ミャンマー、モゴック鉱山視察報告

2015年5月No.26

リサーチルーム北脇 裕士

去る2014年12月3日(月)~7日(土)の5日間、GIT2014 The 4th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石宝飾品学会)のPre-Conference Excursion(本会議前の原産地視察)としてミャンマーのモゴック鉱山ツアーが行われました。世界的に著名なモゴック鉱山の最新状況を視察することができましたので、以下に概要をご報告致します。

モゴック産ルビーの結晶原石と母岩
Fig.1 モゴック産ルビーの結晶原石と母岩の大理石
Pre-Conference Excursion

宝石や地質学関連の学術会議ではしばしば本会議の前後にタイプロカリティ(基準産地)や鉱山などを視察するツアーが組み込まれます。GIT2014ではPre-Conference Excursion(本会議前の原産地視察)として4泊5日でミャンマーのモゴック鉱山ツアーが行われました。Mogokは長い間外国人の立ち入りが厳しく規制されていましたが、最近になってようやく受け入れを始めました(文献1)。 GIT2014のツアーではAIGS(Asian Institute of Gemological Sciences)の協力の下、ミャンマー政府の許可を得てMogok Stone Tractを視察することができました。参加者は世界各国から総勢27名(ガイドとスタッフを含む)で、マンダレー空港に集合したのち、ワゴン車3台に分乗してモゴックを目指しました(Fig.2)。

Pre-Conference Excursion
Fig.2 Pre-Conference Excursionに参加したメンバー
パゴダのある国ミャンマー

ミャンマーは正式にはミャンマー連邦共和国ですが、以前はビルマと呼ばれていました。1989年、当時の軍事政権は国名の英語表記をUnion of BurmaからUnion of Myanmarに改称しましたが、軍事政権の正統性を否定する立場の方々や組織からはミャンマーではなく、今なおビルマと呼称されています。

ミャンマーはインドシナ半島西部に位置し、周囲をインド、中国、ラオス、タイおよびバングラデシュといった国々に囲まれており、南はベンガル湾に接しています(Fig.3)。

ミャンマーの地図
Fig.3 ミャンマーの地図

その面積は68万平方キロメートルで日本のおよそ1.8倍あります。人口は5,141万人でその70%がビルマ族です。ミャンマーは多民族国家で130以上の少数民族があり、主なものとしてカレン族、カチン族、カヤー族、ラカイン族およびシャン族などが知られています(文献2)。10世紀以前にいくつかの民族文化が栄えていたと言われていますが、遺跡などから確実にビルマ族の存在が認められるのはパガン朝(11世紀~13世紀)以降と考えられています。
ミャンマーでは多くの人々(およそ90%)が仏教徒で、いたるところにパゴダ(Pagoda)と呼ばれる寺院があります。パゴダは日本の仏塔と同じで仏舎利(釈迦仏の遺骨など)などを安置するための施設です。今回訪れたモゴックにも数多くのパゴダがありました(Fig.4)。人々が多く居住する街中だけではなく、見渡す限りの山々の頂にも大小様々なミャンマー様式の仏塔が見られました(Fig.5)。ミャンマーの人々にとって、パゴダは釈迦に代わる存在であり、釈迦の住む家とされています。従って、パゴダに入る時は履物を脱ぐことが求められ、訪れる人々は皆素足になります。

モゴックの街中にあるパゴダ
Fig.4 モゴックの街中にあるパゴダ
パゴダと仏陀像
Fig.5 山上にあるパゴダと仏陀の像
世界の宝石採掘地Mogok Stone Tract (モゴック ストーン トラクト)

ミャンマーにはMogok(モゴック)、Mong Hsu(モンスー)、Nanyaseik(ナムヤー)などの著名なルビー鉱山がありますが、最も歴史と名声があるのはモゴックです。歴史的なロイヤルジュエリーにセットされているルビーのほとんどはこのモゴックで採掘されたものです。また、世界的に著名なオークションにおいて1ctあたり$50,000以上の価格が付けられた150個以上のルビーのうちモゴック産でなかったものは12個に過ぎなかったという報告もあります(文献3)。モゴックはルビーだけでなくレッドスピネルやブルーサファイアも有名です。その他にペリドット、アパタイト、スカポライト、ムーンストーン、ジルコン、ガーネットおよびアメシストも良く知られています。また、ペイナイト、ポードレッタイト、ダイアスポアおよびハックマナイトなどのレアストーンの重要な産地でもあります(Fig.6)。モゴックはチャッピン(Kyatpyin)やその他の複数の村や宝石を産出する渓谷を含めてMogok Stone Tract(モゴック ストーン トラクト)を形成しています。

モゴックはミャンマー第二の都市であるマンダレー(Mandalay)から北東におよそ200kmに位置します。以前はマンダレーから船や曲がりくねった未舗装道路を車で乗り継ぎ、かなり大変な道のりであったとされていますが(文献4)、現在は全区間舗装されており、小型車でも6~7時間ほどでたどり着くことができます。しかし、標高が1500m以上あることから(Fig.7)、最後の1時間は曲がりくねったアップダウンの激しい道が続きます。
モゴック地域の居住者は1960年代で6000名程度に過ぎませんでしたが(文献4)、現在はモゴックで30万人、チャッピンで25万人程度といわれています(文献5)。これらの人口の増加は近年著しく、政府に因る宝石取引自由化が引き金になっていると考えられます。

