cgl のすべての投稿

小売店様向け宝石の知識「光り輝く宝石の島・スリランカ1」

光り輝く宝石の島・スリランカ1

スリランカはルビー・サファイアなど高級宝石の日本への供給国である。

世界のカラーストーン採掘地の生産統計を出すことはできないが、主要産地の相対的重要度はだいたい推定できる。世界で最も重要なカラーストーン産地は、スリランカ(セイロン島)、ミャンマー(ビルマ)のモーゴク地方、ブラジル及びマダガスカル島である。

スリランカでは、ほとんどの宝石が沖積鉱床から産出する。宝石の一次鉱床は発見されていない。当地では過去に宝石が相当量採掘されたので、鉱床が消耗して宝石がいずれ枯渇しないかと噂が流れたりする。しかし現状そんなことはなく採掘量に問題はないようだ。

スリランカで産出する宝石は、ルビー、サファイア、最高級クリソベリル(キャッツ・アイ、アレキサンドライトを含む)、トパーズ、トルマリン、ペリドット、ムーンストーン、ガーネット、ジルコンなど多くの宝石を産出する。

スリランカは、1948年2月4日イギリス連邦セイロン自治領として独立。1972年に共和国としてイギリス連邦から独立を果たした。その際に、「スリランカ」と改名した。

スリランカとは、スリ=光り輝く、ランカ=島という現地語で、住民が昔からも呼称していた。まさにスリランカ=光り輝く島=宝石の島と云える。

スリランカの世界遺産の一つに世界的に有名なシギリヤ・ロックがある。宝石を勉強した人、宝石に興味のある人には必見の名所である。このシギリア・ロックこそスリランカが世界に名だたる宝石の島として歴史的存在感をアピールしている名跡である。しかも世界で唯一宝石モチーフの壁画の世界遺産だ。

シギリヤ・ロックの壁面には王宮の美女が描かれている。その美女たちが皆そろって赤、青、黄緑の色とりどりの宝石を身に着けて美しく描かれている。その岩山はジャングルの中に突如として姿をあらわす。1875年イギリス統治下にあったとき、この岩山を望遠鏡で眺めていたイギリス人が目を奪うような鮮やかな色彩で描かれた宝石を身に着けた美女像群を見つけた。美女たちの妖艶な姿と神秘的な表情、美しい宝石が光り輝いて描かれている。“シギリヤ・レディ”、スリランカを代表する芸術として、また宝石を主題とした芸術として、今日世界に広く知れ渡っている壁画だ。1400年の歳月を経て眠りからさめた18人の美女たちは、多くの感動を人々に与えずにはおかない。宝石人必見の世界遺産だ。この遺跡には狂った王カッサパの物語が隠されている。埋没していたシギリヤ・ロックの宮殿が発見されたのはカッサパ王が死んで約1400年後イギリス植民地時代に入った19世紀後半のことである。シギリヤへは古都キャンディから直行バスが出ている。

ベルワラとニゴンボは南西海岸に位置する港町。ここは中世にアラブ商人が宝石を求めて来航した町として有名だ。とくにベルワラは、西暦800年頃スリランカに宝石や香辛料を求めてやってきたアラブ商人たちが開いた港。ラトナプラから運んだ宝石をここから広く世界に伝えた。当時のベルワラの賑わいはたいしたもので、宝石だけでなく、「シンドバットの冒険」の話など、この港町を始まりとして世界に知れ渡った。

マルコポーロは13世紀に中国からの「海のシルクロード」の帰途、このベルワラからスリランカに上陸した。彼の東方見聞録には、ベルワラの町で卵大の大きさの美しい青い石や目の覚めるような赤い宝石、貴緑色の輝石がたくさん見られたと記録されている。

この港町に面するスリランカ南西海岸は黄金海岸とも呼ばれる。インド大陸とセイロン島の海峡である。インド洋の透明で紺碧な海に色彩の強い太陽の光の見事なコントラストを見せる。この黄金海岸では美しい天然真珠が産出することで知られている。

アラブ商人たちは大航海時代にラトナプラ産宝石をベルワラの港から世界へ運んだ。しかし航空機時代に入った今日、ラトナプラ産の宝石はもうここから海を渡ることもなくなった。ベルワラの海岸入り江の突端には白いモスクが残存しているが、往時の宝石取引の賑わいもなく、静かに昔の栄華をしのばせている。宝石産地ラトナプラはベルワラの西方50kmに位置する。往年の昔ラトナプラ産宝石の取引は、近隣の港町ベルワラが中心だった。現在はスリランカ最大の国際都市コロンボが宝石取引の中心となっている。

「楽しいジュエリーセールス」 著者:早川 武俊
早川宝石研究所ホームページ

平成21年宝石学会(日本)「ダイヤモンドの分別に有用な機材の開発について」

技術管理部 江森 健太郎

中央宝石研究所では、無色のダイヤモンドの中からHPHT処理が行われた可能性のあるダイヤモンド、合成ダイヤモンドを粗選別する新しい機材「Diamond-Kensa」(写真1)を開発しました。

写真1:Diamond-Kensa

写真1:Diamond-Kensa

この機材「Diamond-Kensa」はHPHT処理※の対象となるII型、準II型、IaB型の無色ダイヤモンドと無色合成ダイヤモンドの可能性のあるII型の石を選び出すことが可能です。

※HPHT処理については中央宝石研究所ホームページにあるCGL通信のバックナンバー(Vol.02)に詳しい記載がありますので参考にしてください。

1. Diamondの粗選別とその重要性

無色のダイヤモンドをグレーディングする前に、そのダイヤモンドが「天然」であることを確認し、「処理」、「合成」、「類似石」を分けることが重要です。 類似石であればダイヤモンドとの重さの違いなどで、また含浸処理やレーザードリル処理は拡大検査などで疑いを掛けることが可能ですが、「HPHT処理」と「合成」の鑑別に関してはダイヤモンドのタイプによる分類が有効で、どのタイプに入るかによってHPHT処理や無色の合成ダイヤモンドの疑いを掛けることが出来ます。

このタイプ判別を正確に行う一番の方法は、フーリエ変換型赤外分光装置(FT-IR)を用いることです。 FT-IRを用いると、タイプ判別、窒素濃度の見積もりを比較的簡単に行うことができます。 しかし、FT-IRという機材は非常に高額なため、この機材で一石一石分析していると故障した際にグレーディングのルーチンに大きな支障をきたしてしまいます。ここで、FT-IRの測定の前に、簡単な機材で処理の可能性がある石、合成の可能性がある石を選別し、そこで選別された石を改めてFT-IRで分析する方法が有効かつ便利です。

冒頭でご紹介したDiamond-Kensaは、FT-IRでタイプ判別をする前段階の簡易的な選別に利用する機材として開発したものです。

2. Diamond-Kensaの原理

図1:各タイプのダイヤモンドの分光パターン

図1:各タイプのダイヤモンドの分光パターン

HPHT処理の対象となるII型、準II型、IaB型、そして無色合成ダイヤモンドのII型といったタイプのダイヤモンドは、250nm付近の紫外線を通す性質を持っています。一方、無色でHPHT処理も合成も疑わしくないI型のダイヤモンドは250nmの付近の紫外線を通しません(図1参照)。


