CGL通信 vol07 「ピンクのコーティング・ダイヤモンド」

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CGL通信 vol07 「ピンクのコーティング・ダイヤモンド」

はじめに

最近ピンクのコーティング・ダイヤモンドが市場に出回りはじめています。この報告書を用意している間にもGIAから同じものと思われるコーティング処理ダイヤモンドに関する報告がありましたが、今回は当所がこれまでに調査した結果を報告させていただきます。
現在流通しているものはメレサイズ中心で、当所で検査したコーティング・ダイヤモンドの重量は0.03ct~0.17ctの範囲でした。これらの石については、以下に報告する鑑別特徴を持つため鑑別は可能です。しかしながら、メレサイズの場合ルースの状態でもルーペでの識別は難しく、石留めされた場合にはさらに鑑別が困難になります。
コーティング・ダイヤモンドの流通の背景としては、メレサイズの天然ピンク・ダイヤモンドの主な供給源であったアーガイル(Argyle)鉱山からの供給が減少し、価格が上昇していることが一因と考えられます。

コーティング・ダイヤモンドの特徴

写真0
見た目のカラー・クラリティ

カラー
 Fancy Pink ~
  Fancy Intense Pink

クラリティ
 SI-2
 I-1

 *コーティングされたダイヤモンドはグレーディングを行ないません。

1 拡大検査および微分干渉顕微鏡検査

a.フェイスダウンの状態でパビリオン・ファセットを斜光照明法(蛍光管による落射照明)により表面の観察をすると、通常のダイヤモンドには見られない金属光沢感があり、やや緑がかった色調の印象を与えます。

b.コーティングが観察されるのは、パビリオン・ファセットのみです。

c.コーティングが剥れた部分が見られます(写真1)。写真では特に大きく剥れたものを撮影していますが、多くのものは小さくて高倍率に拡大しないと観察できないと思われます(写真2)。

d.コーティング部分が不均一で流れたような模様が見られます。微分干渉顕微鏡で観察するとより明瞭に観察出来ます(写真3、4、5)。

e.スリキズが見られます(写真6)。

f.メレに使用される天然ピンク・ダイヤモンドのほとんどはType I でダイヤモンド内部にピンク色の色帯(塑性変形が起こるすべり面に沿う)が観察されますが、今回鑑別したピンクのコーティング・ダイヤモンドには、それらの色帯は観察されませんでした。

写真1

写真1 剥がれた跡

写真2

写真2 微小な剥がれ


写真3

写真3 流れたような跡

写真4

写真4 同左、微分干渉


写真5

写真5 垂れたような跡

写真6

写真6 スリキズ(微分干渉)


2 蛍光X線元素分析(EDXRF)

クラウン側とパビリオン側の双方で測定を試みました。
クラウン側は、不純物が少ないのに対し、パビリオン側からは、Si(珪素)、Ca(カルシウム)が検出され、その他にAu(金)がわずかに確認されました。

3 LA-ICP-MS(レーザー・アブレーション・ICP・質量分析)

蛍光X線元素分析では、金の存在が検出限界に近かったため、確認のため微量元素の測定に最も適したLA-ICP-MSでの分析も行ない、コーティング層から金の存在が確認されました。

※ なお、LA-ICP-MSは基本的に準破壊検査であり、わずかですがダイヤモンドに損傷を与えることになるため、通常この検査はコーティングのダイヤモンドには行いません。

4 その他の検査

紫外・可視分光および赤外分光(FT-IR)の検査から、今回遭遇したピンクのコーティング・ダイヤモンドは、アーガイル鉱山産の天然ピンク・ダイヤモンドの特徴とは一致しませんでした。

コーティングの耐久性

拡大検査で見られた剥れた跡やスリキズの痕跡は、アルコール等で拭いても取れることはありませんでした。以下に超音波洗浄器、冷却、酸、による耐久性実験の結果をまとめます。

超音波洗浄器 60分間で変化無し
液体窒素 (-196℃) 1分間浸液しても変化無し
塩  酸 1分間浸液で変化無し
10分間浸液で除去されたものがある
硫  酸 12時間浸液放置しても変化無し*
フッ 酸 1分間浸液で除去

*GIAでは、30分硫酸中のボイルで完全に除去されたとの報告がされています。

上記実験結果およびGIAの報告から、当該コーティングは強酸に対し確実な耐久性は無いと考えられます。(なお、耐久性のテストでコーティングが完全に除去された後、カラーグレードしたところFancy Pinkに見えていたものがG~H(ケープスケール)になりました。)
従来のコーティング処理の対象である大きめのサイズとは異なりメレサイズが主流であるため、特にピンク・メレの取り扱いによりいっそうの注意が必要でしょう。

背 景

アーガイル鉱山

西オーストラリア州にあるアーガイル鉱山は工業用やニアジェムと呼ばれる低品質のダイヤモンドが大量に産出される事、他のダイヤモンド鉱床と比較して高い比率でブラウン~ピンクのダイヤモンドが産出される事で知られる。天然ピンク・ダイヤモンドの総供給量の90%を占めていると言われており、脇石等に使用されるメレサイズのピンク・ダイヤモンドはほとんど当鉱山からのものでまかなわれている。

☆2006年第一四半期は前年同期比で40パーセント減
アーガイル・ダイヤモンドの2006年第一四半期の産出量は大きく減少し、前年同期比で40%減の520万キャラット。

☆オープンピットでの採掘終了間近
アーガイル鉱山は現在の露天掘りによる採掘では2008年にはダイヤモンドが枯渇するという事が既に知られており、今回の産出量の減少は織り込み済み。

☆地下採掘へ
アーガイル鉱山では、およそ850億円を投じて地下採掘に移行。地下採掘により2018年まで採掘が可能とのこと。

※ アーガイル鉱山を所有するのは、リオ・ティント(Rio Tinto)社で、同社は世界でも最大級の多国籍鉱業資源グループを形成する。カナダのノースウェスト準州にあるダイアヴィク(Diavik)・ダイヤモンド鉱山も所有・管理している。