Gemmy 153 号 「ラボトピックス2「茶褐色のバーンマークを持ったダイヤモンド」「茶褐色の珍しい内包物を持ったダイヤモンド」」
東京支店 戸田 長利
茶褐色のバーンマークを持ったダイヤモンド
昨年の暮れにブラウン味を帯びたラウンドブリリアントカットのダイヤモンド(1.03カラット)が弊社東京支店にグレーディング(ソーティング)のため持ち込まれました。お預かりしたダイヤモンドは全て正確なグレーディングを実施するため、検査に入る前には念入りに洗浄が行われますが、洗浄後このダイヤモンドからブラウン味は除去されませんでした。
顕微鏡による拡大検査をしたところ、ブラウン味はダイヤモンドそのものの色ではなく、茶褐色斑がガードル近くのクラウン部表面に広く分布しているが原因であり、またスリガラス状のガードル表面に地金の跡があったことから、指輪などの宝飾品から外した石であることも判明しました。また、このダイヤモンドのテーブルにはSPマーク* が入れられており、それによるとHカラーの表示がありました。
このような事実から、われわれは茶褐色斑で汚される前のダイヤモンドはHカラー相当だったものが、加工の際のバーナーの高熱によって表面が焼かれてバーンマーク(火傷状態)を生み、しかも何らかの汚染物質も焼き付けたために褐色斑状模様を生んだのではないかと判断しました。
通常の白く濁ったようなバーンマークであれば、カラーにはほとんど影響を与えず、バーンマークの存在はフィニッシュ項目の研磨状態で評価が行われます。しかし、今回のようにバーンマークが茶褐色に染められている場合はカラーの評価を不可能にするため、グレーディングの依頼をキャンセルさせていただくことになります。バーンマークはダイヤモンドクロスや超音波洗浄器では取ることが出来ませんが、再研磨で表面を磨き直し、本来の石の地色が検査できる状態にして再度お持ち込みいただければグレーディングは可能になります。
茶褐色の珍しい内包物を持ったダイヤモンド
このダイヤモンドも東京支店にグレーディング(ソーティング)のために預けられた1.19カラットのラウンドブリリアントカットのダイヤモンドで、肉眼でも茶褐色の内包物が見えるような石でした。顕微鏡による拡大検査では、ダイヤモンド表面から内部にかけて箒状に広がる茶褐色の内包物の集合が数箇所に偏在していました。
この箒状の内包物の集合を顕微鏡で拡大して観察すると、一本一本は中空の角張った柱状の孔が密集しているもので、表面に近いほど褐色味が濃いことが判りました。これらは、ダイヤモンドの結晶が成長する過程で発生した転位* がマグマの融食作用によって束状のエッチピット(融食孔)を生み、また周囲に存在した放射性鉱物や液体の影響で結晶面だけでなく孔の内側までも着色され、研磨されない孔の内側だけに茶褐色味が残ったものと考えられます。
このようなダイヤモンドには自然界の神秘を深く感じさせられ、グレーディングの現場に携わる我々にとって感動の瞬間でもあります。しかし、多数の茶褐色の内包物はダイヤモンドのカラーの評価に大きく影響を与え、正確なグレーディングを困難にするため、残念ながらグレーディング依頼をキャンセルさせて頂きました。但し、石の色が天然の色か処理によるものかを判断することは可能なため鑑別書の依頼は受けられます。また、グレードの善し悪しではなくダイヤモンドの内包物の魅力をエンドユーザーに伝えるため、数十倍から数百倍に拡大した包有物の写真を添付した報告書『宝石の内部世界』もこのようなダイヤモンドを販売する際に利用して頂けたらと考えております。
箒状に広がる茶褐色の内包物を有したダイヤモンド
拡大写真(30倍)