CGL通信 vol18 「『高圧合成ダイヤモンド-私が出会った様々な結晶-』第1回」

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CGL通信 vol18 「『高圧合成ダイヤモンド-私が出会った様々な結晶-』第1回」

公益財団法人 つくば科学万博記念財団 参事/理学博士 神田 久生

昨年末、砂川一郎先生がご逝去された。先生には多くの方がお世話になったと思うが、私もたいへんお世話になった。先生からはさまざまなことを教えてもらったが、そのなかで、私の頭から離れないのが「小さな石にも、歴史と個性がある」という言葉である。この言葉は、先生が東北大学を退官されるときまとめられた冊子のタイトルであるが、私のダイヤモンドに対する関心をまさに的確に表現していたので、この言葉を見たとき大きなよりどころを得たと感じ、とても嬉しかった。私は約30年、ダイヤモンドの研究を行ってきたが、それはダイヤモンドを合成し、その特徴を調べることであった。条件をいろいろ変えてダイヤモンドを合成すると、そのダイヤモンドは一つ一つ形や色などが異なっている。同じ条件で作ったつもりでもダイヤモンドは必ずしも同じではない。本当に個々の結晶が個性をもっていた。まさに「小さな石にも、歴史と個性がある」わけである。私は、研究のなかで、その個性を観察し、個性が現れる仕組みを理解しようとしてきた。個性はさまざまであり、その仕組みは理解できたと思えるものもあれば、不思議で仕方がないものもある。本稿では、私の研究の中で出会ったダイヤモンドの面白い個性を紹介しようと思う。

ダイヤモンド研究を始めた経緯

私は1 9 7 0 年に科学技術庁無機材質研究所という設立されて間もない研究所に就職し、炭素を研究するグループに配属された。そのグループは1974年にダイヤモンドを研究するグループに改組され、私もダイヤモンドを研究することになった。そのとき高圧法でダイヤモンドを合成するチームと気相合成を試みるチームに別れたが、私は前者を選んだ。当時、高圧合成ダイヤモンドは既にゼネラルエレクトリック(GE)社の研究グループにより合成技術は確立されており、一方、気相合成法はまだ海のものとも山のものとも思えない状況であった。高圧合成法のほうが現実的で取っつきやすかったのでそちらを選んだわけである。とはいえ、すぐにダイヤモンドができるわけではなかった。合成のための高圧発生装置が必要であった。さいわい、研究所には高圧研究に軸足をおいたスタッフがいて、ダイヤモンドなどが合成できる新しい高圧装置を開発するチームを立ち上げ、私はその一員となった。 高圧装置は何百トンから何万トンという大きな力を加えるプレスと呼ぶ部分と、その力を集中して何万気圧という圧力を発生する高圧容器からなる。ダイヤモンドを合成するためには約5万気圧に耐えられる容器が必要であるが、それは、購入できるものではなく、設計図もないなかで自作しなければないものであった。その装置の開発は試行錯誤の連続であったが、さいわい、このチームのリーダーの強烈な馬力に引っ張られ、独自の高圧発生装置が開発された。私はあまり苦労をせずにダイヤモンドを合成する機会を得ることができたわけである。本当に運がよかったと思っている。

高圧発生法

もっとも身近な高圧装置は、自転車の空気入れとタイヤかもしれない。空気入れのレバーを押して空気を加圧するとタイヤの圧力が上がる。しかし、発生する圧力は数気圧程度である。人の手では加える力はしれているし、ゴムでできた自転車のタイヤの耐圧強度もわずかである。自動車修理工場で自動車を持ち上げたりするのに油を使ったジャッキを電動ポンプで動かすが、その場合にはもっと高い圧力発生も可能である。しかしながら、このような気体や液体を加圧して高圧発生する方法では1000気圧のオーダーが上限である。それで、ダイヤモンド合成に必要な5万気圧の圧力発生は図1のような原理で行われる。硬い材料を使って、力を小さい面積に集中させる方法である。図1の台形の材料の広い面積にP0の力を加えると、狭い面積のところには面積に反比例したP1という大きい力が発生する。こうしてダイヤモンド合成に必要な数万気圧の圧力に上げることができる。このとき圧力発生の限界は、圧力を集中させるところ(図1では台形のところ)の強度できまる。それは硬いものでないと壊れてしまう。それで、その台形のところの材料の選択が重要であるし、また、その形状も重要である。実際の高圧容器はこのような原理で作られており、その原理をもとにいろいろなデザインの装置が考えられている。私の参加した高圧チームではベルト型と呼ばれるタイプを選択した。これは、GEが作ったタイプであり、その断面模式図は図2のようなものである。

