平成18年宝石学会「コパルの加熱実験レポート」

コパルはこはくに比べて若い樹脂です。重合があまり進んでいないのでこはくに比べて比較的やわらかく、熱やアルコールなどに対する耐久性も低いといえます。しかし、コパルは昆虫など多くの包有物があるケースが多く、非常に興味深い宝石であるといえます。
昨年こはくの加熱実験についてレポートしましたが、今回はコパルについての加熱実験を行いました。

実験1

ごま油を使って180度で1分間加熱。ごま油は少し浸る程度に入れました。

実験1

結果

加熱して油に入っていた部分の表面は褐色になり、多くの気泡が出来ました。また中央付近にひび割れが発生しました。

実験2

ごま油を使って180度で5分間加熱。ごま油は完全に浸る程度に入れました。

実験2

結果

全体的に褐色になり、形も変形し、表面は溶けてデコボコになりました。

実験3

ごま油を使って200度で1分間加熱。ごま油は少し浸る程度に入れました。

実験3

結果

加熱した部分が非常に細かい気泡で白濁しています。また加熱していない部分でも少し気泡が発生しています。

実験4

サラダ油を用いて220℃で約1分、サラダ油は三分の一程度ひたるようにしました。

実験4

結果

加熱した部分は褐色になり、表面は溶けて変形し、デコボコになっています。

実験5

サラダ油を用いて220℃で約1分、サラダ油の中に浸るようにして加熱しました。

実験5

結果

全体に褐色になり、表面は溶けてデコボコになっています。

実験6

150℃で4時間、アルミホイルでくるんだ状態で、砂の中で加熱しました。

実験6

結果

外形は溶けてかなり変形し気泡が大変増えて、所々褐色になっている部分がありました。

実験7

200℃で1時間、アルミホイルでくるんだ状態で、砂の中で加熱しました。

実験7

結果

外形はさらに変形し、褐色がより濃くなりました。光沢も増したように見え、中の気泡は弾けてグリッター状になっていました。

以上が今回の実験の結果です。ある程度まで温度が上がると、溶けて変形します。また、加熱をすると気泡が増えグリッターのようになることもあります。加熱が進むと褐色が濃くなっていきます。

(注意)
今回の実験は十分安全な環境において行われております。個体によっては、内部の気泡等が加熱時に破裂し、やけどをおう恐れもありますので、決して真似をしないようお願いいたします。

小売店様向け宝石の知識「アンティークジュエリー2」

アンティ―クジュエリーの言葉の意味は、骨董品装身具で「作られてから最低100年以上経過した骨董的価値があるもの」と考えられている。骨董的価値とは美術的価値のある古いもの。古美術品的装身具を指す。100年以内であっても、その時代を象徴するような芸術的価値があり一流宝飾店や有名な作家が手がけたジュエリーには、1930年代までの作品もアンティ―クジュエリーのなかに入るとされるようだ。

ファッションジュエリーが新しい流行の最先端を行くとすれば、アンティ―クジュエリーはその正反対に位置する古きよき時代の数多くの優れたデザイン加工技術の手作り宝飾作品である。それ相応に多くの古美術品マニアが存在する。アンティ―クジュエリーといえば、どうしてもヨーロッパが中心である。残念ながら日本では宝飾文化は歴史が浅く、ヒスイ、さんご、鼈甲、象牙関連製品など希少である。

ジュエリーは大昔から人類とともにあるからエジプトやギリシャのアンティークジュエリーがあってもおかしくはないが、18世紀以前までに作られたジュエリーは、ほとんどマーケットに現存していない。国宝級、博物館級のジュエリーは、大英博物館やルーブル、エルミタージュ、カイロなど大博物館の展示物でしか見ることができない。一般庶民が手にすることは不可能である。われわれが手にすることが出来る範囲のアンティ―クジュエリーを歴史的に見ると次に大別される。

ジョージアン時代(1800年~1837年王侯貴族の特権階級が身に着けたジュエリーが中心)、ヴィクトリアン時代初期(1837年~1861年ロマンティック志向が色濃いジュエリー、REGARDの頭文字をとった宝石を使ったジュエリーの流行)、ヴィクトリア時代中期(1861年~1887年産業革命で余裕の出来た大衆のジュエリー需要が増大、アルバート公の死去もありジェットのモーニングジュエリーも流行)、ヴィクトリア時代後期(1887年~1901年ダイヤモンド、パール、大きな色石の時代、加工技術が著しく進歩。ジュエリーの大衆化が進む、シェルカメオが本格的に登場)、エドワーディアン時代(1880年~1915年白いプラチナを使い繊細な幾何学模様の上品なデザインが登場)アールヌーボー時代(1890年~1910年日本の文物から影響を強く受けたジャポニズム志向。流れるような曲線、左右非対称の構図、奇抜なデザインが特徴。20世紀美術に大きな影響を与えた。)アールデコ時代(1920年~1940年フランスを中心に起きた芸術運動。多くの幾何学模様を取り入れた男性的な雰囲気の作品が多い。)アメリカン時代(1870年~1920年ティファニー宝石店が開業しアメリカの新興富豪相手に大粒ダイヤモンドなどを使った独自のアメリカンジュエリーが創出される。)

ここでアンティ―クジュエリーに使われた素材について言及してみよう。ゴールド、シルバー(ジュエリーの中心的な素材)、プラチナ(1880年代に入ってから)、ダイヤモンド(旧型のローズカットからブリリアントカットへ、枠の貴金属はシルバー、ゴールドを経てプラチナへ。光り輝きを引き出すオープンセッテイングなど新デザインの開発が進む。)カラーストーン(先ずガーネットがヴィクトリア女王即位した当時に大流行、ロシア産トパーズ、デマントイドなど多くの色石も登場。)天然真珠も多用されている。

次にジュエリーの細工加工表現技術の進展を見てみよう。カメオ(ナポレオン時代に大流行、ギリシャ神話などの古典的モチーフから女性的なデザインのシェルカメオがヴィクトリア時代に登場しはじめる。)エナメル(金属酸化物を含むさまざまな色彩のガラス粉末を金属の表面などに焼き付けたもの。この技法は古代エジプト時代からあるがアンティークジュエリーの重要な技法としてクロワゾネ、プリカジュール、ギロッシェ技法などが有名。)センチメンタル(リング内側に愛のメッセージを彫り込むポージーリング、ジュエリーにルビー、エメラルド、ガーネット、アメシスト、ルビー、ダイヤモンドをはめ込み各宝石の頭文字をとってREGARD(好意)等を表わすメッセージジュエリーの登場)モザイク(モザイク装飾は貴石やガラスなどの小片を一つひとつ丹念に埋め込みジュエリーに創作する。起源は古代文明にあるがアンティ―クジュエリーとしてフローレンスとローマに工房が数多く誕生し、花や名所をモチーフにブローチ、ブレスレット、イヤリングに加工された。)

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊

ワールドニュース

「あなたのスタッフは説明できますか?」

新年明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い致します。

現状、日本のマーケット状況は厳しい限りですが、さらに今年は世界のマーケットに影響を与えるかもしれない映画が公開されます。それはレオナルド・ディカプリオ主演の「ブラッド・ダイヤモンド(仮題)」(原題「BloodDiamond」(c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc. 2007年春公開予定)です。

[BLOOD DIAMOND] 人生を変える石――
それは人々の心を試すため、地球の中心から生まれたとされる幻のダイヤモンド。
誰もの心を狂わせ、それを求める者により争いは絶え間なく繰り返される。
しかし、それに触れた者の手は、真っ赤な血に染まるという……。

blood diamond

(提供:Warner Bros. Entertainment Inc.)

