Gemmy 135 号 「ラボトピックス「ハックマナイト」」
ハックマナイト
様々な色のハックマナイト
ソーダライトの変種であるハックマナイトは、紫外線を照射すると変色し照射を止めると元の色に戻る性質を持ち、それが何度でも繰り返されるため、コレクターストーンとして人気のある石です。ハックマナイトはロシアのコラ半島で最初に発見され、その名前はフィンランドの岩石学者であるビクトル・ハックマンに因んで名づけられました。
今回様々な産地のハックマナイトを検査する機会を得たのでその特徴を紹介します。
一般検査
今回検査したハックマナイトの産地別内訳はミャンマー・パキスタン・アフガニスタン・ロシア・カナダ産が各3個、グリーンランド産2個の計17個で、通常の光(紫外線照射前)で見たときに紫色・赤紫色・灰色・白色で透明から不透明のカット石と原石です。その内検査を行ったカット石のデータの一部を 表1 に示します。
表1
産地 | 色 | 透明度 | 重量(ct) | 比重 | 屈折率 ※ |
ミャンマー01 | 紫色 | 半透明 | 5.852 | 2.28 | 1.47 |
ミャンマー02 | 灰色 | 不透明 | 6.545 | 2.29 | 1.48 |
ミャンマー03 | 赤紫色 | 不透明 | 5.975 | 2.28 | 1.48 |
パキスタン | 薄紫色 | 透明 | 1.750 | 2.30 | 1.48 |
アフガニスタン | 赤紫色 | 不透明 | 1.428 | 2.29 | 1.48 |
ロシア | 白色 | 不透明 | 0.860 | 2.27 | 1.48 |
カナダ | 白色・ピンク色 | 不透明 | 5.717 | 2.50 | 1.48 |
グリーンランド | 紫色 | 不透明 | 6.781 | 2.36 | 1.48 |
※屈折率はスポット法
紫外線 照射前と照射後
通常の光の下で見られる色は様々ですが、長波紫外線照射後は赤紫~紫色に変化しました。その前後変化をミャンマー産(写真1)とカナダ産(写真2)で示します。
写真1 ミャンマー産01
(左:紫外線照射前、右:紫外線照射後)
写真2 カナダ産
(左:紫外線照射前、右:紫外線照射後)
また、照射前後の色についてThe Munsell Book Of Color方式で示したのが 表2 です。
表2
産地 | 照射前 | 照射後 |
ミャンマー01 | 10PB 4/10 | 2.5P 2/10 |
ミャンマー02 | 5YR 5/1 | 10P 3/8 |
ミャンマー03 | 7.5P 6/6 | 5P 3/10 |
パキスタン | 7.5P 8/2 | 5P 8/4 |
アフガニスタン | 7.5P 6/8 | 5P 4/10 |
ロシア | 10Y 8/1 | 2.5RP 5/10 |
カナダ | 10P 6/10 | 2.5RP 4/12 |
グリーンランド | 7.5P 4/8 | 5P 2/8 |
変化後の色の濃さは照射時間の長さに比例しており、長く照射していたものほど濃く、色の戻りもゆっくりでした。また紫外線照射時にはオレンジ色の蛍光を発しますが、この蛍光色も最初はアプリコットオレンジ色で時間経過に伴いオレンジ色が濃くなっていくのが観察されました。
赤外分光(FT-IR)
FT-IRの形は、大きく3つのパターンに分かれました。
(1)4000cm-1 より低波数側に吸収がないパターン(図1)
図1
ミャンマー産とロシア産に見られたパターンで、4538cm-1 と5150~5205cm-1 に吸収があります。
(2)2140~2860cm-1 に透過帯があるパターン(図2)
図2
アフガニスタン・カナダ・グリーンランド産に見られたパターンで、2140~2860cm-1 に山があり、5137 ・ 5198cm-1 に吸収があります。アフガニスタン産の石には、4182 ・ 4251 ・ 4323cm-1 にも吸収が観察されます。
(3)4000cm-1 より高波数側に吸収がないパターン(図3)
図3
パキスタン産に見られ、2000~3500cm-1 の山に細かい吸収(2405 ・ 2426 ・ 2528 ・ 2548 ・ 2679 ・ 2742 ・ 2924 ・ 2992 ・ 3022 ・ 3052 ・ 3414cm-1 )があります。
可視分光
ハックマナイトの色変化は紫外線照射後、数分から数十分継続するため、紫外線照射前と後の可視分光データの測定が可能です。図4 に示す分光チャートはミャンマー産のものです。紫外線照射後に530~550nmを中心とした吸収が深くなっています。この吸収帯の深さは色の濃さを反映するため、照射後赤紫色が濃くなったことが分光的にも分かります。
図4(点線;紫外線照射前、実線;紫外線照射後)
元素分析(EDS)
ソーダライトの化学組成式はNa8Al6Si6O24Cl2で表わされ、ハックマナイトは塩素(Cl)を置換して少量の硫黄(S)を含み、この硫黄の電子状態により色が変化すると説明されています。蛍光X線元素分析装置(EDS)でサンプル石を分析し、色別(照射前)にまとめたものが表3で、どの石にも硫黄の存在が確認されます。硫黄がほとんど含まれない石と1%を超える石とがありますが、観察される色変化の大きさと硫黄の量比とは直接的には結びつかないようです。
表3
色 | Na(wt%) | Al(wt%) | Si(wt%) | Cl(wt%) | S(wt%) |
白~灰色 | 22-25 | 30 | 36-38 | 2.3-5.8 | 0.24-1.10 |
赤紫色 | 22-27 | 25-31 | 34-36 | 6.2-7.0 | 0.05-0.21 |
薄紫色 | 27 | 30 | 35 | 6.8 | 0.23 |
紫色 | 25 | 31 | 36 | 4.9-6.3 | 0.15-1.40 |
今回検査した石については、赤外分光(FT-IR)のパターンが産地により異なるということが興味深い点です。サンプル数が少ないことと地質学的な背景が不確かなため類推の域を出ませんが、FT-IRによりおおまかな産地分類が可能かもしれないことを示唆しました。その他の検査もハックマナイトの鑑別に有効であることが分かりました。
ハックマナイトの鑑別結果は、【鉱物名 天然ソーダライト】【宝石名 ハックマナイト】となります。なお、当研究所の鑑別書には備考欄に【ハックマナイトは、一般に紫外線照射により色が変化することがあります。また、変化した色は時間が経過すると元に戻ります。】と表記されます。