Jordan氏のモゴック産宝石コレクション
Fig.6 本ツアーガイドのJordan氏所有のモゴック産宝石コレクション
霧のモゴック
Fig.7 標高の高いモゴックでは日較差が大きく、早朝には霧が発生する
モゴック鉱山の歴史

モゴック鉱山がいつごろから採掘されてきたかは文献により諸説があります。しかし、この地域の実際の採掘についての最も古い記録が6世紀にはすでに存在したとされています(文献6)。そして、ビルマ族による最初の王朝であるバガン王朝が樹立された1044年にはモゴックのルビーはすでに王国の経済活動の重要な位置づけにあったと考えられています(文献3)。信頼できるビルマの史録に、1597年にシャン族からモゴックの鉱床がビルマ国王の手に渡ったとされています。ビルマ国王は一定のサイズを超える価値の高いルビーはすべて自身の所有にし、供出しなかった者は拷問の責め苦や死罪にしました。そのため、いくつかの大きなルビーは無償で国王に供出するよりも売却するために割られてしまったそうです(文献5)。17世紀~18世紀にかけてはビルマ国王の過酷な統制の下、宝石を増産するために容赦ない要求が出され、鉱山は流刑場と化しました。
3度に及ぶ英緬戦争の末、英国がこの地を支配すると、宝石の採掘と売買に関しても監視するようになりました。1887年に採掘権がロンドンのジュエラーに与えられ、ビルマ ルビー マインズ社(BRM)が設立されました。同社は政府に権利金と利益の30%を支払うことで採掘の独占権を獲得し、重機を使用した機械化された採掘を行いました(文献6)。

BRMはモゴック ストーン トラクトとして知られる大部分の場所で作業をしていましたが、ヨーロッパ市場における合成ルビーの出現、第一次世界大戦の勃発および世界恐慌などの障害により1925年に自主解散し、その後賃借権を政府に譲渡しました。BRMが採掘していた跡地は大雨などで排水溝が破壊されてその後大きな湖となり、今も往時の繁栄を垣間見ることができます(Fig.8)。

モゴックのパノラマ写真
Fig.8 世界的なルビーの原産地モゴックのパノラマ写真。美しい湖は英国統治時代の採掘跡である。(2014年12月4日撮影)

1930年代に英国人が撤退すると、現地人の手による採掘が再開されました。採掘方法は彼らに馴染の深い昔ながらの手法に戻り、経験に基づく作業が行われていました。1963年にはビルマ政府によって事業は完全に国営化され、外国人による採掘や販売はすべて禁止され、実質上鉱山への立ち入りが不可能になりました。1990年代になると、これらの規制は緩やかになり、政府と個人企業に因る合弁事業が許可されるようになりました。さらに最近の数年間のうちにミャンマーの宝石取引は革新的な変化を遂げました。宝石の個人売買と合法的な輸出入が可能となり、多くの外国人によって活発な商取引がなされるようになっています。

モゴック ストーン トラクトの地質

多くの著名な宝石産地がそうであるように、モゴック ストーン トラクトも地勢、植生、気候などの悪条件が重なり地質踏査が困難な地域といえます。それでも先人の努力により精度の高い地質図が作成されています。これによると、この地区にはモゴック片麻岩類と呼ばれる変成度の高い変成岩類、花崗岩類、大理石などが広く分布しています(文献6)。
片麻岩類は黒雲母片麻岩、グラニュライト、角閃岩などの多様な種類で構成されており、東部地域の3分の2を占めています。花崗岩類は狭義の花崗岩や閃長岩などを含んでおり、これらはブルーサファイアの重要な母岩となっています。大理石はルビー、スピネルの重要な母岩でモゴック片麻岩類に挟在しています。
モゴック地域のルビー、サファイアの成因は5,500万年前に始まったインドプレートとユーラシアプレートの衝突に関連があります。2つのプレートの衝突による広域的な温度・圧力の上昇により、この地の変成岩が形成されました。アフガニスタン、パキスタン、タジキスタン、ネパールおよびベトナムにまで広がる一連の大理石起源のルビー鉱床も同一の地質学的イベントによるものと考えられています(文献7)。

採掘方法

モゴック ストーン トラクトでは、伝統的な手法から重機を用いた近代的な方法まで種々の採掘方法が見られます。ルビーは母岩の大理石を直接採掘する方法(第一次鉱床)とByonと呼ばれる含宝石土壌を採掘する方法(第二次鉱床)が見られます。第一次鉱床では主に目的とする宝石種が採掘されますが、第二次鉱床からはルビー、スピネル、サファイアなど種々の宝石類が同時に採取されています。
規模の大きい鉱山では一般にオープンピット法と呼ばれる地表から土を掘り返す手法や重機や火薬を用いて大理石の母岩を直接採掘する手法がとられています。いっぽう、大多数の規模の小さな鉱山ではtwin-lonと呼ばれる丸い穴をあけて谷底の堆積物を採掘する手法がとられています。また、大理石のカルスト地形特有の手法があり、lu-dwinと呼ばれています。これは大理石の浸食によってできた空洞や亀裂に集積するルビーを採掘します。他の方法に比べて歩留りは良いのですが、複雑に入り組む洞窟に奥深く入るため危険を伴います。実際に1992年に鉱夫が何人も死亡するという事故があったそうです(文献6)。