図2:Diamond-Kensaの基本原理

図2:Diamond-Kensaの基本原理

この原理を利用して、254nmの波長の紫外線をダイヤモンドに照射し、その紫外線がダイヤモンドを抜けることが出来たかをチェックすることで、Diamond-KensaはHPHT処理が疑わしい、ないしは、合成の可能性のある無色のダイヤモンドを分別します(図2)。254nmの波長を用いる理由は、波長254nmの紫外線ランプが殺菌灯として幅広く出回っており、比較的安価に入手できるからです。

3. Diamond-Kensaの製作

図3:Diamond-Kensa試料セッティング部のブロック図

図3:Diamond-Kensa試料セッティング部の
ブロック図

Diamond-Kensaは、試料セッティング部と演算部の2つのパーツにわかれています。試料セッティング部のブロック図を図3に示します。

試料セッティング部は、紫外線ランプとインバーター、そして紫外線センサーより成ります。紫外線センサーは、試料を透過する紫外線を調べるセンサーと、ランプの明るさを常時チェックするセンサーの2つが取り付けてあります。II型等の紫外線を透過するタイプのダイヤモンドは、紫外線を透過する性質があると書きましたが、透過するといっても、ほんのわずかな透過です。つまり、この装置は紫外線ランプが一定以上の輝度を保っているかどうかが、重要なポイントになります。ランプの輝度を測定するセンサーを取りつけることで、ランプの状態を常時チェックしていることになります。

写真2は試料セッティング部の内部写真です。 試料セッティング部の下に紫外線センサーが2個、そして紫外線強度を高めるためにランプが2本取り付けてあります。

写真2:試料セッティング部の写真(左:サンプルを乗せる部分、中央:紫外線センサー、右:紫外線ランプ)

写真2:試料セッティング部の写真
(左 : サンプルを乗せる部分、中央 : 紫外線センサー、右 : 紫外線ランプ)

図4:演算部のブロック図

図4:演算部のブロック図

演算部のブロック図を図4に示します。センサーから送られてきた信号をアンプで増幅した後、そのデータをA-Dコンバーターで10ビットのデジタル信号に変換し、マイコンで演算します。演算した結果は3色のLEDでOK(HPHT処理、合成の可能性はない)、NG(HPHT処理、合成の可能性がある)、ERROR(ランプの調子が悪い)の3つの結果を表示し、結果に応じて音をならします。 測定された結果はRS232Cを用いてパソコンに転送します。


写真3:演算部の回路写真

写真3:演算部の回路写真

写真3は演算部の回路写真です。音を鳴らしたりパソコンと通信する都合上、少々煩雑になっていますが、実際はアンプとマイコンの2つがあればある程度のものは作ることが出来ます。 測定結果を電圧計で判断したい場合は、センサーからの信号をアンプで増幅し、電圧計で測定することでそれが可能になります。

4. Diamond-Kensaの実用性の検証

[1]HRD D-Screenとの比較

HRDのD-Screenとの比較をしました。HRDのD-ScreenはDiamond-Kensaと同じく無色のダイヤモンドでII型のものを選別するための機材です。
石目範囲0.161~5.018ct、色範囲 DからLカラーまでの2510個のダイヤモンドをD-ScreenとDiamond-Kensaの両方でデータを取り比較しました。D-Screenで2496個OK判定、14個NG判定と出たものが、Diamond-Kensaでは2495個OK判定、15個NG判定が出ました。
D-ScreenでNG、すなわち処理や合成の可能性があるという結果が出たものは、すべてこの機材でもNG判定が出ましたが、1個だけD-ScreenでOKのものがDiamond-KensaではNGになっています。FT-IRおよびフォトルミネッセンス検査の結果、この石はIaA型の窒素が少ないタイプのもので、天然と判断しました。
この機材はFT-IRで精密に判断する手間を少なくするためのものですので、ここでNG判定の石が1つ多く出ましたが実際の効率化には影響がないと言えるでしょう。

[2]電圧値の評価

表1:石の諸条件と信号強度

表1:石の諸条件と信号強度

紫外線センサーは、ダイヤモンドを透過した紫外線の量に応じた電圧値を発生させます。アンプで増幅した電圧値の信号強度と『石目』および『カラーグレード』の関係について調べました。
A-Dコンバーターで変換される前の信号強度は、表1で示したとおり、石目に関しては重量が軽いほど信号は強く返ってきます。またカラーグレードに関しては、グレードの高いもの、すなわちDカラーの信号が一番強い傾向にあり、Mカラーだと信号は少し落ちて返ってきます。実際に10ctの石までテストをしていますが、Dカラーのものが十分な信号を返すことを確認しています。

[3]導入による作業効率

中央宝石研究所にソーティングで入った26425個のラウンドブリリアントカット・D~Mカラーのダイヤモンドをこの機材で測定したところ、98.7%の26071個にOK判定、1.3%の354個にNG判定が出ました。354個のNG判定のダイヤモンドについてFT-IRを用いて精密にタイプ判別をしたところ、このうちHPHT処理で色改善を行えるタイプであり、より高度な検査を要するダイヤモンドは0.2%の60個でした。この機械を導入せず、26425個全てをFT-IRにより検査しチェックすると相当な手間がかかりますし、人間の目だけで判定した場合、ミスの出る可能性がないとはいえません。この機材を用いてNG判定の出た354個の石をFT-IRでタイプ判別したほうが速度的にも早く、効率化が望めます。

5. Diamond-Kensaの適用範囲

今回開発した機材は、試料のセッティング部の形状や、その他信号強度の問題から、
・ 重量範囲 0.100ct ~ 3.000 ct
・ 色範囲 D ~ Mカラー
・ 石条件 ダイヤモンド (類似石には対応していません)
が、測定安全保障圏内です。

まとめ

今回行ったDiamond-Kensaの性能検査の結果から、FT-IRでタイプ判別を行う前段階の簡易的な選別に効果があり、日常のグレーディングのルーチンにこの機材を組み込むことによって大幅な効率化を得ることが可能であると証明されました。

小売店様向け宝石の知識「宝石大国・インド5」

宝石大国・インド5

インドは何世紀もの間、世界唯一のダイヤモンド主要産地であった。ダイヤモンドは、インドで遅くとも3000年前には発見されていた。しかし詳細な記録は長い間存在しなかった。

17世紀に入り、フランスの宝石家であり旅行家タベルニエ・Tabernir,Jean Baptiste(1606-89)は前後6回にわたりインドに旅行し、インドのダイヤモンド産地ゴルコンダを訪れ、ダイヤモンドについて記録を残した。ゴルコンダの町は、古代ダイヤモンドの中心地で、インドが統一される前の独立国家の核でもあった。現代の都市ハイデラバードの西にゴルコンダの要塞が今も残っている。インドの独立国家ハイデラバードは第二次大戦後インドに併合されたが、その前任者ニザムは世界でもっとも裕福なマハラジャであり大富豪として有名だ。その宝物のなかにはゴルコンダのダイヤモンドが大量に含まれていて、ニザム・オブ・ハイデラバードもここにあるといわれる。

現存する世界の有名な大ダイヤモンド(インド産、南ア産)の多くは英国、仏国、米国、露国の博物館や美術館に所有保管されている。

インド産有名ダイヤモンドとして代表的なものは次ぎの通り。

☆ コイヌール(Koh-i-noor)
108.93ct(現在は105.60ct)。別名「光りの山」。
現在、英国ロンドン塔に英国王室の宝石として保管され主要財宝の一つとなっている。

