Gemmy 153 号 「第10回日本琥珀研究会報告」
東京支店 藤田 直也
今回で10回目を迎えた日本琥珀研究会が、2009年の11月28日、29日に開催されました。日本琥珀研究会は日本中の琥珀研究家、琥珀愛好家が一同に集まる研究会です。会員数は75名を数え、一年に一度研究会を開催しており、昨年度は20人の会員と2人の非会員が集まりました。
北九州市立自然史・歴史博物館
研究会会場 壇上は寺村会長
11月28日に開かれた総会では、寺村光晴会長の挨拶の後、各役員から決算、事業計画などが報告されました。今回は第10回ということもあり、琥珀研究会にとって重要な節目です。琥珀研究会という名称についての意見や、会誌のあり方、その記事の内容についても討論されました。会誌の記事の内容については、日本各地の琥珀や歴史的に意義のある琥珀を分析し、会誌に載せてみてはどうかという提案や、その試料の選定には特別に委員会を設けてはどうかという提案が上げられました。また、この大会にあわせて10周年記念会誌「こはく」が発行されましたが、この会誌には歴代会長の記事や、中條利一郎氏(帝京科学大学 理工学部 教授)、植田直見氏(財団法人元興寺文化財研究所)による化学分析などが掲載されており、非常に興味深い内容になっています。
同日に開催された研究発表会では4件の発表が行われましたので、以下に報告します。
熱分解-ガスクロマト/質量分析による琥珀の分析
発表者:(財)元興寺文化財研究所 植田 直見
住友金属テクノロジー(株) 渡邊 緩子
Py-GC/MS装置
非常に困難である琥珀の産地同定を熱分解-ガスクロマト/質量分析(Py-GC/MS)を用いて分析する方法が紹介されました。この方法では試料を低分子、次に高分子の化合物へと二段階に分けて揮発させ分析を行うため、劣化した琥珀の分析への活用が期待でき、実際に分析した例でも産地による差異を示していました。今後産地のサンプルデータを増やしていくことで、劣化した琥珀の産地の同定もますます可能になるのではないかと思われます。
久慈琥珀の虫入り再発見の経過
発表者:川上 雄司
文献では19世紀初頭にアブの入った琥珀が久慈から見つかったという報告がありましたが実物は現存しておらず、久慈で実際に虫入り琥珀が見つかったのは1984年でした。この琥珀は中生代白亜紀後期のもので、この時代の虫入り琥珀の発見はわが国ではこれが初めてであり、世界的に見ても珍しいもので、この発見に至るまでの経緯が写真、地質図などを用いて説明されました。
古墳時代後期の琥珀製棗玉について
発表者:明治大学校地内遺跡調査団 斉藤 あや
琥珀製棗玉
古墳から出土する琥珀のうち、特に棗玉について年代、サイズ、地域分布などについて調査した詳細な結果が発表されました。年代別の出土数は古墳時代前期と中期前半では少なく、中期後半から後II期にかけて増加し、後IV期に最盛期を迎え、そこから再び減少する傾向があり、サイズに関しては前期には小さいものが多く、後IV期に最も大きくなる傾向があるようです。また地域に関しては、はじめは西日本のほうが多かったものが、後IV期になると千葉での出土数が非常に増えており、これは千葉で多く琥珀が採れるようになったことと関係があるようです。
新発見の久慈産虫入り琥珀
発表者:久慈琥珀博物館館長 佐々木 和久
クジアケボノアリ
クンノコアリ
久慈で最近新しく発見された新種のアリ2種類と、恐竜の化石、ワニの化石についての発表がありました。
今回発見されたひとつ目のアリは「クジアケボノアリ」と名づけられ久慈産の琥珀から見つかったもので、いわき市などで発見されたアケボノアリの新種であることが判ったそうです。二つ目のアリは「クンノコアリ」と名づけられたブルブラアリの仲間の新種で、国内でアリの化石が発見されたのは福島県のいわき市についで2箇所目です。ちなみにクンノコというのは久慈地方の方言で、琥珀のことを意味するそうです。
ワニの歯の化石
恐竜の化石は、久慈琥珀博物館の琥珀採掘体験場の地層から2008年にみつかりました。白亜紀後期の恐竜の化石は珍しく、骨の太さから体長は2メートル程度ではないかと推定しています。周飾頭類の化石の可能性があり確認されれば国内で初の発見になりますが、標本が足りないため断定するにはいたっていません。
今回発見されたワニの歯の化石は球状の奥歯で、恐竜の化石同様、琥珀採掘体験場の地層から発見されました。恐竜の化石やワニの化石が見つかったことで、今後その他の化石が発見される期待が高まっているようです。