モゴック鉱山現況

モゴック ストーン トラクトにはルビー、サファイアの鉱山が大小合わせると300以上あります。今回のツアーではこれらのうち生産量の多い規模の大きな鉱山5か所と伝統的な採掘を行っている小規模な鉱山を複数訪ねました。

Bhone Myint Aung ルビー鉱山
Fig.9 Bhone Myint Aung ルビー鉱山
機械による選鉱
Fig.10 機械による選鉱

モゴック東部のShun Pun 村にあるBhone Myint Aung ルビー鉱山は風化した大理石を含む土砂を採掘する第二次鉱床です(Fig.9)。宝石を含む土砂は川底周辺の採掘が容易ですが、最近は山腹や丘陵までが採掘の対象となっています。ここでは重機を用いて土砂を堀り、水圧を使って土を砕いていきます。これらを水と一緒にホースで吸い上げ、ベルトコンベアー上でふるいにかけられます。最終的に集積タンクに比重の大きい石(宝石類)が集められています(Fig.10)。ここではルビーが採取されていますが、その何倍ものレッドスピネルが採れています。

モゴック北部のYadana Shin Ruby鉱山は大理石から直接ルビーを採掘する第一次鉱床です。モゴック ストーン トラクトの中でも最大級の規模の鉱山で、400名に及ぶ鉱夫が働いており、寝食を共にしています。大理石の露岩も見られる広大な敷地内から縦坑がいくつも掘られています。風化していない硬い大理石は削岩機で砕かれ、10cm~20cm程度のサイズにされます。それをバケツに入れて地表に運び、一旦山積みにされます(Fig.11)。地上では積まれた大理石の塊を鉱夫が人力で運搬し(Fig.12)、クラッシャーにかけられます。細かくなった大理石はさらにハンマーで慎重に砕かれ、中からルビーやスピネルが採取されていきます。

Yadana Shin Ruby鉱山の採掘
Fig.11Yadana Shin Ruby鉱山における採掘
鉱夫による大理石の運搬
Fig.12 鉱夫による大理石の運搬。ロンジーと呼ばれる巻きスカートのような民族衣装をまとっている。

モゴック西部のチャッピン地区にあるBawmar 鉱山は、2008年以降採掘量が急増したブルーサファイアの重要な鉱床です(文献8)。この地域は主にモゴック片麻岩類が分布しており、閃長岩や花崗岩類を伴っています。ブルーサファイアは高度に変成した黒雲母片麻岩などに貫入した閃長岩やペグマタイトの風化土壌から採掘されています。Bawmar 鉱山は10年ほど前から重機を用いた採掘がおこなわれており、現在は露天掘りとトンネル方式が組み合わされています(Fig.13)。トンネル方式では最大で深さ80mにもおよぶ縦坑が掘られています(Fig.14)。

Bawmar鉱山全景
Fig.13 Bawmar鉱山の全景
Bawmar鉱山の縦坑
Fig.14 最大80mの深さに及ぶBawmar鉱山の縦坑

そこから削岩機を用いて風化した岩石を砕き、水平方向に掘り進められていきます。地表に挙げられた鉱石は洗浄され、サイズの異なるふるいにかけて選別されます。その後、女性たち(ミャンマーの女性の多くは伝統的なおしゃれで頬にタナカと呼ばれる木の粉を付けています)の手によってトリミングされ(Fig.15)、最終的にカット・研磨されます。  この鉱山のブルーサファイアは原石のままで濃色であり(Fig.16)、最大で15ct程度ものカット石が得られています。

ブルーサファイア、トリミング作業
Fig.15 女性たちによるブルーサファイアのトリミング作業
非加熱のBawmar鉱山産ブルーサファイア
Fig.16 非加熱のBawmar鉱山産ブルーサファイアのカット石(6〜8ct)

モゴック西部のBaw Lone Gyi ルビー鉱山ではミャンマーならではの採掘風景を見ることができます。この地には近くの鉱山で既に選鉱された尾鉱(廃石)がトラックで運ばれてきます(Fig.17)。モゴックの村人たちにはこれらの尾鉱から宝石を探すことが許されており、見つけた者が所有することができます。しかし、英国が鉱山を支配していたころはこの権利は女性に限定されており、KANASE(カナセ)と呼ばれていました。Baw Lone Gyiでは多くのカナセが真っ白な大理石の小石から赤いルビーやスピネルを探す姿が見られます(Fig.18)。そして、見つけた宝石をオープンマーケットで販売します。

Baw Lone Gyi での採掘作業
Fig.17 Baw Lone Gyi でのカナセたちによる採掘作業
ルビーやスピネルを探すカナセ
Fig.18 ハンマーで慎重に大理石を砕いてルビーやスピネルを探すカナセ
モゴックの宝石マーケット