☆ オルロフ(Orlov)
189.60ct。皇帝の王笏(王が最高権力の象徴として戴冠式などで使う。セプター・Scepterとも言う)の頭部にセットされている。モスクワのクレムリン宮殿に展示されている。

☆ リージェント(Reagent)
原石410ct、研磨後140.5ct。ルイ15世の王冠にセットされ、マリーアントアネットが黒色ベルベット帽に着用したともいわれる。ルーブル博物館のアポロンの間に展示されている。

☆ ホープ(Hope)
45.50ct。濃いブルーの美しい色合いのカラー・ダイヤモンド。数奇な運命を経て、現在はワシントン、スミソニアン自然史博物館のジェム・ホールの中央に展示されている。

☆その他のインド産有名な大ダイヤモンド
 グレート ムガール  280.00ct
 ゴルコンダ ドール   95.4ct
 ニザム        277.00ct
 シャー        88.7ct
 グレート テーブル  250.00ct
 ジャハンギル     83.0ct
 ダリャイ ヌール   186.00ct
 アクバル シャー    71.7ct
 フロレンティン     137.27ct
 アイドルズ アイ    70.0ct
 タージ マハル    115.00ct
 サンシー       53.5ct
 ヘイスティングス    101.00ct
 インドール ペア     44.62ct と 44.18ct

閑話休題;昨今の宝飾業界ニュースで元気のある話題。
【1】無料ダイヤ! 銀座に列。佛の老舗5000人に配布。加工費はいただきます……東京・銀座に、ある朝長蛇の列が出現した。銀座5丁目に宝飾店をかまえるフランスの老舗ジュエリーブランドが、この日先着5000人限定で0.1カラットのダイヤモンドの無料配布をはじめたのだ。不況のあおりで低迷が続くジュエリー業界。大胆な企画に同業者の間から驚きや歓迎の声が出た。午前9時の無料配布開始直前には、老若男女約1500人が並び、その後も人が増えつづけ、列はどんどん延びて、警官が出るほどの盛況ぶり。配布したダイヤモンドは、1個5000円相当といい、総額2500万円分。ただし、加工するにはリングで5万円、ペンダントで7万円など、それぞれ料金が必要だ。
【2】銀座のデパートが本真珠の無料つかみ取りセ-ルで集客アップ。
【3】中国からのニュースで高級宝飾品の売上げが好調保つ、明るい話題だ。中国国家統計局は、消費小売売上高の伸びは今年に入って全体で前年比15%アップ。品目別に伸び率をみると、宝飾類(28.7%)自動車類(23.8%)など高額商品が全般に好調と報じている。暗い話題の多いジュエリーの世界を明るくするニュース。ダイヤモンドは現代の人々に、依然として人気があり根強い潜在需要が存在している。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊

ワールドニュース(2009.09)

日ごとに秋の気配が濃くなってまいりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
今回は、イスラエルのダイヤモンドマーケットの現状を掲載させていただきます。

イスラエル テルアビブ編

●総面積: 20,770 km2
●人口: 7,170,000人
●人口密度: 1km2当たり388人
●首都: テルアビブ
●政治形態: イスラエルは議会制民主主義を採用している。
行政府(政府)は、立法府(クネセト)の信任を受け、司法府(裁判所)は法により完全なる独立を保証されている。
●行政区分: 北部地区、ハイファ地区、中央地区、テルアビブ地区、エルサレム地区、南部地区、ヨルダン川西岸地区(軍事管理地域)
●言語: 現代イスラエルの公用語のひとつであるヘブライ語は、古代ヘブライ語を元に20世紀になって復元されたものである。一度滅んだ言語が復元されて公用語にまでなったのは、これが唯一のケースである。
都市ではほとんど英語が通じる。
●宗教: ユダヤ人が約80%(半数以上がイスラエル生まれ、他は70余ヶ国からの移住者)、アラブ人が約18%(キリスト教徒・イスラム教徒、前者には正教・マロン派・東方諸教会、後者にはベドウィンなどが含まれる)、残りの約2%がドルーズ族、チェルケス人、サマリア人、バハーイー教徒、アラウィー派、その他の少数派である。
●建国記念日: 西暦では5月14日
(イスラエル国として独立宣言。ベングリオンが初代首相となる)
●国歌: ハティクヴァ(希望)
●国旗: 白地の真ん中にブルーのダビデスターその上下に二本のブルーライン
●イスラエルの国家紋章:
  メノラーと呼ばれる古代から使われてきた七枝の燭台を中心に置き、まわりにオリーブの枝を配した形になっている。メノラーの様式はモリアという名で知られる野の草に由来するといわれ、オリーブの枝はユダヤ民族の平和への願いを象徴している

私が初めてイスラエルに訪れたのは今から20年ほど前になりますが、当時日本ではバブル経済が崩壊し、ダイヤモンド価格が乱高下していたと記憶しています。その頃イスラエルの大手サイトホルダーに勤務していた私は、イスラエル人と共に日本支店を立ち上げました。イスラエル訪問時にイスラエル本社の社長に、なぜイスラエルがダイヤモンド市場を台頭してきたのかと聞いたことがあります。

ラマットガンにあるダイヤモンドビル(シムションビル)

ラマットガンにあるダイヤモンドビル
(シムションビル)

新しくなったイスラエルの玄関、ベン・グリオン国際空港

新しくなったイスラエルの玄関、
ベン・グリオン国際空港

第二次世界大戦中ナチスの占領下を逃れ、イスラエルへ移住してきたベルギー(アントワープ)やオランダのユダヤ人達が、イスラエルにてはじめたダイヤモンドビジネスの振興のために、政府が積極的に支援策を用意したことが大きい理由なのだと聞きました。具体的には、政府がダイヤモンド買付けのために対ドルの特別な為替レートを設定して、市中銀行に膨大な資金を超低金利で貸し付け、ダイヤモンド業者の原石の買付けを容易にして供給量を増やしました。またダイヤモンド産業振興のため、企業には政府が特別優遇税制を打ち出しました。それくらいイスラエル政府にとっては、国を挙げての育成産業だったのです。しかし近年では、コンピューター産業や繊維産業がダイヤモンド産業に取って代わりつつあります。当時の研磨済み対日輸出額は、全体輸出額の20%近くの割合を占めていましたが、現在では研磨済み対日輸出額はたった2%弱に過ぎません。ですがこのままでは終わらないのがイスラエル人で、イスラエル経済の柱であるイスラエル・ダイヤモンド産業は世界的な経済崩壊に対処する独自の方法を始めました。普通であればマーケティング活動を凍結し広告費を引きあげるところですが、イスラエル・ダイヤモンド産業界は大きな費用をかけて顧客向けの活動を開始し、従来のものに加え新たな販促ツールも試みています。イスラエル・ダイヤモンド協会(IDI)のエリ・アヴィダール代表取締役は「我々は経済危機を問題とは見なさず、チャンスであると見ている」と述べています。「このような経済情勢下で成功するための鍵はマーケティング、経営、そして開発の面で、前向きでしかも時によっては型破りな戦略をとることだ」と同氏は述べ、それは「誰も考えなかったことをすることだ」と言っています。アヴィダール代表取締役は彼のチームを率いて“トゥギャザー・ワークス(共同作業)”と銘打った10ステージからなるB2B(企業向け)の戦略マーケティング計画を創立し、これを2009年一杯実行する予定だそうです。



