Gemmy 146 号 「小売店様向け宝石の知識「宝石大国・インド1」」
宝石大国・インド1
インドは宝石大国である。
インド政府発表の貿易統計によると、ダイヤモンド及び宝石類の輸出入額は同国の全商品の中でもトップクラスに位置している。アラビア海に面したインド西部のメトロポリタンであるムンバイ(旧ボンベイ)と姉妹都市スーラトはダイヤモンドの一大取引・研磨加工地だ。両市は世界有数のダイヤモンド研磨加工センターとなっている。別にカラーストーン研磨加工及び宝石装身具加工では、インド北部のジャイプールが有名だ。
インドはゴールド消費大国でもある。結婚の際に必要とされる金の量はかなり膨大で、花嫁が身につけるゴールド・ジュエリーは大変な量である。インドの人々の金嗜好はかなり根強く大きいものがあり、彼等の金消費量の動向は世界の金市場相場に影響を与えるほどである。
さて現在インドは、ダイヤモンドの研磨加工地として世界最大級で、日本に輸入される研磨済みダイヤモンドの多くはインドからである。わが国輸入通関統計によれば、量的には全輸入量のざっと約70%、金額的には全輸入額の約40%に近い。これはインドから日本に入ってくる研磨済みダイヤモンドが、商品として評価が高く、市場競争力があり、消費者ニーズに適合していることを意味している。
しかしながら輸入されるダイヤモンド原石は、もはやインド産ではない。原石の多くはロンドンのダイヤモンド販売会社であるDTC(ロンドン市ハットン・ガーデン街)に正式登録されたインド系サイト・ホルダーから調達されたものが中心である。ダイヤモンド原産地はアフリカ、ロシア、オーストラリアなどである。そこのダイヤモンド鉱山から産出したダイヤ原石がインドに輸入され研磨加工され宝飾用として、日本、香港、アメリカ、ヨーロッパの消費国へ再輸出されるのである。
ダイヤモンド原石がロンドンDTCに集散し、4大研磨加工地を経て、宝飾用ダイヤモンドとして最終消費者に届く経路は複雑多岐である。この流通経路の中でインドの役割と地位は、現在では非常に重要かつ大きな存在である。まさに宝飾用の研磨済みダイヤモンド取引の一大センターといえる。
ダイヤモンドの研磨加工及び取引センターは、インドのほかにベルギー(アントワープ市ペリカン・ストラウト街)、イスラエル(テレアビブ市ラマットガン街)、アメリカ(ニューヨーク市5番街47丁目通り)、タイ(バンコク)、香港、ロシア、オランダ、中国などがあり、インドと同じく活発である。
ムンバイ(旧名ボンベイ)はベンガル湾に面した西インドの玄関口、貿易の中心地であり、経済、文化の大都市である。同市(マリーン・ドライブ/フォート地区)は、ダイヤモンド商人が集積していて、同国の宝飾用研磨済みダイヤモンド取引の95%を占める。
このムンバイのダイヤモンド商のために、宝飾用ダイヤモンドの研磨加工を一手に担っているのがスーラトで、両市はダイヤモンドの研磨加工・貿易で相互依存の関係にある。
スーラトはムンバイの北200kmに位置し、同市バラチャ街はダイヤモンド研磨加工場群の集積地で、ムンバイのためにダイヤモンドの研磨加工を担う宝飾用ダイヤモンド供給の後背地である。ここスーラトには何十万人のダイヤモンド研磨工が働いているといわれる。
世界の研磨済みダイヤモンドの4大取引センターは、インド、ベルギー、イスラエル、米国である。それぞれに商品的市場的長所がある。各地特有の研磨加工技術を持ち、得意の商品分野を有し、世界ダイヤモンド市場をうまく住み分けているようだ。
今日ダイヤモンドは宝石の王様として、宝石市場でトップの座を占めているが、永い宝石の歴史の中では新参の範疇に属する。むしろルビー、サファイア、エメラルドなど色や光彩が美しいカラーストーンが、むかしは優位にあり珍重されていた。それはダイヤモンドが原石のままでは光らず、硬すぎて研磨が出来なかったからである。
18世紀にブラジルがダイヤモンドの産出国として台頭してくる以前は、インドがダイヤモンドの唯一の産地であって、ヨーロッパへの一大供給源であった。
「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