Gemmy 132 号 「小売店様向け宝石の知識「クンツァイト」」

Gemmy


Gemmy 132 号 「小売店様向け宝石の知識「クンツァイト」」

クンツァイト・Kunzite

クンツァイトは、ライラック・ピンク(lilac pink)の色合いが美しく、それに加えて、さわやかな透明感がある宝石です。大きくカットされた石はとくに魅力的である。このクンツァイトの持つデリケートな色味は、多くの宝石コレクターや宝石愛好家によって賞玩されている。
この宝石名は、ニューヨーク5番街にあるティファニー宝石店の副社長であった当時から有名な宝石の権威者のジョージ・フレデリック・クンツ博士の名前に因んで命名された。
宝石名には有名な人名や採掘された地名に、「石」を表わすアイトiteを接尾語として名付けられたものがあり、その由来がわかりやすい。モルガナイト、タンザナイトなどこの種の宝石名は数多くある。クンツァイトもその一つでクンツ博士の宝石学者としての名声を後世に残している。
宝石の歴史は古いが、このクンツァイトはたいへん新しく、20世紀初頭に発見されている。
ラベンダーの色味のあるピンクが持ち味で、スポジュメン・Spodumenと呼ばれる鉱物の一変種である。この鉱物は、ほかにエメラルド・グリーンのヒデナイト・hiddeniteやイエロー・スポジュメンなどの変種がある。
スポジュメンというのはギリシャ語の「焼いて灰になる」という言葉に由来しており、この鉱物が最初に発見されたときの外観を指している。最初はリチウム金属あるいはその化合物の原料にするくらいで、宝石としての用途は無いだろうと考えられていた。
しかし、クンツァイトのような宝石になる種類が発見され、エメラルド・グリーンの緑色のヒデナイトなどが発見されるに及んで、スポジュメンは宝石学上、重要な鉱物となった。ヒデナイトもその発見者であるウイリアムE・ヒデンの名前に由来している。
主成分はリチウム・アルミニウム珪酸塩で単結晶に属し、扁平な柱状結晶で産出される。
硬度は7であるが、劈開・クリベージの性質があり、もろく割れやすいので丁寧な取扱いが必要だ。劈開・クリベージの性質のためファセット・カット、すなわち面加工研磨は難しく、さらに結晶が薄い板状であるために。色合い良くカットするのは大変な作業になる。このため一般に厚くカットして、色合いを濃くしている。
クンツァイトのピンク色はデリケートである。太陽光線に長く晒されると紫外線で自然に褪色することがある。
クンツ博士によって宝石質のスポジュメン鉱物の一変種であるクンツァイトがカリフォルニア州サン・ディエゴ郡メサ・グランデで発見されたのち、同じくカリフォルニア州のほかの鉱山からも多量に発見され、それ以後カリフォルニアはクンツァイトの重要な産地となっている。マダガスカル、ミャンマーでも産出する。ブラジルのミナス・ジェライス州でもイエロー・スポジュメンは産出するが、クンツァイトの産出量はきわめて少ない。
クンツァイトの屈折率は多少変動するが1.660~1.676。通常の複屈折率は、約.016である。光学的特性は二軸性のポジティブ。分散度は非常に低い(.017)。比重は3.18、モース硬度は7。クンツァイトは薄紫からほとんど無色に等しい色の強い二色性を示す。これは石または結晶を回転させれば肉眼で観察できる。色は結晶の長い方向において濃く、それと直角のなす方向においてほとんど無色である。蛍光は強い。特殊効果は別になく、特徴的なインクルージョンもない。酸には侵されないが、枠付けのときの火炎で溶融することがあるので高温には要注意である。
クンツァイトはピンクの色合いが優しい。クリーンイメージのすっきりした透明感がある宝石。若い女性に人気がある。価格も手頃である。指輪につくられたクンツァイトは、若い女性の指が動き回転するたびにピンク色の中にすみれ色がかかって見えたり、無色に見えたりする。優しい色合いとすっきりした透明感を見せる宝石である。
結婚前のお付き合いの時機に、愛する彼女に是非贈り物にしたい宝石。清潔感あふれるすっきりした明るいピンクの宝石である。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