アイスブルーダイヤモンド企画・開発プロデューサーが本当にお客様にあった商品企画をご提案するために設立したダイヤモンド専門会社
株式会社IBCTOKYO 担当:木村 e-mail: sales@ibctokyo.com
東京都千代田区麹町 TEL : 03-3556-1481 FAX : 03-3556-1482 
www.ibctokyo.com

国際会議報告・第2回国際宝石宝飾コンフェレンス(GIT2008)

Gemmy148号からのつづき)

先進的な宝石鑑別:将来への展望
Advanced gemstone testing: an outlook into the future
発表者:Michael Krzemnicki 氏

近年の宝石鑑別は、より地球科学や生物学に関連した分野に入って来ており、物理的性質・化学組成だけでなく、分子構造・表面(トポグラフ、形態学)・同位元素・遺伝情報などについてのより高度な分析を必要とすることもある。このような高度な分析法が広まれば、次に迅速な宝石鑑別のためにより小さくて使い易い装置に多くの努力をそそがれるようになる。
本講演では現在使用中の、あるいは将来的に革新的な手段になる技術と小型化した高度な分析機器が紹介された。たとえばCCD分光器とLED光源を用いた靴箱より小さいサイズの携帯用紫外-可視分光光度計。LIBSはベリリウムなどの軽元素を測定する装置であるが、LAMPS(laser assisted microwave plasma spectroscopy)あるいはLIAF(laser induced atomic fluorescence)と併せることによりサブppbまでの検出を可能にすること。大型のLA-ICP-MSに代わる小さな質量分析装置として火星探査ロボットにも使用されているLA-TOF-MS(laser ablation time-of-flight mass spectrometry)。そのTOF-MSは既にタバコ箱のサイズまでに小型化されており、宝石の分析のための携帯用質量分析計としての可能性があることが発表された。

種類の異なる養殖真珠
The different kinds of cultured pearls
発表者:Henry H穫ni 氏

海水産および淡水産二枚貝の様々な真珠の生成について紹介された。
養殖真珠には、有核と無核のものがあり、外套膜組織で成長したものと生殖巣内で成長したものがある。更に真珠を生成する貝が淡水か海水産かという違いが存在する。淡水では、Cristaria plicataかHyriopsis cumingiiなどの二枚貝が主に使用され、海水ではPinctada martensii、Pinctada maximaとPinctada margaritiferaが主に使用される。一般に、海水産養殖真珠は生殖腺内で成長させられるが、淡水では外套膜成長の養殖真珠を生産する。
一般的に生殖腺内で成長させる真珠は有核で、外套膜で成長させる真珠が無核である。真珠核が生殖腺で拒絶される可能性もあるので、この一般ルールが壊れることもある。その結果、しばしば「ケシ真珠」という海水産養殖無核真珠が生まれる。また、あらかじめ外套膜にパールサックを形成させ、その後に真珠核を入れて真珠を育てることも可能。海水産貝にパールサックを形成させるために真珠核と移植組織片を共に入れ、短期間で最初の真珠を取り出す。そして、同じパールサックに再び真珠核が入れられる。この方法で、より大きい養殖真珠がセカンドオペレーションされる。
淡水養殖真珠は殆んどが無核であるが、上記と同じような方法が外套膜を用いて行われることもある。コイン型の養殖真珠を採取した後は貝殻もパールサックも球体の真珠核を収容出来る位十分に成長しているため、外套膜養殖真珠を真珠核を用いて作ることが出来る。

伝説のオウムガイ真珠
The legendary nautilus pearls
発表者:Kenneth Scarratt 氏

およそ1世紀もの間、噂はあるが実質的な情報は殆んど無いオウムガイ産真珠についての発表で、2006年9月に、フィリピン水域で漁師によって捕らえられたArgonauta hians(しばしばPaper Nautilusと呼ばれる)から発見された「オウムガイ真珠」のマイクロX線写真、紫外-可視-近赤外分光、表層構造、およびラマン分光を含めて宝石学的特性の詳細の報告であった。

ジェット、未だ流行の黒い宝石素材、CISGEM研究所からのデータ
Jet, a black gem material still in fashion, some data from CISGEM laboratory
発表者:Pornsawat Wathanakul 氏がMargherita Superchi 氏の代弁

装飾目的に使用される黒色の有機宝石であるジェットは光沢などの良い特性のため人気があるが、特性は異なるが似たような外観を持つ他の有機材料がある: 天然(亜炭、瀝青炭、無煙炭)と人工(例、エボナイトおよびベークライト)。これらの材料の違いを、CISGEM研究所がFT-IRやEDXを用いて測定した結果から発表された。
FT-IRとEDXRFを組み合わせた方法で、亜炭、瀝青炭、そして無煙炭のような「石炭」からジェット(亜炭の変種)を区別するのは可能であった。ポーランドとポルトガル産のジェットは化学的に変則的なため当てはまらないが、それ以外の産地のジェットには、通常低レベルのFe、VとZrが存在し、Alに関してはほとんど非検出である。また、ジェットからのエボナイトやベークライトのような人工の有機黒色材料を区別するにもこれらの方法は有効であった。

宝石鑑別機材としてのリアルタイムX線検査装置
Real time microradiography as a gemological tool
発表者:Nick Sturman 氏

エックス線撮影は、近年真珠の鑑別では主となる手段となり、それは鉱物学でX線回折を目的に使用をして以来、宝石学でもエックス線が導入されている。伝統的なフィルムを用いたエックス線検査装置が世界の多くの宝石ラボではこれまで標準であったが、真珠鑑別の手段として同時エックス線検査装置(RTX)への移行が必要になって来ている。
RTXは伝統的なエックス線検査装置と異なり、エックス線で検査している間もオペレーターが操作しサンプルを動かすことができ、ライブ画像で必要なレントゲン写真を探して取ることが出来るため柔軟性と迅速性を提供する。このプレゼンテーションはGIAがタイ、ニューヨークとカールズバッドに最近導入したRTXシステムについての内容であった。因みに中央宝石研究所は15年前よりRTXシステムを導入している。

ボー・プロイ(Bo Phloi)宝石フィールドの探索

ボー・プロイ(Bo Phloi)宝石フィールドの探索

ボー・プロイ(Bo Phloi)
宝石フィールドの探索

ボー・プロイ宝石フィールドはボー・プロイ町の近郊にあり、カンチャナブリから北約30 km、バンコックから170Kmに位置します。タイのコランダム鉱床は国の上側半分に広く分布した後期新生代に噴火した玄武岩と関連しています。ボー・プロイ宝石フィールドはタイ西部で最も大きいサファイア鉱床です。この辺りで宝石品質コランダムの源であると信じられている新生代の玄武岩は、ボー・プロイ町とボー・プロイ町の北6kmのバン・チョン・ダンにおいてだけ露出しています。
カンチャナブリ産サファイアは、強い色帯を伴いニアカラーレスから濃い青色と様々な色合いで、熱処理されたスリランカのブルーサファイアに匹敵するような青色を呈しているものも稀にあります。イエローサファイアも産出しますが量は少なく、コランダム全産出量の2%を超えていません。それらは無色に近い薄い黄色から中程度の黄色を呈しています。サファイア原石の平均したサイズはおよそ1cm。石の結晶形は卓状の六角柱で、石の多くには針状ルチルとフィンガープリントやフェザー状の第二次液体内包物を含んでいます。

