Gemmy 144 号 「小売店様向け宝石の知識「エナメル2」」

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Gemmy 144 号 「小売店様向け宝石の知識「エナメル2」」

エナメル・THE ENAMEL 2

ジュエリーにつかわれるエナメルは、技術的には、熱で溶かして貴金属性の装飾品などに融着させたガラス質のことをいう。粉末のガラス質の顔料であるエナメルで金や銀の金属板の表面に絵を描がいて、焼き付けるなど多様な技法がある。その歴史は古代エジプト、ギリシャまでさかのぼることができる。19世紀後半には,ルネサンス様式に着想を得たジュリアーノ一族などによってエナメルの重ねづかいが復活した。また、スイスのジュネーヴのスイス・エナメル、フランスのリモージュ地方を中心とするリモージュ・エナメルが欧米で人気を博し、やがて世界中に伝播した。

19世紀末に現出したアールヌーヴォー時代には透明なエナメルがさかんに用いられた。金の台板にダイヤ、色石など宝石や真珠をはめ込み、背景にエナメルで美しく装飾されたエナメルジュエリーが大流行した。

エナメルジュエリーの発展の跡は、宝飾の歴史の跡をたどるとかなり正確にたどることができる。古代には色のついた石が装飾に使われ始めた。ついで金属に色のついた石を取り付けて飾るようになったと考えられる。おおざっぱに磨いた色のついた石はやがて金属の板に、現在のようにベゼル(Bezel:宝石の小斜面のことで、指輪の宝石のはまるところ、別に時計のガラスのはまる斜面やみぞを指す)に保持され、その後の技術開発によって金属ベゼルに宝石や真珠、さらにエナメル装飾がほどこされるに至った。その後エナメル技術の開発が進み、クロワゾネ(有線七宝)が開発されたと思われる。

2008年秋冬向けのパリ・コレのファッションショーでは、有名デザイナーのきらびやかな衣裳の新作発表にあわせて、衣裳を飾るアクセサリーやジュエリーも同時発表され、大胆な極彩色のエナメルジュエリーも特別発表されていたのがひときわ目立った。

エナメルは、古代には陶磁器やガラスなどが下地に使われたが、その後19世紀以降は下地に金属が使われるようになった。とくに純金や純銀を下地に使うとエナメルは相乗効果が出て一層美しくなり上品に仕上がる。純銅も下地としてよく使われ、コストがかからず、加工作業がやりやすいので重用されてきた。

エナメルの美しさ、透明さ、純度をより向上させるためには、エナメル加工作業場空間の清潔さが不可欠だ。エナメルの加熱温度は850度で何度も行うので作業は手間がかかり、細心の注意力が要求される。中国のエナメル職人たちがいうには、少なくとも7回以上もエナメルの上塗りを繰り返し焼く作業を行う。宝物を7回焼くので七宝焼というそうである。それほど手間のかかる加熱作業である。エナメル製品の磨きは熱磨き(Fire Polishing)という方法で行うが、これはエナメルを十分に熱して、その表面が流れて滑らかに仕上げるためである。もっと効果のある方法として、さらに機械研磨をかけたりする。

アンティークジュエリーに見られる手造りエナメル技法の主要タイプは、[1]クロワゾネ(CLOISONNE):金属地金の上に、金属の針金を注意深く望みのデザインに形作ったものをハンダ付けして作ったセルにエナメルを埋めて装飾する技法。日本の有線七宝はこれに属する。[2]プリカジュール(PLIQUE-A-JOUR):これはすかし細工のタイプで、七宝の仕切りストリップを使うが金属のバックはない。金属板の上にエナメルを焼きつけその後金属板を取り除くことで、透明な着色エナメルがストリップの間に保たれてステンドグラス窓と同じようになる。[3]シャンルベ(シャンルーヴェ)(CHAMPLEVE):シャンルベ・エナメルでは、エナメルを保つ地金のセルは彫り込んだり形作ったり、酸で金属をエッチングしたりし、そうして出来たくぼみやみぞをエナメルで埋める。セルの作りを細密に作れば、出来上がった模様デザインが七宝とほとんど同じである。シャンルベの動詞はフランス語で“彫り込み”を意味する。[4]ロンドボス(RONDE BOSSE):純金でできた立体像の表面全体に、エナメルを施す技法。

エナメルジュエリーの品質判定は、[1]エナメルの色の強さと純粋さ[2]デザインの美しさと金属細工の出来栄え[3]エナメルの磨きの素晴らしさで決まる。

エナメルジュエリーの澄んだ色彩、スカッとした色合い、明るい透き通った色、デザインのすみずみまで鮮明でカッチリとした仕上がりは、エナメル宝飾品の美的独壇場である。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