図1高圧発生の原理
図1:高圧発生の原理
台形の底面にPOという圧力をかけると台形の上面にはP1の圧力がかかる。上面の面積が小さいと力が集中し、P1の圧力は大きくなる。
図2ベルト型高圧装置断面の模式図
図2:ベルト型高圧装置断面の模式図
ピストンは台形をしており、ダイは孔の空いた円盤である。この孔の中が高圧空間で、そこにヒーターがおかれその中に試料が詰められる。

ここには上下にペアになったピストンと呼ばれるものがある。この背面の広いところに油圧で力を加えると先端に高い圧力が発生するので、そこに試料をおく。この図にダイと書いたものがあるが、これは、発生した圧力が外に逃げないように試料を横から押さえるためのリング形状をもったものである。このようにピストンとダイで囲まれた空間が高圧になる。ダイヤモンドを作るためには高い温度も必要なので、高圧空間の中にヒーターもセットされる。そのため、そのヒーターの内部が試料空間となって、実際にダイヤモンドが生成する空間は高圧空間の中でも一部になってしまう。我々が使ったベルト型高圧容器は、概略このような形状になるが、現実には多くのパーツから構成され、そのパーツの形状、材質が重要である(図3)。

図3 ベルト型高圧装置に使われる部品
図3:ベルト型高圧装置に使われる部品

ピストンとダイは、力が集中するところなので、力がかかっても変形しにくい硬いものでなければならない。それで、タングステンカーバイド( WC)という物質が使われている。これは、旋盤など切削機械の刃先に使われているとても硬いものである。このピストンとダイは高強度をもつとはいえ繰り返し使うと壊れるので、その寿命が装置のランニングコストの大きなファクターになる。その寿命を延ばすために、ピストンやダイの形状も最適なものにしなければならなかった。 高圧空間の中に入るものには上述のヒーターがあるが、このヒーターは黒鉛でできている。黒鉛は、そこに電気を流せば3000℃以上の温度発生が可能であるし、やわらかいので形状加工が容易であるというメリットがある便利な素材である。ヒーターの中が、ダイヤモンドができる空間であるが、そのほか、ヒーター周辺の高圧空間には使い捨てのさまざまなパーツが詰められる。黒鉛ヒーターに電気を伝える導電材、ヒーターの熱を外に逃がさない断熱材、高圧空間の圧力が外に漏れないようなシール材など。これら消耗品のパーツを準備し、組み立てるのも結構時間がかかる作業である。

図4:700トンプレス
図4:700トンプレス
中央部がベルト型高圧装置。

ピストンやダイのサイズ、ヒーターのサイズで試料のサイズが決まるわけであるが、私が参加したチームではいくつかのサイズの装置を開発した。初めはダイの孔の直径は1センチにも満たない小さなものであった。そのあと、ダイの孔が25ミリ径のものが作られ、私のダイヤモンド合成実験の大半はこの装置を使って行った。それを図4に示す。この装置では黒鉛ヒーターの内径は10ミリで、2~3ミリのダイヤモンド結晶を定常的に作ることができた。80年代になって、さらに大型の装置も開発された。ダイの内径が75ミリのもの、そして100ミリを越えるものも作られた。しかし、後者ではダイヤモンド合成に必要な圧力発生には至らなかった。高圧装置の大型化には、大きな力を加えることができる油圧プレスが必要である。上記、25ミリ径のダイを使った高圧実験用には700トンの力をかけることができる油圧プレスが使われている。75ミリ径の高圧装置用には14000トンの油圧装置が使われた。この装置は1970年に無機材質研究所がつくばに移転したときに設置されたものである。また、80年代には3万トンの油圧プレスも設置された(図5)。これは現在も使われているが、8 0 年代後半からは、1500トンの油圧プレスが数台導入されて、ダイ径30ミリの高圧装置が主力装置として稼動している。実験室スケールではこの程度のサイズが適当と思われる。