今回のモゴックツアーでは計5か所のジェムマーケットを訪れました。うち4か所は毎日開催されていますが、午前中のみもしくは午後のみの2~3時間の開催です。
モゴック東部地区のYoke Shin Yoneは、通称“Cinema”と呼ばれる午前中のみ開催のマーケットです。その名の通り古い映画館前の通りに活気にあふれた露店が並んでいます。手作りの背の低い机や木箱、あるいは直接地面に白い布を敷いてその上に真鍮製の皿に盛られた宝石類が並べられています(Fig.19)。そのほとんどは低品質の未研磨石で、カナセたちが持ち寄ったものです。地元の通貨(kyat)で取引されていますが、交渉次第では米ドルの使用も可能です。
同じく東部地区のPan Shanの宝石マーケットは、午後1時~3時に開催されています。モゴック最大規模で、強い日差しを遮るため広げられた300近いパラソルが圧巻です。その様子から通称“umbrella”マーケットと呼ばれています(Fig.20)。

Yoke Shin Yoneのジェムマーケット
Fig.19 Yoke Shin Yoneのジェムマーケット。古い映画館前の広場にあることから通称Cinemaと呼ばれている。
Pan Shanのジェムマーケット
Fig.20 Pan Shanのジェムマーケット。多くのパラソルが広げられていることから通称Umbrellaと呼ばれている。

ここではカナセたちが持ち寄った低品質の未研磨石や原石もありますが、カット・研磨された質の良いルビー、サファイア、スピネル、ペリドット・・・など多くの種類の宝石が見られ、トーチとヘッドルーペを用いて慎重に検品する様子も伺えます(Fig.21)。
このようなジェムマーケットにはミャンマー族の人々に加え多くのネパール人の姿が見られます。彼らは英国統治時代にモゴック鉱山の警備に送られてきたグルカ族の子孫ということです。彼らはヒンディー語を話すため、我々のツアーに参加していたインド人達とは会話が弾み交渉もスムーズに行われているようでした(Fig.22)。

Pan Shanのジェムマーケット
Fig.21 Pan Shanのジェムマーケット。トーチやヘッドルーペを用いて慎重に商品をチェックする女性のディーラー。
Pan Shanのジェムマーケット
Fig.22 ジェムマーケットにはグルカ族の子孫であるネパール人の方々が多い。

モゴック北部Bamard-myoのマーケットは5日に一度の周期で開催されています。ここは宝石類というより野菜、干物、衣類、花など日用雑貨が豊富に取り揃えられており、モゴックの人々の生活に密着したマーケットです。
メインの通り沿いでは店舗を構えていますが(Fig.23)、脇に入ると多くは路上にシートを敷き品物を並べています。売り手の多くは女性で小さな子供たちを連れている光景もあちこちに見られます(Fig.24)◆

Bamardmyoのマーケット
FIg.23 Bamardmyoのマーケットは5日に一度開催され、宝石だけでなく、生活必需品が売買されている。
Bamardmyoのマーケット
Fig.24 Bamardmyoのマーケットでは子連れの売り子も多く見られる。

【参考文献】
文献1.Huges R W. (2014) Ruby & Sapphire a collector’s guide. Gem and Jewelry Institute of Thailand,383pp

文献2.外務省ホームページ ミャンマー基礎データhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/area/myanmar/

文献3.Shor R., Weldon R. (2009) Ruby and sapphire production: A quarter century of change. Gems & Gemology,     Vol.45, No.4, pp.236-259

文献4.Keller P.C. (1983) The rubies of Burma: A review of the Mogok Stone Tract. Gems & Gemology, Vol.19,
No.4, pp.209-219

文献5.Lucas A., Pardieu V. (2014) Mogok expedition series, part1~part3
http://www.gia.edu/gia-news-research-expedition-to-the-valley-of-rubies-part-1-3

文献6.Kane R E., Kammerling R C. (1992) Status of ruby and sapphire mining in the Mogok Stone Tract.
Gems & Gemology, Vol.28, No.3, pp.152-174

文献7.Smith C P., Beesley C R., Darenius E Q., Mayerson W M. (2008) Inside Rubies. RAPAPORT magazine, Vol.31,     No.47, pp.140-149

文献8.Kan-Nyunt H P., Karampelas Stefanos., Link K., Thu K., Kiefert L., Hardy P. (2013) Blue sapphires from the     Baw Mar mine in Mogok. Gems & Gemology, Vol.49, No.4, pp.223-232

GIT2014参加報告

2015年12月No.25

リサーチルーム 江森健太郎

2014年12月8日~9日の2日間、GIT2014 The 4th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)がタイのチェンマイで行われました。また、前3日~7日までの5日間Pre-Conference Excursion(会議前の原産地視察)としてミャンマーのモーゴックの鉱山視察、後10日~12日の3日間Post-Conference Excursion(会議後の原産地視察)としてタイのPhrae(フィラエ)の鉱山視察が行われました。本会議には当研究所から5名が参加し、3名が口頭発表を行いました。以下に概要をご報告致します。

GIT2014とは・・・

International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)はGIT(The Gem and Jewelry Institute of Thailand)が主催する国際的に有数の宝飾関連学会の一つです。第1回目は2006年、第2回目は2009年、第3回目は2012年、そして今回は2014年12月に第4回目としてGIT2014が開催されました。
GITはLMHC(ラボマニュアル調整委員会)にも属する国際的に著名な宝石検査機関であり、CGLと科学技術に関する基本合意を締結し、密接な技術交流を行っています。本学会はGITが主催していますが、タイの商務省等が後援しており国を挙げての国際会議といえます。本会議運営のため15ヵ国31名の国際技術委員会が結成され、CGLの堀川もその一役を担いました。