SAP Mining Co., Ltd.のサファイア原石回収プラント

SAP Mining Co., Ltd.の
サファイア原石回収プラント

SAP Mining Co., Ltd.のサファイア鉱山

SAP Mining Co., Ltd.の
サファイア鉱山


平成21年宝石学会(日本)のご報告

平成21年度の宝石学会(日本)講演会・総会が6月6・7の両日に、東京大学キャンパス内で開催されました。
発表のありました特別講演ならびに一般講演の内容について、講演要旨プログラムより誌面の関係から抜粋して以下にご紹介致します(○:発表者)。
なお、当中央宝石研究所からは、間中所員・江森所員によりそれぞれ研究成果の発表がありました。発表内容については本誌上で順次掲載の予定です。

一般講演 1
真珠のテリと結晶層との相関に関する研究

真珠科学研究所

  ○

田中 宏樹

 

 

矢崎 純子

 

 

小松  博

一般講演 2
前処理工程で発生した“加工キズ”の研究

真珠科学研究所

  ○

山本  亮

 

 

矢崎 純子

 

 

小松  博


一般講演 3
放射線処理ブルー系真珠への「蛍光法」による鑑別の試み

真珠科学研究所

  ○

佐藤 友恵

 

 

矢崎 純子

 

 

小松  博

一般講演 4
真珠と貝殻を加熱することによる色調の変化についての考察

東京宝石科学アカデミー

  ○

渥美 郁男

真珠科学研究所

 

矢崎 純子

一般講演 5
黒色オパールマトリックスについての考察

東京宝石科学アカデミー

  ○

岩松 利香

 

 

大池  茜

 

 

ウィジェセカラ チャンダナ

一般講演 6
ミャンマー Nam-Ya地方のルビー産出の現状およびその他の産出宝石

(株)モリス

  ○

森 孝仁

ジャパンジュエリービジネススクール

 

奥田 薫

特別講演
シーボルトが持ち帰った日本産鉱物コレクション

講演中の田賀井氏

講演中の田賀井氏

東大総合研究博物館  ○田賀井 篤平

日本への近代的自然科学の導入で活躍したシーボルトの鉱物の採集活動には彼の助手や日本人の弟子が貢献したこと、標本からうかがえる彼の鉱物観についてお話し下さいました。


一般講演 7
スピネルの加熱処理について

(株)彩

  ○

中島 彩乃

日独宝石研究所

 

古屋 正貴

一般講演 8
最近遭遇した合成石の群晶について

聖徳大学 川並記念図書館

  ○

林  政彦

早稲田大学 創造理工学部

 

山崎 淳司

一般講演 9
最近遭遇するいわゆるレアストーンの鑑別について

発表中の間中所員

発表中の間中所員

中央宝石研究所

  ○

間中 裕二

 

 

尾方 朋子


一般講演 10
最近のラボ・トピックス

全国宝石学協会

  ○

小林 泰介

 

 

阿依 アヒマディ

一般講演 11
チベットおよび内モンゴル産アンデシンの研究

全国宝石学協会  ○阿依 アヒマディ

一般講演 12
多面体間の晶相変化:理論的研究

京都大学大学院 理学研究科   ○北村 雅夫

一般講演 13
宝石リビアンガラスの組成、組織とその形成

山口大学 理工学研究科  ○三浦 保範

一般講演 14
ダイヤモンドの分別に有用な機材の開発について

発表中の江森所員

発表中の江森所員

中央宝石研究所  ○江森 健太郎


一般講演 15
Sarin社製ダイヤモンド・カラーグレーディング装置「ColibriTM」の実用性

全国宝石学協会

  ○

川野  潤

 

 

西京 邦浩

一般講演 16
黒色不透明石の鑑別

全国宝石学協会

  ○

岡野  誠

 

 

北脇 裕士

特別講演
分光学的な手法からみた天然ダイヤモンドの性質

講演中の鍵氏

講演中の鍵氏

東大大学院 理学系研究科附属 地殻化学実験施設
  ○鍵  裕之

2007年に日本でダイヤモンドが発見された時のエピソード、ならびに天然ダイヤモンドが生成する深さの起源の研究についてお話しして下さいました。



東大赤門

東大赤門

東大安田講堂

東大安田講堂

一日目の講演終了後、東京大学生協第2食堂にて懇親会が開催されました。講演会において色石鑑別上注目されるべきレアストーン宝石の紹介や、昨今宝飾品市場でしばしば話題にあがる宝石の実体、まだまだ解明すべき余地のある宝石に施される処理の再考など話題が多岐にわたったため、懇親会でも引き続きそれらの話題について話をしたり、久しぶりに顔を合わせた方々が各々の近況を報告し合うなど、思い思いの時間を過ごされていました。

二日目の講演会終了後には、特別講演をされました東大大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設の鍵先生の研究室を見せていただきました。また、東大生ガイドによる東京大学キャンパスツアーも開催され、ツアー参加者は2時間ほどにわたって歴史的重要文化財である赤門(正式名称:旧加賀屋敷御守殿門)をはじめ、夏目漱石の小説によって多くの人に親しまれている三四郎池や、1960年代後半に激化する学園紛争の中、機動隊まで出動したことで知られる安田講堂などを見学しました。歴史的背景だけでなく、東大生ガイドの方々による現東大生の学生生活の様子も聞きながらキャンパスツアーを楽しみました。


小売店様向け宝石の知識「宝石大国・インド4」

宝石大国・インド4

御徒町・神戸・甲府では多くのインド人宝石商が活躍している。インド宝石商にはジェイン、メタ、カラ、ラジグル、ベイド、パドニィさんという名前の人が多い。彼等の多くはジャイナ教という宗教信仰者たちである。神戸には立派なジャイナ教寺院がある。
JR御徒町近くのビルの一室にはジャイナ教の小寺院もあって朝夕に信者が訪れる。

筆者は今から丁度50年前、1958年に初めてインドに長期出張滞在し全インド各地を訪れた。当時インドは英国から独立して間もなかった。インド政府は殖産興業を目指し、国民に就業機会を与えるための手段としてウォッチ生産工場の設立を計画した。
ここに日本の優秀高度な時計生産技術の援助を求めてきたのだ。

当時スイスは時計生産技術の国外移転を禁止していた事情があった。現在インドには国産時計「HMT」ブランドが製造販売され人気を博している(HMT工場所在地:バンガロール=ITセンターで世界的に有名)。これは日本の技術援助でできたウォッチである。
当時、筆者は長期にわたり全インド各地を訪れ時計市場調査を行った。そこで気づいたのは時計・宝石・貴金属商にジャイナ教信者が多いことであった。

デリーにはJayna Time Co.というジャイナ教信者経営のクロック工場がある。ジャイプールには、Jain Jewellery Factoryがあり、ムンバイ(旧ボンベイ)のダイヤモンド商人にもジャイナ教信者が多い。
ジャイナ教は、インド固有の宗教で、戒律は厳しく、「うそを禁じ、信用第一」を重んじている、彼等とビジネスを一旦始めると信用取引は間違いがないといわれるほどである。
インドの国勢調査によると、ジャイナ教の信者は420万人でインド全人口の0.4%。しかし、ジャイナ教の団体によると、インド個人所得税の2割は信者が納めているという。