図5:3万トンプレス
図5:3万トンプレス

国内外の他の機関で使用しているダイヤモンド合成用の高圧装置について詳細はあまり公表されていないが、上記のようなベルト型もののほかに、バール型と呼ばれるものも使われている。これはロシアを中心に使われており、中国では、キュービック型と呼ばれるものが主流のようである。15~20万気圧というような超高圧の発生には、より複雑な高圧装置が使われている。このような超高圧で、最近注目されている、透明な多結晶ダイヤモンドが作られている。

ダイヤモンド合成法

上記のように、無機材質研究所でダイヤモンドを合成する環境ができ、私はダイヤモンド単結晶合成を担当することになった。研究するからには何か新しいことをせねばならなかったが、すでにGEのグループにより合成技術は確立されていたので、とりあえずGEの成果をお手本にダイヤモンドを実際に作ってみることから始めた。 GEグループは、1955年にダイヤモンド合成成功の論文を発表し、1970年には1カラットの宝石級のダイヤモンドの写真を論文に掲載するなど、50年代から70年代にかけていくつもの論文を発表している。それらの論文から次のような知見が拾い出される。

  • 必要な圧力・温度は、それぞれ約5万気圧、1400℃以上。
  • ダイヤモンドは金属溶媒というものから析出する。
  • その金属溶媒は、鉄、コバルト、ニッケルなど限られた金属である。
  • ダイヤモンドの生成は、金属溶媒に対する炭素の溶解度曲線をもとに考えることができる。
  • 生成するダイヤモンドは1ミリ以下であるが、種結晶から育成するとカラットサイズの大型結晶をつくることができる。
  • 単結晶では天然結晶と違って{100}面が発達する。
  • 通常、窒素を含む黄色のIb型の結晶が得られるが、高温高圧で熱処理するとIa型に変わる。
  • 無色透明なIIa型結晶を作るには窒素ゲッターと呼ばれるチタン( Ti), ジルコニウム(Zr)などを金属溶媒に加える必要がある。
  • ホウ素を加えるとブルーのIIb型が得られる。

ダイヤモンドを合成するにあたって、上記のGEのお手本となる情報のなかで、高圧高温発生の次に重要なのは金属溶媒を用いるという点である。ダイヤモンドの原料となる黒鉛を単独で高温高圧にしても簡単にはダイヤモンドに変換しないが、ある種の金属を黒鉛のそばに入れておけば黒鉛は容易にダイヤモンドに変わる。その金属は鉄やニッケルなどの遷移金属に限るとされている。これらの金属は「金属触媒」と呼ばれたが、炭素の溶媒としてはたらくものと考えられる。G Eの論文でもダイヤモンド結晶が成長する仕組みは、金属への炭素の溶解度という見方で解釈されている。それを図示すると図6のようになる。ダイヤモンドができる高温高圧条件では、金属は融点以上になっており液体である。その液体金属は炭素の溶媒となり、炭素を溶解するが、黒鉛はダイヤモンドよりも溶解度が高い。また、ダイヤモンドの溶解度は温度上昇とともに高くなる。

図6:金属溶媒に対する炭素の溶解度を示す図
図6:金属溶媒に対する炭素の溶解度を示す図
実線はダイヤモンドの溶解度、点線は黒鉛の溶解度を示す。
δC1は温度がT1とT2の間での溶解度差を表し、δC2は黒鉛とダイヤモンドとの間の溶解度差。

この溶解度の図からみて、ダイヤモンド単結晶を作るには大別して二つの方法がある。一つは、黒鉛と金属溶媒を一緒にして高圧高温にすると、黒鉛と金属溶媒が接したところでダイヤモンドの核が自発的にできてそれが成長するというもの。この方法では小さな結晶がたくさんできる。もう一つは、種結晶を入れておき、そこからのみ結晶を成長させるという方法で、大粒結晶をつくることができる。

図7:小粒ダイヤモンド合成のための試料構成
図7:小粒ダイヤモンド合成のための試料構成
1:黒鉛ヒーター、2:原料黒鉛、3:金属触媒、4:圧力媒体、5:生成したダイヤモンド

