Gemmy 153 号 「ラボトピックス「シャコ核を使用した有核淡水養殖真珠」」

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Gemmy 153 号 「ラボトピックス「シャコ核を使用した有核淡水養殖真珠」」

シャコ核を使用した有核淡水養殖真珠

東京支店 横山 照之  

はじめに

先日、東京支店にバロック系の真珠(短径が約9.0~11.0mm)が鑑別のために持ち込まれました(写真1、2)。通常の鑑別手順で淡水産の真珠であることはわかりましたが、珠の形状から核の存在が予想されたため、予備的に軟X線透過検査を行ったところ、全ての真珠に核の存在が確認され、またそれらにはヒビや割れがみられました。通常、淡水真珠の養殖には核を使用せず、ピース(外套幕切片)のみを使い真珠が養殖されるため、珍しいケースと言えます。また養殖核は一般的に淡水産二枚貝を球形に加工したものを使用しますが核にヒビや割れが生じることはほとんど無く、今回のように全ての真珠の核で問題が見受けられるケースは知られていませんでした。そこで「核」に何らかの原因があるのではないかと推測し、破壊検査を含めたさらに踏み込んだ検査を行うため、先述のネックレスに使用されている珠と同等の「両穴の淡水養殖真珠」15個を別途借り受け、調査を行いました。

外観・特徴

形状はタドポールからヘビーバロックの大珠養殖真珠で、淡水養殖真珠を示唆する光沢をもち、オレンジやパープル、白色から薄黄色と多彩な範囲のボディーカラーをもっています。(淡水真珠で大珠を養殖する方法は、生殖巣で有核養殖を行う方法と外套膜で多数個の真珠養殖を行った後、母貝を生かしたまま養殖真珠を抜き取りパールサックに新しく核のみを挿入し養殖をする方法があります。)

写真1 有核淡水連

写真1 有核淡水連

写真2 有核淡水一連(拡大)

写真2 有核淡水一連(拡大)


 

予備検査

軟X線透過検査によると、15個のうち2個は無核でした。残りの有核の珠13個のうち何の問題も見受けられない珠は1個(サンプル (1))のみで、12個(サンプル (2))に「核にヒビや割れ」が認められました。

写真3-1 サンプル(1)

写真3-1 サンプル(1)

写真3-2 サンプル(1)X-Ray

写真3-2 サンプル(1)X-Ray


 

写真4-1 サンプル(2)

写真4-1 サンプル(2)

写真4-2 サンプル(2)X-Ray

写真4-2 サンプル(2)X-Ray


 

検査方法

核を露出させて拡大検査や蛍光X線元素分析を行なうため、表面の真珠層と核を切り離しました。サンプル (1)は核と真珠層をスムースに切り離し出来ましたが、サンプル (2)では核が複数個に割れてしまいました。

拡大検査

サンプル (1)の核は平行な層状構造からなり、真珠層構造を持つ貝殻に見られる”ギラ”と呼ばれる特徴が見られました。
サンプル (2)の核では平行な層状構造と、その構造に対してほぼ垂直方向に細かく成長構造が見られましたが、“ギラ”と呼ばれる特徴は見られず、一部に交差板構造の特徴といわれる” “フレーム(火炎模様)”が見られました。

蛍光X線元素分析

海水産貝殻・真珠と淡水産貝殻・真珠を区別する方法としてカルシウム(Ca)に対してマンガン(Mn)やストロンチウム(Sr)の量比に着目する方法が知られています。淡水産貝殻・真珠には特徴的にMnが存在し、微量のSrを含有しますが、海水産貝殻・真珠ではMnは検出限界以下となり、ある程度のSrを含有します。当該サンプルを分析した結果、サンプル (1)は「淡水産貝」を加工した核が使用されている事が確認できました。また、サンプル (2)では「海水産貝」を加工した核が使用されており、さらに外観的特長からシャコ貝と考えられます。

最後に

今回の検査の結果、軟X線透過検査において「核にヒビや割れ」が起きているこれら類似性のある真珠の核にはシャコ貝が使用されていると考えられます。
これまでは核の素材について問われることはありませんでしたが、シャコ貝核にはじまり鉱物のドロマイトやパラフィンなど、多種多様の物質が養殖真珠の核として使用されている事に対して、(社)日本真珠振興会は2009年度版 真珠スタンダード I-2-1-1有核養殖真珠の項目で「ピグトウ、ウオッシュボード、メープルリーフ、スリーリッジ、エボニーシェル等米国産の淡水産二枚貝の貝殻真珠層を切断、研磨等の物理的加工により球形に成型した真珠核及び外套膜小片(ピース)を人為的に生きた真珠貝の体内に挿入することにより、核の周囲に真珠袋(パールサック)が形成され、その袋内で核表面に真珠層が形成されたもので、外観し得るその表面全体が真珠層で覆われているもの。」と養殖真珠の核の素材について言及し、定めました。今後私たち鑑別機関は表面から見る事が出来ない核についても検査および何らかのコメントを求められる時期が来るかもしれません。私たちはその時期に備えなければならないと考えます。