ジャイナ教の教えは、「うそをついてはいけないから約束は徹底して守る」。それが信用と成功につながっている。また「ジャイナ信徒は死後に、生前の善い行いと悪い行いが会計簿の債権と債務のように計算され来世が決まる」。だから「生前の行いは正しくあれ」という。ジュエリー・ビジネスは商品・金銭の貸借があり多額になるので信用がなければ取引は成り立たない。だから信用の厚いジャイナ教信者は圧倒的な存在感がある。 

インド商人を印僑というが、ビジネス界でジャイナ教信仰者が多く国内外で活躍している。彼等はジェインと名がつけば、過去に一度も顔を会わせていない相手でも、名前を聞いただけでそれほど苦労しなくても取引に応じてくれるほどである。
インド商人は、総じて語学力が強い。英語はもちろん日本にいるインド人は日本語が驚くほど上手だ。また計算が速い。数学思考の原点であり、コンピュータサイエンスの基礎概念である零「ゼロ」という数を発見したのはインド人だ。日本の九九は「9×9=81」までなのに対し、インドの子供は義務教育の段階で「19×19=361」まで暗記させられるというからすごい。ジャイナ教信者の人たちは完全なヴェジタリアン〔菜食主義者〕で食生活はもちろん日常生活の戒律も厳しい。

筆者のビジネスのスタートはインドからでウォッチ・ビジネスが最初である。過去50年にわたり海外取引に関与した。インドにはダイヤモンド買い付けにボンベイに数十回にわたり出かけ、ジュエリーの買い付けにジャイプールにも度々赴き、ジャイナ教信徒の宝石商と折衝した。時計・宝石・貴金属では世界的にユダヤ商人が多い。香港や中国では宝石華僑と付き合うなど多くの国々のジュエラーと付き合った。このジュエリー・ビジネスは、商品の中でも高額であり価値がある専門品なので取引の根底には世界中どこでも信用第一である。

インド人の中でも限られたジャイナ教信者に宝飾品実業家が多いのもうなずける。またジャイナ教徒は社会貢献に熱心で、病院などを多く手がけることでも知られる、「所有のこころを持つなかれ」との教えがそうさせるのだそうだ。「ひとり裸で生まれ、ひとり裸で死んでいく」事業の成功もすべてうたかたのもの。この達観がここ一番の冷静な判断とさらなる成功を呼ぶのかもしれない。インド宝石商にはジャイナ教信者が多く、彼等との付き合いを通して人生学ぶことが多い。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊

国際会議報告・第2回国際宝石宝飾コンフェレンス(GIT2008)

タイのAlongkorn Ponlaboot商務副大臣による開会の挨拶

タイのAlongkorn Ponlaboot商務副大臣による
開会の挨拶

第2回国際宝石宝飾コンフェレンス(GIT2008)が3月9から12日までの4日間、タイで開催されました。このコンフェレンスは、バンコックのGem and Jewelry Institute of Thailand(GIT)によって2006年から隔年開催の予定でスタートした宝石に関する国際的な学術会議ですが、2度目の開催となる筈だった昨年12月はタイ反政府派デモによる影響で首都バンコクに「非常事態宣言」が発令されたために延期を余儀なくされ、“GIT2008”は今年2009年3月に年を越して開催されました。

映画『戦場にかける橋』で有名なクウェー川の鉄橋

映画『戦場にかける橋』で有名な
クウェー川の鉄橋

昨年完成したばかりのBangkok Convention Centreで講演会は開かれ、初日と2日目は5本の基調講演と86本の一般講演が鑑別及び新技術関係、起源及び産地関係のテーマ毎に会場を二つに分けて同時進行で進められました。2日間のバンコクでの技術的なセッション後は、ポストコンファレンスで何十年もの間サファイアを供給し続けているカンチャナブリの鉱山に向かい、ボー・プロイ(Bo Phloi)宝石フィールドのサファイア産出する玄武岩露頭を散策し、現地の小規模宝飾工場も見学しました。またその道すがら宝飾品の工房、クメール遺跡(Phrasat Mueang Sighn Historical Park)で古代遺跡を見学、および第二次世界大戦の歴史(秦緬鉄道博物館と連合軍共同墓地)にも触れる小旅行でした。

以下に講演内容の幾つかをご紹介します。

HPHT処理タイプIIaダイヤモンドのフォトルミネッセンス
Photoluminescence of the HPHT processed natural type IIa Diamonds
発表者:Hyun Min Choi 氏

ナチュラルカラーのダイヤモンド(カラーグレードD~J)とHPHT処理を受けたダイヤモンド(カラーグレードF~L)のフォトルミネセンス分光分析は、全てのタイプllaサンプルから少量の窒素を検知し、結晶格子中に分散している多くの点欠陥の存在を明らかにするのにも非常に効果的であった。フォトルミネセンス測定は、液体ヘリウム温度で514.5nmと488nm励起のアルゴンイオンレーザーを用いて行われた。天然のタイプllaダイヤモンドにおいて503.1nmピークの半値全幅(FWMH)は0.09~0.36 nm、HPHT処理をうけているタイプllaダイヤモンドでは0.35~0.86nmであり、637nmピークのFWHMは、ナチュラルカラーのタイプlla で0.03~0.48nm、HPHT処理タイプlla で0.40~1.77nmであった。タイプllaダイヤモンドの色が処理されているかどうかは、ピークのFWHM分布と(NV)/(NV)0比率によって評価ができ、503.4nm(3H)と741nm(GR1)のピークに関しては今回のHPHT処理のサンプルには見られなかった。
これらのフォトルミネセンスデータから、HPHT処理をうけているタイプllaダイヤモンドを天然のものと分けるためのヒントとしてH3と(NV)-の半値全幅(FWMH)が使えると結論された。

処理レッド ラブラドーライト-アンデシンの調査
A study on treated red labradorite-andesine feldspars
発表者:Claudio Milisenda 氏

最近拡散処理か否かで物議を醸し出している赤色のアンデシン/ラブラドーライトについての発表。発表者は処理前後の斜長石サンプルをタイと中国の処理業者からそれぞれ入手し、断面の観察を行った。
タイで処理された処理期間3ヶ月のサンプルには色の拡散されたような痕跡は見つけられなかったが、処理期間1ヶ月と2ヶ月のサンプルからは赤色リムと無色に近いコアを発見しており、色が表面から拡散したことを示唆していた。蛍光X線とSEM分析では処理石の中の銅含有の増加も確認された。さらに、銅物質が幾つかの処理された原石表面上に見付かっており、銅の豊富な薬品が熱処理の間に使用されたと示唆される。
中国で行われた処理に関してどんな情報も与ることは出来なかった。未処理の原石と比べると、処理石はより高い銅の含有を示した。処理サンプルの断面からは、オレンジ味を持った赤のコアとほぼ無色のリムが観察できた。
様々な分析テクニックでこれらのタイプの特性調査を始め、より多くのサンプルがテストのために集められているため、特性の詳細は今後示されるであろうと言った発表であった。

ミャンマー産レッドスピネルの熱処理実験
The heat-treatment experiments of red spinel from Myanmar
発表者:Boontawee Sriprasert 氏

