Gemmy 135 号 「小売店様向け宝石の知識「アンティークジュエリー3」」
骨董品の鑑定とは、年代を見て値段をつけること。鑑別とは、本物かニセモノかを見分け時代だけをいうこと。値段をつけるといっても、「バブル景気」の時に高く買って、いま大幅に値下がりして安くなったもの。さらには「騙されて高く買った」もの。骨董品には値段があってないようなものと云ってしまえばそれまでだが、骨董品の鑑定は非常に困難がともなう。ただアンティークのなかで絵画、陶磁器、人形など一部の古美術品は一定の鑑定物差しが業界に出来ていて古物相場があるようだ。
東洋骨董品の中で翡翠の玉彫刻そして玉装身具を蒐集している年配の方々も多い。翡翠は、中国で昔から皇帝の最高の収集品となっていたので、中国各地の博物館には多くの翡翠骨董品が所蔵されている。なかでも北京及び台北の故宮博物院には、たくさんの玉彫刻が展示されていて圧巻である。中国人の「富と権力の象徴」とされてきた「玉(ぎょく)」。この翡翠は軟玉(Nephrite)と硬玉(Jadeite)とがある。軟玉は中国の崑崙山脈の麓を流れる白玉川が主産地であり、硬玉はミャンマー(ビルマ)北部が主産地で別種の鉱物である。さて翡翠を表わす玉の字は王と異なる。王様の王は正確には横三本のうち上の二本が上に片寄っている。玉の字は、玉が三つ連なっている象形で、縦の棒は三つの玉を貫いているところを示す。玉は「石の美しさを示し、五徳あるもの」であると云われてきた。五徳とは何かと云えば、仁、義、智、勇、厳の五つであって、昔の中国の人は玉を見たときにその美の中に五徳を想定したようだ。この玉彫刻には、日本でも古くから特別な収集家がおり、貴重な骨董品目となっている。(翡翠については別号に既に詳述したのでご参照ください。)
さて宝石の王様ダイヤモンドについてだが、最近購入した資産価値がある大粒ダイヤモンドには、品質評価基準4Cの詳細を記述したダイヤモンド・グレーディング・レポートが添付されているので、おおまかの現在の相場を計算できる。ただしダイヤモンドといえども、世界相場、為替相場、景気動向の影響を受けている。100年以上前の昔のダイヤモンド、アンティークジュエリーに属するものにはダイヤモンド・グレーディング・レポートはついていない。ダイヤモンドの4C検査について理論と技法を発案し開発したのは米国GIAで創立は1931年で約76年の歴史である。
ダイヤモンドの価値を決定する4Cの中で、カット・グレードは人為的にダイヤモンドの光り輝きを引き出すことができる。14世紀にダイヤモンドの粉末をオリーブ油でとき、これを研磨剤にして原石を研磨できるようになった。ダイヤモンド原石八面体の三角形の面に対し研磨したテーブルカットからローゼンツ・カットを経てローズカットなどが登場してきた。
アンティークジュエリーに使用されているダイヤモンドには、このローズカットのものが多い。したがってローズカットについての知識も不可欠だ。その後19世紀になって最高の輝きを発揮する現在のブリリアントカットに近いカットが登場してくる。
さてアンティークジュエリーで重要な要素は、その製造された当時の衣裳や歴史的背景も大事である。ジュエリーを着用するときのTPO(時・場所・場合)である。アンティークジュエリーが流行した時代や使用された場所、当時の衣裳との調和である。それらが現代とマッチするか。単なる鑑賞用、資産用なのか。実際に着用使用するかが問題となる。
ジュエリーを理解するには、先ず実物を手に取り、よく観察することだ。ところが多くのアンティークジュエリーが美術館や博物館にあって、手にとって実際に観察することが出来ない。ジュエリーの目的は、人が実際に身に付けるものとしてデザインされ、人に装われることが本来の姿である。ジュエリーは、人に着用されてこそ本当の美しさが輝く。ジュエリーは人、衣裳、時、場所、場合の関係が重要である。ヴィクトリア時代、宮廷で、夜会や円舞会などに着用されたアンティークジュエリー。当時はろうそくの明かりの下で着用されたのだ。また着用された衣裳との関係も重要だ。アンティークジュエリーの理解を助けてくれるのは肖像画である。当時ジュエリーがどのように着用されたかを示す絵画や彫刻は、当時のジュエリーについての有様を教えてくれる。
アンティークジュエリーには、その時代ごとに特色のある多彩なデザイン、スタイル、精緻な細工、宝石のカットがある。
「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