「1990年代、内戦のなかで混乱を極めるシエラレオネ共和国。密輸で投獄された傭兵ダニー・アーチャー(レオナルド・ディカプリオ)。ある日彼は。家族から引き離され、ダイヤモンド産地で強制労働させられていた過去を持つソロモン・バンディー(ジャイモン・フンスー)と出会う。そして、そこでソロモンがとてつもない価値のあるダイヤの原石を見つけ、ある場所に隠したことを知る。ソロモンは家族を救うため、ダニーは完全に投げていた人生をやり直すため、“人生を変える石”を求める旅に出るが―。」
 
 

上記ストーリーを読む限りでは、ディカプリオが求める石、それこそが唯一無二の“ブラッド・ダイヤモンド”である、というイメージですが…。
しかし映画が公開され、それを見た人々の中には「日本で流通しているダイヤモンドの中にも血塗られた紛争ダイヤモンド(ブラッド・ダイヤモンド)が紛れているのではないか?」という宝飾業界において喜ばしくないイメージを抱いてしまう方がいるかもしれないという懸念もあるのです。
例えば販売の現場で「こちらで販売されているダイヤモンドは紛争と関係のないものですか?」あるいは「このダイヤモンドが紛争と関係ないことを証明することができますか?」といったご質問を受けた時、あなたはきちんとした説明できますか?
お客様が納得し、気持ちよくご購入いただくためには、そういった知識も必要だと思うのです。

紛争ダイヤモンドの歴史背景

1990年代の後半、アフリカのいくつかの反乱勢力が、ダイヤモンドなどの非合法的な取引によって、国際的に承認された合法的な政府に対する紛争資金を得ていることが、世界中に知られるようになりました。紛争ダイヤモンドに対する意識が高まると共に、グローバル・ウイットネスなどの非政府組織(NGO)による取り組みもあって、反乱組織によるダイヤモンドの非合法取引が人々の苦しみにつながる結果となっているのではないかという懸念が高まりました。
実は当時でさえ、紛争ダイヤモンド(ブラッド・ダイヤモンド)が占める割合は世界のダイヤモンド取引の4%とごくわずかに過ぎませんでした。しかし、ダイヤモンド業界はこの問題に対して断固とした姿勢で臨む人道的になすべきことへの義務を認識し、紛争ダイヤモンドを排除するべく共に紛争ダイヤモンドの取引を阻止する運動を行うようダイヤモンド業界全体に働きかけました。この取り組みによって、現在世界のダイヤモンド供給の99.8%以上が紛争と関係のない地域から採掘されたものであると保証されています。その行われている取り組みが「キンバリー・プロセス」と「システム・オブ・ワランティ」です。

キンバリー・プロセスとは

2000年、各国政府、国家間のダイヤモンド業界、NGOが共同で、ダイヤモンドが反政府組織の資金として使われることを防ぐイニシアチブを立ち上げました。このイニシアチブがキンバリー・プロセスとして知られるようになり、直ちに国連総会の支持を得ました。
具体的には、ダイヤモンド原石が輸出され国境を越える際には、不正に開封できない容器を使用するよう定められており、さらに、ダイヤモンドが紛争と関係のない地域から採掘されたものであることを政府が認証するキンバリー・プロセス証明書がこれに添えられます。証明書は偽造が不可能で、厳重に管理された独自の通し番号および出荷する内容が説明された情報がキンバリー・プロセス証明書に記載されています。輸出はキンバリー・プロセスの参加国に対してのみ許可されます。証明書の添付されていないダイヤモンド原石を参加国に持ち込むことはできません。
つまり国家間をまたぐ原石の移動に関しては、キンバリー・プロセス証明書が必要ということです。

システム・オブ・ワランティとは

ダイヤモンド業界は、消費者が購入するダイヤモンドの出所を保証するシステム・オブ・ワランティという制度を採用しました。キンバリー・プロセス参加国すべてが支持するこの制度では、研磨済ダイヤモンド宝飾品のすべての段階の売り手は、次の買い手へ、自主規制として以下の宣誓文をインボイスに記載しなければなりません。

(原文)
“The diamonds herein invoiced have been purchased from legitimate sources not involved in funding conflict and in compliance with United Nations resolutions. The seller hereby guarantees that these diamonds are conflict flee, based on personal knowledge end / or written guarantees provided by the supplier of these diamonds.”

(和訳)
「インボイスに記載されたダイヤモンドは、国際連合会議を遵守し紛争への資金提供に関与しない供給源より購入されたものです。ダイヤモンドの販売事業として、当方が自身の認識に基づき、且つまた、供給者の書面による保証により、これらのダイヤモンドが紛争に関係のないことを保証します。」

それ以外の施策

ダイヤモンド・デベロプメント・イニシアチブというものが、キンバリー・プロセスが重要な制度であると同時に、さらなる課題への取り組みとして立ち上げられました。キンバリー・プロセスはダイヤモンド原石の輸出入を対象としていますが、ダイヤモンド・デベロプメント・イニシアチブは、アフリカの貧しい国々におけるダイヤモンド原石の採掘の課題に取り組みます。こうした国々では小規模な個人的採掘(ふるいや鍋などの初歩的な道具を使って個人、家族、地域住民が行う非公式な採掘)が多く見られます。
このような採掘は、南アフリカ、ボツワナ、ナミビアなどにある厳重に管理され、規制された鉱山での採鉱とは異なり、地下の深いところから表面近くに運ばれ流れ着いたダイヤモンドが川底にあり、これらのダイヤモンドは素手や簡単な道具で採掘されます。このように管理されていない漂砂鉱宋での小規模な個人的採掘のため、適正な衛生管理、環境維持、労働条件が確保されにくい状況となりえます。
ダイヤモンド・デベロプメント・イニシアチブへの取り組みは、各国政府、非政府組織、援助資金提供者、業界、開発機関を取り込んで相互に人的資源、経験、知識を共有する多面的な連携を築き、課題に対応するために様々なプロジェクトが連携して立ち上げられています。
この連携によって真の変革が期待できます。漂砂鉱宋での小規模な個人的採掘を正式な事業体とすることで、採掘されたダイヤモンドが正当に取引される市場を確立することができます。このステップを踏み、小規模な個人的採掘に従事するコミュニティーや政府、さらにダイヤモンド業界全体に大きな貢献をもたらすことを目指しています。