本会議

本会議はチェンマイ市内のHoliday Inn Chiang Maiが会場となり、世界25ヵ国から250名を超える参加者が集いました。
6件の基調講演の他、一般講演は

「Innovative Identification and Characterization – Manufacturing and Cutting Edge Technology
(革新的な鑑別及び特徴 ― 製造と最先端の技術)」
「Gem and Precious Metal Deposits, Exploration and Mining(宝石、貴金属の産地、探査および採掘)」
「Treatment and Synthetic: Update and Disclosure(処理と合成:アップデートと開示)」
「Miscellaneous(その他)」
「Closing Highlights(閉会前のハイライト)」

の5つのセッションで構成されており、2つの会場に分かれて同時進行しました。
口頭発表は34件、ポスター発表は38件のエントリーがありました。

当研究所からは技術顧問の赤松が「Miscellaneous」のセッションで
「About Bead Nucleus Used for Pearl Culturing(真珠養殖に使用されるビード核について)」、

北脇が
「Innovative Identification and Characterization – Manufacturing and Cutting Edge Technology」のセッションで
「Peculiar Natural Type II Diamonds Showing Pseudo-Synthetic Characteristics(偽合成の特徴を示す特異な天然II型ダイヤモンド)」、

江森が同セッションで
「Geographic Origin Determination of Ruby and Blue Sapphire: an Application of LA-ICP-MS(ルビー、ブルーサファイアの原産地鑑別:LA-ICP-MS分析の応用)」

という題でそれぞれ口頭発表を行いました。
また堀川は「Treatment and Synthetic: Update and Disclosure」のセッションで座長を務めました。

Holiday Inn Chiang Mai
本会議のメイン会場となったHoliday Inn Chiang Mai
ポスター発表
会場に張り出された38件のポスター発表。口頭発表の合間には熱心な研究者が著者に質問を投げかける
「Treatment and Synthetic: Update and Disclosure(処理と合成:アップデートと開示)」セッションで座長を務める堀川所員
「Treatment and Synthetic: Update and Disclosure (処理と合成:アップデートと開示)」セッションで座長を務める堀川所員

GIT2014-Post Excursion報告

GIT2014 Conferenceの翌日より三日間(12/10~12/12)の日程でPost Excursionが行われ、CGLより堀川と江森が参加しました。

1.Thai Elephant Conservation Center (TECC)

12月10日、GIT2014の開催地であるChiang Mai をバスで出発し、初めの目的地である Thai Elephant Conservation Center (TECC)に訪れました。全世界から象使いの資格を取るための養成に来ている人たちを使い、政府によって経営されている象の保護施設であり、象の病院も併設されています。ここでは、象乗り体験、ショー等が行われています。今回のGIT2014のロゴマークは象が描いたものです。ショーで実際に象が絵を描くところを観ることができました。

象が描いたGIT2014のロゴマーク
象が描いたGIT2014のロゴマーク
象が絵を描いているところ
象が絵を描いているところ
2.Baan Wong Buri (Wong Buri Old House)

次にBaan Wong Buriに向かいました。ここは、かつてPhraeを統治していた王族の邸宅で、現在は博物館として公開されています。Phraeはチーク材の売買で財を築いた街で、現在も街のいたるところに、チーク材を利用した家が残っています。その中で一番有名なものがBann Wong Buriだということです。館内は20世紀初頭の写真や手紙、アンティークコレクションが並んでおり、当時を偲ばせる記念物として親しまれています。

Baan Wong Buriの外観
Baan Wong Buriの外観
Baan Wong Buriの中の様子
Baan Wong Buriの中の様子。アンティークコレクションが並んでいる
3.Wat Phra that Cho Hae (The Royal Temple)

12月10日最後の目的地は、Wat Phra that Cho Haeです。Wat Phra that Cho Haeは仏舎利を祭る仏教寺院で、寅年生まれの人が巡礼すべき仏塔とされており、900年以上の歴史があるといわれている仏像やSiwichai僧の遺骨が納めらています。

寺院の外観
寺院の外観
寺院
寺院
4.Phrae地区のサファイア鉱区

12月11日、タイのPhrae地区のサファイア鉱区へ向かいました。バンコクから北におよそ500kmにPhrae地区のサファイア鉱区があります。この地は1920年代に発見されていましたが、実際に採掘されるようになったのは1970年代に入ってからです。この地のサファイアは濃色のブルーで小粒のものが多いとされています。

○Mon Hin Lae Pee

柱状節理の玄武岩の露頭に、スピネルを発見することができました。柱状節理とは、岩体に発達した規則性のある柱状の割れ目で両側にずれがないもののことを言い、マグマの冷却面と垂直に発達します。

柱状節理の露頭の様子
柱状節理の露頭の様子
スピネル
スピネル
○Gems by waterfall

Mon Hin Lae Peeから6.5kmほど離れた場所に滝があります。この滝には3つの玄武岩層が露出しており、最下層に雨季に降った雨水で削られ、流された宝石が運ばれてきます。川の下にたまった砂利から宝石を探します。

