Gemmy 136 号 「国際会議報告」
ベリリウム拡散加熱処理サファイアに関する日本とタイの合意
日本とタイの会議
ベリリウム拡散加熱処理ブルーサファイアの存在は、昨年春にツーソンで開催されたGILC(宝飾産業と鑑別機関の国際会議)でバンコックの鑑別機関によりその存在が明らかにされました。その処理の看破には非常に高度な検査が必要であることのみならず、その処理石が3大宝石の一つに数え上げられるブルーサファイアであったため、その発表以降この処理ブルーサファイアは色石市場で最大の懸念材料となっています。
日本ジュエリー協会(JJA)では、昨年タイの業界団体に対して書簡を送り、ベリリウム処理のものを厳格に情報開示することを要求し、その後一旦は日本の市場から激減したように見られましたが、再び昨年秋ごろから開示のないままこれらの処理石が増加し始めたため、今回JJAは再び書簡を送り、尚且つタイへ代表団を送り、タイの業界団体と直接的な話し合いを行いました。
この代表団には宝石鑑別団体協議会(AGL)からもテクニカルアドバイザーとして筆者を含め2名同行致しました。以下にタイの業界団体の話し合いの結果とベリリウム処理ブルーサファイアの現状について報告させていただきます。
会議は2月21日午後からタイ宝石宝飾品協会(TGJTA)会議室で行い、JJA、TGJTA、GIT(タイ国立宝石研究所)、CGA(チャンタブリ宝石宝飾品協会)、DEP (タイ国商務省貿易発展局)、そしてCIBJOからそれぞれの代表が集められ、延べ7時間に亘る話し合いの末、9項目の合意(次ページ参照)が交わされました。
その結果コランダム裸石を輸出する際、インボイスに以下の三つの文言にて処理の内容を開示することが約束されました。
a. “Non Be Treated” b. “Be Treated” c. “Unconfirmed Be Treatment” |
“非ベリリウム処理(加熱)” “ベリリウム加熱処理” “ベリリウム処理が定かではないもの” |
製品については、TGJTA内部での話し合いが済んでいなかったため、合意文では裸石と記載されていますが、JJAはコランダムが使用された製品に対しても同様の開示ルールの適用を要求し、TGJTA 側は要求を考慮することを約束しています。
このような適切な開示がなされずに日本に輸出され、後日ベリリウムが検出されたコランダムについては、輸出者は返品を受け入れ全額の返金に応じることも明記されました。
また、両国でベリリウム処理石とする基準の違いなどが発生しないように、基準確立のため両国の宝石鑑別機関を支援することも約束されています。
鑑別における現状
鑑別においては、ベリリウム処理の疑いのあるブルーサファイアにはLA-ICP-MSでの分析を必要としますが、初期の段階では高熱に長時間晒されたのが原因と思われる特徴的な内包物がそれらの処理ブルーサファイアの殆どのものに確認されていたため、そのような特徴をもとに高度なテストが必要なものと不必要なものを選別していました。しかし、最近のものに関してはそのような特徴が見受けられなくなり、多くのブルーサファイアがLA-ICP-MS分析の対象となっています。
GIAでは最近ベリリウム処理ブルーサファイアの研究のために数多くの天然ブルーサファイアをLA-ICP-MSを用いて分析し、マダガスカルのイラカカ産ブルーサファイアには天然起源のべリリウムを含有するものがあることを発見しています。それらはサファイア中の微小内包物と密接に関係しており、内包物の箇所からのみベリリウムだけでなくタンタルやニオブという元素も検出されています。LA-ICP-MSによる詳細な分析でベリリウムが人為的に外部から拡散されたものか自然界で取り込まれた内包物に関連したものかを98%区別出来る、と代表団がGIAリサーチラボを訪問した際にケン・スキャラット所長が述べていました。
弊社で行ったLA-ICP-MSによる分析では、イラカカ産だけでなくタイのカンチャナブリ産ブルーサファイアにも内包物に起因したベリリウムがあることが発見されています。これについての報告は後日させて頂きます。
波長の短い高エネルギーのレーザーを固体サンプル表面に照射するレーザー・アブレーション装置と、蒸発・飛散した粒子を高周波プラズマでイオン化し、その質量を分析するICP-MS装置の2種の装置から構成されています。これらの装置によって軽元素のヘリウムから重元素のウランまでの元素の種類や量をppb~ppm(10億~100万個中の1個)レベルで求めることが出来ます。
チャンタブリでの現状
代表団一行でベリリウム処理ブルーサファイアの生まれたチャンタブリに向かい、チャンタブリ宝石宝飾品協会(CGA)を訪問しました。我々の目的はベリリウム処理ブルーサファイアの処理現場を見ることであったのですが、CGA会長からは町の宝石市場にはベリリウム処理ブルーサファイアが確かに出回っているようだが、誰がその処理石を持っているのか、誰がベリリウムでブルーサファイアを処理しているのか掴めない、と全くベリリウム処理ブルーサファイアに関する情報は全く得られませんでした。
その後、ベリリウム処理オレンジサファイアの工場とマンスールビーの加熱が行われている工場を見学しましたが、チャンタブリでは1000度1時間の焼きをウォーミング、1800度で数日間掛けるような焼きをヒートと呼んでおり、ヒートされた石はヒーテッドサファイア、ウォーミングされた石は単にナチュラルサファイアと呼んでいます。多くの内包物にも変化生む1000度もの温度で加熱した石をナチュラルと呼ぶことに我々は疑問を感じて帰ってきました。
Memorandum of Understanding
This Memorandum of Understanding is made by and between Japan Jewllery Association (hereinafter shall be called “JJA”) and Thai Gem and Jewelry Traders Association (hereinafter shall be called “TGJTA”) at the meeting held at the office of TGJTA to discuss the disclosure of Beryllium treatment in corundum. The meeting was also attended by representatives from the Department of Export Promotion (DEP), Ministry of Commerce, the Gem and Jewelry Institute of Thailand Public Organization (GIT) and Chantaburi Gem and Jewelry Traders Association (CGA). The list of the attendees appears in the annex.