ダイヤモンドの世界への貢献

世界のダイヤモンド産業は、開発途上国を中心に1.000万人を直接または間接的に雇用しています。他の資源と同様に、ダイヤモンドもアフリカ諸国やその他多くの国々の経済発展に不可欠です。
世界のダイヤモンドのほとんどは、開発を助け、継続的な雇用を創出する役割を果たしています。政府による統治と法律の遵守によって、ダイヤモンドはインフラの建設や基本的社会サービスの構築に欠かせない歳入源となるのです。
キンバリー・プロセスにおいて、企業が合意した目的は、生産国であれ、研磨に関わる国であれ、消費国であれ、ダイヤモンドに関わるすべての国の利益を保護することです。現在、世界のダイヤモンドの99.8%以上が紛争の関係のない地域から採掘されたものであると保証されています。

まとめ

上記の通り、現在日本に輸入されているダイヤモンドは、キンバリー・プロセス、そして、システム・オブ・ワランティの遵守という2つの施策により、ほぼ全てのものが紛争ダイヤモンドとは無関係であると言えると思います。また、ダイヤモンドが発展途上国を中心に世界の経済に貢献しているという事実も忘れてはならないことなのです。そして重要となるのは、お客様と直接接する販売員の方々が十分な知識を持ち、自信を持ってお客様にご説明出来るかということだと思います。

もっと詳しく知りたいという方は、下記サイトをご覧下さい。ここには紛争ダイヤモンド取引を撲滅すべく、業界が行っている様々な取り組みについての情報が記載されています。
http://www.diamondfacts.jp/

この映画「ブラッド・ダイヤモンド(仮題)」(原題「BloodDiamond」(c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc. 2007年春公開予定)をきっかけに「紛争ダイヤモンド(ブラッド・ダイヤモンド)」に関する知識を深め、お客様が納得できる説明をすることにより、今以上の信頼を勝ち得ることが出来ると思います。
またこの件で何か疑問やご質問等ございましたら、弊社までメール(sales@ibctokyo.com)にてご連絡ください。質問の多かった事項に関しましては次号のGEMMYにてご紹介いたします。
もちろん当社すべての取り扱い商品に関しましては上記2点を遵守し、お客様にご満足いただけるような商品を求めて、買い付けしていると自負しております。


アイスブルーダイヤモンド企画・開発プロデューサーが、お客様に本当にあった商品企画をご提案するために設立したダイヤモンド専門会社
株式会社IBCTOKYO 担当:木村/湯浅 e-mail: sales@ibctokyo.com
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エメラルドの産地と特徴 -その1-

エメラルドは、深い緑色が魅力的な最も美しい宝石の一つです。内包物が比較的多い石ではありますが、その緑色の深さが十分であれば内包物の存在で評価を落とすというよりもその色調により高い評価が与えられている宝石です。

エメラルドの名前は「緑色の宝石」を意味するラテン語“smaragdos”やギリシャ語“smaragdus”に由来し、それらがフランス語の“esmeraude”となり、現在の“emerald”に変化したと言われています。この素晴らしい宝石には多くの物語がありますが、その殆どは南米大陸での話です。南米では今でもエメラルドが大量に産出されており、古代のインカ族やアステカ族もこの石を神聖な石として崇拝していました。しかしながら、おそらく知られている限り最も古いエメラルド産地の記録は紅海の近辺からのものでしょう。西暦紀元前3000年から1500年の間にエジプトのファラオによってエメラルドはすでに珍重されており、クレオパトラも愛用していたと伝えられています。

鉱物としてのエメラルドは、7.5~8の硬度を持つベリリウム・アルミニウム・ケイ酸塩鉱物で、アクワマリンやモルガナイトと同じベリル鉱物に属します。純粋なベリルは無色ですが、結晶が形成される過程でほんのわずかなクロムやバナジウムが加わることによりすばらしい緑色を呈するわけです。

このようなクロムやバナジウム成分とベリリウムやアルミニウム成分は地球化学的な性質が違う元素で、それぞれが異なる火成活動と関連しています。性質の異なるそれぞれの火成活動が同一の地域で重なって起こり、はじめてこれらの成分が出会い、美しいエメラルドを作り上げます。

多くのエメラルドが今日オイルまたは天然の樹脂で習慣的に加工されています。これはエメラルド結晶をカットした際に表面上に露出したキャビティからの液体の流失により空気が入り込み、その結果 石の内部へと続くキャビティを白く目立たせ、エメラルドの色そのものを低下させる、それをカバーするための加工です。オイルを含浸したエメラルドはキャビティ中のオイルが再び流失してしまう恐れもあるため、石の取り扱いには十分な注意が必要です。特に、エメラルドは超音波で洗ってはいけませんし、洗剤に浸すことも避けるべきです。

産地

エメラルドは南極以外の6大陸から産出があります。その中でも南米大陸は最も重要で、特にコロンビアは最も産出量が多く、そして最も素晴らしい品質のものが産出されます。だからと言って「産地」が自動的に品質を保証すると考えることは間違いです。良質のエメラルドがザンビア、ブラジル、ジンバブエ、マダガスカル、パキスタン、インド、アフガニスタン、あるいはロシアのような他の国でも産出されます。特にザンビア、ブラジル、そしてジンバブエは良質のエメラルドであると国際的な評判を得ています。ザンビアのエメラルドは、透明度が良くて美しい濃いエメラルドです。その色はコロンビアの石よりもっと一般的に濃く、青味がかっています。ブラジルでは、イタビラ鉱山やサリニンア鉱山が有名ですが、ブラジルのものは緑色がやや黒味を帯びているのが特徴です。ジンバブエの有名なサンダワナ鉱山のものは、一般に小さいが、鮮やかな濃い緑色でしばしば黄色がかっています。

1. 南米

コロンビア

コロンビアのエメラルドはスペイン人がやって来るずっと以前から先住のインディオの手で採掘されていました。スペインの征服者がコロンビアに侵入し、彼らは大量のエメラルドをインディオから奪い、更にソモンドッコ(碧の石の神)と呼ばれるエメラルド鉱山の在りかをも聞き出したのです。1537年、ここにスペイン人が鉱山を開き、これが現在のチボール鉱山につながっていきます。またムゾー鉱山は、1564年、ムゾーの町でスペイン人が馬のひづめの下に光る緑の石の断片を見つけたことがきっかけとなり今日のムゾー鉱山が生まれたと云われています。

コロンビアのエメラルドは、青色を含まないその良質なすばらしい緑色によって他の産地のものと区別されます。ムゾー鉱山は、コロンビア最大の鉱山であるとともに、最高級のエメラルドを産出するという定評があります。緑色が濃いうえに柔らかい味わいがあります。コスケス鉱山のものは淡い緑色に特徴があります。チボール鉱山のものはムゾー鉱山のものと比較すると内包物は少なく透明度が高いです。緑色にやや青色味がかっているのも特徴です。他にガチャラ、ピナピスタ鉱山などが以前は良質なものを産出していたが、最近では産出されていません。