岩を削る滝
岩を削る滝と
川
○Huai Mae Kanung

Huai Mae Kanungは、その名前が20年程前にサファイアを産出することで知られることになりました。現在はその土地の人々が雨季の最後にパニングを行い、宝石を探しています。

Blue Sapphire River
Huai Mae Kanungの様子。Blue Sapphire Riverの看板があるように、半ば観光地化している
パンニング
川をせき止め、水をためた池でパニングを行う現地の人々
5.Sukhothai Gold Jewelry Shop

タイにおいてゴールドジュエリーの生産はスコータイ王朝時代(1238−1448)からアユタヤ王朝時代(1351−1767)まで続いた伝統的な生産物で、その当時は厳格な規制がしかれていたため、王族や貴族しか身に着けることができませんでした。ラタナコーシン朝の中期より、ヨーロッパや中国から商人が来て、タイで商売をはじめると同時に、外国の金細工職人もタイにワークショップを設立して定住するようになり、より自由にゴールドジュエリーが広く身に着けられるようになりました。スコータイには現在もゴールドジュエリーを加工、生産、販売するショップが数多く存在し、今回のエクスカーションでは、スコータイにある販売店舗と生産工場が一体となっているゴールドジュエリーショップを2箇所見学しました。

ゴールドジュエリーの販売風景
ゴールドジュエリーの販売風景
加工工場
加工工場
6.Si Satchanalai Historical Park

Post Conferenceで最後に訪れたのは「Si Satchanalai Historical Park」です。この歴史公園はSi SatchanalaiとChaliangの遺跡群です。Si Satchanalaiとは「City of good people(善良な民の街)」という意味で、1250年代にスコータイ王朝第2の都市として建造され、13世紀と14世紀には皇太子の住居がありました。

Si Satchanalai Historical Park
Si Satchanalai Historical Park
Si Satchanalai Historical Park
Si Satchanalai Historical Park
おわりに

GIT2014の本会議とPost Excursionに参加、CGLリサーチルームの日ごろの研究成果を発表し、世界各国のジェモロジスト達と意見交換・交流を深めることができ、有意義な時間を過ごすことができました。宝石の研究は一国の一研究室だけで深められるものではなく、世界中の鑑別機関や研究機関で研究するジェモロジスト達との情報交換、意見交換が必要不可欠です。CGLリサーチルームは今後もこのような国際的な学会に出席し、積極的な交流を図っていく予定です。◆

宝石鑑別に応用される分析技術とその発展

2015年3月No.25

リサーチルーム 室長 北脇裕士

⑪ダイヤモンドビュー(Diamond View™)

1990年代より高温高圧法による宝飾用合成ダイヤモンドの商業的な生産が始まり、宝飾業界からはその情報開示と明確な天然と合成の識別法の確立が切望されるようになりました。DTC(Diamond Trading Company)ではこれらの声に応えるためにダイヤモンド判別機の製作・販売を開始しました。ダイヤモンドシュア(Diamond Sure™)はダイヤモンドのタイプ判別を簡易的に行う機器で、ダイヤモンドビュー(Diamond View™)は紫外線蛍光を用いた画像診断装置です。さらにDTCは、1999年に出現した新たなHPHT処理の検出のためにダイヤモンドプラス(Diamond Plus™)を世に送り出しました。今日のダイヤモンド鑑別にはこれらの装置もしくはこれらと同等の機能を有する分析機器は無くてはならない必需品と言えます。

◆ダイヤモンドビューの基本原理

天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドでは成長環境の相違により結晶形態が異なります。そして、このことが天然と合成とを識別する重要な手がかりとなります。しかし、宝石ダイヤモンドは既にカット・研磨が施されているため、結晶の外形や表面の観察はほぼ不可能であり、成長履歴を読み取るためには結晶内部に残された不均一性を検知する必要があります。ダイヤモンド内部の不均一性はさまざまな方法を用いて研究されてきましたが、宝石品質のダイヤモンドの鑑別には非破壊で行えるカソードルミネッセンス法や紫外線ルミネッセンス法が有効であることが知られています。
ダイヤモンドに紫外線を照射すると、原子レベルの欠陥や微量な含有元素の影響で蛍光を発します。微視的に研磨面を見た場合、欠陥や微量元素の濃度が成長時や成長後にこうむる環境の変化によってわずかに異なるためさまざまな蛍光像が観察できます。これが紫外線ルミネッセンス法であり、このような蛍光像はダイヤモンドの成長履歴を反映するために、天然と合成では明確な相違がみられ、その判別を行う上で非常に有効な手がかりになります。
ダイヤモンドビューは、この紫外線ルミネッセンス法の一種で、ダイヤモンドの天然と合成を識別することを目的としてDTCにより開発された装置です。ダイヤモンドの研磨面に225nm以下の波長をもつ強い紫外線を照射することによって、表面直下に励起された蛍光像を観察することができます。この蛍光像は、ダイヤモンドの成長構造に対応し、これをオペレーターが結晶学的な解釈を加えて天然・合成の判断を下します。従って、ダイヤモンドビューによる観察には技術者の経験と知識が不可欠となります。

