Gemmy 133 号 「平成18年宝石学会「Be サファイア」」

Gemmy


Gemmy 133 号 「平成18年宝石学会「Be サファイア」」

2005年末頃から、天然ブルーサファイアが“新技法加熱処理が施された”ブルーサファイアとしてタイのマーケットにはいってきました。すぐさま、それらのブルーサファイアはベリリウム(Be)拡散加熱処理であることが判明しましたが加熱方法自体、未だ明らかにはされておらず、軽元素が色にどのような影響を与えているのか、解明されてはいません。今回の宝石学会(日本)では、このBe拡散加熱処理が施されたブルーサファイアについて研究した結果を報告し、鑑別についての指針を述べさせて頂きました。以下にその内容を紹介します。

写真1

写真1 新技法処理が施されたブルーサファイア

今回、観察及び分析を行ったブルーサファイアは、1.5490ct、1.3745ct、1.3480ctの3ピースです(写真1)。これらすべてのサンプルについて、光学顕微鏡による拡大検査、紫外-可視分光光度計、赤外分光光度計、蛍光X線分析装置、LA-ICP-MS(レーザーアブレーション ICP 質量分析装置)による分析を行いました。


1 拡大検査で観察されるインクルージョンについて

写真2 通常の加熱処理サファイアに観察されるインクルージョン

写真2-a

写真2-a 白濁結晶(拡大倍率x45)

写真2-b

写真2-b ヘイローを伴う白濁結晶(x40)


写真2-c

写真2-c 途切れた針状結晶(x30)

拡大検査で観察されるインクルージョンには、大きくわけて通常の加熱処理のサファイアに観察されるものと、今回の“新技法加熱処理が施された”サファイアに特有のものがありました。
通常の加熱処理のサファイアにも観察されるインクルージョンとして、白濁結晶(写真2-a)、ヘイローを伴う
白濁結晶(写真2-b)、途切れた針状結晶(写真2-c)が観察されました。


写真3 今回観察した“新技法加熱処理が施された”ブルーサファイアに特有のインクルージョン

写真3-a

写真3-a リング状結晶包有物が
      十字に並んでいる状態

写真3-b

写真3-b くもの巣状のテクスチャー(x20)
 


今回検査した新技法加熱処理が施されたサファイアに特有のインクルージョンとして、ベーマイト起源であると思われるリング状結晶包有物が十文字に並んでいる状態(写真3-a)や、 くもの巣状のテクスチャー(写真3-b)が観察されました。 これらは、新技法加熱処理が施されたサファイア特有のものでありますので、これらのインクルージョンが発見されれば、Be拡散加熱処理が施されているのではないか?という注意をすることが可能です。

2 レーザートモグラフによる観察

写真4 今回観察したブルーサファイアに特有のレーザートモグラフ写真

写真4-a

写真4-a C軸方向から見える六角形状を
      した散乱像

写真4-b

写真4-b 三方晶系に規制された形で並んだ散乱像
 


写真4-c

写真4-c c 軸垂直方向からの散乱像
      (矢印はらせん状の散乱像を示す)

写真4-d

写真4-d つるまき状の散乱像
 


写真4-e

写真4-e 同心円状の散乱像

レーザートモグラフによる観察では、通常の加熱処理では見られないテクスチャーが観察されます。(写真4-a)はc軸方向から見える六角形状をした散乱像です。この六角形状をしたテクスチャーは何が起源なのかは現時点では明らかにされておりませんが、(写真4-b)のように三方晶系に規制された形で並んでいることもあります。c軸垂直方向から観察した(写真4-c)を見てもお分かりの通り、この六角形状のものは、ディスク(平板)状の形状をしていることがわかります。 写真4-cでは矢印で示した箇所に、らせん状の散乱像が観察されます。(写真4-d)のような、つるまき状の散乱像(これは転位起源であると思われます)や、(写真4-e)のような同心円状の散乱像も観察されます。
こういったレーザートモグラフ特有のテクスチャーが存在することは、この新技法加熱処理ブルーサファイアの看破にレーザートモグラフは非常に有効であると思われます。

3 LA-ICP-MSによるBeの分析結果について

LA-ICP-MSは固体試料にレーザーを照射し、極微小の領域を蒸発させ、その蒸気を質量分析することで、固体中の微量元素の濃度を求める装置です。現在ではコランダムのBe処理の看破を確実に行うには必須の装置です。レーザー装置(NEW WAVE社UP-213)とICP-MS(Agilent 7500a)を用いて、今回の試料を測定した結果、3つのサンプルから9.38~11.17ppmの濃度のベリリウム(Be)を検出しており、Be拡散加熱処理が施されたことは明白です。
Be拡散がどこまで進行しているのかを調べるために、このBe拡散加熱処理が行われたサファイアを二つに切断し、その切断面のBe濃度を測定しました(下図)。 この分析結果より、この処理されたサファイアは、キューレット付近で一番Be濃度が高く39.8ppmのBeが確認されており、一番濃度の低い中央部でも5.0ppm検出されていることから、長い時間加熱されたものであると推測されます。

図

以上の結果より、このようなBe拡散加熱処理が施されたブルーサファイアには特有のインクルージョン、特有なレーザートモグラフ像でのパターンが観察されるため、ある程度はそのインクルージョンないしはパターンでBe処理であるという疑いを立てることは可能です。しかし、それらインクルージョンないしはパターンが見られない可能性もあるので、Be拡散加熱処理が施されたブルーサファイアを確実に看破するためにはLA-ICP-MSによる分析が必須であると思われます。

以上