ミャンマー産のパープルとオレンジピンクのスピネルを実験的に熱処理し、オレンジ味と紫味を取り除くことが出来た。処理の後、大部分の石の明度は下がり、彩度が上がり、商売上より望ましい赤色に変化した。
実験では、このようなタイプのスピネルの色を高める最適な条件は酸化雰囲気中でおよそ1000℃。800℃から1200℃への加熱の後、赤から紫赤色のスピネルには390と545nm(Cr3+)に強い吸収を持っていたが、372nmの鉄吸収ピークは幾つかの石では減少するか消える傾向があった。
フォトルミネセンス(PL)分光は685nmと他のマイナーなピークがより高い温度で加熱されると徐々に減少するかブロードになるが、687nmピーク強度の増加は明らかだった。
鑑別の観点から、加熱によるPLスペクトルの変化は熱による内包物の変化と共に赤スピネルの加熱処理を同定する証拠の1つとなるという内容であった。

イラカカ産ルビーとサファイアの加熱処理の同定
Detection of heat treatment in rubies and sapphires from Ilakaka
発表者:Bhuwadol Wanthanachaisaeng 氏

マダガスカルのIlakaka-Sakaraha地域からのルビーおよびサファイア中のジルコン包有物をラマン分光分析し、FWHMとラマンシフトのピーク位置からみた加熱処理の同定法が提案された。
未処理サンプルで最低のFWHMは5.4cm-1で、最も低いラマン-シフトは1013cm-1であったが、1000℃の処理の後、加熱処理サンプルのFWHMは未処理サンプルのものよりも小さくなることが明らかになり、このテクニックで低温加熱の同定が出来ることを明らかにした。
1200から1600℃の加熱でFWHMは更に減少したが、ラマンバンド位置は再びより長い波長にシフトした。これはジルコン結晶の分解(m-ZrO2とSiO2)の始まりによって説明されることが出来る。
拡大検査でジルコン包有物は1400℃以上で外観の変化が現れるが、はるかに敏感な方法はジルコン包有物の結晶化度の決定であった。既知の加熱パラメータで、1000℃のどちらかと言えば低い温度での処理の後、容易に熱処理を発見できた。

ラマン分光法による構造チャネル中の水タイプの分類
Classification of water types in structural channels of beryl by means of Raman Spectroscopy
発表者:Tobias Haeger 氏

エメラルドは典型的なサイクロ珪酸塩(Be3Al2Si6O18)である。ベリルのチャンネルには余分な分子(例えば、水、CO2、およびNH4+)を捕らえることができる。ベリル中の水分子のタイプは、40年以上前に赤外分光の研究により分類された。タイプIは水分子が単独で存在し、その対称軸の方向はエメラルドのc-軸に垂直である。 タイプIIは水分子が近くにアルカリを伴っており、その対称軸はアルカリイオンとの相互作用の結果、母体結晶のc-軸に平行である。Schmetzer(1989)、SchmetzerおよびKiefert(1990)は、天然および合成エメラルドの区別に関する彼らの研究で、水分子が単独で存在するか近くにアルカリ(主にナトリウム)を伴っているかについて言及している。
すべてのサンプルは水について特徴的な3500cm-1から3700 cm-1の範囲をc軸に対して垂直な方向で測定し、すべての「フラックス合成」のエメラルドからはこの範囲にラマンバンドは示さなかったが、「熱水合成」のエメラルドでは、3608cm-1に1つバンドを示した。すべての天然サンプルはこの範囲に比率は異なるものの約3608cm-1と3598cm-1に2つのバンドを示した。
化学的なデータより3598cm-1のバンドの出現と2つのバンド(3598cm-1と3608cm-1)の強度比がアルカリイオンの量に依存することを明確にした。アルカリイオンの量(Na+K+Cs)が1.1wt%より高いサンプル(ブラジル、ロシア、オーストリア、マダガスカル、ザンビア、南アフリカからのエメラルド)は、3598cm-1バンドの強度は3608cm-1バンドより高い。反対に、アルカリイオンの量が1.1wt%より低いサンプル(コロンビア、ナイジェリア、中国、および合成の「エメラルド」からのエメラルド)では、3608cm-1バンドの強度は3598cm-1バンドより高い。

モルダバイト:天然またはイミテーション
Moldavite: natural or imitation
発表者:Tay Thye Sun 氏

接触、10倍観察、または顕微鏡観察によってイミテーションモルダバイトから天然モルダバイトを区別する簡単な鑑別アプローチが示された。
天然モルダバイトは触ると、イミテーションモルダバイトの滑らかな感じと比較して針のような感じがある。顕微鏡観察では、天然モルダバイトにはフローマークと鋭い刃状があるが、イミテーションモルダバイトにはえくぼの表面マークとシダ様の成長マークがあることが判明した。また、FTIRやEDXRFのような高度な検査器具の使用は、さらに天然モルダバイトとイミテーションモルダバイトの違いを明らかにする。

天然グリーンダイヤモンドの色に関する鉱物学的および物理学的特性と熱の不安定性
Mineralogical and physical properties and thermal instability of Natural Green Diamond Colours
発表者:Walter Balmer 氏がGeorge Bosshart 氏の代弁

グリーンダイヤモンドの先駆的研究として、天然および人為的に照射された研磨済みグリーンダイヤモンド、そして研磨工程時に天然ダイヤモンドがまれに熱の影響によりカラーが変化しグリーンダイヤモンドになるという問題に挑戦している研究の途中結果が紹介された。
自然界でα線γ線に晒されてグリーンダイヤモンドが生まれることがあり、その原石からは極めて低い残留放射能が確認されている。ラジウム塩やラドンガスから発せられる重いアルファ粒子の照射と物理実験室での電子線、中性子線、およびガンマ線照射は、ダイヤモンドに似たような緑色と同じ光学的性質を生み出す。
タイプIaダイヤモンドの照射痕上のラマンシフトは、ダイヤモンド結晶格子の完全な局所破壊を示す。フォトルミネセンス分光分析では、窒素含有量の増加に関連した4つのGR1バンドの組み合わせに大きな変化を示した。
まれに自然界でβ線とγ線が緑色のボディカラーの原因となる(ほとんどが淡い緑色)。3000rpmホイールで窓あけ加工を施すと、タイプIa標本は、結果的には褐色に向かうが緑色の連続した色の損失を伴い、またGR1 ZPL強度も減少してゆくようなスペクトルの変化を示した。
電気炉では退色する最低の温度は500℃であったが、カッティング工程の温度測定では変化の始まりが200-250℃であることを示した。この違いの解明には、カッティング工程の正確なモニタリングを必要とする。

Tetデザイン・シルバージュエリー工場

Tetデザイン・シルバージュエリー工場※1
 

プラサート・ムアンシン歴史公園

プラサート・ムアンシン歴史公園
(Muang Singh Historical Park)※2


※1:ヨーロッパや日本のハイエンドブランドからの依頼でシルバージュエリー生産するOEMメーカー。12セクションに約300人の従業員が働き、品質管理システムISO9001も取得している。

※2:カンチャナブリより北西43km。クメール王朝の最西端を示す重要な遺跡で、東西1400メートル、南北800メートルの大きさ。ムアンシン遺跡は、12世紀末から13世紀初めにかけてクメール王朝のジャヤヴァルマン7世の時代に建設された大乗仏教の寺院で、遥か彼方のアンコールワットの方角に向いて建っている。

小売店様向け宝石の知識「宝石大国・インド3」

宝石大国・インド3

インドは宝石大国である。だから宝石について特筆すべき事柄が多い。例えば宝飾品細工加工の街、ダイヤモンドの研磨加工の街、ダイヤモンドの世界取引センター、歴史に名が残る有名なダイヤモンド産出地、宝飾品を取り扱う商人と宗教の話など事欠かない。

