Gemmy 148 号 「国際会議報告・第2回国際宝石宝飾コンフェレンス(GIT2008)」
タイのAlongkorn Ponlaboot商務副大臣による
開会の挨拶
第2回国際宝石宝飾コンフェレンス(GIT2008)が3月9から12日までの4日間、タイで開催されました。このコンフェレンスは、バンコックのGem and Jewelry Institute of Thailand(GIT)によって2006年から隔年開催の予定でスタートした宝石に関する国際的な学術会議ですが、2度目の開催となる筈だった昨年12月はタイ反政府派デモによる影響で首都バンコクに「非常事態宣言」が発令されたために延期を余儀なくされ、“GIT2008”は今年2009年3月に年を越して開催されました。
映画『戦場にかける橋』で有名な
クウェー川の鉄橋
昨年完成したばかりのBangkok Convention Centreで講演会は開かれ、初日と2日目は5本の基調講演と86本の一般講演が鑑別及び新技術関係、起源及び産地関係のテーマ毎に会場を二つに分けて同時進行で進められました。2日間のバンコクでの技術的なセッション後は、ポストコンファレンスで何十年もの間サファイアを供給し続けているカンチャナブリの鉱山に向かい、ボー・プロイ(Bo Phloi)宝石フィールドのサファイア産出する玄武岩露頭を散策し、現地の小規模宝飾工場も見学しました。またその道すがら宝飾品の工房、クメール遺跡(Phrasat Mueang Sighn Historical Park)で古代遺跡を見学、および第二次世界大戦の歴史(秦緬鉄道博物館と連合軍共同墓地)にも触れる小旅行でした。
以下に講演内容の幾つかをご紹介します。
HPHT処理タイプIIaダイヤモンドのフォトルミネッセンス
Photoluminescence of the HPHT processed natural type IIa Diamonds
発表者:Hyun Min Choi 氏
ナチュラルカラーのダイヤモンド(カラーグレードD~J)とHPHT処理を受けたダイヤモンド(カラーグレードF~L)のフォトルミネセンス分光分析は、全てのタイプllaサンプルから少量の窒素を検知し、結晶格子中に分散している多くの点欠陥の存在を明らかにするのにも非常に効果的であった。フォトルミネセンス測定は、液体ヘリウム温度で514.5nmと488nm励起のアルゴンイオンレーザーを用いて行われた。天然のタイプllaダイヤモンドにおいて503.1nmピークの半値全幅(FWMH)は0.09~0.36 nm、HPHT処理をうけているタイプllaダイヤモンドでは0.35~0.86nmであり、637nmピークのFWHMは、ナチュラルカラーのタイプlla で0.03~0.48nm、HPHT処理タイプlla で0.40~1.77nmであった。タイプllaダイヤモンドの色が処理されているかどうかは、ピークのFWHM分布と(NV)-/(NV)0比率によって評価ができ、503.4nm(3H)と741nm(GR1)のピークに関しては今回のHPHT処理のサンプルには見られなかった。
これらのフォトルミネセンスデータから、HPHT処理をうけているタイプllaダイヤモンドを天然のものと分けるためのヒントとしてH3と(NV)-の半値全幅(FWMH)が使えると結論された。
処理レッド ラブラドーライト-アンデシンの調査
A study on treated red labradorite-andesine feldspars
発表者:Claudio Milisenda 氏
最近拡散処理か否かで物議を醸し出している赤色のアンデシン/ラブラドーライトについての発表。発表者は処理前後の斜長石サンプルをタイと中国の処理業者からそれぞれ入手し、断面の観察を行った。
タイで処理された処理期間3ヶ月のサンプルには色の拡散されたような痕跡は見つけられなかったが、処理期間1ヶ月と2ヶ月のサンプルからは赤色リムと無色に近いコアを発見しており、色が表面から拡散したことを示唆していた。蛍光X線とSEM分析では処理石の中の銅含有の増加も確認された。さらに、銅物質が幾つかの処理された原石表面上に見付かっており、銅の豊富な薬品が熱処理の間に使用されたと示唆される。