◆母岩:黒色、雲母、パイライト、方解石

◆内包物:三相内包物、黒色頁岩(コロンビアだけの特徴的内包物)、パイライト

写真1・三相内包物

ギザギザした輪郭の液体キャビティ中に
気泡と結晶を含む三相内包物

写真2・内包物

黒色の粒状で含まれる頁岩の内包物
 


写真3・トラピッチェ エメラルド

トラピッチェ エメラルド

◆吸収スペクトル:クロム/バナジウム関連の吸収バンド。トラピッチェは鉄関連の吸収バンドを見せる。

◆屈折率:低め(通常光1.570~1.584、異常光1.564~1.578)


ブラジル

<バイア州>

○カルナイーバ鉱区

写真4・バイア産エメラルド

バイア産エメラルド

1965年、バイア州のほぼ中央部を北から南に150kmに伸びるジャコビナ山地一帯に豊富なエメラルド鉱床が発見されました。たちまちエメラルド・ラッシュとなり、国中から無数のガリンペイロが押し寄せて一大鉱山町が出現しました。しかし、近年ではエメラルドの生産は大幅に減少しています。

○サリニンハ鉱区

1963年、バイア州サン・フランシスコ川流域にてサリニンハ鉱山が発見されました。

片麻岩と滑石片岩にレンズ状に貫入したペグマタイト脈にエメラルドが生成した鉱脈です。明るい黄色味を帯びた半透明の小さな結晶は良く粒が揃っていますが、結局わずかな量のみを産出したのみで鉱脈が枯渇しました。

サリニンハのエメラルドにはクロムが少なく、バナジウムによる着色であったためエメラルドではなくグリーンベリルと呼ぶべきだという論争を巻き起こしました。

<ゴイアス州>

○サンタ・テレジーニャ鉱区

1981年、ブラジルの首都ブラジリアから北西に230km程のゴイアス州のサンタ・テレジーニャにエメラルド鉱山が発見されました。

結晶は平均して1cm未満と小さいのですが、1立方メートル当たり11カラットと高品位です。 また他のゴイアスのエメラルドと比べるとクリーンな透明な結晶が多いと言われます。

サンタ・テレジーニャ鉱山はキャッツ・アイやスターといった効果を示すエメラルドの産出が多いことが特徴です。キャッツ・アイ・エメラルドは他にも報告がありますが、スター・エメラルドは大変稀で、サンタ・テレジーニャの特産です。

写真5・カルサイト内包物

マッチ箱を少し潰したような結晶の
カルサイト内包物

◆母岩:炭酸塩、滑石、金雲母の片岩

◆内包物:ピコタイト、カルサイト、滑石、パイライト、磁硫鉄鉱、黄銅鉱など

◆吸収スペクトル:クロム/バナジウム関連の吸収バンドと鉄関連の吸収バンドを見せる。

◆屈折率:低め(通常光1.588~1.600、異常光1.580~1.590)


<ミナス・ジェライス州>

ブラジルの宝石や金属資源の宝庫として知られているミナス・ジェライス州では1979年に州都ベロオリゾンテから東に100km程のベルモントでエメラルドが発見されました。

 写真6・イタビラ産エメラルド

イタビラ産エメラルド

○ベルモント鉱山

◆最も機械化が進んでいる同州では現在一番の鉱山

◆品質:小粒であるが高品質

◆母岩:雲母片岩で結晶を回収し易い。

○イタビラ鉱山

◆古い鉱山で現在でも原始的な方法で採集している。

◆品質:色は暗いものが多いが、中には上質のものもある。

◆母岩:雲母片岩に炭酸塩岩、滑石が含まれているため非常に硬く、結晶が回収し難い。

(つづく)

【GYOHO 質屋業報 2006年10月号 より転載】

平成18年宝石学会「Be サファイア」

2005年末頃から、天然ブルーサファイアが“新技法加熱処理が施された”ブルーサファイアとしてタイのマーケットにはいってきました。すぐさま、それらのブルーサファイアはベリリウム(Be)拡散加熱処理であることが判明しましたが加熱方法自体、未だ明らかにはされておらず、軽元素が色にどのような影響を与えているのか、解明されてはいません。今回の宝石学会(日本)では、このBe拡散加熱処理が施されたブルーサファイアについて研究した結果を報告し、鑑別についての指針を述べさせて頂きました。以下にその内容を紹介します。

写真1

写真1 新技法処理が施されたブルーサファイア

今回、観察及び分析を行ったブルーサファイアは、1.5490ct、1.3745ct、1.3480ctの3ピースです(写真1)。これらすべてのサンプルについて、光学顕微鏡による拡大検査、紫外-可視分光光度計、赤外分光光度計、蛍光X線分析装置、LA-ICP-MS(レーザーアブレーション ICP 質量分析装置)による分析を行いました。


1 拡大検査で観察されるインクルージョンについて

写真2 通常の加熱処理サファイアに観察されるインクルージョン

写真2-a

写真2-a 白濁結晶(拡大倍率x45)

写真2-b

写真2-b ヘイローを伴う白濁結晶(x40)


写真2-c

写真2-c 途切れた針状結晶(x30)

拡大検査で観察されるインクルージョンには、大きくわけて通常の加熱処理のサファイアに観察されるものと、今回の“新技法加熱処理が施された”サファイアに特有のものがありました。
通常の加熱処理のサファイアにも観察されるインクルージョンとして、白濁結晶(写真2-a)、ヘイローを伴う
白濁結晶(写真2-b)、途切れた針状結晶(写真2-c)が観察されました。


写真3 今回観察した“新技法加熱処理が施された”ブルーサファイアに特有のインクルージョン

写真3-a

写真3-a リング状結晶包有物が
      十字に並んでいる状態

写真3-b

写真3-b くもの巣状のテクスチャー(x20)
 


今回検査した新技法加熱処理が施されたサファイアに特有のインクルージョンとして、ベーマイト起源であると思われるリング状結晶包有物が十文字に並んでいる状態(写真3-a)や、 くもの巣状のテクスチャー(写真3-b)が観察されました。 これらは、新技法加熱処理が施されたサファイア特有のものでありますので、これらのインクルージョンが発見されれば、Be拡散加熱処理が施されているのではないか?という注意をすることが可能です。

2 レーザートモグラフによる観察

写真4 今回観察したブルーサファイアに特有のレーザートモグラフ写真

写真4-a

写真4-a C軸方向から見える六角形状を
      した散乱像

写真4-b

写真4-b 三方晶系に規制された形で並んだ散乱像
 


写真4-c

写真4-c c 軸垂直方向からの散乱像
      (矢印はらせん状の散乱像を示す)

写真4-d

写真4-d つるまき状の散乱像
 


写真4-e

写真4-e 同心円状の散乱像

レーザートモグラフによる観察では、通常の加熱処理では見られないテクスチャーが観察されます。(写真4-a)はc軸方向から見える六角形状をした散乱像です。この六角形状をしたテクスチャーは何が起源なのかは現時点では明らかにされておりませんが、(写真4-b)のように三方晶系に規制された形で並んでいることもあります。c軸垂直方向から観察した(写真4-c)を見てもお分かりの通り、この六角形状のものは、ディスク(平板)状の形状をしていることがわかります。 写真4-cでは矢印で示した箇所に、らせん状の散乱像が観察されます。(写真4-d)のような、つるまき状の散乱像(これは転位起源であると思われます)や、(写真4-e)のような同心円状の散乱像も観察されます。
こういったレーザートモグラフ特有のテクスチャーが存在することは、この新技法加熱処理ブルーサファイアの看破にレーザートモグラフは非常に有効であると思われます。