図7に、小さなダイヤモンド粒を作るための試料構成の例を示す。原料の黒鉛板と金属溶媒が重ねて入れてある。これを高温高圧(1500℃、5万気圧)の条件に置くと数分でダイヤモンドが生成する。図7の模式図のように黒鉛と金属溶媒の境界に生成する。未反応の黒鉛を除去したところの写真を図8に示すが、ぽつぽつと半球状の突起がみられ、ダイヤモンドはこの突起の中に生成しており、金属膜に覆われた形で ある。この金属を塩酸などで溶解除去すれば、図9のようなダイヤモンド粒が回収される。このダイヤモンドは多角形のそろった形をしているが、このような形状の粒を作るには、圧力の精密な制御が必要である。圧力が高すぎるとダイヤモンドはできすぎて、隣の粒とぶつかってしまい、形状は不規則になる。

図8:金属膜に覆われたダイヤモンド粒
図8:金属膜に覆われたダイヤモンド粒
図9:自発核発生で生成したダイヤモンド粒
図9:自発核発生で生成したダイヤモンド粒

大粒の単結晶ダイヤモンドを合成するには図10のような試料構成で行う。金属溶媒の上側に原料の黒鉛を置き、下側に種結晶としてダイヤモンド粒を置く。このような配置においては金属溶媒の上側が下側より温度が高くなるようにすることが必須である。この構成物を高温高圧条件に置くと、金属溶媒が溶けてダイヤモンドの成長が始まる。

図10:大粒ダイヤモンドの合成用試料構成模式図
図10:大粒ダイヤモンドの合成用試料構成模式図
1:黒鉛ヒーター、2:圧力媒体、3:原料黒鉛、4:金属触媒、5:成長したダイヤモンド、6:種結晶

まず、上側の黒鉛がダイヤモンドに変換する。そのダイヤモンドは金属溶媒に溶解し、金属溶媒は炭素で飽和される。ここで飽和した金属溶媒は種結晶のところでは過飽和になる。金属溶媒の下側は温度が低いためである。その過飽和の金属溶媒から種結晶の上にダイヤモンドの成長が始まる。このように金属溶媒の上部と下部で温度差がある限り、上側のダイヤモンドは溶け続け、下側の種結晶は成長を続ける。このようにして成長した試料の写真を図11に示す。これは金属溶媒の底面を見たものである。球状になった金属溶媒の中央に見える小さな結晶は種結晶で、成長したダイヤモンドは金属溶媒の中に埋まっていてここでは見えない。金属溶媒を酸で溶解除去すると図12のような成長したダイヤモンドが得られる。

図11:ダイヤの成長した様子
図11:ダイヤの成長した様子
1:黒鉛ヒーター、2:金属触媒、3:生成したダイヤモンド、4:圧力媒体
図12:種結晶の上に成長したダイヤモンド結晶
図12:種結晶の上に成長したダイヤモンド結晶
矢印が種結晶。

この方法では、時間をかければ結晶はいくらでも大きくできるはずであるが、金属溶媒のサイズが上限となる。つまり、大きな結晶を作るには大きな容器が必要ということになる。図13の2~3ミリの結晶は半日から1日で成長した。私のいた研究室では8 0年代前半にヒーター径が30ミリの大型装置が開発され、その装置を用いて大型結晶の育成を試みたことがある。その結晶の例を図1 4に示す。1センチ近い結晶が得られたが、質はよくない。多結晶状になっていたり、インクルージョンを多量に含み真っ黒に見えるものもある。成長速度の制御が不良だったためだと思われる。そのころ、大型で高品質のダイヤモンドは住友電工やデビアスで作られており、大きいものでは34カラットの結晶も合成されている。また、今では、1 0カラットの結晶は定常的に生産できるようである。

図13:成長したダイヤモンドの結晶の例
図13:成長したダイヤモンドの結晶の例
矢印は種結晶が付着していた跡。
図14:大粒のダイヤモンド結晶
図14:大粒のダイヤモンド結晶

以上、今回は、ダイヤモンドの合成法を中心に述べたが、次回以降、この方法で作られたダイヤモンドの形状や色などの特徴を紹介する。(つづく)