CGL通信 vol20 「インド視察報告」

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CGL通信 vol20 「インド視察報告」

リサーチルーム 北脇 裕士

2014年3月19日(水)~4月2日(水)にインドのスーラトにおけるダイヤモンド研磨、タンザニアにおけるタンザナイト鉱山およびケニアにおけるツァボライト鉱山を視察する機会を得ました。このうち、今回はインドの視察概要をご報告致します。

スーラトのダイヤモンド研磨工場が多く集まる地域
スーラトのダイヤモンド研磨工場が多く集まる地域
急速に発展するスーラト 建築中の道路や建物が多く、砂塵が舞う
急速に発展するスーラト 建築中の道路や建物が多く、砂塵が舞う
インドのスーラトにおけるダイヤモンド研磨

スーラト(Surat)は、インド北西部にあるグジャラート州南部の港湾都市です。同州の名称は6世紀に北方から南下し、この地に勢力を張ったグジュラ族に由来します。グジャラート州は、インド西方への玄関口かつ首都デリー方面への交通路の起点という位置から遠距離交易の重要な拠点として発展してきました。スーラトは、グジュラート州で州都アーメダバードに次ぐ第二の都市ですが、インドで最も発展している都市として数えられています。
『日経ビジネス』2011によると、「伸びゆく世界の都市ベスト100」で上位一桁にランクインしています。スーラトの人口は450万人程ですが、そのうちおよそ50万人はダイヤモンドの研磨・加工に携わっていると推定されています。スーラトにはダイヤモンドの加工場が大小合わせると7500以上もあり、世界のダイヤモンドの9割が加工されているとも言われています。
3月20日、スーラトの空港に降り立つと、空と地上の境界線付近が茶色く霞んでおり、大陸特有の砂塵かと思われましたが、車で市内の中心地に着くとどうやら大気の汚れによるものと気づかされます。無尽蔵の車、バイク、建設途中のビルや道路。急速な発展途上にあり、将来的なポテンシャルを秘めた都市であることが判ります。
今回は知人の紹介でスーラトに拠点を置く中堅のダイヤモンド加工場を2軒視察することができました。中堅といってもひとつは800人規模の会社でビルごとすべてがダイヤモンドの加工に関わっていました。最大規模では5000人におよぶ研磨工場もあるそうです。

ダイヤモンド原石の包有物の位置をギャラクシーで検査
ダイヤモンド原石の包有物の位置をギャラクシーで検査

原石はイスラエル製のハイテク機器「ギャラクシー」で測定され、一個の石からどれだけ歩留まりよくダイヤモンドが切り出せるか、さらにイメージングソフトを駆使して計算されます。そして、設計図に従ってレーザー加工や職人による手作業により磨き上げられていきます。圧倒的な設備とクオリティの追求を目前にして、スーラトにおけるダイヤモンド産業の躍動する息吹を感じ取ることができました。

訪問した研磨工場の受付
訪問した研磨工場の受付
原石の歩留まりを考慮し、パソコンソフトを駆使してカット形状の設計がなされる。
原石の歩留まりを考慮し、パソコンソフトを駆使してカット形状の設計がなされる。
コンピュータ制御されたレーザーソーイング
コンピュータ制御されたレーザーソーイング
研磨工程の多くは職人の手作業による
研磨工程の多くは職人の手作業による
スーラトとCVD合成ダイヤモンド

2012年5月、ベルギーの大手鑑別機関からGemesis社製と思われる非開示のCVD合成ダイヤモンドを600個検査したとの報告があり、ダイヤモンド業界を賑わせました。それ以降、インドや中国の検査機関からも相次いでCVD合成ダイヤモンドに関する報告がなされており、小紙においても1ct以上のCVD合成ダイヤモンドについて報じています(CGL通信NO.12)。そして、これらのCVD合成ダイヤモンドはインドのスーラトで研磨され、天然ダイヤモンドのパーセルに混入されて米国、中国そして日本などに輸出されていると複数のメディアが報じています。インドの日刊英字新聞で英字新聞としては世界最多の発行部数を誇るTHE TIMES OF INDIAにも昨年以降、数回にわたってスーラトにおけるCVD合成ダイヤモンドの記事が掲載されています。昨年10月には「パーセルから合成ダイヤモンドが見つかる」 今年1月には「合成ダイヤモンドがスーラトの名を汚す」のタイトルで報じられています。他にも信頼できる情報筋からDTCのあるサイトホルダーがGemesis社と繋がりがあり、そのサイトホルダーから購入したロットの中にCVD合成ダイヤモンドが天然ダイヤモンドに混ぜられていたとのニュースも流されました。このような背景にはインド経済とメレダイヤモンドの価格変動が関連するとの見解もあります。インドの通貨ルピーの米ドルに対する価値が2012年以降急落しています。以前は1ドルに対して40ルピー台でしたが、2012年には50ルピー、現在は60ルピーを超えています。また、品質の高いメレダイヤモンドは中国での需要の高まりなどが影響して2011年~2013年に価格が高騰したようです。このような状況下、スーラトの研磨業界では数万人単位の失業者を生み出したようで、少しでも利益を確保するための手段としてやむなくCVD合成の混入が行われたのではないかと見られています。
しかし、スーラトの研磨工場でCVD合成ダイヤモンドの話題に触れると、彼らはCVDがsynthetic(合成)であることは知っているが、我々は扱っていないと口を揃えて答えます。CVD合成ダイヤモンドがあれば入手したいといっても、モアッサナイト(彼らはモイザナイトと発音します)やCZ(キュービックジルコニア)なら手に入ると話題をそらせます。良く聞くと、スーラトのある研磨工場ではモアッサナイトやCZのメレ石が天然ダイヤモンドに混入されているとのことでした。この類似石混入の話題についても複数の関係者から確認できましたので、CVD合成ダイヤモンドとともに今後注意する必要がありそうです。(タンザニア・ケニア報告につづく)