3 LA-ICP-MSによるBeの分析結果について

LA-ICP-MSは固体試料にレーザーを照射し、極微小の領域を蒸発させ、その蒸気を質量分析することで、固体中の微量元素の濃度を求める装置です。現在ではコランダムのBe処理の看破を確実に行うには必須の装置です。レーザー装置(NEW WAVE社UP-213)とICP-MS(Agilent 7500a)を用いて、今回の試料を測定した結果、3つのサンプルから9.38~11.17ppmの濃度のベリリウム(Be)を検出しており、Be拡散加熱処理が施されたことは明白です。
Be拡散がどこまで進行しているのかを調べるために、このBe拡散加熱処理が行われたサファイアを二つに切断し、その切断面のBe濃度を測定しました(下図)。 この分析結果より、この処理されたサファイアは、キューレット付近で一番Be濃度が高く39.8ppmのBeが確認されており、一番濃度の低い中央部でも5.0ppm検出されていることから、長い時間加熱されたものであると推測されます。

図

以上の結果より、このようなBe拡散加熱処理が施されたブルーサファイアには特有のインクルージョン、特有なレーザートモグラフ像でのパターンが観察されるため、ある程度はそのインクルージョンないしはパターンでBe処理であるという疑いを立てることは可能です。しかし、それらインクルージョンないしはパターンが見られない可能性もあるので、Be拡散加熱処理が施されたブルーサファイアを確実に看破するためにはLA-ICP-MSによる分析が必須であると思われます。

以上

小売店様向け宝石の知識「アンティークジュエリー」

アンティークジュエリー・Antique Jewellery

アンティークジュエリーとは骨董装身具の意味である。ところでアンティークとは何なのか。ふつう、アンティークとは100年以上経っている、美術的価値のあるものいう。東京税関によると、製作から100年以上経過し、それを証明できれば古美術・骨董品と見なされ無関税の由である。しかし、実際のビジネスではそう厳密なことでなく、50年ぐらい前のものでもアンティークとする場合もあるようだ。海外の骨董市には、本物、お宝に混じって、ジャンク(がらくた)、リプロダクション(複製品)、フェイク(偽造品)イミテーション(模造品)セコハン(中古品)レトロ(懐古品)エステート(1940~50年代の資産品)など安物から高額物まで種種雑多に並べられている。ここでは価値のあるなしにかかわらず、「古き良きもの、昔ならではのもの、懐古趣味のもの」がごったに展示販売されている。有名な骨董品市としてはロンドンのアンティークマーケット(アンティークリアン〔古美術愛好家〕には絶対見逃せない骨董市)、パリの蚤の市(日曜日にパリ郊外に立つ骨董品・古物市)がある。とくにロンドンのアンティークマーケットは大規模で店舗数も多く、品揃えも豊富だ。そのほかアンティークリアンには見逃せないアンティークレーン、ストリート(骨董品横丁、骨董品街)がロンドン市内各所にある。

ロンドンではヴィクトリア&アルバート美術館は必見である。ヴィクトリア女王夫妻は、工業近代化のみならず文化発展も同時に進行させ、多くの美術品を残し黄金のヴィクトリア時代を築いた。ここから世界にアート&クラフト運動が広まった。当美術館の宝飾品は圧巻である。英国の古き良き時代の夢の作品が見られる。英国人はヴィクトリア朝時代の美術品に格段の誇りと敬意を払っている。ヴィクトリアン調建物に住み、家具、調度品、衣裳、宝飾品をヴィクトリア風に一式揃えて生活しているアンティークマニアもいるほどだ。

さてアンティークジュエリーをロンドン市内のマーケットで購入するときの心得と注意すべき点は次のようである。

(1)基本的な宝石の知識と鑑定眼、審美眼を常に養成しておく。

(2)旅行案内書には、ロンドンのアンティークストリートについて詳しく記述されているので下調べを十分にする。

(3)ロンドンは大英博物館やヴィクトリア&アルバート美術館、また美術専門店などに、アンティークジュエリーのコレクションがあるので、素晴らしい第一級の優れたジュエリーを予め鑑賞しておく。

(4)サザビーズやクリスティーズなどオークション会社はじめ、ジュエリー専門出版社の専門書や案内書を読んで、アンティークジュエリーについて事前によく勉強しておくことである。

アンティークジュエリーを用途別に見ると、リング、ブローチ、イヤリング、ペンダント、ブレスレット。その他時計、文房具、置物なども入る。材質については、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、メノウやロッククリスタルなどの無機質宝石、それに真珠、さんご、象牙、鼈甲、琥珀、ジェットなどの有機質宝石、これらの天然素材にプラチナ、ゴールド、シルバーの貴金属との組合せである。この組合せが歴史的に見て正確適正であるか判断することである。古いものであるから、ジュエリー自体の石や材質に破損や消耗などの欠陥をチェックし、作品のコンディションの善し悪しを確認する。

しかしアンティークジュエリーが本物か、その善し悪しを的確に判断することはそう簡単ではない。長年の経験と場数を踏まなければそう簡単に見極めることは至難である。したがって大事なのは、相談できるアンティーク専門家を持つか、信頼できる専門店で購入するかである。購入目的をはっきりさせてから購入することも大切だ。自分用に日常的に使用するのが目的か、長期的にコレクションとして蒐集するのか。またカメオを目的に蒐集する、時代別に蒐集する、ブローチ中心に蒐集するとか、目的方針を決め計画をたててから蒐集実行に入ることである。アンティークジュエリーには、宝石のきらめきと謎めいたドラマチックなストーリーが秘められている。現代では再現不可能になってしまった精緻、巧みな技巧、独特な石づかいがある。アンティークジュエリーを現代のわれわれが手にするとき古き良き時代のゴージャスな夢の中にいざなうことができる。アンティークジュエリーをあなたの超お宝ジュエリーにするには用意周到な下調べ、準備心構えが必要だ。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊

ワールドニュース

このワールドニュースを担当して、はや1年が経ちました。いつもご愛読ありがとうございます。
原油を発端とする資源の乱高下で地金にも影響が出ていましたが、原油の急落に伴い地金相場も安定してきたようです。とはいっても数年前と比較すれば、いまだに高止まり状態ではあります。ダイヤの原石も高くなっている昨今、皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
今回は、イスラエルの新年とヨムキプールのため各トレーディング市場が動いていないため9月に開催された香港ジュエリーフェアのレポートです。