中国で行われた処理に関してどんな情報も与ることは出来なかった。未処理の原石と比べると、処理石はより高い銅の含有を示した。処理サンプルの断面からは、オレンジ味を持った赤のコアとほぼ無色のリムが観察できた。
様々な分析テクニックでこれらのタイプの特性調査を始め、より多くのサンプルがテストのために集められているため、特性の詳細は今後示されるであろうと言った発表であった。
ミャンマー産レッドスピネルの熱処理実験
The heat-treatment experiments of red spinel from Myanmar
発表者:Boontawee Sriprasert 氏
ミャンマー産のパープルとオレンジピンクのスピネルを実験的に熱処理し、オレンジ味と紫味を取り除くことが出来た。処理の後、大部分の石の明度は下がり、彩度が上がり、商売上より望ましい赤色に変化した。
実験では、このようなタイプのスピネルの色を高める最適な条件は酸化雰囲気中でおよそ1000℃。800℃から1200℃への加熱の後、赤から紫赤色のスピネルには390と545nm(Cr3+)に強い吸収を持っていたが、372nmの鉄吸収ピークは幾つかの石では減少するか消える傾向があった。
フォトルミネセンス(PL)分光は685nmと他のマイナーなピークがより高い温度で加熱されると徐々に減少するかブロードになるが、687nmピーク強度の増加は明らかだった。
鑑別の観点から、加熱によるPLスペクトルの変化は熱による内包物の変化と共に赤スピネルの加熱処理を同定する証拠の1つとなるという内容であった。
イラカカ産ルビーとサファイアの加熱処理の同定
Detection of heat treatment in rubies and sapphires from Ilakaka
発表者:Bhuwadol Wanthanachaisaeng 氏
マダガスカルのIlakaka-Sakaraha地域からのルビーおよびサファイア中のジルコン包有物をラマン分光分析し、FWHMとラマンシフトのピーク位置からみた加熱処理の同定法が提案された。
未処理サンプルで最低のFWHMは5.4cm-1で、最も低いラマン-シフトは1013cm-1であったが、1000℃の処理の後、加熱処理サンプルのFWHMは未処理サンプルのものよりも小さくなることが明らかになり、このテクニックで低温加熱の同定が出来ることを明らかにした。
1200から1600℃の加熱でFWHMは更に減少したが、ラマンバンド位置は再びより長い波長にシフトした。これはジルコン結晶の分解(m-ZrO2とSiO2)の始まりによって説明されることが出来る。
拡大検査でジルコン包有物は1400℃以上で外観の変化が現れるが、はるかに敏感な方法はジルコン包有物の結晶化度の決定であった。既知の加熱パラメータで、1000℃のどちらかと言えば低い温度での処理の後、容易に熱処理を発見できた。
ラマン分光法による構造チャネル中の水タイプの分類
Classification of water types in structural channels of beryl by means of Raman Spectroscopy
発表者:Tobias Haeger 氏
エメラルドは典型的なサイクロ珪酸塩(Be3Al2Si6O18)である。ベリルのチャンネルには余分な分子(例えば、水、CO2、およびNH4+)を捕らえることができる。ベリル中の水分子のタイプは、40年以上前に赤外分光の研究により分類された。タイプIは水分子が単独で存在し、その対称軸の方向はエメラルドのc-軸に垂直である。 タイプIIは水分子が近くにアルカリを伴っており、その対称軸はアルカリイオンとの相互作用の結果、母体結晶のc-軸に平行である。Schmetzer(1989)、SchmetzerおよびKiefert(1990)は、天然および合成エメラルドの区別に関する彼らの研究で、水分子が単独で存在するか近くにアルカリ(主にナトリウム)を伴っているかについて言及している。