◆ダイヤモンドビューの操作方法

2007年末に市場投入された最新式ダイヤモンドビュー(Fig.1)は第3世代にあたり、1996年に発表された初代のもの(Fig.2)に比べると本体が小型化したと共に、サンプルの設置方法や紫外線の照射方向が改良されています。
ダイヤモンドをルースで観察する時は、キューレットあるいはテーブル面を下にしてホルダーにセッテイングし、ポンプで吸引することで固定します。これにより、テーブル面およびパビリオン側双方の観察が可能となります。また、リングやペンダントもステージに固定することが可能ですが、この場合はテーブル方向だけからの観察となり、得られる情報が少なくなります。マニュアルでは、0.05ct〜10ctが観察可能とされていますが、装置の制約上焦点を合わせきれないほど小さい試料や、ステージに固定しきれないほど大きい製品でない限りは観察が可能です。ステージはつまみによって回転したり、傾きを変えたり、試料の方向を容易に変えてあらゆる方向から観察することができます。最新式のダイヤモンドビューは、このような観察方法を採用することで、初代のものと比べて観察できる試料の大きさや形状の幅が広がり、ステージの可動範囲も増しているため、操作性が大幅に向上していると思われます。また、紫外線のエネルギー強度も初代のものより高くなっており、イメージの質が向上しています。試料室奥にはCCDカメラが装着されており、イメージをパソコンのディスプレイ上に表示して観察します。得られる画像の倍率・画質は一定ですが、細部を観察しやすいようにデジタルズームで拡大することが可能となっています。観察には可視モード、蛍光モード、燐光モードが用意されており、照射する紫外線の強度は制御ソフトウェアを用いて自由に調整することができます。また、燐光を発するダイヤモンドを見落とすことがないように、蛍光モードで蛍光像をキャプチャーした際には、自動的に燐光像も撮影できるようになっています。

最新ダイヤモンドビュー
Fig.1 最新のダイヤモンドビュー:コンパクトになり、操作性も向上している。モニターにはCVD合成ダイヤモンドのイメージが映し出されている。
旧タイプダイヤモンドビュー
Fig.2 初期のダイヤモンドビュー:パソコンのモニターには高温高圧合成ダイヤモンドのイメージが映し出されており、鑑別技術者にはこれあを解釈する結晶学的な知識が必要とされる。

⑫ダイヤモンドビュー(Diamond View™)−2−

天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドでは成長環境の相違により結晶形態が異なります。そして、この形態の相違に着目した鑑別法がDiamond View™による紫外線(UV)ルミネッセンス法です。それではDiamond View™観察の基礎となるダイヤモンドの結晶形態(専門的にはモルフォロジーといいます)について考えてみましょう。

◆ダイヤモンドのモルフォロジー

結晶の形態を決めるのは、結晶の構造と環境条件(外的要因)です。そこで後者を無視して構造だけを反映したモルフォロジーが判れば、これをその結晶の基準モルフォロジーと考えることができます。
ダイヤモンドの結晶構造から導き出された基本の形は平滑な{111}で囲まれた正八面体となります(Fig.3−A)。(結晶学では八面体の面を{111}、六面体の面を{100}、十二面体の面を{110}と表記します。これをミラー指数といいます)

ダイヤモンドの形態
Fig.3 ダイヤモンドに見られる形態
A:{111}で囲まれた八面体(天然ダイヤンドに一般的)
B:{100}で囲まれた六面体
C:{111}と{100}がよく発達した六・八面体の外形(高圧合成に一般的)

しかし、実際の天然結晶は正八面体であることは少なく、たいていはマグマ中での融解により丸みを帯びています。また、まれに{111}と{100}が共存したミックスド・ハビット・グロースと呼ばれるものが存在します。この際、{100}は平滑な面ではなく曲面であるためキューブ(六面体)ではなく、キューボイドと呼ばれています。
一方、金属溶媒中で成長する高温高圧法合成ダイヤモンドでは{111}と{100}が共によく発達した六・八面体の外形(Fig.3−C)をとるのが一般的で、他に{110}などを伴うこともあります。高温高圧法合成ダイヤモンドは溶媒の種類や成長温度によっても形態が変化することも知られています。比較的低温では{100}が優勢に、逆に高温では{111}が優勢になります。
また、CVD法合成ダイヤモンドでは水素ガス中での成長となり、表面自由エネルギーの計算からも{100}が最も形態的に安定な面となることが知られています。

◆ダイヤモンドビューによる天然ダイヤモンドの観察例

Ⅰ型の無色の天然ダイヤモンドには、四角形の年輪のような成長縞が観察されます。これはピラミッド(八面体の上半分)を真上から見ると四角形に見えるのと同じで、ダイヤモンドが八面体を維持して成長してきたことを示しています。
また、ほとんどのダイヤモンドにおいてN3センタによる青白色の発光色が確認できます。N3センタは窒素が地質学的な時間を経て凝集したカラーセンタです。余程でない限り(高圧下で長時間加熱処理するなど)、人工的には作り出せないため天然特徴となります。ちなみにN3のNはNitrogen(窒素)ではなく、Natural(天然)の頭文字です。このようにDiamond View™では直接発光色が観察できるというメリットもあり、天然・合成の判断に有効です。
さらに、このようなダイヤモンドのルミネッセンス像は個体ごとに異なり、個体識別にも応用が可能です。天然ダイヤモンドは地球の深部で育まれ、地表で産出するまでに自然界の多くの環境変化をこうむるため、その成長履歴は決して一様ではありません。そのため、まったく同じルミネッセンス像を示すダイヤモンドは二つと存在しません。しかし、Fig.4に示すようにひとつの結晶からカット研磨された二つのダイヤモンドなら貝合わせのようにこの断面のルミネッセンス像が一致します。