香港ジュエリーフェア

今年は空港近くの「Asia World-Expo」と、いつもの「コンベンションセンター」の2会場での開催となりました。来場者数も昨年比で約3%増の41,000人を超え、ますますの盛況ぶりです。
このフェアのすばらしさが世界的に認知されてきた結果なのでしょう。
出展社は昨年9月の1,852社から2,519社と激増し、国別来場者のトップ5は、1・中国・香港、2・アメリカ、3・台湾、4・日本、5・インドということでした(CMPジャパン調べ)。
来場者のトップが中国・香港というのはわかりますが、会場を見渡す限りではアメリカの方々が多数来場されているとは感じはなかったので2位がアメリカというのは意外な結果ではありました。しかしアメリカマーケットの需要は旺盛ということなのでしょう。
また日本からの来場者の様子は、購入目的というよりも世界が注目する香港の度量の大きさやトレンドを見に来たという感じでした。
個人的に感じたのは、業界の方々が中国・香港を工賃の安さだけという今までの捉え方ではなく、新しい加工技術への対応能力や生産力が向上した世界の工場としての役割を期待しているのではないかということです。実際、香港メーカーのブースで、イタリアのバイヤーが交渉していたり、アメリカのバイヤーが買い付けをしていたりと、デザイン、技術ともに認められてきているのを実感しました。事実、上記の数字が示すようにこのフェアの出展者、来場者ともに年々増加しています。この好循環が日本にも波及することを期待します。

[Asia World-Expo]
まずは今年から会場となった「AsiaWorld-Expo」へ。空港のそばの会場は、本会場より1日早いスタートです。
本会場に比べれば小さい会場ではありますが、それでもかなりの広さがありました。しかし、来場者は決して多いとはいえない状況でした。コンベンションセンターから送迎バスが出ているとはいえ、時間の無い中、往復に1時間というのは難しいのかもしれません。
最終日に近くなると、こちらの会場の出展者の中にはコンベンションセンターの方に来て商売している方々もいらっしゃいました。
来年に期待したいと思います。

[コンベンションセンター]
本会場となるコンベンションセンターは、ジュエリーショウだけではなく、さまざまな見本市が毎月行われています。一見帽子のひさしのような外観に見えますが、実は風水により金運が上がりますようにとの願いを込めて、「亀」の形を表しているのだそうです。一階から最上階まで世界最大のガラスが張られており、そのガラス越しの景色は素晴らしく、ぜひ夜景も見てみたいと思いました。
そして、ジュエリーショウ初日の受付はどこもかしこも人だらけで大変な混雑です。中国や台湾、韓国、日本などアジアはもちろん、アメリカ、インド、それに欧州など、世界中からの沢山のバイヤー達で会場は埋め尽くされていました。同僚が一度会場外に出た時など、戻ってくるまでに30分以上もかかってしまうほどでした。
会場の中はとにかく広くホール数だけで7つもあります。その全フロアが使用されていましたので、1日ではとても回りきれるものではありません。全部見るには、早足で3日かけてギリギリ見て回れるかどうかという感じで、本当に見応えがありました。その中でも一番賑わっていたのはホール1で、地元の香港のメーカーが多数出展しており、今やジュエリー業界の発展はこのホールからといってもいいくらいの混雑ぶりでした。ブース出展の順番待ちが多すぎるために今年から空港の方にも会場を設けたのでしょう。
余談ですが、あるブースに立ち寄りダイヤを検品している時、まるで大女優のような風格をもつインドネシア人の親娘が隣にやってきて、こちらに話かけてきました。その奥様いわく「50万ドル持ってきたのに、買いたい商品がぜんぜん無いわ!」とおもむろにバックの中のドルの札束(3束も)を見せられてしまいました。お金はあるところにはあるものですね。
また他のブースで、ある会社との商売上のやり取りが行き詰っていた時、偶然インド人の知人と再会しました。彼はその会社の社員で現在ドバイ駐在なのですが、香港支社が参加している関係でこちらに来ているとのこと。彼は、香港スタッフとの間に入り「問題は何なんだ?ヘルプできるなら俺がするぞ」と助け舟を出してくれたのはよかったのですが、あまりにも厳しい日本のマーケット用のオーダーを聞いた瞬間、彼は顔を曇らせ「スマン、それは難しい…」と。日本のマーケットは世界一厳しいのかもしれません。

まとめ

日本で感じる業界の雰囲気とは違い、まさにワールドワイドな仕事の一端を担っているのだなと感じるとともに、香港経済の力強さも感じました。香港島の中環を見回せば海沿いから山側まで続く細長い高層ビルが立ち並ぶ金融を始めとする香港経済の中心、またヴィクトリア湾を隔てた九龍の尖沙咀は喧騒に包まれた商業の街。あらゆる種類の企業や店が、新旧、高低と一緒くたに立ち並び、独特の雰囲気を作り上げているのです。この喧騒に包まれた街中で日々たくましく生活している人達に負けないよう頑張らなくてはと思いました。今後ともよろしく御願いいたします。


アイスブルーダイヤモンドの商品およびTVコマーシャルについては下記担当者までお気軽にお問い合わせ下さい。
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CIBJOバンクーバー総会

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PanPacific Hotel

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July 24 – Morning Session

今年のCIBJO総会は7月24日から27日の4日間、カナダ西岸の都市バンクーバーに世界各国から300名以上の出席者を集め開催されました。本年はCIBJO創設80周年を迎える年であり、総会初日には正式に国連からコンサルタント組織として認められたことが発表され、この数年間改訂作業が進められていた各ブルーブック(色石、ダイヤモンド、真珠)の承認の件もあり、例年になく活発な国際会議となりました。

CIBJO 総会は7月24日からバンクーバーのパンパシフィックホテルで開催され、総会初日の午前9時から始まった開会式では、宝飾品業界の長期の健全を確実にするために業界は若い消費層にすばらしい宝飾文化を浸透させる努力をするようにとCIBJOカヴァリエリ会長からの呼びかけの挨拶で総会はスタートしました。これに続きカナダ政府代表、国連代表、産業団体の各代表から挨拶があり、特に国連経済社会理事局主任メゾイ女史からは、CIBJOが国連の経済社会理事局(ECOSOC)の公式相談を受ける唯一の組織に認められたことが公に伝えられました。

その後、各ゲストスピーカーから様々な発表があり、スピーカーの多くは12月公開予定の映画“The Blood Diamond”について触れました。これは、レオナルド・デカプリオを主役として、1990年代後半のシエラレオネのダイヤモンド密輸業者の話です。この映画が公開前に問題として捉えられている理由は、キンバリープロセス1) やシステム オブ ワランティ2) の機能で紛争ダイヤモンドを排除している業界力が示されていないために紛争ダイヤモンドが市場に出回っているイメージを与える可能性がある、そしてそのイメージのため一年で最もダイヤモンドが売れるクリスマス時期にダイヤモンドの不買運動が起きることが懸念されるためです。

1)キンバリープロセス
国連、政府、NGO、およびダイヤモンド業界によって始められた人道問題に関する共同の取り組み。その取り組みは紛争資金を供給する不法に取り引きされるダイヤモンド原石を世界から排除するもので、今日68の政府がNGOとダイヤモンド産業界に協力して法的な抑制を行なっている。