すべてのサンプルは水について特徴的な3500cm-1から3700 cm-1の範囲をc軸に対して垂直な方向で測定し、すべての「フラックス合成」のエメラルドからはこの範囲にラマンバンドは示さなかったが、「熱水合成」のエメラルドでは、3608cm-1に1つバンドを示した。すべての天然サンプルはこの範囲に比率は異なるものの約3608cm-1と3598cm-1に2つのバンドを示した。
化学的なデータより3598cm-1のバンドの出現と2つのバンド(3598cm-1と3608cm-1)の強度比がアルカリイオンの量に依存することを明確にした。アルカリイオンの量(Na+K+Cs)が1.1wt%より高いサンプル(ブラジル、ロシア、オーストリア、マダガスカル、ザンビア、南アフリカからのエメラルド)は、3598cm-1バンドの強度は3608cm-1バンドより高い。反対に、アルカリイオンの量が1.1wt%より低いサンプル(コロンビア、ナイジェリア、中国、および合成の「エメラルド」からのエメラルド)では、3608cm-1バンドの強度は3598cm-1バンドより高い。
モルダバイト:天然またはイミテーション
Moldavite: natural or imitation
発表者:Tay Thye Sun 氏
接触、10倍観察、または顕微鏡観察によってイミテーションモルダバイトから天然モルダバイトを区別する簡単な鑑別アプローチが示された。
天然モルダバイトは触ると、イミテーションモルダバイトの滑らかな感じと比較して針のような感じがある。顕微鏡観察では、天然モルダバイトにはフローマークと鋭い刃状があるが、イミテーションモルダバイトにはえくぼの表面マークとシダ様の成長マークがあることが判明した。また、FTIRやEDXRFのような高度な検査器具の使用は、さらに天然モルダバイトとイミテーションモルダバイトの違いを明らかにする。
天然グリーンダイヤモンドの色に関する鉱物学的および物理学的特性と熱の不安定性
Mineralogical and physical properties and thermal instability of Natural Green Diamond Colours
発表者:Walter Balmer 氏がGeorge Bosshart 氏の代弁
グリーンダイヤモンドの先駆的研究として、天然および人為的に照射された研磨済みグリーンダイヤモンド、そして研磨工程時に天然ダイヤモンドがまれに熱の影響によりカラーが変化しグリーンダイヤモンドになるという問題に挑戦している研究の途中結果が紹介された。
自然界でα線γ線に晒されてグリーンダイヤモンドが生まれることがあり、その原石からは極めて低い残留放射能が確認されている。ラジウム塩やラドンガスから発せられる重いアルファ粒子の照射と物理実験室での電子線、中性子線、およびガンマ線照射は、ダイヤモンドに似たような緑色と同じ光学的性質を生み出す。
タイプIaダイヤモンドの照射痕上のラマンシフトは、ダイヤモンド結晶格子の完全な局所破壊を示す。フォトルミネセンス分光分析では、窒素含有量の増加に関連した4つのGR1バンドの組み合わせに大きな変化を示した。
まれに自然界でβ線とγ線が緑色のボディカラーの原因となる(ほとんどが淡い緑色)。3000rpmホイールで窓あけ加工を施すと、タイプIa標本は、結果的には褐色に向かうが緑色の連続した色の損失を伴い、またGR1 ZPL強度も減少してゆくようなスペクトルの変化を示した。
電気炉では退色する最低の温度は500℃であったが、カッティング工程の温度測定では変化の始まりが200-250℃であることを示した。この違いの解明には、カッティング工程の正確なモニタリングを必要とする。
Tetデザイン・シルバージュエリー工場※1
プラサート・ムアンシン歴史公園
(Muang Singh Historical Park)※2
※1:ヨーロッパや日本のハイエンドブランドからの依頼でシルバージュエリー生産するOEMメーカー。12セクションに約300人の従業員が働き、品質管理システムISO9001も取得している。
※2:カンチャナブリより北西43km。クメール王朝の最西端を示す重要な遺跡で、東西1400メートル、南北800メートルの大きさ。ムアンシン遺跡は、12世紀末から13世紀初めにかけてクメール王朝のジャヤヴァルマン7世の時代に建設された大乗仏教の寺院で、遥か彼方のアンコールワットの方角に向いて建っている。