Gemmy 132 号 「平成18年第19回国際鉱物学会総会」

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Gemmy 132 号 「平成18年第19回国際鉱物学会総会」

国際鉱物学会議(IMA, International Mineralogical Association)は世界各国の鉱物学及び地球物質化学関連の学会が加盟する国際組織で、およそ4年に1回総会が開かれています。今年は第19回目の総会が、7月23日から28日までの6日間に渡って神戸のポートアイランドにある神戸国際会議場で行われ、筆者も参加する機会を得ましたので報告したいと思います。
合計約480件の口頭発表と約400件のポスターセッションでの発表があり、それらは37分野に分類されていました。これらの分野の中には宝石学のセッションもあり、今回は口頭発表8件(残念なことにうち2件はキャンセル)、ポスターセッションは3件でした。開催期間の都合で複数のセッションが平行して行われるため、聞きたかった発表をすべて回ることができず残念な思いをしましたが、以下に宝石学セッションの内容についてご紹介します。

【口頭発表】
ダイヤモンド関係は、J.E. Shigley氏の「HPHT-treated colorless and colored gem diamonds」とFritsch E.
氏の「The first color center related to the brown graining in type Ia natural diamonds」の2件。色石関係はC.Ionescu女史の「Cenozoic fossil resins used in gemology : towards a practical grouping」、
C.Aurisicchio氏の「Archaeological emerald provenance : A contribution from trace elements analysis
by secondary ion mass spectrometry」、川野潤氏の「Behavior of Beryllium diffusion in Corundum」、
Ahmadjan Abduriyim氏の「Application of LA-ICP-MS to the gemological field」、以上4件がありました。
J.E. Shigley氏、Fritsh E.氏のダイヤモンドに関する発表は、問題になっているHPHT処理ダイヤモンドに関係する話題である事と、発表のキャンセルによって質疑応答の時間が多目に取れたということもあって、非常に多くの質疑応答が行われていました。このセッションのうち特に川野潤氏の「Behavior of Beryllium
diffusion in Corundum」が個人的に興味深かったので紹介します。この発表では分子動力学(MD)シミュレーションを用いてコンピューター上でコランダム中のBe(ベリリウム)の拡散挙動について計算している点が非常に新しいと思いました。MDシミュレーションとはコンピューター上に精密に計算された原子配列、温度、圧力を設定し、時間が進むとどうなるのか、計算する手法です。この手法でコランダム中にBe原子が温度1300Kから2300Kの間で拡散可能であると計算されました。また、この手法で得られた拡散定数は合成コランダムにBeを1700Kで拡散加熱させる実験をして得られた拡散定数とよい一致を見せる点から、このMDシミュレーションはコランダム中のBe拡散挙動をよく示していました。このシミュレーションは通常のBe拡散過熱処理が行われているであろう温度よりも低い温度で拡散過熱が可能であるということと、MDシミュレーションは今後あらわれてくるであろう処理を予見する方法として有力な方法であることを示唆しています。

【ポスターセッション】
ポスターは開催日のうち2日にわけて貼り出されました。 
Fritsch E.氏の「Pigments in cultured freshwater pearls : identification using Raman scattering and
UV-Vis spectroscopy」、神田久生氏は「Two types of the Blue Band-A Luminescence of Natural
Diamond」、下林典正氏の「Iridescent andradite garnets(Rainbow Garnets), newly-found from the
Tenkawa area in the Yoshino district, Nara Prefecture, Japan」の3件の発表がありました。
神田久生氏の発表は、Band-Aと呼ばれるダイヤモンドのブロードなルミネッセンスバンドが2種類存在し、1つはダイヤモンドが成長する際に獲得した欠陥によるもので、もう1つは成長後に受けた歪みによるものであろうという内容でした。
下林典正氏は奈良県吉野地方天川で近年発見されたレインボーガーネットについての紹介と、レインボーガーネットのイリデッセンスを示す組織についての詳細な分析結果を発表されました。

今回は日本での総会開催ということもあり、日本人の参加者が非常に多かったように思えます。講演会場は満席に近い状態で、非常に活発な議論が行われていました。

次回の第20回国際鉱物学会総会は、2010年ハンガリーのブダペストで8月21日~27日に開催される予定になっており、また機会があれば参加したいと思います。