The meeting has agreed as follows:
1. | The exporter of loose corundum must disclose the treatment on the invoice for the export item with the following terms: |
a. | Non Be Treated |
b. | Be Treated |
c. | Unconfirmed Be Treatment Non compliance will be dealt with under the rule of the Thai Associations. The JJA requested the same disclosure rules also to be applied to jewelry set with corundum. The TGJTA will consider this request and will inform the JJA the result as soon as possible. |
2. | TGJTA proposes to create a Cluster Blue Sapphire Group for exporting only non Be treated corundum. The list of this group will be at the disposal of the Japanese side. JJA will distribute this information among its members. |
3. | Both sides agree to establish a set of standards for Be identification with support from gem laboratories in both countries. |
4. | TGJTA requests similar disclosure standard from the Japanese side. The JJA confirmed that the JJA members must follows the same disclosure standard in their domestic transactions. Non-compliance will be dealt with under the rule of the Japanese association. |
5. | For corundum exported to Japan without proper disclosure and subsequently tested to contain Be, the exporter shall accept the return of the stone, and make full refund to the buyer. |
6. | TGJTA requests that the disclosure procedure should be applied to all corundum exporting countries to Japan. The JJA confirms to find the means to comply with this request. |
7. | Both sides will request their gem laboratories to do joint research in order to strengthen the disclosure procedure. |
8. | The content of this agreement shall be announced to members of the respective associations as soon as possible. |
9. | TGJTA proposes to JJA to give information about Be treatment to the consumers and retail level. JJA accepts this proposal. |
CIBJOケープタウン総会
会場建物入口
CIBJO(World Jewellery Confederation)は、2007年3月12日から15日までケープタウン(南アフリカ)で総会を開催しました。
初日の開会セレモニーでは、キンバリープロセスの扇動者であった南ア副大統領からCIBJO総会がケープタウンで開催される喜びと資源豊富なアフリカの将来への指針が発表され、その他南ア政府高官、国連代表、WDC会長、WFDB会長、IDMA会長、デビアスグループ会長等からのゲストスピーチが行われ、4日間の幕が開かれました。
以下に主な委員会での決定について報告します。
貴金属委員会
貴金属委員会では、ダイヤモンド・色石・真珠と同様に宝飾品、時計、および銀製品と関連した貴金属を金、銀、プラチナ、およびパラジウムに限定してブルーブック(規則・定義集)を作ることが決定しました。
また、貴金属の純度に対する許容値については、米国が現在3ポイント下まで許容されている(例えば747/1000までk18の表示が出来る)が、日本を含めその他殆どの国は許容値ゼロで、CIBJOとしては下への許容値をゼロとすることが提案されました。
CIBJOダイヤモンド委員会
ダイヤモンド委員会
昨年のバンクーバー総会では合成ダイヤモンドのグレーディングが容認されましたが、今年GIAが発表した合成ダイヤモンドグレーディングレポートに関して言えば、タイトルは“Synthetic”、鑑別記載には”Laboratory Grown”、そしてその詳細コメントに”Man-made”という3つの用語が使用されており、その他米国の2鑑定機関(IGIとEGL)では”Synthetic”用語が全く使用されていないことが報告されました。
CIBJOでは現在 合成を意味する唯一の用語として”Synthetic”を定めていますが、英語圏の国からは”Synthetic”以外に”Laboratory Grown”や”Man-made”用語の使用が求められています。この件については数年前から議論を重ねておりますが未だにコンセンサスは見出せておりません。米国の3機関が合成ダイヤモンドのグレーディングレポートに対し“Synthetic”以外の用語を使用していることを含めてダイヤモンド運営委員会で引き続き検討することになりました。
また、ダイヤモンドブックのISO書式化に関しても承認され、期限を切って次のステップに入ることが確認されました。
パール委員会
パールブックのISO書式化は承認されましたが、一部の内容について議論が交わされました。
真珠の漂白加工の情報開示は昨年のバンクーバー総会で開示の必要なしと一応決定されていますが、今総会で再度検討され、開示必要な加工に書き換えられました。その開示法については、他の開示が必要な加工よりもソフトな記載法が提案されていますが、記載法の決定は来年の総会でもう一度討議されるもようです。
養殖真珠に使用される核の素材については、以前に天然物質であることが定義付けられています。近年天然素材のドロマイトを処理したバイロナイトと呼ばれる核がオーストラリアなどで使用されている事実や従来からの問題であるワシントン条約で規制されている天然素材の使用、またプラスチックや張り合わせ核などを使用することへの議論が行われました。結局核の問題に関する統一した意見は見出せなないまま終わったため、来年の総会で引き続き検討されるでしょう。
色石委員会
昨年承認された色石ブックの内容はISO書式化され、今総会で承認されました。
CIBJOブルーブックは業界人であっても専門用語を知らない限り読みづらいものであるため、消費者や業界人にとって判りやすい小冊子やダイヤモンドの4Cを紹介したカウンター用パネル形式の色石版の作成が提案され、グレーディングを連想させる懸念が指摘されましたが、コンセプトとしては承認されて作業の継続が決定しました。
また、日本とタイのジュエリー協会がベリリウム処理コランダムに関する覚書が交わされたことが発表され、出席者からは高い評価を得ていました。