CGL通信 vol09 「CVD合成ダイヤモンドについて-その2」
宝飾用CVD合成ダイヤモンドの登場が近いと2005年3月の「ニューズウイーク」誌で刺激的な内容で取り上げられてから3年以上が経過しました。当社はその特徴と鑑別法を伝え、CVDダイヤモンドが看破不可能という間違った情報に惑わされないよう、正しい理解を深めていただくためにCGL通信の第1号を発行しました。
3年前にCVD合成ダイヤモンドを近く市場に供給すると発表したApollo Diamond社(ボストン、マサチューセッツ州)からの正式な販売開始の発表は業界紙等にもありませんが、Apollo社のホームページを見る限り、製品での販売は既に始まっているようです。GIAでは2月のGIAインサイダーでグレーディングレポート作成のために持ち込まれたニアカラレスの1/3サイズのダイヤモンドがCVD合成ダイヤモンドであり、それが研究目的以外で初めて預かったCVD合成ダイヤモンドであったと報告がありました。また香港のIGIでも1/3サイズのGからIカラー、VVSクラスの石が5石持ち込まれたというニュースがラパポートで発表され、その直後に当社でもグレーディングのためにお預かりした1/4~1/3サイズの2石がCVD合成であることが判明しています。
今回のCGL通信では、再びCVD合成ダイヤモンドを取り上げ、その特徴をお伝えしたいと思います。
CVDの意味は
CVDとはChemical Vapor Depositionの略で、化学的に気体状態から積層させる合成法を意味しており、日本語では化学気相成長法や化学蒸着法と呼ばれます。MPCVDと書かれている場合は、Microwave Plasma Chemical Vapor Depositionの略でマイクロ波プラズマ法と呼ばれています。
Apollo Diamond社の合成ダイヤモンドもMPCVD法を用いて作られています。
写真1 CVD合成ダイヤモンドが作られているところ。プラズマ化したガスは白い雲のように見えている。
CVDダイヤモンドの特徴
外観特徴
写真2 今回当社に持ち込まれた
CVD合成ダイヤモンド
(左 0.29ct、右 0.21ct)
以前、我々が検査し報告させて頂いたCVD合成ダイヤモンドは開発初期のものであったため、深さの浅いファンシーシェープのものでしたが、今回持ち込まれたものは適当な厚みをもったラウンドブリリアントでした。合成ダイヤモンドには通常グレーディングを行いませんが、敢えて合成ダイヤモンドにグレーディングを行ったところ、両方ともカット評価はVery Goodと良好なもので、カラーとクラリティもH、VS1で品質の高い石でした。内包物は黒色結晶だけで、高屈折率の液体に浸すことにより基盤に平行に成長した痕跡である褐色の層状模様もテーブルに平行な方向で観察出来ました。
鑑別
ハンディータイプの長短紫外線下での蛍光反応は2石共にありませんでした。しかし、DTC社製ダイヤモンドビュー(*)の、より強くより短い波長の紫外線下ではそれぞれブルーとグリーンの蛍光を発します。典型的なCVD合成ダイヤモンドはオレンジ色の蛍光を見せますが、CVD合成後高温高圧プロセスを施すことにより、石の地色のブラウン味を薄く出来るだけではなくダイヤモンドビューでの蛍光色もオレンジ色からブルー~グリーン系になることは知られています。更にこの装置で観察すると天然ダイヤモンドや高温高圧合成ダイヤモンドには見られない不規則な成長模様も見ることができます。
写真3 Diamond ViewTM
写真4 ダイヤモンドビューで観察される
テーブルに見られる不規則な成長模様
図1 フォトルミネッセンス分光分析ではCVDの決め手となる736.6/736.9 nm の
ダブレットピーク(Si-V欠陥)を示している。
FT–IR分光分析でこれらの合成ダイヤモンドはIIa型であることを示しました。石を極低温に冷やした状態での514nmレーザーで励起したフォトルミネッセンス分光分析では、CVDの決め手となる736.6/736.9 nmのダブレットのピーク(Si-V欠陥)が検出されました。その他N-Vセンターと呼ばれる欠陥の特徴が575nmと637nmに明瞭に見られました。
今回のようにグレーディングレポート依頼で預かったものからCVD合成ダイヤモンドが発見されたことで日本の市場にも入ってきていることが明らかになりました。AGLに所属する鑑別機関では、グレードの前にダイヤモンドのタイプを分類することが義務付けられておりますが、当社では更に合成や高温高圧プロセスの可能性のあるタイプのダイヤモンドについては、義務づけられた分類の後ダイヤモンドビューやフォトルミネッセンス分光分析を実施し、ダイヤモンドの起源についての検査を行なっています。