インドには数多くの宝石の街がある。
ジャイプールはその一つで、宝飾品加工の古い都市である。ラジャスターン州の州都で、城壁に囲まれた旧市街の多くはピンク色をしていることから、別名ピンクシティとよばれる。ここはインド観光のハイライトとして名所旧跡が多く世界中から観光客が訪れる。この街の南方の地域アジメールからはかつてエメラルドが産出した。以来エメラルドの加工と取引の中心地となり、さらに色石の研磨加工の一大センターに発展した。現在は原石をコロンビア、ブラジル、アフリカ諸国、そしてロシアから輸入し、色石の研磨加工が盛んである。市内の宝石加工取引業者は700社以上を数えるという。市中にはピンク色した「風の宮殿」といわれる名所があり、その近傍には数多くの宝石研磨細工場が存在する。街の通りからは職人が色石を研磨加工しているのが散見できる。市内中心地にはジュエル・エンポリアムといわれる公営宝飾品専門館があって観光客でいつも賑わっている。ジャイプールの宝石商人は世界各地で開催される宝石展示会には必ず出品している。値段が庶民的でデザインがカジュアルな宝飾品だから世界中どこでも人気がある。日本にもジャイプールからの宝飾商人が甲府、御徒町、神戸で活躍している。

ハイデラバードも宝石都市として有名だ。アンドラブラデッシュ州の州都で、その昔、良質大粒のダイヤモンド産地であったゴルコンダ・Golcondaの新しい都市名である。ここはムスリム王朝の都として栄え繁栄してきた。1947年インドが独立したとき、東西パキスタンなど周辺ムスリム地域は分離したが、ハイデラバードは孤立してインドに残された。そのため、インド国内でも類を見ないムスリム文化を残している。ゴルコンダは古いインド産ダイヤモンドの物語には必ず出てくる都市である。この地域を流れるベナール川、キストナ川、カーヌル川流域に広がる昔のダイヤモンド漂砂鉱床を指してゴルコンダと呼称されたという。英国王室秘蔵である世界最古のインド産石のコイヌールKohinoorもここから採掘したといわれている。ここは17世紀にダイヤモンドの大取引地としてインド国内はもちろんヨーロッパからもダイヤモンド商人がやってきた。その中にフランスの太陽王ルイ14世(1638~1715)にインド産大ダイヤモンドを買い付けて売っていた著明な宝石商がいた。その商人とは、ジャン・バチスト・タベルニエ Jean Baptiste Tavernier(1605~89)である。彼は当時のインドの宝石事情とくに有名な大ダイヤモンドに関する状況を彼自身の著作に詳細に記述しており、今日において宝石についての貴重な文献となっている。ハイデラバードは、古きインドのダイヤモンドの都市であり、今もこの都市の名所チャール・ミナールは旧市街にあってその周辺は繁栄しており、宝石店、貴金属店、腕輪専門店、銀細工店が軒を連ね賑わっている。

アグラは、世界七不思議の華麗な傑作建築物・世界遺産タージ・マハルがある世界名所。昔はムガル王朝の都であった。この地に皇帝シャー・ジャハーンが愛妃ムムタージの死を悼んで建てた霊廟である。このタージ・マハルの霊廟には、白い大理石の表面に華麗な花木植物が描かれ、それらは美麗に輝く色石で象嵌されている。インドを旅すると華麗な寺院やマハラジャの邸宅や城があるが、ここは正に宝飾品・財宝の集積中心といえる。アグラの街には、たくさんの宝石細工店、宝飾店が軒を連ねている。タージ・マハルの装飾加工に従事した工人の子孫たちが営んでいるのだ。インドのどこの町々を訪れても、宝石細工店、宝飾アクセサリー店、宝石店、貴金属店があって、人々の生活になくてはならない存在となっているのがわかる。ムンバイ(旧ボンベイ)は、インド西部のアラビア海に面した世界最大級の貿易港であるが、ダイヤモンドの研磨と取引の大センターである。ムンバイ市内及びその北のスーラト及びナワサーリが研磨加工地として有名だ。その他デリー、チェンナイ(旧マドラス)、コルカタ(旧カルカッタ)などの大都市の繁華街には必ず宝飾店が集積していて活況を呈している。インド人は無類の宝石・貴金属好きである。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊

第55回 ツーソン・ミネラルショー

今年で55回目となるツーソン・ジェム・ミネラル&化石ショーは、この手のショーとしては世界一の規模を誇るもので、IJTやJJFのように一箇所で開催されている展示会ではありません。メインのショーの開催は2月中旬ですが、サテライトショーと呼ばれる別の販売会は1月下旬から始まり、この期間は何十ものショーが同時にホテルや普段空き地になっているような場所に巨大な白いテントや展示品ホールが出現し、ツーソンの街全体が宝石、鉱物、化石の買い手と売り手で埋め尽くされます。そこには、金、ダイヤモンドからガラス玉、恐竜の化石からオーストラリアの奥地で掘られたオパールなどありとあらゆる鉱物や宝石が展示されます。

今年も筆者はツーソンに行って参りましたが、例年と比較して、業者以外の入場を厳しく制限しているジェムショーで中心的な立場にあるAGTA、GLDA、GJXなどの展示会はいずれも入場者数が減少しておりました。これは世界的な不況で海外から買い付けに来るバイヤーが激減しているためでしょうか。最高の立地条件にあるホテルアリゾナでのジェムショーは完全に無くなり、数年前に郊外のJW Marriott Star Pass Resort & Spaに場所を移して開催しているGLDAジェムショーも入場者もブース数もまばらです。また、ツーソンジェムショーの代名詞的なAGTAショーではブースの空きが出るようになっており、これら展示会の中で最も盛況であったGJXジェムショーでも入場者数は昨年の半分位に減少しているように見受けられました。一方、人が入っていると言えば入場制限の無い誰でも入れるような大型の展示会場で、それらはエンドユーザーを対象としたビーズや製品を販売するものです。

毎年ツーソン・ジェム・ミネラル&化石ショーでは、新種の宝石や新種の処理石を筆者は鑑別に携わる者として最も興味があり、またいち早くそう言った石を探し回り、入手することが鑑別上非常に有効なためなのですが、ペゾッタイト以来新種の宝石で注目されているものはなく、合成石・処理石にも注目するようなものは出ていませんでした。目新しいと言えばオレンジのカヤナイトがありますが、この石では宝石として用いるには劈開や硬度に問題があります。合成石ではパライバカラーのベリル位でしょうか?米国では昨年ブッシュ前大統領がミャンマー産ヒスイとルビーの輸入を禁止しましたが、ミャンマー産非加熱ルビー・サファイアやヒスイの数は依然として豊富で、以前からツーソンショーではワシントン条約で制限されている象牙類や化石類が多数出展されており、米国の通関検査に対する疑問をツーソンに来るたびに抱かされます。

今回の旅では、鑑別に有用な石や情報も無く、このショーを通じて日本以上に不況下にある米国の現状を感じさせられました。オバマ新大統領の景気対策法が功を奏し、米国のみならず世界景気の立て直しの一歩となることを願います。

弊社のキュービッドケースとGSペットもツーソンに登場

弊社のキュービッドケースとGSペットもツーソンに登場

サボテンの形に似たアメシストのガマ

サボテンの形に似たアメシストのガマ