecutive Vice Presidentを務めるTom Moses氏が冒頭の挨拶を行った。その後は料理や飲み物が博物館の展示ホールに用意され、貴重な鉱物展示をみながら参加者同士で情報交換を楽しむことができた。また、会場ではMSA100周年のロゴが入ったシャンパングラスが参加者に配られ、嬉しいお土産となった(写真5)。◆

 

写真5:参加者に記念品として配布されたロゴ入りシャンパングラス
写真5:参加者に記念品として配布されたロゴ入りシャンパングラス

 

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【著者紹介】
鍵 裕之
1965年 生まれ
1988年 東京大学理学部化学科卒業
1991年 東京大学大学院理学系研究科博士課程中退
1991年 筑波大学物質工学系助手
1996年 ニューヨーク州立大学研究員
1998年 東京大学大学院理学系研究科講師
2010年 同 教授 現在に至る。
■研究内容:地球化学、地球深部物質科学、高圧下での化学反応・物質の構造変化