Gemmy 134 号 「小売店様向け宝石の知識「アンティークジュエリー2」」
アンティ―クジュエリーの言葉の意味は、骨董品装身具で「作られてから最低100年以上経過した骨董的価値があるもの」と考えられている。骨董的価値とは美術的価値のある古いもの。古美術品的装身具を指す。100年以内であっても、その時代を象徴するような芸術的価値があり一流宝飾店や有名な作家が手がけたジュエリーには、1930年代までの作品もアンティ―クジュエリーのなかに入るとされるようだ。
ファッションジュエリーが新しい流行の最先端を行くとすれば、アンティ―クジュエリーはその正反対に位置する古きよき時代の数多くの優れたデザイン加工技術の手作り宝飾作品である。それ相応に多くの古美術品マニアが存在する。アンティ―クジュエリーといえば、どうしてもヨーロッパが中心である。残念ながら日本では宝飾文化は歴史が浅く、ヒスイ、さんご、鼈甲、象牙関連製品など希少である。
ジュエリーは大昔から人類とともにあるからエジプトやギリシャのアンティークジュエリーがあってもおかしくはないが、18世紀以前までに作られたジュエリーは、ほとんどマーケットに現存していない。国宝級、博物館級のジュエリーは、大英博物館やルーブル、エルミタージュ、カイロなど大博物館の展示物でしか見ることができない。一般庶民が手にすることは不可能である。われわれが手にすることが出来る範囲のアンティ―クジュエリーを歴史的に見ると次に大別される。
ジョージアン時代(1800年~1837年王侯貴族の特権階級が身に着けたジュエリーが中心)、ヴィクトリアン時代初期(1837年~1861年ロマンティック志向が色濃いジュエリー、REGARDの頭文字をとった宝石を使ったジュエリーの流行)、ヴィクトリア時代中期(1861年~1887年産業革命で余裕の出来た大衆のジュエリー需要が増大、アルバート公の死去もありジェットのモーニングジュエリーも流行)、ヴィクトリア時代後期(1887年~1901年ダイヤモンド、パール、大きな色石の時代、加工技術が著しく進歩。ジュエリーの大衆化が進む、シェルカメオが本格的に登場)、エドワーディアン時代(1880年~1915年白いプラチナを使い繊細な幾何学模様の上品なデザインが登場)アールヌーボー時代(1890年~1910年日本の文物から影響を強く受けたジャポニズム志向。流れるような曲線、左右非対称の構図、奇抜なデザインが特徴。20世紀美術に大きな影響を与えた。)アールデコ時代(1920年~1940年フランスを中心に起きた芸術運動。多くの幾何学模様を取り入れた男性的な雰囲気の作品が多い。)アメリカン時代(1870年~1920年ティファニー宝石店が開業しアメリカの新興富豪相手に大粒ダイヤモンドなどを使った独自のアメリカンジュエリーが創出される。)
ここでアンティ―クジュエリーに使われた素材について言及してみよう。ゴールド、シルバー(ジュエリーの中心的な素材)、プラチナ(1880年代に入ってから)、ダイヤモンド(旧型のローズカットからブリリアントカットへ、枠の貴金属はシルバー、ゴールドを経てプラチナへ。光り輝きを引き出すオープンセッテイングなど新デザインの開発が進む。)カラーストーン(先ずガーネットがヴィクトリア女王即位した当時に大流行、ロシア産トパーズ、デマントイドなど多くの色石も登場。)天然真珠も多用されている。
次にジュエリーの細工加工表現技術の進展を見てみよう。カメオ(ナポレオン時代に大流行、ギリシャ神話などの古典的モチーフから女性的なデザインのシェルカメオがヴィクトリア時代に登場しはじめる。)エナメル(金属酸化物を含むさまざまな色彩のガラス粉末を金属の表面などに焼き付けたもの。この技法は古代エジプト時代からあるがアンティークジュエリーの重要な技法としてクロワゾネ、プリカジュール、ギロッシェ技法などが有名。)センチメンタル(リング内側に愛のメッセージを彫り込むポージーリング、ジュエリーにルビー、エメラルド、ガーネット、アメシスト、ルビー、ダイヤモンドをはめ込み各宝石の頭文字をとってREGARD(好意)等を表わすメッセージジュエリーの登場)モザイク(モザイク装飾は貴石やガラスなどの小片を一つひとつ丹念に埋め込みジュエリーに創作する。起源は古代文明にあるがアンティ―クジュエリーとしてフローレンスとローマに工房が数多く誕生し、花や名所をモチーフにブローチ、ブレスレット、イヤリングに加工された。)
「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