Gemmy 129 号 「USA会議レポート」

Gemmy


Gemmy 129 号 「USA会議レポート」

本年も1月末から例年通り米国のアリゾナ州ツーソン市でGem Trade Association(AGTA)、Gem&Jewelry Exchange(GJX)、Worldwide Gem&Jewelry、およびGem Lapidary Dealers Association(GLDA)などのジュエリーショーが開催されました。

各ショーをまわって感じたことは、例年と比べてバイヤーも出展者の数も少ないこと。例年なら特にGJXショーでは通路が行き交う人で一杯の筈が今年は人もまばらでゆっくりと石を見て回ることができ、出展者も暇そうにしていました。案の定、ある出展者はビジネスが昨年より良くなかったとある業界誌のインタビューで嘆いていました。

原因の一部には、増加する国際展示会、米ドルの衰退、原油価格の上昇などがあるかも知れません。最近は全米を含めて、海外でのジュエリーショーがやたら多く、このようにあちこちで開催しているとかえってインパクトがなくなり、また各ジュエリーショー開催地に飛ぶ旅費も原油の値上がりで影響を受け、ツーソンではこの時期ホテルの室料も毎年上昇し続けており、出展者にもバイヤーにも良い材料は見受けられません。

モザンビーク産トルマリン紫青、ピンク、黄緑石は未加熱、青は加熱石。

モザンビーク産トルマリン紫青、ピンク、黄緑石は未加熱、青は加熱石。イーダーオーベルシュタインパビリオンにて。

今回のショーでの最大の話題は、最近までブラジルのパライバ州およびリオグランデ・ド・ノルテ州でしか発見されなかった銅、マンガンを含むブルーからグリーンのトルマリン、所謂パライバ・トルマリンと非常に良く似たトルマリンがモザンビークやナイジェリアからも新たに発見されたことでした。GLDAやGJXショーの双方では、ブラジル人のディーラーと同様にドイツ人の多くのディーラーが、これらのトルマリンに様々な価格をつけ展示していました。

その殆どのディーラーは、これらの石の原産地を把握しており、ブラジル産か、モザンビーク産か、ナイジェリア産かを開示しております。しかし、一部のディーラーがこれらを「パライバ」、「パライバタイプ」と呼んだことで、ショーの期間中、名称についての議論がいたる所で激しく行われました。それらをパライバ・トルマリンと呼ぶことに反対した何人かのブラジル人は、パライバと呼べるのは実際にブラジルのその地域から来たものだけに限定されるべきだと言います。しかしながら、その他の殆んど業者は、その名称で呼ばれるブラジル産トルマリンの多くが実際にパライバ州の外で採掘されていると指摘していました。

GILC会議でパライバ・トルマリンの地質学的背景を説明するミリセンダ博士

GILC会議でパライバ・トルマリンの地質学的背景を説明するミリセンダ博士(左から2人目)

これらのショーの直前に開催されたGEMSTONE INDUSTRY AND LABORATORY CONFERENCE (GILC)会議でも、これらトルマリンについて討議が行われました。そこでは、ドイツ宝石学会のミリセンダ博士よりブラジル(パライバ州、リオグランデ・ド・ノルテ州)、ナイジェリア、モザンビークの産地特性、化学成分分析等の発表があり、産地特定の困難な事や銅とマンガンを含むトルマリンを産地に関係なく“市場ではパライバ・トルマリンと呼んでいる”と鑑別書にコメントを入れているとの発表がありました。

また、日本ジュエリー協会(JJA)の代表として水村氏から、現状の日本のパライバ・トルマリンの鑑別分類上での状況説明が行われ、同様にスイスのSSEFからも彼らが銅を含むエルバイトは“パライバ・トルマリン”と呼んでいること、AGTAからは彼らが“パライバ・トルマリン”を変種名として扱っており、コメントにはこれが産地を表わすものでないことも記載していると云った発言がありました。そして、ブラジルの代表からは、『ブラジルには多くの石がアフリカより輸入され、販売されている。ブラジルで購入することは産地を保障するものではない。オリジナルのバタリャでも質の良いものも悪いものも有る』との説明も有りました。

CIBJO Coloured stone Steering Meeting の風景

CIBJO Coloured stone Steering Meeting の風景

この会議における議論で殆どの国がパライバ・トルマリンと呼ぶ条件にブラジルと限定するという考えはなく、銅着色のトルマリンであればパライバ・トルマリンであるべきという方向性が示されました。しかし、名称に関して商業名とするか変種名とするかの結論(すなわち、“別名パライバ・トルマリンと呼ばれています”とコメントとして記すか、鑑別結果 鉱物名:トルマリン 変種名:パライバ・トルマリンと記すか)は次回会議に先送りされました。

また、今回の期間中にCIBJOの各種ワーキンググループの会議が開かれております。筆者もColoured Stone Steering Committeeのメンバーで、今回はもう一人の日本側のメンバーであるN.アラウディーンJJA国際部委員長が欠席のため、藤田貞治氏に代理としてこの会議に出席していただきました。今回の最大の議題は、ブルーブックの第8条(一般開示)と第9条(特別開示)を統合し、完全開示にするという提案についてで、藤田氏には大いに意見を述べていただきました。この提案は、米国代表から提出されたもので米国の連邦規定(FTC)の概念は完全開示であるため、現在のCIBJOルールに従う国から輸入されたものは米国の消費者に混乱を与えています。日本も2年前に開始した新ルールで完全開示が基本とされているため、日本にとってもこの改定案は受け入れられるものです。本年7月のCIBJOバンクーバー総会に向けて、今後この改定作業に入ることが決定されました。