2)システム オブ ワランティ
キンバリープロセスに則ったダイヤモンド原石から研磨されたダイヤモンドおよびそのダイヤを含む宝飾品であることを消費者に証明するものためのもので、買い手および売り手はインボイス上でキンバリープロセスに則ったものであることを保証する定められた声明文を記載することが義務付けられている。

総会2日目は各委員会に分かれて会議が進められました。

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July 25 – Pearl

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July 23 – Pearl Commission

真珠委員会(議長:Martin Coeroli;フレンチポリネシア) は、昨年の香港総会で新たに結成されたパールステアリングコミッティ(運営委員会)が一年間という短期間で密に活動し作成したISOフォーマットで書かれた真珠ブルーブックの検討がなされました。

大きな変更を紹介しますと、新しい真珠ブルーブックでは消費者に“告知を必要とする真珠の加工処理”と“告知を必要としない加工処理”が一覧表に纏められています。本委員会の2日前に開かれていたパールステアリングコミッティでは、日本側代表の主張は通らず、漂白、調色、および加熱(加温を含む)は“告知を必要とする加工処理”に決定されました。しかし、漂白だけはこの本会議でどちらの分類に入れるかが再度討議され、アコヤ真珠の漂白と黒蝶真珠を漂白してチョコレート色にするのは目的が大きく異なり、チョコレート色のように色が変化しているものに対しては色の改変(Colour alternation)という定義と用語を新たに設け、“告知を必要とする真珠の加工処理”に分類し、アコヤ真珠などの漂白だけは“告知を必要としない加工処理”に分類することが最終的に決定されました。

ダイヤモンド委員会(議長:Harry Levy; 英国)からは、技術的な部分を排除したダイヤモンドブルーブックが提出されました。但し、技術的な部分は一般仕様書3) PAS1048を“引用規範”としてその中で紹介しており、このPAS1048は以前ISO化を目指して纏め上げられ、国際規格として承認されなかったものであるため、“引用規範”とすることに反対意見が出されました。決議の結果、PAS1048をそのまま残すことで決定されました。
その他トリートメント以外の用語の使用禁止、すなわちエンハンスメント、プロセスなどの用語の使用禁止が決定され、先月のWFDBテルアビブ総会で決定された合成ダイヤモンドへのグレードに対する考えを支持する声明文が作成されました。

3)一般仕様書
専門家同士のコンセンサスを示す規範文書で、ISO作業グループの技術専門家間の同意に基づいており、投票で委員会メンバーの1/2以上の賛同が得られれば、PASとして発行できる。

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July 25 – Colored Stone Commission

色石委員会(議長:N.アラウディーン;ヴァラサクスリ委員長の代理として)
昨年香港総会で承認された色石ブルーブックの内容の一部改定が提案され、満場一致で承認されました。しかし、昨年から大きな課題として取り組んできた第8 条(一般開示)と第9条(特別開示)の統合について、日本は現在のJJA/AGLルールが基本的に完全開示を行なっているため統合に賛成で、いち早く統合のための案を色石ステアリングコミッティに提出して来たわけですが、ドイツやフランスなどの強い抵抗があり統合の実現には至りませんでした。但し、全出席者は完全開示がCIBJOブルーブックの目標として残っており、ブルーブックの第8条と第9条の改定、あるいは代替の解決策を求めて再びステアリングコミッティを年内に開催し議論を続けてゆくことで同意しました。
その他、ブルーブックは業界人であっても専門用語を知らない限り読みづらいものであるため、消費者や業界人にとって判りやすい小冊子を作成することが提案され、こちらも承認が得られました。

ラボラトリー委員会(議長:Héja Garcia-Guillerminet;フランス)
ラボラトリーステアリングコミッティでは、現在のCIBJO認定ラボラトリーのシステムがヨーロッパ法に照し合せると独占禁止法に抵触する危険性があるとの指摘を法律事務所から受けており、CIBJOと認定ラボの関係および法律的な問題の無いシステムの再構築を行ない、最終的な案が発表されました。
その結果、一国一機関のCIBJO認定ラボラトリー制度は廃止され、ラボの種類に関係なく条件を充足していれば如何なるラボでも登録申請が出来るようになり、またラボラトリー委員会の名称は宝石学委員会に改め、今後宝石学および技術的な側面のみを扱うようになるというものでした。これらの提案の採決は3日目の全体会議へとまわされ、そこで承認されました。
その他、合成ダイヤモンドのグレード用語について話し合いが行なわれ、ここでは天然と同じグレード用語を使用するべきではなく、明らかに異なる用語で合成ダイヤモンドの等級付けをするようにラボラトリーと交渉しているWFDBとIDMAの姿勢が評価されました。

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July 26 – Assembly of Delegates

総会3日目は、朝8時からはセクターIII 会議が開かれ、セクターIII に属する色石、ダイヤモンド、真珠、ラボラトリーの各委員会議長から決議事項報告が行なわれ、質疑応答の後、セクターIII 会議でも全て承認されました。
続いて倫理委員会が開催され、ここでも話題は紛争ダイヤモンドを扱った映画である“The Blood Diamond”の問題が取り上げられていました。また、CIBJOメンバーはWorld Diamond Councilのシステム オブ ワランティの導入をモニターし、必要であるならばそれに応じないメンバーに対して懲戒処分を与え、システム オブ ワランティを採用する会社の確保がメンバーに呼びかけられました。その他、倫理委員会は色石、真珠、および貴金属セクターの範囲で倫理に関わる問題に対処するための戦略を定式化する研究を開始することも発表されました。
午後からは本総会の総括である全体会議が開かれ、活動報告、予算報告、続いて各セクターおよび委員会議長からの決議事項報告が行なわれ、最後に次回CIBJO総会はケープタウン(南アフリカ)で2007年3月に開催すると発表されCIBJOバンクーバー総会は無事終了しました。

CIBJO(国際貴金属宝飾品連盟)について
CIBJO(World Jewellery Confederation)の前進であるBIBOAは1926年にヨーロッパの宝石貴金属業界の情報交換と国際的な相互利益のために発足し、その後1961年に国際的な組織として再編成され現在のCIBJOとなりました。
日本はJJAの前身である日本貴金属宝飾品製造卸組合連合会が中心となり1979年5月のCIBJO総会で日本の加盟が全会一致で承認され、以降日本国際貴金属宝飾品連盟(CIBJO OF JAPAN)としダイヤモンドマスターストーンの導入、CIBJOレポートの発刊等を行い、1988年設立されたJJAがこれを承継し、総会に毎回代表を派遣しています。
CIBJO では、貴金属宝飾品の製造関係をセクターI 、貴金属宝飾品の流通関係をセクターII 、ダイヤモンド、色石、真珠などの宝石類、およびラボラトリーに関することについて話し合うセクターIII の3部門と倫理委員会に分けています。参加国はこれらの部門や委員会に代表を指名し出席させることが出来ます。