Fig.4 ツインダイヤモンドの模式図。ひとつの原石からカット研磨された2つのダイヤモンドは相似形のルミネッセンス像を示す
Fig.4 ツインダイヤモンドⓇの模式図。ひとつの原石からカット研磨された2つのダイヤモンドは相似形のルミネッセンス像を示す。

Fig.5で示す二つのダイヤモンドは相似形のルミネッセンス像を示しており、同一の原石からカットされたと考えられます。このような組み合わせをまったく無作為のダイヤモンドから見つけることは困難ですが、あらかじめひと組とされているダイヤモンドの双子の真偽を確認するには有効です。
CGLではこのように同じ原石から得られた二つのダイヤモンドを双子のダイヤモンドという意味を込めてツインダイヤモンド®と呼んでおり、ツインダイヤモンド®レポートサービスを行っております。

05ツインA

Fig.5 ツインダイヤモンドの例。
Fig.5 ツインダイヤモンドⓇの例(上・下)。2つのダイヤモンドのDiamond View™によるUVルミネッセンス像は相似形をしており、ひとつの原石からカットされたことが判ります。

⑬ダイヤモンドプラス(Diamond Plus™)

我々鑑別機関における日常のダイヤモンド鑑別において最も重要な項目のひとつに天然ダイヤモンドに施されたHPHT処理の看破があります。HPHTはHigh-Pressure High-Temperatureの略語で、合成ダイヤモンドを製造する大型の高圧発生装置を用いた高温高圧下での熱処理のことです。ダイヤモンドを高温で熱処理する際にグラファイト(石墨)化を防ぐために高圧が必要というわけです。
窒素含有量のほとんどないⅡ型の天然褐色ダイヤモンドをHPHT処理すると無色にすることができます。これは米国のGE社が開発した手法で1999年に公表されました。以降、複数の製造者がこのHPHT処理を適用して種々のカラーを生み出しています。最近ではHPHT処理に放射線照射やその後の熱処理を組み合わせたマルチプロセスによる新たな処理色も出現しており、ダイヤモンド鑑別を非常に困難なものにしています。
さて、Ⅱ型の褐色ダイヤモンドが無色化できる事実が知られるようになると、すべてのⅡ型無色ダイヤモンドに潜在的なHPHT処理の可能性が考慮され、検査の対象となります。現在、HPHT処理の看破には各種の励起波長を用いたフォトルミネッセンス(PL)分析が有効であることが判っており、先端的な鑑別ラボでは日常の業務にPL分析を導入しています。

◆ダイヤモンドプラスとは

Diamond Plus™はDTCにより開発され、2009年から市販されているHPHT処理を粗選別するためのコンパクトな装置です。鑑別ラボが使用しているフォトルミネッセンス分析装置は大型でコストもかかり、得られた結果の解釈にダイヤモンドの格子欠陥に関する深い知識が要求されます。そのため宝飾用ダイヤモンドが取引されているあらゆる場面において設置可能な器具としてDiamond Plus™が設計されました。
検査対象は無色の天然Ⅱ型ダイヤモンドのルースです。サイズは0.05ct〜10ctまでが測定可能です。事前にDiamond Sure™やFTIRなどでⅡ型であることを確認しておく必要があります。この装置では15秒以内の測定時間で“PASS”あるいは“REFER”などと結果が表示されます。

Diamond Plus
DTC社製 Diamond Plus™
◆ダイヤモンドプラスの原理と使用方法

Diamond Plus™は液体窒素を試料室に注ぎ、サンプルホルダーに取り付けたダイヤモンドを本体にセット、測定ボタンを押すだけで測定がはじまるという非常にシンプルな分析機器です。Diamond Plus™は液体窒素温度でのフォトルミネッセンス分析を行っています。詳細は公表されていませんが、ある特定波長の発光センタの強度と半値幅を測定していると思われます。

ダイヤモンドプラスの使用方法
ダイヤモンドプラスの使用方法
◆測定結果の解釈

Diamond Plus™で測定した結果には5種類の表示が用意されています。
PASS と表示されたものはHPHT処理が施されていないダイヤモンドと判断できます。従って、これ以上の検査の必要はありません。
REFER と表示されたものはHPHT処理された天然ダイヤモンドである可能性があるため、鑑別ラボで使用する、より高度なPL分析を行う必要があります。また、合成ダイヤモンドの可能性もあり、他の検査において確認する必要があります。
REFER ( IRRADIATED? ) と表示されたものは照射処理された可能性があります。地色が緑味を帯びていないかどうかのチェックが必要です。
REFER ( CVD SYNTHETIC? ) と表示されたものはCVDダイヤモンドの特徴である737nmの発光ピークを検出した際に表示されます。
NO DIAMOND DETECTED と表示されたものはダイヤモンドのラマンピークが検出されなかった際に表示されます。ダイヤモンドではないものや、セッティング状態が悪い可能性があります。◆