Gemmy 128 号 「小売店様向け宝石の知識「クリソベリル・キャッツ・アイ」」

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Gemmy 128 号 「小売店様向け宝石の知識「クリソベリル・キャッツ・アイ」」

クリソベリル・キャッツ・アイ (Chrysoberyl Cat’s-eye)

クリソベリル・キャッツ・アイは、宝石の中で最も美しい猫目効果(シャトヤンシー)を示す宝石である。光学現象によって猫の目の瞳を細めたような外観が美しく現れる。猫目効果はクリソベリルの褐色、緑色、黄色どの色にも出るが、最も高く評価されるのは蜂蜜の色に似た、やや緑がかかった黄色で、ハニーイエローといわれる。

クリソベリルのクリソChrisはギリシャ語で「金」、ベリルberylは「緑柱石」の意味があるところから、日本名は金緑石という。

クリソベリルの硬度は8.5、宝石としてはダイヤモンド、コランダム(ルビー・サファイア)に次いで三番目に硬い石である。主な産地はスリランカ、ブラジルである。

自然界にはキャッツ・アイを示す宝石はこのほかにも多くあるが、絹のような光沢と鮮明な目をもった蜂蜜色のクリソベリル・キャッツ・アイは最も美しい猫目効果(シャトヤンシー)が現れる宝石である。

東洋では、キャッツ・アイは所有者の健康を維持し、貧乏から守ってくれると信じられ、幸運の守り神として非常に尊重されている。

英国の宝石愛好家であったトーマスP.ホープも、好んでクリソベリル宝石を蒐集していたことで知られている。英国王室はこの宝石を婚約指輪として長い間愛好していた。アメリカの自然博物館は47.8カラットの素晴らしいクリソベリル・キャッツ・アイを所蔵展示し誇りにしている。宝石が好きな人なら是非クリソベリル・キャッツ・アイを所有したいと願う宝石である。

良質のクリソベリル・キャッツ・アイを集中光源に向け、猫目帯(シャトヤントバンド)が光に直角になるように持つと、光に近い石の半分はボデイカラー(地色)を示し、ほかの半分は極めて乳白色に見える。この石のボデイカラーが蜂蜜色とすると、その外観は“ミルクと蜂蜜”効果とよくいわれる。

もう一つ注目すべき興味深いことは、オーバーヘッドの光源が二つあった場合、猫目が開いたり、閉じたりすることである。石を回転させると目の間が開いて二本の線に分かれ、またもとの一本にシャトヤントバンドが戻る。カボションがあまり高いと、この効果は生じない。

良質のクリソベリル・キャッツ・アイの最も重要な産地はスリランカである。同じクリソベリル種であるアレキサンドライトも同じ鉱区で産出するが、現在は稀にしか産出しない。今日の重要な産地はブラジルで、特にミナス・ジェライス州がそうである。このほかロシア、ミャンマーでも産出するが高品質のものはめったに出ないようだ。

ここでキャッツ・アイについて正しく理解しておこう。キャッツ・アイとは、カボションカットしたある種の宝石に上から光を当てると、その山高部にあたかも猫の目のように細い白い光の線状が現れ、石を動かすとその線状が猫の目のように開いたり閉じたりする光の特殊効果のことである。決して猫目石という単独の宝石があるわけではない。キャッツ・アイとは、光を宝石に当てたときの特殊効果のことでフランス語の猫を意味するChat(シャ)から由来するChatoyancy(シャトヤンシー)ともいう。この猫目特殊効果は、宝石内部の構造によるもので、宝石内部の密集して存在する平行繊維状組織によって引き起こされる内部反射のために現れる猫の目のような線状を指していう。

したがってキャッツ・アイは、猫目効果のことで、宝石そのものではない。キャッツ・アイ効果を表わす宝石には、チューブ状インクルージョンが発達したトルマリン、アクワマリン等々あり、それぞれトルマリン・キャッツ・アイ、アクワマリン・キャッツ・アイと必ず宝石名をキャッツ・アイの前につけることとなっている。

ただキャッツ・アイと云ったときは、クリソベリル・キャッツ・アイを指す。それほど自然界の中で知られている最も美しい猫目効果の宝石である。クリソベリル・キャッツ・アイの目の開閉と、ミルクと蜂蜜の美しい色合いは所有者の魅惑の源泉であり、悪魔を払う効能があり幸運を呼ぶといわれ、光の特殊効果が現れるまことに貴重な宝石である。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