平成18年第19回国際鉱物学会総会

国際鉱物学会議(IMA, International Mineralogical Association)は世界各国の鉱物学及び地球物質化学関連の学会が加盟する国際組織で、およそ4年に1回総会が開かれています。今年は第19回目の総会が、7月23日から28日までの6日間に渡って神戸のポートアイランドにある神戸国際会議場で行われ、筆者も参加する機会を得ましたので報告したいと思います。
合計約480件の口頭発表と約400件のポスターセッションでの発表があり、それらは37分野に分類されていました。これらの分野の中には宝石学のセッションもあり、今回は口頭発表8件(残念なことにうち2件はキャンセル)、ポスターセッションは3件でした。開催期間の都合で複数のセッションが平行して行われるため、聞きたかった発表をすべて回ることができず残念な思いをしましたが、以下に宝石学セッションの内容についてご紹介します。

【口頭発表】
ダイヤモンド関係は、J.E. Shigley氏の「HPHT-treated colorless and colored gem diamonds」とFritsch E.
氏の「The first color center related to the brown graining in type Ia natural diamonds」の2件。色石関係はC.Ionescu女史の「Cenozoic fossil resins used in gemology : towards a practical grouping」、
C.Aurisicchio氏の「Archaeological emerald provenance : A contribution from trace elements analysis
by secondary ion mass spectrometry」、川野潤氏の「Behavior of Beryllium diffusion in Corundum」、
Ahmadjan Abduriyim氏の「Application of LA-ICP-MS to the gemological field」、以上4件がありました。
J.E. Shigley氏、Fritsh E.氏のダイヤモンドに関する発表は、問題になっているHPHT処理ダイヤモンドに関係する話題である事と、発表のキャンセルによって質疑応答の時間が多目に取れたということもあって、非常に多くの質疑応答が行われていました。このセッションのうち特に川野潤氏の「Behavior of Beryllium
diffusion in Corundum」が個人的に興味深かったので紹介します。この発表では分子動力学(MD)シミュレーションを用いてコンピューター上でコランダム中のBe(ベリリウム)の拡散挙動について計算している点が非常に新しいと思いました。MDシミュレーションとはコンピューター上に精密に計算された原子配列、温度、圧力を設定し、時間が進むとどうなるのか、計算する手法です。この手法でコランダム中にBe原子が温度1300Kから2300Kの間で拡散可能であると計算されました。また、この手法で得られた拡散定数は合成コランダムにBeを1700Kで拡散加熱させる実験をして得られた拡散定数とよい一致を見せる点から、このMDシミュレーションはコランダム中のBe拡散挙動をよく示していました。このシミュレーションは通常のBe拡散過熱処理が行われているであろう温度よりも低い温度で拡散過熱が可能であるということと、MDシミュレーションは今後あらわれてくるであろう処理を予見する方法として有力な方法であることを示唆しています。

【ポスターセッション】
ポスターは開催日のうち2日にわけて貼り出されました。 
Fritsch E.氏の「Pigments in cultured freshwater pearls : identification using Raman scattering and
UV-Vis spectroscopy」、神田久生氏は「Two types of the Blue Band-A Luminescence of Natural
Diamond」、下林典正氏の「Iridescent andradite garnets(Rainbow Garnets), newly-found from the
Tenkawa area in the Yoshino district, Nara Prefecture, Japan」の3件の発表がありました。
神田久生氏の発表は、Band-Aと呼ばれるダイヤモンドのブロードなルミネッセンスバンドが2種類存在し、1つはダイヤモンドが成長する際に獲得した欠陥によるもので、もう1つは成長後に受けた歪みによるものであろうという内容でした。
下林典正氏は奈良県吉野地方天川で近年発見されたレインボーガーネットについての紹介と、レインボーガーネットのイリデッセンスを示す組織についての詳細な分析結果を発表されました。

今回は日本での総会開催ということもあり、日本人の参加者が非常に多かったように思えます。講演会場は満席に近い状態で、非常に活発な議論が行われていました。

次回の第20回国際鉱物学会総会は、2010年ハンガリーのブダペストで8月21日~27日に開催される予定になっており、また機会があれば参加したいと思います。

平成18年宝石学会(日本)のご報告

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会場・神戸芸術工科大学

平成18年度の宝石学会(日本)の講演会および見学会が7月22日(土)・23日(日)に開催されました。今年度はIMA(International Mineralogical Association、国際鉱物学連合)の総会が神戸で開かれること等に合わせ、例年よりひと月程時期を繰り下げ、神戸芸術工科大学での開催となりました。
講演会は、東京以外での開催にも拘らず80名もの参加者が集い、特別講演2件、一般講演17件を熱心に聴講する姿が見られました。
一般講演は発表・質疑応答を含めて20分の持ち時間、特別講演は40分の発表時間で、プログラム通り、ほぼ滞り無く進行致しました。

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江森所員

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藤田所員

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藤田所員奨励賞

当中央宝石研究所からも2件の登録があり、江森所員が「Be拡散加熱処理を施されたブルー・サファイアの鑑別について」という演題で、藤田所員が「コパルの加熱実験による諸データの変化について」という演題で、研究成果の発表を行ないました。発表内容については本誌上で順次掲載していく予定です。(講演プログラムは前号参照)
また、藤田所員はコハクなどについての研究成果・発表内容が評価され、宝石学会奨励賞を受賞致しました。
奨励賞とは、継続的に発表を行ない学会に貢献した若手研究者に授与される賞で、今回は全国宝石学協会のアヒマディ氏と藤田所員の二人が受賞対象となり表彰されました。


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シグリー博士

特別講演1はGIAリサーチ部門の責任者であるシグリー博士(Dr. James E. Shigley)が、「天然、処理および合成宝石ダイヤモンドの鑑別」という演題で講演を行いました。照射やHPHTの処理方法について、高温高圧法および最新の化学的気相法(CVD)による合成方法について、さらには複数の処理がなされた(例えば照射処理に加えてHPHT処理がなされた等)ダイヤモンドの鑑別法についてなど、GIAの研究成果が発表されました。

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小倉教授

特別講演2は、会場となった神戸芸術工科大学の小倉繁太郎教授が「構造色から見た透明体内部の分光測色」という演題で講演しました。透明な宝石(特にオパール)内部の局所的分光測定と従来の表面で得られた構造色との比較等についての専門的な内容の講義でした。構造色とは、顔料・染料による色ではなく、回折・干渉・散乱による特異な色が現れる現象を指します。小倉先生のご専門は応用物理の光学薄膜・構造色です。

一日目の講演会終了後は、学内の厚生館に場所を移し懇親会が行なわれました。和やかな雰囲気の中、参加者同士で交流を深めたり、質疑応答時に質問できなかったことを熱心に聞かれる方もいらっしゃいました。



二日目は、42名の参加者が鳴門のうず潮と淡路島洲本にある真珠製核工場を見学致しました。うず潮の見学はちょうど大潮の時間帯に観潮船に乗れたため、船上で波しぶきをあびる方までいて、自然の雄大さに触れることができました。真珠製核工場では、工場の方から丁寧な説明があり、核の製造工程をつぶさに見学することができました。核に使用されるミシシッピ産カワボタンガイ(ウォッシュボード)等についても知見を深めることができ、大変有意義な見学会となりました。

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渦潮

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ウォッシュボード

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製核工場・貝切断